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82話 見知らぬ階層へ


 イロハの妹さんが、ダンジョンで行方不明になったということで、捜索と救助にやって来た。

 妹さんは冒険者ではなく、ダンジョンに穴を掘るモグラというのを生業にしている。


 俺たちはダンジョンに潜ると6層に到着したのだが――イロハからの情報だと、もぐらの連中はここで作業をしていたようだ。

 その入口を探したのだが、見つけられず、俺はハーピーたちの力を頼ることにした。


 その目論見どおり、ハーピーがもぐらの連中が開けたらしい穴を発見。

 俺たちは、その穴の中を降りることにした。


 姫を先頭に、俺たちは深く暗い穴の中を慎重に進んでいく。

 降下角度は20度ほどで、緩やかに傾斜しながら下方へと続き、底なしのように奥まで続くように見える。

 その内部は何も見えないほどの暗闇に包まれ、空気は冷たく湿り、土のにおいとかび臭さが鼻を刺す。


 姫は先頭に立ち、慎重な足取りで降りている。

 彼女の白い肌がぼんやりと闇の中で光を放ち、後ろに続く者たちの道しるべになっていた。

 足元の地面は滑りやすく、踏むたびに小さな砂利や土の粒が転がり落ちていく音が静寂の中に響く。


「上から大きな石を落とさないでくれよ」

「気をつけるぜ」

 上からイロハの声が聞こえる。


「怖いですぅ」

 これはコエダの声だろう。

 この状態では、イロハにしがみついたりはできないはず。


「こういう所は、整備されて階段ができてから来る所だよなぁ」

「まったくだな」

 列を成した面々は、お互いの距離を詰めつつも、落ち着いて慎重に足を運ぶ。


 すでに200mほど下降しているが、底が見えるようには思えない。

 このロープもどこまで続いているのだろうか?

 少々心配していると、先頭を降りていた姫が声を上げた。


「ダーリン、ロープがなくなった!」

「ええ?!」

 この角度なら、ロープがなくてもなんとかなりそうだが……。

 もぐらの連中がそのまま降りたとなると、そろそろ下につきそうな気がする。

 いや、どういうことだろう。

 よくわからないが、彼らがこの穴の下にいるのは、間違いないと思うのだが……。


「俺のアイテムBOXからロープを出すよ」

 地獄からの帰還を教訓にして、大量のロープとハシゴを、アイテムBOXに入れている。


「承知した」

 アイテムBOXからロープを出して、途切れた先端と結ぶ。

 力を入れて引っ張ってみるが、問題ない。


 ロープの塊を下に落とした。


「姫にはロープと一緒に降りてもらうことになるけど――俺がやるか?」

「大丈夫だ。蹴りながら下に落としていけばいいのだろう?」

「そうだな」

 少し降りると、姫がロープの塊を蹴り落とす。

 そんな感じで10分ほど下ると――。


「ん?! 穴が途切れてないか?」

「確かに」

 途切れているといっても、行き止まりではない。

 魔法の明かりに照らされていた穴が途中でなくなり、黒い穴になっている。

 これは下に空間があるのだろう。


「ダーリン」

「俺が穴の所に行く」

 下がどうなっているか確認して、降りられるならハシゴなどをアイテムBOXから出さないと。


 穴が途切れている場所まで来ると、ぽっかりと黒い円が浮かんでいる。

 まるで明かりが吸い込まれているブラックホールのようだが、その手前に奇妙なものがあった。


 岩が彫り込まれて、そこにロープが結びつけられていて、伸びたロープがそのまま穴の中に垂れ下がっている。

 ――ということは、この穴は階層の天井部分に出たのか。

 ここを降りるためにロープを使ったので、穴の途中で途切れていたのかもしれないな。


 ロープを掴んで、穴の中を覗き込む。


「なにか見えるか?」

「ロープが垂れている先は見えるが、よく解らん」

 そうだ――カメラについているライトを使ってみるか。

 アイテムBOXからカメラを取り出すと、穴の中を照らす。


 光が届いて、石畳の床が見えたので、アイテムBOXからケミカルライトを出すと、下に投げた。

 緑色の光が落下していき、途中で止まる。


「10mぐらいかな?」

「それなら降りられそうだな!」

 イロハの声が聞こえるが、制止した。


「天井部分は薄くなっているかもしれないから、あまりこちらには来ないでくれ。天井が抜けるかもしれん」

「おっと!」

「さて――どうやって降りるか……」

「ロープは床についているのだろう?」

「ああ、しかし――カオルコ、コエダ、サナもいるし……」

 しばし考える。


「あれを使うか」

 アイテムBOXに入ったままになっていた足場の瓦礫だ。

 7層の高台入口を攻略するために作った特注の単管の足場を作ったが、迷宮教団の襲撃に遭ってガラクタになってしまった。


 どうせ使い道もないし、処分に困っていた。

 ここに捨てていってもいいだろう。

 幽鬼の魔法でダンジョンに吸収されなくなっているが、足場として使えるならちょうどいい。


「ダーリンどうする? 私が先に降りるか?

「いや、アイテムBOXにあるものでなんとかしようと思うから、俺が降りるよ」

「承知した」

「いくぞ」

 俺は穴を覗き、ロープを掴むと暗闇の中に身体を投げ出した。


「よっと」

 緑色の光が出ている近くに降り立つと、辺りを確認する――問題なし。

 ここはダンジョンだし、いつ魔物がポップしてもおかしくない。

 ここが安全地帯なら問題ないが、確認されていないしな。


「ダーリン」

 上から姫の声がする。


「大丈夫だ」

 俺はアイテムBOXから足場を召喚した。

 空中に出現した足場が、ダンジョンの床に落下して、デカい音を立てる。

 周りは岩場なので、音がキンキンと反響する。


「!」

 俺は、周囲を警戒した。

 この音で魔物が集まってくるかもしれん。


 出したものを見ると――破損した足場が横倒しになっていた。


「これは駄目だな」

 一旦収納して、部屋の外れに出し直した。

 こいつは、ここに置いていこう。

 捨てるつもりだったしな。


 迷宮教団の作り出したキメラに襲撃された際に、足場が破壊されてしまったが、多少マシなものも残っていたはず。


「足場召喚!」

 縦に立った足場が出現した。

 こいつは、多少歪んでいるが、使える。

 位置を微調整して、穴の真下に来るように持っていった。


「いいぞ! すぐ下に足場を出したから、安全に降りられるはずだ」

「承知した」

 声がすると、すぐに姫が降りてきた。

 上を見上げて、降りてくるように促しているようだ。

 1mぐらいの高さは残ってしまったので、注意しないと危ない。


「脚立もあるから、出そうか?」

「大丈夫だ! 問題ない」

「きゃあ!」

 姫にキャッチされて、カオルコが降りてきた。

 スカートがめくれて、ムチムチの太ももが見える。


「お~い! カオルコ、ここにも魔法の明かりを出してくれないか? 足元が暗いからな」

 皆が暗闇で見えるといっても、多少の明かりでもあれば解像度が違う。


「は、はい――光よ!(ライト)

 彼女が唱えた魔法によって生み出された明かりによって、足場の姿が光と影によって形をなす。

 ダンジョンの中もかなり視界が開けた。

 俺たちが降りたのは、ちょっと大きめの部屋のようだ。


「つ、次は私が行きます!」

 コエダの身体が現れた。


「行きます!」

 その次は、サナ。


「おっしゃ!」

 最後は、イロハが降りてきた。

 乱暴に降りてきたので、足場が大きな音を立てる。


 姫とイロハは足場から飛び降り、魔導師の女の子たちは、足場に備え付けられている階段を使って降りてきた。

 ロープにぶら下がるより、階段のほうが安全だろう。

 それに逃げるときだって、ロープを使って上るのは大変だ。


 姫やイロハは余裕だろうが、魔導師チームにはちょっと無理だと思う。


「さすがダーリンだぜ! これなら、逃げるときにも余裕だろ?」

「やっぱり、そこが気になるよな」

「ああ」

 イロハが、上の穴を見上げている。


「こいつには、幽鬼の魔法がかかっているから、しばらく保つと思う」

 魔法の効果がどのぐらいかは解らん。


 全員揃ったので、辺りを確認する。

 大きな石づくりの部屋だが、がらんとしていてなにもない。

 あるのは、口を開いている出口らしき穴だけ。

 まさか、ここで行き止まりということはあるまい。


 それとも、ここで全滅して、ダンジョンに吸収されてしまったのだろうか?

 思わずそのことを口に出しそうになるが、イロハのことを考えると、もちろんそんなことをできるはずがない。


 そういえば、死体や外から持ち込んだ装備などはダンジョンに吸収されるだろうが、ダンジョンから出たアイテムなどはどうなるんだろう。

 元々ダンジョンのものだしな。


 皆で次の行動を考え込んでいると、サナが俺の服を引っ張った。


「ダイスケさん、寒くありませんか?」

「寒い? ――そういえば……」

 サナの口から出る息も白い。

 突然、部屋の空気がひやりとした重みを帯び、まるで目に見えない冷気が隙間から忍び込んできたように感じた。

 肌に触れる空気がどんどん冷たくなり、自然と肩が縮こまる。

 俺の吐く息も白い色がつく。

 何か得体の知れないものが、まるで見えない影のように部屋全体に張り詰めているかのよう。


 この雰囲気には思い当たる節がある。

 突然、宙に白いものが舞い始めた。

 思った通り――。


「ヒヒヒヒ」

 白いゆらめきが形をなし、不気味な声を上げた。


「レイスだ!」

「ひぃ!」

 俺の近くにいたサナの顔が引きつる。

 もしかして、幽霊とか苦手なタイプなのだろうか?

 そういえば――こいつは幽霊なんだよな?

 なんか、魔物ということで、普通に受け入れていたな。


 俺も、このダンジョンをゲームかなにかと思ってしまっていたのではなかろうか。

 そんなことより、サナだ。

 身体が硬直して、カタカタと震えている。

 これはもしかして――なにかの状態異常なのだろうか?


 ゲームだと、混乱や恐怖、錯乱などの状態異常があったりするし。

 俺は動画の撮影を開始した。


「サナ!」

 手を振り上げて、彼女のお尻を叩く。

 申し訳ないが、非常事態だ。


「ひゃぁぁ!」

「しっかりしろ!」

「は、はい」

「そんなことじゃ、姫には追いつけないぞ」

「ふっ」

 姫がこちらをみて、ニヤリと笑った。


「やります!」

「大丈夫みたいだが、魔法は止めてくれ。こいつらは、もう攻略法があるからな」

「え?! そうなんですか?」

「なぁ、コエダ」

「はい!」

 以前のレイス戦に彼女も参加していたから、レイスはもう経験値稼ぎキャラと解っている。


「ダーリンの言うとおり! コエダ、バフもいらねぇぞ」

「はい」

 姫の武器はカオルコのアイテムBOXに、イロハの武器は俺のアイテムBOXに入っている。

 2人に武器が手渡された。

 もちろん――レイスに効き目がある、魔法がエンチャントされた武器だ。


 俺の武器も取り出す。

 ひもの先に魔石がくくりつけられている対レイス用の武器。

 こいつが有効だと解ったので、暇なときに予備も含めてなん個か作っておいた。


 魔石ならたくさんあるからな。

 金ならあるし、小さい魔石を換金してもたいした金にならん。

 魔石を握って魔力をチャージすると、石の中が青く光る。


 そう考えると、俺もずいぶんと成金になったもんだ。

 もう冒険者をする意味もなくなっているのだが、未知の世界に入るとわくわくするという気持ちはまだ残っている。


 姫とのつきあいも残っているしな。

 彼女が冒険に飽きたときが、俺の引退する日だろう。


「これが武器になるんですか?」

 サナはちょっと信じていないようだ。


「レイスなど、あの手の魔物は、魔法か魔法がエンチャントされた武器しか効果がない」

「は、はい」

「つまり、魔力が込められた魔石がそのまま武器になる」

「……」

「信じてないな?」

「い、いえ――そんなことは……」

 そういう顔をしているんだがなぁ。

 ちょうど、俺たちに向かって1匹のレイスが迫ってきた。

 俺は魔石のついた紐を唸りを上げて振り回すと、迫ってくる白い形相に向かって叩きつけた。


「ギャァァァ!」

 叫び声を上げて、白いモヤが四散――甲高い音を立てて、地面に魔石が転がる。


「ほらな?」

「ご、ごめんなさい!」

「ははは」

 まぁ、俺の戦いかたは、どうも正攻法じゃないみたいだからな。


「大丈夫ですよ。私も最初は信じられませんでしたから」

 コエダがフォローしてくれた。


「はは――とはいえ、俺たちの出番はなさそうだがなぁ……」

 俺たちが見ている前で、姫とイロハの戦闘が始まった。


「やぁぁぁ!」「おりゃぁぁぁ!」

 2人が、魔法がエンチャントされた剣を使い、レイスを切り刻んでいく。

 次々と叫び声を上げ、苦悶の表情で白いモヤが四散する。


 これじゃ、俺たちの出番はないな。

 そう思っていると、カオルコがやって来た。


「おふたり、こちらに来てください」

 彼女にサナとコエダが呼ばれた。

 3人で集まって、あーだこーだやっている。

 多分、カオルコの魔法を2人に教えてやってくれと言ったので、レクチャーしているのだろう。


 さっきのサナの発言で、カオルコがへそを曲げてなくてよかった。


「ダイスケさん、なにか?」

 エンプレスがこちらを向いた。


「例の魔法を教えてくれているのかい?」

「はい」

「ありがとう」

「戦力は多いほうがいいですから。サクラコ様が参加すると言ったのでつき合ってますが、正直危ないと思ってますし」

 彼女はこんな感じで、姫に振り回されていたんだろうな。


 おっと、そんなことより、俺は魔導師たちの護衛をしなくては。

 寄ってきたレイスに向かって、振り回した魔石をお見舞いする。


「ギャァァ!」

 一発で霧散する。

 こんな簡単でいいのだろうか?

 もしかして、魔石に込める魔力の差か?


 魔石に魔力がエンチャントされているとすれば、沢山魔力を込めて、高濃度になっているほうが威力があるに違いない。

 アイテムBOXの中にはデカい魔石もあるし――この戦闘が終わったら、もっと大きな武器を作ってみるか。


 魔石のことを考えていると、レイスが寄ってくるので、魔石ではたき落とす。


「ギャァァァ!」

 みんな叫び声を上げて消えるのだが、あまり個性はない感じだな。

 もっと面白いリアクションがあってもいいのに……。


 レイスを倒して後ろを見ると、魔導師の3人に青い光が集まっていた。


「圧縮光弾!」「圧縮光弾!」「あ、圧縮……ぐぐぐ」

 カオルコは当然問題がないが、サナも魔法を展開しているようだ。

 コエダは光がユラユラと揺れてかなり不安定な感じ。


「「「我が敵を撃て!(マジックミサイル)」」」

 3本の光の矢が、空中を漂うレイスに向かう。

 カオルコとサナの魔法は、以前に幽鬼が見せた魔法と同じように見えるが、コエダのは普通の光弾だ。


 3人の魔法がレイスに命中――断末魔の悲鳴を上げて四散した。

 レイスに圧縮光弾だと、威力ありすぎるみたいだな。


「あ!」

 サナの声に彼女を見ると、身体が白く光っている。

 レベルアップだ。

 この前に31になったばかりだが、ここは彼女が持っているレベルより高めの階層なのだろう。


 レベルアップで硬直している間は、なにもできないので、辺りを警戒する。


「まさか、一発で成功するとは思いませんでした……」

 サナの魔法に、ちょっとカオルコがショックを受けている。

 教えるとは言ったが、上手くいかないんじゃないと考えていたのかもしれない。


「私は駄目でした……」

 コエダがしょんぼりしている。


「レベルが足りないのかもしれませんし―― 一発で上手くいくほうが、イレギュラーだと思いますよ」

「やっぱり――サナは、才能があるのかもしれないなぁ」

「悔しいですが、その可能性が……」

 カオルコが本当に悔しそうにしている。

 本当は教えたくはないけど、この状況なので打算的に伝授したのだろう。


「悪いね。無理に言って教えてもらったりして」

「それはいいのですが……」

 なにがひっかかっているのだろう。

 そこは聞けないな。

 単純に魔導師としてのプライドだろうか?


 普段はす~んとしているが、意外とねちっこい性格だったり。


「とりあえず、戦力アップになるしよかったよ。さっきの会話でカオルコがへそを曲げたかと思ってたし」

「それとこれとは別ですが――悪口を言われたことは覚えてますよ」

 彼女が無表情で語るのだが、目が怖い。


「カオルコって、意外と根に持つタイプ?」

「小学生の頃に言われた悪口も全部覚えてますよ」

 おっと、これは筋金入りだぞ。

 話していると、サナのレベルアップが終わったようだ。

 撮影を終了して彼女の所に行く。


「サナ、エンプレスの悪口を言うのは止めておけ。ああいうやつを怒らせるとヤバい」

「は、はい」

「……」

 カオルコの笑顔が怖い。


「ダァァァァリン!」

 4人で話していると、姫がこちらに来る。

 見れば、レイスが全滅しているのだが、ちょっと離れた場所で、イロハが白く輝いている。

 レベルアップだ。

 彼女はかなりレベルが高いはず。

 どのぐらいになったんだろうな。


 イロハのことを考えていると、姫が飛び込んできた。


「おっと姫、ご苦労さん」

「私、頑張ったのにぃ!」

「あ~、はいはい、ごめんねぇ」

「ぶ~」

 彼女を抱き寄せて、ナデナデする。


「……」

「どうした?」

「……ちゅーして」

「は?」

「ちゅーして!」

「あ~はいはい」

 彼女に不退転の決意を感じるので、キスをする。


「へへ~」

「ダイスケさん! 私も頑張りました! レベルが32になりました!」

 今度はレベルアップが終わった、サナがやって来た。


「やったな! 魔法も一発で成功させたしな~」

「はい」

 彼女が俺ににじり寄ってくる。


「……それで?」

「私にもちゅーしてください」

「はいはい、ほっぺにちゅー」

 彼女の赤くて柔らかいほっぺたにキスをする。


「なんで、私はほっぺたなんですか!」

「いいだろ?」

「ふふふ」

 サナの様子を見て、姫が勝ち誇った顔をしている。


「笑ってていいんですか? 私は、もうレベル32になりましたよ?」

「はは、まだまだぁ!」

「「ぐぬぬ……」」

 姫とサナが睨み合っていると、イロハのレベルアップが終わったようだ。


「イロハもレベル上がったんだな」

「ダーリン!」

「おわ!」

 彼女が俺を抱きかかえてキスをしてきた。

 俺より身長が高いので、持ち上げられるとなにもできんのをいいことに、えらいディープキスだ。


「あたいも頑張ったんだから、あたいにもキスしてくれてもいいだろ?」

「あ~もう、これは姫が悪いな」

「私は悪くない!」

 イロハが俺を降ろして、姫のことを笑っている。


「ははは、桜姫がこんなだと知ったら、ファンのやつらがズッコケルな」

「別に私からファンになってくれと頼んだわけではない!」

「そりゃ、そうだけどな」

 イロハも、こんな姫を見たことがなかったのだろうが、彼女が腰を降ろした。

 うんちんぐスタイルだ。


「どうした?」

「ふう、この前の遠征のあと、なかなかレベルアップしなくてやっとレベルアップしたよ」

 俺の問に彼女が怠そうに答える。

 なかなかレベルアップしないということは、6層辺りでは、レベルが頭打ちになる可能性があるな。


「7層の攻略が止まっているゆえ、私のレベルもずっと止まったままだったな」

 姫の言葉どおり、トップランカーのレベルがだいたい同じぐらいになっているのは、そういうことだったのか。

 実際に冒険者をやってみないことには、解らんことが沢山あるな。


「ああ、なるほどなぁ。さらに上のレベルに行くためには、7層から先の階層が必要だったってことか」

「そういうことだ。迷宮教団のやつらに深層に飛ばされたのは不幸だったが、そこでダーリンに出会えたのは僥倖だった」


 そのまま周囲を警戒するが、なにも起きない。

 戦闘で落ちた、魔石やアイテムを回収する。

 目立ったものはない。


「レイスがいるってことは、ここは6層相当ってことなのかな?」

 拾った魔石をアイテムBOXに収納していると、コエダが反応した。


「6層から穴を開けて、また6層じゃ骨折り損ですね……」

 彼女の言うとおりだが、ここに降りてきたモグラの連中はどこに行ってしまったのだろうか?


 このまま、ここにいても仕方ない。

 移動しようとすると部屋の隅近くに、なにか落ちているのを発見した。


「トラップじゃないよな?」

 アイテムBOXから瓦礫を出して、放ってみる。

 放物線を描いて瓦礫が床に落ちると――キンとした高い音が部屋に反響した。


 ――なにも起きない。


「ダーリン」

「大丈夫か」


 落ちているものに近づくと、剣と杖だった。



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