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【コミカライズ連載中】アラフォー男の令和ダンジョン生活  作者: 朝倉一二三


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99話 復旧工事開始


 俺たちがひっくり返してしまったダンジョン内の鉄道――いや、俺たちがやったわけじゃない。

 ダンジョンのトラップに巻き込まれて、脱線転覆してしまったんだが……。


 事故原因はともかく、この鉄道はダンジョン内の物資や人員を運ぶ重要なインフラになっている。

 早急に復旧したいようで、俺は総理から直に依頼を受けた。


 それは解る。

 俺のアイテムBOXがあれば、すぐに終わると――あてにされたのだろう。

 こちらとて、金さえ十分に貰えれば断る理由もない。

 それに、ダンジョン内の鉄道の復旧が遅くなると、こちらにも影響が出てくるはず。

 これは冒険者の自分のためでもあるわけだ。


「うぐぐ……」

 俺の前で無礼な役人がうずくまっている。

 姫に嫌われてしまい、握手の際に手を砕かれてしまったようだ。


 どうやら良家のお坊ちゃんらしく、それを鼻にかけているいけ好かない男だが、派遣されてきた役人だし、治療をしてやらなければならない。

 痛い目にあって、自分から「帰る」といい出してくれれば、一番後腐れがないのだが。


「おい、ダンジョンの中に行くぞ」

 役人の男に声をかけた。


「ダンジョンの中?」

「中じゃないと、治癒魔法も回復薬ポーションも効果が薄い。それとも、冒険者ごときの治療は受けたくないか?」

「うぐぐ……」

 男が立ち上がった。

 治療したあと、どうなるかだよな。


「本当は治療には金がかかるんだぞ? 今回は公共事業だから、政府に経費として請求するけど」

「まぁ、ただでやってくれる冒険者はいないねぇ」

 イロハが頭の上で手を組み、ニヤニヤしている。


「イロハの仕事代もしっかりと出るからな」

「ダーリンの頼みにそんなのはいらねぇよ」

「そうはいかん。払うものを払わんと、後々頼みづらくなる」

「ダーリンには借りもあるしよぉ」

「そういうのは、しっかりと返してもらうから大丈夫だ」


 ――とはいえ、彼女にどうやって返してもらうか。

 強力な助っ人カードだし……。


 いや、助っ人に限る必要はないな。

 色々と考えている間に、エントランスホールに入った。


「カオルコ、悪いけど治療をしてやってくれ」

「はい」

 彼女が男の手を取った。


「そんな人、治療することないのに……」

 サナがブツブツ言っているが、そういうわけにもいかない。


「うう……」

回復ヒール

 カオルコが魔法を唱えると青い光が、男の掌に染み込んでいく。


「ついでに、回復薬ポーションも飲んでおけ」

「あ、安全性は大丈夫なんだろうか?」

「別に無理にとは言わんよ。ダンジョンでは普通に使われているもんだ」

「クソ!」

 男が、小瓶に入ってた赤い液体を全部飲み干した。


「あっと! 今渡したの、毒だったわ!」

「ゲホッ! ゲホッ!」

 男が慌てている。


「なんてな、嘘だよ」

「クククッ!」

 イロハが口を押さえて笑っている。


「馬鹿にするな! 今回のことは全部報告させてもらうからな!」

「その元気だと、治ったようだな」

「う……」

 男が、自分の手を見ている。


「どうぞ、報告なさるならご随意に――それでどうします? ここで帰ります?」

「お前の指図など受けん!」

「お~、意外と根性あるねぇ」

「わはは! そこだけは、ダーリンに同意するよ」

 イロハが笑っているのだが、姫はずっとムスッとしたまま。

 よほど嫌いな人間らしい。


 さて、ここから1層の鉄道なのだが、ここは乗客が沢山いる。

 正直満員列車には乗りたくない。


「姫、どうする? アレに乗りたいかい?」

「いや」

「それじゃ俺たちだけ、自転車で行く?」

「そうしよう」

 彼女が俺の提案にすんなりと乗った。


「小野田さん」

「はい」

 彼女に、俺たちだけ自転車で行くことを説明する。

 作業員分の自転車はないからな。


「それでは、1層の終点で待ち合わせ――ということで」

「はい」

 俺はアイテムBOXから自転車を2台出した。

 メンバーは5人で、自転車は2台……。

 こういうときのために、アイテムBOXの自転車は増やしたほうがいいかもな。

 意外と使うことが多いような気がする。

 5~6台はあってもいいだろう。


「いつものように、姫はカオルコと一緒に」

「承知した」

「イロハ、サナを後ろに乗せてやってくれ」

「ダーリンはどうするんだよ」

「俺は走るよ。ははは」

 1層は、スプリンターごっこをしながら、なん回か走っているから問題ない。

 それに、自転車といえど、ダンジョン内なら、そんなにスピードは出せないから、走っててもついていける。

 むしろ、走ったほうが速いかもしれん。

 まぁ、腹は減るんだが。


「よし、出発!」

「おう!」

 列車に乗り込む小野田さんと作業員たちに手を振ると――俺たちは暗闇の中を走り出した。


「オラァァァ!」「きゃぁぁぁ!」

 イロハの声と、サナの悲鳴がダンジョンに響く。

 俺は、それを右手に聞きながら並走する。


「イロハ! あまりスピードを出すと、自転車が空中分解するぞ?」

 いや、空中じゃないから、空中分解は変か。

 ただの分解か、地上分解というべきか?

 大きな身体で自転車に乗ると、サイズがおかしく見える。

 彼女も漕ぎづらそうに見えるが、それでもスピードを出す。


「あはは! ちょっとスピードを出し過ぎたか」

「あまり早くついても、列車の連中が到着しないと動けないからな」

「それもそうか」

 1層にはたいした敵もいないので、すぐに到着。

 2層には、狼がいるからな。

 あいつら、ずっと追いかけてくるし。

 マジで面倒だから、鉄道を使ったほうがいいだろう。

 2層からは、だいぶ冒険者も減るしな。


 1層の終点で、飲み物を飲みながら待っていると、列車が入ってきた。

 そういえば、ダンジョンじゃATSなどもないから、運転も全部手動なんだよなぁ。

 まぁ、蒸気機関車にATSは装備できないかもしれないが。


 手動でドアが開けられると、沢山の冒険者たちが降りてくる。

 鉄道に乗っているのは、観光客も多いようだ。

 格好が普通なので、すぐに解る。


「小野田さん!」

 作業員たちがやって来た。


「もう着いていたんですか?」

「はは、ダンジョンなら自転車のほうが速い」

「でも、魔物と遭遇したりしますよね?」

「そうそう、だから2層からは列車を利用するよ――姫、いいかい?」

「承知した」

「2層は、狼がうぜぇからな!」

 イロハが不満を漏らす。


「やっぱり、みんなそう思ってるんだ」

「あいつら、雑魚のくせに延々と追っかけてくるし」

「そうなんだよなぁ」

 結局、自転車から降りて戦う羽目になる。

 非常に面倒。


 イロハと話していると、あの男がやって来た。

 黙って帰ればいいのに――と、思うのだが、やつも仕事に忠実なのかもしれないし。

 まぁ、話すこともないので、皆で蒸気エレベーターに乗り込んだ。


 やはり、2層になると冒険者も減る。

 ダンジョンを体験したいって観光客も1層で十分だろうし。

 2層からは危険度も上がるからな。


 皆で列車に乗る。

 車内に明かりがないのだが、沢山の冒険者が持っているケミカルライトのカラフルな光が天井や壁で虹を作っている。


「本当の蒸気機関車はこういう場所を走ると煙いんだが、魔法はそれがないからいいな」

「そうだな」

 姫がうなずいた。


 世界が静止してから、蒸気機関も復活して普通に使われている。

 昔の蒸気機関車は石炭で走っていたが、今の燃料は様々だ。

 石油もあるし、アルコール燃料のものもある。

 ゴミの焼却ついでに、動いている蒸気機関もあるしな。


 姫と話していると、女性の悲鳴が上がった。


「どうした?!」

 駆け寄ると、悲鳴を上げたのは小野田さんらしい。


「五条寺さんが!」

 見れば、透明ななにかに覆われて、床でジタバタしている。


「なんだこりゃ、スライムか?」

「へ~、こんな場所で――多分、どこからか潜り込んできたんだろうな」

 イロハも珍しがって、じ~っと観察をしている。


「は、早く、助けてください!」

「おっと、そうだったな、失敬失敬」

 相手が女の子などなら、すぐに助けてやるんだが、この男だからな。

 すっかりと、助けるという単語じたいを、失念していた。


「よっと!」

 スライムなんぞ、核を潰せばすぐにくたばる。


「ゲホッ! ゲホッ!」

 スライムが口か鼻に入ったのか、男が咳き込んでいるのだが、声をかける気にもならん。


「大丈夫ですか?」

 小野田さんが声をかけてくれたのだが……。


「もっと早く助けろ! この役立たずが! ゲホッゲホッ!」

 ほらな?


 周りの冒険者たちも、冷ややかな視線を作業員たちに送っている。

 観光客がこんな所までやってきて――なんて思っているのかもしれない。


「この男は別として、この人たちは、4層の鉄道の復旧工事にやってきた人たちなんだよ」

 俺は冒険者たちに説明をした。


「ああ! そうなのか!?」「そりゃ悪かった」「早く復旧してください」

「近々、復旧する予定だからさ」

「「「おお~」」」

 やっぱり、待っている冒険者が多いんだな。


 男の世話は、小野田さんがやっている。

 悪いが、その男のことは俺の仕事じゃないしな。

 魔物に襲われて肝も冷えたろう――そろそろ、帰ると言い出すかもしれないし。


 俺たちの思いに反して、男は青い顔をして2層のエレベーターにも乗ってきた。

 魔物に襲われたのが堪えたらしい。


「根性あるのか、なんなのか」

「いやいや、ダーリン。魔物に襲われたのに、それでもついてくるのは根性入っているよ、あはは」

 イロハが面白がっている。

 まぁ、仕事に命がけで取り組んでいると、好意的に受け止めよう。

 ただただ、役人としてマウント取りたいから、ここまで来ているのだとしたら、それはそれでなぁ。

 変な笑いしか出ない。


 もしかして、姫に気があって、いいところを見せようとしている?

 無理だろう。

 彼女はずっと、苦虫を噛んだみたいな顔をしているし。


 なにか家同士のいざこざみたいなものがあるのかもしれないな。


 ダンジョン内で乗り継ぎ乗り継ぎ、ついに4層までやって来た。

 ここまでくると、冒険者もあまりおらず、ほとんどが物資の輸送だ。


「4層のホームに向かいましょう」

 小野田さんの案内で駅に向かうと、彼女が駅の職員に挨拶をしていた。

 稼働はしてなくても、常駐はしているようだ。


「OKです!」

 話をして彼女が戻ってきた。


「さて、上手くいくかな?」

「いかないと困るんですけど……」

 小野田さんが心配そうな顔をしている。


「いや、出すだけなら簡単なんだけど、レールに上手く乗るかな~と思って」

 何しろ設置するのは本当の機関車で、Nゲージみたいなわけにはいかない。


「ああ、そうですね」

 まぁ、とりあえずやってみるしかない。

 駄目なら、力業だな。


 線路の所にやって来た。


「サナ~、悪いが明かりを頼む」

「はい、光よ!(ライト)

 白黒だった視界がカラーになって、暗闇に続き線路が現れた。

 いったいなにをやるんだろうと、野次馬が集まってくる。

 装備を着ている冒険者もいるが、商売人もいる。


「よっしゃ! やってみるか! はい、皆離れて~離れて~」

「「「ざわざわ……」」」

 前に比べて、アイテムBOXから出す位置は、ある程度コントロールできるようになっている。


「機関車召喚!」

「「「おおおお~っ」」」

 新品の機関車が、線路から外れた位置に落っこちてしまった。


「だめか?! 収納! もう一回召喚!」

 再び狙いが外れた。

 これを繰り返していたら、レールや枕木が破損して使えなくなってしまうな。

 機関車は重いからな。


「イロハと、姫、ちょっと手伝ってくれない?」

「よっしゃ! 任せろ!」「承知した」

「丹羽さん! お手伝いします!」

 小野田さんが、慌ててやってきた。


「とりあえず俺たちだけで、やらせてみて」

「わ、わかりました……で、でも、大丈夫ですか?」

「まぁ、多分――イロハと姫は後ろを持って。俺は前を持つから」

「わかったぜ!」

 3人で配置についた。


「よし、行くぞ――いっせ~の~で!! オラァァァ!」

 かなり重いので、気合を入れた。

 黒い鉄の塊が数十センチ浮かび上がり、長いレールの上に金属音を響かせ着地した。


「そっちは大丈夫だったか?」

「ふ~、こいつは重いぜ」「まぁな」

 姫はちょっと余裕がありそうだな。


「「「おおおお~っ!」」」「すげ~!」「なんやそら!」「さすが、高レベル冒険者!」

「丹羽さん! す、すごいです!」

「こいつが一番重たいから、あとの客車と貨車なら楽勝だろ」

「機関車をどうやって載せるのか、課題だったんですよ」

「なんとかなったろ?」

「はい! 人力で駄目なら、蒸気動力を持ち込む予定でした」

「うまくいけば、今日1日で作業も終了するぞ」

「すごい!」

 小野田さんが喜んでいるが、これで終わりではない。

 とりあえず、設置を完了した機関車を移動させて、ちょっと離れた場所に置いた。


「客車召喚!」

 賑やかな音を出して、客車が落ちてきた。

 見れば、今回は一発でレールの上に乗っている。


「おお! すごい! さすがダーリン!」

 姫が褒めてくれた。


「たまたまだな」

 客車も機関車の後ろに移動させた。


「丹羽さん、こちらで連結作業をいたしますので」

「オッケー! 道具とかはまだ要らないのかい?」

「はい、連結作業は手作業でできますから」

 動力がなくても、くっつけると自動で連結できるらしい。


 残るは貨車だが、こちらは1発で乗らなかったので、俺がレールに乗せた。

 こいつは軽いので、俺ひとりでも大丈夫。


 連結作業をしている所まで、貨車を押していく。


「小野田さん、こっちも繋げてくれ~」

「わかりました! 丹羽さんたちは、休憩しててください」

「オッケー!」

 ここに来るまで走ったり、重いものを持ったりで腹が減ったな。


 アイテムBOXからブルーシートやらエアクッションなどを出した。

 お菓子や、飲み物なども並べる。


「俺は軽く飯を食うけど? 他の皆はどうする?」

「あたいも食うぜ」「わ、私も……」

 イロハとサナが食事をつき合うようだ。

 姫とカオルコは、お菓子と缶コーヒーなどを飲んでいる。


「実は、イロハやサナに食わせたくて、持ってきたものがあるんだよなぁ」

 俺はアイテムBOXから、大きめのおにぎりを取り出した。

 冒険者スペシャルだ。


「おにぎり? はは~、中身に秘密があるとみた」

「イロハは鋭いな」

「いただきます~」

「よっしゃ! あたいも食うぜ~モグモグ――うめぇぇぇぇ!」

「美味しい! 中身って角煮ですか?」

「そうそう――それはオークの角煮なんだよ」

「へぇぇぇぇ! それじゃ、ダーリンにオークを持っていけば、こいつが食えるわけだな」

 イロハの目が輝いた。


「肉は、リブじゃないと駄目だぞ? あばら骨の所だ」

「おっしゃ! ここは4層だから、ちょうどいい。オークを狙おうぜ!」

「うんうん!」

 イロハの言葉にサナが真剣に頷いている。


「スペアリブというか、焼き肉も美味かったぞ」

「なんだよ~ダーリン! あたいも呼んでくれよ~!」「私も呼んでください!」

「ははは」

「チクショー! オークを仕留めればいいんだな」

「内臓をぶちかますと駄目だぞ」

「わかってる」

 本当に、オークが食いたいようだ。


「運良くオークが湧けばいいがな」

「やるっきゃないぜ!」

 イロハが拳を鳴らした。


 しばらく待っていると、列車の連結作業が完了したようだ。

 少し列車をバックさせて、給水所から水をいれる。

 この水は、ダンジョンから湧いたものだ。


「「「おおお~っ!」」」「もうできたのか?」「アイテムBOXのオッサンのお陰だろ?」

 見物していた冒険者たちが沸く。


「いいよなぁアイテムBOX……」「俺もほしい」

「桜姫やエンプレスとも仲間だし……」「ハーレムやん」

 俺もそれなりに有名になったか。

 なんか聞こえてくるが、無視する。


 水の入れ始めから、女性の魔導師が水を温め始めた。

 沸騰するまでには、少々時間がかかるだろう。

 小野田さんがやって来た。


「丹羽さん、作業員たちの私物を出していただけますか?」

「ほいきた」

 出てきた荷物の山から、それぞれが自分のものを見つけていく。

 食料や水筒に入った水などもあるようだ。


「あの、ダイスケさん」

 サナが俺の所に来た。


「なんだ? 食い足りないか?」

「いいえ、機関車の温めを手伝ったほうがいいですか?」

「う~ん、そのほうが早く仕事が終わりそうだが、魔法を使ってもお金は出ないぞ?」

「温めの魔法ぐらいいいですよ」

「おお~、高レベル冒険者は余裕っすねぇ~」

「その言いかた、なんか嫌……」

 サナが俺の言葉に、むくれた。


「おっと、スマン」

 ちょっと嫌味っぽかったか。

 オッサンは駄目だな。


 彼女が、機関車の所に向かう。

 女性が仕事を取られるかもと、警戒したりしないかと思ったが、そうでもないらしい。

 まぁ、この路線が開通すれば、また仕事にありつけるわけだし。

 今日だけだ。


 さすがに2人でやると、すぐにお湯が沸き、出発できるようになった。

 新品の機関車から、しゅうしゅうと蒸気が出始める。


「あ、そういえば、誰が運転するんだ? 機関士はいなかったようだが……」

「俺が運転するっす!」

 若い男が手を上げた。


「若いのに免許取ったのかい?」

「色々と、仕事があるっすからね~」

 彼の話では、甲種蒸気車操縦者試験ってのがあるらしい。


「作っている場所でも動かす必要が出てくるだろうしなぁ」

「そうっす。あと、ボイラー免許も取ったすね~」

「マジか、大変だな」

 彼が運転席に乗り込んだ。

 客車には、作業員たちも乗り込む。


「それじゃ、俺は現場に先に行って、明かりの印を点けておくよ」

「よろしくお願いするっす!」

 若いのに感心だな。

 今の子はなにもない世代で苦労したからなぁ。


「姫たちも乗っていっていいぞ」

「あの男と一緒なんて御免だ」

「あはは、あたいも遠慮しておくかね~」

「それじゃ、また自転車で俺は走っていくよ」

 アイテムBOXから、自転車を2台出すと、1層の同じ組み合わせで走り出した。

 慣らしも終わってない機関車の運転はゆっくりだ。

 いちおう、線路の状態は確認してあるらしいが。


 暗闇の中を走り、現場に到着した。

 線路が途切れて、ひっくり返った機関車と客車がそのままになっている。

 幸い、魔物は湧いていないようだ。


「今日はいないようだな」

「あの畜生どもか?」

 そう、ハーピーたちだ。

 彼女たちの魔物レーダーは頼りになる。

 まぁ、今回は5人いるし、死角はないと思うが……。


「カオルコ、明かりを頼む」

「はい」

 彼女の魔法で、線路の上に青い光が浮かんだ。

 これなら、ちょっと離れた場所からでも解るだろう。


「さて、機関車を回収するって話だったが、勝手にやっちゃマズいだろうな……」

 どうしたもんかと考えていると、けたたましい音を立てて機関車がやって来た。

 金属を擦る甲高い音を出して、停止する。


 客車から、作業員たちが降りてきた。


「は~、話に聞いていたが、派手に逝ってるなぁ……」

「まったく、アイテムBOXの人がいなきゃ、どれだけ時間がかかるか」

 作業員たちの所に行く。


「荷物を全部出そうか?」

「はい!」

 工具や材料、レールと枕木を収納から出して並べた。


「ありがとうございます」

 やっと作業が始まるのかと思ったら、集合写真や作業の詳細を書いた看板を置いて、現場の写真を撮っている。

 これも公共事業だからな。

 大変だな。


 それが終わると、作業員たちが地面に糸を張り始めた。

 枕木を揃えて置くための準備だろう。

 アナログだなぁ――電子機器がまったく使えないから、仕方ないが。


「小野田さん~」

「はい」

「とりあえず、壊れた機関車は収納していい?」

「はい、お願いします!」

 修理して再利用するんだろう。

 ほとんど、手作りみたいなものだろうし。


「機関車は回収っと」

 そのあとも、作業員の姿を見守る。

 5人の高レベル冒険者を四方に配置して、魔物の湧きに備えた。


 めずらしく湧かないようだと思っていると、上から鳴き声が聞こえてくる。


「ギャギャ!」「ギャー!」

「来たか」

「なんだ?!」「作業中止!」

 突然のできごとに、作業員たちが、動揺している。


「あ、ちょっとまってくれ、そのまま! そのまま!」

 静かになると、暗闇の中からぴょんぴょんとハーピーたちがやって来た。


「ギャ!」「ギャー!」

「来たな、チョコ食うか」

「ギャ!」

 彼女たちにカロリーバーをちぎってやると、なんだか後ろが騒がしい。


「あの魔物は、丹羽さんに慣れているから、大丈夫みたいなんですよ」

「そんなわけがあるか! あれは魔物だぞ!」

 小野田さんと、あの男が揉めている。

 それだけならいいのだが、男がハーピーたちに向けて石を投げ始めた。


「こらこら! やめろ! 鳥の形をしているが、4層の魔物なんだぞ」

「ギャー!」「ギャー!」

 人慣れしているとはいえ、石を投げられたら、そりゃ怒る。

 ハーピーたちが翼を広げて、男に向けて攻撃を始めた。

 助けてやるつもりもないが、面白そうだから動画を撮るか。


「ぎゃあぁぁ!」

 するどい鈎爪が男を襲う。


「ギャー!」「ギャーッ!」

 それだけならいいのだが、大量の白いものが男にぶっかけられた。


「うわぁぁぁぁ!」

 男が頭からペンキをぶちまけられたようになる。

 ペンキならマシだったよな。


「あ~あ、いわんこっちゃない……」


 姫も食らった、ハーピーの糞攻撃だ。


  

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