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競竜師・外伝  作者: 敷知遠江守
八級編

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第1話 大栄冠

ここまで展開はかなり早めとなっています。

先頭はオウトウハンエリ。

銀河特別を勝ったユキノクロテンは現在五番手。

鞍上の蒲生がもう、今回も豪快にまくれるか!

曲線を回り最終周の鐘が鳴り響きました!

先頭二番手サケクロマツ一気に先頭に躍り出た!

全竜それに合わせ一気に速度を上げる!

向正面ユキノクロテン、外から一頭、また一頭と抜いていく!

最後の曲線に入った!

先頭サケクロマツ、猛加速!

オウトウハンエリも食らいついていく!

ユキノクロテンが三番手に浮上!

四番手以下は少し離れた!

最後の直線!

サケクロマツが後ろを突き放しにかかる!

ユキノクロテン、膨らんで急加速!

鞍上あんじょう蒲生の鞭が飛ぶ!

長い直線、追いつけるかどうか!

一歩一歩、サケクロマツとの差が縮まっていく!

ここで並んだ!

サケクロマツはここまでか!

ユキノクロテン伸びる!

ユキノクロテンが抜けた!抜けた!

ユキノクロテン終着!

まさに長距離王者ここにありという圧巻の走り!

ユキノクロテン、若草特別、銀河特別、大栄冠と長距離重賞を完全制覇!

――



 蒲生騎手がゆっくりと『ユキノクロテン』を走らせている。

 正面客席前に戻って来て、蒲生が鞭を上空で左右に振る。ペタペタという仁級の竜独特の足音は、沸き立った観客席の歓声に完全にかき消されている。


「お疲れ様。これでこの小田原の検量室も見納めだな」


 蒲生騎手が検量室に戻り『ユキノクロテン』を繋ぎ止めると、一人の男性がそう言って肩に手を置いた。

 この業界の人にしては背が高い。年齢はまだ二十代後半。たしか来年三十歳と本人は言っていたと思う。


 蒲生が防護眼鏡を防護帽の上に持ち上げて、男にずいと近寄る。


「先生、何、そんな感慨に浸ってるんですか! やっとあの先輩たちから逃げられるんですよ。ここは喜ぶとこでしょ。まったく、あいつら何かっていえば先輩風吹かせてくるんだから。こんなところはね、さっさと去るに限りますよ」


「確かに、お前の言うとおりだよ。本当にここは酷かった。しっかしなあ、普通、忘年会の会費を後輩に出させるかねぇ。『お前稼いでいるんだから奢れよ』だもんなあ。嫌になるよ」


 はあ、男性は大きくため息をついた。


「えっ!? あの忘年会って、うち持ちだったんですか? 嘘でしょ?」


「ほんとだよ。だけど、まさかあの人たちの言うように賞金から出すわけにはいかないからな。会から借金したんだよ。級行ったら交際費で少しづつ落としていかないとなあ」


 やれやれと両手を広げる男性に蒲生が渇いた笑い声を浴びせる。


 二人で話をしていると厩務員が外した鞍を持ってやって来て、蒲生は検量に向かって行った。


 するとそこに坊主頭の男性が近づいて来て、右手を差し出してきた。

 男ははにかんだ笑顔を浮かべてその手を取った。


「さすがだねえ、高山君。うちの『クロマツ』もかなり筋量増えて本格化したから、今回は勝負になるかもって思ってたんだけどね。いやはや、子供扱いされちゃったよ」


「いやいや下間しもづまさん、何言ってるんですか。最後の直線の加速を見た時は、正直追いつけないかもって冷や冷やしましたよ。あの末脚、あれも『ヨツバ』の仔ですか?」


「いや、あれは『ヨツバ』じゃなく『カミシモ』の仔だよ。お父さんは七歳で『銀河特別』を勝った晩成竜だけど、『クロマツ』はそこまで晩成じゃないみたいなんだ。まあ、来年は他の人のとこに行っちゃうんだけどさ」


 下間がくしゃっと顔を崩して笑顔を作る。

 来年は自分の厩舎の竜じゃない、つまりは下間もこれで八級への昇級が確定したという事なのだろう。


「おめでとうございます! いやあ、さすが飛ぶ鳥を落とす勢いの紅花会っすね。うちの同期の内田も昇級でしょうから、今年は二人も昇級! 凄いなあ」


「ありがとう。それがさ、それだけじゃないんだよ。うちの会派本当に今年大躍進でさ。斯波しば君は級に昇級だし、西国の神代くましろさんも八級昇級できるかもって言ってたんだよね。おまけに筆頭殿がねえ!」


「岡部先生ですよね! 伊級で重賞総舐めとか。聞いた事無いですよ。いやあ、ほんと天才ですよね。いや違うな。ここは日競新聞に倣って『競竜の神』って言った方が良いですかね」


 少しお道化て高山が言うと、下間は豪快に笑い出した。

 

「本人が聞いたら嫌がるよ。あれであの人、自分は普通の調教師だって思ってるんだから。天才って言うと怒りだすんだって。天才の自覚が無いって斯波君もよく笑ってたよ」


 下間は身内の話なのでゲラゲラと笑っていられるが、高山からしたら敵でしかない会派の超大物の話である。いずれは激突しないといけないと思えば、下間のようには心から笑う事は出来なかった。


 二人で取り留めの無い話をしていると、報道がやって来て、挨拶をお願いしたいと言って来たのだった。



――蒲生騎手、ありがとうございました。では、続いて東国首位で昇級を決めた高山先生にお話を伺おうと思います。まずは『大栄冠』優勝おめでとうございます。


「ありがとうございます。長距離重賞はこの仔が絶対的だって信じていましたから、ちょっと負けられなかったです」


――初年度に新人賞、二年目で首位で八級昇級。高山先生に期待する周囲の声は相当大きいんじゃないですか?


「どうなんでしょうね。まだ級から八級ですからね。これが呂級昇級なんてなると否が応でも耳に入って来る事になるんでしょうけど」


――先ほど行われた西国の『大栄冠』では同期が一、二着していました。これについてはどう思われますか?


「内田くんも内ケ島(うちがしま)くんも研修時代本当に凄かったですからね。早く呂級に上がって、彼らともう一度やり合いたいって思います」


――その日が早く来る事を願っています。今回は、本当におめでとうございました。以上、高山調教師でした。

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