62話 深層アタック開始
トップギルド合同での深層へのアタックということで、俺も荷物運びとして協力することになった。
俺のアイテムBOXを使うわけだが、もちろん、タダではない。
ダンジョン攻略で稼いだ金の1割をもらう。
俺も聖人ではないし、お人好しでもない。
――といいつつ、ものすごい価値があるエリクサーを使ったりとか、役にたたなそうなキララをギルドに入れたりとか、色々とやっている感じではあるが――。
子どもが目の前で苦しんでいるのに、見て見ぬフリはできないし、キララだって元々は能力ある冒険者だ。
心を入れ替えて、若いやつらを引っ張ってくれている。
彼女にOKを出した、ミオの直感が正しかった――と、いうことだろう。
まぁ、なにかやらかしたら、助けないだけだし。
各ギルドの荷物をアイテムBOXに入れた――次の日。
俺は羽田にやって来た。
今日は1人だ。
姫たちも、ダンジョンアタックの準備をするようだしな。
俺の荷物はすべてアイテムBOXに入っているので、手ぶらでも着の身着のままでもOKなんだが。
ポンポン船から降りると、波止場に立つ。
「さてと――」
まずは、買い取りのオッサンがいる処理場に向かう。
デカい魔物を解体するための、専用の施設だ。
一度行ったので、場所は覚えている。
歩いていくと、デカい倉庫のような建物が見えてきた。
建物とは対象的な小さいドアを開けて中に入る。
少々時間が早いのだが、大丈夫だろうか?
「ちわ~」
中に入ると、ひんやりと涼しい。
いや、ちょっと寒いぐらいの場所には、すでにたくさんの人たちが集まっていた。
そろって、黒くてゴム製のつなぎを着ている。
「ちょっと、早いけど大丈夫かい?」
「おう! よく来たなぁ。悪いな、呼び出しちまって」
「あいつを買ってくれるなら、問題ないよ」
「よっしゃ! 早速やるか!」
「「「おう!」」」
コンクリートの床に、ミミズの魔物を出した。
本当はミミズじゃないのかもしれないが、わかりやすさでミミズでいいだろう。
「「「おおお~っ!」」」
巨大で、ヘビのように長い魔物に、現場にいた作業員たちから歓声が上がる。
「こりゃ、初めて見るタイプだなぁ」「こんなデカブツどうやって仕留めるのやら……」
「まったく、高レベル冒険者ってのはすげーな……」
「こいつが売れてよかったよ。やっぱり、歯の部分だけかい?」
「それがな――」
彼が嬉しそうな顔をしている。
「もしかして、他の部分も売れたのかい?」
「ははは! 実はそうなんだよ。サンプルで肉を少し分けてもらったじゃないか」
「ええ」
「あれの評判がよくてな」
クセもないし旨味もあるらしい。
ただ、獣の肉とも魚の肉とも違うから、好き嫌いはありそうだという話。
「まぁ、買ってくれるならなんでもいいよ。それじゃないと、ダンジョンの中に捨てる羽目になるし」
「ははは、そうだよなぁ。そんなこと兄さんだからできることなんだろうが」
通常はダンジョンの深層で大物を仕留めても、運ぶことができない。
少々剥ぎ取っても、貴重な肉や素材もそのまま、暗闇の中に放置だ。
もったいない。
ダンジョン深層に行くほど素材が高いのに、持ち出せないという矛盾が冒険者たちを苦しめている。
そんなわけでダンジョンの3層や4層が、メインの狩り場になっているわけだな。
そんな深層にアタックする高レベル冒険者たちは、本当に自身の名誉のため――ということになるだろう。
あとは、レアなドロップアイテムだな。
そのドロップアイテムも、深層を攻略するための足がかりとして、欲しているものだし。
金にもなるが、それは二次的なものだ。
やはり、アタックを繰り返すのは自分自身のため――というのが、大きいだろう。
俺みたいなのは特殊な例だ。
「それじゃ、今日は全部を捌くのかい?」
「いや、悪いが――半分だけにしてもらえねぇか?」
「構わないよ」
「こんなこと、兄さんじゃなけりゃ頼めねぇ」
「普通は、こんなデカブツをダンジョンの奥から運んでこれないからな」
「まったくだ」
作業員たちは、巨大な魔物を半分の長さにする作業に入った。
真ん中から真っ二つにして、後ろ半分は再び俺のアイテムBOXに戻ることになる。
「収納!」
魔物の後ろ半分が、アイテムBOXに入った。
「サンキュー、兄さん!」
「それじゃ、俺はもういいかな?」
「ああ、次のときに、残り半分を頼むわ」
「その前に、ダンジョンの奥地から帰ってこられるかなぁ、ははは」
「兄さんなら、大丈夫だろ?」
「だといいんだが」
「また、大物を頼むぜ!」
「ああ」
普通は市場に出回ることがない、ダンジョン深層の魔物で商売ができるということで、彼らも儲かっているのだろう。
その表情はすごく明るい。
ダンジョンの出現ですっかりと世界は変わってしまった。
扱うものがちょっと変化してしまったが、人間の営みは、なにも変わっていない。
これは、未来永劫変わることがない、普遍のものなのだろう。
俺は作業員たちに挨拶をすると、倉庫を出て、次の目的地に向かった。
そこも羽田の倉庫街にあるらしい。
スマホの案内に従って歩いていくと、こちらも大きな倉庫が建っていた。
その前にはたくさんの組み立て済みの単管の足場。
倉庫に入らないので、敷地に並べられているらしい。
俺は近くにいた紺色のつなぎを着た人に声をかけた。
ツバありの帽子を被った、若い男性。
「ちわ~! ここの人?」
「は、はい」
「この足場を注文した丹羽っていうんだけど……詳しい人いる?」
「あ、はい! 少々お待ちください!」
男が、倉庫の中に走っていくと、オッサンが出てきた。
「いらっしゃいませ。お名前を伺っても?」
「特区の武器屋から紹介された、丹羽と申します」
「丹羽さんですね。よろしくお願いいたします」
「こちらこそ」
「こちらの足場がご注文の品になります」
彼が、敷地にある足場を指した。
俺が注文したのは、高さ10mの組み立て済み単管足場、全部で20基。
それと組み立て用の工具と材料――これは足場を連結するために必要な品。
代金はすでに支払済みだ。
さすがに、こんなものを特区まで運んだら、いくらかかるか解ったもんじゃない。
俺がやってきて正解だ。
「これをどうやって運びますか?」
まぁ、普通はそう考えるよな。
「ああ、それは大丈夫だよ」
こいつでなにをするかといえば――7層にある高さ100mの入口をクリアする。
10mの足場を積み重ねて、100mの高さにするつもりだ。
俺のアイテムBOXには、処理水を捨てるために使ったタンクが大量にある。
そいつを積み重ねることも考えたのだが、どう考えても難しい。
高さ4mのタンクを100mまで積み上げるには、25個必要だし。
固定もなしに25個のタンクを積むのは、不安定過ぎる。
それなら、単管足場のほうが確実だ。
新しく見つかった階層へ降りる階段も、単管の足場を使っているし、同じ理屈でいけると思う。
ただし高さが段違いだけどな。
実際に、100mまで足場を組むことができるのか、専門家に質問したりした。
「命の保証がなくてもいいなら――」
――ということだったのだが、ダンジョンの中で使うものだし、最初からそんなものはない。
それを伝えて、納得してもらい、設計までしてもらった。
一番下の足場は通常より多くの単管が使われており、かなり頑丈にできている。
ちゃんと積み重ねるための番号も振ってもらった。
7層に到着したら、全部の足場をアイテムBOXから出して、順番どおりに載せていけばいい。
あそこはスペースが十分にあるので、問題ないだろう。
その前に一つ問題がある。
ダンジョンにものを持ち込むと、吸収されてしまうという問題だ。
使っていると問題ないのだが、放置しているとダンジョンに吸収されてしまう。
俺たちが帰還の際に使った、ブルーシートで作った紐も、今頃吸収されてしまっているだろう。
どういう理屈なのかまったく不明なのだが、元々人智を超えているものだから仕方ない。
その問題も、クリアできるという情報から、今回の共同アタックの話になった。
情報の元は、魔導師中心のギルド――幽鬼という男の所だ。
それが本当なら、ダンジョンの攻略もはかどるようになるだろう。
俺のアイテムBOXがなくても、少しずつ物資を運び込んで、橋頭堡を作ることも可能になるからだ。
これはちょっとした革命が起きるのではなかろうか?
いや、魔法かスキルか解らんが、特定の人物しか扱えないなら、俺のアイテムBOXと似たようなものか。
ダンジョン攻略のことを考えながら、俺はアイテムBOXに足場を次々と収納した。
「おおお!?」「すげー!」
周りにいた作業員たちも集まってきてしまう。
「これが、アイテムBOXってやつか!」「本当にデカいものでも、入るんだな」「めちゃ便利じゃねぇ」
そりゃ、便利だ。
これが普通の人まで扱えるようになったら、流通に革命が起きるな。
運送会社などは間違いなく全部倒産だ。
「ほいっと、これで全部か」
「あの~受取にサインだけいただけますか?」
「ああ」
サインをして、受取完了だ。
これであとは、ダンジョンの7層に行って、こいつを組み立てるだけ。
普通は重機などが必要になる重さだろうが、高レベル冒険者が揃っているんだ。
このぐらいは余裕だろう。
ただ、重いものを持つのはいいが、ボルトを締めたりするのは、パワーは関係ないからな。
それでも、食料さえなんとかなれば、ほぼ無尽蔵のスタミナがあるから問題ないと思うが。
用事が済んだので、あとは帰るだけ。
波止場に向かっていると、スマホにメッセージが入った。
見れば、晴山さんだ。
『政府管理のダンジョンがなくなってしまったので、丹羽さんのお仕事は完了となりました』
「もう終わりってことですか?」
『はい』
「お金のほうは満額でるんですかね? ダンジョンがなくなった責任とか賠償とか……」
『それは大丈夫です! むしろ、丹羽さんたちがいて、作業員や民間人に被害が出なくてよかったと』
非公開のダンジョンがなくなるより、民間人に人的被害が出たほうがヤバいよな。
極秘の公共事業で、犠牲者が出ました――なんて、野党やマスゴミの格好の餌食だ。
まぁ、今の反与党勢力に、あまり力があるとは思えないが……。
「それはよかった」
『ありがとうございました! 総理からもそう伝えてくれと連絡がありました』
「次の仕事とかは?」
『今のところは未定です』
「あまり面倒なのは勘弁してもらいたいですねぇ」
『まだ、計画段階なのですが……』
今回、大量に空になった処理水タンクの処理や、東北に埋めた核廃棄物を掘り起こして廃棄しよう――みたいな計画もあるらしい。
おいおい、勘弁してくれよ。
それじゃ、そいつはダンジョン化した海底トンネルに捨てるのか?
マジかよ。
ここぞとばかりに、ゴミを片付けようとしているな。
ちょっとうんざりだが、金はいい。
今回の仕事だけで、1000億――税金で半分持っていかれたとしても、500億の収入だ。
もう冒険者をやらんでもいいんじゃね?
そう思ってしまうのだが、姫とつき合うことになった限りにはそれは無理だろう。
彼女が引退するまでつき合わないと……。
その前に、俺が歳で能力が発揮できなくなったりして?
老いで基礎の体力が落ちてくれば、レベルでブーストした分も落ちてくるはず。
そんな歳まで冒険者をやった人は、いままでいないだろうし。
サンプルが少なすぎるな。
それとも、八重樫グループがやっている、延命処置を受ければいいのか?
金はあるんだから、それも可能だろう。
姫との年齢差を考えれば、それも考えておかないとな。
そうしないと、俺だけ先にジジイになる。
とりあえず、必要なものをゲットできた俺は、特区のホテルに戻った。
戻ったのだが――。
ホテルの前で、知っている後ろ姿が見えた。
黒い髪と大きな胸――装備は以前に比べてよくなっているように思える。
冒険者稼業は順調のようだ。
「あれって――サナだよな?」
嫌われているとは思うが、ここにいるってことは、なにかあるのかもしれない。
俺は彼女に近づいて、声をかけた。
「こんにちは」
「!」
彼女が飛び上がった。
突然声をかけられて驚いたようだ。
「どうした? なにかあったのか?」
「……い、いえ!」
彼女は、脱兎のごとくその場から走り去ってしまった。
レベルも上がっているのか、結構なスピードだが、外で走ったら危ないと思うが……。
「きゃぁぁぁぁ!」
そう思っていると、サナの悲鳴が聞こえてきた。
どうしたもんか。
助けたほうがいいのだろうか?
いや、避けられているのなら、止めたほうがいいか?
一応心配だし、スマホでメッセージを送った。
まだブロックはされていない。
「大丈夫か? なにかあったのか?」
しばらくしてから、返答があった。
『なんでもありません』
う~ん、そうか……。
『ポーションありがとうございました』
お礼を言いにきたのだろうか?
まぁ、彼女たちなりに順調のようだし、そっとしておこう。
――皆の荷物をアイテムBOXに集めた数日あと。
ダンジョン深層へのアタック当日。
各ギルドから、リーダー、トップランカーたちがダンジョン前に集まった。
俺も色々と準備をした。
動画サイトの金も入ってきたので、一眼レフタイプの高性能なカメラを複数購入。
こいつは、高感度にも強いので、わずかな光でもしっかりと映る。
俺も明かりの魔法を使えればいいのだが……。
魔法を使えなかった姫がかなりあとになって魔法を覚えたし、俺も魔法を覚える可能性があるかもしれない。
いつもの武器屋で100万円ほど払い、防御力がアップするというアミュレットを購入した。
一応、効果保証なので、大丈夫だろう。
集まってきた高レベル冒険者の面々を眺めた。
ゴリラはフルアーマーだし、イロハも姫のビキニアーマーほどではないが、露出の高い防具を装備している。
肩と胸をアーマーが覆っているが、腹にはなにもなく、たくましい腹筋が覗いていた。
彼女の武器は初めて見るが、長剣を使うようだ。
「イロハ、その防具ってへそが出てるけど、ドロップアイテムなのか?」
「ああ、そうだよ――試してみるかい」
軽くパンチをしたが、弾かれた。
マジで魔法の防具らしい。
姫は、人目の多いところではローブで隠しているのだが、イロハはそんなことはしていない。
自らの肉体を誇っているようだ。
幽鬼の所は、魔導師ばかりなので、皆が袖と丈が長い服装をしている。
女性が多いのだが、基本的に脚を出している子はいないらしい。
堅い! 堅すぎる!
まぁ、ギルドの方針なのかもしれないな。
同じ魔導師でも、イロハの補助についている女の子魔導師は脚を出している。
ゴリラと一緒にいる巻き毛の女性魔導師は、以前ダンジョンで会ったときと同じ格好だな。
彼と一緒にいるということは、こちらも高レベルで間違いなしなのだろう。
そんなトップギルドといっても、7層まで行けるとなるとそう数は多くない。
各ギルドから、2~3人といったところか。
その分、ギルド間の連携が必要になる。
所属の冒険者たちも多数押しかけて、リーダーたちのお見送りをしている。
昭和の時代なら――万歳三唱が起きるところだな。
「「「わぁぁぁぁ!」」」
噂を聞きつけて集まった、たくさんの観衆から声援が起きた。
情報統制はしてないので、ネットにすでに情報は広がっているようだ。
別に隠すようなことじゃないしな。
「「「きゃぁぁ!」」」「桜姫さまぁ~!」「エンプレスさま~っ!」
姫やカオルコのファンが押し寄せている。
ローブを着ているとはいえ、戦闘用の正装だ。
刺さる人には刺さるだろう。
これがスポーツの大会などなら、壮行会などがあったりするのだが、これはスポーツではない。
中にはスポーツ感覚でやっているライト冒険者もいるのだが、ここにいるのは全部がガチ勢だ。
俺も、ライト層だったのだが、いつの間にかガチ勢の仲間入り。
一般人は、ダンジョンの外にいるが、冒険者なら中にも入ってこられる。
当然、エントランスホールも冒険者でいっぱい。
当初は、移動が面倒なので、ダンジョン内列車を使う予定だったのだが……。
列車も冒険者でいっぱい。
「姫、こりゃ駄目だ。自力で下層を目指そう」
「うむ――オガ!」
彼女が、近くにいたイロハに声をかけた。
「なんだ?!」
イロハも、冒険者に囲まれている。
「バラバラに行動して、4層で待ち合わせよう」
トップランカーなら、4層ぐらいなら余裕だろう。
たぶん、人でいっぱいなのは、1層だけだろうし。
「これじゃ、仕方ねぇな」
「他のやつらにも伝えてくれ」
「解ったぜ!」
見れば、冒険者の人垣はそんなに厚くない。
俺はカオルコを抱きかかえると、人混みをジャンプした。
同時に、姫も人垣を飛び越える。
前方がクリアしているのを確認すると、俺はダンジョンの中を駆け出した。
トップランカーのスピードについてこられる冒険者は、同じく高レベルの冒険者だけ。
カオルコを背負うと、ダンジョン内にチラチラと揺れている冒険者たちの明かりを見ながら暗闇の中を駆けていく。
「ダイスケさん、ごめんなさい」
「これぐらいどうってことないし」
普通なら、女の子背負って走ったりできないだろうが、今の俺なら余裕だ。
それに、カオルコは防具などはつけていないから、彼女の柔らかさが十分に楽しめる。
これは役得というやつだろう。
さて、戦闘が始まったら、ゴリラやイロハを背負ったりするのだろうか?
イロハはいいけど、重装備のゴリラを担ぐのは嫌だなぁ……。
まぁ、いざとなったらやるしかないが。
背中に巨乳の温かみを感じながら、2層に降りてきた。
「あ、列車の乗り場に、人が集まっているぞ」
「私たちが来るという話を聞いて、待ち受けているのかもしれない」
「2層だと、まだ人がいるか。このまま、2層も突っ切ろう」
「承知」
「カオルコ、大丈夫か?」
「私は大丈夫ですけど、ちょっと……」
どうやら、恥ずかしいらしい。
まぁ、それもそうか。
「それじゃ、自転車を出そう」
俺はアイテムBOXから自転車を出して、後ろのステップにカオルコを立たせた。
「最初からこうしていただいたほうが……」
「ほら、人がたくさんいたんで、ははは」
「それじゃ、行くぞ!」
姫が気合を入れた。
「こちらは自転車だから、スピードが上がるけど、大丈夫かい?」
「ふふふ、大丈夫に決まっている」
「あ、あの! あまりスピードを出さないで――きゃぁぁぁぁ!」
俺は暗闇の中を自転車を漕ぎ始めた。
――とは言っても、あまり無理はできない。
自転車のほうが持たないからだ。
マウンテンバイクなので、普通のママチャリよりは頑丈だとは思うが、ものには限度ってものがある。
高レベルの俺が本気で漕いだら、バラバラになってしまうかもしれない。
その前にチェーンが切れるか。
そうなったら修理が面倒だな。
一応工具はアイテムBOXに入っているが。
非常用なら、チェーンを針金で繋ぐ手もある。
もちろん、あくまで非常用なので、無理はできなくなるが。
暗闇を突っ切って、3層の入口にやって来た。
さすがにここには、人はいないようである。
ここまで来るためには、それなりのレベルが必要だし。
3層は列車に乗ってクリアする。
姫たちも、ローブを深く被って、列車に乗り込んだ。
3層ともなると、乗っている人は少なく、ほとんどが物資の輸送に使われている。
明かりはないので、ひたすら真っ暗だが、高レベル冒険者なら困ることもない。
ガタコトと揺られているうちに、3層の終点に到着した。
4層に降りるための、蒸気エレベーターに乗り込む。
ここも物資の山と一緒に下にゆっくりと降りて行く。
湯気を吹き出す蒸気機関車のような音が、ダンジョンの暗闇にこだまする。
俺たちの目には、真っ白な蒸気が流れていくのが見えるのだが、一般人にはただの暗闇に見えるのかもしれない。
魔法でお湯を沸かしているので、普通の蒸気機関のように黒煙はでない。
エレベーターに揺られていると、下に到着。
荷物と一緒に、4層に降り立つ。
「さて、結局走った俺たちが一番速かったな」
「そうだな」
ダンジョンの隅に行って、軽く食事をする。
走ったので腹が減った。
カロリーバーを出して齧る。
「私には飲みものを」
「はいよ~」
「ありがと」
姫に、コーヒー牛乳を渡した。
彼女は、コレが大好きらしい。
こんなのガバガバ飲んだら、普通なら糖尿病一直線だが、冒険者なら入ったカロリーはすぐに消費されてしまう。
カオルコはまったく動いてないので、ミカンジュースを少し飲んでいる。
彼女は炭酸が苦手で、果実系の飲みものをよく飲む。
彼女のアイテムBOXの中には、ブドウ糖のタブレットも大量に入っているという。
ここでしばらく待たねばならない。
まぁ、イロハがやって来れば、あのデカい声ですぐに解るはず。
「う~ん! 暇だ! ちょっと行ってくる!」
姫が腰を上げた。
ダンジョンの中ではジッとしていられないらしい。
「ええ? マジで? あまり遠くに行くなよ」
「わかってる!」
本当に解っているのかな?
糸の切れた風船みたいだな。
他の連中と姫を待っていると、上から鳴き声が聞こえてきた。
多分、ハーピーたちだろう。