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91話 無事に帰宅


 イロハの妹さんを救出したあと、俺たちは列車に乗って、地上へ向かっていた。

 さすがに精神的に疲れたので、早く地上に戻りたかったのだが、乗っていた列車ごとトラップに巻き込まれたらしい。


 飛ばされた空間でポップした強力な魔物との戦闘に勝利しないと、元に戻れないというクソゲー。

 巻き込まれたのは4層だったが、4層で戦闘をしているレベルの冒険者が飛ばされたら即死間違いなし。

 クソゲーと言ったが、これはゲームではない。

 再スポーンや、復活の呪文などない。

 死んだら、即そこで人生終了である。


 まさか、ダンジョンで死んだら異世界に飛ばされる――なんてことはないだろうし。

 ないよな?


 飛ばされた空間では、魔法すら使えなかったのだが、なぜかサナの魔法だけが使えた。

 彼女の背中にある模様が、なにか関係しているのかもしれない。


 ダンジョンの外でも魔法が使えるという「紋章隊」という連中がサナと同じように身体に模様があるという。

 まぁ、そういう噂があるってだけで、その証拠もない。


 サナと言えば、今回のトラップでデカブツを倒してかなりレベルアップした。

 相手は小さいとはいえドラゴン。

 おそらくは、8層か9層の魔物だろう。


 一気にレベルが44まで上がって、姫を追い越したらしい。

 それを知った姫の狼狽が酷いが、こればっかりはめぐり合わせみたいなものだから、どうしようもできない。


 レベルアップに伴い魔法も覚えたという。

 大回復ハイヒールと、退魔ターンアンデッドらしい。


 ダンジョン魔法には僧侶系の魔法がなかったのだが、ここまで高レベルになると、僧侶ツリーみたいなものが出現するのだろうか?

 ターンアンデッドがどのぐらいの威力なのか、使ってみないと解らないが……。


 元のダンジョンに戻ってきた俺たちは地上を目指したいのだが――ダンジョンの列車が事故ってしまったため、歩きしかない。


 4層入口に徒歩で到着した俺たちは、ここで1泊することにした。

 さすがに、もう地上まで歩いていく気になれない。

 明日になれば、3層の列車に乗ることができる。


 皆も早く帰りたいだろうが、全員一致で1泊することになった。

 色々とありすぎて精神的に疲れ果てていたのだ。

 レベルが高ければ肉体的な疲れはどうとでもなるが、精神的なものはどうしようもできない。


 いや、状態異常になるから、それに効くポーションを飲めば、それもクリアできるのか?

 その可能性もあるが、やっぱり休むときには休むべきだ。


「車掌さんは早く帰りたいだろうが、明日まで我慢してくれ」

「いいえ、助けていただいて、食事まで――本当にありがとうございます」

 さすが、冒険者と違い社会人だ。

 礼儀を心得ている。


「あはは、あんなことに巻き込まれて、命があっただけでもめっけもんだよなぁ」

 イロハが笑っているのだが、彼女の妹のカガリや、モグラの男連中も皆がうなずいている。


「いやもう本当に……ダンジョンは危険な所だと解っていましたが……」

「今回のこれって、労災は降りる?」

「脱線事故なので、おそらくは……」

「犠牲者が出ると、色々とヤバいんだっけ?」

「本当は、超大変なんですけど……ここは、ダンジョンなので」

 そういうのは一切なく、とりあえずはダンジョンを鉱山として機能させるのが優先のようだ。

 ただ、危険手当は出るらしい。

 それじゃないと、こんな仕事やらんよな。


 今回の騒ぎで、機関士や車掌のなり手が減るか?

 いや、今はまともな仕事がないからな。

 危なくても、給料が高けりゃやりたいってやつはいるか。


 車掌さんと話していると、姫とサナがまた睨み合っている。


「「ぐぬぬ……」」

 寝床の位置を争っているのだ。

 レベルがほぼ同じになってしまったから、姫が力ずくでサナを排除できない。


「ほら、喧嘩しない」

 いつものように、姫とカオルコを俺の両脇に。

 サナは俺の頭の所に寝かせた。


「ダイスケさん、私の身体を枕にしてもいいですよ」

「はは、遠慮しておくよ」

「もう!」

 彼女が俺の頭を包むように抱きついてきた。

 サナの装備は乳暖簾なので、柔らかいものが頭に当たる。


「なにをしている! しっ! しっ!」

 姫がサナを追い払っている。


「おい! いつまでやってるんだよ。寝ろよ~!」

 さすがに、ちょっと離れた場所で寝ていたイロハから苦情がきた。


「サナ、ローブを着てもいいんだぞ。もう激しい戦闘もないだろうし」

「むう……」

 俺がまったく手を出さないので、彼女は面白くないようだ。


 それでも、やっと静かになり、皆で眠りについた。


 ――ダンジョンの安全地帯で就寝して、次の日。

 いつものように、ぼんやりとした灰色に包まれて目を覚ます。

 慣れた景色が広がっているが、ダンジョンの中で明かりがなければ、いつもと同じ。


 俺に抱きついている姫と、カオルコ――頭の所にはサナがいる。

 そのすべてが昨日と同じ位置にあるように見えるのだが、日付は変わっているはず。

 多分……徐々に自信がなくなるが、精神的に参っているんだと思う。

 いくら肉体的に強化されても、人間の精神はそうはいかない。


 ダンジョンに順応すればそれもなくなるのかもしれないが、それはもう人間ではなくて、魔物と一緒ではないだろうか?


 それはさておき、やっと鉄道に乗って地上に戻れる。

 高速で走る鉄道なら、魔物とのエンカウントも避けられるしな。

 そう思って乗ったのに、機関車ごとトラップに巻き込まれるとは思ってもみなかったが。


 皆を起こすと食事にする。

 人数が増えたので食料が心配だったが、無事に帰れそうだ。


 食事を終えると出発だ。

 姫たちが深いローブを羽織ったのだが、もう戦闘はないという判断だ。


「サナもローブを羽織ったほうがいいぞ?」

「は、はい」

 3層からは冒険者も増えるから、当然人の目も増える。


 皆で蒸気エレベーターに乗ると、3層の駅に到着した。


「ふう……今度は脱線とかないだろうねぇ……」

 イロハがぼやく。


「まぁ、めったにあんなことはないだろう……と思いたいが」

「そうだといいんだけどねぇ」

「心配なら、サナに聞いてみればいい。 サナ、地上に戻るために、他の選択肢は思い浮かぶかい?」

「……いいえ」

「ほら、大丈夫っぽい」

「……」

 イロハが姫を見ている。


「確かに、桜姫の選択よりは間違いなさそうだ」

「ぐぬぬ……」

 姫がぐぬっている。

 彼女の現場の判断は間違いないのだが、二択の選択などで、確実に最悪の選択をするような気がする。

 それでも、なんとか切り抜けるだけの実力が彼女にはあるのだが、周りはそうじゃないことも多い。


 駅のホームで待っていると、始発の列車が入ってきた。

 それなりの数の冒険者たちが降りてくる。

 朝一から、狩りをする者も多いのだろう。

 皆が活力とやる気に満ちている。


「あ! もしかして、オガさんですか?!」

 イロハが女性冒険者の1人に捕まった。

 なにせ彼女みたいな身体のデカい女性冒険者は1人しかいない――バレバレだ。


「あ~、悪い、ちょっと疲れてるからよ~」

 彼女が本当に疲れている顔をした。


「ごめんなさい。これから戻るんですか?」

「そうなんだよ」

 向こうも冒険者だ。

 どういう状況なのか察してくれたようだ。


 イロハより有名な姫やエンプレスは、深いローブを被って顔を隠している。

 ちょっと解らないかもしれない。


 空になった列車に皆で乗り込んだ。


「「「ふ~」」」

 乗り込んだ皆で、深い溜息をつく。

 他の乗客はいないが、それぞれのグループになって座っている。

 車掌さんと女性の魔導師は俺たちの隣だ。


「はぁ~」

 下を向いた車掌さんが大きなため息をついた。


「どうしました?」

「いやぁ、会社にどう説明をしたものかと――あと、報告書も書かないといけませんし……聴取を受けるでしょうし」

「お疲れさまです」

 彼女の話では、会社は第三セクターになっているようだ。


 そのまま3層を進み、2層の列車に乗り換えると――徐々に人が増えてくる。

 1層は複線だし、車両の数も多い。

 当然、乗客も多いから、座れない人もいる。

 まぁ、仕方ない。


 そのまま列車に揺られていると、エントランスホールのホームに到着した。

 久しぶりにここに戻ってきたせいか、目に映るすべてが以前よりも一層鮮やかで生き生きとしているように感じられる。


「はぁ~、やっと帰ってきました~」

 コエダがへとへとになっているアピールをしている。


「うう……」「もう生きて帰れないかと……」

 モグラの男たちが、涙ぐむ。


「まだまだぁ! 家に帰るまでが冒険です」

「もう、やめてください~!」

 コエダから泣きが入る。


「ギルドの本拠地につく前に、湧きに遭遇するかもしれないぞ」

「えええ~?!」

「ダーリン、そのぐらいにしてくれよ」

 面白いので、彼女をからかっていたら、イロハからたしなめられてしまった。


「はは、すまん」

 皆でエントランスホールから出た。

 やっと地上だ。

 時間は朝の9時ごろか。

 冒険者稼業はこれからの人が多いが、俺たちは帰宅だ。


 自動改札を出ると、皆と挨拶をかわす。


「車掌さんたちもここでいいかな?」

「はい、ありがとうございました。皆様は命の恩人です」

「ははは、巻き込まれてしまって、大変だったよねぇ」

 車掌さんたちと別れた。

 今から会社に向かうらしいが、ここからが大変だ。


「イロハたちも、妹さん探すって話だったのに、こんなことになってな」

「まったく、このバカのせいで!」

「ごめんよ、ねーちゃん……」

 カガリたちは、モグラの本拠地に戻るようだ。

 彼女を襲おうとした男たちは、それなりの制裁があるんだろうな。


 イロハたちと話していると、自動改札の所にうずくまっているローブの女に気がついた。

 それはいいのだが、見覚えがあるような……。


「あれ、キララじゃないか?」

「え?!」

 俺の言葉に、サナも気がついたようだ。

 彼女がキララの所に駆け寄った。


「キララさん! こんな所でどうしたんですか?!」

 サナの声に、キララが目を覚ましたようだ。


「ん~……! サナ!」

 彼女が飛び上がると、サナに抱きついて泣いている。


「どうしたんですか?」

「サナが帰ってこないから、ここで待っていたのよ……」

「ミオちゃんはどうしたんだ? 1人か?」

「エマに任せてる――って、ダイスケ!」

「なんだ、なんだ?」

「サナを危ない目に合わせないでって言ったのに!」

 キララが俺に食ってかかってきた。


「危なくないダンジョンなんてないのは、お前だって知っているだろ?」

「キララさん、ダイスケさんに連れていってって頼んだのは私ですから」

「うう……」

 サナに言われて、キララも引き下がった。


「それじゃ、ここで解散な」

「はい」

「サナ、仕留めた獲物については後日に話し合おう。とりあえず、疲れたからさ」

「私もです」

「それから、今後はどうするか――キララたちとしっかりと話し合ってな」

「わかりました」

 サナもキララと一緒に帰路についたのだが、彼女がキララを慰めている。

 どっちが大人か解らんな。

 いや、今の時代、サナも大人なんだが。


「ふん」

 姫が俺に体当たりしてきた。


「わかっているよ。帰ろう」

「うん」

「それじゃ、イロハとカガリもまたな」

「ダーリン、今回は助かったよ!」

「ははは、こっちからなにか頼むこともあるかもしれんし、お互い様ってやつだ」

 自動改札の前で、皆で解散ということになった。


 ホテルに帰ると――従業員たちが心配そうにしていたのだが、いつものことなので、ちょっと諦めている節がある。


「ふ~」

 部屋に戻ると、ソファーに倒れ込む。


「ふ~」「ふ~」

 その俺の上に、姫とカオルコが倒れ込んできた。


「お~い、シャワーでも浴びて、着替えないと。洗浄クリーンの魔法でもいいけど」

 魔法で綺麗になるのだが、やっぱりシャワーはさっぱりとする。


「風呂にしよう!」

 姫が叫んだ。


「いいけど、その前に着替えような」

「うん」

 皆で部屋着に着替えると、部屋の真ん中にブルーシートを広げた。

 今回使った装備を全部山積みにして、姫の魔法を使う。


洗浄クリーン!」

 青い光が装備に染み込むと、汚れが剥がれ落ちていく。


「やっぱり魔法は便利だな~」

 普通の服なら、洗濯でもいいのだが、こういう装備は簡単には洗濯できない。

 特区には専用のクリーニング店があるので、そういう所に出せば綺麗にしてもらえるが、金がかかる。

 なにか専用の溶剤などを使っているのか、それとも魔法で洗っているのか。


 洗浄クリーンの魔法をゲットすれば、そういう商売もできるわけだな。

 汚れが落ちたブルーシートは、そのままアイテムBOXに入れて、ダンジョンに行ったときにゴミを捨てて終了だ。

 この部屋で出るゴミなども、全部ダンジョンに捨てている。

 アイテムBOXがあるからできる芸当だ。


 それにしても、帰ってきてからずっと、姫が俺にべったりだ。


 姫と一緒に風呂に入ると、そのまま無制限1本勝負に突入してしまう。

 途中で、カオルコも乱入してきたが、もちろん姫と同じことはできない。

 彼女の回復ヒールの魔法がなくなってしまう。


 半日勝負していたら、2人とも動かなくなってしまったので、俺1人で起きて飯を食うことにした。

 ズボンだけ穿いて、居間に行く。

 1人分の飯を作るのも面倒なので、アイテムBOXに残っていた市販の弁当を食べた。

 ちょっと消耗したので、3つほど食う。


 普通のオッサンがこんな食事をしたら、あっという間に成人病だが、冒険者をやっていれば平気。

 いくらでも食える。

 いざというときに備えて、多少は脂肪を蓄えたほうがいいぐらいだ。


 さて、動画の確認でもするか?


 飯を食っていると、電話が鳴る。

 出るとフロントからで、客らしい。


 しばらくするとチャイムが鳴った。


「いらっしゃ~い」

 フロントからの連絡で、誰が来たのか解っていたから出迎えた。


「おう、邪魔するぜ!」

「お、お邪魔します……」

 やってきたのは、革ジャンを着たイロハとカガリだった。

 いつもは前をはだけたりしているのだが、今日はチャックを締めている。

 さすがに、前を開けていると、恥ずかしいと思ったのだろうか?


 カガリは以前のイロハのような、Tシャツにデニムという、姉妹して似たような格好。

 それにしても、イロハは解るが、カガリが来たのは意外だったな。


「どうしたんだ? 2人で」

「どうしたって? 決まってるじゃねぇか! ははは!」

 イロハが俺の肩をバシバシと叩いて、抱き上げた。

 こうされると、俺は手も足もでない。


「まぁ、イロハは解るが、カガリは? まさか、おねーちゃんのを見学しにきたわけじゃないだろ?」

「え? あの……その……」

 彼女が大きな身体をもじもじさせている。

 イロハほどではないが、彼女の身体も十分にデカい。


 兄弟姉妹って、弟や妹のほうがデカくなることが多いような気がするのだが、気のせいか。

 イロハの所は、そうではないっぽい。


「俺みたいなオッサンじゃなくて、もっと格好いい若い冒険者にすればいいだろう? カガリ、可愛いんだし……」

「え?! 俺なんて……」

 どうやら、彼女は自分が可愛いとは思ってないらしい。


「おねーちゃん、カガリは可愛いよな?」

「ああ」

「……!」

 カガリが顔を真っ赤にしている。


「そういえば、君を襲おうとした連中はどうなった?」

「リーダーに思い切りぶん殴られてた。しばらく、リーダーの監視下に置かれるし、女子全員から白い目で見られてた」

「まぁ、しょうがないなぁ」

 特区は、警察は不干渉だからな。

 自分たちでどうにかするしかない。

 私刑にされないだけ、まだ恩情がある。


「そんなことより、やろうぜ?!」

 イロハが革ジャンを脱ぎ始めた。


「ロマンもムードもなにもないなぁ……」

「刹那を生きる冒険者にそんなものはいらねぇ」

「刹那なんて格好いい言葉を知ってるじゃないか」

「あはは、後輩の女の子に教えてもらったんだぜ!」

 革ジャンを脱いだイロハの身体にへばりついていたのは、ダンジョンでゲットしたマイクロビキニ。

 ダンジョンで見ても刺激的だが、明るい部屋で見ると、もっと過激だ。


「それを着てやるのか?」

「ああ、動いていれば、体力を回復するんだろ?! 約束どおり、12時間耐久をやってやるぜ!」

「マジか……カガリは、こういうおねーちゃんはどうだと思う?」

「え~あの~」

 堂々と、あけっぴろげにしているおねーちゃんとは裏腹に、妹ちゃんは恥ずかしそうだ。


「あはは! さて! やろうぜ! もう我慢できねぇ!」

「ちょっと、ちょっと!」

 イロハに抱きかかえられて、俺の個室に入ると――無制限1本勝負に突入する。


 彼女は、体力が回復する危ない水着があれば無敵だと思っていたっぽいが、無制限1本勝負にはあまり関係なかったようだ。

 それでも、以前よりは保ったし、それなりにレアアイテムの効き目はあるっぽい。


 イロハと妹ちゃんは、白目を剥いてぐったりしてしまったので、俺はまた部屋を抜け出して、居間で飯を食い始めた。


「なんか食ってばかりだな、ははは」

 しょうがない、勝負をすると腹が減るのだ。

 飯を食っていると、シーツを身体に巻いた、カオルコが起きてきた。

 白いシーツの上からでも解る、巨大な2つのものが揺れている。


「おはよう、カオルコも食うか?」

「……」

 黙って彼女がやってくると、俺の背中に張り付いた。

 彼女は俺の背中が好きらしい。

 ずっと、背中に抱きついている。


 ドアが開いて、次にやってきたのは、カガリだった。

 俺の部屋に置いてあった、デカい白いシャツを着ている。

 姫やカオルコが着ると、かなり大きいのだが、カガリだとミニスカぐらいの丈になってるな。


「……」

 彼女が黙ってやってくると、俺の隣に座った。


「飯食うか?」

「……」

「どうした?」

「すごく、恥ずかしかった」

「ははは、まぁな。すぐに慣れてねーちゃんみたいになるかもな」

「……」

 彼女が赤くなっている。


 とりあえず、飯は食うようなので、アイテムBOXから弁当を出してやった。

 今回、かなり食料を消耗したので、また集めないとだめだな。

 毎回なにがあるか解らんからなぁ。

 他の冒険者たちはどうやって対処しているのだろう?

 魔物を食ったりしてるのか?


 俺とカガリで飯を食っている間、カオルコはずっと俺の背中に引っ付いたまま。

 そのまま弁当を食べていると、玄関のベルが鳴った。


「ん? フロントからの電話は来てなかったが……」

 玄関のドアを開けると――。


「きゃ!」

 ドアを開けると驚いた女の子の顔。

 スーツを着た姫と同じ顔だが――姫ではない。


「あ、カコさんか」

「もう、なんて格好をしてるの!」

 ズカズカと中に入ってくると、カオルコの姿に目が止まったようだ。


「カオルコ、またアナタは!」

「ぎゃぁ! カコ様!」

 バタバタとシャワールームに駆け込もうとしたのだが、身体に巻いていたシーツの裾を踏んで豪快にコケた。


「痛そう……」

 まぁ、高レベル冒険者がこのぐらいで怪我をすることはないだろう。


「サクラコは?」

「寝てますけど……」

「はぁ……」


 彼女が大きなため息をついた。

 しばらく連絡がつかなかったので、様子を見にやってきただけらしい。


「そうだ――はい、ダンジョン土産をどうぞ」

 アイテムBOXから出した、緑色の石を彼女に手渡した。


「なにこれ? エメラルドの原石?」

「ドラゴンの破片ですよ」

「へ~! こんなものもあるんだ!」

 彼女が窓に緑色の石を向けて、キラキラ輝く光の変化を楽しんでいる。


「エメラルドなのか、なんなのか解らないですけど」

「こんなの私に渡して、ご機嫌取りのつもり?」

「いやいや、カコさんはサクラコのお姉さんじゃないですか。それじゃ、私の義理の姉ということになるし……」

 なにか驚いたのか、彼女が石を落とした。


「まさか! 籍をいれたの?!」

「いやいや、たとえですよ」

「ふ~焦った」

 焦るようなことなのか?

 安心したのか、緑色のドラゴンのことをアレコレ聞かれる。

 ついでに、動画も観せてやった。


「すごい! こんな魔物もいるんだ!」

「俺も初めて見たよ」

 カコが、普通の女の子らしくキャッキャしていると――。


「ふ~」

 ドアが開いて、裸のサクラコが部屋から出てきた。


「ぎゃあ! サクラコ! 服を着なさい!」

「なんだお前は、勝手に人の部屋にやってきて」

 姫が俺の隣に大股を広げて座った。


「もっと、慎みを持ちなさい!」

「そんなもの、冒険者には必要ないからな」

「はは……」

 俺としても、あまりにあからさまなのは……それも乙ではあるが。


 それからカコがずっといたので、動画のチェックなどができなくて困った。


 ――姫やイロハと勝負をした次の日。

 カコも帰ったので、アイテムBOXからカメラを出して動画のチェックをすることにした。



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