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競竜師・外伝  作者: 敷知遠江守
八級編

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23/34

第23話 金盃

徐々に各竜が差を詰め四角に向かいます。

全竜まさに一団!

四角回って最後の直線!

先頭はクレナイモンド!

外サケアカシも良い脚だ!

ジョウハンゴウはまだ中団!

ここから長い坂に入ります!

ジョウハンゴウが一気に上がって来る!

ジョウハンゴウ、ぐんぐん坂を上り前二頭に迫る勢い!

大外からユキノペンケも上がって来た!

ジョウハンゴウ、先頭に躍り出た!

ユキノペンケ坂をものともしない力強い走り!

ジョウハンゴウ、坂を上りきり最後の加速!

ユキノペンケが脚色衰えず!

ユキノペンケが追い詰める!

残りわずか!

ユキノペンケ並びかける!

ユキノペンケ差した!

抜けた、抜けた、抜けた!

ユキノペンケ終着!

ユキノペンケ、短距離絶対王者ジョウハンゴウを下し、新たな短距離王に戴冠!

――



「すげえな。あの『ジョウハンゴウ』に勝てる竜がいるなんてなあ」


 終着後、競技場を歩いている『ユキノペンケ』を見て、一人の調教師が感嘆の声を漏らした。その隣の調教師は、かなりがっかりした顔で検量室に帰って来た竜たちを見つめている。


「そもそも六番人気なんて竜じゃないんですよ。あの竜は。うちの『ハンゴウ』はこれまで新竜戦の一回だけしか負けた事が無いんですけど、その一回があの『ペンケ』なんですから」


「下間から聞いてはいたけど、あの高山っての大したもんだな。八木君だって、大須賀君から譲り受けて、ここまで結構鍛えたのにな」


「能力の器みたいなものが違うんでしょうね。長野先生、ちょっと挨拶しておきたいんですけど紹介してもらえませんか? 盛岡に帰る前に知己を得ておきたいんです」



 その二人の会話はすぐ近くにいた高山にもしっかり聞こえていた。二人で近寄って来るのを横目で見て、高山はどんな顔をすれば良いかよくわからず、複雑な表情であった。


「高山君、優勝おめでとう! いやあ、最後の直線の脚、凄かったねえ」


「ありがとうございます。『ジョウハンゴウ』の脚色が良すぎて、届くかどうかハラハラしてましたよ。長野先生の『サケアカシ』も五着ですから大健闘じゃないですか」


「岡部厩舎にいる息子が、今度調教師試験受けるんだよ。父としても先輩としても、あんまり無様なところは見せられないからね」


 少し照れた笑顔を見せる長野に、高山の頬も自然と緩む。

 すると横に立っていた八木が高山に右手を差し出して来た。


「優勝おめでとう。いやあ、見事に差されたよ。ここまで『白浜賞』『桜花杯』『真珠賞』と短距離では負けなしだったんだけどね。あの竜は『真珠賞』には出れそう? それともこれで繁殖入り?」


「どうなんでしょうね。まだ会派からは何も言ってきてはいないですね。ああ、でも外国から買った竜ですから、繁殖入りかもしれないですね」


「そうなんだ。ちょっと残念だな。展開次第ではまだ逆転の余地がありそうって思ってたから。次はどこに出るの? 来月は出れそう?」


 引きつった笑顔で首を傾げる高山に、八木は返事を聞く前に笑い出した。


「そっかそっか。まあ盛岡に来れたら、うちの厩舎を訪ねてくれよ。珈琲くらい出すからさ」


 再度八木は高山と握手を交わし、自分の竜の所へ向かった。


 長野と八木が立ち去って、入れ替わりに検量室に『ユキノペンケ』と柿崎騎手が戻って来た。


「先生! 見ててくれましたよね! 蒲生との違い、見ててわかりました?」


「俺は騎手出じゃないから、何となく程度しか。だけど上がりの時計が全然違うってのはすぐに気が付いたよ」


「竜との息がずれてるんですよ。あれでは絶対に呂級で躓きます。俺に任せてください。あいつとは型みたいなのが違うから、ちょっと時間はかかると思いますけど何とか矯正してみせますから」


 高山が無言で腕を叩くと、柿崎はこくっと頷いて検量へと向かった。


 ◇◇◇


 月が替わって三月。

 世代戦の第一戦『桜花杯』が行われ、高山厩舎からは『トノト』が出走予定となっている。


 倉賀野主任も豊島も平林助手もすでに知ってはいるのだが、改めて月初の定例会議で柿崎が紹介された。どうやら倉賀野から色々と聞かされているらしく、蒲生の表情は暗い。

 色々と連絡事項を伝え、情報交換をして会議が終了。その間も蒲生は無言で頷いているだけであった。


 会議が終わると柿崎は蒲生の雰囲気を察して先に会議室を出て行った。


「あの、色々と伺いました。その、まさか俺が厩舎の足を引っ張ってただなんて……」


「はい? 誰が言ったの、そんな事。俺は今のままだと確実に呂級で足を引っ張る事になるから、今のうちに矯正をって聞いてるけど?」


「それって現状だと足を引っ張る事になるって事ですよね……」


 陰鬱に俯く蒲生を見て、高山は小さくため息を付いた。


「お前がどう受け取ろうと勝手だけど、俺はお前にうちの竜に乗って勝って貰いたいって思ってる。土肥で同じ事を言ったけど、あの時から気持ちは全く変わって無いよ。だから、その為に柿崎さんの力を借りようって思ったんだよ」


「今年に入って、急に柿崎さんが来て、『ペンケ』も取られて、今月も『トノト』から下ろされて、本当は先生に見捨てられたんじゃないかって……」


「蒲生、顔を上げろ。竜の背中ばかり見てたら勝てるものも勝てないだろ。周りと終着板をちゃんと見ていないと。最終的に勝つ為に、お前の成長は不可欠なんだよ。しっかりと前を向いて、その事を良く考えてくれ」


 瞳に涙を滲ませた蒲生を見て、高山は今は何を言っても無駄だと感じ、そこで話を止めた。

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