ギフト:神の寵愛
この世界では子どもたちは十歳になる年の初めに神殿へと連れていかれ、そこで神から「ギフト」と呼ばれる特別な能力を授かる。ギフトを授かる儀式を終えた後に神官の用意する神に血を垂らすことでそのギフトがどのようなものなのかが分かるのだ。
なんとなく前世の日本であった受験の合格発表とかクラス替えの発表みたいだな。
緊張と興奮がないまぜになったような空気を肌で感じながら俺はそんなことを考える。前世で事故死をした挙句に産まれたのが奴隷よりはマシといった程度の貧乏な男爵家の次男。
パソコンやゲームはもちろんマンガや本といった娯楽と呼べそうなものなどほぼないような状況でもなんとかやってこれたのは前世には存在しなかった魔法の修行が楽しかったというのと、今日与えられるこのギフトが楽しみだったからである。
話のパターンではここで俺は信じられないほど強いギフトか、一見するとなんの役にも立たないが使い方を工夫すれば無限に強くなれるようなギフトのどちらかが与えられるはずだ。「転生」などという荒唐無稽なことが起こった上に日々を暮らすのにも苦労してきた俺なのだから、その程度の特典があっても当然だろう。
そんなことを考えていると、ついに俺にギフトが授けられるときが来た。神殿の中心に置かれている祭壇へと進み跪くと、俺の頭上で暖かな光が輝いた。
そして俺は「神の寵愛」というクソみたいなギフトを手にした。
そりゃあその名前を知ったときは小躍りするほどに喜んださ。だが、実際はとんでもないものだった。この世界の神ってのは、慈悲に溢れて人を守る優しい神なんかじゃなくて、愛しているから試練を山ほど与えてそれを乗り越えるのを見るのが大好きなタイプだったのだ。
紆余曲折あって冒険者になった俺に、今日も依頼が舞い込んでくる。ある山の奥地にある希少な薬草を取って来て欲しいというものだった。山道が険しい以外は楽なものであると説明されたが、どうせそんな簡単に終わるはずがない。
いままでの経験から鬼が出ても蛇が出ても、なんなら邪神が出てきても大丈夫なようにしっかりと準備を整えて俺は依頼へと向かった。
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