第11話 手紙
『古き戦友たる三浦へ。
思えばお前との付き合いも随分と長いものになってしまったな。俺が呂級に上がって来た時、お前は呂級三年目だった。あれからいったいどれだけの年月が経ったのだろう。数えたらぞっとしたのですぐに数えるのを辞めたよ。
急にこのような事になり、お前はさぞかしガックリしている事であろう。なぜ一言の相談も無かったんだと、寂しがっているかもしれない。だが、これには少しばかり込み入った事情があるんだ。
六年ほど前に俺が話した、とある事件の事を覚えているだろうか? うちの会派の牧野充成という八級の調教師が管理していた竜が窃盗にあったというあの件だ。あの後、俺は牧野を慰めようと、わざわざ前橋競竜場に出向いて酒を呑んだんだ。
俺は報告があった内容しか聞かされていなかったから、不運な事故なんだと思っていた。ところがどうもそうじゃないらしいんだ。牧野の奴、泣きながら訴えてきたんだよ。これは稲妻の奴らがやった事だって。
いや、もちろん俺も言ったよ。気持ちはわかるが滅多な事を言うもんじゃないって。聞けば何一つ証拠は無い。全てあれが怪しい、これが怪しいという憶測ばかり。だから、いい加減にしないかと叱ったんだよ。すると、これが初めての話じゃないって言うんだ。近い将来、必ず同じような事が起きるって。
気になった俺は、念のため会派にこの事を少し調査するようにお願いしたんだ。だが、やはりというか、牧野が言うような過去の事例なんてものは出てこなかった。だけど、牧野の奴はこうも言っていた。事務棟もぐるになって隠蔽してやがるんだって。
それならばと、馴染みの日刊競竜の土御門を呼び出し、こういう話を聞いたんだが何か知らないかとたずねた。もちろん相手は記者だ。情報料はタダじゃない。散々新竜の話をさせられたよ。
その時は、急に聞いた話だから持ち帰って調べないと何とも言えないと言われた。
それから一年、土御門からはほぼ何の情報も無かった。何度か進捗をたずねたんだが、今調べているの一点張り。業を煮やした俺は、何でも良いから途中経過を喋れと言ったんだ。情報のタダ取りは許さんと言って。
土御門は仕事の合間にちゃんと調査はしてくれていたんだよ。過去に遡って、竜の輸送事故を一件一件調べてくれていたんだ。そこでわかったのは、最近になって事故が増えているという事、それと明らかに東国に偏っているという事。
急に牧野の言い分を裏付けるような情報が出てきて、俺は背筋をゾクリとさせたよ。
ここまで読んだお前はこう思っているだろう。何でその牧野の竜が狙われたのかって。牧野の奴は、稲妻牧場が『白浜賞』と『桜花杯』を確実に勝つ為に、邪魔な竜を抹消しているんだって言ってやがった。土御門も狙われたのは短距離の新竜と世代竜ばかりだって言っていた。
それでも、さすがにそれは妄想に過ぎないと思っていた。偶々だろうと。
ところが、『白浜賞』で人気になりそうだった『エイユウカイソン』って竜が、輸送中に盗難に遭っちまったんだよ。
こうなってくると、俺もだんだんと牧野の与太話だと切り捨てられなくなってきちまった。土御門の奴も、疑惑が裏付けられるような事件が起きたって言うんだ。これから北国に行って事件を調査してやろうと思うって。俺も、もしかしたら牧野の件と今回の件が繋がっているかもしれないからと、会派にも調べるように言ったんだよ。
ところが、それ以来、土御門はぱたりと俺の下に現れなくなっちまったんだ。他の記者に聞いたところ、急に音信不通になっちまったって言うんだよ。
この時点で俺はこの一件はかなりマズい話だって思うようになった。
しかもその後、会派から、この件はこれ以上深入りしない方が良いかもしれないなんて話をされちまってな。どうやら俺は、とんでもない事に首を突っ込んじまったかもしれない。そう思うようになっていた。
そんな中起きたのが、『トモエシマント』の怪死事件だ。
盛岡競竜場はあの一件を輸送事故として片づけたがな、あの竜は間違いなく殺されたんだ。
最近になって苫小牧の廃工場で、焼かれて粉々にされた人骨が見つかった。衣類など身元を特定できる物は無かったそうだが、近くで競技新報の社章が見つかったらしいんだよ。警察は競技新報の社員が犯人じゃないかって疑っているらしいんだが、俺はそれが馴染みの記者の土御門だと確信している。
一昨年、突然牧野が厩舎を畳みやがったんだよ。会派には一身上の都合とだけ言っていたらしい。理由を聞こうと本人に連絡を取ろうとしたんだが、連絡が付かなかった。
実はその後から、うちの厩舎に脅迫電話が頻繁にかかってくるようになったんだよ。最初は、これ以上事件を嗅ぎ回るのは止めろというものだった。一応会派に報告をし、対応を検討してもらっていたんだ。
そして今年の夏、浜名湖で厩務員の一人が行方不明になりやがったんだ。その後、浜名湖で水没している車が見つかり、その中からそいつが見つかった。
俺には厩務員を守る義務がある。その厩務員が害されたとなったら、もうこれ以上続けて行くのは無理だって思ったんだ。だから止級が終わった時点で、もう竜の受け入れはせず、厩務員は転厩先を探して、全てが終わった段階で厩舎を閉める事にしたんだよ。
俺は色々と対応を誤った。そして、会派は思った以上に俺たちに冷たかった。いや、きっとうちみたいな中小の会派では手に負えないほど、根が深く規模も大きな事件だったのだろう。
何歳になっても一緒に伊級を目指そうなんて言っていたのに、突然こんな事になってしまって申し訳ない。だがきっとお前は伊級に昇級できるって俺は信じている。だから俺の分まで活躍して、最年長伊級昇級者の記録を更新してくれ。
約束を守れなかった愚かな友人、出羽幸祐』
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