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71話 撤収開始


 ダンジョン7階層、地面から100mの出入り口を攻略するために、単管の足場を組むことにした。

 もちろん材料は俺のアイテムBOXで運んで、準備万端。

 順調に組み立て作業を行っていたのだが――。


 誰も見たことがない化け物に襲われた。

 キメラと思われる魔物と一緒に迷宮教団の女が出現。

 どうやら、このキメラはこいつの仕業らしく、迷宮教団と一緒に逃げたギルド踊る暗闇の奴らだと判明した。


 ダンジョンと一緒になって大いなる神の力によって変わったとかなんとか……。

 俺から言わせれば、神さまじゃなくって、邪神なんかじゃないのか?

 利用するだけ利用して、ポイか。


 ちょっと悪党どもが不憫な気がする。

 姫は、そんな感情は不要だと言うが。


 戦闘が終わったので、辺りの確認をする。

 ダンジョンはしんと静まり返って、なにごともなかったことのようであるが、目の前に転がる魔物のかばねがそれが現実だったことを示している。


「まさか、こいつは金にならないだろうしなぁ」

 そもそも、こんなものをアイテムBOXに入れるのは嫌だし。

 唯一金になりそうだった魔石は砕いてしまった。


 足場は崩れてしまい、もう修復不可能だし。


「まったく、骨折り損のくたびれ儲けってやつか……」

「はぁ~」

 イロハもウ○コ座りをして、クソデカため息をついた。


「桜姫は、途中でゴーレムの魔石やら集めたんで、ちょい浮きぐらいだろうがなぁ……ウチは、完全に赤字だぜ」

「途中の階層で、また金稼ぎするか?」

 一応、イロハに提案をしてみた。


「アレ見たら、そんな気分にもなれねぇ……」

 彼女が、肉の塊になってしまった踊る暗闇を指した。


「まぁ、そうか……」

 そういえば、忘れていた――ゴリラのことだ。

 ダンジョンの隅でふっとばされてしまった彼と、ミカンの所に向かう。


「大丈夫か?!」

「あ、はい」

 ミカンが彼の面倒をみている。

 死んではいないようだ。

 アイテムBOXから回復薬ポーションを出す。


「使ってくれ」

「ありがとう……」

「まぁ、あれだけの戦闘だったんだ。回復ヒール回復薬ポーションは必要経費みたいなもんだろ」

「ごめんなさい……」

「別に君が謝ることはない」

「見たか! 俺だってまだまだやれる」

 薬でちょっと回復したと思ったら、ゴリラが口を開いた。

 ちょっと呆れていたら、彼がミカンに殴られた。


「その前に、『ありがとうございます』でしょ!?」

「まぁ、彼の攻撃で助かったしな」

 悪態をつけるぐらいなら大丈夫だろう。

 彼もまた、ダンジョンで真面目に巡回を始めるのではなかろうか。


 ちょっと気になるのは、ゴリラとミカンがいい感じなのだ。

 これは、よりが戻ったということなのだろうか?

 そうするって~と、黄金の道の副リーダーである幼なじみちゃんは、やっぱり負けヒロインなのかねぇ……。


 まぁ、他のギルドについて口出しをするつもりはないが。

 ゴリラは大丈夫そうなので、俺は姫の所に戻った。


「姫、どうする?」

「無論、撤退だ」

「これからだとちょっと時間が遅くなる。ここで再キャンプするか、6層まで戻るか」

 多分、今は午後3時頃だと思われる。


「ここだと、また襲われるかもしれん。6層まで戻る」

「わかった。皆にも伝えてくるよ」

「頼む」

 治療などをしている皆の所を回り、6層まで撤退することを告げる。


「ふぅ、しゃーねぇ!」

 イロハが腰を上げた。


「私の魔法も残りわずかですし……」

 幽鬼も結構魔法を使っていたな。

 当然、女の子たちもそうだろう。


 魔導師たちに、魔力回復薬(マジックポーション)代わりのダンジョン温泉のお湯を渡す。


「これはありがたい」

「「「ありがとうございます~」」」

 女の子たちが一斉にお辞儀をした。


「こちらも、人体実験みたいな感じになっちゃってスマンな」

「いいえ、これは貴重なものですよ」

 実は、アイテムBOXのタンクに山程入っているとは言えんが、こいつは利用価値が高いと解っただけで僥倖だ。


「ダーリン、そいつは売らないのかい?」

 イロハが会話に入ってきた。


「ダーリンさん、売ってほしいですぅ!」「私も!」

「でもなぁ、7層を攻略できて、温泉に到達できればタダで手に入るんだぞ?」

「本当に、温泉なんてあるのかい?」

「あるある。姫やカオルコも一緒に入ったし。かなり広いぞ」

「へぇ~」

「そこに、幽鬼の固定(フィックス)の魔法を使って魔力回復スパを作りたいんだが」

「いいですねぇ」

 幽鬼も乗り気のようだ。


「そのためにも、迷宮教団の連中を始末しないとな」

「ああ!」

 イロハが、拳を打ち合わせた。


 魔力回復といえば、カオルコを放置したままだ。

 彼女の所に行く。


 背中を壁につけて、へたり込んでいたので、彼女にも温泉のお湯を飲ます。


「ダイスケさん、ありがとうございます」 

「撤収するそうだけど、立つぐらいはできるか?」

「これを飲めば、なんとか……」

 魔力がほぼゼロの状態で、お湯を飲むと効き目が如実に解るらしい。

 座ってもフラフラだった彼女が、立てるようになった。


「こういうお湯があるってことは――なんらかの方法で、液体に魔力を溶かす方法があるってことなんだろうか?」

「そうかもしれません」

「その仕組が解れば、もっと強力な魔力回復薬(マジックポーション)ができるかも」

 とりあえず、解らないことが多すぎる。

 ゲームっぽいのに、攻略本もマニュアルもない状態だからな。

 仕様も解らんし、どんなクソゲーだよって感じ。


「ここにいても危険が増すばかりだからな。足場は壊れちゃったし」

「まったくよぉ! 上手くいかねぇことばかりだぜ!」

 イロハはかなりストレスが溜まっているようだな。


「手持ちの駒が、やつら(踊る暗闇)しかいなかったんだろう」

「くそぉぉぉ! なんとか追いつめて、ぶちのめしてやりてぇ!」

 彼女が拳をブンブンしている。


「待て待て、下手に突っ込んでも、どこかに飛ばされたりキメラの材料にされるだけだぞ?」

「う……」

「俺は、キメラになったイロハとやるなんて御免だぞ」

「あたいだって嫌だよ」

 でも、本当にそんなことになったら、やるしかないんだよな。

 誰かがやらないと駄目なことだし。


 皆の治療などが終わったので、撤収する。

 壊れてしまった足場は回収した。

 幽鬼の魔法がかかっているので、ゴミになってしまってもダンジョンに吸収されない。

 使える単管だけ外して、ミサイルの材料にするか。

 浅層の魔物なら、単管ミサイルで十分だし。


 魔力切れでカオルコがフラフラなのだが、温泉のお湯で少し回復したようだ。

 立つぐらいはできるようになったので、自転車を出す。

 後ろに乗ってもらう。


「自転車か~。浅層では使っているやつは多いけど、壊れたりすると途端に荷物だからなぁ」

 ゴリラに肩を貸しているイロハが、俺の自転車を眺めている。


「俺みたいにアイテムBOXがないと、逆に不便かもしれないな」

 彼は、回復ヒール回復薬ポーションで、なんとか歩けるようになったみたいだな。


 皆で6層を目指す。

 一応、層の境目は安全地帯のはずなのだが、迷宮教団の襲撃に備えて警戒を怠らない。

 そのまま6層に到着して、キャンプを張る。

 皆、戦闘で疲れているだろうし、英気を養わないと。


 襲撃に備えて、交代で見張りも立てることにした。

 普通は、安地は休息の場所ということになっているのに、迷宮教団のせいでそいつが崩れてしまうと、ダンジョンのあり方も変わってしまう。


 迂闊に、深層のアタックもできなくなるだろう。

 それでなくても物資の補給などで苦労することが多いのに、安全地帯が安全でなくなる――というのはかなりキツイ。


「クソ、迷宮教団め」

 イロハが愚痴をこぼすのも解る。


 俺や姫たちも、深層にアタックができないと、徐々にレベルダウンしてくるしな。

 まず、アイテムBOXからエアマットを出して、カオルコを寝かせた。


「ダイスケさん、ありがとうございます」

「温泉のお湯の効き目はどう?」

「やっぱり、効いてます」

「もう一度飲んだら、効き目が倍増しないかな?」

「どうでしょう?」

「試してみるか?」

 彼女にもう一度、温泉のお湯を飲ませた。

 人体実験みたいで気が引けるが、回復薬ポーションだって、最初は誰か試して人体実験したんだから、これもダンジョンの掟みたいなもんだろ。

 効き目が上乗せできるなら、これもまた大発見だしな。


「そういえば、幽鬼の使った魔法も初めてみたな」

「あれは光弾の魔法だと思いますよ」

「彼が、改良したのかな?」

「おそらく――仕組みは察しがつきます」

「カオルコが使うアレよりは、魔力の消費が少なそうだ」

「ヒントはもらいましたから、私も試してみようかと思います」

 手の内を見せると真似をされるのも、ダンジョンでは仕方ない。

 魔法や戦闘方法に、特許があるわけじゃないからな。


「ギャ!」「ギャギャ!」

 キャンプの用意をしていると、ハーピーたちも戻ってきた。

 こころなしか元気がない。

 見たことがない魔物に遭遇したので、ちょっとビビってるのかもしれない。

 2羽を一緒に抱いてやる。

 羽がフワフワしてて、暖かい。


 魔導師の女の子たちが固まり集まっていて、どんよりしている。

 くたびれ損だわ、わけのわからん敵に襲われるわで、テンションがだだ下がりのようだ。

 ハーピーたちを抱っこしたまま、彼女たちの所に向かう。


「君たちももう一度、温泉のお湯を飲んでみてよ。もしかして魔力の回復が早くなるかもしれないから」

「いいんですか?」

「ああ」

 ハーピーを下ろすと、女の子たちにお湯を分けてやった。

 追加で欲しいという子には、魔石と交換で売ってやることに。

 あまりタダでやるわけにはいかないからな。


「そう見ると、ハーピーも可愛いですねぇ」「本当に懐いてますよね~」

「私は――食べ物取られたりとか、ウ○コ引っかけられたりした思い出しかないけど……」

 人によっては、あまりいい思い出がないらしい。

 それでも、ハーピーのお陰で、彼女たちにも少し微笑みが増えてきた。


 お湯の効き目や、投与の間隔などが判明したら、金や魔石を取ってもいいだろう。

 まぁ、正式に売るつもりはないけどな。

 そんなことをしなくても、今回のアタックの動画をサイトに上げるだけで、数千万円になるだろうし。


 いや、その前に――政府からの金が数百億円入ってくるから、動画を止めてもいいんだが……。

 なにか、自分のやったことを記録に残したい――という気持ちも強い。


 もしも冒険者にならなかったら――いや、あの限界集落の自宅の裏にダンジョンの穴ができなかったら。

 俺はド田舎の誰も知らないオッサンで一生を終えていたはずだが、俺が撮った動画をサイトにアップしたことによって、全世界からのアクセスがある。


 少なくとも、動画を観た人たちは、俺というオッサンがこの世に確かに存在した――ということを覚えていてくれるはず。

 誰も知らないオッサンから、誰かが知っているオッサンにレベルアップしたわけだ。


 ダンジョンがなければ、大金をゲットすることもなかったし、どこぞの超お嬢様たちとつき合うこともなかっただろうしな。

 世界が静止して、突然ひん曲がってしまった俺の人生が、また突然に高速道路に乗ることになってしまった感じだ。


 戻ると、イロハたちと一緒に食事をする。

 完全に一緒のパーティになってしまったようだ。


「はぁぁぁぁ~」

 また、イロハがクソデカため息をついている。


「なんだ、鬱陶しいな!」

 姫も不満を漏らすが、両方の気持ちも解る。


「まぁまぁ、帰ったらみんなでパァ~っとやろうぜ!」

「ほんとかい?!」

「ああ、こういうときにはパッとやるのが一番だ」

「やったぁ!」

 イロハが抱きついてきた。

 圧倒的な圧力で潰されそうになる。


「私のダーリンだぞ! ――と、言いたいところだが、私もそんな気分だ」

「それじゃ、みんなでパッとな! ははは!」

 誰だって、むしゃくしゃするときもある。

 ストレスは発散させないとな。

 ダンジョンで暴れるという手もあるのだが、俺らみたいな高レベル冒険者が、浅層で暴れたら他の冒険者たちの迷惑だろう。

 俺たちのレベルに関係ないのに、狩り場を荒らしているわけになるし。


 俺の提案に、姫やイロハの士気も上がったような気がする。

 カオルコは、まだ魔力が戻ってないので、じっと寝転がったまま。

 回復するのは、寝て起きてからだな。

 温泉のお湯の効き目に期待するしかない。


 襲撃に備え、交代で見張りを立てつつ、皆で就寝。

 見張りはくじ引きで決めた。

 その前に、敵が接近すれば、ハーピーたちが真っ先に騒ぐかもしれない。

 それでも、彼女たちに任せきりというわけにもいくまい。

 俺たちでも警戒をしなければ。


 幸い、俺はくじに当たらなかったが、姫が当番に当たったようだ。


「俺が代わろうか?」

「いや、いい」

 俺のくじ運はかなり悪いほうだったのだが、冒険者になってから、それも改善したように思える。

 ステータスの数値は見えないが、幸運値みたいな数値があるのかも。

 レベルの上昇に合わせて、その数値が増えている可能性は考えられないだろうか?

 そうじゃなきゃ、若くて可愛い子や、良家のお姫様たちと知り合いになるなんて、ちょっと無理だろうし。


 他の女性にも、なぜかモテているしな。

 まぁ、冒険者ということで強さもあるし、金も持っている。

 それだけでモテてる可能性も、なきにしもあらずだが。


「ふう……」

「ギャ」「ギ……」


 ハーピーたちは俺の腹の上、脇にはカオルコ。

 イロハと、コエダも近くで寝ている。


 さてさて、さっさと帰りたいぜ。


 ――6層に戻ってきて、次の日の多分、朝。


 また皆で飯を食い、地上を目指すために出発する。

 ゴリラとカオルコも、一晩休んで回復したようだ。

 ゴリラは結構なダメージだと思ったが、魔法ってのはスゲーな。


 6層で、また魔物に襲われつつ、これを撃退。

 ゲームと違うところは、帰路もしっかりとあることだな。

 帰還のアイテムで一足飛び――みたいなことができない。

 もしかして、「なんとかの翼」みたいな、帰還のためのアイテムがあるかもしれないが。


 レッサーデーモンだけは注意する。

 あいつは厄介すぎるし、経験値が高いわけでもない。


「レッサーデーモンが出たら、俺たちに任せて!」

「「「は、はい!」」」

 魔法は使うし、口からビームは撃つし。

 8層? のマンティコアと戦闘力も変わらんじゃないか。

 それがなんで6層にいるんだ。


 ゴーレムやレイスのように、なにか攻略法が見つかれば、雑魚敵になるのだろうか?

 それまで十分に警戒するしか手がない。


 さすがに帰りの戦闘は、皆がぐったりしているし、乗りも悪い。

 ――といっても、魔物は手加減してくれないので、適当にあしらうわけにもいかない。

 俺や姫は、なるべくトドメを女の子たちに回している。

 俺たちがいくら倒しても、レベルには関係ないし。


 6層を通過して、5層まで戻ってきた。

 徐々に敵が簡単になる。

 5層の入口で1泊して、明日には一気に地上へ戻れる――そう考えると、足取りも軽くなった。


 他のパーティの面々も、表情が明るくなったように見える。


 このメンツなら5層は問題ない。

 そろそろ5層の出口が近くなった――と思ったら、戦闘音が聞こえてきた。

 ここらへんまで来ると他の冒険者も増えてくるだろう。


 多分、魔法の音だと思うのだが――ちょっと様子がおかしい。


「だ、誰か~!」

 これは、救援の要請ではなかろうか。


「姫、ちょっと様子を見てくる」

「承知した。なにかあれば応援を呼んでくれ。まぁ、ダーリンが駄目なら、私たちも無理だが」

「ははは、ちょっと行ってくる」

 暗闇の中を音のする方角にダッシュする。

 次第に魔法の閃光と、巨大な影が近づいてきた。


 シルエットからして、ゴーレムだと思われる。

 有効な魔法を持たないパーティが土塊の人形に囲まれてしまったのだろうか。


 俺はゴーレムに囲まれているパーティに声をかけた。

 どうやら、女性の魔導師パーティらしいが、魔法オンリーじゃ対応ができなかったのかもしれない。

 ゴーレムは2体だ。


 やっぱり、パーティの人数によって、湧き数が調整されてないか?

 俺たちのときには、うじゃうじゃ出てきただろ?

 いや愚痴の前に、やるべきことがある。


「助けが必要か?!」

「お願いします!」

 ん? 聞いたことがある声だが……いや、その前に片付けるものを片付けてしまおう。

 ゴーレムなら、もう攻略法を見つけたからな。


「ゴゴッゴ!」

 ゴーレムのパンチをスルリと躱し、懐に飛び込むと脚に取りついた。


「オラァァ! 天地返し!」

 渾身のパワーで、ゴーレムの巨体を投げ飛ばす。


「ゴ!」

 1人バックドロップを食らって土塊人形が、半壊した。

 胴体に乗ると、アイテムBOXから腐敗のナイフを取り出す。

 目的は、もちろん胴体にあるデカい魔石。


 魔石の横にナイフを突き刺すと、すぐに固定が緩むので、ゴーレムの動力源である黒い石を蹴飛ばした。


「ゴゴゴ!」

 残ったゴーレムが、仲間の身体ごと俺を殴りにきた。


「ほいっと!」

 ゴーレムのパンチに飛び乗り、そのまま駆け上がると、背中から反対側に着地。

 石塊の脚に取りついた。


「おりゃぁ!」

 再び天地返しでゴーレムをひっくり返す。

 ひっくり返したら、魔石を外して、これで終了だ。

 攻略方法を掴んでしまったら、雑魚敵に早変わり。

 まぁ、俺のレベルが高いせいもあるんだが……。


「ダイスケさん!」

 俺は声がするほうを振り向いた。


「サナか!?」

 どこかで聞いたことがある声だと思ったら、サナだった。

 もう1人は、よく見ればキララ。

 残る1人は、初めてみる女の子だ。

 キララがスカウトしたのかもしれない。


「ダイスケさん~!」

 サナが泣きながら俺に抱きついてきた。

 状況的に結構ピンチだったから、危機一髪って感じだろう。


「なんで、こんな階層まで? もうそこまでレベルが上がったのか?」

「……」

 彼女が黙っているのを見ると、どうやらそうではないらしい。


「キララ、ベテランのお前がいて、なんでこんなことになってるんだよ」

「……サナが、どうしてもって言うから……女の意地って言われたら、もうつき合うしかないでしょ……」

 彼女が目を逸らしながら、ふてくされたように言う。


「なんで、そんな無茶を?!」

「ふぇぇぇ! 私もダイスケさんのカレーを食べたかったんですぅ!」

「はぁ? カレー? 食べにくればいいじゃないか」

「馬鹿ねぇ! そういうことじゃないのよ!」

 キララから馬鹿とか言われた。


 そういうことじゃないと言われたし、サナの無茶な行動から察するに――。

 要は、俺と近いレベルになれば、また一緒にダンジョンに行けると思ったのかもしれない。

 姫たちにも肩を並べられるし――ということなのだろう。


「君になにかあったら、ミオはどうするんだ」

「……」

 彼女が黙っているのだが、あまりに無茶すぎる。


「とりあえず、君たちみんな魔力を使い果たしただろ? 俺たちと一緒に地上に戻ろう。このままだと全滅するぞ?」

「わ、わかったわ」

 キララはベテランだし解っているだろう。

 まったくもう。


 もう1人の魔導師も、結構若い女の子にみえる。

 ローブを被っているし、前髪が長くて目が隠れているので、顔がよくわからん。


 俺は、倒したゴーレムの魔石を回収すると、魔導師3人を連れて皆の所に戻ることにした。

 このままサナたちを連れて、地上まで戻る。

 ここから彼女たちを返したら、かなり危険だ。


 以前、俺と一緒にトレントと戦ったから、大丈夫だと思ってしまったのだろうか?

 それなら、俺の責任もある。


 俺たちの歩く所を、魔法の明かりが照らしている。

 彼女たちは、まだ暗闇で目が見えないようだ。


「あ、そうだ――キララ」

「な、なに?」

「踊る暗闇のリーダーを始め、幹部連中全員が7層で仕留められたぞ」

 多分、全員だと思う。

 他のやつを残しても仕方ないからな。


「……」

 彼女が黙って俺の服を掴んできた。

 キララも、奴らとは色々とあったようだし。


 踊る暗闇から話を聞いたことについては、黙っておこう。


 

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