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72話 家に帰るまでが冒険です


 迷宮教団の攻撃によって、7層の攻略が失敗してしまい、せっかく用意した足場も破壊されてしまった。

 今回のアタックに参加したメンバーは、意気消沈して帰路についた。


 ゲームならあっという間に戻れるのだが、このダンジョンでは帰り道もある。

 もちろん、敵とエンカウントもするし、浅層だからと油断はできない。


 5層まで戻ってくると、戦闘音が聞こえてきた。

 同時に助けを求める声も聞こえてきたので、戦っていたパーティを助けたのだが――。


 なんと、サナとキララのパーティだった。


 彼女たちには完全に嫌われてしまったと思っていたのだが、そうでもなかったらしい。

 このまま彼女たちを放置するわけにもいかないので、俺たちと一緒に地上へ帰還することにした。


 完全に事後承諾になってしまうが、緊急事態で人助けだ。

 俺たちのリーダーである姫も、「だめだ!」とは言わないだろう。

 暗闇の中に点滅して見える魔法の明かりを目印にして進む。

 あの明かりの場所に皆がいる。


「後ろの女の子の名前は? 俺はダイスケ」

「え、エマです」

「よろしくな。キララから俺の悪口を聞いているかもしれないが」

「そ、そんなことありませんよ」

 暗いし、目が隠れているので、表情はイマイチ解らないが、悪い子ではないらしい。


「サナ」

「は、はい……」

「7層で迷宮教団に会ったけど、レンの手がかりはなにもない。ちょっと難しいかもしれない」

「はい……」

「あの子は、自分で迷宮教団に会いに行ったしねぇ……」

 キララの言うとおりだ。

 それが彼女の望みだったのなら、俺にはこれ以上なにもできない。


「あの――ダイスケさん」

 俺の隣にエマがやってきた。


「なんだ?」

「ダイスケさんって、ギルド桜姫なんですよね?」

「そうだけど……」

「私! エンプレス様のファンなんです!」

 様ときたか。


「まぁ、ウチにエンプレスは確かにいるけど――魔導師オンリーのパーティなら、幽鬼にアドバイスをもらったほうがよくないか?」

「幽鬼って、ローリング・ストーンの?!」

 魔導師オンリーのトップギルドだから、キララも知っていたか。


「そうだ。今回一緒にアタックしていた」

「むむむ……」

 彼女が考え込んでいる。

 自分でベテランだという自負もあるし、たとえ相手がトップギルドとはいえ、教えを請うというのはプライドが邪魔するか?


「マジで上を目指しているなら、レベルに合わない階層に突っ込むよりは有用だと思うが」

「う、うるさい! 私だって危ないと思ったわよ!」

「ご、ごめんなさい……」

 サナがしょんぼりしている。

 自分のせいで、皆が危険に晒されてしまったというのは、理解しているのだろう。


 女の子――1人は違うが、彼女たちと話している間に、皆と合流した。


「ダーリン! その子たちは?」

「レベルにそぐわない階層に突っ込んでいた」

「無茶無謀と、勇気は違うのだぞ?」

「ご、ごめんなさい……」

「実はな――助けてみたら、俺の知り合いでな」

「ダーリンの?」

「俺が前にギルドを持っていたろ? そこの子たちだった。今は独自のギルドを立ててやっている」

「そうか」

 エマがカオルコを見ると、光速でシュバっていた。


「あの! エンプレス様ですよね?!」

「え、ええ……そうですけど……」

「だ、大ファンです! 握手してください!」

「ええ? は、はい」

 グイグイ来るファンに、カオルコがタジタジになっている。


「それって、新しい装備ですか?! すごく格好いいですね!」

 エマが、カオルコの回りをぐるぐると回っている。

 目が隠れているが、彼女の声からして、目をキラキラさせているのではなかろうか。


「あ、ありがとうございます」

「ええ? そう? 絶対にありえないんだけど……」

 カオルコの乳暖簾を見たキララが、ボソリとつぶやく。


「まぁ、キララじゃ絶対に無理だよな」

「そんなことないわよ! いけるわよ!」

「おい、止めろ止めろ、いい歳して」

「歳は関係ねぇ!」

 そんなのネットに上げたら、「BBA無理すんな」コメで溢れるだろ。


 キララとじゃれ合っていると、姫の機嫌が悪くなるし、待たせている皆にも悪いので出発する。

 隊列を組み、周囲を警戒しつつ進む。


 幸い、そのあとは敵とエンカウントすることなく、5層入口のキャンプ地までたどりついた。

 皆の荷物を出す。


「それが、アイテムBOXですか?!」

 初めてアイテムBOXを見て、エマが驚いている。


「まぁな。ウチのカオルコも、アイテムBOX持ちだから、ギルド桜姫は最強ってわけだ」

「いいなぁ~、私もアイテムBOXゲットできないかなぁ」

「ゲット条件は解らないんだよねぇ」

 一応そういうことにしておく。

 俺は裏庭ダンジョンのボスっぽいのを仕留めたらゲットできたから。

 もしかして、ある種のダンジョンボスの討伐――というのが、アイテムBOXの入手条件なのかもしれない。


 エマと話すと、明るくていい子だ。

 サナとキララとも、仲良くやっていけるだろう。


 保護した女の子たちと一緒に食事をする。

 サナがカレーを食いたいようなので、カレーにしたのだが――彼女が涙目でそれを食べている。


「その子たちが、保護した冒険者かい?」

 イロハたちも、一緒にカレーを食っている。

 カレーもかなり作ってきたが、もう在庫が底を尽きそうだ。


「そうなんだけど、助けてみたら知り合いでさ」

「え?! ダーリンの知り合いかい!」

「そうなんだよ」

「怖かったのかもしれないが、こんなことで泣いてちゃ、冒険者はやってられないぜ?」

「……」

 サナが泣いているのは、危機一髪だったせいか、それともカレーを食いたかったせいか――それとも両方か。


「姫、以前ホテルに女の子がカレーを食いに来ただろ?」

「ああ」

「ここにいる彼女は、あの子のお姉さんなんだよ」

「そうなのか」

 姫も、興味なさそうに淡々と食事をしている。

 サナが知り合いだったということで、あまりよく思ってないのかもしれない。


「あ、あの――ギルドゴーリキーの皆さんですよね?!」

「ああ、そうだよ」

 エマという女の子は、冒険者マニアみたいだな。

 いや、冒険者ならトップギルドやら、ランカーに興味があるのが、普通なのか。

 俺のように、あまり気にしてないのが変なのかもしれない。


 まぁ、ド田舎の普通のオッサンだったからなぁ。

 ダンジョンは日本の行く末にも関係あるから、一応ネットのニュースなどを見ていたが……。

 まさか、自分で冒険者になって、こんな攻略に参加するなんて思ってもみなかった。


「すご~い! トップギルドの皆さんと一緒に食事ができるなんて!」

「聞きたいことがあれば、聞いてみればいい。もちろん、お礼はしてな」

「は、はい!」

 浅層の冒険者が、ランカーと話したりする機会はあまりないだろう。

 貴重な経験になるはずだ。


「ギャギャ!」「ギャ!」

 姿を見せなかったハーピーたちが戻ってきた。

 おそらく食い物のにおいに釣られたのだろう。


 バサバサと近くに降りてきたのだが、皆は知っているから無反応だが、エマは飛び上がった。


「ぎゃあ! ハーピー!?」

「ギャ!」「ギャーッ!」

 エマの大声に、ハーピーたちも反応して、ギャアギャアと喚いている。

 非常にうるさい。


「こらこら静かにしろって。こいつらは、大丈夫だよ」

 2羽をまとめて抱っこした。


「ええ?!」

「ハーピーが増えているじゃないの!」

 キララは、ギギのことを知っているが、そのあとに加わったチチのことは知らない。


「ダンジョンの奥でな。こいつにも懐かれてしまったんだ」

「信じられない」

「オッパイが大きくて可愛いだろ?」

「セクハラオヤジ! 死ね!」

「ははは」

 キララが言うとおり、ちょっとオッサンギャグだったか。


「……オッパイ……私のほうが……ゴニョゴニョ……」

 サナがなにか言っている。


「ギャ!」「ギャー」

「今日はカレーなんだぞ? 前にカレーを食って懲りたと思ってたんだがなぁ……」

 ハーピーがカレーを食い始めた。

 慣れたみたいだな。

 人間っぽい頭だし、舌の味覚も人間に近いのだろうか?


「ハーピーが人間に懐いている……」

 エマは、まだ信じられない様子。


 皆でカレーを食っていると、コエダがやってきた。


「あら? 誰かと思ったら、キララさんじゃないの」

「う……」

 キララが気まずそうだ。


「なんだ、知り合いか?」

「ははは、まぁね」

「まぁ、ベテランだから、あちこち渡り歩いているんだろうけど。知り合いが多いと大変だな」

 冒険者なんて狭い世界だし。


「うるさいわね!」

 彼女がカレーを口に放り込んでいる。

 あまり昔のことを聞かれたくないのだろう。


「飯を食い終わったら、幽鬼の所に行こう。彼らは魔導師だけでランカーだ。サナのギルドの参考になるぞ」

「……コク……」

 サナが頷いた。

 自分のやり方では限界が見えていたのかもしれない。

 行き詰まった場合は人に助言を頼ることも必要だし、相手はトップランカー。

 貴重な体験だ。


 カレーを食い終わったので、後片づけをすると、サナたちを連れて幽鬼の所に行く。


「幽鬼、ちょっといいかい?」

「おや、ダーリン――なんでしょう?」

「なんで、みんなダーリン呼びなのよ!」

 キララは、俺が変な呼び名なのが気になるようだ。


「いつの間にか、皆からダーリンって呼ばれてしまってるんだよ」

「「「クスクス」」」

 魔導師の女の子たちが、なにやらひそひそ話をしながら、こちらを見て笑っている。


「さっき助けた子たちなんだけど、魔導師オンリーのパーティについて、レクチャーしてやってくれないか?」

「おや、キララさんじゃないですか? ちょっと女の子とは言い難いようですけど」

「うう……」

 彼女が横を向いている。


「お前、ここでも知り合いか?」

「う、うるさい」

「ベテランの彼女に、私が教えることはないと思いますが……」

 どうも嫌味に聞こえる。

 以前、トラブルがあったのかもしれんな。

 キララのこの性格だし。


「そんなこと言わずに、タダとは言わん。これをやる」

 俺はアイテムBOXから、ゴーレムのコアだった魔石を取り出した。


「ふむ」

 彼が、魔石を受け取った。

 この大きさを地上で売ったら100万円ぐらいするかもしれない。

 授業料としてはいささか高価かもしれないが、トップランカーの講義を受けられる機会なんてそうそうない。


「よろしくお願いします!」

 エマが勢いよく礼をした。


「キララに教えるのが嫌だと言うなら、若い子たちだけでもいい」

「よろしいですよ」

「わ、私もお願いします」

 キララが頭を下げた。


「……」

 彼の知っている魔導師の行動としては、ちょっと意外だったのかもしれない。

 幽鬼が驚いている。


「彼女も色々とあって、考えを改めたんだよ」

「わかりました」

 彼が、ちょっとため息を漏らして、そう答えた。

 サナたちは、幽鬼に任せることにしよう。


「講義が終わったら、戻っておいで」

「は、はい」


 姫の所に戻ったら、今度は彼女がむくれている。


「危険で無謀なことをする若い子を放っておくわけにもいかないだろ?」

「そ、それはそうだが……別にダーリンが面倒をみる必要もないのでは……」

「ははは! なんだよ、桜姫がヤキモチか?!」

 イロハが豪快に笑っている。


「そうじゃないが!」

「はは、なんだ桜姫も、意外と面倒な女だったんだな」

「実はそうなんですよ」

 即座にカオルコがイロハの言葉を肯定した。


「カオルコ! お前は私の味方じゃないのか?!」

「ええ、もちろん。サクラコ様の味方ですよ」


「だったら、即座に否定しろ!」

「いやです。それとこれとは話が別なので」

「ぐぬぬ……」

「あははは! こんなの普段の桜姫からは、想像できないよな」

「オガ! 笑いすぎだぞ!」

「ひぃ~ひひひ!」

 よほど面白いのか、イロハが腹を抱えて笑い転げている。


 そのあとも、イロハが姫のことをからかっていたのだが、1時間ぐらいでサナたちが帰ってきた。


「どうだった?」

「とっても、参考になりました!」

 エマが顔面を紅潮させて、興奮している。


「サナは?」

「……私なんて、全然ダメダメで……」

「そのぶんだと、キララも勉強になったんじゃね?」

「ふん! 私だって、あのぐらいにすぐになれるんだから!」

 幽鬼はキララより若いのに、高みに上っているのだが……。

 まぁ、彼女は見栄を張る方向にいってしまったせいもある。

 上手く方向転換できれば、経験はあるんだ、それに実力も伴ってくるのではなかろうか。


 姫に睨みつけられて、サナが俺の後ろに隠れた。

 俺の服を掴んでいる。


「姫、そんなに睨まないで」

「睨んでなど、いない!」

「桜姫よ~――あたいはいいのに、そんな女の子はだめなのか?」

 姫の行動を、イロハがからかっている。


「うるさい!」

「……」

 俺の後ろに隠れているサナが、ちょっとふるえながら姫を睨み返していた。


「ふん! そうだな――私と一緒に戦えるぐらいのレベルになれるなら、認めてやってもいいが、ははは」

「なれます! なってみせます!」

 姫の挑発とも言える言葉に、サナが即答した。


「おいおい……」

「ははは、やってみせろ!」

「やります!」

「「ぐぬぬ……」」

 姫とサナが睨み会う。

 姫が勝ち気なのは解っていたが、サナも意外と気が強い。

 まぁ、勝ち気じゃないやつが、冒険者にはならんか――とは思うが。


「姫も煽らないで! また、危ないことをしたらどうする!」

「無茶無謀をするのも、また冒険者!」

 彼女がふんぞり返る。


「さっきと言ってることが違うんだが……」

 言いたいことは解るが。

 心の奥底に滾る情熱がなけりゃ、こんなことは続けられない。


 明日に備えて寝る。

 他にやることもないし。


「ギャ」「ギャギャ」

 俺のねぐらは、ハーピーと姫たちにガードされているから、さすがにサナもやってこない。

 まぁ、ここは桜姫のパーティで、彼女は部外者ってことになるわけだし。


「ふう……」

 サナがあまり無茶をしなけりゃいいが。


「……あの女が心配か?」

 俺の隣で寝ている姫がつぶやく。


「そりゃ、知り合いだし、子どもだし」

「冒険者ってことは成人しているんだろ?」

「そりゃそうだが――オッサンは若い子のことが気になるんだよ」

「私だって若いんだが……」

「姫は、サナより美人で家柄もよくて、冒険者としても知名度もダンチ。カリスマもあるし、金も持ってる。サナに嫉妬する要素が1ミリもないだろ?」

「……し、嫉妬などしていないが……」

「はぁ……」

 俺のため息ではない。

 隣で寝ているカオルコのため息だ。


「カオルコ、言いたいことがあるなら、言ったらどうだ?」

 姫の言葉に棘がある。


「あまり駄々をこねていると、ダイスケさんから嫌われますよ」

「うぐ……」

「そんなことはないが、困っている知り合いを助けるぐらいは許してくれるような、寛容な広い心を姫様にはお願いいたしたいのですが」

「そうですよ、ダイスケさんの言うとおりです」

「う、ぐぐぐ……」

 姫は、それからなにも言わなくなった。

 解ってくれたのか、それともへそを曲げてしまったのか。


 静かになったので、明日に備えて眠りについた。


 ――サナたちを助けた次の日。

 多分、朝。

 残りの浅層は一気に移動して、3層~1層はダンジョン内の列車を使う。

 帰りなら、姫たちが冒険者に囲まれることもないだろう。


 サナたちも一緒に食事を摂る。


「美味しいですね! ダンジョンの中で、こんな食事を取れるなんて」

 エマが美味しそうに食事をしている。


「ははは、俺にはアイテムBOXがあるからな」

「いいですよねぇ」

「サナ、いつもちゃんと食事は摂れてるか?」

「は、はい」

「困ってたら、俺を頼ってきてもいいんだぞ?」

「……」

 子どものミオみたいに、無邪気にやってくるわけにはいかないか。

 眉毛のないキララも黙って食事をしている。

 ダンジョンの中でも、化粧を落としたりしているのか。

 まぁ、男の俺には解らんが、塗りっぱなしってわけにはいかないのかもしれん。


 彼女は、自称なんちゃってセレブだったわけだが、眼の前には本当の超セレブがいるからな。

 日本を裏から支配している――なんて言われている八重樫グループのお嬢様だし。

 キララも、姫たちのことはもちろん知ってるだろう。


 ハーピーたちにもご飯を食べさせた。


「よしよし、ここで、お前たちともお別れだな」

「ギャ!」

「今回もありがとな」

「ギャ」「ギャー」


 食事も終わり、後片付けをすると、地上に向けて出発した。

 ハーピーたちとも別れる。

 これ以上浅層につれていくわけにもいくまい。


 攻略に失敗してちょっと落ち込んでいた冒険者の面々だが、家が近いということで表情も明るくなってきた。

 3層に到着すると、皆で列車に乗り込む。

 サナたちの分は俺が出すことにした。


「すごーい! 初めて乗りました!」

 中には照明がないから真っ暗なのだが、たまにある外の明かりに照らされて一瞬だけ人や車内が形をなす。


「俺は、いつも自転車だったからな」

「それもアイテムBOXの中に入っているんですか?」

「そうそう」

「いいなぁ」

「多分、みんなそう思ってるよ」

 俺たちの他にも冒険者がいるのだが、トップランカーたちが乗っているのが解ったのか、ひそひそ話をしている。

 騒がれるよりはマシだ。


 2層、1層と、徐々に人も多くなっていく。

 当然、姫たちを知っている冒険者たちもいるので、ざわざわと騒がしい。

 それでも、トラブルなく1層のエントランスホールまで戻ってきた。


「は~ずっと暗闇の中だったから、光ファイバーの明かりが眩しいな」

「まったく、ここに来ると、帰ってきたって感じになるぜ」

 イロハもそう思っているらしい。


「姫、仕留めた魔物や、魔石の配分などは、どこでやるんだ?」

「ここでやる。広いからな」

「わかった」

 ここのエントランスホールは、かなり広いからな。

 端に行けば、ほぼ人はいないので、問題ないだろう。


 俺のアイテムBOXから、今回仕留めた獲物を出した。

 中でごっちゃになっているから、各ギルドが取っていたメモなどを参考に分配していく。

 こういうのは、結構アバウト。

 厳密にやるのは中々難しいし、争いになりかねん。

 トップギルドはそれなりに余裕がある所ばかりなので、揉めることもなくナァナァで進む。

 金持ち喧嘩せずってやつだ。


 我が道を行くで、ローンウルフを気取ってもいいが――いざというときに助けてもらえなくなっても、文句を言ってはいけない。

 某踊る暗闇のように、孤立して自滅する未来が待っていたとしてもだ。


 各ギルドに配分したものをパレットラックに載せて再びアイテムBOXに収納した。

 ここで解散しても運搬ができないので、俺が運ぶわけだ。


「レッサーデーモンはどうしようか……」

「これが売れるとは思えねぇなぁ、ははは」

 イロハが笑っているが、赤い肌をした魔物にキララが驚いている。


「ダイスケ! これはなに?!」

「レッサーデーモンだよ。こいつはヤバいぞ。6層にいていい魔物じゃないと思う」

 赤い肌の魔物に遭遇した皆が、「うんうん」と頷いている。


「まったくだぜ! こんなのとエンカウントしても、一銭の得にもならねぇ」

「数値は解らんが、経験値は高いかもしれんぞ」

「ええ?」

 イロハはかなり嫌そうだ。


「ダーリン、こいつはどうする?」

 姫はレッサーの処遇を俺に決めさせたいようだ。


「俺がもらっていいか?」

「そりゃ、ダーリンが仕留めたものだし」

「それじゃ、大学のセンセにやろう。多分見たことがないから、喜ぶと思う、ははは」

 そうそう――センセといえば、俺の子種も調べてもらわんとな。

 これだけ姫やイロハと勝負して、なにも反応がないというのは、おかしい。

 ダンジョンに入ると、レベルに伴い身体が変化するのか?


 少々疑問だが、冒険者同士で子どもがいる人もいたと思ったが……。

 まぁ、とりあえず調べてもらわないとな。


「ふう……」

 家に帰るまでが冒険です。

 皆が和気あいあい、キャッキャウフフしながらダンジョンの外に出る。


 自動改札を通ると、俺は鋭い気配のようなものに、背筋が冷たくなった。


 これは殺気?!


 

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