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聖女たるものは

作者: HAL

少し短めのお話です。

誤字脱字いつも報告有難うございます。




 そもそもね?

 平民の聖女が王太子と結婚するなんて無理なの!

 聖女が何で聖女だと思う?

 何で平民からの支持が絶大かっていうと、そりゃ、無償で治療してくれる有難い存在だからよ。薬も医者も神殿での治療もお金がかかるからね?聖女の崇高な志に〜、なんて綺麗な言い回ししてるのお貴族様だけだから!そんな志じゃ腹は膨れない、ってのが平民です。

 瘴気を浄化したり、怪我人や病人の治療をして回ってる真面目な聖女が、貴族のマナーだの令嬢教育だのする暇あると思う?あるわけ無いわよ!!くっそ忙しいわよ!んな暇あったら少しでも寝たいわ!

 それなのに王子の相手とか出来ると思う?

 思わないわよね。

 学校すら通うのも怪しいのに。

 出来れば普通に生きたかった。でも、力に目覚めたら問答無用で国に登録されて配属先を決められて。

 自由なんてない。

 その日の夜に何を食べるか、その程度選べるだけ。

 象徴だけの偽物聖女なら出来るわよ?

 王子とデートでも妃教育でも出来るでしょうけど、平民人気が高い聖女がどうして人気なのか考えたら子供でもわかるでしょ?だから王族との婚約も婚姻も勘弁して欲しいしそんな時間はないのよ。民衆の支持だってそんな事に時間を取られて慈善活動を疎かにしたら途端に掌返し、支持率急降下だっての。

 国に聖女を縛り付けて置きたいなら、待遇をよくするのが一番。きちんとお休みをあげるとか、美味しいご飯を食べさせるとか、高いお給料を出すとか。この国サイコー!って思わせる努力をするべきよ。王族と結婚させるより簡単だと思うんだけど。 



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「―――以上が現役聖女の見解です」

「見解っていうか、君の意見だよね」



 言いながら次々と癒しの奇跡で貧民街の人々の怪我や病を治癒させていく。片手間、と呼べるほど簡単そうに見えるが、実際は肉体労働に近い疲労感がある。だから休息も大量の食事も必要とされる。



「あたしはのんびり浄化の旅がしたいので、こういう治癒は教会にさせて下さい。その方が教会も信仰度があがるでしょ…はい!次の人!」

「あーうん……流れ作業というか、貴重な奇跡を見ている気がしなくなるな……」



 この国には癒しの力を持った女性が生まれることが多い。

 だからといって、その身を教会預かりにされる事はなく『癒しの聖女』として国に登録され、各地に派遣されて無償で民を癒やしてきた。税を納める者の健康を守るのが国の努め。聖女は大小力の差はあれど各地に派遣されてきた。

 それで民の不満もなく、国は健康な民が増えて税収は安定、お互い良い関係だったのだが。



「貴方達王族とか貴族が聖女の嫁取り合戦するからこんな事になったんですが?はい終わり!次の人〜!」

「それは本当に申し訳無い……」 



 本来なら国の管理下で派遣される聖女が、こぞって嫁にいってしまった事による絶対的な人手(せいじょ)不足。

 聖女は嫁いだ領地でその力を施行したが、領主全てが聖人ではない。一部の者だけが恩恵に預かったり、金銭を要求されるようになった。

 そのようにして、国の聖女は減る一方で聖女を娶った貴族の領地は富を得る。聖女の力は血に宿らず、聖女が聖女を産むことはない。妊み袋にされる危険は無いが、人としての尊厳が守られなかったり、力を一方的に搾取されないよう、国は聖女としての登録を義務付けている。

 婚姻は全て聖女の心次第、という事で、若い彼女達の気を引けるようお金をチラつかせたり、見目の良い男性を連れて来たりと、あの手この手で力のある聖女を誘致するのだ。

 そうした結果、残ったのは力の弱い者ばかり。

 今日も今日とて平民出の聖女メルティナは、その強い癒しの力で民の為に奔走する。人手不足を恨みながら。



「あたしは貴族様と結婚して見捨てたりしないんで、クギ刺さなくても大丈夫ですよ。ただ、瘴気の方が心配だから早くそっちの対応に回りたいんで、とっとと国の聖女を増やしてもらえませんかね?」



 現在、この国は辺境の土地からジワジワと瘴気に侵され始めている。瘴気はいわば毒だ。水と空気が、大地が、汚染された場所では、人は疎か動植物も生きていけない。聖魔法や神に仕える者の神聖魔法で浄化すれば良いのだが、初動が遅れたせいで、根本―――瘴気を生み出す原因となっている古竜の屍―――は放置されたまま、呪いの地と化している。

 とりあえず、と、国は汚染地域の浄化を優先した。というか、そうする他なかった。元凶を何とかするにも、汚染地域に派遣する聖女の数すらギリギリの状態で、とても呪いの地を浄化する為の聖女を集められない。

 だが、力の強い、浄化能力に長けた聖女―――メルティナならば一人でも古竜の瘴気を払える。だからこそ遠征を望んでいるというのに。

 のらりくらりと要求を躱す国にメルティナは苛立つ。国の方もメルティナの今の仕事量を任せられるだけの聖女がいないので、どうにか次代の聖女達が育つまでと懇願されている。お陰で大人気のメルティナは忙しい。たまにはゆっくり朝寝坊してカフェでお洒落な食事でもしたいが、現状はこの有り様だ。

 なので、浄化の旅を希望するのも「遠距離であればあるだけ移動中休めるから」という本音の部分が大きかった。



「メルティナには世話をかける……」

「いえいえ、ファルス殿下も頑張ってくれてるからね」



 ちなみにやらかした王族は彼の父。現国王。

 そんな実父の尻拭いをしている真面目な第二王子ファルスは、聖女の実態調査をしていてこのメルティナに出会った。二人は仕事中毒だったので、すぐに意気投合した。親しくなろうがどこからも苦情は入らない。口を出せば「では一緒に」と労働力にされるからだ。犠牲者を五十人程出した所で噂が広がり、ファルスもメルティナも貴族から避けられるようになってしまった。

 とはいえ、このままでは身動きが取れない。

 流石のメルティナも「こうなったら辺境に嫁入りするフリして現地へ突撃しようかな」等と思い詰めていた。 



「―――という事で、僕達の婚姻についてなのだが」



 そんな中で王子のこの爆弾発言である。

 一応、保護対象の二人には近くに護衛が配置されているのだが、普段は周囲に警戒を払っている彼等もその会話にギョッとして視線を向ける。無論、民衆(やじうま)の心もバッチリしっかり掴んで大注目だ。



「で・ん・か?話、聞いてました?」

「うん。君は治療の片手間だったけど、僕はしっかりね」

「そ、それは失礼しました」



 コホン、と咳払いをしてからメルティナは居直る。



「その件は何度も……何度も何度も何度も!お断りしてるじゃないですか!その度に「分かった」って言っておいて……流石にしつこくないです?」

「えー?しつこいかなぁ。けど言わなきゃ伝わらない、って良く言うだろう?」

「限度があります。最近じゃ三日と明けずに言ってくるじゃないですか」


 

 ファルスの求婚は今日初めてではない。

 1年以上前から続いている。

 手紙には四季折々の花と流行りの菓子が添えられていたので、単なる時候の挨拶だと思っていたし、女性には挨拶代わりに口説くのが王都の風習なのかとメルティナは本気で思っていた。そのうち頻度が増え、手紙ではなく直接口説かれるようになると、流石のメルティナも挨拶では無かったのだとようやく気付くが、既に季節は一巡りしていた。


 いくら仕事ができて話の分かる人で性格が良くて顔面偏差値が高いとはいえ―――いや、これだけ揃ってて何で断り続けてるんだっけ?―――とメルティナは一瞬考えたが、そう、彼は王族なのだ。それが最大にして唯一の断りの理由。この求婚もまるで仕事の延長のように切り出されたので、最初はうっかり承諾するところだったのもまた腹立しい。



「そりゃあ、結婚しても王子妃業はしないで今の活動を続けて良くて、変なお貴族様からの求婚も無くなって身の安全は確保されるし、仕事終わって疲れた身体で家事しないであったかいご飯食べられて綺麗にしてもらえてぐっすり眠れて疲れも癒えちゃうけど………んんっ、あれ待ってこれ凄くいい条件……いえその」

「うん、何か途中から好意的に言ってくれて有難う」

「いやそうだけどそうじゃなくて、結婚するって事はですね、二人が死を分かつまで添い遂げるって事ですよ!?私は愛し愛されたいんです。貴族の政略結婚とか無理です!愛のある家庭を作りたい、だから」

「好きだけど」

「え?」



 鳩が豆鉄砲喰らったような顔のメルティナにファルスが微笑む。キラキラな王子然としたその笑顔に、流石の金剛石の聖女(メルティナの通り名である。何となく屈辱的だと彼女はあまり喜んでいない)にも恋の矢が射さる。



「僕に引けを取らない位の仕事狂いで、この国の行く末についても話し合えるし、自ら行動する事を厭わない。そんな君を尊敬していたよ、ずっと。そのうち君への求婚状を見る度に、何だか、こう……腹立しいというか……うん、ムカつく、というのかな……で、感情を持て余してた時に、兄が君への縁談を持ってきて」



 怖い。

 でも聞いておかないと後悔する―――と、メルティナは覚悟を決めてファルスの言葉を待った。



「書状を燃やしたら、一緒に兄上の髪も燃えてしまって」



 ざわめきも起きなかった。

 聞いてしまった者は皆、後悔し、将来の王となる人の頭髪を無言で偲んだ。



「え…、も、燃やした……んですか?いやっ!いや別に要らないですよそんな縁談!!私には分不相応ですし!!はい!」



 不可抗力だったんだと捨てられた犬みたいな顔して見つめられ、メルティナは焦ってそう返す。ただ、メルティナにはそう見えたが、実際、他の人間には〝嫉妬で魔王が君臨する一歩手前〟に見えていた。ファルスの魔力の大きさが市井(しせい)でも有名だったせいだろう。多分。



「それで、君の希望を叶える為に一番手っ取り早いのが僕と結婚する事だと気付いてね。王族になれば多少のワガママ(・・・・)も利くし、夫婦なら共に遠征に行ける。新婚旅行先を古竜の呪われた地にすればいい。僕なら聖女(きみ)の護衛も兼ねられるし、移動先で聖女の指導をしても領主に口出しさせないから」

「え、……え、えーと、え〜〜!!ねぇっ、こここれっ、どうしたらいいの?!!」



 誰か教えて〜〜!と叫ぶメルティナをニコニコ見つめて待つファルス王子。

 これはメルティナ様、堕ちたな―――と誰もがそう思った。



 結局、反論も反撃も出来なかったメルティナは、仕事を終えるとそのまま放心状態でファルス王子に担がれ(お姫様抱っこではなかった)、城に運ばれると三日間、ファルスの私室から出してもらえなかった。どんなプレゼンが成されたのか。メルティナが口を噤んだため、二人に何があったのか一切不明である。

 結局、そのまま結婚した二人だが、どこからも文句は出なかった。結婚前にファルスが何やら問題のある領に伝書を飛ばしていたが、それを知るのは彼の側近のみ。平和の為の犠牲は少ないほうが良い。


 メルティナとファルスの最強夫婦の世直し行脚みたいな新婚旅行は、問題無く進み―――二月もかからずに全てを終えて城に戻った二人は、国の聖女の在り方を根本から正し、保護し、育成を強化した。

 そうしていつしか、増えた聖女は『癒し魔法の使い手』として、他の魔法使いと同様に民に溶け込み、ありふれてはいないが、ひとつの職業として数えられていく。かつて『普通』を望んだ聖女メルティナの希望通りに。






 ―――これは普通の女性として生きられなかった優しい聖女(つま)への、王子(おっと)が紡ぐ(つぐない)の物語である―――




そういえば昔よくSS書いてたの思い出しました。

ssばっかり書き溜める枠とか作れないのかなー



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