表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/22

(13)ワヒ国での戦い


 マサとヒカ達一行は、女王と多くの人々に見送られて、に賑やかにマツラ国を出発した。

マツラ国の入り江を後にして北へ向かう。来たときの道を逆に進み、南の大きなヤマを廻

りこみ二日目にワヒ国へと続く内海の浜に到達し、これも来るときと同じわ人のいる村で

一泊し、泥の浜が続く入り江の海を南に進んで、ワヒ国の長のいる村へ到着した。


 マサとヒカ達一行は、ワヒ国の長タルサと多くの人々に出迎えられた。ヤカとその妻イ

リ、ハラとその妻ヒキと四人の子供たちも帰って来たマサを飛び上がって出迎えた。マサ

の娘チミも他の子供たちと兄弟の様にしており幸せな様子だった。ワヒ国の長タルサは、

マツラ国の女王の弟ヒカの話を聞き、マサがマツラ国の女王の婿になった事を大いに喜ん

だ。ワヒ国の長タルサは自分の娘のニキ、マサの娘チミ、ヤカの娘リミの三人の娘を呼び

出し、三人のうちの一人をマツラ国の女王の弟ヒカの妻にしたいと言った。三人の娘は相

談し、対面したときヒカに選ばれた者がヒカの妻になる事を決めた。


 その夕刻宴が開かれ、豪華な食事と酒、歌と踊りの賑やかな宴が続いた後ニキ、ヤカ、

リミの三人の娘が座敷に呼ばれた。三人の娘はヒカの立派な様子を見て笑顔を見せた。ヒ

カ国の長はマツラ国から来たヒカに「この三人の娘のうち一人を選んでもらいたい」と言

った。ヒカは暫くの間迷ったが、ヒカを見てうなずいた真ん中の娘を選んだ。ヒカがその

娘の手を取ると、ヒカ国の長は喜び「それが私の娘だ。今日が祝言となる」と言った。

 こうしてマツラ国の女王の弟のヒカはワヒ国の長の娘婿としてワヒ国に残り、補佐役に

なる事になった。替りに、今までの補佐役だったマサがマツラ国の女王のもとに行く事も

みんなに了承された。


 ワヒ国の長の補佐役となったヒカはワヒ国にいろいろな提言をした。ワヒ国の守りにつ

いて、特に城の周りの堀に感心し、これではヤマタイの兵も破ることはできないだろうと

言った。しかし、守りは固くともいつまでも籠城するわけにはいかない。遠くで囲む敵を

撃つには大きな弓をつくる必要があるという。その弓は柵に固定し、矢ではなく石を遠く

へ撃ち出すという。

 ワヒ国の長は弓矢づくりの村に使いを送り、大弓の制作を依頼した。弓矢づくりの村の

長は亡くなっており、その弟子のマトがその技術を受け継いでいた。ワヒ国に出向いて来

たマトは、マツラ国の大弓の話をヒカから聞き取り、マキの木と竹を何重にも重ねて蔓で

巻くという方法で、大弓を見事に作り上げた。それを学んだワヒ国の人々が同じようにし

て大弓を幾つも仕上げていく。ワヒ国中から投石に手ごろな拳より大きい石が集められ、

城の中に積み上げられていく。

 こうして、ワヒ国にも、マツラ国と同様に柵に大きな弓が並び、石が積みあがる光景が

出現する事になった。ワヒ国の備えは充実したものとなって行った。


 こうして数年が何事もなく過ぎた後、ヤマタイの国からの使者がワヒ国を訪れた。

「わの国は、ヤマタイの王の命に逆らい、兵をあげること不届きである。またヒタ国の人

々を連れ去り使役する事は悪逆きわまりない。すぐにヤマタイの王に謝罪しその命に伏せ。

さもなくば打ち取る迄」という口上だった。


 ワヒ国の人々は、ヤマタイの奴隷になるよりも戦うべきだと一致した。

ワヒ国は、ヒタ国、マツラ国、クマ国に使いを送り、ヤマタイの兵がワヒ国に攻めて来る

事を伝え、助力を求めた。ヒタ国とマツラ国からは必ず援軍を送るという約束がなされた。

しかしクマ族からの返答は、なかなか返ってこなかった。


 そして半月後、三千を超えるヤマタイの兵がワヒ国に向けて進撃を開始してきた。北の

砦からは、黒い蟻が地面を埋め尽くすように、ヤマタイの軍勢が近づいてくるのが見えた。

砦から狼煙が上がり、ワヒ国の人々や近隣の国にヤマタイの来襲を伝えた。


ワヒ国の五十の兵が北の砦に、五百の兵が村の東の城に立て籠もり、残りの兵は女子供と

共に城の背後に続く東の山々へと避難した。


まずヤマタイの軍勢は北の峠に押し寄せ、ワヒ国の五十人の兵が立て籠もる砦を囲んだ。

ヤマタイの火矢が砦の中に無数に飛び込んでくる。つづいてヤマタイの兵が梯子を架けて

登ってくる。まず上から石で、そして横から矢で、最後に下から二股の棒を突き出されて

梯子が倒され、ヤマタイの兵が叫び声をあげて落ちていく。その間、ヤマタイの兵達の放

つ矢は雨のように砦に降り注いだ。ワヒ国の兵も倒れる者が続出し、砦からの反撃も少な

くなっていった。それを見たヤマタイの兵は砦への攻撃を中断し、峠を通過してワヒ国の

集落へと下って行く。峠から、無人状態のワヒ国の集落に入った三千のヤマタイの兵達は、

集落に火を放つことはなく、家々を陣営として利用し始めた。ヒタ国の兵が大弓を構えて

待ち受ける城に近づく気配はなかった。



 ヤマタイの来襲から三日後、ヒタ国から三百の兵が来援しワヒ国の兵と合流した。ワヒ

国の長はこれを歓迎し、ワヒ国の人々も涙を流して喜んだ。ワヒ国とヒタ国の兵は併せて

千近い数となり、大いに気勢が上がった。そして、城を出てヤマタイの兵に近づき、大弓

の待ち構える城へ誘い出す作戦を開始した。


ワヒ国とヒタ国の兵は、三百人ずつの三段の密集隊形を取り、「オウ!オウ!オウ!」と

声を上げ、村に陣取るヤマタイの兵に向かっていく。これに対し、集落から出てきたヤマ

タイの兵は、三千という圧倒的な数を誇るように、村全体を覆う横長の隊形で盾を並べて

待ち構える。


 戦いが始まり、まず一段目のワヒ国の三百の兵がヤマタイの陣に遠矢を放ったのち、盾

と槍を掲げて突進し攻撃を仕掛ける。ヤマタイの兵は近づく三百の兵に遠矢を射かけてく

る。誘い出すように一段目の兵が逃げ出す様子を見せると、ヤマタイの百を超える騎馬兵

が襲い掛かろうとする。

 そこに、二段目のヒタ国から来援した三百の兵が盾をかざして立ちはだかった。ヒタ国

の兵は長い槍を並べて、ヤマタイの騎兵の接近を防ぎながら前面に出る。ヤマタイの兵達

は遠矢を射かける。二段目のヒタ国の兵が後退し、ヤマタイの兵の追撃を誘うが、ヤマタ

イの兵は追いかけようとはしない。

 続いて三段目ワヒ国のの兵が盾をかざして矢を防ぎながら前面に出る。ヤマタイの兵達

はまたもや、遠矢を射かけるだけで動こうとはしない。


 この日、ワヒ国とヒタ国の兵は三段に分かれて交互に戦う「ハンミョウ作戦」を実施し

たが、ヤマタイの兵の遠矢によって百人以上が倒され手負いとなるだけの結果になった。

ヤマタイの兵を大弓の待ち構える城の近くへ誘い出す「ハンミョウ作戦」は失敗に終わっ

た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ