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競竜師・外伝  作者: 敷知遠江守
呂級編

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第3話 競竜会

 呂級に昇級した事で前橋から幕府に拠点が移り、本社のある小田原から近くなって()()()()事で、高山厩舎に頻繁に成田会長がやってくる事になった。

 毎回、菓子折りは持ってきてくれる。しかも、南国は小笠原郡の特産を加工した菓子を持ってくるため、厩務員たちは成田が来る事を歓迎している。


 当たり前の事だが成田の用事は高山に会う事。なので高山は周囲ほど呑気な気持ちではいられない。しかも成田の用件はほぼ毎回同じ。本社で言えないような愚痴を吐き出しに来るだけ。


「先生が呂級に上がったという事で、今、本社で競竜会を立ち上げようという話が出ているんです」


「え? うちってこれまで競竜会って無かったんですか? じゃあ、これまでの竜って全部竜主が個人で所持してたんですか?」


「呂級以上の調教師がいない会派はどこもそうですよ。八級以下しか募集ができないんじゃあ魅力が薄いですもん。お客様だって他所の会派と比べて会員になるわけですから」


 成田の話によると、実はこれまでも、競竜会のような組織が無かったわけではないらしい。本社の総務部が社内福祉の一環で、持株会のような感覚で共同竜主制度を運用していたのだそうだ。もちろん竜が走らなければ損をする。そのため、あくまで娯楽の一つとして提供していたらしい。


「つまり、既に運用知識はあって、それを純粋に会派外に向けて解放するだけで良いと」


「そう思いますよね。俺も説明を受けた時はそう思ったんですよ。ところが、いざ会議となると、これがとにかく揉めるんです。分社化するのか、しないならどこの部署がやるのか、収益は何に使うのか、とかとか」


「収益の使い道なんて、費用を差し引いて次の竜買う以外にあるんですか?」


 高山の指摘に成田は吐息を漏らし、一言「ですよね」と返答。


「想像力が欠如しているのか、理解力が乏しいのか、指摘が的外れなんですよ。だから下の人たちも混乱してしまって。で、その的外れな指摘の回答を用意するのに時間を食ってしまい、会議が遅々として進まないんですよ」


「で、競竜会は作るんですか?」


「……まだ決まってません」


 二人の間に無言の時が流れる。高山は呆れ果て、成田は口を一文字にしてうんざりした顔をしている。


「で、でもですよ、考えようによっては、そこまでグダってるのなら、会長がポンと仕切ってしまえば進む方向が定まって、スルスルと話が進んだりしないんですか?」


「会議出席者の中でも、俺、一番若い部類ですよ。下手すると出席している重役の部下たちより年下だったりするんですよ。簡単に言ってくれますけど、そんな海千山千の人たち相手に会議を仕切るなんて」


「いやいや、それはおかしいでしょ。そこは歳がどうのじゃないでしょ。その会議で一番役職が上な会長の意向じゃないですか。会長がそうやって気後れしてるから、決まるものも決まらないんじゃないんですか?」


 いきなり説教をかまされ、成田は口を尖らせ、拗ねたような顔をして顔を背けた。だが、高山は机を指でコンコンと叩いて、自分の方を向くように促す。


「うちの厩舎を見てくださいよ。半数は俺より年上なんですよ。それでも、俺は責任者として年上の人たちをまとめ上げてるんです」


「いやいや、それは、全員先生が集めた人たちだからでしょ。俺は先代、先々代が作った組織に、いきなり会長でやってきたんですよ。気後れするなって方が無理ってもんですよ」


 何もわかっていないという風に、高山は首を横に振った。


「経営陣全員を敵にまわさないといけないのだとしたら、それは会長が間違ってるんですよ。でもそうじゃないんでしょ? 中には会長と同じ意見の方もいるわけでしょ? そういう人に乗っかれば良いじゃないですか」


「あの、わけのわからん事をああだこうだ言い合っているのに混ざるんですか? そんなの、余計に混乱するだけだったりしませんか?」


「話が散らかり始めてるんなら、軌道修正したら良いだけじゃないですか。なんでそれを一緒になって混乱させようとするんです? そのうち誰か自分の意見を通すために言いますよ。『会長はこう言ってる』って」


 それが権威付けってものだと高山は諭した。


「『だからなんだ!』って言われたら、俺の権威、地に落ちちゃいますよ。ただでさえ地を這うくらいしか無いのに……」


「それで会議がその人の意見に流れるようなら、会長が折れれば良いんですよ。ようは出席者がまとまって会長に異を唱える状況に陥らなきゃ良いんです。会議ってのは、そういう仕様の競技なんですよ」


「つまり、社内政治の競技場って事ですか……確かにこれまでそういう視点で会議を見た事はありませんでしたね。一着になる竜に乗って終着板を迎えられれば良いって事ですよね。なるほどね」


 そんな成田に少し呆れた顔をし、高山は成田の持って来た珈琲豆のあられを口にした。ほのかな苦味が口内に広がり、同時にやってくる爽やかな酸味が心地良い。


「で、どうするんです? 競竜会の方は」


「俺はやりたいです。というか、先生を支援するためにも、ぜひやるべきだと思っています。競竜会の竜が重賞を取ると話題になるそうですからね。話題になれば会派の人気にもなりますし」


「そこまでのちゃんとした理由があるのなら、普通に押し通せそうなもんですけどね。もしおかしな理論を言う人がいたら、論点がずれてるとか、今はその議題じゃないとか、遠山さんに指摘させたら良いんですよ」


 どうやらそれが腑に落ちたようで、成田はぽんと手を叩き、にんまりと顔歪ませた。


「先生は、会派の本社がやるのと、分社化するの、どっちが良いと思います?」


「さあ。そういう事は俺じゃあよくわからないですね。そういうのは他の人の意見に耳を傾けて、最終的な方向を決めれば良いんじゃないですか? もしくは相談役と相談するか」


 相談役という単語に、成田は急に表情を曇らせた。


「相談役かあ。最近ちょっと体調がすぐれないらしく、あまり心労をかけさせたくないんですよね」


「え? そうなんですか?」


「ええ。最近よく咳込むんですよ。今度検査入院するらしくて。まあ、お歳ですからね。そんな状況ですから、なんとか俺だけでやれるんだってとこをみせたいんですよ」


 少し気恥ずかしそうな顔をし、成田は温くなったお茶をすすった。

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