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【完結】競竜師・外伝  作者: 敷知遠江守
呂級編

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第6話 白肌

 厩務員たちの研修が終わり、いよいよ厩舎に竜がやってくる事になった。


 何年か前、三宅島に紅花会が止級専用の牧場を作った。それを真似て、稲妻牧場は新島に、楓牧場は神津島に同じように拠点を移動。さらに古河牧場が利島に拠点を移動した。伊豆半島に近い島々を次々に大規模牧場が取得して行く中、牧場連合は御蔵島に進出しようとした。

 

 その時点で三宅島は紅花会が地域振興まできちんと行っていたのだが、他の島がどうなるかは未知数で、御蔵島の市長はなかなか許可を出してくれなかったらしい。この時点で新島は雷雲会が開発を行っていたのだが、神津島と利島ではそのような住民説明が行われず、島民から不満の声があがっていたのだった。

 楓牧場や古河牧場という大手ですらそれなのに、中小の牧場連合がそのような事をしてくれるはずがないと村民の反対を受けてしまったのだそうだ。


 その流れが変わったのは、紅花会が定期便を運航するようになってから。

 とにかく毎日のように物資が三宅島に送られてきて、島の物価がみるみる安くなり、本土と変わらない状態に。新島も間もなく同じような状況になった。

 神津島と利島の市町は楓牧場や古河牧場に強く要請を行い、やっと開発が開始され、同じように物資が入ってくるようになった。


 島同士、大きく離れていても情報のやりとりというのは比較的頻繁だったりする。話を聞くうちに、御蔵島の島民たちも三宅島や新島の状態を羨ましいと思うようになっていった。

 その間も双竜会と清流会は、御蔵島開発という合弁会社を作って島をこうしていきたいという将来像を見せ続けた。


 最終的にどうするかを決めたのは市長選。

 不許可という現職の市長と、島の未来のために許可すべきという新人候補の一騎打ちとなった。実はこの時点ではすでに現職の市長も開発賛成派だったのだが、島民の民意を問うという事でこういう事にしたらしい。

 こうした紆余曲折の結果、牧場連合は御蔵島の開発を手掛ける事になったのだそうだ。


 だが、残念ながらそこに雪柳会や薄雪会、日章会の入り込む余地は無かった。さらにいえば、島の広さ的にもそんな余裕は無い。結局、双竜会、清流会の牧場が生産した竜を買うしか無かった。



 事前に会派の方から高山に連絡が入っており、そこに連絡をして竜を輸送してもらう事にした。

 呂級調教師の止級所有の上限は二頭。高山厩舎に預託されたのはどちらも新竜で、一頭が『リュウヒョウ』、もう一頭は『シシャモ』。


 各牧場から、まずは遠州灘まで大型竜運船で運ばれて来る。その後、今切口を抜けて浜名湖に入って来るのだが、浜名湖内は極端に水深の浅いところがあるため、途中までしか大型竜運船は入れない。しかも航路が狭く、通れるのは一艘が限界。そこで他の大型竜運船は遠州灘で待機している。


 浜名湖に入って来た大型竜運船から、移動生簀とも言える小型輸送船が次々と放出され、浜名湖競竜場に入って来る。


 高山厩舎は研修を行っていた関係で、竜の搬入が他の厩舎から一週間遅れであり、他に搬入する厩舎はいなかった。ところが、この時点でとある事が話題になっており、一目見ようと搬入口に人だかりができていたのだった。


「おお! 本当に白肌だ! 現役は三頭目らしいな。しかも二頭は太宰府だから、こっちは唯一なんだよな。いやあ、綺麗だなあ。神々しいまである」


 少し興奮気味に杉目調教師が『リュウヒョウ』を指差した。少し離れたところでは、三浦、斯波の二人も同じような事を言っている。高齢の調教師の中には合掌して拝んでいる者もいる。


「あれ水稲牧場さんの生産らしいんですけどね、相談役が大枚はたいて買ったんだそうです。全財産出しても良いから売ってくれって言って。漏れ聞いた話では藤田先生のとこに行く予定だったんだそうですよ」


「ほう、そんなに期待できる竜なんだ」


「そうじゃなくて、全然ダメでも藤田先生ならそれなりにしてくれるだろうからって事らしいです。でも藤田先生、そんなのに竜房を塞がれてたまるかって拒絶したんだそうです」


 高山と杉目が話している横で、大注目を浴びながら師岡が轡を付けている。


「ぱっと見だけど、結構良さそうじゃんか。藤田先生も惜しい事したな」


「あの先生はほら、五伯楽が伊級に来てから惜しい競争ばっかりになっちゃってますから、きっと必死なんですよ」


「なるほど。岡部、松井、松本の三人は毎年凄いもんな。国重、十市、秋山もそこに絡んでるし。それに櫛橋女史も。まあわからんでもないな」


 ふと見ると群衆の中に藤田の姿があった。預託を断った竜ではあるが、どのような竜だったのかは気になるらしい。思ったより良い竜と見たのか、非常に悔しそうな顔をしている。

 ぺこりとお辞儀をして師岡が『リュウヒョウ』を曳いて行くと、人だかりは徐々に解散となった。



 そんな話題になった入厩から二か月が経過。

 七月に入り、周囲は翌月の『海王賞』の話で持ち切りとなっている。


 浜名湖に来てからここまで、高山は毎日のように調教場に行って調教を観察している。目の前にあるのは浜名湖の海水。調教と言っても騎手や調教助手が竜を泳がせるだけ。なのに、一部の厩舎の竜たちは明らかに泳ぎが力強い。

 もちろん素質の問題もあるだろう。騎手の腕の巧拙もあるだろう。だとしても、一部の厩舎の竜と、それ以外であんなにも竜の強弱が出るものだろうか。何かあるはず。そう思って見ているのだが、これまでで気付いた点といえば、成績上位の伊級の調教師たちは毎回揃ってやって来るという事だけ。


 話題になっている『リュウヒョウ』に餌の冷凍鰯を与えて、その体付きを見てみる。『シシャモ』同様胴が長い。そして『シシャモ』に比べ尾びれが大きい。恐らくは尾びれは推進力だと思うので、それが大きいのはその分期待ができるというものだろう。だが、肉付きはお世辞にも良いとは言えない。


「何回見ても、その仔、綺麗な仔ですよね。どっかの調教師さんじゃないけど、俺、毎日拝んでますよ」


「それ、三浦先生でしょ。たまにお賽銭まで置いてって。というか、糟谷さんもそんな事してるのか。なら俺も拝もうかなあ」


「伊級でも呂級でも、白毛は『神竜』とされて神社に奉納されたりしてますからね。何かご利益あるかもですよ」


 糟谷が笑い出すと、『リュウヒョウ』がクェェェと楽しそうな声をあげた。


「どうしたんです? 最近よくぼうっとしてたり、頭掻きむしってる姿を目にしますけど、何かお悩みですか?」


「うん……じつは俺、濃飛郡の出でさ。海ってよくわかんないんですよ。川なら毎年泳ぎに行ってたんですけどね。だから、どう調教計画を組んで良いかわからなくてね」


「蒔田先生のとこでは学ばなかったんですか?」


 もちろん一から学んでいる。だが根本的な事を理解していない状態で、ただ知識で武装したというだけ。だから応用が効かないし、教わった以上のやり方がわからない。

 そんな事をごにょごにょと言ってると、糟谷がパンと手を打った。


「先生、じゃあ気分転換も兼ねて海を学びに行きましょうよ! せっかく目の前に海があるんですから、実際に体験してみましょうよ!」

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