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68話 7層に到達


 トップギルド合同でダンジョン深層へのアタックをしているが、魔物に行く手を阻まれて足踏みをしている。

 魔導師の魔力が枯渇してしまうと、回復に時間がかかる。

 魔力回復薬(マジックポーション)がないせいだ。

 ちょっと効き目が薄いが、俺が手に入れた温泉のお湯が代用できそうである。


 12時間が6時間になっただけでも、大きな改善だ。

 魔導師の幽鬼もそれを認めている。


 キャンプ地で俺は、新しい武器を作ってみた。

 魔力を注入した魔石を振り回してぶつける――という、簡易的なマジックウェポンだ。

 これが使えるなら、俺たちを足踏みさせたレイスの攻略も簡単になる。


 6層のキャンプ地で2泊め。

 ――朝に起きて、皆で食事を摂る。

 アイテムBOXがない普通のパーティは、ダンジョン内をなん回も往復して、食料などをキャンプ地に備蓄してから深層にアタックを繰り返すらしい。


 そんな大変な時間と手間だが、俺のアイテムBOXなら必要ない。

 しかも大量の物資を運べる。


 アイテムBOXに限らず、ファンタジーには、魔法の袋やマジックバッグなどのアイテムが出てくる。

 もしかして、そういうドロップアイテムもあるのかもしれない。

 ドロップだけではなく、魔法で作成できるようになれば、世界の物流が変わるな。


「ギャギャ!」「ギャ!」

 ギギとチチ、2羽のハーピーたちにも食事をやる。


「よしよし、今日も頼むぞ」

「ギャ!」

「そいつら、ダーリンが飯をやるからついてきているんじゃないのか?」

 まぁ、イロハの言うとおりかもしれない。


「ははは、そうかもな。まぁ、それでも役に立つやつらだし」

「たしかにな」


 食事を摂った俺たちは、ハーピーたちと一緒に出発した。

 しばらく進むと、上が騒がしくなる。


「ギャギャ!」

「敵だ!」

 姫の声に皆が戦闘態勢に入った。

 もう、ハーピーたちの警戒に疑問を挟む者もいない。


「ゴロゴロゴロゴ……」

 暗い上方は、まるで夜の帳が降りたかのように不気味な静寂が支配していた。

 その静寂を破るように、低く深みのある音が遠くから響く。

 音は、まるで大地の奥深くから絞り出されたかのように重々しく、空気を振動させる。

 まるで遠雷のような、しかし雷鳴ほど鋭くはなく、低音が連続して共鳴するように続く。


「なんの音だ?」

 これが外ならなにか自然現象かもしれないが、ここはダンジョン。

 まるで見えない巨大な生物が、深く低く唸り声を上げているかのようで、鳥肌が立つ。


 俺たちの中に不安が渦巻くが、その音の正体がすぐに解った。


「ゴロゴロゴロ……」

 なにか巨大な鳥のような魔物が俺たちの前に飛んできた。

 鳥か? いや、羽が生えた魔物?

 俺は頭を捻ったが、どうも生物には見えない。

 悩んでいたら、だれかがその正体を知っていたらしく、叫んだ。


「ガーゴイルだ!」

「ガーゴイルっていうと、空を飛ぶ石像ってやつ?」

「そうだ!」

 姫からの返答に俺がちょっと考え込んだ。

 大学のセンセが――ダンジョンの生物には矛盾がないと言っていたが、こいつは矛盾だらけだな。

 石像なのに動いて、しかも空を飛ぶ。

 まぁ、魔法かなにかで飛んでいるのだろうが。


「石像が魔法で飛ぶなら、空を飛べる魔法もあるってことになるよな」

「そのとおりですね!」

 俺の疑問に、幽鬼からの返答があった。

 彼も、俺と同じことを考えていたようだ。


「ゴロゴロ……」

 石像が空を飛んでいる。

 ゴーレムと一緒で、倒すのが大変なのに、実入りが少ない。

 最低の魔物だ。

 ゴーレムは魔石がデカかったが、こいつは身体が小さいから魔石も小さいだろう。


「これは――叩き落としてから、魔石をぶっ壊すしかないわけ?」

「私たちはいつも逃げていたが」

 戦闘狂な姫が逃げるってのはよほどだが、今回はレイスと同じように数が多い。

 これは逃げ切れないだろう。


 ゴーレムは天地返しで楽勝だったが、こいつらは空を飛んでいるのであれが使えない。


「まったく! 今回のアタックは最悪だぜ!」

 イロハが愚痴を漏らしている。

 やはりどの冒険者から見ても、この魔物は厄介な存在なのだろう。


「光弾よ! 我が敵を撃て!(マジックミサイル)

 光を発して魔導師の魔法が飛ぶが、命中してもあまりダメージがないように見える。

 単純な魔法では落ちないらしい。

 火でも燃えないし、石だから電撃も効かないだろう。

 水で溺れたりもしないだろうし。


 石には石――というわけで、ストーンバレットとか、ストーンキャノンみたいな岩を飛ばす魔法なら効くのか?

 俺は戦闘に参加せず、敵をよく観察してみる。

 まっすぐに飛んできて、攻撃してそのまま上昇――あまり機動性はよくないみたいだ。

 まぁ、石だしなぁ。


 それならば――俺は、アイテムBOXから投石器と岩を取り出した。

 ストーンバレットの魔法はないが、俺にはこれがある。


 岩をセットすると、ぐるぐると回して迫ってくるガーゴイルに狙いを定めた。

 敵は直線的に向かってくるので、照準はつけやすい。

 敵の頭に向かって投石機の紐を離した。


「おりゃぁぁぁ!」

 飛んでいる石像には、翼がついているが、あれで飛んでいるわけでもないだろう。

 一応頭がついているなら、それでこちらを目視して飛んできているのではあるまいか。

 そう思ったから頭を狙ったのだが、確信があったわけではない。


 時速数百キロで飛んだ岩が、ガーゴイルの頭を直撃。

 正義の質量攻撃である――石像の頭が砕け散る。


 敵は引き起こしもできずに、そのまま地面に突っ込んできた。

 俺の考えは間違っていなかったようである。


「よっしゃ! 俺がガーゴイルを落とすから、下に落ちた敵に止めを刺してくれ」

「「さすがダーリン」」

 姫とイロハの声がダブる。


 止めといっても、魔石を破壊するか外せば石像が動きを止める。

 ゴーレムと一緒だ。


 真っ先に駆けつけたイロハが魔物の身体を両断して、魔石を蹴り上げた。

 エネルギー源の魔石がなくなれば、当然動かなくなる。


「次、いくぞ!」

「「「おう!」」」

 次々とガーゴイルを落として、止めを刺す。

 地面に落ちれば攻撃もできなくなるので、低レベルの魔導師たちに魔石を外させたりしている。

 レベル上げのチャンスだろう。

 ゴーレムは流石に難しいが、これなら可能だ。


「ひぃぃ!」

 頭がなくなりジタバタしているガーゴイルに、魔導師の女の子がビビっている。

 ちょっと可愛い。

 まぁ、そんなことを言っている場合じゃないので、次々と落とす。


 この方法なら、魔導師の魔力も節約できるし、一石二鳥。

 いや、一石二ガーゴイルか。


 とりあえず、湧きは潰して戦闘は終了したようである。

 その証拠に、魔導師の女の子たちが、次々とレベルアップしている。

 暗闇に、白く光る女の子たち。


 合間に、カロリーバーを姫と一緒に齧る。

 戦闘には参加していないが、カオルコも食べたそうにしているので、渡した。


「ギャ!」「ギャギャ!」

 ギギとチチも降りてきたので、チョコをやると、美味そうに食べている。

 食い物目当てだろうがなんだろうが、俺たちの役に立ってくれればいい。


 そんなことを考えてみるのだが、隙あらば俺に抱っこされたり肩や頭に乗ってくるので、懐いているのも事実なのだろう。

 まぁ、可愛いのでよしとする。


 カロリーバーを食いながら、レベルアップで光っている女の子たちを、姫と眺める。


「レベルアップって、戦闘が終了しないと始まらないよな」

「そうだな」

 レベルアップしている最中に他の敵に襲われることがあるけど、無敵状態だし。


「つまりは、戦闘の終了を監視している存在がいるってことだ」

「すべてが、その超常のものの掌の上ということか」

「まぁ、魔法やら転移やらで物理法則はひん曲がっているし、得体の知れない生物やら、アイテムドロップなどなど、俺たちの理解できないものばかりだしな」

「私たちを踊らせているのは、神か悪魔か――」

「神様がこんなことをするとも思えないから、やっぱり悪魔かねぇ」

「……」

 そこにカオルコが入ってきた。


「迷宮教団の教えだと、そういうのも神が与えた試練だと言われてますね」

「まぁ、自分たちが信じるものが悪魔だとは思いたくないよなぁ」

「そうでしょうね」

 そこに幽鬼がやってきた。


「ウチのほとんどの子がレベルアップできたようです。ありがとうございます」

「ああ、この階層だと、俺らが倒しても、なんの足しにもならないからな」

「ダーリンの言うとおりだ」

「ははは、あたいもレベルアップしたよ」

 イロハが笑いながら加わる。

 やっぱり7層の入口から入れないでいるから、みんな6層辺りのレベルで足踏みしているんだよな。

 俺に出会う前の姫たちも、6層で得られるギリギリのレベルを確保していたということなのだろう。


「俺たちみたいに、9層に飛ばされれば一気にレベルアップできるぞ?」

「冗談じゃねぇ! そんな場所に飛ばされて生きて帰ってきたほうがおかしいんだよ!」

「うむ! 私とカオルコも、ダーリンがいなかったら、絶対に無理だった」

「俺だけじゃなく、ハーピーたちの道案内があったからこそ、帰ってこれたわけで」

「ああ、それでか! ダーリンがあのハーピーたちを頼りにしているのは!」

 イロハが膝を打つ。


「そうなんだよ。彼女たちがいなければ、上への道を探している間に食料が尽きて――みたいなことになっていたと思う」

「「「う~ん」」」

 これで、皆もハーピーたちを信頼してくれればいいが。


 一休みしてから、再び暗闇の中に出発。

 多くの魔物に阻まれて中々先に進まないが、経験値は稼げているようだし、無駄にはなっていないと思われる。


 しばらく進むと、また上でハーピーたちがうるさい。


「敵だ!」

「わかっている!」

「ヒヒヒ!」「ハハハハ……」

 暗闇に白いモヤが飛び始めた。


 また、レイスだが、これは好都合。

 俺が作った武器を試せる。


 アイテムBOXから、そいつを取り出すと、ぐるぐると回しながら敵に向かってジャンプ。


「オラァァ!」

 俺が振り回している魔石には魔力が込められており、青く光っている。

 それが暗闇の中で円を描いて、レイスの白いモヤの中に突入した。


「ギャァァ!」

 白く透明な魔物が、叫び声を上げて四散した。


「効いたじゃん!」

 俺は着地すると、下に落ちた魔石を拾い、俺が作った武器をイロハに投げた。


「ダーリン!」

「そいつは使えるぞ!」

「やったぁ!」

「あまり思い切り回すと紐が切れるからな」

「よっしゃ!」

 彼女もぐるぐると武器を回しながら、レイスの群れの中に突っ込んだ。

 問題なく使えているようである。


 俺はアイテムBOXから紐を取り出すと、拾った魔石を使って同じ武器を作った。

 そいつをイロハの相棒のコエダに渡す。


「魔力は自分で込めてくれ」

「は、はい」

「紐を持っているなら、同じ武器をつくればレイスを簡単に倒せるぞ」

「え?! 紐なんて持ってないですぅ!」

 女の子たちがオロオロしているので、紐をくれてやった。

 それをもらって幽鬼も武器を作っている。


「はははは!」

 その間にも――大笑いしているイロハが、レイスを薙ぎ払っているので、すぐにレイスがいなくなりそうだ。


「きゃあ! きゃあ! き、消えないよぉ!」

 迫ってきたレイスに、女の子が振り回しているのだが、効き目が薄いようだ。


「むん!」

 そこに幽鬼が振り上げてた魔石がヒットした。


「ギャァァ!」

 白いモヤが叫び声を上げて消えた。

 女の子の魔石が使えなくて、幽鬼のは効き目があるということは――。


「もしかして、魔石に込める魔力の量が関係しているとか?」

「ありえますね……」

 幽鬼も俺の言葉に頷く。


 それなら簡単だ。

 女の子の魔石にも、俺が魔力を入れてやればいい。

 どうせ俺には魔法が使えないし。

 使えない魔力を後生大事に持っていても仕方ないからな。


「え~い!」「きゃあ!」

 女の子たちが振り回した魔石がレイスにヒットすると、叫び声を上げて消えた。


「やっぱり! 思ったとおりだ」

「すごーい!」「これで、またレベルが上がっちゃう?!」「やったぁ!」

 女の子たちがキャッキャしていると幽鬼からの注意が飛んだ。


「気を抜いては駄目ですよ!」

「「「は~い!」」」

 女の子たちでも使えるようである。


「こんな簡単にレイスを消せるなんてな! ここでしばらくレベル上げしてもいいか?!」

 イロハの声に、姫が反応した。


「あまりここにとどまると、他の敵が湧く可能性もあるぞ!」

「確かにな!」

 全員が紐の先に魔石をつけた武器を作って装備したようだ。


「あ、そうだ」

 俺はあることを思いついた。

 この階層の敵をいくら倒しても、俺のレベルには関係がないが……。


 魔石をつけた紐を拳にぐるぐる巻きにする。

 その格好でシャドーボクシングをすると、そのままレイスに突進する。


「オラァ! レバーだ、テンプルだ、チンだ!」

 俺のアッパーを食らって、レイスが飛び散った。

 使える。


「え~?!」「チンだって」「チンってなに?」「チン……」

 女の子たちが、俺の「チン」に反応している。

 なにかいやらしい単語だと勘違いしたのかもしれない。


「アゴだよ、アゴ。ボクシングでアゴ先端のことをチンって言うんだ」

「そうなんだ!」「……」

 半分信用してない顔をしているのだが、事実なんだから仕方ない。


「おお! ダーリン、そういう使い方もあるのか! おもしれぇ!」

 俺の攻撃の仕方が、イロハに受けている。

 たしかに彼女は、こういうのが好きそうである――と思ったら、早速俺の真似をして、パンチでレイスをぶっ飛ばしている。

 彼女のパンチが次々とレイスを蹴散らす。


「はははは! おもしれぇけど、手応えがなくてつまらねぇな!」

 レベル上げをするようなので、敵の湧きを見て、数を調整している。

 ここの敵をいくらやっても俺や姫には関係がないし、辺りを警戒して、危なくなったら助けに入ればいい。


 後方でしょんぼりしているゴリラにも魔石を渡す。

 少しでもレベルアップして、皆の役に立ってくれればいいし。


 現在のレベルは、補助で入っている魔導師の女の子たちぐらいらしい。

 なら、ちょうどいい。

 一緒にレベル上げすればいいじゃないか。


 まぁ、レベルが上がったらまた調子に乗るかもしれんが。

 そういうことを続けていると、結局は人が離れていって、誰も助けてくれなくなるだけだ。

 自業自得ってやつ。


「あはは! あれだけ面倒だったレイスが、雑魚敵だぜ!」

 イロハや魔導師たちが、レイスでレベル上げをしていると、ダンジョンの雰囲気が変わった。


「イロハ! ちょっとおかしいぞ!」

「む?!」

 彼女もダンジョンの異変に気がついたようだ。


「グォォォ!」

 暗闇の中から、赤く光る目の黒い毛むくじゃらが出現した。


「トロルだ!」

 誰かの声が響く。

 そう、以前俺が外で倒した魔物と同じタイプだ。

 右手には巨大な棍棒が握られている。


「せっかくレベルアップしたんだ! あたいがやる!」

 現れた魔物に、イロハが叫んだ。


「コエダ! バフをくれ!」

「はい! 筋力強化フィジカルアップ!」

 魔導師が魔法を唱えると青い光がイロハの身体の中に染み込んでいく。


「キタキタキタキタァァァ!」

 彼女が胸を張って己のパワーアップした肉体を誇示すると、黒い敵に向かって突進した。

 イロハが持っているのは、昨日俺が手渡したエンチャントされているらしい剣。

 もしかして、通常の剣よりダメージが与えられるのでは?

 ――と、試しているのかもしれない。


「グォォォ!」

「オラァ!」

 魔物が振り下ろした巨大な棍棒をすり抜けて、白い軌跡が斜め45度に走る。

 彼女が切り上げた剣の切っ先が、魔物の腕を両断したのだ。

 棍棒が地面に転がり、俺の足元まで振動が伝ってくる。


「グギャァァ!」

 トロルから叫び声が上がった。


「おりゃぁぁ!」

 暴れる魔物をめがけて彼女が飛び上がると、黒い頭に剣が振り下ろされた。

 長い毛に切っ先が吸い込まれて、敵の肩辺りまで、真っ二つ。

 黒い液体が噴き出した。


「やったぁ!」

 女の子たちから、歓声が上がる。


「グォォ!」

 皆が盛り上がっていると、次のトロルが暗闇から現れた。

 やはり、ポップする魔物が変わったようだ。


「光弾よ! 我が敵を撃て!(マジックミサイル)

 すでに、魔力をチャージしていた幽鬼の回りに5本の魔法矢が顕現していた。

 閃光とともに魔法が放たれると、5本の矢がトロルに向かう。


「ガァァ!」

 魔法が、トロルの厚い毛皮を貫通し、穴だらけになった魔物がそのまま地面に倒れ込む。


「リーダー! やったぁ!」

 トロルを2匹倒したところで、辺りはまた静寂に包まれた。


「終わったのかな?」

 戦闘の終わった証拠に、各人がレベルアップの光に包まれ始めた。

 イロハ、魔導師の女の子たちもレベルアップしている。


 気になるのは、イロハにバフの魔法をかけた女の子もレベルアップしていることだ。

 戦闘に直接参加していなくても、貢献度でも経験値が分配されるのだろうか?


 レベルアップが終わったイロハに、そのことを聞いてみた。


「ああ、補助魔法だけじゃなくて、戦闘に参加しただけでも若干の経験値が入っているみたいだぜ」

「そうなのか――ダンジョンの外でトロルを倒したときに、防御力アップの魔法をかけてもらったんだが、そのときは魔導師の女の子に変化はなかったな……」

「あ~、その話は聞いたような――湧いたのは市場の中じゃなかったかい?」

「そうだ」

「それだと、ダンジョンの影響が薄れてしまったんじゃねぇかなぁ……」

「なるほどな」

 ダンジョンの近くじゃないと、レベルアップやら、そういうシステムの影響が微妙になるのか。

 それじゃ、街の中にドラゴンがポップしたりして、そいつを倒してもレベルアップしないということもありえるのか。


 まぁ、ダンジョンの外なら、ミサイルや大砲も使えるからな。

 たとえドラゴンでも倒せるだろうし。


 レイスは出てこなくなってしまったので、簡単なレベル上げの時間は終了した。

 ここにいても他の敵がわんさか出てくるかもしれない。


 戦闘で消耗した体力を補うべく、簡単な食事をして次の階層――7層を目指す。


 なん回か、戦闘を行ったあと――俺たちは7層に到着した。

 目の前には、巨大な空間が広がっている。


光よ!(ライト)よ」

 誰かが魔法の明かりを出した。


 天井は見上げるほど高く、その高さは100m。

 一面に広がる巨大な壁がそびえ立っており、ここから先に進むことはできない。

 壁には一切の隙間も扉もなく、完全に行く手を遮っている。


 唯一の出入り口は、俺たちが降りてきた100mの高さにある岩の足場だけ。


 ホールは無人で、不自然なほど静寂に包まれている。

 今日は冒険者もおらず、誰もいない広間の空気がひんやりと肌を刺すよう。

 床は光を吸い込むかのように暗く、無数の影が揺らめいているように見えるが、周囲には動くものは何もない。


「「「わぁぁ~」」」

 初めてここを訪れたらしい女の子の魔導師たちが、天井を見上げている。

 俺たちがここを脱出するときに、天井から垂らした自作のロープはすでに消滅していた。

 おそらくは、ダンジョンに吸収されてしまったのだろう。


 俺は、魔法の明かりによって濃い影ができている、天井近くにある足場を指した。


「見えるか? ここの出入り口は、あそこの足場だけなんだ」

「「「えええ~っ?!」」」

「いや、前に聞いてたけどさ、やっぱり本当なのかい、ダーリン」

 イロハも天井を見上げている。


「もちろん、俺と姫たちも、あそこから降りて帰ってきたんだから」

「それじゃ、ここから先に進むためには、あの上まで登らないと駄目ってことですか?」

 俺はコエダの質問に短く答えた。


「そのとおり」

「「「……」」」


 天井を見上げている、皆が無言になる。

 そりゃそうだ。

 攻略法が解らなかった、7層の壁の出入り口が、地上100mの上とかな。


 このダンジョンの根性の悪さを、彼らも改めて実感しただろう。


 

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