86話 撤退戦
イロハの妹さんの捜索と救助をするために、ダンジョンの深層にやって来た。
無事にモグラの連中を発見、救助することができたのだが、生存者たちの消耗が激しい。
妹さんのカガリ、あとは男性が3人の合計で4人。
あと、2人いたようだが、魔物にやられてしまったようだ。
最初の部屋でアイテムを拾ったが、モグラの連中の護衛をしていた冒険者のもので間違いないらしい。
残念だが、拾ったアイテムは有意義に使わせてもらう。
それがダンジョンの流儀ってやつだ。
皆がかなり消耗しているため休息が必要だが、ここはイレギュラーな深層のダンジョン。
なにが起こるか解らない。
俺たちは、とりあえず6層の安全地帯を目指すことになった。
「ヒヒヒ!」「ヒヒヒ!」
帰路についた俺たちだが、早速魔物とエンカウント。
レイスに囲まれてしまった。
「もう、レイスなんて雑魚だ――任せろ!」
イロハが敵の群れに突っ込んで、白いモヤを切り刻み始めた。
「魔導師たちは、魔力を消耗しているはず。なにが起こるか解らないから、温存しておけ」
姫の指示が飛ぶ。
今回のアタックで彼女の方向音痴が判明したが、戦闘の指示は的確で確実だ。
「「「はい!」」」
通路は細長いので、横からの襲撃はない。
前後だけだ。
前は姫とイロハがいるから、俺は背後を守る。
「ヒヒヒ!」
「ほら来た!」
やるのは簡単だが、レイスをいくら倒しても俺のレベルにはもう関係ない。
ここは、サナやコエダにやらせて経験値稼ぎをしたほうがいいだろう。
危なくなったら、俺がサポートすればいい。
「ひぇぇ!」
コエダがビビっている。
いつも魔法を使って遠距離で戦っているからな。
魔導師は接近戦をあまりしないし。
「サナ! やっちまえ!」
「は、はい! え~い!」
彼女が振り回した杖が、迫ってくるレイスに直撃した。
「ギャァァァ!」
閃光と叫び声を上げて、魔物が四散する。
俺が使ってみて解ったが――サナの杖は一見すると魔法の杖だが、実は打撃武器だ。
それと、彼女の幸運値のパラメータらしきもので、やたらとクリティカルが出る。
「やった、ジャストミート! サナ、接近戦もいけるな」
「が、頑張ります!」
4匹のレイスが突っ込んでくるのを、次々と迎え撃ちにする。
「やれ~!」
「え~い!」
彼女が振り回した杖が、魔物に連続ヒット。
普通にすごい。
「ギャァァァ!」
あっけなく、魔物が無に還る。
「ええ? すごくないですか?」
思わず、エンプレスからも声が漏れるぐらいすごい。
アタッカーとしても通用するぐらいだ。
おそらく、彼女のランクアップの早さの秘密はこれだろう。
無難に戦闘が終了した。
「ダァァァリン! ちょっと、その女にえこひいきが過ぎるんじゃないのか?!」
「そんなことはないだろ? 後方の守りのために、戦える俺とサナが戦っているだけだし」
「わ、私はそんな接近戦は無理ですぅ~」
コエダが、ちょっと涙目になっている。
「ほら」
「ぐぬぬ……そ、それじゃ私が弱くなれば、ダーリンに守ってもらえるんだな?」
「そりゃそうだけど、それはどうなのよ? なぁ、カオルコ」
「サクラコ様――今は、ダンジョン攻略者としてトップランカーというステイタスがありますが、それを捨てるということは、ライバルが一気に増えますよ?」
「うっ!」
「そうだよ! あたいがダーリンをもらってもいいってことだしな、ははは」
「させるかぁ!」
姫が剣をブンブン振り回して、ちょっと先に進んでしまった。
「す、すげぇ」「これがトップランカーかよ」「ああ」
「さすが、ねぇちゃん!」
姉の格好いい活躍が見られて、妹さんも喜んでいる。
イロハは妹にいいところを見せられて、満足だろう。
その彼女が筋肉をムキムキさせて俺の所にやって来た。
「ダーリン、腹減った! なにか食い物をくれ!」
「そうだな――ソーセージマヨパンはどうだ?」
「いいね! 4つくれ!」
「ふたつで十分ですよ」
「4つだ!」
まぁ、俺はネタを知っているのだが、彼女は知らないようで普通に返されてしまった。
歩きながら食事をする。
ソーセージパンだけ4つもないので、それ系のパンを渡すと、大口を開けてかぶりついている。
パン1つを3口ぐらいで平らげてしまった。
「ダーリン、私にも」
今度は姫だが、彼女にはメンチカツパンをあげた。
「これは? ハンバーグ?」
彼女はメンチカツを食べたことがないらしい。
「まぁ、ハンバーグみたいなものを揚げたものだ」
「なるほど――」
彼女は、パンを両手でしっかりと握りしめると、その唇を大きく開いて勢いよくかぶりついた。
頬は少し膨らみ、唇の端にほんのわずかにソースがついている。
普通であれば、「ちょっと下品」とされるような食べ方だが、彼女の端正な顔立ちや艶やかな髪が、そのすべてを芸術的な瞬間に変えてしまう。
かぶりついた後、彼女はふとこちらを見て、口を軽く拭いながら無邪気な笑顔を浮かべた。
無意識の仕草ですら完璧な絵になるなんて、コレが生まれ持ったものの決定的な差――俺みたいな凡人との違いってやつか。
「妹さんも食うかい?」
俺は彼女にもパンを差し出した。
「いいのかい?!」
「さっき、カロリーバーを食って腹は平気かい?」
「大丈夫!」
「ほら」
「やったぁ!」
彼女が嬉しそうにパンを受け取る。
その仕草には、まだ幼さが残っているように思える。
「ダーリン、あまりカガリを甘やかさないでくれよ」
「いいじゃん!」
「お前が言うな!」
姉ちゃんのげんこつを、カガリがひらりと躱した。
「はは、まるでお母さんだな」
「ウチは、ねぇちゃんと2人しかいないから……」
「姉妹で2人といえば、サナの所も、彼女と妹ちゃんの2人なんだぞ」
「なんだ! そうなのか! ウチと一緒だな!」
同じ境遇ということで、イロハのサナに対する好感度も上昇したようだ。
「いえ、ウチにはお爺ちゃんもいますけど……」
「爺さんも働けるような歳じゃないから、爺さんの分もサナが稼がないと駄目なんだよ」
「そうかぁ、そりゃ大変だなぁ……困ったことがあったら、いつでも頼ってくれてもいいんだぜ?」
「ありがとうございます」
サナがペコリとお辞儀をした。
「いい子じゃないか! ダーリンが面倒を見ているのも解るねぇ」
「ははは、まぁな」
「ぐぬぬ……」
姫が不満そうな顔をしているが、話はさておき――男たちにもパンをやる。
「そんな奴らには要らないのに……」
カガリが不満そうだが。
「途中でへばられて、足手まといになると困るしな」
「そんときは、ダンジョンに置いていけばいいんだよ」
イロハも冷たいことを言う。
「頼む!」「そんなことを言わずに」「地上まで連れていってくれぇ」
「まぁ、こんな所で置いていかれたら、まず戻れないからな。一回でも魔物とエンカウントしたら終了だ」
「迷宮教団と出会ったら、捕まって化け物に改造されて終了だな、ははは!」
ひどいことを、イロハが豪快に笑いながら言う。
「そんなぁ!」
「いや、マジだからな――踊る暗闇の幹部連中がどうなったか、ネットの噂で聞いただろう?」
「「「……」」」
男たちが、パンを食べながら黙って頷いた。
「サナも戦闘したから、パンを食べろ」
「は、はい」
彼女にパンを渡す。
「他の魔導師たちは? 食いたいのなら、食ってもいいんだぞ?」
「それじゃ、少しいただきます」
「ここに潜ってから、かなり時間がたっているからなぁ」
「ええ」
2人には、おにぎりを渡すと、そこにイロハが入ってきた。
「コエダ、ダンジョンで飢餓状態になるとヤベーんだぞ」
「はい、大丈夫です」
「イロハはその経験があるのか?」
「ああ、ちょっと戦闘が長引いて、腹ごしらえの暇がなくてな」
彼女の話では――限界を超えると、みるみる身体が喪失する感覚に襲われるという。
「そりゃ、自分の身体を自分で消化して急激にエネルギーに交換しているからだろうな」
「私たちが、深層に飛ばされたとき、ダイスケさんに出会う直前がそんな感じでした」
姫とカオルコのあのときは、まさに危険状態だったわけだ。
「高レベル冒険者のパワーはすごいが、エネルギーの消費もデカい――まさに諸刃の剣」
「そのとおりだと思います」
「そう考えると、ダーリンのアイテムBOXはチートの中のチートだな」
姫がつぶやいた。
「まぁ、俺もそう思うよ」
話をしながら、通路を進む。
我ながら、ちょっと油断しすぎでは?
――と、思っていたのだが、俺たちが最初に降りてきた部屋になにごともなく到着した。
「なにこれ?!」
天井に開いた穴の下に据えつけられた単管の足場を見て、カガリが叫ぶ。
「俺が持ってきた足場だ。魔物に襲われて壊れたので、捨てようと思ってたんだが、こんな場所で役に立った」
「えええ~? 本当にチートだねぇ」
カガリが上に伸びる足場を見上げている。
「ダイスケさん! だれか来ます!」
俺たちは、皆で上を見ていたのだが、唯一後方を警戒していたサナが叫んだ。
「なに?!」「くそ! 油断したぜ!」
皆で振り返って武器を構えた。
暗闇の中、空気は冷たく重く、息をするたびにその冷たさが肺にしみるような感覚。
周囲には一筋の光もなく、闇はすべてを包み込み、音すらも吸い込むよう。
そんな中、遠くからぼんやりとした輪郭が現れた。
長いローブをまとった人影――いや、それは人間とは言い難い、不気味な存在だった。
ローブの中心には白い肌が輝く。
それはは異様に青白く、冷たさを放っているかのようで、血の気のない不気味な光沢を持っていた。
「迷宮教団!」「出やがったか!」
姫とイロハが叫ぶ。
そう、俺たちはそれをなにかすでに知っていた。
それと同時に、「もういい加減にしろ!」という怒りの感情が、ふつふつと湧き上がってくる。
「ぎゃあ!」「た、助けてくれぇ!」
「ギャーギャー騒ぐな!」
モグラの連中がうるさくて、イロハにどつかれている。
一見して、ダンジョンという異様な空間に出現した裸の女――それがなにか知っている俺は、躊躇なく攻撃を加えた。
「ガレキ召喚!」
女の頭上に巨大な足場のガレキが出現して、頭上を襲う。
魔力も感じない突然の攻撃に女も驚いた様子だったが、さすがと言っていいのか――。
瞬時に防御の魔法――聖なる盾を発動したようだ。
透明な壁に、重力に引かれて落下するガレキが阻まれていた。
「「圧縮光弾! 我が敵を撃て!」」
俺の攻撃に呼応するように、2発の光弾が発射された。
針のように鋭く圧縮された光弾が、暗闇に線を描いて、敵の両腹部に命中。
筋の如く細いが、威力は十分である。
敵の腹を吹き飛ばすと、ガレキを支えていた防御魔法が消えて、そのまま落下してきたものに押し潰された。
「やった!」「おおっ!」
コレは確実に仕留めただろう。
因縁が積み重なっていた迷宮教団との争いも今日で最後か。
「ナイス、コンビネーション!」
「お任せください」「やりました!」
カオルコとサナの息がピッタリだった。
俺たちは、女の屍を確認するために、ガレキに注意深く近づく。
瀕死でも、最後っ屁で魔法を使ってくる可能性はある。
「ん?」
足場のガレキなので、隙間だらけ。
押しつぶされていればすぐに解るのだが――いない。
「おい、いないぞ?!」
イロハが声を上げた。
「押しつぶされる瞬間に、逃げたか……」
姫がガレキをじっと見つめている。
実際に死体がないということは、彼女の推測とおりなのだろう。
「あ~、また逃がしたのか? もう、いい加減にしてほしいな!」
「ダーリンの言うとおりだ。今の傷が治れば、また他の冒険者が狙われる」
「だが、あの女がこの階層にも現れたってことは、ダンジョンであればどの階層にも移動できるってことだ」
「それって、俺たちが見つけてない階層にも行けるってことかい?」
カガリが声を上げた。
「そうだろうな」
「それじゃ――穴を掘ってせっかく新しい階層を見つけても、迷宮教団にお宝を取られたあとかもしれないってことも……」
「可能性はある」
「くそ~、なんとかしておくれよ、ねーちゃん!」
「なんとかできるなら、とっくにやっているに決まってんだろ!」
「犠牲者がたくさんでてるからな」
まぁ、迷宮教団が狙っているのは深層にやってくる冒険者と、ダンジョンにいる子どもたちだ。
浅層で、日銭を稼いでいる冒険者たちには、影響はないと思うのだが……。
子どもたちも、協力者である踊る暗闇がいなくなったことで、確保は難しくなっていると思われる。
レアアイテムに目が眩んで、迷宮教団に協力するギルドが現れないとも限らないが。
敵の迎撃に成功した俺たちは、上の階層につながっている足場を上り始めた。
「下のやつは、周りを警戒してくれよ」
イロハが先に登っている。
「任せろ」
しんがりは俺が務める。
一応、アイテムBOXから雷を起こすあの剣を取り出して、魔力を充填しておく。
これで、いつでも魔法を撃てる準備が整った。
アイテムBOXに入れておけば、暴発することも、魔力が抜けることもないだろう。
やっぱりアイテムBOXってのは、便利すぎる。
「そういえば、ハーピーたちがいないな。さすがに、ここに続いている穴までは入ってこれなかったか」
ここに入ってきたら、元に戻れないことを知っているのだろう。
かなり賢いみたいだからな。
皆が足場を上がるのを待っていると、部屋の空気が冷えてきた。
「おい、来たぞ! 早く上がれ!」
「ひえぇぇ!」「待ってくれ!」
男たちが、あたふたしている。
「慌てず、急げ!」
姫の指示が飛ぶ。
「ヒヒヒ」「ヒヒヒ」
部屋の中に現れたのは、レイスの群れだが、それだけではない。
「ムォォォ!」
奴らの親玉とも言える、リッチもお出ましだ。
やはり、この階層でのリッチは、中ボスでもなんでもなく、通常の敵だということだろう。
「リッチだ!」
「カガリ、早く上がれ!」
カガリがイロハに突かれる。
「でも、あのオッサンが!」
「ダーリンなら、大丈夫だ」
「で、でも!」
「早く上がれ!」
俺は魔力を溜めた剣を頭の上に掲げた。
「くらぇ! ナムサンダー!」
俺の声に応えて――暗い部屋の中、息を潜めた静寂が支配する空間に、突如として光が生まれた。
閃光が直線ではなく絡み合った鎖のようにねじれ、複雑な軌跡を描きながら闇を裂いていく。
その雷撃は生きているかのように動き、青白い光を放ちながら部屋の中を巡る。
攻撃は次々とレイスを屠り、最後はリッチに命中した。
「ギャアァァァ!」
敵に命中した光は、闇を拒絶するかのように激しく明滅し、壁や天井に絡む影を引きずり出す。
かなりのダメージを負ったのか、リッチは動きを止めた。
「チャーンス! とぉ!」
俺はジャンプすると、手に持った光り輝く刃を、敵に向かって切りつけた。
「グワァァァ!」
部屋を真昼間のように明るくする閃光とともに、リッチが消える。
それと同時に、金色の枠に囲まれた宝箱が落ちてきて、ガラスが鳴る音を立てた。
俺はその箱をアイテムBOXに収納。
皆の下に舞い戻った。
「オッサン、すげぇぇぇ!」
「ほら、ダーリンは大丈夫だろ?」
「スゲーよ、ねぇちゃん!」
「あたいが惚れたんだから、スゲーのは当然だろ?」
え? 子どもを作るだけの計画だと思ったのだが、本気なのだろうか?
まぁ、オッサンの俺が美人にモテるなんて、男冥利に尽きるんだが。
イロハの言葉に、姫も反応していないようだ。
サナの態度には、すごく反応するのに、意味が解らない。
そんなことより、ここから脱出するのが先だ。
「早く上がってくれ! まだ、敵が湧くかもしれん!」
「そうだ、急げ」
「ひぃぃ!」
足場があるとはいえ、天井に開いた穴に潜り込むのに苦労しているようだ。
ハシゴを出してやったほうがいいか。
アイテムBOXからアルミハシゴを出して、下から上にいるイロハに手渡した。
「これを使えばいいかもしれん」
「おっと、ダーリンサンキュー!」
やはり、ハシゴを立てると、スムーズに上がれるようで、撤収はすぐに完了した。
辺りを確認しつつ、しんがりの俺も、足場に飛び乗りハシゴを駆け上がる。
最後にハシゴを回収した。
「よし、上れ上れ!」
「ひぃぃ!」
男どもは、悲鳴を上げてばかりだな。
それに引き換え、女性陣のたくましいこと。
そのまましんがりは俺が務めるが、眼の前にはコエダがいる。
ちょっと中腰になれば上れるから、四つん這いになる必要もない。
皆で穴の中に垂らされたロープを握って上っていく。
やっぱりロープがあったほうが上りやすい。
足が滑ったとしても、滑落も防げるだろうし。
「はぁ~、アイテムBOXを持っているダーリンさんがいれば、ダンジョンの穴掘りがはかどるのになぁ」
「おいおい、妹さんまでダーリン呼びなのかよ」
「カガリでいいよ」
「まぁ、これからダンジョンで会うかもしれないから、よろしくな」
皆で穴の中を上っていく。
しんがりの俺は、後ろを警戒しながら先に進むが、この穴の中でも魔物が湧かないとも限らない。
俺の心配は的中することもなく、6層に到着した。
「や、やったぁ!」「た、助かった!」「うう……」
「おいおい、まだ気が早いぞ。ここは6層の真っ只中なんだからな」
ロープを引っ張り上げて回収する。
「この穴は危険過ぎるから、止めたほうがいいだろうな」
「でも、6層以上の魔物が湧くんだぜ? 今まで以上のレベルアップのためなら、必要だろ?」
イロハは、この穴を使いたいようだ。
まぁ、構造は解ったし、敵とエンカウントする場所も解った。
罠もないようだし。
「7層に到達できないなら、ここを使うしかないが……」
姫もこの穴が気になるようだ。
かなりのレベルアップをした彼女だが、もっと高レベルの階層で戦わないと、レベルが徐々に落ちてしまう。
「その7層なんだが、姫」
俺はカガリのツルハシの能力を見て、あることを思いついた。
「なんだ、ダーリン」
「カガリのツルハシで、7層が攻略できるかもしれん」
「穴を掘るのか? それだと別の場所につながってしまうぞ?」
「いや、天井の穴をどんどん横に広げていくんだよ。それが7層の壁まで到達すれば、中に入れると思わないか?」
以前、そんな妄想をしたことがあったが、カガリのツルハシがあれば、それが現実になるかもしれない。
「……」
俺の言葉に姫が固まっている。
「イメージできないかな?」
「なるほど!」
「ぴゃ!」
彼女が突然大声を出したので、コエダがびっくりして、飛び上がった。
「それは面白そうだ!」
「そうだろ?」
「おいおい、あたいも混ぜてくれよ」
イロハも加わってきた。
「7層の壁に穴を開けてしまえば、危険な足場など使う必要がなくなるしな」
「ものがダンジョンに吸収される心配もない……」
「そういうわけだ」
ワイワイと、7層の攻略法を話していると――。
「ふわぁぁぁ……」
コエダが大きなあくびをした。
「おっと、ここに潜ってかなり時間がたったからな」
俺の言葉を聞いて、カオルコが自分のアナログ時計を確認している。
「今は、朝になって、7時頃ですね」
「ありゃ、完徹してしまったか」
飯さえ食っていれば、高レベル冒険者は徹夜も平気だからな。
姫との無制限1本勝負も、飯を食えば延々とできるし……。
あな恐ろしや冒険者。
「姫、このまま一気に地上へ戻るか? それとも安全地帯で仮眠を取るか?」
「安地で仮眠を取る」
姫の即断即決に――俺たちは、6層の安全地帯に向けて出発した。
まだ6層の中間なので、魔物とエンカウントする可能性が高い。
「ギャ! ギャ!」「ギャー!」
「おっと、ハーピーか」
「え?! ハーピー!? マズイんじゃ!?」
俺の言葉にカガリが反応した。
「あ~、多分大丈夫だよ」
すぐにハーピーが俺の近くに降りてきた。
ギギとチチだ。
「ギャ!」
2羽が俺の肩と頭に乗ってきた。
「はは、さすがにお前らもあの穴には入ってこなかったな」
彼女たちに食い物をやる。
「えええ!!? なんで、ハーピーが懐いているの?!」
「この子たちは、なぜか懐いているんだよ。食い物をあげてるせいかもな」
「信じられね~」
「ダンジョンの道案内もしてくれるし。いい子たちだよ。俺たちも、なん回も助けられたし」
「ダーリンの言うとおりだぞ」
イロハは、ハーピーたちのことを悪く思っていないようだが……。
「……ああ」
姫はイヤイヤ認めた。
そんなに嫌わなくてもいいのに。
ハーピーたちの案内で、俺たちは迷うことなく、6層の安全地帯に到着した。
ラッキーなことに、敵とのエンカウントもなかったし。
ツイてたな。