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サチコさん  作者: デー
1/1

サチコさん


 みんなサチコさんの噂について、1度は耳にしたことがあるだろう。

 ないなんて言うやつは認めない。あると言いなさい。

 

 サチコさんは雨の日にだけ会える幽霊。

 亡くなったのは今から50年前の雨の日。

 空からいろんなものが落ちてきた大雨の日だ。


 以来サチコさんはこの米田町のどこかに出現する有名な幽霊なのである。そして現れるのは決まって雨の日。サチコさんはよく笑う、サチコさんの周りには猫が集まる、サチコさんの笑顔は雨の中でも一際晴れ渡っている。そう、サチコさんはみんなの人気者だ。


 サチコさんに惚れている男は実はかなりいる。でも、サチコさんのファンクラブ、サチコ組がそういう危うい輩を寄り付かせないようにしている。


「死んだら人はどこに行くんですか?」


 あるとき何気なくそう聞いてみた。

 サチコさんは腕を組んで少し考え込んだ後


「どこに行くんだろうね」


 と答えた。困った。その答えを彼女が知らないなら、きっと誰も分からないだろう。


 サチコさんはいつまで。いつまでだろう。

 最初から会わなかったら、こんなこと考えなくて済んだのに。


 次の雨の日、サチコさんは現れることがなかった。

 次も、その次も。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「変わらない街だな」


 10年ぶりに訪れた米田町は、当時と変わらない日常がそこにあった。

 荷物を取りに来ただけだから、すぐに帰ろうと思った。

 その前に軽く町を歩く。

 いろんな人に声をかけられて、気持ちが当時に戻っていった。

 角を抜けていつもの公園に入る。

 

 いないよな、晴れてるし。

 ベンチに腰掛けて、当時のことを思い出す。

 サチコさんは、どの思い出の中にもいた。

 

 会いたいなあ。

 

 ポツ、とふいになにかが額に触れる。

 ポツ、ポツ、ポツ、次第に激しさを増す。


 地面に落ちる前に、なにかがそこにある。

 形のあるなにかが、そこにある。

 猫に好かれて、笑顔がとびきり素敵で、ときどき天然で、みんな大好きなサチコさん。

 サチコさんがそこにいた。


「久しぶり」

「久しぶりです」

「なんだ敬語なんか使っちゃって、成長したね」

「もう22ですから」

 

 そっか、もうそんな歳か。


 僕らの間に沈黙が流れた。慣れ親しんだ心地よい沈黙。

 

「サチコさん」

「なに?」

「僕、また会いに来ますから」

「、、、、」

「雨が降っても降らなくても、必ずここにきて、サチコさんに会いにきます」

「雨が降らない日も来るの?」

「逆テルテル坊主を作ってから来ます」

「なんだそれ」

「100個作ります」

「アホだね」


 サチコさんの呆れたように笑う顔を見て、ここにきてよかったと思った。

 サチコさんと話せてよかったと思った。


「じゃあまたね」

「また」


 あっさりとした別れだったけど、いいんだ。

 僕はまたこの公園にくるから。


 晴れた空に虹がかかっていた。

 僕は一歩前に進んだ。


 













 


 






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