94話 暗殺者
サナは、ダンジョンから離れても魔法が使える。
この力は大きい。
普通の魔導師は、ダンジョンから離れると魔法が使えなくなるのだが、例外がある。
紋章隊と言われる執行機関がそうだ。
普通の警察が手に負えないような事件や犯人の取り締まりを行う。
彼女の力がバレたら、そういう所からスカウトが来るのではなかろうか?
一応、サナにもその話をしてみたのだが、彼女は興味はなさそうだ。
あくまで冒険者を続けたいらしい。
その冒険者稼業も、ダンジョンで仕留めたエメラルドドラゴンで、かなりの稼ぎになるのではなかろうか?
実際に口座にお金が増えたら、彼女はどうするだろうか?
大金を持った途端に、身を滅ぼす者は少なくない。
大人として、彼女にアドバイスができるだろうか……。
いや、金の使いかたなら、カオルコに聞いたほうが確実だと思う。
外注に出していた、ダンジョンでの戦闘を収めた動画も、編集が終わって納品された。
早速アップすると、すぐにカウンターがものすごい勢いで回り始めた。
コメント欄も賑わっている。
――ヘルハウンド(仮)の動画のコメント。
デーモンは、ほぼイロハだけで倒してしまったので、動画は撮っているがアップしていない。
外注さんに渡したのは、戦闘シーンだけで、あの空間の景色などは渡すのを止めた。
一応、魔物を倒さないと抜け出せない空間に閉じ込められた――と、書いてある。
『燃えてるぞ!?』
真っ赤に燃えて、天井まで炎が届いている魔物の様子がしっかりと写っていた。
『ぎゃぁぁぁぁ!』
『こんな魔物がいるのか?』
『ヘルハウンドって書いてあるが……』
『(仮)だから、まだ正式に名前がついていないんだろ?』
『なにが起きた?!』
俺が、アイテムBOXから出したタンクを落としたシーンは、上手く写っていなかったようだ。
炎で隠れてしまった。
『魔法?!』
『すげぇぇぇ!』
『チェインライトニング?!』
『アイテムの魔法らしいな』
『火が消えたら、頭は2つ?!』
『うお! 首を一刀両断』
やっぱり、初見の魔物が出ると、動画のカウンターがバンバン上がる。
英語のコメントも多いので、海外からのアクセスも多いようだ。
『こんな魔物を倒さないと、出られない部屋とか、無理ゲーすぎるだろ!』
『S◯Xしないと出られない部屋だったら、いいのに……』
そんなの男しかいなかったら、どうするんだよ。
このヘルハウンドより、更に再生数が多いのが、エメラルドドラゴンの動画。
もう、ギュンギュンカウンターが回っている。
『これが、市場で目撃されたという、エメラルドドラゴンか?!』
『すげぇぇぇ!』
『こんなの初見でどうやって倒すのよ?!』
『本物のエメラルドなの?!』
ここで、ドラゴンの両脇から姫とイロハが切りかかった。
『桜姫とゴーリキーのオーガ?!』
『まったく、攻撃が通じてない』
『こんなの無理ゲーだろ?!』
そこに、俺が投げた魔石が爆発した。
魔力を込めた魔石が武器として使えると解ったのは、僥倖だったな。
物理攻撃、魔法攻撃、両方に使える。
魔石は売るだけで、中々よい使い道がなかったが、利用価値ができた。
迷宮教団のあの女が生きていたら、今度投げつけてやろう。
一発で仕留められるかもしれない。
『爆発したぞ?!』
『魔法か?! 爆裂魔法?!』
『詠唱してなかったから、違うんじゃないか?』
『未知の魔法かもしれん』
ここで、サナの魔法が炸裂した。
俺たちが閉じ込められた空間では、魔法が使えなかったのだが、この動画からはそれは解らない。
『また、爆発?!』
『いったい、なにをやっているのか解らない……』
『これが高レベル冒険者の戦闘か……』
『理解不能だ』
サナの放った圧縮光弾は、針のように細い魔法――エメラルドドラゴンのキラキラもあるし、見えなかったのかもしれない。
『また、爆発!?』
『めちゃ、綺麗!』
『すげぇぇぇ、キラキラ!』
エメラルドの破片が魔法によって吹き飛ばされて、キラキラと舞っている。
映画でいうところのクライマックスシーンだが、上手く撮れている。
マジでマグレだ。
狙って撮れと言われても、無理だし。
『すげぇぇぇぇぇ!』
『おっぱい! おっぱい!』
俺の前に出た、サナの下乳が見えた。
カメラがいいから、しっかりと綺麗に写っている。
『おっぱい! おっぱい!』
以下、延々とおっぱいが続いている。
すごい盛り上がりだ。
まぁ、確かに――自分で言うのもなんだが、今回はすごい動画が撮れたと思う。
こっちは理由の解らん空間に閉じ込められて、命懸けだったが。
いやマジで、普通の冒険者だったら即死ものだろう。
動画のコメント欄を読んでいると、スマホに連絡が入った。
総理からだ。
ホログラムの通信機を使いたいらしい。
「カオルコ、ホログラムの機械を使うよ。総理から連絡らしい」
「解りました」
機械の使いかたは習ったので、自分でセットアップできる。
その間、カオルコがカーテンを引いて、暗くしてくれた。
「よし――『こちらの準備ができました』送信っと」
すぐに通信が始まった。
一応、撮影をしておく。
あの総理が、言った言わないのトラブルになるとは思えんが。
暗い部屋に、机を前にした総理と、もう1人オッサンがいる。
たしか、なにかの大臣だったと思う。
「ご無沙汰しております――総理」
『急な連絡で、悪いね』
「総理から連絡ってことは、仕事の話ですかね?」
『そのとおりだよ。ダンジョン内で運行している列車が脱線転覆したという話は?』
「ああ、知ってます」
総理は、俺が当事者だということを知らないらしい。
まぁ、こちらから言う必要もないだろうが――彼が頼みたいという仕事の察しがついた。
『その復旧に、君のアイテムBOXを使ってほしいんだよ』
「そういうお話が来るんじゃないかな~とは思ってましたが……」
『それなら、話が早い』
「いやいや、アイテムBOXにも弱点もあるんですよ?」
『弱点?』
「大きさは10mぐらいのものしか入りません」
『なるほど……』
総理が考え込んでいる。
「機関車は小型でしたが、客車は20mぐらいあったような……あれはどうやっても入りませんよ」
『それは、こちらでなんとかする。半分にして、現地で結合するとかな』
「う~ん、解りました――それと、鉄道関係の利権のほうは大丈夫ですか? お隣の偉い方が、渋そうな顔をしてますが」
『彼は、国土交通大臣だよ』
「ああ、どうりで見たことがあると」
『うぐぐ』
本当に苦虫を噛み潰したってこういう顔なんだろうか。
『利権などより、早急にダンジョンの鉄道を復旧させねばならん! いまや、特区のダンジョンは首都の生命線だからな』
彼は真剣で、本当に事態は切迫しているようだ。
日本の物流が麻痺している状態で、東京湾で物資が取れる――こんな素晴らしいことはない。
それが止まるということは――そういうことだろう。
「それで、予算のほうは……?」
俺は指で輪っかを作った。
『通常なら、復旧に1億といったところだろうが――それじゃいつになるか解らん!』
「なにせ、ダンジョンの中は魔法で動く蒸気機関と人力ですからねぇ」
『そのとおりだ! だが、君のアイテムBOXがあれば、すぐに復旧できるだろう?! 早さがなにより優先だ』
「まぁ、早さは間違いなく、最速でしょうねぇ」
『ダンジョンからの物資の供給がストップすると、次の選挙にも多大な影響が出る!』
要は、票のために国民にゴマをすりたいわけだろうが、ダンジョンのせいで混乱が広がると、それが現実になる。
結果的に、総理の隣に座っている大臣も影響を受けるかもしれない。
代議士なんて選挙に落ちたら、ただの人だからな。
『それを君に頼みたい!』
「ダンジョンの4層で長時間作業することになるので、作業員の護衛も必要になりますけど」
『それは君に頼みたい。我々には伝がない。あとから経費で請求してくれ』
「それじゃ、基本の報酬が1億で、冒険者を雇ったりして、かかった経費はあとから請求と――」
機関車代とか客車代は、政府持ちだろうし。
『そのとおりだ』
「それでは、お引き受けいたします」
『ありがたい! すぐに現地に責任者を送る』
「承知いたしました」
通信が終了した。
責任者ってことは、国交省の役人だろうな。
資源エネルギー庁の晴山さんみたいな人か。
原発跡地での仕事のように地方ではないので、すぐにやって来るだろう。
「やっぱり、来ましたね?」
カオルコがニヤニヤしている。
「まぁな。どう考えても、俺に頼んだほうが早いし。総理の顔を見ると、マジで焦ってるんだろう」
「それにしても、私たちの情報は伝わってないみたいですね」
「いずれは噂が広がっていくんじゃないか? 要らぬことを言って、『お前らが原因だから、タダでやれ!』とか言われそうだったんで、黙っていたけど」
「うふふ、それはあるかもしれませんね~」
ソファーで寝ていた、姫が飛び起きた。
「私も行くぞ!」
「姫が行ってくれるなら、ありがたい。報酬はちゃんと払うよ」
「そんなものは要らないが」
「まぁ、せっかく経費が使えるんだし……冒険者護衛依頼外注費として5000万円ぐらい請求して、みんなで山分けしよう」
「うふふ、お主も悪よのう」
カオルコが笑っている。
「また、カオルコはそんなネタを」
「ふふ」
「なんだそれは! 全然解らないぞ!」
仲間はずれにされたと思っているのか、姫が怒っている。
「普通はオッサンしか、解らないネタなんだよ」
「うう~」
とりあえず、総理が言っていた、「責任者」なる人が来ないことには、なにも進まない。
俺に工事の手配とか無理だし。
姫に動画を観せて、カオルコが言ってたネタの説明などをしていると、連絡が来た。
『初めまして、国交省の小野田と申します。ダンジョン内の鉄道の復旧工事について、ご連絡いたしました』
「どうも、お世話になります。冒険者の丹羽です」
『今からお伺いしてもよろしいでしょうか?』
「はい、どうぞ。私の滞在している所は、ホテルなんですが、場所は解りますか?」
『大丈夫です。総理から伺っております』
「それでは、お待ちしております」
やっぱり、早いな。
国交省ってどこにあるっけ? 霞が関?
千代田区から特区なら、10kmぐらいしか離れてないからな。
「姫、お客さんが来るから、その格好だとマズいんじゃない?」
「わかっている」
すぐに彼女が着替えてきた。
いつものゆったりとした、部屋着だ。
そうしていると、フロントから電話だ。
もう到着したらしいので、ここまで案内してもらう。
入口のベルが鳴る。
ドアを開けると、いつもお世話になっているホテルのお姉さんがいた。
「お客様をお連れいたしました」
「ありがとうございます」
その後ろにリクルートスーツのような紺色に身を固めた女性が1人。
黒いカバンを持ち、黒縁のメガネと真ん中からキッチリと分けられた黒髪が後ろで綺麗にまとめられていた。
真面目を絵に描いたような女性――なんだが。
なんだろう、この違和感は……。
公務員なのに、身のこなし感が只者ではないような。
いや――もしかして、武術をやっている人なのかもしれないし。
女性なら合気道とかな。
「初めまして、国土交通省からまかりこしました、小野田と申します」
「よろしくお願いいたします。冒険者の丹羽です」
中に入ってもらうと、居間で打ち合わせ。
カオルコに、下のカフェからコーヒーとケーキを頼んでもらう。
「すぐにコーヒーが来ますから」
「どうぞ、お構いなく」
彼女がメガネを直すと、レンズがキラリと光る。
なんだか、ザマスキャラみたいな感じだが、喋りかたはザマスではない。
言わせてみたい。
とりあえず、名刺をもらう。
「こちらは、冒険者の桜姫さん」
俺の隣に座っている姫を紹介する。
「存じております」
こんな真面目そうな役人にも名前を知られている姫は、スゲーな。
いや、役人だとすれば、八重樫グループの令嬢だと知っているのか。
「それで、どういう感じで進めますかね~。私は、工事などはまるっきりの素人なので、ほぼそちら様にお任せになってしまうのですが……」
「ええ、それで構いません。工事の手配などは、こちらで進めさせていただきますので」
彼女がカバンから出した、ちょっと大きめの端末で、なにかを確認している。
「承知いたしました」
「まずは、調査のための人員を現場まで派遣いたします」
「なるほど、そりゃそうだ――ちなみに、小野田さんは冒険者ですか?」
「いいえ、違います」
違うのか……。
「それじゃ、なにか武術を嗜んでいらっしゃいます?」
「……いいえ」
明らかに彼女の身のこなしが違うのに、嘘をつく必要はないと思うのだが……。
俺は、ここで彼女に対する警戒を強めた。
「それじゃ、その調査員って方も、一般の方ってことですね」
「そのとおりです。現場の作業員も、全員一般人です」
護衛には、ウチのギルドと知り合いの高レベル冒険者を同行させることを伝えた。
「トップランカーの方に護衛してもらえるのは、大変心強いですね」
「まぁ、工事については素人ですが、護衛のほうは、大船に乗ったつもりでいいですよ」
「ありがとうございます」
入口のベルが鳴った。
コーヒーとケーキが来たようだ。
カオルコが運んできてくれた。
「ありがとう」
俺の言葉に、彼女がペコリと会釈をする。
俺はカオルコのほうを見て、微笑んだのだが――その刹那、向かいに座っていた女が行動に移した。
彼女が、脇から目にも止まらない速さでなにかを取り出す。
続いて、俺に向かって白い軌跡が迫ってくる。
これは攻撃だ。
「おっと!」
俺は、上体を反らしてその攻撃を躱したのだが、イロハと手合わせしたときの攻撃の鋭さに比べれば、まったく遅い。
「ちっ!」
女の目つきが一瞬にして変わった。
それまで穏やかで親しみやすかった瞳は、まるで冷たい刃物のように鋭く尖り、感情という温もりを全て切り捨てたように冷酷さを帯びた。
瞳孔は収縮し、まるで獲物を正確に捉える猛禽類のように狙いを定めたような眼差し。
そこには、ためらいや慈悲の欠片もなく、ただ冷徹な目的だけが宿っている。
無言のうちに、その目は次の瞬間に訪れる破壊と血の運命を予告しているように見えたのだが――。
「なにをするか!」
俺の隣にいた姫の蹴りが、女を部屋の壁まで吹き飛ばした。
勢い余って、彼女が座っていたソファーまで飛ぶ。
「よっと!」
俺は転がったソファーを飛び越えると、女の様子を伺う。
「うう……」
口や鼻から激しい出血をしているが、死んではいないようだ。
ザマスメガネも、どこかに飛んでしまってる。
俺はアイテムBOXからタオルを出すと、女の口にねじ込んだ。
自決されると困る。
こいつは何者なのか?
それが解らんと、今後の俺の行動が変わってくる。
「姫の蹴りを食らって生きているってことは、この女は冒険者かな?」
「もしかして、暗殺者ですか?」
カオルコもやって来た。
さすが、死線を越えてきた高レベル冒険者だ。
動揺もしておらず、平然としている。
「まぁ、多分な」
俺は彼女に返答しながら、女の側頭部に蹴りを入れた。
「ぐあっ!」
これで、脳震盪を起こして、しばらくは動けないだろう。
「まさか、政府が狙ってきたとか?」
「あの総理は、八重樫グループとも関係が深い。それを危うくするようなことをするはずがない」
姫の言うとおりだ。
「そうだよなぁ」
俺を狙うだけなら、いくらでもチャンスがあったし。
ここに来て暗殺者を送り込んでくるのも意味が解らん。
「――ということは、やってくるという役人とどこかで入れ替わったのでしょうか?」
カオルコも平然と分析をしている。
「そうかもなぁ――おい! お前は誰だ?! ここに来る予定だった本物の役人はどうした?」
「……」
当然、まともに話すつもりはないだろう。
まぁ、その気があっても、口にタオルを突っ込んでいるので、話せないとは思うが。
アイテムBOXからスマホを取り出して、女の写真を数枚撮った。
当然、総理に送るためだ。
「え~と、総理が送ると言われた役人に扮した暗殺者がやってきたのですが、あなたの差し金ですか? ――送信っと」
俺が撮った写真も添付する。
「それは、ちょっと直截的なのでは?」
カオルコは駆け引きをするタイプか。
「腹の探り合いは性に合わないからな。手っ取り早く知りたい」
「私も、ダーリンに賛成だ」
「さて、すぐに返答があるかな?」
待っているのも暇だな――そう思う俺の眼の前には、スーツのスカートに包まれた女の尻がある。
鍛えてあるのだろう。
中々いい尻だ。
俺は手を伸ばしてその丸いものを揉んでみた。
「んぐ~!」
女がジタバタしているのだが、脳震盪を起こしているので、まとに動けないだろう。
「脳震盪で、動くと危ないぞ? ははは!」
「ダーリン!!」
「殺されかけたから駄賃をもらっているんだよ、モミモミモミ……」
「私の尻を揉めばいいだろ!」
「いやいや、姫のお尻じゃこういうことはできないだろ?」
俺は女のスカートをめくると、ショーツを降ろした。
「おりゃ! お尻ペンペンペン!」
「あぐ~!」
「悪い子にはお仕置きだ、ははは!」
「ダイスケさんって、こういうことをする人だったんですか?」
「世界が静止した中を生き抜いたオッサンを舐めちゃいかんな。いい子には優しいけど、悪い子にはお尻、ペンペンペンだ!」
「うんぐうう~っ!」
カオルコの白い目を無視しつつ、女の尻を叩きまくって写真を撮っていると、メッセージが入った。
総理だ。
『そんなわけがない! そんな女は知らん! 八重樫グループの令嬢がいるのに、そんな所に危ないやつを送るはずがない!』
「はは、姫の言うとおりだったな」
「それはそうだ」
「解りました。それじゃ、この女を回収お願いできますか? それと、本物の責任者という方も探してやってください」
もしかして――と、いうこともあり得るが、ここでは言わないでおこう。
『解った、すぐに特戦を送る』
「でも、他に敵がいる可能性が――ホテル内で戦闘になるかもですが……」
『承知した!』
総理が慌てているのだが、こちらも準備がいるかもしれない。
「カオルコ、フロントに電話をかけて、自衛隊が来てテロリストと戦闘になるかもと……」
「解りました」
彼女が電話に走る。
カオルコがホテルに事情を話すと、かなり慌てているようだ。
これが杞憂だといいのだが、この女が単独でやってきているとは思えない。
表玄関ではなく、裏口でも屋上でも、非常階段でも、侵入口はいくらでもある。
カーテンも閉める。
上の階から狙われるかもしれないし、動きを察知されるとマズイ。
俺が捕まえた女の上には、アイテムBOXから出した瓦礫を重しに乗せておく。
胸の部分に乗せると窒息する可能性があるから、脚でいいだろう。
手も縛っておく。
冒険者なのは間違いないだろうが、どのぐらいのレベルだろうか?
それが解らないから、加減は解らん。
まぁ、死んでしまっても、そのときはそのときだ。
俺をマジで殺そうとしたやつに、配慮する必要もない。
「姫、カオルコ、部屋の中心へ」
「そうだな」「はい」
部屋の真ん中にあるソファーに座っていると、館内放送が流れた。
『お客様に申し上げます。只今、ホテル内に武器を持った不審者が入り込んでいるという情報が入りました。お客様におかれましては、そのままドアに鍵をかけたまま、廊下に出ないようにお願いいたします』
「それしかないだろうな。今から避難させたりしたら、かえって巻き込まれる可能性がある」
「うむ」
姫が頷いた。
「本当に来るでしょうか?」
「その女が単独でやってきたとは、ちょっと考え難いかもしれない。私設か公設か解らんが軍隊だろうし」
「チーム単位で動いていると?」
「多分、そうだろうなぁ。まぁ、俺の勘が間違っていたら、特戦があの女を回収して終了だから」
それで終わればいいのだが。