84話 強力な敵との戦闘のあとは
レイスが出てきたと思ったら、7層の中ボスだったリッチとエンカウントした。
イレギュラーで発見された階層なので、魔物の出現が違うのだろうか?
こんな場所にいきなり冒険者が放り出されたら、生き残ることは難しい。
一番最初の部屋には、冒険者たちの残滓のようなものが残されていた。
その遺産を使って、俺達はリッチを退けることができ、サナは新しい装備をゲット。
刺繍とレースが美しい黒いドレスだ。
ただ、乳暖簾だが。
そう、このドロップアイテムは、カオルコがゲットした装備と同系列のものだと思われる。
このダンジョンの攻略が進み、リッチが倒されまくったら、女子はみんな乳暖簾になるのだろうか?
いや、まてよ――女子が止めを刺したら、乳暖簾。
それじゃ、男子の装備はどうなるのだろうか?
興味は尽きない。
眼福なサナの乳暖簾装備を堪能しつつ、さらりと流すのが大人の対応だ。
あくまでもさらりと、さり気なく。
決して、サナの下乳が見たいから、乳暖簾装備を勧めたわけではない。
あくまで彼女のため。
彼女が冒険者としてレベルアップを望むのであれば、あの装備は必須なはず。
それならば――多少のデメリットがあっても、他の選択肢はないだろう。
「ダ~リン!?」
姫に睨まれる――バレテーラ。
「カオルコのときには、そんなに怒らなかったのに」
「私の装備だって、こうやって上にズラせば――」
彼女が胸のアーマーを上にずらして、下乳を作ってみせる。
「はいはい、そういうことは止めようねぇ」
「キー!」
彼女のちょっと本気なぽかぽか攻撃を全部躱す。
だって、当たるとマジで痛いんだもん。
ぽかぽかじゃなくて、ぼこぼこ、ドカドカだし。
「ほら、姫! 先に進まないと」
「わかっている!」
彼女がプイと前を向くと、通路を進み始めた。
俺も一緒に進み、アイテムBOXから出した瓦礫を使って、罠潰しをする。
今のところ、罠はないようだ。
生き残りがいるなら、逃げる方向はこちらしかない。
罠があれば、すでに作動していてもおかしくないが、踏み込んで作動する罠なら、たまたま踏まなかっただけかもしれないし。
未踏のダンジョンだし、安全性を重視するに越したことはない。
ここで大怪我でもすれば、地上に戻るしかなくなる。
もしかして、イロハは残ると言い出すかもしれないが。
ここで、今生の別れとなると、それはかなりツライ。
ちょっと知り合っただけの仮のパーティならそれほどでもないが、イロハはそうじゃないしな。
皆で慎重に進むと、壁が見えてきた。
「壁?」
俺の言葉に、カオルコが答えてくれた。
「いいえ、二手に分かれています」
「右か左か、それが問題だ」
どちらに進むか、姫に任せる。
彼女がリーダーだからだが……。
「私は右かなぁ……」
通路を見ていたサナが、小さく呟いた。
「よし! 左だな!」
姫が左に決めたが、なんだか盛大なフラグになっているような気がするのだが、気のせいか?
――とはいえ、リーダーが決めたことだ。
俺たちは、T字路を左に進んだ。
薄暗い通路は、魔法のわずかな明かりが揺らめき、湿った石壁が重苦しい雰囲気を醸し出している
狭い空間にただひたすら漂うのは、俺たちの足音と静かな呼吸音、未知の恐怖に満ちた空気だけだ。
通路の先は、結構大きな部屋。
部屋というよりはホールと言ったほうがいいか。
ガランとしていて、なにも見当たらない。
「なんだこりゃ、ハズレか?」
「桜姫、こりゃやっぱり右だったんじゃないのか?」
イロハがちょっと不満めいた声を上げた。
「結果論だ!」
まぁ、そうかなぁ~と思ったのだが――なにか嫌な予感がしてきた。
部屋の空気が突然重くなり、まるで見えない何かが押し寄せてくるような感じだ。
空間全体がひんやりと冷たく、息がしづらくなるほど。
音もなく、ただ不安定な静けさが広がる。
「おい、なんかおかしくねぇか?」
目には見えないなにかが部屋の中を漂っているような感覚に襲われ、イロハも異常な空気を感じ取っているらしい。
「グォォォ!」
突然、奥から怒号のようなものが聞こえてきた。
暗闇が一層深くなったかのように感じられたその瞬間、地響きとともに不意にそこからなにかが現れた。
最初は、まるで影が揺らめいているような不確かなものだったが、その影が次第に形を帯び、異様に大きな輪郭が浮かび上がる。
俺はアイテムBOXからカメラを出して動画を撮り始めた。
その姿は、漆黒の闇そのもの。
艶めいた黒い肌が、かすかな光を反射して異様な輝きを放ち、巨大な体躯は天井近くまで届くほど。
見る者を圧倒する威圧感を漂わせている。
無数の筋肉が絡み合うような体つきが、動くたびにその肉塊が不自然に波打つのが見えた。
顔は獣と人の中間のようで、鋭い瞳が暗闇の中で赤く輝く。
口元には恐ろしいほど長い牙が並び、軽く息を吐くだけで、周囲の空気が低く唸るような音を立てる。
俺の脳裏には、以前に戦った赤い肌を持つ魔物の姿がダブっていた。
「こいつは――以前にエンカウントした、レッサーデーモンに似ていないか?」
「ダーリン、こいつはレッサーじゃないぞ!」
「――ということは、本物のデーモンですか?!」
カオルコの予想は外れてほしいのだが、どうやらそれが正解らしい。
「逃げたほうが――」
俺たちがやってきた通路を見ると、いつの間にか閉じている。
扉が閉じた――そんな感じではない。
どこが入口だったのか、まったく解らない状態になっていた。
こりゃ、倒さないと抜け出せない部屋ってやつか。
「グォォォ!」
ホールにデーモンの咆哮が響き渡る。
それが耳に届く瞬間、ただの音ではなく、存在そのものが圧し掛かるような感覚が襲いかかった。
その音色は鋭く、刺すような冷たさを帯びていて、聞いた者の心臓を直接握り締めるような恐怖を引き起こす。
肌を突き刺すような寒気が全身を走り、まるで魂そのものが氷の檻に閉じ込められたかのようだ。
俺は大丈夫――姫とイロハも問題ない。
後ろをチラ見した。
カオルコは大丈夫、サナとコエダもなんとか耐えているようだ。
「サナ! 悪いが、その杖を貸してくれ!」
「え?! は、はい!」
リッチとの戦闘を見るに――こいつは魔法の杖じゃなくて、打撃武器だ。
それなら、レベルが高い俺が持ったほうが、効果が高い。
「コエダ! バフをよこせ!」
「は、はい!」
コエダが唱えた魔法によって、イロハの身体が青い光の粒子に包まれた。
「魔導師たちは、防御に徹しろ! こいつは魔法を使うぞ!」
姫の指示が飛ぶ。
レッサーデーモンは魔法を使っていたから、上級種のこいつも使う可能性がある。
おそらく、赤いやつより強力な魔法を。
「「「はい!」」」
姫の声に、魔導師たちが揃って返事をしたのだが――。
暗闇の中で、まるで突然現れた花のように、魔物の口がゆっくりと開いた。
魔物の喉奥からほのかな光。
それは小さな火種のように弱々しいが、瞬く間に強さを増し、まるで宇宙の塵が集まるように、無数の光の粒子が周囲から引き寄せられ、魔物の口内に吸い込まれていく。
「魔法だ!」
姫が叫んだのだが、すでにカオルコが魔法の準備をしていた。
「聖なる盾!」
敵の口内に光の粒子が集まるたびに、空気がビリビリと震え、耳をつんざくようなエネルギー音がかすかに響き渡る。
デーモンの口がより大きく開くと、溜まっていた魔力が一気に吐き出された。
真っ暗だったホールが、突然真昼のように明るくなり、3人が固まっていた場所が閃光に包まれる。
ホールに存在しているものの影が、床や壁にくっきりと浮かび上がった。
「!」
「ダーリン!」
女の子たちが心配だが、魔法を撃った今がチャンスだ。
姫も、カオルコを信頼しているから、攻撃に移るのだろう。
魔法を吐き出している間、敵は無防備になっている。
俺と姫、イロハが一斉に四方から、デーモンに襲いかかった。
「おらぁぁぁ!」
魔法の残滓が残っている魔物に、素早く接近すると、サナから借りた杖を振りかぶった。
俺は右利きなのだが、バットを振るのは左打席なのだ。
「グォォォ!」
「ダーリン!」
俺をめがけてデーモンの右手が襲うと、敵との間に入った姫が、剣で下から上に45度に切り上げた。
丸太のような指が落ちると、白い断面が現れる。
じわっとなにかが滲み出し、滝のような流れになった。
おそらく、魔法がエンチャントされている武器を使っているから、この巨大な魔物にダメージを与えられるのだろう。
普通の剣では、攻撃が通らないはずだ。
「サンキュー、姫! 一本足打法! ジャストミート!」
右足を上げ、渾身の力を込めると、俺の水平のフルスイングが一閃した。
鋭い風切り音が漆黒を切り裂き、目にも止まらぬ速さで魔物の膝元を薙ぎ払う。
瞬間、閃光と鈍い衝撃音とともに魔物の膝から下が宙に舞った。
「ウグァァァ!」
破断された面からは黒い霧のような血液が噴き出し、魔物の巨大な体がぐらりと揺れる。
失った足元を支えることができず、巨大な身体は地面に崩れ落ちた。
「はは! こいつはやっぱり打撃武器ってことだな!」
敵に隙ができた。
魔導師たちのほうをチラ見する。
カオルコを筆頭に、みんな無事だ。
さすが、エンプレス。
「おりゃぁぁぁ!」
イロハが両手で剣を振り上げると、倒れた魔物の身体を踏み台にしてジャンプした。
魔法の明かりに、刃が白く光る。
躊躇など一切なく、敵に向かって一直線。
魔物の頭を目掛けて、剣を振り下ろす。
「おお!」
俺は下から見ているので、詳細は解らないが、イロハの剣がデーモンの頭を両断したように見える。
普通の生き物なら、これで絶命間違いないのだが……相手は魔物だ。
最後の最後まで、解らない。
「収納!」
俺のアイテムBOXに収納できないってことは、まだ生きている。
「ゲボボボォ!」
頭を真っ二つにされて、デーモンが上半身を起こした。
魔物の上にいたイロハを、黒い肉塊のような巨大な腕が襲う。
「ぬぉぉ!」
かろうじて、剣を盾にして攻撃を避けたが、衝撃でイロハが水平に飛ばされた。
そのまま石の床に叩きつけられて、ゴロゴロと転がっていく。
「イロハ! 野郎!」
俺はアイテムBOXから、大きな魔石と投石器を取り出した。
魔石は俺の魔力がたっぷりと込められているやつである。
俺はフルパワーで投石器を回し、デーモンに向かって魔石を発射した。
青い光を内包した黒い魔石が、魔物の肩口あたりに命中。
肉が弾け飛んで、白い骨などが剣山のように露出した。
「ギュォォェ!」
魔物の喉から地の底を揺るがすような絶叫がほとばしる。
「まだ生きているのか?!」
これだけ攻撃を食らって死なないとなると――もしかして無敵?
みたいな考えが脳裏にちらつく。
「このクソがぁぁぁぁ! いい加減死んでろぉ!!」
俺の視野の外から飛んできたのはイロハだった。
きらめく刃を掲げて大ジャンプ――再度瀕死のデーモンに攻撃をかけた。
天井に届くかと錯覚するような大ジャンプからの袈裟斬り――黒い筋肉の塊のような魔物の肩口に刃が食い込んだ。
そのまま銀色の鋼鉄が肉に食い込むと、勢い余って切っ先が床にぶち当たり、オレンジ色の火花を飛ばす。
「グ……」
潰れた頭が血を噴き出しながら動かなくなると、魔物の上半身が徐々に分かれていく。
黒いものが溢れ出し、臓物が飛び出す。
近くにいたイロハは、噴水のようにそれを頭から浴びた。
立ってちょっと上を見ていた彼女の身体を白い光が包み始めた。
レベルアップだ。
これが始まったってことは、完全に魔物は息絶えたのだろう。
こいつはリッチより強敵だった。
7層の中ボスクラスか、8層の魔物ってことになるかもしれない。
そうだとすれば、レベルアップも当然だ。
「収納!」
俺はアイテムBOXの中にデーモンの身体を収納した。
こいつは買い取ってもらえそうにないから、大学のセンセのお土産だな。
「ダーリン!」
「姫、大丈夫か?」
「無論」
辺りを警戒するが、魔物の気配はないようである。
姫に警戒を任せて、カオルコたち魔導師の所に行く。
「みんな大丈夫か?!」
「はい」「だ、大丈夫ですぅ……」「大丈夫です」
コエダがかなりガクブルしていて、膝が笑っている。
相当ビビったらしい。
まぁ、俺たちじゃなきゃ、こんな魔物とエンカウントしたら、即死しているかもしれんし。
「サナ、ありがとう。杖を返すよ。やっぱりこいつは打撃武器だ」
「え~?! 魔法の杖なのに、打撃武器なんですか?!」
俺の言葉に、コエダが驚いている。
「まったく、捻くれているよな、ははは」
このダンジョンはまともに攻略なんてさせるつもりはないらしい。
魔導師たちに、デーモンの強力な魔法が放れたが、壁などの損傷はないようである。
不破壊属性みたいなものがあるのか。
まぁ、入口を壊されて逃げられたら、そこで終了になってしまうからな。
扉なら、アイテムBOXに入れるという裏技が使えたが。
イロハのことも心配なので、彼女の所に向かう。
魔物の身体はアイテムBOXに入れたが、その場所になにか黒い布のようなものがある。
ドロップアイテムだろうか?
強力な魔物だったので、いいアイテムならいいが。
そのとき、地響きのような音がホールの中に響いた。
どこかが開いたような音である。
これで先に進めるってわけだ。
「お!」
どこが開いたのか探していると、イロハのレベルアップも終了したようである。
それにしても――全身真っ黒で墨を被ったみたいだな。
「……」
「おいイロハ、大丈夫か? 姫、洗浄! をかけてやってくれないか?」
「承知した――洗浄!」
青い光がイロハの身体に染み込むと、彼女の筋肉質の身体が現れたのだが――戦闘の影響だろうか?
それとも、戦闘前にかけたバフの影響だろうか、彼女の筋肉がビクビクと痙攣して蠢いていた。
露出している肌は紅潮し、全身から汗が噴き出している。
持っていた武器は、そのまま足元に転がっていた。
「おい、イロハ」
「……うぉぉぉぉぉ!!」
突然、彼女が握り拳を構えて、全身を震わせながら叫び声を上げた。
その声は単なる音ではなく、まるで体の内側から溢れ出す激流のよう。
彼女が倒したデーモンの咆哮に負けないぐらいに、俺たちの身体を震わせる。
「なんだ?! 壊れたのか?」
姫が変なことを言う。
「俺は知らないけど、こういうことってあるのか?」
「バフのせいかは解らないが、戦闘で極度の興奮状態になると、敵味方見境なく襲いかかったりする」
「え?! それっていわゆるバーサーカー状態じゃね?」
「そうとも言う」
そうともって――どうするのよ?
「ううう……」
姫と話していると、イロハがこちらを向いた。
口からはよだれを垂らし、目は狂気に満ちており、どう見てもまともな状態ではない。
「イロハ! ちょっと待て待て!」
俺の言葉に、彼女が一歩前に足を踏み出した。
それと同時に、白い軌跡が俺の目に映り、殺気に背中が粟立つ。
「ぐわぁぁ!」
マジで殺気の籠もった本気の攻撃だ。
以前にもこういうことがあったが、今の彼女はレベルアップして、魔法のバフまでついている。
彼女の左ストレートを躱し、右アッパーを躱した時点で、反射的に反撃してしまった。
鋼鉄のような腹筋に右のボディブローを入れる。
以前のように、彼女の身体がデカいので、下腹部に命中してしまう。
殺気に反応してしまったので、俺も結構本気の攻撃を返してしまった。
「んおっ!」
イロハの口から、声が漏れる。
身体は痙攣し、つま先立ちで身体をねじっている。
「おい、大丈夫か?!」
「んぉっ! おおおおおっ!」
彼女がその場で固まっていると、その下半身から色々なものが漏れてきた。
ほとばしるものが、ふともも、膝、足首をたどり、床に黒い染みができる。
そのまま川となり、海のように広がった。
「イロハ」
どうやら、攻撃は収まったようである。
殺気もなくなった。
咄嗟に攻撃をしてしまったのだが、結果オーライ。
右手を出して、彼女に近づこうとしたのだが――神速の速さで俺の両肩を掴まれた。
攻撃ではなく、殺意もなかったので、反応できなかったのだが……。
「……ダーリン、責任取ってくれよ……」
彼女が真っ赤な顔と、潤んだ瞳で俺に迫ってくる。
「責任って――んんん!」
彼女に持ち上げられて、キスをされる。
足がブラブラで、この状態になったら、なにもできん。
まぁ、俺も本気なら、蹴りを入れたりして脱出できるのだが、イロハに殺気はないし――なすがまま。
そのまま押し倒されて、石の床に背中を打った。
「いたぁ」
「ダーリン……」
彼女が下の装備を脱ぎ始めた。
おいおい、なにを始めるつもりだ。
キスならいいかと無抵抗だったが、そこまでやるとは思ってなかった。
さすがに制止する。
「待て待て、こんな所でなにをするつもりだよ!」
「決まってるんじゃねぇか……」
その言葉どおりに、彼女は準備万端整ってしまっている。
「そんなことをしている場合じゃないだろ? 妹さんのことはどうするんだよ」
「それは、とりあえずやってから考える!」
「おいおいおい」
「もう、我慢できねぇんだよ!」
攻撃性はなくなったが、極度の興奮状態なのは変わりないようだ。
イロハに舐め回されながら、姫に助けを求める。
「姫!」
「そうなったら、もう止まらんだろ? 好きにさせてやれ。本人がいいと言ってるし」
「いいのかよ! ――と言いつつ、なんで姫も脱いでいるの?!」
彼女が装備をズラして、肌を見せている。
ビキニアーマーなので、こういうときには便利――いや、そうじゃねぇ。
「待ってください! なんで突然、そんなことをしているんですかぁ!」
2人が突然モロ出しになって、色々とアカンことをやり始めたので、サナが飛んできた。
「そうだ、サナ。もっと言ってやってくれ」
「お前はこんなことはできないだろう? 引っ込んでろ」
姫の挑発な言葉に、サナが顔を真っ赤にした。
「な、なんですか、それぐらい! 私にだってできます!」
彼女が乳暖簾を捲った。
当然、大きなものが2つ顔を出す。
「待て待て待て!」
なぜかダンジョンの真ん中で、3人との無制限1本勝負が始まってしまう。
サナとは、しないつもりだったんだがなぁ。
――とはいえ、彼女とそういうことをすると、せっかくの回復の力がなくなってしまうので、そういうことはしないが。
参加していないカオルコを見ると、どうやら呆れている様子。
彼女まで参加してきたら、どうしようと思ったのだが、辺りを警戒してくれているようだ。
さすができる女だ。
もう1人のコエダは、興味津々に俺たちのことを覗き込む。
混ざらないでくれよ~。
そんなこんなで、ダンジョンの中で無制限1本勝負に突入してしまう。
こんな場所でやらなくてもいいと思うのだが、火が点いてしまったので、仕方ないのだろう。
とりあえず消火しないと、どうしようもない。
先にも進めないからな。
ちょうど戦闘で腹も減っていたので、終わったら腹ごしらえでもするか。
「ん~?」
俺は――サナの白い背中に気になるものを見つけた。
黒い模様のようなものがあるのだ。
痣のようには見えず、左右対称の幾何学模様に見える。
このことを彼女に聞いていいものだろうか?
もしかして、気にしていることかもしれないしなぁ。
聞くに聞けない。
そんなことを考えていると、なん回目か解らんが、イロハが俺の上に乗ってきた。
まだ勝負するのか?
妹さんのことはどうするんだろうなぁ――と考えていると――。
「……」
なにか聞こえたような気がする。
気のせいか?
「イロハ! ちょっと待て」
「なんだよ――ダーリンは黙って寝てればいいんだよ……」
「いいから待て!」
「……」
やっぱりなにか聞こえる。
抱きついてくるイロハを制し、黙らせてから耳を澄ませる。
「な、なんだよ……」
「いいから!」
『……ザケンナァ……』
これは間違いなく――人の声だ!