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競竜師・外伝  作者: 敷知遠江守
八級編

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第19話 再始動

 瑞穂の調教師の竜が海外の最高峰の競争を勝利する。その瑞穂競竜界の長年の夢が、ついに実現した。

 高山厩舎の再始動はその数日後の事であった。

 当然全員があの歓喜の映像を目にし、心に熱い燃料を注ぎ込んでいる。集まってくれた厩務員たちの目は輝きに満ちていた。


 初日は顔見せ程度にしておこう、まずは再始動と新人の歓迎を兼ねた飲み会をして、二日目から竜の受け入れをしよう、そんな日程を高山は組んでいた。会場はいつもの居酒屋『青だるま』。師である石川と厩務員も何人かが祝いに駆けつけてくれた。


 高山の挨拶の後、倉賀野が乾杯の音頭をとり、皆が一斉に麦酒の喉に流し込む。それまでざわざわしていた会場が一瞬だけ静かになる。その後、またざわざわと騒ぎ出した。


 するといきなり、厩務員の蒲田が不満があると高山に向かって言った。まさか厩舎を辞めると言い出すのかと危惧し、倉賀野と石川がぎょっとした顔をする。


「先生! 俺は悲しいっすよ。うちの厩舎の始動は今日でしょ。何でその今日に竜が一頭もいないんです? 先生は毎日出勤してきてたんっすから、今日に合わせて竜の輸送をお願いする事くらいできたんじゃないですか?」


 すると、吉見、稲毛、中山がそれに同調。


「俺たちはね、先生。一日も早くうちの厩舎の竜が競争に出るとこを見たいんっすよ! いささかのんびりしすぎじゃないですかね?」


 そうだそうだと吉見たちが囃し立てる。

 どうやら自分たちの危惧したような事では無いとわかり、倉賀野と石川は安堵の表情。


「一日程度じゃ何も変化は無いさ。うちの竜たちは晩成の長距離竜だよ。逸る気持ちはわかる。だけど、遠くの終着板を目指して走るのに、他の竜に出負けしたと言って慌てたら、勝てるものも勝てなくなっちゃうよ」


 「士気が高いのは嬉しい限り」と言って高山が麦酒を注ぐ。すると蒲田は感極まってしまった。


「先生、俺たち幕府に行けますよね? 呂級の竜を扱えるようになりますよね?」


「なんで幕府なんだよ! そこは常府って言ってくれよ! 士気は高いのに、志はそこまでじゃないんだな。それとも何か? 俺はせいぜい呂級止まりだって言いたいの?」


「あ、いや、そんな事は。まずは一歩一歩かなと……」


 蒲田がしどろもどろになると、皆が一斉に笑い出した。そこから宴会は大盛り上がりになっていき、驚く早さで酒とつまみが消費されていった。


 すると石川が真っ赤な顔で高山に麦酒を注いだ。


「聞いてくれよ、高山。糟谷の奴、お前の厩舎に誰か一人融通しようと思うと言ったら、嬉しそうな顔して俺が行きますって言いやがったんだよ。あんまり嬉しそうに言うもんだから、なんかうちに不満でもあるのかって聞いたんだよ」


「え? 上手くいってなかったんですか?」


「そうじゃねえよ。俺は止級が好きで、止級の竜の厩務がしたいとこきやがったんだよ。それじゃあ、まるで、うちの厩舎が万年八級みたいな言いぶりじゃないか、なあ」


 石川がぎろりと糟谷を睨む。糟谷もその視線に気づき、そっと顔を背けた。


「俺だってな、自分の実力的に伊級が無理だってのはさすがにこの年齢だ、わかってきてるよ。でもよう、呂級は行けるって思ってるんだよ。それなのにそんな事言われるんだぜ? どう思うよ?」


「岡部先生が世界に向けて呂級の世界戦という希望を出してましたよね。恐らくですけど、いずれは八級を抜けたら、伊級、呂級、止級は選択式になると思います。八級を抜けたらいきなり国内最高峰の人たちとやれるって事になると思いますよ」


 石川がその赤ら顔を酔っただらしないものから、勝負師のそれへと変え、ぶるりと武者震いをした。


「悪くねえ話じゃねえか。お前はそうなったらどれに行くんだ?」


「うちは伊級ですよ。元々それを目指してやってきたんですからね」


「俺は呂級だ。八級みたいにたくさんの竜がわちゃわちゃ一斉に走るのが好きだからな」


 調教師二人の意気込みを聞き、厩務員たちはさらに心に燃料を注ぎ込み、そこに麦酒も注ぎこんで酔っぱらった。


 ◇◇◇


 八月は古竜長距離戦の『橄欖かんらん賞』が行われるのだが、残念ながら高山厩舎は再始動したばかり、調教のみに費やす事になった。

 九月の『菊花杯』も、結局『ラヨチ』の調整は間に合わずに断念。


 高山厩舎には今年も二頭の新竜が入厩している。その分、最年長の『キンバイ』と牝竜『エモ』が引退となっている。

 新竜の一頭は黒毛の『レラ』、もう一頭が赤毛の『トノト』。どちらも良い竜ではあるのだが、高山が期待しているのは古河牧場で見初めた『トノト』。調教を行ってみて、仕上がりも早いし、肉付きも良く、改めて非常に良い竜だと感じる。


 十月の一週に、その『トノト』を新竜戦に出してみる事にした。


 下見所を周回している時点で一頭だけ異常に気配が良く見えている。

 周回を始めた当初は三番人気だったが、徐々に人気になっていき、下見が終わる頃には一番人気に押し上げられていた。


 発走すると『トノト』は一頭明らかに他とは加速が違った。

 そこから蒲生は控えて、四角までゆったり目で追走。四角を回った所で蒲生が鞭を見せると、『トノト』は急加速。後続を一気に突き放して終着。


 まだ新竜戦だというに、蒲生は終着後、拳を空に突き上げていた。

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