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競竜師・外伝  作者: 敷知遠江守
八級編

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第13話 取材

 唐橋記者が持って来た写真は、八級の竜が悪路を走っている写真。

 瑞穂の競竜のような砂の競技場ではなく、見た感じは土。競技場のそこかしこに台地が作られ、水も張られている。


「『竜障害』っていうそうです。元々は『竜杖球』みたいに八級の竜の再利用を目的としたものだったそうです。それが八級の生産が盛んなペヨーテとパルサで盛り上がって、徐々に世界的に広がって、世界大会が開かれるまでになったんだそうです」


 その唐橋の説明に高山は首を傾げた。少なくともこれまで『竜障害』なる単語を高山は聞いた事がない。しかも今の解説だと海外で人気に火が付いたという。にも拘らず、どう考えても竜障害というのは瑞穂で作った単語。そこから察するに、瑞穂でも竜障害をやって行こうという動きがあるという事だろう。


「世界大会って事は国際的な組織が作られたって事ですよね。本部はどこに作られたんですか?」


「おっと、さすがに理解が早いですね。どうやら国際競竜協会とは切り離す方針らしく、ブリタニスじゃなくペヨーテに作られたんですよ。それに伴って、瑞穂でも協会が作られるそうです」


「見た感じ、競技場以外は八級と同じですよね、これ。調教師と騎手はどうするんです? 一から育てていくんですか?」


 すると唐橋は小さく咳払いし、顔を近づけて来た。


「それなんですがね、どうやら、現役の競竜の調教師と騎手を引き抜こうとしているみたいなんですよ」


「えぇ!? そんな事したら協会同士で揉める事になるじゃないですか。だって競竜協会の傘下組織じゃないんでしょ?」


「それですよ。あくまで噂ですけどね、今竜主会を口説いてるらしいです」


 つまりは竜主会に協賛になってもらう事で経済的な不安を払拭しようという狙い。確かに「これで八級の竜に価値が出る」と言われれば、生産会派は喜んで乗ってくるかもしれない。


「って事で、もし会派から何か情報が入ったら教えてくださいよ。先生が良いというまでは記事にはしませんから。あ、それとこれ、約束の手土産です」


 そう言って唐橋は鞄から高級そうな羊羹を二本取り出して机に置いた。


 ◇◇◇


 翌月、いよいよ高山厩舎の八級最初の重賞挑戦が始まった。『チセ』が世代戦最後の『菊花杯』に挑戦する事になった。


 予選に出走した『チセ』は圧倒的であった。およそまだ新竜戦と能力戦しか勝っていないとは思えない走りで、一着で終着。

 予選が二週目であったので、翌週には早くも最終予選となった。ここでも『チセ』は無尽蔵の持久力で最後まで速度を落とさず一着で終着。


 ところが……


「先生、『チセ』ですけど、残念ながら最終予選で疲労が限界を迎えています。元々成長が遅く体力が少ない仔ですから。ここで無理をして決勝に出走させるよりは、放牧して来年以降に期待する方が良いんじゃないと思います」


 筆頭厩務員の豊島が最終予選の翌日の朝、そう報告してきた。

 最終判断をしに竜舎へ向かい、どんな感じなのか『チセ』の脚を揉んでみる。腿の筋肉はかなり硬くなってしまっており、ふくらはぎも硬い。恐らくもう一度使ったら筋を傷めてしまうだろう。


「せっかくここまできて残念だけど、無理したらそこで終わりかもしれないからね。豊島さん手続きするから放牧の準備してください」


 なるべくがっかりした顔を見せないように、あくまで淡々とを心掛けたのだが、豊島は心配そうな顔で高山を見続けた。


「そのうちきっと運が向いてきますから、その時に備えて竜をしっかり鍛えていきましょうよ」


 高山は無理やり作った微笑みを豊島に向け、事務室へと戻った。


 牧場に連絡を取り、事務棟への申請書面を書いたところで、目の前の書類置きから勤務表を取り出した。ここまでの勤務者を確認していく。

 小さくため息をつき、勤務表のささった冊子をそっと閉じた。


 ◇◇◇


 月が替わり十月。

 放牧に出していた古竜の二頭が帰ってきて、『チセ』を除く九頭の竜が竜房に繋がれる事になった。

 こうして改めて竜たちを見比べても、新竜の『ペンケ』が別格に肉付きが良い。もちろん他の八頭が全て長距離竜というのもあるのだが、それを差し引いてもかなり良いものを感じる。


 十月には新竜重賞『白浜賞』が行われる。その決勝を前にして、またも高山厩舎に取材が殺到する事になってしまった。

 その『白浜賞』の推定一番人気が例の『ジョウハンゴウ』になったのである。


「先生。記者からの取材を受けてはいただけませんか? 全部とは言いません。一部で構いませんから。記者たちの陳情が多すぎて、事務棟が仕事にならないんですよ」


 あまりにも記者からの取材を断っていたら、厩舎に山内事務長がやってきてしまった。受付の千秋ちゃんから要請がきていたのだが、それをずっと無視していたら上司が乗り込んで来たという感じである。


「いや、一部しか受けなかったら、他の記者の印象が悪くなって変な記事書かれちゃうじゃないですか。それならいっその事と」


「その気持ちはわかります。わかりますけど、それで他所の厩舎からの情報で記事書かれる方がまずくないですか? 捏造記事だって言ったって取材受けて貰えなかったからって言われたら言い訳できませんよ」


「と、記者の一人に脅されたと」


 その指摘で山内は急に目を泳がせ、言葉を詰まらせてしまった。倉賀野主任がじっとりとした目で山内を見つめる。


「とにかく、俺は取材を受ける気はありません。他所の竜が人気になって、その竜に勝った事がある竜だから話を聞かせてくれとか、意味がわからない。何を話せって言うんですか」


 それでもごにょごにょと文句を言う山内に、高山は呆れてため息をついた。


「それと、俺は全く取材を受けていないわけじゃないですよ。ちゃんと取材なら受けています。そうやって事務長が正規の方法以外でごちゃごちゃ言ってくるような無法者に耳を貸すから、記者たちがつけあがるんじゃないんですか?」


 また死人が出るぞと叱責する高山に、山内はぐうの音も出なかった。出された羊羹を口に頬張り、茶で流し込んで、そそくさと退散していった。

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