65話 レイス
4つのギルド共同で、ダンジョンの深層を攻略中である。
4層と5層を軽く攻略して、6層に到着した。
6層の推奨レベルは36近辺――それぐらいのレベルの冒険者となると、数が少ない。
レベル40を超えるとなると、俺のほかは、姫とカオルコしかいないのではなかろうか。
俺たちが7層の壁で出会ったフラワースクエアというギルドの冒険者も高レベルのはずだが、今回は参加していない。
魔物も強力になるし、ここからは一筋縄ではいかない。
6層入口の安全地帯でキャンプを張り、1泊することになった。
各ギルドから預かっている荷物を出す。
冒険者たちが荷物に群がり、必要なものを取り出したら、また収納する。
俺たちは、市販の弁当を食べることにした。
温めは、カオルコの魔法を使う。
弁当も大量に買ったが、同じものを食べると飽きるだろうから、メニューも色々と考えないとな。
ついでに、大鍋に作っていた豚汁も出す。
カップのインスタントも売っているが、やっぱり鍋で作ったほうが美味い。
食事をするならやっぱり汁物があったほうがいい――と、オッサンになってから、そう思うようになった。
唾液の量が減ったのか、喉が詰まるのだ。
ウチの親も汁物をよく欲しがったので、この歳になってそういうことかと合点がいったような気がする。
「姫たちは市販の弁当でいいのか? 料亭とかに弁当を頼んだほうがよかったか?」
「そんなことはありませんよ。ホテルのルームサービスの他は、市販品で済ませることも多いですし」
カオルコはそう言うのだが、俺が一緒に暮らし始めても、そんな感じだった。
部屋にはキッチンもあるのだが、使っているのは俺だけ。
「ハグハグ――ダーリンが作ってくれれば問題ない」
「さすがに、数日分の料理を色々と作るとなると大変だよ。カレーやら豚汁なら大鍋で一気に作れるが」
2人とも、超お嬢様なので、食事など作ったこともないし、自分の母親が料理しているところも見たことがないらしい。
人の家庭に口を出すつもりはないが、それはそれで、ちょっとなぁ――と、思わんでもない。
「2人とも、お母さんの手料理を食べたいと思ったことはないの?」
「……それは……学校の行事で、家族で食事をしている人を見て、そう思ったことはありますけど……」
カオルコはそういうことがあったようだ。
「姫は?」
「そう思ったことはあったが――野の花ではなく、薔薇として生まれてしまったのだから仕方あるまい!」
彼女はそう言って、弁当をかき込んだ。
「ウヘヘヘ! 豚汁じゃねぇか! ダーリン、豚汁をくれ!」
俺たちが昔話をしていると、イロハがやって来た。
においを嗅ぎつけたか。
「ほら」
「へへへ」
アイテムBOXから出した紙ドンブリに豚汁を盛ってやる。
料理をもらいにやってくるのは、ゴーリキーの面々だけだ。
他のギルドは、ちょっと離れた場所で食事をしている。
あまり馴れ合うつもりはない――という、意思表示かもしれない。
まぁ、今回は協力しているのだが、普段はライバルだしな。
手の内を見せたくないこともあるだろう。
俺は全然気にしないのだが。
イロハは俺と勝負している仲なので、やって来やすいというのもあるかもな。
「ギャギャ!」「ギャ!」
「おっと、やっぱりあいつらもついてきたか」
「4層にいたハーピーですか?」
魔導師の女の子が上を見ている。
飛んでいるのが見えるだろうか。
「そうそう」
近くに羽音が降りると、ぴょこぴょことハーピーたちがやってきた。
すっかりチチのやつもセットでやってくるようになってしまったな。
「お前らも食うか?」
「ギャ」
「――とはいっても、豚汁はちょっと無理か……そうだ、唐揚げがあったな」
これも、大量に揚げて、温かいやつがアイテムBOXに入ったままになっている。
あまり熱々だと食うときに困るので、ちょっと温かいぐらいにしている。
これなら戦闘中にかじったりもできるだろうし。
「ギャ!」
「ほら――もしかして、共食いになるかもしれんが」
身体は鳥だが、中身は哺乳類に近いだろう。
頭は人間っぽいし――ということは、脳みそだって詰まっている。
ギギが脚で唐揚げを受け取ると、クンカクンカしたあとにかぶりついた。
「ギャ! ハグハグ!」
「美味いみたいだな」
「ギャ」
チチがのそっとやってくると、俺の膝の上に乗って丸くなる。
「お前は食わんのか?」
「ギャ」
唐揚げをやると、彼女も食べている。
「唐揚げもら~い!」
大声を出して、イロハが唐揚げを箸で掴むと、豚汁の丼の中に放り込んだ。
「私だって食べるぞ!」
一緒になって姫も唐揚げを食べ始めた。
「みんな一気に食べちゃうと、メニューがなくなっちゃうだろ。毎日、カレーと豚汁と唐揚げになるぞ」
「パンもありますし、インスタント食品もあるでしょうから、大丈夫ですよ」
「まぁ、カオルコの言うとおりかもしれないが……」
魔導師の女の子も唐揚げを食いたそうにしているので、食わせてやる。
とりあえず、オッサンというのは、若い子に飯を食わせたいのだ。
食事が終わったので、後片付けをする。
汚れ物を一箇所に集めると、俺はハーピーたちを抱きかかえた。
「姫、頼む」
「うむ」
「あ、あの~もしかして、洗浄の魔法ですか?」
「そうだけど」
「それなら私が――食事のお礼もしないといけませんし」
「おお、それじゃお願いするよ」
「はい――洗浄!」
青い光が俺たちの身体を包むと、汚れがパラパラと落ちていく。
「やっぱり、便利だなぁ。前も言ったが、これか温めの魔法が欲しい。魔法の光でもいいけど」
「でもよぉ――魔導師じゃない桜姫が魔法を覚えたんだから、あたいたちにも可能性はあるんじゃね?」
「そうだといいけどなぁ……」
――話をしつつ、ハーピーのチチをクンカクンカする。
鳥くささはなくなって、日向のにおいがする。
「あの、ちょっと絵面が……」
魔導師の女の子が、ちょっと気まずい顔をしている。
俺がハーピーの胸に顔をくっつけているせいだろう。
感じとしては、暖かくてすごく柔らかい。
「魔物の胸だし、いいだろ?」
「よくな~い! ダーリン、私の胸があるだろう?!」
「ダーリン、あたいの胸もあるぜ?」
イロハが自分の胸を両手で下から持ち上げている。
「そんな筋肉の塊は、ダーリンの好みじゃないし、そもそもそれは胸じゃないだろう?」
「しっかり胸だっつ~の!」
「「ぐぬぬ……」」
「ほらもう、また喧嘩してるし」
後片付けのあとは、寝るまでやることがないので、アイテムBOXからエアマットを出して本を読む。
エアマットは他のギルドにも用意させた。
やっぱりぐっすり眠れるというのは重要なことだ。
寝転がっている俺の上には、ハーピーが2匹乗っかっている。
正直重たいのだが、温かい。
多分1匹30kgぐらいだろうか。
2匹で60kg――セメント袋2つぶんか。
そりゃ重いのだが、高レベルのせいか、そんなに苦にはならない。
こういうところにも、レベルの恩恵があるのかと思う。
そこにゴーリキーの魔導師がやってきた。
「安全地帯って本当に安全なんですか?」
「魔物がポップしないというだけで、魔物が入れない場所――というわけじゃないはずだね」
俺は、腹の上に丸くなっているハーピーたちを指した。
魔物が立ち入り禁止なら、こいつらもここには入れないはずだし。
このハーピーだけでなく、他のハーピーたちも、キャンプ地の残飯を狙ったりするらしいからな。
「それじゃ、完全に安全というわけじゃないんですね」
「たまに下層の魔物が上層にやってきたりするので、通過はできるんじゃない?」
原発の跡地のダンジョンで、大型の魔物が姫たちを追って地上までやってきた。
あそこは未公開のダンジョンってことになっているから、一応秘密にしておく。
「警戒はしておいたほうがいいってことですか?」
「他の魔物が近づけば、このハーピーたちが騒ぐだろう」
「そういう点でも、この子たちは重要なんですね」
「そうなんだよ」
「ギャ!」
それはさておき、本を読む。
暗闇でも目が見えると、こういうときに便利だ。
視界は白黒だが、本も白黒なので問題はない。
俺の隣には、姫とカオルコ――近くにはイロハとさっきの女の子の魔導師もいる。
ゴーリキーの面々はウチと一緒に行動することに決めたようだ。
姫はちょっと渋い顔をしているが、どのみち今回は他のギルドがいるので、あまりいちゃついたりもできないだろう。
――6層でキャンプを張った次の日。
カオルコが持っている機械式の時計によれば、朝だ。
まぁ、ひたすら真っ暗なので、時間感覚が狂うけどな。
強い光を浴びると体内時計がリセットされる――なんて話も聞いたことがあるから、魔法の光で代用できないだろうか。
朝飯は皆でパンにした。
コーヒーや、牛乳――姫はコーヒー牛乳で流し込んでいる。
「ギャギャ」「ギャ」
ハーピーたちも、俺と一緒にパンを食う。
俺は、昨日ゴーレムからゲットしたデカい魔石を取り出して眺める。
「そういえば――魔石って半導体の原料になっているだけだけど、他に使い道はないのかね?」
「――っていうと?」
パンを食べているイロハに説明をした。
「ファンタジーやゲームだと、魔石が動力になってたりするじゃないか。このダンジョンも、それっぽいし、魔石を直接利用する方法があるんじゃないかと……」
「八重樫グループでも研究はしているようですよ」
カオルコから説明を受ける。
まぁ、俺が考えるようなことは、もっと頭のいい連中がとっくに思いついているか。
「せめて、ランプでも作れればなぁ……」
「それがあれば便利ですよね!」
魔導師の女の子も、俺の意見に賛成してくれたのだが、カオルコがなにかを思い出したようだ。
「あ、でも――魔石に魔力は溜められるんですよ」
「え? そうなんだ」
彼女が小さな魔石を取り出して、右手で握った。
手を開くと、真っ黒だった石の中心に青い光が見える。
これだけでライトになるような明るい光ではないが、ケミカルライトよりは使い道がありそうな気がするが……。
「へ~! 初めて見た」
「え? ダーリンは初めてかい?」
「ああ、他の人は知ってるんだ」
皆がうなずく。
普通に常識的なものらしい。
「ただ、魔力は溜められるのですが、どうやって使うのかよく解らなくて、使い道がないんです」
「じゃ、うっすらと光っているだけ?」
「そうなんです」
溜まっているということは、なんらかのエネルギーが蓄えられているのだろう。
「エネルギーが取り出せれば、完全リサイクルな電池になるかもしれないな」
「もし、本当にそうなれば、すごいですよね」
これはカオルコの言う通りだと思う。
ダンジョンが変わる――いや、世界が変わるかもしれない。
俺はアイテムBOXに入っている小さな魔石を取り出して、マネをしてみることにした。
「魔法が使えないと駄目か? む~、入れ~入れ~」
ちょっと半信半疑だったが、俺の身体の中に巡っているなにかのモヤモヤが魔石に吸い取られるような気がした。
驚いて魔石を放り投げる。
地面に転がる黒い石の中心が光っているように見えた。
拾って掲げると、確かに白い光点――周りは暗いので、光っているものはよく見えるのだ。
「ダーリン、すごいじゃん!」
イロハも一緒になって魔石を見ている。
「イロハもできるのか?」
「いや、普通はこんなことはできねぇはずだよ」
「それじゃ、俺は魔法は使えないけど、魔力はあるのか?」
「そうかもしれねぇな~」
今のところ、魔力があっても魔法を使えないとなんの役にもたたないが。
魔石がなにかに利用できるようになれば、使い道がでてくる。
「それじゃ、試しに――」
俺はアイテムBOXから出して、眺めていたゴーレムの魔石にも魔力を込めてみることにした。
「そんなデカいの無理だろ?」
「むむむ~」
俺の身体の中に巡るなにかを注ぎこむと、大きな魔石も中心が青く光り始めた。
ケミカルライトぐらいの明るさはある。
「すげー!」
「なんです?!」
魔石の光が気になったのか、幽鬼もやって来た。
「魔石が光っているんだよ」
「こ、こんな大きな魔石を光らせるなんて――あなたは魔法が使えるんですか?」
「いや、まったく」
「う~む……」
彼も腕を組んで考え込んでいる。
魔法の専門家で、魔導師のギルドを営んでいる彼でも、このようなケースは初めてなのかもしれない。
「これがなにかに利用できればって話をしてたんだけどね」
「研究している方はたくさんいますが、よく解っていないようですね」
「まぁ、ネットの情報でも見たことがなかったからなぁ」
魔石のことはさておき――朝食が終わったので、後片付けをする。
ゴミは集めて、ダンジョンの端っこへ。
こうすれば、そのうちダンジョンに吸収される。
そういえば、その吸収されない方法があるということだったが、7層でそれを見せてくれるのだろうか。
朝食も終わったので、出発することにした。
「よし、今日も頼むぞ」
「ギ!」「ギャ!」
ハーピーたちが暗闇の中に飛び立った。
鳥は鳥目っていうが、ハーピーは暗闇の中でも平気なのだろうか?
つかず離れず冒険者たちで隊列を組むが、イロハのゴーリキーはウチのすぐ隣にいる。
イロハが俺の所にやってきて、ひそひそ話をする。
「ダーリン、エンプレスともやってるんだろ?」
「ははは、ノーコメント」
「それにしても――子どもの話のときに、エンプレスは入ってこなかったじゃねぇか」
「そういうことをすると、回復の魔法が使えなくなるだろ」
「ああ、そうか……そうだよなぁ」
彼女が納得したようだが――ニヤニヤしているので、気づいているのかもしれない。
なにをやっているかは、もちろん内密だが、やることはやっている。
「オガ! ここは6層だぞ。随分と余裕がありそうじゃないか」
姫の言葉に彼女が反応した。
「だって、ダーリンがいるしな」
「おいおい、あまり過剰に期待されても、守りきれないこともあるからな。各員一層奮励努力せよ――だぞ」
「あはは、解ってるって。あたいもランカーだからな。助けてもらってばかりじゃ――名が廃るってもんだ」
暗闇の中を進んでいくと、上にいるらしいハーピーたちが反応した。
「ギャギャ!」「ギャ!」
「来るぞ! 全周警戒!」
姫の声が響く。
「「「おう!」」」
ハーピーは役に立つと、皆理解したので、疑問を挟む者もいなくなった。
「さて、今回はどんな魔物かな?」
見たことがない魔物なら、撮影をしたい。
カメラの準備をしようと思っていると、ちょっと肌がザワザワし始めた。
こんな具合になるのは初めてだし、なにか辺りの気温も急激に下がってきたように気がする。
「来る!」
誰かの声が響いた。
「なんだ?! 寒いんだが……」
息も白くなってきた気がする。
耳を澄ませば、ダンジョンの内部は静まり返り、ただ沈黙だけが支配するような感覚に包まれる。
その時、不意に上空から何かが聞こえてきた。
それは普通の音とは違う、何かが囁くような不気味な音だった。
低く、かすかに震えるような音が、風に乗って耳に届く。
その音は徐々に明瞭になり、まるで声のようにも聞こえる。
はっきりとした言葉ではないが、遠くからでも存在を主張するような音だ。
音は高くなったり低くなったり、どこかしらで共鳴しているようで、音の出どころが解らない。
それとも、複数の音が共鳴しているのか。
冷たい声ともつかない音が心の奥底にじわりと広がり、背筋に冷たいものを走らせる。
不安と恐怖が混じり合い、その音が何か悪意を持っているような感覚に襲われた。
まるで上空の暗闇の中に何かが潜んでいて、それがじっとこちらを見下ろしているかのような――。
それが白いモヤとなって、形をなした。
「ヒヒヒヒ」「フフフフ」「ヒヒヒ」
たくさんの白いモヤが、空中に飛び交い始めた。
形が判断できないものや、人の顔らしきものが見えるものもある。
「なんじゃこりゃ!? すげー数だけど、もしかして幽霊?!」
ちょっと数えられないが、20~30は飛び交っているように見える
普通の人なら幽霊を見たらビビるかもしれないが、ダンジョンで死線をくぐり抜けた俺たちには無問題。
「ダイスケさん、これはレイスです!」
カオルコが、敵の正体を教えてくれた。
「レイス?!」
ゲームで出てくる、ゴーストやレイスって実際にはこういう感じになるのか。
なんだか寒いし、背筋がザワザワするし、まったく不快なまものだ。
相手は幽体じゃ、肉も取れないしな。
アイテムは落とすのだろうか?
空を飛んでいるし、相手が幽霊じゃ物理攻撃は効きそうにないな。
どうしたもんかと考えていると、幽鬼の所が魔法の準備を始めた。
他のギルドも、魔導師が魔法の詠唱を行っている。
――ということは、魔法は効くのか。
彼らの周りに青い光がたくさん集まっていく。
「光弾よ! 我が敵を撃て!」
魔導師からたくさんの光弾が敵に向かって撃ち込まれた。
幽鬼は一気に5発の光弾を扱えるようだ。
マジックミサイルも、レベルが上がると、数が増えるんだな。
空を漂う白いモヤに撃ち込まれた光弾は、10発ほどだが――。
「なんか、数が減らないんだが?!」
「か、数が多い!」
高レベル魔導師の幽鬼も焦っているように見える。
彼らが、次弾の発射をしようとしているのだが、こちらも攻撃したほうがよくないだろうか?
「そもそも、こいつらってどんな攻撃をしてくるんだ?」
「ダーリン! こいつらは身体を乗っ取ってくるんだぜ?!」
「マジで?」
俺は、イロハの返答を聞き返してしまった。
それは怖い。
そういえば、幽霊もので身体を乗っ取るって話はよく見かける。
親父の世代だと、男の子の幽霊が女の子の身体を乗っ取ってHなことをする――みたいな漫画があったはず。
いや、そんなことはどうでもいい。
「見る限り、物理攻撃は効かないんだろ?」
「ドロップアイテムで、魔法がエンチャントされている武器なら効く」
シャープネスとか耐久値アップとか、そういうのじゃなくて、魔法の攻撃が付与されている武器のことだ。
姫が使っている長剣は、切れ味が落ちないような付与がされている。
「イロハの使っている長剣は?!」
「あたいのは解らないけど、剣が壊れないようなエンチャントだと思う」
つまり、耐久値アップだ。
ゴリラのほうもチラ見するが、彼も攻撃はしていないので、魔法の武器ではないっぽい。
それどころか、魔物の出現に固まっているように見えるのだが、大丈夫だろうか。
「う~ん、魔法の武器――そういえば!」
俺はその武器を持っていることを思い出した。
アイテムBOXに入っている、腐敗させる短剣だ。
あれは間違いなく、魔法の攻撃が付与されている。
俺はアイテムBOXから短剣を取り出し、武器を構えるとレイスの中に突進した。
同時に魔導師たちの魔法が発射された。
「とう!」
光弾が炸裂する中にジャンプして、白いモヤを切り裂く。
「ギャァァ!」
形をなしていない白いものが、叫び声を上げて四散した。
「おお! やっぱり効くじゃん」
遠くから見ているときには気づかなかったが、敵が消えたときになにかが落ちたように感じた。
やっぱりこいつらも、アイテムをドロップしたりするのか。
着地すると再びジャンプして、敵を切り裂く――空中戦だ。
アニメの白いロボが、こんな戦いかたをしていたような気がする。
俺の頭の中に、そのシーンが浮かんだ。
「ダーリン!」
姫の声が聞こえた。
あまり俺が突っ込んでいると、魔法の攻撃が行えないので、一旦下がることに。
態勢を立て直すと、再び空中で魔法が炸裂した。
かなりの数を落としている気がするのだが、数があまり減っていないような――。
「おっと!」
空中を飛んでいただけのレイスだったが、次第に下まで降りてきて冒険者たちの近くまでやってくるようになった。
魔導師たちのすれすれの所まで飛び回っている。
「きゃあ!」「いやぁぁ!」
魔導師の女の子たちから、悲鳴が上がった。
杖や短剣などを振り回して、必死に追い払おうとしている。
彼女たちはレベルが少々低い。
本来なら後方待機なのだが、相手がレイスなので魔法の攻撃に参加したのだろう。
魔法を結構使っているので、魔力切れも心配だ。
「姫、これじゃジリ貧になるぞ」
「わかっている!」
攻撃力は、さほどないようだが、こいつは厄介な敵だぞ。