96話 本物がやって来た
ダンジョン内で脱線転覆してしまった鉄道の復旧工事を手伝うことになった。
その打ち合わせをするために、責任者の役人が来ることになっていたのだが……。
いつの間にか、暗殺者にすり替わっていた。
まぁ、なんということでしょう。
それと呼応するように、ホテルにテロリストが襲ってきた。
ホテルや学校にテロリスト!
これは、厨二設定がはかどる設定!
――などと、ふざけている場合ではなく、不届き者の敵を殲滅した。
このホテルに俺がいると、また襲われるんじゃないのか?
ホテルから出たほうがいいんじゃないかと、ホテルの支配人に相談したら、問題ないらしい。
今までどおり、滞在することになった。
――そのまま夜になって、いつものように食事をしていると、突然ドアが開いた。
「サクラコ! 大丈夫なの?!」
ノックもせずに入ってきたのは、姫の姉のカコだった。
「見れば解るだろう……」
ニコニコしていた姫が、突然不機嫌になる。
「いらっしゃいませ、カコ様。なにかご用意しましょうか?」
カオルコはいつもの対応。
「いらないわ」
そう言うと、カコが俺の所につかつかとやってきた。
「こんばんは、お義姉さん」
「あなたがいるから、サクラコが危険な目に遭うんでしょ?!」
俺が立ち上がると、彼女がいきなり殴りかかってきたので、さらりと躱す。
俺のレベルなら、彼女に殴られても蚊に刺されたようなものなのだが。
「なにをする!」
姫がカコと俺の間に割って入った。
「こんなオッサンがいるから!」
カコが俺を指す。
「危険がなんだというのだ? 冒険者なら、危険は当たり前。むしろ、そのヒリヒリとした死と隣り合わせの瞬間が! それから抜け出したときに合わせる肌の感触が! ダーリンとの愛の証しなんだ!」
ちょ、ちょっと――めちゃ嬉しいけど、愛の証しとか……オッサンにはちょっとツライ。
いい歳して、顔がホカホカしてしまう。
「ぐぬぬ……」
あ、姫の断言の前に、立場がなくなったカコがちょっとぐぬぬしてる。
「いるかー!」
また、ドアが勢いよく開いた。
見れば今度は、イロハだ。
「ノックぐらいしなさいよ」
「ははは!」
俺に言われても、反省している様子は皆無だ。
「ちわ」
イロハの後ろから、彼女の妹のカガリが顔を出した。
「カガリちゃんまで」
「ノックなんて――あたいとダーリンの仲じゃねぇか! それよりも、桜姫がテロリストにやられてくたばったって聞いてやって来たぜ!」
「あいにく、まだ生きてるぞ」
「ははは! よっしゃ! ――というわけで、やろうぜ!」
彼女が革ジャンを開いた。
そこには、例のマイクロビキニの装備だ。
「ぎゃあ! なによ、その格好は!?」
ちょっとイロハのギリギリ過ぎる格好は、カコには刺激が強いのかもしれない。
「なんだ、桜姫のお姉ちゃんじゃねぇか」
「え?! そっくり! 桜姫さんって、双子なんだ」
カガリがカコを見て驚いている。
「そうなんだよ」
「おう! それじゃ、お姉ちゃんも一緒にやるか?!」
「しません!」
カコが横を向く。
「ははは! さて、それじゃやるか!」
「お前は、それしかないのか!」
イロハの行動に、思わず姫のツッコミが入る。
「そうは言うが――浅層で小遣い稼ぎをしている連中はともかく、あたいたちはダンジョンに潜ったら今日にも死ぬかもしれねぇ」
「まぁ、高レベル冒険者が深層にアタックするということは、そういうことになるなぁ」
「そう考えたら、もうやるしかねぇじゃねぇか!」
「う~む、オガの言うことも解らんでもない」
「そうだろ?! ダンジョンで生きるか死ぬかってあとに、ダーリンと一発やると、生きてるって実感できるんだよ」
「なんか、姫と同じことを言ってるぞ?」
俺の言葉に、姫がちょっとショックを受けている。
「こんなやつと同じ思考だとは……」
「わはは! でも、高レベル冒険者ってのは、皆似たようなもんだろ!」
笑いながら、イロハが革のズボンを脱ぎ捨てた。
マイクロビキニはつけているが、ほぼすっぽんぽんのぽんだ。
「ぎゃあ!」
その格好に、カコが真っ赤になって悲鳴を上げた。
「ほら、ダーリン」
イロハが俺を頭の上に持ち上げた。
背の高い彼女に持ち上げられると、天井にぶつかりそうだ。
「――しょうがない。そういうわけで、カコはお帰りください」
姫もイロハに押されて諦めたのか、姉を玄関ドアに向かって押し始めた。
「なにが、そういうわけなのよ! もうちょっと姉を敬いなさい」
「はいはい、解った解った」
姫がカコを部屋の外に押し出した。
「お姉さんは、姫が心配だから飛んできたんだろ? いいのかい?」
「いつものことだし、キリがない」
そんなわけで、また皆で無制限1本勝負になってしまった。
これでいいのか?
――テロリストにホテルを襲われた次の日。
ベッドの上と下は、白目を剥いた女たちで覆われているので、1人で起きて朝飯を食っていた。
食事しながら、ネットに目を通す。
相変わらず、俺のアップした動画はすごい再生数だ。
それはさておき、ダンジョンニュースに、ホテルの事件のことが載っていた。
こちらに取材などは来ていないので、警察発表のものをそのまま流したのだろう。
テロリストの目的が、俺だとは書いていない。
俺も映像を撮ったが、こいつはネットに載せる気になれない。
相手が魔物ならいいが、普通の人間だからな。
――ニュースのコメント欄を読む。
「ホテルにテロリストか~」
「特区も有名になったもんだなw」
「人の集まるところを狙うってのは、テロリストの基本よ?」
「人混みに車で突っ込むとかあるけど、特区じゃ車は禁止だしな」
「あのホテルには、桜姫がいるだろ? テロリストごとき瞬殺じゃね?」
「対応したのは自衛隊だと書かれているけどな」
「宿泊客のネットの書き込みから、爆発物も仕掛けてあったと書かれていた」
「マジでテロリストやなw」
情報が少ないので、あまり盛り上がっていないようだ。
それより、珍しい魔物のほうがアクセス数が上がるのだろう。
スマホが鳴る――見れば、総理からだ。
「おはようございます」
『おはよう――いやぁまいったよ……』
向こうから大きなため息が聞こえてくる。
「どうしました?」
『いやな、八重樫グループからな……』
「ああ、でも私がホテルを出ようとしたら止められましたけど。ホテルにはマイナスにはなってないようで」
『こちらは、板挟みだ……』
「ご愁傷さまです――それより、暗殺者に入れ替わられていた小野田さん? って人は見つかりました?」
『ああ、見つかったが、大丈夫だったよ。ショックを受けている様子だったが』
「総理と今回のことを話した直後に、入れ替わり発生とか――スパイとか内通者とかいるんじゃないですか?」
『もちろん、そっちでも内偵中だ』
「この通信が盗聴されているとか?」
『可能性は低いと思うがなぁ……』
「獅子身中の虫か~」
『まったく頭の痛いことだよ』
改めて、ダンジョン鉄道の復旧工事の責任者として、役人が来るらしい。
それから、ホテルに自衛隊の部隊が駐屯するという話だ。
これを正式に発表すれば、まとまった戦力が待ち構えている所に突撃してくるやつらはいなくなるんじゃなかろうか。
そう願いたいところだ。
相手が冒険者なら、俺と姫が出ればいいしな。
外国の冒険者のレベルがどうかは解らないが、ググったところでは、特区のダンジョンが一番攻略されているっぽいし。
おそらく、俺、サナ、姫、カオルコ――ここらへんが、世界最強メンバーってことになるだろう。
ネットを見ていると、デカいTシャツワンピースを着たカオルコが起きてきた。
俺の所にやってくると、背中にひっついている。
「朝飯食うか?」
「……」
まだ寝ぼけてるっぽい。
しばらくしていると、皆も起きてきたので、飯の用意をした。
皆がTシャツワンピースを着ているのだが、イロハだけマイクロビキニに革ジャンという格好。
その格好はヤバいだろう――と、思うのだが、ここにいるのは俺たちだけだしな。
「は~、今日もひでー目にあった」
イロハは意気込んで望んだわりには、すぐに爆沈した。
アイテムで体力回復しても、あっちには関係ないということか。
俺も、相手の反応を見て弱点が色々と解ってくるからな。
攻略法が色々と増えてくるし。
「それなら、ここに来なければいいだろ?!」
「は~、ここの飯は美味くていいねぇ」
イロハが話を逸らした。
「ゴーリキだって稼いでいるだろ? ギルドで食事の専用のスタッフを雇ったらどうだい? 若い子や駆け出しの子も助かるだろ?」
「そうなんだよねぇ」
一応、考えていそうではある。
「ダイスケさん、今日の予定は?」
カオルコが予定を聞いてきた。
「総理と話したら、本物の工事責任者が来るみたいだよ」
「その人は無事だったんですね」
「みたいだね」
「ダーリン、総理って日本の偉い人だろ? なにを話したんだよ」
イロハは、俺がなにをするのか気になっているようだ。
「まぁ、守秘義務はあるだろうが――4層の鉄道がひっくり返ってしまったろ?」
「ああ」
「あの復旧工事を手伝うことになった」
「ああ、ダーリンのアイテムBOXを使ってってことか」
「そういうこと」
「冒険者としても、あれが復旧してくれないと困るものなぁ」
イロハの隣に座っているカガリも頷いている。
「政府的にも困るようだよ」
「なるほどねぇ」
「カガリちゃんは、なんでお姉ちゃんにつき合って、ここに来てるの?」
「え?! は? あ、あの……」
彼女が赤くなっている。
「私のダーリンだぞ……」
姫がカガリを睨んだ。
「ははは! ダーリンは、みんなの共有財産ってことで」
「私のダーリンだぞ!」
姫の睨みも、イロハには通じないようだ
俺と勝負して、飯を食ったことで満足したイロハは、本拠地に帰るという。
「ダーリン、なにか困ったことあったら言ってくれよな。あんたにはデカい借りがあるんだから」
「まぁ、そのうちな」
「ペコリ」
カガリが礼をすると、お姉ちゃんと一緒に帰っていった。
「カガリなら、モテそうだがなぁ。なにも俺みたいなオッサンじゃなくても」
「む~!」
そもそも、姫がイロハならOKって余裕をかましてたから、どんどん増える羽目になっているような。
10時になると、俺のスマホに連絡が入った。
今日やって来るという、工事責任者からだった。
名前は、小野田のまま。
入れ替わったときに、名刺などを拝借したんだろうか?
すでに特区に入っているようなので、すぐに来るだろう。
飲み物などを飲みつつしばらく待っていると、フロントから電話が入った。
――のだが、混乱している。
「どうしました?」
「あの~昨日、騒ぎを起こした人が……」
「ああ、昨日の人はニセモノで、その人は本物らしいので、通してあげてください」
「は、はい、かしこまりました」
フロントが混乱するってことは、顔も似ているのだろうか?
待っていると、ベルが鳴った。
「は~い」
出ると、いつも案内してくれるお姉さん。
その後ろには紺色のスーツ姿の女性。
黒縁メガネで、黒い髪を真ん中からぴっちりと分けている。
なるほど――これなら同じ人に見えるかもしれない。
よく見れば違うのが解るが、この人を見た第一印象は、黒縁メガネと真ん中分けの髪型だろう。
「小野田さん?」
「は、はい……このたびは大変ご迷惑を……」
「いやいや、事故に巻き込まれたようなもので、そちら様は悪くないですから」
「は、はぁ……」
彼女を中に招き入れた。
「カオルコ、コーヒーとケーキでも頼んであげて」
「はい」
「どうぞ、お構いなく……」
やっぱり、このひとは普通の女性だ。
身のこなしも武術をやっている風でもない。
あのときに感じた俺の直感は間違ってなかってことだな。
ただ、より真面目そうに見える。
ものすごく堅いタイプだろうか。
原発の仕事の晴山さんもそうだが、女性でも現場に出る時代か。
世界が静止してから、人材不足だからな。
能力があれば、性別は関係ない。
最たる例が、ダンジョンに潜る冒険者だが。
「原発の仕事も現場の責任者は女性でしたが、美人と仕事ができるのは嬉しいですねぇ」
俺の言葉に彼女のメガネが光る。
「それはセクハラですか?」
「おっと、失礼。そんなつもりではなく、個人的な感想だったのですが……」
「お気をつけください」
彼女がメガネをクィっと上げた。
堅い、堅すぎる。
仕事に専念したほうがよさそうだ。
「失礼いたしました」
頭を下げる。
「今、お話に出たのは、資源エネルギー庁の晴山ですか?」
「え? ああ、そうです。お知り合いですか?」
「帝都大の同期です」
彼女がまたメガネを上げた。
なんだろう――同期でライバル視しているとか?
「さすが、省庁に入るとなると、いい大学を出ていらっしゃる。私なんて高卒ですよ、ははは」
「私なんて中卒だぞ」
「私もです」
「君らは、中学卒業と同時に家出して冒険者になったからだろ。俺の場合は、世界が静止する前の話だからな」
そんなことより、仕事の打ち合わせをする。
諸々の事情の説明を受けていると、コーヒーとケーキもやってきた。
「丹羽さんから、なにか懸念材料はございますか?」
「そうですねぇ――総理にもお話したのですが」
「はい」
「私のアイテムBOXは10mのものしか入りません。脱線した客車は20mほどあった気がします」
「そうですねぇ。改造はされていますが、一般的な客車の流用ですから、全長は20m弱のはずです」
「機関車は小型のタイプだった気がしたので、入りそうですが、客車は無理ですねぇ」
「私が、真ん中からぶった切ればいいだろ?」
姫が横から割り込んできた。
「運び出すとしたら、やっぱりそれしかないかなぁ……」
「現場に転がしておいても、作業や運行の邪魔になるでしょうから」
機関車や客車の運び込みは、今までどうやっていたのだろう。
小野田さんに聞いてみた。
「1層から走らせて運び、下層に繋がる連絡通路に仮設の線路を敷いて降ろしてます」
「えらい手間だなぁ。ダンジョンの所まで運んでくる手間もあるわけでしょ?」
「はい、クレーン船と、大型トレーラーですね」
「俺が入れば、羽田でアイテムBOXを使えば、それもなくなるわけか……」
「そのとおりです! それだけ丹羽さんの能力はすごいんですよ!」
「どこかの国に捕まったら、死ぬまで奴隷として働かされそうだな」
「可能性はありますねぇ。国としても、丹羽さんの能力を使えなくなると、国家的な損失となるわけで……」
「すでに、原発事故跡地の片付けを終えてしまったからなぁ」
「そうですよ! 本当なら、あれはあと数十年はかかる事業ですから!」
「でも、その数十年分の利権を潰してしまって、俺を恨んでいるやつらも多いだろうな~」
ホテル襲撃事件で、情報をリークしたやつらは、そういう連中か?
まったく、自分らの儲けより、政治家なら日本のことを考えてくれよ。
まぁ、無理か。
「そ、それは……ゲフンゲフン」
彼女もそっち側の人間なので、口を滑らせないか。
「それじゃ――新しい列車は、10mの客車と10mの貨車に分けてもらえば、一発で終わるな」
「それはすごいです!」
「そうそう、レールも10mにしてもらわないと運べない」
彼女の話では、レールも基本は20mほどの長さらしい。
「元々、低速の鉄道なので、レールが短くても問題はないはずです」
破損したのは一区間だけだからな。
「よし、おおよその仕様は決まったかな」
「ありがとうございます! それでは――すぐに戻って、事業計画を練りますので。それと、各所への根回しですね」
「あ~、やっぱりそういうのがあるんですね?」
「仕事は段取りが8割でございます(キリ!」
彼女のメガネが光った。
ヤベー、めちゃスゲー仕事ができそうな人だ。
俺みたいな、ちゃらんぽらん(死語)なオッサンと組んで大丈夫なのか?
「小野田さん」
「はい!」
「ケーキ、どうぞ」
「あ! ありがとうございます……」
なんだか、彼女が赤くなっている。
事業を成功させてる晴山さんをライバル視して、から回っているとか?
ダンジョンの中は結構厳しいからなぁ。
大丈夫だろうか?
心配だが、冒険者だけじゃ鉄道の復旧はできないし。
やってもらうしかないよな。
「それで、現場の確認はいつにしますか?」
「む……むぐ……あ、明日にでも!」
ケーキを食べていた小野田さんが慌てている。
甘いものが好きそうなところは、女性らしい。
「明日で大丈夫ですか?」
早いな――まぁ、現場監督と現場の確認だけだろうし。
「姫、明日は大丈夫?」
「いつでも問題ないぞ。私はダーリンと一緒だからな」
「大丈夫です」
「これから帰って、すぐに予定を立てますから、大丈夫だと思います。正式に決まりましたら、ご連絡を差し上げますので」
「承知いたしました」
そのまま小野田さんが帰り、夜遅くに連絡が入った。
『朝一で現場監督と一緒にお伺いいたします』
「待ち合わせ場所はどうしましょう? ダンジョン前の自動改札の所でよろしいですか?」
『それで問題ございません』
「ダンジョンに潜る際には、役所の許可がいるのですが……」
『それも問題ございません』
「それでは、明日の朝に」
『よろしくお願いいたします』
こんな夜遅くまで仕事か。
公務員も大変だな。
――役人の小野田さんがやって来た次の日。
姫たちとダンジョンに潜る準備をすると、冥界への入口にある自動改札の所に向かった。
ホテルを出て3人でダンジョンに向かう。
「サナも呼んだほうがよかっただろうか」
「4層なら、その必要はない」
姫はにべもないが、4層ならという条件があるってことは、より深層ならサナの力も必要だと認めているわけだ。
ホテルの前にはたまに、姫目的のグルーピーのような連中がいるのだが、遠巻きに撮影したりしているだけ。
いつ出てくるか解らんのに、こんな場所でずっと待っているのか。
ダンジョンの外では、深いローブを纏っているので、撮影しても面白くないと思うが。
そういうのはどうでもいいのか?
待ち合わせ場所に到着すると、すでに小野田さんと中年の男性、若い男性が2人。
黒いバックパックを背負い、測量道具のようなものを持っている。
両者ともに、白いヘルメットとグレーの作業服の上下。
さすがに、スーツは無理か。
ヘルメットにはライトがついているのだが、もちろん普通の電灯は使えない。
ケミカルライトタイプだろうか?
首からは、透明なケースに入った許可証のようなもの。
これが、仮免代わりになっているのか。
若い男性が現場監督らしい。
「丹羽です。現場監督にしては若い方ですね」
「いやぁ。世界が静止したときに、ベテランが沢山亡くなってしまったので……私たちのような若輩でも駆り出されまくりですよ」
そういえば、晴山さんも小野田さんも若いよな。
今や、日本も若い人がメインになって引っ張っていく時代になったってことだ。
「今日の護衛、私を含めて3人ですが、全員トップランカーなので、大船に乗ったおつもりで」
「ギルド桜姫の面々とご一緒にお仕事できるなんて、光栄です」
姫は有名人なので、やっぱり知られているらしい。
まぁ、堅物っぽい小野田さんも知っているみたいだし。
親父に聞いた、昭和のアイドルや野球選手並だな。
「よろしく」「よろしくお願いいたします」
姫とカオルコが、軽く会釈をした。
まぁ、俺と違って、姫たちは本当に護衛の仕事だけだからな。
「その3脚ですか? 私のアイテムBOXに入れますよ。重たいでしょう」
「あ、ありがとうございます」
作業員たちの持っている荷物も、全部アイテムBOXに入れた。
「「「おおお……」」」
消える荷物に、彼らから驚きの声が上がる。
いつもの光景だ。
「さて、行きますか」
「は、はい」
小野田さんは緊張しているようだ。
「小野田さん、ダンジョンは初めてですか?」
「はい」
「中で魔物を倒してみます? もしかして、冒険者特性があって、魔法とか使えるようになるかもしれませんよ」
「ま、魔法は使ってみたいと思いますけど、生き物は……」
「なるほど、無理にとは言いませんよ」
まぁ、抵抗があるのが普通なんだよなぁ。
俺はダンジョンに入る前から、山で狩りをしていたし、今やなんの抵抗もなくなってしまっていたが。
ダンジョンのエントランスホールに入る。
「ここがホールですか、明るいんですね」
「光ファイバーで、外から光を引いてますからねぇ」
今日は狩りが目的じゃないので、皆でダンジョン鉄道に乗る。
さすがに、1階層は人が多い。
無事に終点に到着した。
蒸気エレベーターに乗って、2層に向かう。
「脱線したのが、4層でよかったな。あんな満員の列車が脱線転覆したら大災害だ」
「報告は受けたのですが、なんらかのダンジョントラップに巻き込まれたとか?」
「ええ、強力な魔物が出現して、そいつらを倒さないと元に戻れないトラップですね」
「あんなのが浅層に現れたら、一瞬で全滅だ。私たちだって、ダーリンがいたお陰で助かったようなものだし」
姫が小野田さんに説明をしている。
「サナのお陰でもあるぞ」
「うぐ……」
彼女が言葉に詰まった。
「鉄道のルートを変更したほうがいいのでしょうか?」
「今までは平気だったので、ランダムで出現――みたいなイベント的なものではないでしょうか?」
「はぁ」
話しているうちに、2層の鉄道駅に到着した。
このまま4層を目指す。