第0話 プロローグ
東条湊は肺が焼けるような熱を感じていた。
見渡す限りのガレキ山の中にポツンと取り残されている。
ポツンとという表現には語弊がある。
見たこともない獣がヨダレを垂らしながら少年を眺めて立っている。
逃げ出したいが、逃げる力もなくただ茫然と眺めることしかできない。
獣が少年にゆっくりと近づいていく。
息を肌で感じる距離まで近づかれたとき、少年は唐突に死を感じた。
ーーこのまま何もできずに……死んでしまう。
無力感よりも恐怖心が強くなり、身体は震えていた……
獣は少年の感情を察知したのか、不気味な笑みを浮かべている。
今まで見たこともないその表情を見たとき、湊の恐怖心が爆発した。
ーー死にたくない!!!まだ死ねない!!!
逃げ出そうとするが、身体に力が入らない……
獣の不気味な笑みはより一層歪んでいた。
獣は眺めることに飽きたのか、口を大きく広げて少年に迫っていく。
ヨダレが少年の顔にかかったとき、逃げることをあきらめた……
ーーどうか、妹だけでも逃げられていますように……
焦点を失った目で呆然と前方を眺めていたところ、突然獣が真っ二つに引き裂かれた。
「……少年!!りんご食べるかい?」
目の前の光景と緊張感のないセリフに少年の緊張感の糸が途切れた……
暗くなる視界のなかで、先ほどの笑顔とは裏腹に悲しそうな表情を浮かべる青年のセリフが強烈に湊の頭に残していた。
「いつまで続ければいいんだ……」
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