73話 狙撃
7層攻略を、迷宮教団によって邪魔された俺たちは、地上に戻ってきた。
久しぶりの地上なので、ホッとしていたのもつかの間。
まるで、針で刺すような悪寒が俺を襲った。
おそらく――殺気である。
ダンジョンに潜り、戦闘と死闘を繰り返した俺は、いつの間にかそういう感覚が鋭くなっていたようだ。
もしかして、レベルアップの恩恵による、デフォな能力向上なのかもしれない。
殺気の方角を見ると、なにか光ったような気がする。
それが俺に向かってくる白い線になって見えた。
避けるのは簡単だが、後ろにはサナがいる。
俺は、サナを抱きかかえると横に飛んで――叫んだ。
「皆、散れ!」
さすが高レベルの冒険者ばかりである。
疑問も挟まずに、俺の言葉のとおり散開した。
次の瞬間、俺がいた場所の後ろのアスファルトが、吹き飛んで大穴が開く。
「なんだ?!」「攻撃?!」
飛んだアスファルトの破片が、辺りに散らばり悲鳴が上がる。
「きゃあ!」「きゃぁぁ!」
「ダーリン! 魔法か?!」
姫が叫んだ。
「解らんが――多分、狙撃じゃないか?!」
「狙撃?! 誰が!?」
思い当たる節が多すぎて困るが――こんな場所で一般市民を巻き込んでの発砲なんて許せん。
「だれか、速度上昇の魔法を持っていたな」
「はいはい!」
コエダが使っていたが、幽鬼の所の女の子も使えるようだ。
魔法をかけてもらった俺は、サナを姫に預けた。
「サナを頼む!」
「任された!」
俺は光る殺気の元へと猛スピードで走り出した。
もちろん補助魔法がかかっているから、通常よりスピードが出る。
スピードが乗ったところで大ジャンプ。
「きゃあ!」「おおおっ!」
通行人から、声が上がる。
ジャンプのあと、ビルの庇の部分に飛び乗った俺は、そのままさらに垂直ジャンプ。
次々と窓枠に手をかけると、ビルの屋上まで駆け上る。
殺気の元まで、およそ500m――人混みの中を走っていたら間に合わない。
一直線に敵の所に向かう。
ダンジョンの中で戦闘を繰り返し、自分の運動能力がどのぐらい向上しているのか、解るようになってきた。
ビルの谷間をひとっ飛び。
屋根伝いにダッシュすると、再びジャンプ。
ビルの壁に張り付いて、雨樋を上る。
高いビルの屋上にたどり着く。
殺気はここからやってきていた。
屋上の上には、男が広い大きなケースにライフルを収納している。
つなぎのような服を着た、金髪の大男だ。
ライフルも、猟に使うようなライフルではない。
ゴツくてデカい――対戦車ライフルとか、そういうタイプだ。
こういうのを対人狙撃に使うのは、ナントカ条約違反なんじゃないのか?
まぁ、俺の狙撃なんて非合法なことをしているのだから、そんなの関係ねぇ! だろうけど。
男は、おそらく外国人。
狙撃が外れたので、撤収するか、位置を変えるつもりだったのだろう。
突然、俺が予想もしない所から現れたので、かなり驚いている。
俺はアイテムBOXから、鉄筋メイスを取り出した。
「F○CK !」
これは俺でも解る。
英語ってことは、アメリカ人なのか?
一応同盟国ってことになっているが、100%信用できるかといえば……。
男は腰のベルトからナイフを出した。
その動きは鋭い――敵も外国の冒険者なのかもしれない。
軍人をダンジョンに入れて訓練している――なんて話も聞いたことがある。
俺は敵が突いてきた手首を一閃。
相手が冒険者でも、俺とはレベルの差が大きいのだろう。
その動きは止まっているようなものだ。
これなら、ゴリラのほうがいい動きをしていた。
「Damn it!」
なんて言っているのか解らんが、男の手首は一発で折れて途中から90度曲がり、鋭い武器を落とした。
痛いだろうが、俺やら仲間の命を狙ったのは許せん。
流れ弾で犠牲者が出る可能性も普通にあった。
「オラァ!」
俺は男を蹴り上げると、屋上の床に転がす。
うつ伏せにして、腕を三角のアームロックの形にすると、足で踏みつけた。
「UGGGG!」
「どんな大男でも、これで動けまい」
もちろん、このままにはしておけない。
俺はアイテムBOXから、スマホを取り出した。
総理にメッセージを入れる。
「特区で狙撃を受けて、犯人を押さえている。金髪の外人だ。対応をお願いする」
俺からの通信は、複数で共有されて、誰かがすぐに対応してくれるようになっている。
――と、聞いていた。
すぐにスマホが鳴る――知らない番号からの電話だが、今の今だ。
多分、今送ったメッセージの件だろう。
「はい」
『丹羽さんですか?!』
「そうです」
『こちら特戦です! 狙撃を受けたそうですが?!』
「ええ――今、俺の足の下に犯人がいます。金髪の外人です」
『……場所がわかりましたので、すぐに対応いたします』
俺のスマホを逆探したな?
そういうアプリもインストールするように言われたので、入っているし。
「ビルの屋上ですよ」
『了解です!』
回りを見回すと、屋上に出るための金属製のドアが見える。
やってくるとすれば、あそこからだろう。
まさか、ヘリで降下――なんてしてこないよな。
心配していると、ドアが開いた。
そこからでてきたのは、ライフルを構えた中腰の男たち。
全部で3人――左右を確認している。
迷彩服ではないが、防弾ベストを着込んでいるし、おそらく自衛隊だろう。
「お疲れ様~こっちだ」
「はい!」
男たちが、ドカドカと靴の音を鳴らしながら、俺の所にやってきた。
「こいつだ」
「s○it!」
男たちが、俺が踏んづけている敵を見つめている。
「……アメリカですかね……?」
「わからん――英語を喋っているが。武器はそこ」
「こんなものを、ここでぶっ放したんですか?」
彼らによると、正式には対物ライフルというらしい。
サイレンサーが装備されているが、どれだけ効果があるものか。
「着弾の破片でけが人は出たっぽいが、犠牲者はいなかった」
「いたら、今頃大騒ぎですよ」
男たちが、ゴソゴソとなにか用意している。
「こんな大男をどうやって運ぶ。こいつは多分、外国の冒険者だぞ。抵抗などされたら面倒だ」
「やはり――効くかわかりませんが……」
男たちの1人が、敵の首になにか金属製の筒を押し当てた
「G!」
おそらく麻酔薬みたいなものか。
心配していたが、数分で男の反応がなくなった。
かなり強い薬っぽい。
まぁ、こんな敵に人道的な云々は必要ないだろう。
「まいったねぇ。俺を直接狙ってくるとは」
「申し訳ありません。こちらでは情報を掴んでおりませんでした」
「まぁ、仕方ないよ」
「でも、よく身柄を押さえられましたね」
「撃つ前から、殺気みたいなものが伝わってきて、方角や距離も解ったからな」
「ええ? 高レベルの冒険者ってのはそういうものですか?」
「みたいだ――異様に勘は鋭くなるよ。視力もよくなるし、聴力も敏感になる。人間のヤマ勘や第六感みたいなものも増幅されるんじゃないか?」
「すごいですね」
男たちが感心しているのだが、実際にこのレベルまでなってみないと、解らないだろう。
説明を求められても上手くできない。
すぐに自衛隊の応援がやってきて、担架に拘束された男が運ばれていった。
「周辺に仲間がいるかもしれないので、お気をつけください」
「ありがとう」
某国の暗殺では、放射性物質や有機化合物が使われたが、冒険者は放射能に強いらしいしな。
強力な毒でもすぐには死なず、ダンジョンに入って回復薬を使えば治るんじゃないのか?
試したことがないから、なんとも言えないが。
まぁ、今回の襲撃があっさりと躱されたから、敵も次の攻撃を躊躇するとは思うが。
怖いのは俺を狙った自爆テロなどだな。
もしそんなことになれば、無関係な一般人まで巻き込むことになり、特区で冒険者などはできない。
どこか山奥などで、敵を待ち受けることになるだろう。
そうならんことを、敵にも理性的な行動を願うばかりだ。
一段落したので、姫に連絡を入れた。
けが人が少し出たが、魔法で治ったようだ。
よかった。
各ギルドは、自分の所に戻ってしまったという。
サナとキララも自分の本拠地に戻ったようだ。
一応、サナに連絡を入れる。
「どうやら、俺はあちこちから狙われているようだ。危険が危ない(誤用)から、俺に近づかないほうがいい」
『わかりました』
「でも、困ったことがあったら、いつでも連絡しておくれ」
『ありがとうございます』
「安全になったら、カレーも食べに来てもいいんだぞ?」
『はい』
まぁ、キララはどうかは知らんが、100%嫌われているわけじゃなくて、よかったよ。
姫と待ち合わせて、預かっている荷物を置くために各ギルドに向かった。
「ダーリン、怪我などは?」
姫が心配している。
「問題ない」
「まぁ、ダーリンを仕留められるなら、そいつが世界最強になってしまうし」
姫が変な心配をしているが、銃やロケットで撃たれても、その条件はOKなのか?
「狙撃って――本当に鉄砲で撃たれたんですか?」
カオルコも心配している。
「ああ、犯人は捕まえて、自衛隊に引き渡したよ」
「よかったです」
最初は、イロハのギルド――ゴーリキーだ。
女の子たちが集まってキャッキャウフフしているので、そこに荷物を出した。
「わぁぁ!」
皆が群がって、荷物をギルドの中に運び始める。
「よぉ、ダーリン! 狙撃とか言ってたけど、マジだったのかい?」
「ああ、犯人を捕まえたよ」
カオルコと同じ説明をイロハにもした。
「え?! 自衛隊かい?! 警察じゃなくて?」
「ここは、警察不介入だし」
「そういえば、そうだったなぁ」
「これ以上は俺たちはどうしようもできん。そんなことより、ダンジョンの中で言ったとおり、荷物の引き渡しが終わったら、パッとやろうぜ」
「よっしゃ~!」
彼女がガッツポーズをする。
他の女の子たちも参加したいようだが、今回のアタックに参加したメンバーだけだ。
そうじゃないと、収拾がつかなくなってしまう。
パーティがしたいなら、他の日にやればいい。
今日はダンジョンから無事帰還の打ち上げだし。
ゴーリキーから、イロハとコエダを連れて、次は黄金の道へ。
ギルドに到着すると、荷物を出した。
メガネの副リーダーに深々と謝罪をされてしまう。
ゴリラがやらかしたことを聞いたのだろう。
「このたびは、大変申し訳ございませんでした」
「いやいや、最後の辺りは、彼の頑張りに救われましたから、ははは」
そのゴリラも、ミカンもここにはいない。
打ち上げに参加するのか聞くつもりだったのだが、今頃2人で打ち上げをしているのだろう。
副リーダーに任せっきりなのはいいが、ここは大丈夫なのか?
「……」
女性が、申し訳なさそうな顔をしている。
彼女に近づくと、ひそひそ話をした。
「移籍を考えているようなら、歓迎しますよ」
「……いいえ! 今のところは……」
突然の俺の言葉に、彼女が驚いている。
「そうですか」
能力はあると思うから、もったいない。
桜姫の所は、事務をカオルコがやっているが、サポートが入れば彼女の仕事も軽減されるだろうし。
まぁ、無理強いするつもりもないし。
「む~!」
俺が女性とひそひそ話をしていたので、姫の機嫌が悪い。
「彼女は、管理能力がありそうなんで、引き抜きできないかと思ってさ」
「カオルコがいるだろ?!」
「そうだが、彼女1人じゃ大変かと思ってな」
「そうですねぇ、色々と細々したこともありますし……」
「カオルコも、冒険者をやりながら――ってのは大変だろう」
彼女がダンジョンに潜っている間には、事務作業が止まってしまう。
まぁ、金はあるから、外注に頼むって手もある。
黄金の道を出て、最後は幽鬼の所に向かった。
ここも魔導師ばっかりのギルドだからな、女性が多い。
アイテムBOXから荷物を出すと、キャイキャイと群がっている。
別に珍しいものはないと思うが。
「せっかく固定の魔法も使ってもらったのに、無駄になってしまったな」
「まぁ、そういうこともありますよ。まったく想定外でしたし」
「けど、あんなのが深層にウロウロしているとなると、攻略がはかどらんなぁ」
「そうですねぇ」
彼も打ち上げに誘ったのだが、今回の攻略について、ギルドの魔導師たちとディスカッションをするようだ。
さすが、トップギルドだな。
戦闘のデータなどをギルドのメンバーにフィードバックしているのだろう。
他の魔導師が似たような敵にエンカウントしても対応できるようになる。
今回エンカウントしたレッサーデーモンなどは、幽鬼も初めて遭遇したようだし。
あれの攻略法も考えないとヤバいな。
あれは、あそこで出ていいような敵じゃないと思うんだがなぁ。
俺は例外として、あの7層を突破しないと、冒険者のレベルが頭打ちになってしまう。
この世界に現れたダンジョンの理として、同じレベルの敵を倒していても、レベルは上がらない。
スライムを倒し続けて経験値マックスとかできないわけだ。
このままだと、トップランカーとして、同じ数値の男女が沢山並ぶことになるだろう。
――というわけで、仕事は終わったのでパッとやる。
場所はどこで――ということになるが、もちろんホテルの部屋。
部屋は広いし、防音はバッチリだし、あの部屋は独立しているから、他の宿泊客に迷惑になることもない。
ホテルへ帰る途中の店で、食料や飲み物などを沢山買い込んだ。
普段は酒も飲まないが、今日ぐらいは多少飲んでもいいだろう。
酩酊しても状態異常なので、回復薬一発で治るしな。
ただ、二日酔いなどはどうだろう?
使ってみないことには解らない。
「わぁ~すご~い!」
初めてきた部屋に、コエダは感激している。
「まったく、お嬢様はよぉ~」
イロハは嫌味を零しているが、そんなものが姫に効くはずがない。
早速、ルームサービスで頼んだ飯を食いながら、酒も飲む。
今は冒険者になっていれば、成人判定なので、酒も問題ない。
ほろ酔いなのか、姫の機嫌もいい。
「いやぁ、今回は勉強になったよ」
マジでまだ知らないことも沢山あるしな。
「まぁ、そんなもんだよ」
イロハも酒を飲んでいる。
見かけどおり、アルコールに強いようだ。
「補助魔法を上手く使えば、レベルが上の敵にも対抗できるんだな」
「ははは、そんなことか」
イロハは笑っているが、普通の冒険者なら常識なのかもしれない。
俺はほぼ初心者みたいなもんだし。
どうりで、今回のアタックに補助魔法を使う魔導師が沢山帯同していたわけだ。
ゴリラがやったように、補助魔法を使ってブースト――より高いレベルの敵を倒してレベルアップする。
まぁ、考えてみれば、当然といえば当然。
俺は、インチキでレベルが上がってしまったから、段階を踏んでない。
普通はそうやってレベル上げをするわけだ。
高レベル冒険者がこれだけいれば、ダンジョン談義にも華が咲く。
姫がいつも話している、超人計画についても話が出た。
コエダも興味津々に聞いているのだが、君は駄目だろう。
そういうことをすると、回復魔法を使えなくなってしまう。
騒いだり歌ったりしているうちに、いつの間にか無制限一本勝負に突入してしまう。
コエダもいるんだが――いいのか?
どうやら、いいらしい。
もちろん、カオルコやコエダには回復魔法に影響が出るようなことはしない。
そんなことをしている間に、朝になってしまった。
「は~」
1人でベッドに座る。
高レベル冒険者相手なので、また果てしない戦いになると思っていたのだが――。
ベッドにはひっくり返っている女の子3人。
姫やイロハの弱点も見つけたので、攻略できるようになった。
こういうのもレベルアップするものだなぁ。
1人で起きて、ズボンだけ穿くと居間に出た。
コーヒーを淹れて飲むと、窓を開ける。
コーヒーの香りやら、姫の香りやら、他の諸々ですごいことになってしまったので、換気だ。
最初は居間で勝負していたのだが、そのあと主戦場がベッドに移った。
姫とイロハが張り切っていたから、有り様も酷い。
1人で静かな早朝、ちょっと裸には肌寒いが心地よい空気の中、目の前に広がる美しい夜明けの光景が、ゆっくりと世界を照らし始める。
手に持った温かいコーヒーカップからは、ほのかに漂う香ばしい香りが鼻をくすぐり、湯気が淡い空気の中で静かに踊った。
空は、まだ薄暗さを残しながらも、オレンジ色から紫、そして淡い青へと移ろう彩りをまとい、雲がその変化に反射して柔らかな輝きを見せる。
朝日が地平線からゆっくりと顔を覗かせ、その光が徐々に強くなっていくと、目を細めるほどに眩しくなり、目に染みた。
冷たく清々しい空気の中、温かいコーヒーの一口が体に染み渡り、心の奥底まで温めてくれるようだ。
いつもは喧騒で満ちている特区もこの時間は静かだ。
ただ朝日が世界を目覚めさせるその瞬間に、自分だけがいる贅沢な時間を味わっている。
「うわ!」
俺は飛び上がって、コーヒーをこぼしそうになった。
突然背後から白い手が伸びてきて、俺の身体に絡みついたからだ。
背中に押し付けられる柔らかく大きなもの――カオルコだ。
姫の身体はこんな柔らかくないし、もっと力強い。
「おはようございます」
「気配を消して近づかないでくれよ」
見れば身体にシーツを巻いたカオルコが俺に抱きついている。
「……うふふ、気配を消すのにはちょっと自信がありますよ」
彼女は笑っているのだが――いやマジで、これが敵だったら俺は死んでいたかもしれん。
高レベルの冒険者になり、かなり感覚が鋭くなって――殺気みたいなものも感じられるようになった。
それがまったく察知できなかった。
もしかして、そういうスキルを彼女が持っているのかもしれない。
逃げるときにも暗闇にまぎれて気配を消されたら、まったくわからんな。
魔導師より暗殺者のほうがむいているんじゃないのか?
まったく、恐ろしい。
彼女が俺の背中に顔をつけて、なで回している。
「カオルコは、背中が好きだなぁ」
「だって――広いですし……」
彼女が俺の背中に抱きついていると、コエダが起きてきたようだ。
下着とシャツ姿の彼女が、俺とカオルコを見て真っ赤になって固まっている。
「はは、おはよう」
「おは、おはようございます……」
耳まで真っ赤だが、昨日はちょっとアルコールが入っていたから勢いで色々としてしまったのかもしれない。
今はシラフだろうし。
「大丈夫?」
「だい、だい、大丈夫……です!」
「ふぁ!」
俺は大きなあくびをした。
コーヒーは飲んだが、眠い。
居間のソファーにそのまま寝転がった。
そこにカオルコも乗ってくる。
「……」
なぜか、コエダも一緒だ。
――そのまま、太陽が昇り切るまで爆睡。
大きな声で起こされた。
「なんなのこれは!?」
「んぁ?!」
寝ぼけて、カオルコを抱いて起きると、スーツとパンツスタイルの姫が立っていた。
スーツ姿なんて珍しい。
「姫、おはよう」
「サクラコじゃないから!」
「え?!」
よくよく見れば、姫のお姉さんのカコだった。
「おっと、お姉さんか。おはようございます」
「おはようございますじゃない! なんなのこれは!?」
テーブルの上や下は昨日のどんちゃん騒ぎのあとが散乱している。
床に散らばる服やブラやショーツ、ソファーの上には裸や下着姿の男女。
まぁ、傍から見ても、酷い有様なのは解る。
「カオルコ」
彼女の顔をペチペチする。
「う~ん、ダイスケさ~ん」
彼女が抱きついて、大きな胸を押しつけてくる。
「まてまて、お客様だ」
「え?」
「おはよう!」
「ぎゃあ! カコ様!」
カオルコの叫び声に、コエダも飛び起きた。
カオルコが、身体にシーツを巻いたままバタバタして、居間の段差で盛大にすっ転ぶ。
自分の巻いていたシーツの裾を踏んだのだろう。
コエダも、自分の服がある寝室に飛び込んだ。
俺は、姫とカコを間違ったのだが、カオルコは解るらしい。
やっぱりつき合いが長いおかげであろうか。
「今日はまた、なんの御用で?」
「ここに、設置したいものがあるのでやって来たのだけど?」
設置?
設置というと、機械かなにか?
なんだろう。