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66話 赤くて3倍強い


 4つのトップギルド合同で、ダンジョンの深層にアタック中。

 魔物と対峙しながら6層に到達した。

 俺と姫たちを除けば、他のギルドの面々も、この層がギリなレベルって感じだと思う。

 それゆえ、気を抜けない。


 気合を入れて6層に進みだしたのだが、早速敵がお出迎えだ。

 俺たちを待っていたのは、大量のレイス。

 レイスってのは幽霊みたいな実体のない魔物だな。


 実体がないので打撃が効かず、魔導師の魔法が頼みの綱なのだが、あまりに大量のレイスに押され気味になってきた。


 その中でも、俺が持っている腐食の魔法がエンチャントされた短剣なら、レイスにも効果があることがわかった。

 とりあえず1体倒したのだが、まだ大量の敵が湧き続けているし、魔導師の魔法も尽きるかもしれない。


「姫! これじゃジリ貧だぞ!」

「わかっている」

 総リーダーである姫もそれは理解しているのだろうが、打開策が見当たらない。


「そもそも、こんなに大量のレイスって湧くものなのか?」

「いや、あたいもこんなのにぶち当たったのは初めてだぜ」

 イロハも、このような大群に遭遇したことはなかったっぽい。


「それじゃやっぱり、この高レベルが揃っている大パーティで戦っているせい?」

「かもしれねぇ!」

 つまり、パーティのレベルや人数で、ポップする数が違ってくる――ってわけだな。

 ゲームだとそういう仕様もあった気がする。

 ゲームを模倣したようなこの冗談みたいなダンジョンなら、同様の仕様になっていてもおかしくない。


 敵も魔導師の攻撃力が落ちてきたのに気がついたのか、空中から下まで降りてきた。


「このやろう! この!」

 ゴリラが巨大な剣を振り回して、追い払おうとしている。

 剣が当たると、一瞬四散するのだが、また一つに。


 俺の周りにもレイスがやって来たので、腐食の短剣を使う。


「ギャァァ!」

 剣が当たると、白いモヤが悲鳴を上げて霧散する。

 霊体に腐食の攻撃が効いているとは思えないのだが、とりあえず撃退はできている。


 俺が1体2体倒したところで、数は一向に減らない。

 気がつくと、カオルコの周りに青い光が集まっていた。

 これは魔法の詠唱だ。


「皆、下がれ!」

 姫の号令とともに、カオルコの魔法が発動した。


「仇なす敵を引き裂け――連なる雷光!(チェインライトニング)

 魔法が発動すると、周囲の空気が一瞬にして張り詰めた。

 彼女から放たれたエネルギーが爆発し、暗闇に無数の稲妻が生まれ、ダンジョンの中を眩しく照らし出す。

 流れる電撃は、まるで生きているかのように鋭く光り輝き、文字どおりの電光石火の速さで連なりながら敵へと襲いかかる。

 空を裂く轟音と共に、蛇のようにしなやかに、かつ猛り狂うような力で敵を包囲した。

 その激しい閃光が命中する度に爆発音が響き、白いモヤは四散し、敵の数を減らしていく。

 閃光と雷鳴が続く中、敵は避ける間もなく、次々とその破壊力の前に崩れ去っていった。


「すげー!」

 俺は思わず耳を塞いでいた。

 閉鎖空間での雷鳴だったので、轟音で耳がキンキンと痛い。

 皆も同じように耳を塞いでいた。


 今の魔法でかなりのレイスが四散したようだが、まだ残っている。

 このままだとまた敵がポップして、元の数に戻るかもしれない。

 ここでなんとか止めを刺さないと――とはいえ、魔法も残り少ないだろうし、魔法の武器は俺の短剣のみ。


「姫の長剣は、グリフォンを倒したときにドロップしたやつだろ?」

「そうだ!」

「あの魔物からドロップしたんだ、それなりのレアドロップ品だと思うんだがなぁ……」

「だが、普通の剣だ」

 特殊な剣だから、魔力を沢山必要とするとか?

 俺は剣を姫から借りた。


「どうするんだ、ダーリン?」

 俺は魔力を持っているらしい。

 魔法は使えんが、魔石に魔力を入れることはできる――ということは……。

 この剣にも魔力を注ぎ込めるかもしれない。


「む~」

 体内に湧き上がる熱いものを、剣を握った手に込めると――それをぐんぐんと吸われるような感覚。


「ダーリン!」

「うわぁ、なんだこりゃ」

 そのうち、切っ先が光り始めた。

 もしかして、この剣を仲介すれば、俺にも魔法が使えるかも。


 俺はその効果を確かめるべく、光る剣を握ったまま敵に突っ込んだ。


「うぉぉ! とりゃ!」

 ジャンプして、宙に舞うレイスを切りつける。

 それと同時に暗闇に閃光が走り、3体のレイスを同時に霧散させた。


「おおお!」

 冒険者たちから声が上がる。


「これはすごいぞ。俺でも魔法の攻撃が使えるかも」

 そう思ったのだが、1回のチャージで1回しか使えないらしい。

 ちょっと微妙~。


 姫に使い方を教えたのだが、魔力が足りないらしい。

 いちいち魔導師にチャージしてもらうわけにもいかないしなぁ。


「う~ん、他に魔法の武器があれば――あ!」

 俺は、アイテムBOXに入っている武器を思い出した。

 原発跡地のダンジョンで、大量のポーションと一緒に拾ったものだ。


 思いついたやりかたはこうだ。

 とりあえず出した武器でレイスを攻撃する。

 なにもエンチャントされていない普通の武器なら、宙に浮かぶ魔物には通用しないから捨てる。

 それを繰り返す――ただ、それだけ。


 確か10本以上拾ったはずだから、1本ぐらいは、なんらかのエンチャントがかかってるものがあるんじゃなかろうか。

 普通にドロップした武器も、鑑定の方法がないから、エンチャントの有無が解らないが、この方法なら確かめられる。

 これが成功したら、このやりかたが流行らないだろうか?


「そんなことより――」

 俺は、アイテムBOXから1本の剣を取り出すと、そいつを握って敵の中に突っ込んだ。

 振る――が、敵は霧散するだけで効果はない。


「次!」

 俺は剣を捨てて、次の武器を取り出した。

 身体にまとわりつく敵を短剣で攻撃――効果なし。


「次!」

 次の武器はメイス――散り散りになるだけ。

 暗闇に武器を捨てる。


「次!」

 6本ほど試して、7本めは長剣だ。


「おりゃあ!」

 剣を構えると、ジャンプしてレイスに叩きつけた。

 もう斬るじゃなくて、殴る感じ。


「ギャァァア!」

 今回は今までとは違う反応が見られた。

 斬られた敵が悲鳴をあげて、散り散りになり、下になにか落ちたようだ。

 この武器には、なにか魔法がエンチャントされている。

 どういう効果かは解らないが、とりあえずここにいるレイスには効く。

 それが解っただけでも、この戦闘に役に立つ。


 俺は、剣を姫に放り投げた。


「姫、こいつはレイスに効き目がある!」

「承知!」

 剣を放り投げてから、「やべ!」と思ってしまったのだが、彼女は簡単に受け止めた。

 そりゃ敵の切っ先が線で見えたり、動きがスローに見えるのだから、飛んでくる剣を受け止めるぐらい容易いだろう。

 今なら俺も、できると思ったし。


 剣を受け取った姫は、周りを飛び回るレイスを薙ぎ払った。


「ヒィィィ!」

 乾いた悲鳴を上げながら、霧散したレイスたちが闇に帰っていく。


「すごいぞダーリン! こいつはレイスが切れる!」

「はは、ドンドン切ってくれ!」

「無論!」

 向こうは姫に任せて、こっちはこっちでやることがある。

 アイテムBOXの中にも、剣が残っているしな。

 8本目の剣を取り出して、レイスに向かって叩きつけた。


「効き目なし! 次!」

 剣を放り投げる。

 9本目も効き目なし。


「最後の1本――だりゃぁぁ!」

 接近してきた魔物を袈裟斬りにすると、見事に真っ二つ。

 そのまま消滅した。

 こいつもレイスには効き目がある。


「イロハ! こいつを使え! エンチャントがかかってる!」

 長剣を振り回している彼女に、俺が持っていた得物を放り投げた。


「マジかよ!」

 キャッチしたイロハが、周りにいた魔物を斬りつける。


「ギャァァ!」

 甲高い悲鳴を上げて、レイスが闇に消えた。


「おおおっ! こいつはもらったぁ!」

 いや、いいけどさ。

 戦力アップすれば、こっちは楽になるし。

 そもそも、俺がこの階層でいくら倒しても、レベルアップの対象にならないからな。

 それは、姫やカオルコも一緒だろう。


 彼女たちはもう、7層や8層の敵じゃなければ、レベルが上がらない。

 俺なんて多分、9層、10層じゃないと駄目だろう。

 つまり、あのドラゴンがうようよいた所だ。


 俺も短剣を出して、戦いに参加しようとしたら、レイスが突っ込んできた。

 思わず手を出してしまう。


 霊体の中に手が吸い込まれると、掌に異様な感触を覚えた。

 肌に触れる瞬間、まるで氷のように冷たく、刺すような寒さがじわじわと皮膚の奥まで浸透していく感じに襲われる。

 手の感覚が鈍くなり、血が凍るような不快感が広がって、指先から腕にかけて鈍い痛みが走る。


 霊体の中を通過する感覚は、まるで現実から切り離された異空間に引きずり込まれるかのように、現実感を奪い取られる。

 冷気が骨までしみわたり、全身をしびれさせるような恐怖がまとわりついた。


 ヤバい――そう思ったのだが、俺の頭にひらめきがあった。

 こいつは魔法で対抗できる。

 俺は魔法を使えないが、魔石に魔力を入れることはできた。

 レイスの身体に同じことができないだろうか?


 身体の中に巡るもので、腕から伝わってくる冷気を押し戻した。

 そのまま魔物の中に魔力を叩き込む。


「ギ!」

 声なのか音なのか――よくわからない音を立てて、白いモヤが閃光とともに破裂した。


「やった! こいつは使えるぞ!」

 ちょっと強がりを言ってみたものの、俺の腕は真っ白に霜がついていた。

 手は動くので、中までは凍っていないようである。

 凍傷になったとしても、高レベル冒険者だし、回復薬ポーションで治るのだろう。


 レイスへの新しい攻撃を見つけて、ちょっと得意げになっていると、男女の悲鳴が聞こえてきた。

 これはレイスの声ではない。


「うわぁぁぁぁ!」

「きゃぁぁ!」

 声がするほうを見ると、ゴリラと黄金の道の女性魔導師が、レイスと半分合体していた。

 俺の場合は、腕だけだったが、身体までいっちゃってるとヤバそうだ。

 すぐに助けないと。


 俺は腐食の短剣を構えて2人に駆け寄ったのだが、かなりの部分がレイスと融合してしまっている。

 顔も半分ぐらい透明ななにかが浸透した格好で、恐怖の表情で固まっていた。


「これじゃ武器は――そうだ!」

 さっきレイスを撃退した魔力を使った方法が使えるかもしれん。

 俺は2人と融合してしまっているレイスの身体に手を突っ込んだ。


 また痺れるような冷たいものの中に、俺の両手から出した魔力を注ぎ込む。

 掌の冷たさが反転したと同時に、白いモヤが吹き飛んだ。


「大丈夫か?!」

「「……」」

 俺の問いかけにも、2人は恐怖の表情で目を見開き口を開いたまま。

 身体や顔が半分ほど、白い霜に覆われている。


「やべぇ」

 俺は周りを見回したのだが、敵の数は残り少ない。

 もう撮影を止めてもいいだろう。

 とりあえず、姫とイロハで残りのレイスは処理できそう。

 それを確認してから、アイテムBOXから回復薬ポーションを取り出した。


 そのまま飲ませようとしたのだが、彼らは固まっていて動かない。

 もしかして手遅れとか?

 俺は女性の首を触ってみた――脈はある。

 これは多分――ゲームでいうところの、状態異常?


 俺は収納から、霧吹きを取り出した。


 容器の中に回復薬ポーションを注いで、2人に吹きかける。

 俺が口に含んでから、ブ~ッ! っと、吹きかけようと思ったのだが、オッサンにそんなことをされたんじゃ、2人が可哀想だろう。


 顔に回復薬の霧がかかると、すぐに霜が取れた。


「う~ん」

 この状態で、口に入れても飲み込めないだろうな。

 俺は彼ら鼻の穴に向けて霧吹きを使った。

 脈があるなら血流があるはず。

 鼻の粘膜から吸収される――と、思う。


 ゴリラの鼻の穴にも、霧吹きのノズルを向ける。

 ちょっと俺も半信半疑だったのだが、すぐに2人の状態に変化が現れた。


「「ゲホッゲホッ!」」

 2人が鼻水を垂らしながら、咳き込んでいる。


「おい、大丈夫か?」

 女性魔導師を覗き込むと、涙目だ。

 そりゃ、自分の身体に幽霊みたいなものが入ってくるとか、恐怖の体験だろう。


「……うわぁぁぁん!」

 彼女が大声で泣いて、俺に抱きついてきた。

 華奢な身体が小刻みにふるえているが、さぞ恐ろしかったに違いない。


「よしよし、怖かったな」

 彼女の茶色のウエーブヘアをなでてやる。


「う、うわぁぁぁぁ!」

「今度はなんだ!?」

 女性に気を取られていると、正気に戻ったと思っていたゴリラが、暗闇の中に走り出した。


「わぁぁぁ」

「おい! 戻れ!」

 鎧が鳴る音が盛大に聞こえているので、コケているらしいのだが、それでも叫び声が聞こえてくる。

 これはパニックを起こしているのだろうか?

 声が小さくなっているから、徐々に離れているものと思われる。


「姫!」

「こっちは終わる!」

 暗闇から、姫の声が聞こえる。


「任せろ、ダーリン!」

 イロハも問題ないようだ。


「カオルコ、ちょっと頼む! あのバカを見てくる」

「はい」

 カオルコを呼んで、女性の相手をしてもらう。

 幽鬼のところは大丈夫そうだし、他の魔導師たちも問題なし。

 残敵は、姫とイロハに任せて問題ないっぽい。


 俺は、逃げたゴリラを追って暗闇の中に走り出した。

 こんな場所から逃げたって逃げ場所はない。

 もしかして、入口の安全地帯に逃げ込むつもりかもしれないが、それなりに距離があるし、敵とのエンカウントの可能性大だ。

 俺がアイテムBOXのインチキで倒したミノタウロスも、本来はこの階層にいる魔物のようだし。

 かなり危険だ。


 暗闇の中、ゴリラを追うと、叫び声が聞こえてきた。


「うわぁぁぁ!」

 これは――あの男の声だろ?

 逃げた先で、敵とエンカウントしたのだろうか?


 大人数で当たっても結構苦戦していたし、1人ではかなりキツイかもしれない。

 やつもそれなりのレベルだろうし、俺が行くまで持ちこたえてくれれば――。


 などと考えていたのだが、今度は叫び声が断末魔に変わった。


「ぎゃぁぁぁ!」

 これはただごとではない。

 もしかして、やられてしまったのだろうか?

 声のした方向に急ぐと、暗闇になにかが浮かんできた。


 色は解らない。

 暗い感じの肌をした、大型の人型。

 俺はアイテムBOXからカメラを出した。

 カメラに取り付けられた照明に魔物が照らし出され、肌は暗い赤だと解る。


 目の前に立ちはだかる魔物は、恐ろしいほどの威圧感を放っていた。

 その表面にはまるで火のように脈打つ暗い模様が走っている。

 額からは鋭く太い二本の角が突き出し、まるで獲物を貫く準備が整っているかのよう。


 その瞳は黒光り、漆黒の中に赤い炎が燃え盛っているように見える。

 牙が鋭く口から覗き、呼吸に合わせて低く唸り声をあげて、口元には不気味な笑みが浮かぶ。

 かなりの知能を持っているように思えた。


 背中からは大きな翼が広がり、その形状はまるで闇に包まれたこうもりの翼。

 膜の間には黒い血管が浮かび上がる。


 魔物の形状から、俺は一つのイメージが湧いた。

 これはもしかして――悪魔(デーモン)ではなかろうか?


 脇には、ゴリラが転がっていた。

 まったく動かないので、すでに虫の息だろうか?

 やつを回収して、ここは逃げる手なのかもしれない。

 俺は撮影のために、ライトを点けたことを少し後悔した。


 敵がこちらに気づいたと思ったら、瞬時に間合いを詰めてきたのだ。


「速ぇ!」

 赤いから3倍速いとか、オヤジギャグか?

 そういえば、やけに赤い。


 大木のような腕と、刃物のような爪から繰り出される攻撃が、俺の目に白い軌跡となって映る。

 暗闇を切り裂く攻撃をかろうじて躱す。

 こんな攻撃じゃ、普通の防具なんて役に立たないかもしれん。

 それに足すことの、防御力アップのバフも必要だ。


 同じ6層の魔物なのに、以前に倒したミノタウロスより圧倒的に強くないか?

 俺は一旦間合いを取った。


「岩召喚!」

 魔物の頭上から、アイテムBOXから出した巨大な岩が襲う。


「*&&**!」

 今まで必殺だった攻撃も、なにか透明な壁によって阻まれた。

 質量を持った塊が、空中で止まったままになっている。


「エーティーフィ――いや、もしかして防御魔法か?!」

 魔法も使うなんて、人間か、それ以上か?

 かなりの知能を持っているのは確かだ。


 頭上で止まっていた岩が、ずり落ちて地面に落ちた。

 俺はその隙をついて、魔物に接近――懐に飛び込んだ。

 大木のような脚に取りつく。


 こいつが美女の太ももなら、言うことなしなんだが、魔物じゃな。

 せめて、サキュバスぐらい出てこないもんか。

 それなら俺が飼っちゃうんだが。


「おりゃぁぁぁ! 天地返し!」

 説明しよう。

 天地返しといえば、某ラーメン店のアレが有名だが、本来は畑の表土と下層土を入れ替えること。

 それをラーメンに見立てたのだろうと思われる。


 俺は魔物の太ももを掴んで、そのまま放り投げた。

 ゴーレムでやった作戦を、この魔物でも採用したわけだ。

 人型の敵は、バックドロップを食らったように頭から地面に叩きつけられるので、効果がデカい。


 巨大な敵は、逆さまに頭から地面に突っ込んだ。

 とりあえず生きものなら、これで大ダメージだろうが、そこに追撃を加える。

 アイテムBOXから出した短剣を敵の股間に突き立てた。


「オラァァ、キンタマグッバイ!」

「ギョエェェェェ!」

 魔物の叫び声がダンジョン内に響いた。

 短剣から始まった腐食が、みるみる魔物の腰回りを犯していく。

 筋肉を破壊されると、もう人型は立つこともできない。

 まぁ、這いずりはできるかもしれないが――もちろん、そんなことを許すはずがない。


 分厚く赤い胸板を踏みつけると、アイテムBOXから出したミサイルを、魔物の喉に突き刺した。


「ゴエヨゴォ!」

「これでもう魔法の詠唱もできないだろう」

 今度は短剣を魔物の胸に突き刺す。

 皮膚が溶解すると、巨大な魔石が現れた。


「ゴェ! ゴェ!」

 魔物が口から血反吐を吐く。

 べつにこいつに恨みがあるわけじゃないが、敵対してしまっているのだから仕方ない。

 知性があるのだから、ハーピーみたいに共存できる可能性もあるのだろうか?


「こいつが、お前の動力源か」

 原理的にはゴーレムと変わらんな。

 こいつから魔力を得て、活動しているのだろう。

 ――ということは、こいつを取れば魔物はくたばる。


 アイテムBOXから取り出したメイスを敵の内臓に突き刺すと、テコの原理を使って黒い魔石を取り出した。


「ゴ! ……ゴ……」

 魔物の目から光がなくなる。


「ふう……」

 かなりの強敵だったが、魔石がなくなると死ぬのか。

 これなら隙を突いての遠距離攻撃もありかもしれない。

 不意打ちなら、防御魔法も使えないだろうしな。

 魔石は壊れるから、金にならなくなるが……。


 この階層は、金にならないやつが多いな。

 こいつの肉は食えるとは思えないが。

 とりあえず、敵は倒したので撮影を止めた。


「ダーリン!」

 姫の声が聞こえてきた。


「姫! こっちだ!」

 俺は、ゴリラの所に向かったのだが、もうピクリとも動かない。

 首の所を触ってみる――脈は――ある。


 さっき使った回復薬ポーションをまた使ってみる。


「ゴホ……ゴホ……」

 なんとか、息を吹き返したようだ。


「ダーリン!」

 姫がやって来た。


「うわ! なんじゃこりゃ!」

 イロハも一緒にやって来たようで、俺が倒した赤い魔物に仰天している。


「向こうは?」

 姫に様子を尋ねた。


「片付いた。今、ドロップ品を集めている」

「そうか」

「ゴリラはどうだ? こいつにやられたのか?」

 イロハが、魔物のかばねを覗き込む。

 ベテランの冒険者ということで、こういうことには慣れているのだろう。

 俺もなんだかんだで慣れてしまっている。


「ああ――回復薬ポーションを使ったが、ヤバいかもしれない。回復ヒールの魔法が使える魔導師の所へ」

「わかったぜ」

 イロハが、ゴリラを担いだ。

 さすが彼女だ、フル装備の男も軽々と持ち上げた。


「はぁ――バカな男だぜ……」

 彼女のため息が聞こえてくる。

 俺は赤い魔物をアイテムBOXに収納すると姫に尋ねた。


「姫は、こいつがなにか解るかい?」

「聞いたことがある特徴から、おそらくレッサーデーモンだと思う」

「やっぱり、悪魔とかそういう類か」

 レッサーってことは、ほんまもんのデーモンもいるってことだよな?

 本当に悪魔なのか、それとも見た目が似ているだけか。


 魔物のかばねを収納したので、俺たちもイロハのあとを追う。


 皆の所に到着すると、なん人かレベルアップしている子がいる。

 幽鬼もレベルアップしたようだ。

 その横では、ゴリラが女魔導師にボコボコにされていた。


「おいおい――やりすぎると、また回復薬ポーション回復ヒールが必要になるぞ」

 女魔導師から、カオルコが話を聞いていたようだ。


 ゴリラは申告していたレベルより低かった。

 最初は、そのレベルだったようだが、トップランカーに名を連ねてから、ダンジョンの巡回をサボり気味だったらしい。


 ダンジョンは、常にレベルより上の階層にアタックしないとレベルダウンしてしまう。

 今回まったく活躍していなかった気がしたのだが、しっかりと理由があったわけだ。


「姫、どうする? 黄金の道の1人は役に立たないことが解ったし、魔導師の魔力も枯渇気味だぞ?」

「一旦、6層入口の安全地帯まで戻る」

「わかった」

 俺は、皆の前にレッサーデーモンのかばねを出した。


「「おお~」」「「きゃ」」「うわぁ!」

 冒険者たちがざわつき、女の子からは悲鳴が上がる。


「彼は、こいつにやられたんだ。かなりの強敵だったし、まだいるかもしれないから、気をつけてくれ。この赤いのは、魔法も使ったぞ」

「魔法もですか?!」

 俺の言葉に、レベルアップが終わった幽鬼が反応した。


「ああ、今回は防御魔法だったが、もしかして攻撃魔法も持っているかもしれない」

「その可能性は大きいですね」

「「「……」」」

 冒険者たちが、真剣な目で頷く。


 俺たちは一旦態勢を立て直すため、安全地帯まで退避することになった。


  

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