8話 高く売れた
冒険者になった俺は、早速ダンジョンにやってきた。
俺のゲットしたレベル49というのは、やはりすごい力なのだろう。
1~4層の魔物たちをものともせずに、楽勝で倒すことができた。
感覚も鋭くなって暗闇で目が見えたりするのも、かなり有利だ。
普通にレベル上げをしていたら、どのあたりから夜目が利くようになったりするんだろう。
徐々に感覚が研ぎ澄まされる――という感じだろうか。
俺は4層にいたオークを倒したところで戻ることにしたのだが、再度魔物の襲撃を受けた。
上から聞こえてきた叫び声は、空飛ぶ魔物――ハーピーだ。
巨大な翼と、女の顔を持つ魔物。
空を飛んでいるから逃げても追いかけられるかもしれない。
それに魔物の冊子によると、高値で売れるらしい。
いったい魔物を買ってどうするのだろうか?
それはさておき、値段が高いとなると――ちょっと捕まえてみようじゃないか。
「そう決めてみたが、どうやって倒そうか」
投石器で飛んでいる敵を狙い撃つのは、中々難しそうだ。
多分攻撃は、脚の爪で行われるのだろう。
鷲や鷹などと同じ感じ。
そのときに、真っ直ぐこちらにやってくる――のでは、なかろうか。
直線的にやってくるなら、攻撃で狙いやすい。
とりあえず、敵を挑発するために、投石器を使って攻撃をしてみることにした。
別に当てるつもりではないが、当たったらラッキーだろう。
「おりゃ~!」
ブンブンと投石器を振り回し、敵に向かって投げつける。
一応、偏差射撃のような白い線が現れてるのだが、距離があるので中々その通りには飛ばない。
それに着弾まで時間があるので、その間に進路を変えられてしまえば、当然当たらないよな。
「ギャーッ!」
俺の攻撃に怒ったのか、ハーピーが巨大な爪を立てて、こちらに急降下してきた。
狙いどおりだ。
真っ直ぐにこちらに向かってくるなら、目標に当てやすい。
ハーピーも、俺が剣などの武器を持っていないのが見えているはず。
「土嚢召喚!」
俺はアイテムBOXから土嚢を出すと、真っ直ぐ急降下してくる魔物に向かってアンダースローで次々と放り投げた。
「ギャッ!」
「ほい! ほい! ほい!」
狙って投げるというよりは、ハーピーの進路上に置いた感じだ。
向こうはスピードが出ているので、急な進路変更はできないだろう。
一発目の土嚢を反射的に鋭い爪で掴んだのだが、2発目と3発目は間に合わなかったようだ。
そのまま魔物の身体に衝突した。
重さ数十kgのものが衝突すれば、かなりのダメージがある。
ハーピーは失速して地面に墜落した。
「ギッ! ギッ!」
俺が思ったとおり、ダメージがあるのかその場から動けないでいる。
アイテムBOXから砂鉄バットを出すと、ハーピーの頭を横に一閃した。
生け捕りのつもりなので、軽くだ。
頭は人間っぽいので、これで脳震盪を起こすだろう。
翼をパタパタしているのだが、まともに動けないでいる。
俺の攻撃は成功したといえる。
顔は本当に人間の美しい女のようだ。
ケミカルライトで照らす。
黒っぽい羽根に、髪の毛も黒い。
頭の髪の毛はボサボサだし顔に汚れがあるが、手入れをすれば綺麗になるはず。
上半身には形のいい胸――なるほど、こう見ると高い値段がつくものうなずける。
下半身をチラ見する。
こっちは完全に鳥なので、総排泄腔になっているようだ。
「なるほどなぁ……」
感心している場合ではない。
綺麗なまま捕まえることができたんだ。
捕縛しないと、すぐに回復して逃げられてしまうかもしれない。
「そうだ」
俺はアイテムBOXから毛布とロープを取り出すと、ハーピーの翼を畳んで簀巻きにした。
毛布は鳥の糞くさくなってしまうから、こいつは洗濯か――においが取れなかったら、こういう用途専用にしてしまおう。
それとも、洗浄の魔法があれば、こういうのも綺麗になるだろうか。
家から毛布はあるだけ持ってきたので、まだ在庫がある。
ハーピーは毛布の上からロープでぐるぐる巻きになっており、顔だけ上に出ている。
これならもう逃げられまい。
脳震盪が収まってきているのか、キョロキョロしている。
暴れることはなさそうだ。
こいつを担いで上を目指そう。
生きているので、アイテムBOXにも入らないしな。
生け捕りにしないと金にならないって話だし。
俺は簀巻きにしたハーピーを肩に担ぐと、上を目指して歩き始めた。
高レベルのせいか、パワーはあり余っているし、疲れもしないが腹は減る。
ダンジョンを戻り始めた俺だが、うっかりしていたことがあった。
帰り道でも魔物とエンカウントするのだ。
考えてみれば当たり前だが、ゲームだとイベントクリアすると、ポータルで戻ったりするからなぁ。
どうも、ゲーム感覚が抜けない。
こういう思考から脱却しないとイカンな。
本当に初心者だと、うっかりで危険な状態になるかもしれない。
もう戦うつもりもないので、逃げまくる。
脚力も強化されているので、かなりのスピードが出せるし。
このご時世で、オリンピックが中止されてしまって久しいが、金メダル間違いなしだろう。
「ふう……」
一休みしよう。
腹が減ったし。
パワーが上がってるのはスーパーマン気分なのだが、腹が減るのはいかんともしがたい。
アイテムBOXからパンと缶コーヒーを取り出した。
「……」
簀巻きになっているハーピーがこちらを見ている。
捕まって手も足も出ない状態なので、すごくおとなしい。
鳥なんかも捕まる前は暴れるが、どうしようもないと解ると大人しくなったりするが、それと似たようなもんか。
「お前も食うか?」
「クンカクンカ……」
彼女が、鼻先にあるパンのにおいを嗅いでいる。
俺がパンを食う真似をしてから再度差し出すと、パクリと食いついた。
「はは、普通に食っているな」
野生動物に人間の食い物をやるのは駄目だよなぁ。
こいつは魔物だし、どういうことになるんだろう。
魔物を生け捕りにしてなんにつかうんだろうなぁ。
ペット? 実験動物? 色々と考えられる。
この世界に現れる未知の生き物だし。
一休みした俺は、再びハーピーを担いで歩き始めた。
4層の降り口と3層の登り口が交差している拠点に戻ってきたのだが――。
なんだか、たくさんの人たちが右往左往してバタバタしている。
横になっている人たちが見えるので、なにかあったようだ。
魔物に襲撃でもされたのだろうか?
まぁ、「あっしには、関わりのないことでござんす」ってやつだな。
悪いが、初心者なので人助けできるような余裕はない。
暗い場所を通れば、向こうからは見えないだろう。
俺はハーピーを担いで、3層への登り口へやって来た。
「おい!」
そこにいた1人の男が、こちらに近づいてきた。
「……」
まぁ、嫌な予感しかしないので、無視して通路を登り始めた。
「おい!」
しつこいな。
振り向くと、見覚えるのある顔だった。
降りていくときに、ノービスがどうのと、俺に絡んできた男か。
「あ……」
向こうも気づいたのだろう。
「なんだ? なんか用か? 戻るために急いでいるんだが?」
「ポーションを持ってないか?」
「持ってないな」
もちろん、大嘘である。
「助けてくれ! 仲間が魔物の襲撃にあって、重症者もいるんだ」
「俺は初心者だから、なにもできることはないな」
「担いでるのは、もしかしてハーピーか?!」
「すまんが、急いでいるんで」
人にものを頼むような態度ではないし、助けてやるような義理もない。
「ダンジョンでは助け合いが必要だろ?」
はい、出ました――綺麗ごとを装った恫喝。
世界が静止したとき――俺の家では、非常時に備えて物資を蓄えていたのだが、それを嗅ぎつけたやつらがやってきた。
非常時には助け合いが必要やら、ノブリス・オブリージュがどうのと。
まぁ、隣近所やら日頃から世話になっている人たちなら解るが、こういうことを言ってくるのは、なんの関わりもないやつら。
それどころか、普段から俺のことを馬鹿にしている連中やらそういう輩だ。
当然俺は、心の広い人間でも、聖人君子でもないので、断固としてお断りした。
するとやつらは、今度は村に悪い噂を流し始めた。
こういう奴らタイマンではやってこない。
告げ口をして、人を増やして数でマウントを取ってくる。
まぁ、ウチの地元じゃ、そいつらは嫌われていたので、誰も乗ってこなかったけどな。
それどころか、別の場所でもトラブルを起こして、村から出ていった。
「俺は初心者だしな」
「4層の魔物を生け捕りできるやつが初心者のわけないだろ?」
「いや、お前が初心者だって言ったじゃないか? 迷惑だって。迷惑なやつは邪魔だろ? それじゃな」
「おい、待てよ! コラァ!」
相手が武器を抜いた。
「おいおい、今度は強盗か?」
「うるせぇ! 俺たちが誰か解っているのか?!」
「俺は初心者なんで、全然知らんな」
「ギルド、踊る暗闇だぞ!」
これなら、俺がなにやっても正当防衛だろ?
「あ、そう――うわぁぁぁ! たすけてくれぇ! 強盗だぁ!」
ハーピーを抱えてるし、相手にする気もないので、わざと大声を出してみた。
「くそぉぉぉ!」
剣をいくら振り回しても、俺にはやつの切っ先がはっきりと見えている。
当たるはずがない。
剣を躱して男の脚を引っ掛けると、相手がもんどり打って転がった。
俺が騒いでいると、他の人たちが集まってきてくれた。
「どうした?!」
「あいつが、ポーションを渡せと切りかかってきたんだ」
俺はわざとらしく騒いでみせた。
「くそっ!」
「本当に剣を抜いているぞ?!」「おい! どこのギルドだ?! これは問題だぞ!」
特区とダンジョン内は、日本の法律が通じない場所ではあるのだが、いくらなんでもPKはマズイはず。
双方がギルドに所属しているなら、ギルド同士の抗争になる。
なんだか8○3映画みたいだな。
今のところ俺は、どこのギルドにも入っていないから、「こいつなら後ろ盾もないから大丈夫」とか、思われたのかもしれない。
ダンジョンってのは、案外ろくでもない所だな。
まぁ、時間がたつと利権やら派閥ができるのは、どこでも同じか。
誰かが言った――絶対的な権力は、絶対的に腐敗すると。
「踊る暗闇とか言ってたな」
「ああ、あそこか……」
集まってきた1人が、知っていたようだ。
あまり評判がよろしくない感じ。
「ちっ!」
男は舌打ちをすると、仲間の所に戻っていった。
「ありがとうございます。助かりました」
「酷いやつだな」「けが人が出てるようだから、切羽詰まってるのは解るが……」
俺は、集まってきてくれた人たちに、ポケットに入れていた一番小さな魔石を手渡した。
ちょっとしたお礼でも、お礼はお礼だ。
もらって気分を悪くする人はいない。
これが本当の助け合いってやつだ。
俺に絡んできたのが、あいつじゃなかったら、けが人を助けてやることもできたのかもしれないがなぁ。
まぁ、「あっしには、関わりのないことでござんす」ってやつよ。
「それって、もしかしてハーピーかい?」
助けてくれたひとたちが、俺の荷物に興味をもっている。
「ええまぁ――それじゃ、俺は急ぎますんで」
「え? それを担いで上まで行くのかい?」
「そのつもりですけど……」
男の話では、ダンジョンのキャンプ地に業者がいて買い取りをしているので、売ったほうがいい――とのこと。
ここで冒険者カードは使えないはずだが、どうやって買い取っているのだろうか。
「買い取りの値段は、外とは違うんですか?」
「そりゃ、ここから運び出す輸送費がかかるから、安くなるねぇ」
少々買い取りは安くはなるが、ここで売ればすぐにまた狩りに戻れる――ということなのだろう。
「私は、今日はこれでお終いにするつもりなので」
「そうなのか? 随分と軽装なのに、やるもんだなぁ……」
俺はまったくの私服なのを見て、冒険者たちが驚いている。
彼らに礼を言うと、俺はハーピーを担いで出口を目指した。
やっぱり自転車があったほうがいいかもしれないなぁ。
走っても疲れはしないが、自転車のほうが早いだろうし。
魔法でテレポートとかないのだろうか?
ネットでは、テレポートトラップの噂が囁かれている。
魔法陣などはなくて、突然仲間が消えたりするので、それじゃないかと言われている。
トラップから帰還した者もいないので、それが本当かどうかも解らないのだ。
本当なら、気をつけねばならない。
歩いて1層を目指す。
徐々に人が多くなってくると、人の目に留まることも多くなる。
まぁ、基本ダンジョン内は暗いので、近くまでやってこないと、なにを担いでいるか解らないだろう。
「ふう……」
一層に戻ってくると、ケミカルライトの明かりがたくさん見える。
それで人がたくさんいるんだと、安心もできるってことだな。
普通の人は、それで安心感を得て、ここで作業的な魔物退治をしているのだろう。
1層のホールに戻ってきた。
天井に光る明かりが眩しい。
「おい、なにか担いでいるぞ?」「魔物か?」
明るいということは注目されるということだ。
人々の視線が突き刺さる。
担いでいる魔物を早く処分したほうがいいだろう。
ホールから出ると、冒険者カードをかざしてゲートを出た。
外に出ると、途中ですれ違った列車に載っていた、毛むくじゃらの大きな魔物がいる。
人々の会話からすると、あれは「トロル」らしい。
ここまで列車を使って運ぶってことは、それだけ金になるってことなんだろうか?
それより、担いでいるものを売らないとな。
「お~い! 生きているハーピーを捕まえたが、買うやつはいないか~?!」
俺の声にすぐに反応があった。
「ハーピー?!」「本当に生きているのか?!」
たくさんの業者に囲まれる。
「ほら、簀巻きにしているが、生きているだろ?」
「マジだ……」「本当だ」「身体に傷とかはないのか?」
男たちが、簀巻きにされているハーピーの顔を覗き込む。
突然たくさんの人たちに囲まれた彼女がキョロキョロしている。
「身体は綺麗だと思うが……ここで簀巻きを解くわけにもいかないしな」
「「「……」」」
複数の業者がなにやらヒソヒソ話をしている。
「ちょっと、そこで待っててくれないか?」
「いいが……」
業者の1人が、どこかに電話をかけ始めた。
いったいどうするんだろうと待っていると、大型の台車に載ったケージが運び込まれた。
こんなものも普通にあるんだ――と、いうことは、生きている魔物も普通に取引されているってことだ。
やっぱりペット? 研究材料?
魔物だけ全滅させる病原菌を開発しているとか?
いや、今ダンジョンがなくなると、資源がなくなるしな。
でも、毒やらで弱体化するだけで、随分と倒しやすくなると思うけど……。
誰か試していないのだろうか?
あとでネット検索してみよう。
それよりもハーピーだ。
俺も一緒にケージに入って、簀巻きを解く。
暴れるかと思ったが、おとなしいままだ。
窮屈だったのか、翼を広げてバサバサしている。
周りの反応からして、珍しいものなのだろう。
俺もスマホで動画を撮ってみた。
至近距離からの動画だから、迫力があるぞ。
普通はこんなに近づけないだろう。
「おおっ! 翼も大丈夫みたいだぞ?」「身体に傷や怪我もないみたいだな」「いったいどうやって……」
周りから業者が覗き込んでいる。
ハーピーは大丈夫そうなので、俺はケージから出た。
檻に入っている様子も動画に撮る。
「100万でどうだ!?」「ウチは110万出す!」
俺を囲んでいる男たちが声を上げた。
一発で100万円かよ。
これなら、毎回ハーピーを狙って、行き来を繰り返すだけで稼げるな。
10匹捕まえれば1000万円だし。
ハーピーの状態に満足したのか、業者たちは次々と値段を上げ始めた。
「よし! こっちは120万だ!」「130万!」
ちょっといかつい顔をした頑固そうなオッサンが声を上げた。
「150万!」
「「「……」」」
150万円の声に、他からは続きが出なくなった。
「決まりだな! それじゃ、150万円で売るよ」
「よっしゃ!」
オッサンがガッツポーズをする。
1日で150万円か。
同じことを10日やれば、1500万円になるな。
まぁ、そんなに上手くはいかないだろうが。
「おい、兄さん! ハーピーなら死骸でもいいから持ってきてくれよ」
「え?! 死骸でもいいのかい?」
「こいつの肉は美味いし、剥製にしても買うやつがいるんだよ」
やっぱり食うのか?
なんか、顔が可愛いから、ちょっと可哀想に思えるが……。
それに剥製かぁ――あまりいい趣味とは言えないがなぁ……。
そういえば、昔の家は剥製を飾っている家が多かったような気がする。
金持ちの家には、雉やら鷹の剥製があったな。
なんか話によると、アルマジロの剥製も多かったらしい。
「わかった、善処するよ」
死骸でもいいならもっと簡単だが、魔物の肉ってのも結構金になるもんだなぁ。
オークの死骸もアイテムBOXの中に入っているから、それなりの金になるはずだし。
やっぱり、アイテムBOXを公表してしまって、じゃんじゃか稼いだほうがいいかな?
中層でそういうことをやっていても、いずれはレベルが下がってきてしまうし。
そうなれば稼ぐのは難しくなる。
1日300万ぐらい稼げて、それで1ヶ月続ければ、9000万だろ?
税金を20%引かれても、7200万円。
2ヶ月やれば、約1億4000万円――インフレしているとはいえ、田舎でFIREするには十分なような気がするし。
う~ん……レベルの下降ってどのぐらいで始まるんだろうな。
1日や、2日ではならないはずだが……。
これも、あとで検索してみよう。
「頼むぜ!」
「ちょっと聞きたいんだが、生きているハーピーってどうするんだ?」
「ペットが多いって聞くが、卵も美味いって話だぜ? 超高級品らしい」
「え? 卵かぁ……」
そりゃ、メスだから、卵は生むかもしれないが――っていうか、こいつらダンジョンの中で繁殖しているのか?
ダンジョンからポップするからそんなことはしないと思うがなぁ。
飼っていると、卵を生むのだろうか?
業者と話し合っていると、周りの人たちもスマホで動画を撮ったりしている。
やっぱり珍しいのだろう。
それはさておき、ハーピーを買った男から支払いをしてもらう。
支払いは冒険者カードを紐付けしたスマホだ。
相手は許可を得た正式な業者なので、購入代金の20%を税金として引かれた金額――120万円が振り込まれる。
「それじゃな、また頼むぜ」
「ふう……」
ハーピーが入った檻が運ばれていった。
心なしか、彼女がこちらを恨めしそうに見ていた気がする――まぁ、人間に捕まってしまったのだから、魔物でも悔しいのか。
それとも、これからどんな目に遭うのかと、心配なのか。
業者から解放されたと思ったら、今度は冒険者たちに囲まれた。
「ソロなんですか?!」「私たちとパーティー組みませんか?!」「私のほうがいいですよ!」
なんだか、派手な格好をした女性が多いような気がするな。
コレって冒険者パーティーじゃなくて、別の意味のお誘いなんじゃね?
俺はそういうのには興味ないんだが……。
名刺を渡されたのだが、全部突っ返す。
「え~?! 名刺を返してよこすなんて」「最低……」
女たちは自分たちのアピールを無視されたので、不満顔だ。
いや、別に最低でいいよ。
そんな露骨に嫌顔するような女も好みじゃないし。
「悪いが、パーティーには興味がないんで。それに、この中に4層とか5層まで潜れる人っているの?」
「そ、それは……」「「「……」」」
女たちは全員黙ってしまった。
そこまでレベルが高くないのだろう。
オークとかハーピーがいた所に行くには、レベル20以上が必要みたいだし。
そういう子たちとパーティー組んでも、俺にメリットがない。
子守をしなくちゃだめになるし。
俺は別に冒険者家業を続けたいわけじゃないしな。
まとまった金ができたら、即辞めるし。
今日ゲットした他の魔石なども業者に売ったのだが、そちらは数万円になった。
俺のレベルなら楽勝で金が稼げることが解ったし、金もゲットできた。
これで当面の暮らしはできそうだな。
今日はお仕事終了なので、泊まる所を探すことにした。
ネットで検索して、まぁまぁの所を探す。
別に三つ星で快適な暮らし――なんて望んでない。
田舎に住んでいたから、ものがない暮らしにも慣れているしな。
ネットで見つけた宿に行ってみることにした。
とりあえず、部屋は空いているようなので、予約を入れる。
バラックが積み上がる街角のウネウネした通路をナビに従って歩く。
すると、失敗した積み木のような建物が目の前に見えてきた。
「ここか? 崩壊しないだろうな?」
木の階段を上って、玄関から入った。
「いらっしゃい……」
中にカウンターがあったのだが、そこに座っていたのは、タバコを咥えた中年のオバちゃん。
ちょっとモジャモジャの頭に、ヨレヨレのエプロンをしている。
「さっき予約を入れた丹羽だが」
「時間は早いから、部屋は空いてるよ」
彼女の口調だと、遅いと部屋が埋まるようだ。
「一番安い部屋は?」
「素泊まりでなにもない部屋だけど?」
「そこは? いくら?」
「5000円」
「んじゃ、そこで」
「いいのかい? 本当になにもないんだよ?」
「ああ」
スマホを使って、前払いをした。
こういうところを使うには、冒険者カードは必要ないらしい。
まぁ、冒険者じゃない連中もたくさんいるみたいだしなぁ。
オバちゃんに案内されて、ギシギシと音がする階段を上り、部屋にやって来た。
ドアを開ける――マジでなんにもない、4面がモルタルの空っぽの部屋。
小さな窓が一個でベッドすらなく、天井に明かりもない。
広さは4畳半ぐらいだが、ものがまったくないので、広く感じる。
「本当にここでいいのかい?」
オバちゃんがニヤニヤしている。
「いいよ」
「それじゃ、はい――鍵」
彼女は意外――という顔をしたのだが、部屋の鍵をもらった。
一応、鍵はついているけど、役に立つのか?
オートロックとかじゃないよなぁ。
「ありがとう」
「トイレは1階ね。シャワー使う? 1回2000円だよ」
高いな。
そういうので儲けてるのか。
「わかった」
「それから! 火を使うのは厳禁だからね。タバコも駄目!」
「オバちゃん、自分でタバコ吸ってたじゃん」
「私はいいの!」
そうですか。
なにもない部屋で、冒険者になった初日が終わりそうだ。
「あ、そうだ――特区に来たときに一緒だった彼は、無事に初日を終えたかな?」
連絡先を交換しておけばよかったか。