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【完結】競竜師・外伝  作者: 敷知遠江守
呂級編

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第7話 海水浴

「先生! 海水浴に行くんですよね! 行きたいです! 行きたいです! 行きたいです!」


 糟谷から話を聞いたらしく、師岡が事務室に飛び込んで来た。倉賀野主任が目を見開き、何事かという顔でその光景を見ている。


「いや、海水浴って。糟谷さんと海の研究に行くというだけの話であってね……」


「だって、水着で行くんですよね? 泳ぐんですよね? 海水浴場に行くんですよね? 私も行きたいです!」


「いや、だから遊びじゃなく研究で……」


 執務机に両手を置き、身を乗り出して迫る師岡に、高山は完全に気圧されてしまっている。

 何となく色々と察したのだろう。倉賀野がクスクスと笑い出した。


「良いじゃないですか、先生。それなら、どうせですから、ぱあっと遊びましょうよ。浜焼きなんかもやって。うちも妻と娘を呼びますから、先生も家族を呼んで、皆で慰安をしようじゃないですか」


「仁級時代の交際費の借金、やっとこの間、会派に返済が終わったとこなんですけど……」


「それは先生個人の借金でしょうが。今回は厩舎の福利厚生費で落とせますよ。それで研究もできるってんですから、一石二鳥ってもんでしょう」


 倉賀野が味方に付き、大儀を得たとばかりに師岡が爛々とした目で高山を見る。そんな師岡を無視し、高山は倉賀野に視線を送る。


「家族が来るってなったら俺が大宿手配しなきゃいけないんだよ。なんやかやって世話も焼かなきゃいけないし。それにさっき浜焼きがどうのって言ってたけど、そういうのも決めなきゃいけないでしょ」


「うちのも来るから宿は俺が手配しますよ。もしかしたら他の人たちの家族も来るかもですから、それもついでに。それと浜焼きの準備なら、ほら、目の前の奴にやらせれば」


 良い笑顔でコクコクとうなづく師岡に、高山はついに折れた。


 ◇◇◇


 乗り気だっただけの事はあり、師岡は張り切って準備を整えた。中山と海老名を顎で使って買い物に奔走。砂浜にビニールの呉座を敷き、大きな日傘をいくつも差し、万全の体制で高山たちの家族を迎え入れた。

 水色を基調とした水着も、布面積が小さく、非常に気合いが入っている。


「わあ、海だ! 友君と海なんて初めてだね!」


「いや、それはさ、すぐに静ちゃんが陽に焼けるって言うからじゃん。今日だって全身に日焼け止め塗ってるんでしょ」


「だって、焼けたら後からひりひりして痛いもの」


 黒い水着姿で上着を羽織って高山の腕を抱える静花から、ほんのりと日焼け止めの匂いが香る。少し離れたところでは、『友君』『静ちゃん』と高山夫妻が呼び合っているのを聞いて、蒲生たちがクスクスと笑っている。


「綾、海で泳いでも良いけど、足の付かないとこに行っちゃダメだぞ。それと体が冷えるから小まめに上がるようにね」


 可愛い水玉の水着を来た綾芽が高山と手を繋いだまま「はぁい!」と元気に返事をする。それを見て、倉賀野の娘が「可愛い」を連呼。


 そこから高山は、静花に昼食の浜焼きを手伝うようにお願いし、倉賀野の娘に綾芽をお願いして、糟谷と共に海へと向かった。



「先生、潮が流れているのわかりますか? これって一定じゃないんですよ。川って流れの早さって雨量に左右されますよね。海は干満に左右されるんです」


「へえ、海の流れって結構ゆっくりなんですね」


「今はね。今日は大潮なので、もう少しすると驚くほど早くなると思いますよ。もう一時間ほどしたらもう一度試してみると良いです」


 急に『大潮』という聞いた事の無い単語が出て、高山は苦笑い。


「先生はこの干満の差っていうのが何で発生しているかはご存知ですか?」


「学生時代にやりましたよね。月の引力に海水が引っ張られているから、地球が自転して月の方を向いた時が満潮だって」


「おお、さすがっ! じゃあ、これは覚えてます? 月と地球の距離は一定じゃないってのは」


 すぐに何かを察したらしく、高山がパンと手を叩いた。飛沫が自分の方に飛び、思わず糟屋が顔をしかめる。


「そっか。この干満の差の大小ってのがあるのか! 当然、干満の差が大きいほど潮流は早い。そこで強い調教を行えば、効率が良いって事か! 蒔田先生、そんな事一言も言ってくれなかったなあ」


「蒔田先生はなんと?」


「風の強い日に調教すると波が出るから強い調教ができるって。でもこうやって海に浸かって波に揺られてると、それはそれで納得いくよな」


 ふいに後方から黄色い声が聞こえてくる。振り返ると、師岡たちが浜焼きの準備をしていた。どうやらなかなか火が付かなかったようで、倉賀野が火を付けて、それで歓声があがったらしい。


「さて、うちらも一旦上がって浜焼きの手伝いしよっか。後で手伝わずに食べただけって言われるのも癪だし」


「そうですね。腸詰くらいは焼いておかないと、後で師岡に文句言われそうですもんね。麦酒をしこたま買い込んで来てるみたいですから、一杯やりながら」


 高山と糟谷、おっさん二人がにやりとほくそ笑む。


 ところが、いきなり麦酒を取り出そうとした糟谷の手を師岡がぴしゃりと叩く。まだ火が入ったばかりだから、もう少し我慢しろと叱られてしまった。

 師岡が後ろを向いた隙にそっと麦酒を取ろうとする糟谷。だが、静花の視線でバレてしまった。


 しばらくし、皆が戻って来ると、いよいよ浜焼きが始まった。皆で一斉に麦酒を缶の蓋を開け、景気の良い音が浜に響く。その後はもはやどんちゃん騒ぎであった。


 結局、途中で綾芽は疲れて寝てしまい、高山が宿泊所まで抱っこして帰る事になってしまった。

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