第12話 推測
最後まで手紙を読み終え、高山は手紙を丁寧に折り畳んで元の封筒へしまった。無言でお茶をすすり、静かに目を閉じる。そうする事で気持ちを落ち着かせて冷静さを保とうと務めた。
「この件って、潮騒会の斎藤会長はどこまでご存知なんでしょうね。随分血の気の多い方だってのは耳にしていますけど」
「筆頭秘書の稲葉も血の気が多いって話だからな。もしかしたら、知られると大騒ぎになるって、競竜部内で止まってるんじゃねえかな」
「止めて良いような内容では無いように思えるのですけど。本来なら大騒ぎするはずの潮騒会が黙っているから、渓谷会も尼子会も泣き寝入りしているという事だったりしないのでしょうか?」
高山の指摘を両腕を組んで考え込んだ三浦は、短く「なるほど」と呟いた。
「だとしたら、なんでそんな厄介そうな潮騒会の竜にそんな事をしたのかという話になるな。普通ならそこは避けるだろ。もっと大人しそうな会派はいくらでもあるわけだし」
「それを言い始めると、じゃあなんでそんな事をしたんだという話になりますよね。潮騒会、渓谷会、尼子会、特に共通項も無いように思えますし」
「前二つだけなら、連合に入って無い会派を狙ったと言いたい所だが、尼子会は楓系だもんな」
以前、この件について八級盛岡の八木調教師も出羽の手紙と全く同様の話をしていた。競技新報の唐橋にこの話をちらりとした時には、その三頭が害されたのは新竜の十月から世代戦の二月の間だから、確かに時期は一致していると言っていた。
「出羽先生は、三浦先生にこの件をどうして欲しいと思ったのでしょうね?」
「ここまで詳しくこうやって書いてきたって事は、何かしら進展を期待してきたって事だろうな。とは言え、厩務員を見せしめで殺害なんて、そんな奴ら相手では、俺たちではどうする事もできんぞ」
それは三浦の言う通りだろう。顔の広い三浦なら何とかなるかもという淡い期待を抱いて、出羽もこんな手紙を三浦に送ってきたはず。ただ、相手が大きくて危険な奴らだと感じたから、ここまでの話をして、慎重を期すようにと忠告してきた、といったところだろう。
「高山、お前はこの件についてどう思っているんだ? その反応からして、以前から耳にしていたんだろ? だったら何かしら推測している事があるんじゃないのか?」
「そうですねえ。あまり滅多な事は言えませんけど、こういうのって、大抵はその組織の結びつきって二つだと思うんです。一つは犯罪意識の共有。もう一つは金」
「なるほどなあ。以前、久留米でうちの会派が問題起こした時も、確かにそんな感じだったな。共犯意識と金か。金は、この場合だと『白浜賞』と『桜花杯』の賞金って事か。それとその名声からくる種付料や仔竜の取引額か」
三浦のいう金額、それを考えても、ここまで大それた事をするには、いささか安すぎる気がする。恐らく、まだ他に何かあるのだろう。残念ながらそれが何かは、現時点では想像もつかないが。
「そういえば、こういう話って呂級では無いのですか? 俺はまだ上がってきて間もないので聞いた事がないんですけど」
三浦は呂級に上がってきて、もうかなりの年数となる。その間、呂級でも様々な事があった。当然黒い噂を聞いた事も一度や二度ではない。
「有名なところでは、『サケセキラン暴行事件』があったな。あれは雷雲会の福島って調教師がやってたそうだが。それ以外にも輸送中の盗難って話は無くは無い」
「それについて何か噂みたいなものって聞かないですか? 例えば被害が東国に集中しているといったような」
「俺は東国でずっとやってるから、残念だけど西国の状況ってのは知らないな。向こうにも古株がいるから、そいつに聞いてみようとは思うけど」
どうやらこの件で高山は何か勘付いている事があるらしい。そう考えた三浦は、今の段階で推測している内容を教えてくれと頼んだ。高山は渋ったのだが、推測で良いからと言われてしまい、その一部を話した。
「もしそれが本当だとしたら、竜主会に報告して、全ての会派を交えて対策を練ってもらう必要があるな。馴染みの記者にも調査を頼まにゃならんし、あちこち話を聞いて回らにゃならん」
「あまり大ごとになると、出羽さんみたいに厩務員に被害が及んじゃいますよ。あくまで極秘にやらないと。俺、今度会長と北国に行く事になってるので、そこで牧場の場長にも話を聞いてみます」
「すまんな。さっき言ったように、俺は西国の状況を聞いてみるよ。俺はどうもあの飛行機ってもんが苦手でな」
最終的には調教師会長である岡部調教師の手を借りないといけないのだろう。だが、そこに話を持って行くまでに、こちらもある程度の事件の枠のようなものを探っておく必要がある。
慎重に。あくまで極秘に。
◇◇◇
一月の間に放牧していた竜たちが続々と帰厩。調教が開始された。
すると、そんな竜たちの様子を見に、成田会長がふらふらと厩舎にやってきた。
相変わらず暇そうと高山がからかうと、成田は心外だと不貞腐れてしまった。こちらは忙しい合間を見て筆頭調教師殿に挨拶に伺っているのにと。
不貞腐れながらも出された茶をすすり、自分が買ってきた甘芭蕉の菓子を齧り、少し気を落ち着かせてから会話を始めた。
「うちの会派からも竜障害に二人行く事になりましたよ。聞けば竜障害っていうのは超長距離戦なのだそうで。そういう意味からしたら、うちの会派は有利なんじゃないかって大石場長が言ってましたよ」
「それって、どこと比較しての話をしてるんですか?」
「稲妻牧場さんですよ。あそこは短距離に特化してますからね。雷雲会さんからも何人か竜障害に行くそうですけど、苦戦は必至って言われてるみたいですよ」
成田としては何気ない話のつもりだっただろう。だがその何気ない会話で、これまでよくわからず黒い霧がかかっていた事が、急に鮮明になったような感覚を高山は覚えた。
「会長、一つ伺いたいのですが、竜の取り違えというのは可能だと思いますか?」
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