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競竜師・外伝  作者: 敷知遠江守
八級編

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第14話 策謀

 年が明け三月が過ぎ、四月となった。


 四月に行われる八級の重賞は、古竜長距離重賞『金剛賞』。その『金剛賞』に向け、順調に調教が行われる『チセ』を観察台で観察していた高山の隣で「良い気配だ」とうなる人物がいた。


「石川先生のところはどうなんです? 先月から長距離の新竜戦が始まりましたけど、先生のとこの竜、全然竜柱に名前を見かけないんですけど」


「お前と違って俺は晩成竜の仕上げを早められないんだよ。二頭とも初戦は来月だな。ところで十二月に走った『ラヨチ』は『菊花杯』一本なのか? それとも『優駿杯』から使うつもりか? 俺は『優駿杯』から行くべきだと思うんだが、どうだ?」


「そんな取材下手の記者みたいな聞き方しないでくださいよ。まだ決めてません。うちには珍しく、あんな時期の新竜戦に使ってますけど、あの仔もあれで晩成の気があるんですよ。血統なんでしょうね」


 どうやら石川は自身の竜の調教を終え、高山の調教が終わるのを待っていたらしい。高山が観察台から帰ろうとすると一緒に歩調を揃えて来た。


「しかし、昇級初年度でこの『金剛賞』に勝った調教師がいるって、未だに信じられねえな。一月の半ばまで開業準備ってかかるだろ。そこからたった三か月だぜ?」


「報道なんかによると、晩成の長距離竜はいらんという会派の意向で竜主が手放した竜だったらしいですね。なんでそれをうちの会派は買わなかったかなあ」


「買おうとはしたらしいぞ。競りで入札合戦になって折れたって聞いた。紅花会さんは宿業で儲かってるからなあ。財布の大きさ勝負じゃあ分が悪いわな」


 二人は中央通路を進み右手に折れてすぐの石川厩舎へと向かった。事務室に入ると、高山の厩舎同様に執務机の後ろに『白地に緑の縁取りの白い九枚花』の会旗が貼られている。ここにこの旗を貼って何年になるのかは知らないが、高山の物に比べかなり白がくすんでいる。


「で、どうなんだ『チセ』は。『菊花杯』では決勝前に放牧になっちまったけど」


「あの頃から体が成長していますから、そこは問題無いと思いますけどね。ただ、ここまで能力戦を使ってきて、また疲労が溜まってきてましたから。その辺りがどうかというところですね」


「そっか。十二月、一月と能力戦二、三に使ってここだもんな。でも二月も休養が取れていれば、そこまで気にするような事じゃないんじゃないか?」


 すると高山は口を真一文字にして、険しい表情で茶をすすった。


「何だ? 何か懸念事項でもあるのか?」


 高山は後頭部を掻き、石川を手招きし、ごにょごにょと小声で話した。それを聞いた石川が片目を細め「は?」と声を発する。


「いや、それは……あくまでお前の推測に過ぎないんじゃねえのか? たまたまっていう事だってあるんじゃねえのか?」


「たまたまだって俺も最初は思っていたんですよね。まあ、それも今回ではっきりとわかるんじゃないでしょうかね」


 やや伏し目がちの表情で高山は出されたお茶をすすった。


 ◇◇◇


 『菊花杯』で『ユキノチセ』は、事前予想で三番人気に推されていた。それが急な放牧とあって、『菊花杯』の時も少し話題になっていた。

 その時『菊花杯』を勝った『イナホテンケイオー』は、その後『砂王賞』を勝利している。それなりに標準が高い世代だという評価をされており、『ユキノチセ』にも期待がかけられている。


 『菊花杯』と異なり、今回は予選が初週で、三週連続出走は免れた。一週を空け、最終予選も『チセ』は余裕で一着で突破。



 最終予選が終わった翌日、高山は倉賀野主任と筆頭厩務員の豊島を、昼休憩の時間に密かに事務棟の会議室へ呼び出した。極秘の相談があると言って。


 高山から話を聞いた二人は全く別の反応を示した。倉賀野はそんな馬鹿なという反応。だが豊島は無言で頷いただけ。


「今回、この問題を解決するために、俺は『金剛賞』を捨てようと思ってるんだ。重賞を勝つより、この問題の解決が先決だって思ってる」


 高山に強い意志を示され、二人はしばし無言であった。


「あの、仮に先生の予想が当たっていたとしても、厳重注意すれば済む話なんじゃないでしょうか? 何もそんな処分だなんて」


 そう豊島は擁護したのだが、それに倉賀野が異を唱えた。


「豊島さん。恐らく先生は裏に誰かいるって思ってるんだと思う。多分、それを暴きたいんだよ。そうしなかったら、一人だけを処分しても別の人が同じ事をする。そうなったら、うちの厩舎は結束が崩れて崩壊してしまうよ」


 「ですよね?」と同意を求めた倉賀野に、高山は無言で頷いた。


「だから豊島さんは、あえていつも通り過ごして欲しい。そうしながらこの一週間、皆を注意深く観察して欲しいんだ。結果は決勝の前日に聞くよ」


 そう述べた高山の顔は、かなりガッカリした表情であった。


 ◇◇◇


 高山が予想した通り、『チセ』は最終追い切りの翌日、決勝を二日後に控えた日に疲労が限界を迎えて放牧に出される事になった。


 高山のところに報告に来た豊島は非常に沈痛な面持ちであった。


「先生のおしゃっていた通りでした。あいつだけでなく、他にも渋谷と葛貫も……」


「豊島さんはどうするのが良いと思う? 俺はいっその事三人とも解雇してしまおうかと思うんだけど。規約を調べてみたら労組の解雇用件は満たしてるみたいなんだよね」


「観察した感じでは、あいつが首謀者で他の二人は共犯なんじゃないかって俺は思ってるんです。だから二人から事情を聞いて、首謀者のあいつだけを処分すれば良いんじゃないかって思います」


 「なるほど」と発し、高山は豊島をじっと見つめた。

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