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80話 自転車速度戦だ!


 姫が留守なので、1人でダンジョンに潜ったりしていた。

 途中で猫を拾ったり、サナと出会ったり――普通の冒険者っぽい1日のローテーション。


 ホテルに帰ってきて、夕食を終えると、イロハが訪ねてきた。

 約束はなかったのだが、迎えてみると――彼女の妹さんがダンジョンの中で行方不明になったらしい。

 イロハの妹さんは冒険者ではなく、モグラというダンジョンに穴を開けて、新しい階層を探すことを生業としている。


 彼女からの依頼で、妹さんの捜索をすることになった。

 イロハが真っ先に俺たちの所にやって来たということは、それだけ信頼してくれているということだろう。

 そりゃ、トップランカーである姫とエンプレス。

 極めつきは、アイテムBOXを持った高レベル冒険者のオッサン。


 手前味噌だが――間違いなく、世界でもっとも信用できるギルドってことになる。


 メンバーは、姫を筆頭としたウチのギルドの面々、イロハと彼女の相棒、俺の推薦でサナを推すことにした。


 個人的な考えでは、サナの実力は十分にあると思っている。

 それだけのレベルに到達しているし、この短期間でここまでレベルを上げられるということは、才能があるのだろう。


 イロハの話では、すぐにでも出発するということなので、準備をする。

 姫たちも、ビキニアーマーや乳暖簾を装備。

 それを隠すように深いローブを被ったのを見て、俺もアイテムBOXから出したいつもの防具をつけた。


 俺にもドロップアイテムの装備が出たら、どうしようか。

 オッサンが、ファンタジーな鎧とか装備してもなぁ。

 渋い装備ならいいのだが、このダンジョンのアイテムは、変な装備ほど性能が高い傾向がある。

 ダンジョンを作ったやつの嫌がらせかもしれない。


 準備ができたので、皆で1階に向かう。


「今から、お出かけですか?」

 フロントのスタッフから声をかけられた。


「ああ、しばらく留守にするかもしれない」

「かしこまりました。いってらっしゃいませ」

 ロビーは照明で煌々と明るかったが、外は既に夜の帳が降り、空は濃紺から黒へと変わりつつある。

 市場の明かりが、闇の中で色とりどりに輝く中、歩道には人々が絶え間なく行き交う。

 そこから溢れ出た談笑する声や笑い声が、夜の空気に溶け込んで活気を漂わせる。

 並ぶ露店からの食欲をそそる香りが、歩く人々の足を一瞬引き止めていた。


 多くの冒険者は、ダンジョンでの1日の稼ぎを終えて、宿などに向かう途中だろう。

 俺たちは、その人の流れに逆らい、ダンジョンへ足を向けた。


 明るい街を進んでいくと、突然真っ暗な場所が現れる。

 ダンジョンの影響で、照明などが使えない場所――その手前にある、自動改札の明かりが目立つ。

 自動改札のランプに照らされて、暗い色のドレスを着た魔導師のシルエットが見える。

 ここからも解る胸の膨らみ。

 ウチのエンプレスにも引けを取らない。


 その影がこちらを見て、手を振った。


「ダイスケさん!」

「もう来ていたのか?」

 待っていたのは、自転車を押したサナだった。


「む!」

 彼女を見た姫が難しい顔をしたのだが、サナのことをよく思っていないらしい。

 7層遠征の帰りに出会った印象しかないからな。


 彼女だけかと思ったら、暗闇からもう1つ影が現れた。

 照明に照らされて、その正体が解る。


「キララか。お前は連れて行けないぞ?」

「知っているわよ、そんなこと!」

 相変わらずだが、ちょうどいい。

 イロハもまだみたいだから、今回のミッションの説明をする。

 かなり危険を伴うこと、金も稼げないことなどなど……。


「行きます!」

 サナは即答した。


「もう! サナ! もうちょっと考えたら?!」

「最初から決まっているんです」

「うう……」

 サナの本気に、キララがたじろいでいる。

 すごい迫力だ。

 まぁ、眼の前にいるベテラン以上のレベルに到達してしまっているしなぁ。

 今のレベルなら、冒険者のランキングに載ってもおかしくないし。


「サナになにかあったら、承知しないわよ!」

「悪いが、それは保証できないぞ」

「わかってます!」

「キララ、諦めろ。サナはすでに覚悟完了してるんだよ」

「……」

 サナの真剣な顔を見て、キララはなにも言えなくなってしまったようだ。


「ダーリンのことを信用していないわけじゃないが、本当に大丈夫なのか?」

 姫はサナの実力が心配のようだ。

 まぁ、この前ダンジョンで出会ったときには、5層で苦戦していたからな。


「姫が心配するのも解るが、彼女はレベル31になったんだよ」

「本当か?!」

「それなら、十分な戦力になると思いますよ」

 カオルコは、反対していないっぽい。


「攻撃型の魔導師だが、回復ヒールも使えるし」

「むむむ……ダーリンのことは信じたいが……」

「即応できる貴重な戦力だろ?」

「む~」

 彼女が腕を組み、身体を横に曲げて唸っていると、サナが俺の服を掴んできた。


「姫が駄目だと言うなら、俺が個人的に連れていくが……」

「ダイスケさん」

「ぐぬぬ……」

 姫的には、どうにも面白くないようだ。


「サクラコ様、ここはトップランカーの器の大きさを見せませんと」

「こいつは絶対にダーリンを狙っている! 私の器など小さくて十分!」

「もう……」

 カオルコが呆れている。


「けど、戦力は必要だろ?」

「ううう……」

 そう言われると、姫も痛いらしい。

 こんな金にもならなく、しかも危険な遠征に参加する冒険者は普通はいない。

 サナの参加は貴重なはずなのだ。


 サナが俺の後ろに隠れ、姫がずっとぐぬぬしていると、自転車を押したイロハがやって来た。

 後ろに魔導師のコエダを従えている。

 イロハが自転車とは珍しいが、彼女の身体の大きさからすると、乗り物が随分と小さく見えた。


 サナの説得は無理だと解ったのか、キララは退散するようだ。


「サナを無事に返しなさいよ!」

「そりゃ、可能な限り前向きにな」

「真面目に答えなさい!」

「無理に決まっているだろ。正直どうなるかまったく解らん」

「大丈夫です! なにがあってもダイスケさんから離れません」

「もう! どうなっても知らないからね!」

 キララが口を尖らせると、暗闇の中に消えていった。


「悪い! 待たせちまったな! ギルドのメンバーを説得するのに、時間がかかったんだ」

「反対されたのかい?」

「いや……」

 イロハが口ごもったのだが、コエダが話してくれた。


「イロハ姉さんになにかあると、ギルドの存続に関わりますから」

「ナンバー2はいないのかい?」

「ははは……後継者は、コエダのつもりなんだよなぁ……」

 やっぱりそうなのか。

 彼女にかなりの信頼をおいている感じがしていたので、そうじゃないかと思っていた。


「トップとナンバー2が一緒に――ってことになると、マジで困るからなぁ。まぁ、ギルドメンバーが心配するのもいたし方ない」

「――とはいえ、カガリを見捨てることなんてできねぇ」

「妹さんの名前かい?」

「そうだ――たった1人の肉親なんだ」

 ああ――ということは、彼女たちも世界が静止したときに、肉親をなくしたのか。

 若いのに冒険者になるということは、やっぱりそれなりの理由があるんだな。

 姫たちなんかは、かなり特殊な例だ。

 命がけの趣味みたいなものだからな。


「そうか、それじゃ気合を入れていかないとな」

「みんなすまねぇ! 金にもならないのに!」

「ははは、いいってことよ。いつも勝負している仲だしな」

 俺の言葉に、珍しくイロハが赤くなっている。


「さっきの魔導師は、なにか揉めごとかい?」

「ああ、彼女のことでな――イロハ、俺からの依頼で参加してくれる魔導師で、サナだ」

 参加する魔導師のことを紹介したが、イロハも彼女のことを覚えていたようだ。


「ん? この前、ダンジョンで会った女の子だろ? 大丈夫かい?」

「姫にも説明したが、彼女はレベルが31まで上がったんだよ」

「へぇ! この短期間に!?」

 イロハも、サナのレベルが上がるスピードに驚いている。


「彼女は攻撃型なので、レベル上げには有利なんだよ」

「それにしても、早いな……」

「火力重視だが、回復ヒールも使える」

「いいじゃないか!」

「いけるだろ?」

「ああ! もちろん! 恩に着るよ!」

 彼女が大きな手で、サナの紅葉のような手を握った。


「よろしくお願いします」

「こちらこそ!」

「姫、イロハはOKのようだが」

「ぐぬぬ……仕方ない!」

「さすが姫! 愛してるよ」

 彼女を抱き寄せて、軽くキスをした。

 まぁ、納得してはいない感じである。


「う~」

 今度は、サナが姫を警戒している。


「コエダもよろしくな」

「はい! よろしくお願いします!」

 彼女がペコリとお辞儀をした。


「じ~」

 サナが俺をじ~っと見ている。


「前の深層への遠征のときに一緒だったんだよ。彼女は補助系の魔導師だ」

「「よろしくお願いします」」

 2人がお辞儀をし合う。


「それでは行くぞ!」

 臨時のパーティだが、姫がリーダーだ。

 それは、イロハも了承しているし、身内の捜索となると冷静な判断ができなくなる可能性もある。

 全体的な作戦を客観的にみることができる能力が必要だ。

 イロハもそれは解っているから、リーダー権を渡したのだろう。


「姫、サナは俺の下でいいのか?」

「いや、私の指揮下に入ってもらう」

「わかりました!」

 サナが即答した。

 今回の遠征が、厳しいものになると、彼女も理解しているのだろう。

 経験豊富なトップランカーに従うというのが道理だ。


 辺りはすでに夕暮れを過ぎ、薄闇が辺境の地を覆い尽くしている。

 その暗さを凌駕するほどの黒さでぽっかりと口を開けている所がある――ダンジョンの入口だ。

 昼間は岩肌の凹凸や苔むした跡が見えたその入り口も、今はすべて闇に溶け込み、外からは一切の形状がわからないほど。

 まるでその奥が底知れぬ奈落に続いているかのように、深く冷たく、不気味な気配が漂っている。


 ダンジョンの周りは照明が使えないので、街の明るさと対照的に、漆黒の穴の暗さが際立つ。

 昼間には感じなかった圧迫感が、今は全身を包み込むかのように重く、そして冷たくのしかかってくる。


 通常、深夜に潜る冒険者はいない。

 その暗がりの中へ一歩足を踏み入れたならば、二度と戻れない予感が脳裏を横切る。


「ダイスケさん……夜のダンジョンって怖いですね」

「ダンジョンの影響で、明かりが使えないのが際立つからだろうな」

「高レベル冒険者は、夜目が利くから問題ないがな」

 姫の言うとおり、色はグレーのトーンだが、周囲の様子は見える。

 見えると見えないのとでは、恐怖感が大違いだ。


「姫、サナも見えるから大丈夫だぞ」

「そうか」

「わ、私は見えないんですけど……」

 小さい声で呟いたのは、イロハの後ろにいるコエダだ。


「ははは、コエダもすぐに見えるようになるぜ」

 大きな身体にしがみついているコエダを、イロハが笑っている。


「やっぱりレベルがある程度になると、暗闇も見えるようになるのか?」

「だいたい、30前後らしいが、バラバラだって聞くぜ」

「決まった基準はないのか?」

「聞いたことがねぇなぁ」

 他のギルドとの交流も盛んなイロハが、そう言うのだから、そうなのだろう。


 俺たちは、身を寄せ合うとエントランスホールに入った。


「うわ、真っ暗か……」

 そりゃそうだ。

 昼間、ここに灯っている明かりは、外の太陽光を光ファイバーで引き込んでいる。

 それがなくなれば、光ファイバーも真っ暗。


「え~、全然見えませんよ」

 そう言って、コエダがケミカルライトを折った。

 突然背景が、グレーのトーンから緑色に変わる。


「夜に来たのは初めてだが、これじゃ夜目が利かない冒険者は近づかないよな」

「キャンプ地も真っ暗ですしね」

 暗闇が怖いのか、コエダはイロハにくっついている。


「ああ、そうか――イロハが自転車とは珍しいなと思ったら、この時間には列車も動いてないのか」

「そうなんだよ」

「それじゃ、俺の自転車も出そう」

 アイテムBOXから、自転車を出す。


「ダイスケさん、私の自転車はどうしましょうか?」

「サナの自転車は姫に貸してやってくれ。君は俺の自転車の後ろだ」

「わかりました!」

「ちょっと待ったぁ!」

 姫から、ちょっと待ったコールがかかった。


「なんだい?」

「なぜ、当然のようにダーリンの後ろにその女が乗るんだ」

「姫は、カオルコを後ろに乗せてあげなよ。それが一番丸く収まるだろ?」

「まぁ、そうだな」

 イロハも俺の意見に賛成のようだ。


「サクラコ様、あまり駄々をこねないでください」

「そんなもの、こねてない!」

「姫、急がないと」

 俺も彼女を急かせた。

 突然サナを連れてきて、少々悪いとは思っているのだが、戦力になるのは間違いないだろう。

 こんな遠征につき合ってくれる冒険者もいないし。


「わかっている!」

 姫がサナから自転車を受け取ると、後ろにカオルコを乗せた。


「なんだ、桜姫って、意外と面倒なやつだったんだな」

「面倒って言うな!」

 姫はイロハの言葉に反論すると、自転車を漕ぎだした。

 後ろにサナを乗せた俺と、イロハたちもすぐさま続く。


「ひゃぁぁぁ!」

 この声は、イロハの後ろに立って乗っているコエダだ。

 彼女は暗闇が見えないからな。

 まるで、無の空間に放り出されているような感じになっているかも。


「イロハ、随分と自転車が小さいみたいだが、大丈夫か?」

「サドルを一番上まで伸ばしても、結構キツイ」

「そんな感じだな」

「一番丈夫そうなのを借りて来たんだが、壊さないようにしないと……」

 意外と繊細だな。

 彼女なら豪快に壊して当たり前――みたいな感じかと思ったのだが。

 それは俺の偏見か。


 いつもと違う、暗闇に包まれたダンジョンの漆黒の中を自転車で疾走する。

 今は冒険者たちが使う魔法の明かりも、ケミカルライトの蛍も見えない。

 ペダルをこぐたびに風が肌を刺すように冷たく、周囲の景色は影さえもわからないほど黒いベールに覆われている。

 ただただ、グレーの岩肌だけが、延々と続く。


 耳に聞こえるのは、ダンジョン内に反響する静寂を切り裂くタイヤの音と、風を切る低い音だけ。


「暗闇で目が見えると、全然怖くありませんね」

 後ろからサナの声が聞こえる。


 高レベル冒険者たちが自転車に乗って疾走していると、あっという間に1層を突っ切って、2層に到着した。

 いつもは賑わっているキャンプも真っ暗で、魔法の明かりとケミカルライトの明かりがチラチラと見える。

 ここに泊まっている連中もいるようだ。


 引き続き、自転車を漕いで3層を目指す。

 ここらへんから、魔物が絡みだしてくるが、そのまま突っ切る。

 普段なら、魔物を引き連れたまま逃げると、トレイン行為と言って重大なマナー違反だが、この時間は冒険者もいない。


「イロハ、目的地はどこなんだ?」

「6層だ!」

 彼女の話では、7層が突破できないので、6層から穴を開けてもっと深層にアクセスしようとしたらしい。

 理屈は解らんでもないが、このダンジョンは6層から繋がるのが7層と限らない。

 もっと深層に繋がることも考えられる。


 実際、3層から繋がった深層は、ミノタウロスがポップすることから6層相当だと考えられる。


「姫、目的地は6層らしい」

「承知! そこまでぶっ飛ばす!」

「ちょっとちょっと! 自転車を労ってやってくれ。俺たち冒険者の負荷に耐えられるように作られてないし」


 4層のオークとリザードマンの集団を抜けると、上から鳴き声が聞こえてきた。


「ギャ! ギャギャ!」

「ハーピーか」

 今日はスピードを落とすわけにはいかない。

 遊んでいる場合ではないのだ。


 横を見ると、並行してハーピーが一緒に飛んでいる。


「悪いが、今日は遊べないんだよ」

「ギャ!」

 彼女がそのまま相対速度を合わせると、俺の頭の上に止まった。


「きゃ!」

 ハーピーの行動に、後ろのサナが驚いている。

 俺の頭の上で大きな翼を広げているので、揚力が働いているのだろう。

 案外重くない。


 カーブで曲がったりすると、その動きについてこれず、一旦離れてしまうが、すぐに戻ってきて俺の頭の上で翼を広げている。


「ダーリン、そのハーピーはいつものあいつだろ?」

 横にイロハが並んだ。


「そうだ」

「本当に懐いているんだなぁ」

「まぁ、なんで懐かれているのか、よく解らんのだがな」

「ギャギャ!」

 上空からさらにハーピーの声がする。

 こっちは、チチかもしれんが、下に降りてこない。

 上を飛びながら俺たちのあとをついてきているようだ。


「ダイスケさん!」

「なんだい?!」

「このハーピーって、ウンコしないですよね?!」

「え?! た、多分……だけど、女の子がウンコとか言っちゃいけません」

「で、でもぉ!」

 まぁ、眼の前にハーピーのお尻があるのだろう。

 そりゃ、気にするなって言うほうが無理かもしれないが。

 俺の頭や肩に止まっていて、糞をしたことはなかったから、大丈夫だと思う。


 そのまま5層に突入。

 早速魔物がお出迎えしてくれる。

 ここらへんから、俺も撮影を始めた。


「全員、散開!」

 各自転車がバラバラになって、トレントの森の中を突き進む。


「ギャ!」

 自転車の動きがトリッキーなので、ハーピーが俺の頭の上から離れた。

 枝の攻撃をすり抜け、再び自転車の車列が一緒になると、今度は暗闇から巨人が出現する。

 ゴーレムだ。


「動きは鈍い! 足元をすり抜けろ!」

「うひょ~!」

 高く上げたゴーレムの脚の下をくぐり抜ける。

 巨大な脚が地面を踏みしめると、地響きが自転車のハンドルまで伝わってきた。

 これはいい動画が撮れただろう。


「だ、ダイスケさん!」

 後ろから心配そうな声が聞こえてくる。


「どうした?!」

「だ、大丈夫なんですか?!」

「はは、ヘーキヘーキ!」

 自転車を漕ぎ続けていたので、ランナーズハイのようになっているのかもしれない。


 ゴーレムの脚の間を抜けたが、敵は追ってこないようだ。

 攻撃力は凄まじいが、移動速度は遅い。

 大丈夫だろう。


「ダーリン!」

 姫の声に前方を見れば、黒い毛むくじゃらが並んでいる。


「トロルか?」

「グォォ!」「ガァァ!」

 黒い魔物が立ち上がる。


「く、熊か?!」

 俺が故郷で仕留めたヒグマよりデカい。

 ここにいるってことは、魔物なんだろう。


 先頭の姫が進路変更したので、皆がそれについていく。

 これも躱すつもりなのだろうが、今度の魔物はちょっと様子が違った。

 俺たちのあとをすごいスピードで追いかけてくる。


 ヒグマも時速60kmぐらい出るのだが、こいつらはそれ以上のスピードが出るようだ。

 俺たちの自転車も、すでに悲鳴を上げており、これ以上は速度も上げられない。


 地面を駆ける低音が自転車の車列に並び、灰色の景色の中に黒い影が列をなす。


「グォォォ!」

 暗闇の中に白い牙と赤く光る目が浮かび上がった。


「並行戦だ! サナ、魔法を!」

「はい! 光弾よ!」

「足元を狙え!」

我が敵を撃て!(マジックミサイル)

 漆黒の中に青い光が舞い、閃光とともに黒い毛皮に向かって放たれた。

 足元に攻撃を受けた魔物が、バランスを崩して、もんどり打って転がる。

 本当に、ゴム毬のようにゴロゴロと転がったので、思わず笑ってしまった。


 まるで、アニメに出てくる間抜けな動物のようだ。

 そりゃ、時速60kmで全力疾走しているところで、つまずいたりしたら転がるわなぁ。


我が敵を撃て!(マジックミサイル)」「我が敵を撃て!(マジックミサイル)

 続いて閃光が走る。

 カオルコと、コエダの魔法だ。

 カオルコは当然だが、補助系の魔導師のコエダも、光弾の魔法は持っているのか。

 まぁ、最初に覚える初歩の魔法っぽいしな。


 仲間を多数転がされた熊の魔物たちは追撃を諦めたようだ。


「ふう」

 どうなることかと思ったが、これは面白い動画が撮れたかもしれん。


 いよいよ俺たちは、6層に到達した。


「一旦、停止!」

 6層の安全地帯に、姫の声が響く。


「おう!」「おし!」

 自転車の車列は、その場に停止した。


 さて、ここからどうなるのか。


 

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