93話 取材
イロハの妹を救出した際にゲットした獲物を売りにいった。
案の定というか、市場では大騒ぎに。
そりゃ、全身が宝石みたいな魔物で、しかもドラゴン。
騒ぎになるのは当たり前だ。
買い取りのオッサンも、どのぐらいの値段になるか、皆目見当がつかないらしい。
写真や動画を公開して、オークションで入札を目指すのだろう。
高額買取となれば、一緒に倒したサナの家計もだいぶ楽になるはず。
彼女の祖父もいい施設に入れてあげられるだろう。
世界が静止して以降、社会保障も崩壊して、施設に入れるなんてマジな金持ちだけだ。
体力が残っているなら、ダンジョンでひたすらスライムを潰せば、飯代ぐらいは稼げるかもしれないが。
市場でのドラゴンの売買の話が終わった俺は、サナと一緒に羽田に向かった。
彼女の背中にある模様――こいつで、彼女がダンジョンから離れた場所でも魔法が使える可能性がある。
そいつを確かめなくてはならない。
結果は――サナはダンジョンがなくても魔法が使える。
噂に聞く、紋章隊と同じ力を持っているようだ。
なぜなのか? それはまったく解らない。
魔法の検証が終わった俺は、サナと一緒に特区に戻ってくると、街の中にある、バラックのような茶店に入った。
特区はみんなこんな感じで、洒落た店などはホテルぐらいのもんだ。
「そうだ、ホテルのカフェに行けばよかったか」
「あそこ、高いですし……」
店の中も乱雑な飾り付けで、こういうコンセプトなんだろう。
俺は、コーヒーを頼んだ。
パフェはホテルで食べてしまったし。
「俺のおごりだから、なにを頼んでもいいぞ? ケーキは?」
「あ、はい」
遠慮しているみたいなので、俺が頼んでやった。
「今後、どうするか? キララたちと話し合ったかい?」
「はい、私が上位ギルドと遠征をするときには、キララさんがメンバーを引っ張る感じに……」
もうサナのレベルになってしまったら、中層辺りでウロウロしていても、レベルには影響なくなってしまっている。
それどころか、もたもたしているとレベルが下がってきてしまう。
レベルを維持するためにも、ひたすら深層にアタックするしかない。
キララもそれは理解しているだろう。
まぁ、俺も同じことなんだがな。
深層の魔物を倒さないと、レベルダウンを起こす。
昨日のヘルハウンドで、多少は経験値の足しにならないだろうか?
すぐにはレベルダウンはしないという話なのだが……。
「まぁ、サナは1人で前衛も後衛もできるからなぁ。そのレベルならソロでも行けるレベルだし」
「キララさんも、急に私がレベルアップしたから驚いてました」
「俺も早かったけど、サナも負けず劣らずだよ、ははは」
「けど、レベルが高いだけで、経験は浅いので……」
「それに関しても、俺とまったく同じだよ」
戦闘の動画の切り抜きを彼女の所にも送ることを話す。
「ありがとうございます」
「多分、めちゃ再生数が増えると思うぞ」
「は、はい……」
彼女が顔を赤くしている。
「あの格好が恥ずかしかったら、モザイクかけたりしたほうがいいぞ?」
「いいえ! 桜姫さんもエンプレスさんも、そんなことしてませんから!」
冒険者をやっていく覚悟ってやつか。
レアアイテムほど、変な外見のやつが多いしな。
「変なやつに絡まれたら、相談してくれよな。ああ、イロハでもいいか。多分、ぶっ飛ばしてくれるぞ」
「はい」
「でも、そんな奴らよりサナのほうが強いはずだが、ははは」
なにしろ、桜姫よりレベルが上っぽいしなぁ。
まぁ、ベースのフィジカルがあるし、経験は姫のほうが豊富だから、実戦になったら敵わないかもしれないが。
サナとしばらく話して茶店を出た。
彼女が突然抱きついてくる。
大きな胸が押しつけられると、今日のサナは私服――その感触が直に伝わってきた。
「まてまて――人目のある所では駄目だよ」
「それじゃ、人目のない所ならいいんですね?!」
彼女が気合を入れて、フンス! フンス! している。
「そういうわけじゃないけど……困ったことがあったら、連絡はくれよ」
「はい!」
オッサンは、こんな若い子に積極的に来られると困る。
成熟した大人の女性なら、いつでもドンと来い――なんだが。
ただし、キララは除く。
それはそうとして、俺たちが遠征をするときには、サナは一緒についてくることになるだろうなぁ。
彼女のレベルで一緒に行動できるギルドといえば、姫の所しかないし。
姫は嫌な顔をするかもしれないが、サナの実力は認めているだろう。
それに、サナがいれば、パーティの全体のレベルアップが計れる。
マジで世界最強のギルドだろう。
それはすなわち、姫のレベルアップにも繋がるわけだし――もしかして、ここのダンジョンをクリアできるかもしれない。
「うん」と言わないわけがない。
彼女なら解るはず。
サナをなでなでしてから、別れた。
彼女の話では、ミオも会いたがっているらしい。
まぁ、お姉ちゃんはダンジョンの仕事で忙しいし、寂しいのかもしれない。
それこそ、主夫みたいな子と一緒になったほうがいいんじゃないか?
彼女が稼いで、男の子が家事をする。
そういうのもありだと思う。
冒険者って職業は、男女差がないので、女性も沢山いる。
実際、トップランカーも女性が多いしな。
現状、サナ、姫、エンプレスで、ワン・ツー・スリーじゃないのか?
「ふう」
思わず、ため息が出てしまう。
サナは、どうやって扱っていいものか、悩むね。
彼女も、冒険者になって仲間がいなくなったり、急にレベルアップしたりで、環境が目まぐるしく変わっているから、支えてあげたいのだが……。
あくまで大人としてつき合うべきなのだろうけどなぁ。
考えごとをしながら、市場を通ってホテルに帰る。
いつものように、人混みの中を縫って歩く。
ちょっと注意してみると――政府の人間らしき人たちがいる。
やっぱり、監視がついているなぁ。
俺が、どこかに亡命する――なんてことを想定しているのだろうが、ぶっちゃけありえない。
日本円で金を稼いでしまったし、世界が静止してから、復興したのは日本とアメリカぐらいしかない。
日本もまだまだ大変な状態だが、他の国よりはかなりマシな状態なのだ。
こんな状態でも内戦をしている国もあるしな。
戦争になっても、先進国からの供給が途絶えているので、戦うための武器がない。
そこで利用されているのがダンジョンだ。
ダンジョンに入ってレベルアップできれば、個々の兵士の戦闘力がアップできる。
それによって、今度はダンジョンを巡っての争いが起こる。
より原始的な武器を使っての争いに……。
そんなことをしている場合じゃないと思うんだがなぁ。
日本人って、こういうときに一致団結できるのが強いよな。
昔から災害に見舞われていたせいだと思うが。
「ぎゃあ!」
「おっと!」
考えごとをしていると、人とぶつかってしまった。
こちらは高レベルなので、無意識に弾き飛ばしてしまったようだ。
「あいたた……」
「悪い、大丈夫だったか?」
――と、手を伸ばしたところで、驚いた。
目の前で尻もちをついているその子は、まるで絵画から抜け出してきたかのように美しい少女だった。 ボーイッシュな短い金髪は、陽光を浴びて輝き、まるで金糸を編んだような繊細さで風に揺れている。
青い瞳は透明度の高い宝石のようで、深海のように澄み渡っているが、ほんのりと好奇心と驚きが混ざった輝きを放っていた。
金髪――外国人か?
確かに、特区には外国人も多いが……。
装備は神官服を思わせるような丈の長いものを着ている。
格好からして魔導師なのだろうが、僧侶や神官などのクラスの話などは、まだ聞かない。
それに近いといえば、サナが取得した、大回復やターンアンデッドの魔法だろう。
腰には小ぶりなポーチがいくつか取り付けられており、戦いだけでなく冒険にも適応した実用性を感じさせる。
シンプルながらも機能を優先しているらしい。
こんな子も冒険者なのか。
「大丈夫です」
「え? ああ、外国人かと思ったら……」
「いえ、日本人です」
彼女がお尻をさすりながら、立ち上がった。
日本人ちゅーことは、ハーフかクォーターか。
会話していて、なにか違和感を覚える。
女の子にしては、言葉に強さを感じた。
喉も出ているような気がする。
「う~ん? もしかして――男の子なのかい?」
「そうですよ」
「あ、悪い――てっきり女の子かと」
「いいえ、まぁ――そういうのはいつものことなので……」
彼女、いや彼がちょっとうんざりしたような顔を見せた。
いつもこういうやりとりが行われているのだろう。
「悪い悪い、気にしているんだな」
「そんなことより!」
彼が、俺に迫ってきた。
いや、いくら美少年でも、俺は女の子のほうがいいんだが……。
「なんだなんだ?」
「市場で、緑色のドラゴンを出していた方ですよね?!」
「ああ、あれを見ていたのか」
「はい! すごいですね!」
彼の青い目がキラキラしている。
「はは、ありがとう」
「あんなすごい魔物を倒せるのに、冒険者ランキングには登録していないんですか?!」
「あ~、あまり興味がないなぁ。元々は、金を稼いだらすぐに辞めるつもりだったし……」
「そんなもったいないですよ!」
「ほら、俺もオッサンだし――あまり長い間はできないなぁと」
「冒険者に歳は関係ないと思います!(キリッ)」
彼も冒険者だからランカーには興味があるんだろう。
「ランカーに登録している中で、誰かのファンなのかい?」
まぁ、間違いなく俺ではないだろうが……。
「あの……ギルドゴーリキーの方なんですけど……」
なんか、もじもじしていると、本当に女の子みたいだな。
「もしかして、デカい彼女か?」
「そうです!」
「は~、オガさんは自分より強い男が好きだという話だしなぁ……はは」
「それは、なにかの記事で読みました」
単に憧れの冒険のファンなだけで、懇ろになりたいとか、そういうわけではないらしい。
――いや、懇ろって単語が、すでにオッサンだな。
だって、オッサンだし、しゃーない。
彼は魔導師で、補助系の魔法が得意だと言うので、連絡先を交わす。
誠実そうだし、人もよさそうだ。
知り合いは多いほうがいい。
もちろん、踊る暗闇のような連中は困るが。
レベルは20前後だという。
決まったギルドには入っておらず、その都度パーティーを組んでダンジョンに潜っているようだ。
女の子と間違って、声をかけられることが多いらしい。
大変だな。
「もう、ヒゲを書いてみるとか?」
「あはは……それもいいですねぇ」
美少年がヤケクソ気味に笑っている。
彼の歳ならヒゲが生えてもおかしくないが……金髪だと生えても目立たないかな?
「目の覚めるようなマスクなんだから、動画サイトで配信者をやってみるとか」
「もうやっているんですが、あまり再生数は……」
「ただの美少年や美少女だけじゃ、無理か。いっそ、女装をしてみるとか……」
男の娘なんてイケないか?
「じ~っ」
彼の白い視線が突き刺さる。
「冗談だ」
やっぱり、ネタが面白いとか、エロいシーンがあるとか――そういうのが大事だよな。
う~む、シモネッタは正義。
俺の動画だって、エンプレスやサナが出ると、おっぱい連呼になるし。
少年と別れると、俺はホテルに帰った。
「ただいま」
「おかえり――遅かったな」
姫は、Tシャツに下着姿という格好で、タブレットでなにか読んでいた。
「なんちゅー格好なんだ」
「ダイスケさんから、注意してあげてください」
「姫――俺は、もっとローライズのほうが好みだ。お尻の割れ目が出ちゃうぐらいのやつ」
「そうか」
「ダイスケさん!」
俺の言葉に、カオルコが怒っている。
「まぁ、ここは俺たちだけだからいいんじゃない?」
「お客様が来るときもあるんですよ」
「そういうときには、フロントから連絡があるし」
姫の姉だけは、スルーだが。
「そ、それじゃ、私も……」
カオルコがブツブツなにか言っている。
「実は、サナと一緒に特区を離れて、魔法の検証をしていた」
「聞いてないぞ!」
「それでどうでした?!」
姫とカオルコの反応はまったく違う。
やっぱり魔導師のカオルコは、サナの能力が気になるようだ。
「特区からかなり離れたけど、魔法が使えたよ」
「やっぱり……あの背中の模様のせいでしょうか?」
「それしか理由が見当たらない」
「いっそ、紋章隊にでも入ればよかろう」
俺がサナと一緒だったので、姫がすねている。
「紋章隊に通報とかは止めてくれよ」
「やつは気に入らないが、私も冒険者だ。同じ冒険者を売るような真似はしない」
「そうか、すまん」
「どーん!」
ソファーに座った俺に、姫が体当たりしてきた。
結構痛いが、これで機嫌が直ってくれるならいいが。
俺の身体に頭をグリグリしてくる姫をなでていると、カオルコがスマホを見せてくれた。
「ダイスケさん、もう騒ぎになってますよ」
カオルコが、見ていたスマホを俺に見せてきた。
ダンジョンニュースに載っているらしい。
「なになに――『嘘か真か、エメラルドのドラゴン!』って本物に決まっているだろ」
まぁ、信じられないのも無理もないが。
記事を読むと、いったいどのぐらいの値段がつくのか?
みたいなことが書いてある。
世間一般の興味といえば、そんな所だろう。
4層のダンジョンの列車が脱線して、復旧は未定――みたいなニュースも載っていた。
浅層で日銭を稼いでいるような連中には関係ないかもしれないが……。
「誰がエメラルドドラゴンを仕留めたとか、そういうことは書いてないか……」
「私や姫は有名人ですが、ダイスケさんはそうじゃありませんし」
「一応、アイテムBOXのオッサンという通り名だと、解るらしいが――あはは」
「うふふ」
カオルコと一緒に笑っていると、俺の端末に通知がきた。
「ん~!」
姫が離れたと思ったら、今度は彼女の長い脚が俺の首に絡みついてくる。
彼女の脚をクンカクンカしていると、カオルコが顔を上げた。
「ダイスケさん、取材の申し込みなんですけど」
「え?! 姫じゃなくて、俺か?」
「はい」
「どこから?」
「ダンジョンニュースです」
「今、話していたところだよね」
「はい」
噂をすれば影がさすってやつか。
「なにを取材したいんだろう……」
「そりゃ、ダーリンのすごいところだろう」
姫がそんなことを言うのだが、俺のダンジョンでの活躍なんて誰も知らない。
ネットにアップしている動画は、すごい再生数になっているから、そこら辺から来たのか?
1億再生している動画もあるし、月収も数千万になっている。
年収じゃなくて月収だからな。
まぁ、すでに国からもらった金で、それすら俺には大した金額でなくなっているのだが。
「市場のエメラルドドラゴンのニュースがもう出てるってことは、アイテムBOX持ちから、俺だとわかったのかな?」
「おそらく、そうでしょう」
「う~ん」
「どうします?」
「とりあえず受けてみよう。面白そうだし」
取材を受けるなんて初めての経験だし、これも人生のネタってやつだ。
田舎に引っ込んだあとも、自慢できるぞ。
「わかりました。返事を出しておきます」
「頼む――場所は、ホテルの会議室でいいだろう。ここで受けるわけにはいかないし」
「そうですね。ホテルにも頼んでおきます」
「いつも済まないねぇ」
「それは言わない約束でしょ」
こんなオッサンギャグをカオルコは知っているらしい。
ネタを知らない姫は、なんのことだか解らないようだ。
「だれから、そんなネタを?」
「祖母からです、うふふ」
「カオルコのおばあさんと、姫のおばあさんは同じ人なんだよね?」
「ええ」
まぁ、そうか。
とりあえず、取材を受けることにした。
悪意の塊のごとく、昔のマスコミのような感じだったら、どうしよう。
それはそれで、面白そうではあるが。
――ドラゴンを売ったり、サナの魔法の検証をしてから数日あと。
例の取材がやって来た。
ホテルの会議室で取材を受ける。
やって来たのは、カメラマンと音声の男性、インタビュアーの女性が1人。
白いシャツと、ベージュのパンツスタイル。
短い髪型に、ちょっと色がついたメガネをしている。
シャツの胸元は魅惑的に開いていて、谷間が覗く。
思わず、チラ見してしまったが、小さなホクロがある。
「どうも、初めまして~ダンジョンニュースの角田です」
「こちらこそ、初めまして。冒険者の丹羽です」
名刺をもらう。
こうしていると、普通に仕事のようだ。
もう、名刺の交換なんてすることもないだろうと思っていたら。
「それでは、取材を始めさせていただいてよろしいでしょうか?」
「あの~、写真は勘弁してもらいたいんですが……オッサンの写真が載ってもつまらんでしょうし」
「そんなことはありませんよ! 謎の冒険者として、ネットでも話題になってますからね!
動画サイトに動画を上げているが、撮っている俺の姿は映ってないからな。
「ぶっちゃけ、私が持っているアイテムBOXを狙って、各国の情報機関や特殊部隊がやって来ているので」
「え?! 本当ですか?!」
「これが、本当なんだなぁ。詳しくは言えませんが……」
「それって記事に書いても?」
「う~ん、政府に止められているわけでもないので、大丈夫だと思いますが――具体的にどこの国かは言えませんが」
「解りました!」
「角田さんも、私と一緒にいると狙われますよ」
彼女はなにやら、スマホにメモをしている。
「あはは――写真は、モザイクでも駄目でしょうか?」
あまり信じてないっぽい。
まぁ、特区内でドンパチするわけではないからなぁ。
いや、狙撃はされたか。
あのあとどうなったかは、解らんが……あの狙撃犯は拷問でもされてたりして?
日本じゃそれはないと思うが……。
多分、極めて高度な政治取引のネタにされるだけだろうな。
「まぁ、それなら……」
「それでは、写真はモザイクで」
「お願いします」
女性と2人で話していると、カメラマンが横でカシャカシャと写真を撮っている。
なんか緊張するね。
「丹羽さんは、ランキングに登録されていませんね?」
「ああ、そういうのは興味がなくて、有名になりたいわけでもないし」
「純粋に、ダンジョンをクリアする名誉のためですか?」
「高レベル冒険者に仲間や知り合いがいるので、それにつき合っている――というのが、一番近いかな」
「ガチ勢ではなくて、エンジョイ勢に近い感じですか?」
「基本的にはエンジョイ派なんだが、結果的には死地ばかり出向いちゃっているから、ガチ勢になるのかなぁ……」
質問は、列車の脱線事故のことになった。
「聞き及んだ話によると、列車に乗っていたのは、桜姫さんのギルドだとお聞きしました」
「そう、トラップみたいなものに巻き込まれてね」
「それはどういったものだったんですか?」
彼女に謎の空間について話した。
「そんなわけで、魔物を倒さないと出られない部屋ってやつだな」
「そこで倒したのが、あの――」
「まぁ、そういうわけだ」
彼女の色付きメガネが、キラリと光った。
「ちなみに――丹羽さんのレベルは今どのぐらいですか?」
「それは、ノーコメントで」
「ここだけ! ここだけの話でも駄目ですか?!」
彼女が胸元を強調するように迫ってきた。
やっぱりホクロがある。
「はいはい、ダメダメ」
「もう!」
俺に拒否されて彼女がすねている。
いつもエンプレスのデカいのやら、サナのプルンプルンを見慣れている俺には、そんな攻撃は通用しない。
あとは、姫との関係も聞きたいようだが、それもノーコメント。
プライベートなことを言えるはずがない。
やっぱり、無難な受け答えばかりになってしまうな。
それでも、ダンジョンの深層や、迷宮教団のことを話したら、彼らは興味深そうに聞いていた。
そんなわけで、インタビューも無事に終了。
底意地が悪いマスコミじゃなくてよかった。
――後日、俺のインタビューがダンジョンニュースの記事に載った。
かなりのアクセスがあったらしい。
アイテムBOXを持っているオッサンってことは知られているが、その他はあまり露出していないからな。
冒険者のランキングにも登録していないし。
現在、冒険者フリークの間では、誰が最強か? ってことで、盛り上がっているらしい。
ランキングに登録していない俺の他には、今のところサナもいる。
俺を除くと、彼女が一番レベルが高いと思うのだが、最強となるとレベルだけで決まらない。
勝負はときの運ってこともあるし、ペアを組んでいる補助魔法使いとの相性もある。
たとえば、イロハとコエダの相性は抜群だ。
相乗効果で、イロハの実力をかなり高めている。
「んん?」
俺がダンジョンニュースのコメ欄を読んでいると、あの美少年から「記事観ました!」みたいなメッセージがきていた。
美少年に返事を打っていると、動画の編集をしているクアドリフォリオさんから連絡あり。
でき上がったデータが送られてきた。
早速、サイトにアップした。
サナが映っている部分だけ切り出したデータもあるので、コレは彼女に送ってあげよう。
多分、再生数が爆上げだぞ。