77話 小さな敵
羽田にある魔物の研究所に勤めているセンセの所に向かうと、また海の上で魔物に襲われた。
今度は――イカの魔物だ。
クラーケンかテンタクルズか解らんが、とりあえずテンタクルズということにした。
イカというと食えそうだが、切り落とした腕はアンモニア臭くてとても無理。
途中で仕留めたテンタクルズの脚やら、赤い肌のレッサーデーモンを見せると、センセは大喜びしてくれた。
ついでに姫が妊娠しない理由を相談した。
原因は俺の子種にあるのではあるまいか?
そう思った俺は、子種をセンセに調べてもらうことにした。
これでなにが原因か、確実に解ることだろう。
まぁ、誰とアレコレしてもできないから、原因は俺にあるんじゃないかな~と思うんだが。
研究所を出ると、姫と一緒に特区に帰ってきた。
帰りにまたテンタクルズに襲われるんじゃないかと心配だったが、杞憂だったな。
あいつは仕留めたわけじゃないから、まだ生きていると思うんだが――。
やつらは生きていくために魔力がいるっぽいので、ダンジョンの近くから離れたら死ぬのでは?
センセの話では、普通に生物らしいので、獲物をゲットして食事をして生き延びることも可能かもしれない。
実際、ハーピーは人間の飯を奪って食ったりしているし。
魔物の食性などは気になるが、魔物同士の共食いは現時点では確認されていない。
確認されていないが、ゼロと確定したわけでもない。
「ふふふ……」
特区に戻ってきた姫は、楽しそう。
俺の隣を歩く姫の美しい横顔は、陽の光に照らされて柔らかく輝く。
その顔に浮かぶ微笑みは、どこか無邪気でありながらも優雅さを失わない。
楽しさが隠しきれず、その笑顔には自然な温かさがある。
まるでこの瞬間を心から楽しんでいることが伝わってくるよう。
彼女の黒髪が風に舞い、絹のような艶やかさを見せながら揺れた。
その髪が風に遊ばれるたびに、彼女の軽やかなステップに合わせて優美に流れ、周囲の視線を引き寄せる。
彼女のことを知らない者でも、姫の魅力に引きつけられずにはいられない。
華麗な歩みは、まるで踊っているかのように軽やかで、ふわりと浮き上がるようなリズム。
手をつないでいる感触からも、彼女の無邪気な楽しさが伝わるのが解る。
俺も彼女と手を繋いでニコニコしていたのだが――。
姫を抱き寄せて、ひそひそ話をする。
「ダーリン」
「つけられてる……」
「わかってる」
さすが姫だ。
どうやら、彼女も気づいていたようだ。
彼女がスッと俺の手を離して、人混みの中に消える。
俺がそのまま歩いていると、女の悲鳴が聞こえてきた。
姫が、相手を捕まえたのだろう。
どんなやつか――と思ったら、姫に連れられてやってきたのは、知り合いだった。
「サナ!」
「……」
彼女が下を向いている。
「なんで、俺たちをつけていたんだ?」
「……ダイスケさんを見かけたから……」
「声をかければよかったじゃないか」
「……」
下を向いてなにか言っているのだが、聞こえない。
いや、俺のレベルなら、集中すれば拾えるのだが、そこまでするつもりもない。
こういう雑踏の中で、それをするとうるさくて仕方ないし。
「ほら」
俺はアイテムBOXから、カレーの鍋を出して、彼女に渡した。
「……」
「カレーを食べたかったんだろ?」
「うう……うわぁぁぁ~!」
彼女が鍋をひったくると、そのまま人混みの中に消えていってしまった。
「ど、どうしたんだ?」
「私とダーリンの間に割り込みたいが、自分の実力もないしどうしようもないから、悶々としていたんだろう」
「べつに、普通に遊びに来てもいいんだがなぁ……」
「そうはいくか!」
「イロハはよくて、彼女は駄目なのかい?」
「駄目に決まっているだろ! ふん!」
その境界線が解らん。
あのホテルの部屋は彼女の部屋なので、姫が駄目と言ったら駄目なのだが。
「それじゃ、特別室の空き部屋を俺が借りて、そこに呼ぶのは?」
「ガブ!」
なにを思ったか、姫がいきなり俺の腕に齧りついてきた。
「あいたた! ちょっと姫、止めて! ちょっと冗談だから」
「ふん!」
彼女が離れた。
腕には姫の歯型が残っている。
今の俺なら普通の女に齧られたぐらいじゃ、傷もつかないかもしれないが、姫は違う。
普通の人間の首筋などに牙を立てたら、首が折れるのではなかろうか。
俺たちは、すでに全身が凶器と化しているからな。
まさに人間凶器。
腕をさすりながら、周囲を見ると――護衛らしき人たちがチラチラ。
いやまぁ、ありがたいが、彼らより俺と姫のほうが戦力が上なんだがな。
「あ、そうだ」
周囲の護衛を見て思い出したので、総理に連絡を入れる。
「以前に捕まえた、俺の狙撃犯について、なにか解りましたか?」
すぐに返答が返ってきた。
総理本人じゃなくて、俺についている担当かもしれないが。
『それについては現在、かなり高度な政治的な問題になっているので、我々に一任していただきたい』
「こっちはなにもできませんし、わかりませんから、お任せいたします。よろしくお願いいたします」
これはマジだ。
なにがどうなっているのか、さっぱりと解らん。
現在、国家間同士で、どんな綱引きが行われているのやら。
ダンジョン工学で先端を走っている日本と、その他の国。
そこにアイテムBOXまで加わったから、手のつけようがない――と、他国が考えてもおかしくない。
まぁ、狙撃に失敗したことで、高レベル冒険者を仕留めるのは、そう簡単にいかないと理解しただろう。
それでも、原発近くで襲撃されたときにいた敵国の高レベル冒険者のように、押さえつけられて蜂の巣にすれば、死ぬ可能性が高い。
いや、下手に簡単に死ねない分、苦しむかもしれない。
あのときの敵国の兵士も、100発ぐらいぶち込まれたのに、まだ動いていたからな。
ああはなりたくない。
ホテルに帰ってくると、カオルコに怪我を治してもらう。
腕をめくると、くっきりと姫の歯型が残っていた。
「カオルコ、頼む。魔物に襲われた」
「ふん!」
俺の言葉に姫が横を向く。
「サクラコ様も、こういうことをするんですね」
傷を見て彼女が笑っているのだが、普通なら傷跡が残るレベルの怪我だ。
昔、犬に噛まれたが、そのときの傷が俺の腕にはまだ残っている。
「まぁ、単純な殴り合いじゃ、俺に勝てないだろうからな」
「回復」
ダンジョンの近くなので、この辺りならまだ魔法は使える。
効き目は悪いが、このぐらいの怪我ならすぐに治るだろうし、痕が残らないのはありがたい。
「ふう、ありがとう」
「ふふふ」
カオルコが笑っている。
やることもないので、またカレーを作る。
小分けにしていたやつは、サナにあげてしまったからな。
元々、それように分けてあったやつなので、問題ない。
カレーはいくら作っても足りない。
あっという間になくなるし、大量に作っても、アイテムBOXに入れておけばいつでも食える。
飯もデカい鍋で大量に炊く。
部屋のシンクについているIHでは、火力不足なので、カオルコの魔法で温めてもらった。
一旦加熱できれば、IHでも、十分にいける。
グツグツと煮えるカレーを眺める。
サナのことはどうしたもんかと、考えてしまうが――どうしようもできないな。
姫が怒るし。
多分、サナが高レベル冒険者としての頭角を表せば、姫も認めてくれると思いたい。
魔法をぶっ放して活躍するサナの姿を考えていると、フロントからの電話が鳴った。
俺が出る。
「はい」
「丹羽さまですか?」
「はい、そうです」
「ロビーにお客様がおみえです」
どこの誰かも解らんやつをフロントが取り次ぐはずがないから、俺の知り合いに間違いないのだろう。
「ちょっと下に行ってくる」
廊下に出ると、エレベーターで下に降りた。
ロビーまでやってくると、ソファーに座っている小さな影。
「ミオちゃん」
俺の声に、小さな影が立ち上がった。
「ダイスケ!」
彼女が走ってきて俺に抱きつく。
「どうしたんだい?」
「ダイスケ、カレーのにおい!」
ミオが俺の服をクンカクンカしている。
「今、カレーを作っていたんだよ」
「ミオも、ダイスケのカレーを食べたい」
「ええ? 昼間、お姉ちゃんにカレーを渡したんだけど……」
「お姉ちゃん、泣きながらカレーを全部食べちゃった……」
「ええ?!」
なんで泣く。
結構量があったと思ったけど、全部食ったのか。
まぁ、魔導師はカロリー消費が多いそうだからな。
腹が減るのかも知れないが――妹の分まで全部食うことはないじゃん。
一緒に、キララやエマちゃんだっけ? 彼女もいるのに。
「う~ん、それじゃ――またウチでカレー食べる?」
「うん!」
サナがカレーを食べちゃったから、食い物はないかもしれない。
一応、サナに連絡は入れておくが、返答はなし。
返答がないってことは、駄目ってことじゃないんだろう。
「もどったぞ」
「わ~い!」
「あ! ダーリン! またそのガキンチョを!」
「お姉ちゃんが、カレーを全部食べちゃったらしいんだよ」
「なんだそれは? 意味が解らん」
「ミオちゃんも、カレーを食いたいって言うからさ。食べたら帰すよ」
「ぐぬぬ……」
それを聞いたミオが、むくれている。
「泊まっちゃだめ?」
「う~ん、ここはあのお姉ちゃんの部屋なんだよ」
「だめだ! だめだ!」
怖い顔している姫から、ミオが俺の後ろに隠れた。
「姫、子どもをイジメないでよ」
「別にイジメてはいない!」
「もう、サクラコ様……」
カオルコもちょっと呆れている。
そんなに邪険にしなくてもいいのに。
彼女が腕組みをして背中を向けたので、ミオをソファーに座らせた。
カレーはすでにできているので、カオルコにも手伝ってもらいテーブルの上に皿などを並べる。
中心にはカレーの鍋と、サラダのボウル。
ご飯はセルフだが、ミオの分は俺が盛る。
「いただきま~す!」
ミオは俺の膝の上に乗ると、カレーを食べ始めた。
「なぜ、当然のようにそこに座る!」
「姫、子どもに対抗しないで」
「そうですよ」
そう言いながら、カオルコがご飯を山盛りにしている。
「ぐぬぬ……」
彼女がドスンと乱暴に座ると、カレーを食べ始めた。
「ハグハグ!」
ソレに釣られるように、ミオもカレーを一心不乱に食べている。
まぁ、美味いのだろう。
いつもなにを食っているのか心配になるな。
「ふう、俺も食うか」
味は、いつものカレーの味――というか、市販のルーを使っているので、いつも同じ味なのは当然。
ただ、自前のスパイスを調合したものを、あとでちょっとふりかけている。
べつにこれで美味くなるわけでもない。
スパイスの香りが少々立つぐらいか。
「ミオちゃん、ちゃんとご飯食べてるか?」
「うん!」
料理はできそうにないから、露店で買ったできあいのものだろうなぁ。
身体にあまりよろしくないような気がするのだが。
食事が終わると、小さな鍋にカレーを小分けにして、ミオに持たせた。
ひっくり返すと大変なので、袋に入れてやる。
「……」
彼女が泊まっていきたいようだが、姫の許可が下りない。
ずっとこちらを睨んでいる。
「ほら、あのお姉ちゃんが怖い顔をしているから、今日は駄目な」
「……うん」
ミオも解ってくれたようだ。
彼女を送って、エレベーターでロビーまで行く。
外は、ちょっと薄暗くなっていた。
一緒に外に出た。
「ちょっと待ってな」
俺はスマホで、メッセージを入れた。
「俺の護衛をやっている人、近くにいる?」
すぐに返答が来た。
『どうしました?』
「俺の隣にいる子どもを、住処まで送っていってほしいんだが……」
『……承知いたしました。1人送ります』
「ありがとうございます」
すぐに、女性が1人やってきた。
小柄だが、がっちりした体型で、いかにも鍛えてます――といった、風体。
「お呼びですか?」
「ちょっと暗くなってきたんで、女の子1人じゃ危ないかと思ってな。彼女の住処まで送っていってほしい」
「了解!」
「……」
ミオはちょっと人見知りの気がある。
見知らぬ女性に警戒をして、俺の後ろに隠れている。
「大丈夫だよ。俺の知り合いだから」
「……うん」
「はい」
女性が手を出して、ミオの手を握ってくれた。
「これ、お礼だけど……」
俺はアイテムBOXから、魔石を取り出した。
「いけません。公務員が、民間人からものをもらうと、収賄になりますから」
「あ、そうか――そういえば、そうだったな」
そういえば、晴山さんもそう言っていた。
日本の公務員は真面目だな。
外国なら、当然な顔をして賄賂を求めてくるが。
「ミオちゃん、バイバイ」
「ダイスケ、バイバイ」
カレーも、女性が持ってくれたな。
まぁ、彼女が自衛隊か公安か解らんが、そんなやつを襲うアホはおらんだろ。
ダンジョンの外なら、火器も使えるしな。
ミオを見送ったあと、部屋に戻ると姫の頭突きミサイルが飛んできた。
「ぐぇぇ!」
「ぶー!」
倒れた俺に、姫が頭突きをして、グリグリしてくる。
「ぐぇ! ちょっと姫、痛いから!」
「ぶー!」
「相手は子どもだし、放置できないだろ?」
「ぶー!」
話を聞いてくれない。
仕方なく身体を起こすと、姫をお姫様抱っこしてソファーにすわった。
膝枕をして、彼女の頭をナデナデする。
「はいはい、いい子だからねえ~」
「……」
とりあえず、ナデナデしている間はおとなしいようで、身体中をナデナデする。
「あんな子どもに、目くじらを立てることはないだろ?」
イロハはOKなのに、小学生に警戒しすぎだろ。
「いや! あのガキンチョは、絶対にダーリンを狙ってる!」
「俺はオッサンなんだけどなぁ。下手をすると孫だよ?」
「歳は関係ない!」
「はいはい」
「ミオが大きくなったって、姫がいるのに彼女を選ぶはずないじゃないか」
「う~!」
どうも納得できないようである。
「誰もが羨む美しきトップランカーの冒険者、稀代のカリスマと日本で超有名な八重樫グループのお嬢様――と、人が持っていないものを山程持っているのに、まだ不安なの?」
「私が知っているダーリンは、そんなものには興味がない人だし……」
「ははは、まぁそうだな」
「うう~!」
「カオルコからもなんとか言ってやってくれ」
「なんとか」
彼女はまったく我関せずという感じで、事務らしき仕事をしている。
多分――こういった姫の行動を、カオルコが受け止めていたのだろう。
姫のターゲットが俺に移ったということで、気兼ねなく仕事ができるのかもしれない。
「黄金の道の副リーダーを引き抜ければいいんだがなぁ」
「ぶー!」
姫がブーイングをしてくる。
「違うよ。事務仕事をやってもらえば、カオルコの負担も少なくなるんじゃないかと思ってな」
「そうですねぇ。彼女はよさそうですね~」
俺の話を本気で聞いているのか、いないのか。
カオルコは、仕事の手を休めない。
「ほら、俺たちがダンジョンに潜っちゃうと、ギルドが空になってしまうじゃないか」
「それは、私も問題だと思ってました」
「常にフロントに誰かいてくれれば、色々とスムーズに進むんじゃないかと……」
「まぁ、どうしても必要ならAIを入れますよ」
カオルコから意外な言葉が出て、俺も驚く。
「AI? AIで、そういう仕事ができるの?」
「八重樫の最新型なら、問題なくこなせます。サーバーやら回線やら色々と用意する必要がありますけど……」
「それって、人を雇うより、AI導入するほうが、高くつかない?」
「概ねそうですが――性能は保証されてますからねぇ」
カオルコの話だと、大会社のフロントも余裕でこなせる性能らしい。
「なんと――時代は進化していた」
それはさておき、姫が俺から離れない。
どこに行くにも俺にピッタリとくっついてくる。
風呂はもちろん、便所も。
「ちょ、ちょっと姫……」
トイレに座っている俺の前に彼女が仁王立ち。
「ダーリンは、いざというときに下の世話もできるのが夫婦だと言った。今の私ならできる!」
「いや、今はいいんだけど」
「いや! 今がそのときだ!」
「違うんだけどな~」
トイレはともかく、それで機嫌が直るなら、姫の好きにさせてあげることにした。
――羽田に行ったり、サナと出会ったり、ミオがカレーを食べに来たりと、次の日。
起きると、俺の上に裸の姫が乗っている。
「ううう……ダーリン……」
彼女を腹の上から下ろすと、スマホをチェック。
動画の編集を頼んでいた、外注の女性からファイルが届いていた。
編集が済んだ動画の完成品だ。
チェックする――いいできだ。
俺のテキトー編集とは、雲泥の差と言ってもいい。
サムネイルやら、冒頭のタイトルバックも挿入されていた。
まるでプロの仕事――って、彼女はプロか。
俺が色々とやっている間に、動画の編集をしてくれるのだから、ありがたい。
これは金を払う価値がある。
俺は、早速動画をサイトにアップした。
そのあとは、起きて朝食の準備をする。
パンを焼いたりしながら、動画をチェックすると、すでにコメントがついていた。
動画のカウンターがすごい勢いで回っている。
俺の動画をアップされるのを楽しみに待っている視聴者が沢山いるということだ。
ずっと、こんな感じが続けば、大金持ちなのだが、そうもいかない。
最初は珍しい魔物や、迫力の戦闘シーンが受けていても、長くは続かないだろう。
派手なシーンも、毎回似たような感じなら、飽きられてしまう。
飽きられてしまっても、こいつはヤラセじゃなくて、ノンフィクション。
面白い演出を入れるわけにもいかないしな。
「ふう」
コメント読む。
「すげー数のレイスだ!」
「こんなにレイスって群れるのか?」
「今回は高レベル冒険者が多いから、レベル調整されているんじゃないかという話が……」
「そんなことがあるのか?」
「まるでゲームだな」
「なにをいまさら……」
シーンは、カオルコのチェインライトニングの閃光。
「すげぇぇぇぇ!」
「エンプレス! エンプレス!」
「オッパイ! オッパイ!」
「オッパイ! オッパイ!」
延々と、オッパイのレスが続く。
非常に訓練されている視聴者だ。
次の動画は、押し寄せるゴーレムの大群。
「巨神兵か?」
「爺か、今は地ならしやろw」
「どぇぇぇ! ゴーレムの大群って、どうやって倒すんだよ」
「こいつは、素材にもならないし、どうしようもないんだけど……それがこんなに沢山」
「エエエ?! ゴーレムをひっくり返したぞ?!」
「こいつ、誰?!」
「このチャンネルの主、アイテムBOXのオッサンだろ?」
「この人マジで強い人なの?!」
「桜姫が言ってただろ? 世界最強だって」
「マジか」
「世界最強なら桜姫と付き合えるのか……裏山」
動画は、赤くて3倍速い、レッサーデーモン。
「なんじゃこりゃ!」
「どうやら、レッサーデーモンらしい」
「こいつがレッサーデーモンなのか? そういや、やけに赤い!」
「高レベル冒険者と対等……魔法も使えるみたいだし、こんなの普通の冒険者じゃ無理ゲーだぞ」
「6層といえば、ミノタウロスだけど、こいつはダンチだろ」
「こいつもどうやら、レベル調整みたいだな……」
次の動画は、7層――100mの高さにある、出入口。
「はぁ?! 100mの高さにしか出入口がねぇのかよ」
「なんつークソゲーw」
「そこに足場を組んで登ろうというのか……」
「アイテムBOXのオッサンがいないと、こんなの不可能じゃん」
「だから、今回のアタックがトップギルドの共同になったんやろ?」
「いやいや――こんなの無理無理カタツムリ……」
そして、最後の戦い。
「なんじゃこらー!」
「説明によると、キメラらしい」
「人間のキメラ?!」
「もしかして、こいつらが『踊る暗闇』の成れ果て?!」
「うわぁぁぁぁぁ!」
「フハ~ハハ! ダンジョンは地獄だぜ!」
「エンプレス様の、大魔法!」
「オッパイ! オッパイ!」
「他の冒険者もスゲー!」
「これが、トップランカーか!」
「トップランカーのマジ戦闘が、こうやって観られるってのはスゲーよな!」
「アイテムBOXのオッサンに、感謝!」
キメラが、踊る暗闇の幹部連中だというのは、役所にも報告を入れた。
手配の奴らは、ダンジョン内で死亡したということで、討伐対象から外れるだろう。
残るは、迷宮教団のあの女だけだ。
他の教団関係者を見ていないが、どこかに本拠地があってそこにいるのだろうか?
いや、踊る暗闇の末路を見てしまうと、他の信者たちが生きているとは――。
思えない。