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6話 初ダンジョン突入


 俺はダンジョンに潜る冒険者という職業につくために、東京にやって来た。

 地方にもダンジョンはあるのだが、やっぱり東京のダンジョンが一番デカくて花形である。

 それに、特区もデカくて何もかも揃っている。


 人間の欲望が形をなした――そんなのが気に入った。

 それに有名なギルドも東京に揃っているしな。

 ちょっとミーハー心を出して、そういう連中も見てみたいし。


 オッサンなら、ビキニ鎧の若い子とか見たいじゃん!

 ネットでググったら、マジでそういう子がいるし。

 これはもう、男のロマンってやつよ。


 オッサンでも心は少年だから、素敵なボーイミーツガールがあるんじゃないかな~と心の中で思っている。

 まぁ、実際にお相手するなら、ボン・キュッ・ボンのお姉さんのほうがいいけどな。


 ちょいとよこしまなことを考えながらダンジョンの入り口までやってきた。

 大きな黒い横穴が開いたダンジョンの入り口には、たくさんの人々たちが集まっている。

 皆、アーマーを装備したり、ローブを着た人たちだが、中には普段着のような人たちもチラホラ……。

 それって学校のジャージ? みたいな子もいるし――危険な場所に行かなければそれでいいのか?

 俺も普段着だから、人のことは言えないが。


 それから、自転車を押している人や、リアカーを牽いている人もいる。

 自転車とリアカーを組み合わせている人も。


「あ~そうか~自転車なぁ……」

 多分、ダンジョン内の移動に使うのだろう。

 そりゃ、歩いたり走ったりするよりは早く移動できる。

 あまり凸凹している地形は無理だと思うが、平坦な場所しかいかないのなら大きな武器になるはず。

 俺はアイテムBOXがあるのだから、自転車を持ってくればよかったな。

 こういうのは、現場に来てみないとまったく解らないな。


「ん?」

 たまにライフルらしきものを背負っている人がいる。


「銃か?」

 スマホでちょっと検索してみると――エアライフルのようだ。

 圧搾空気の力で弾を発射するエアライフルなら、ダンジョンの中でも使えるのか。

 ハンドポンプ式なら、コンプレッサーの必要もない。

 なるほどと思ったが、実際に使えるのだろうか?


 再びググってみる――ダンジョン内では暗くて、見通しが悪い。

 そのために突発的な近接戦闘になりやすく、あまりエアライフルのメリットがないらしい。

 それにレベルが上がれば、ただの投石が大砲並の威力になるのは、俺も経験済みだ。

 高価なエアライフルを使うメリットがあまりないのだろう。


「は~い! 魔石買うよ~!」「ドロップ品ありませんか~!?」

 魔石やドロップアイテムの買い取りをしている業者がいる。

 公的機関でも買い取りをしてくれるが、こういう業者に売ったほうが高い場合もある。

 欲しい業者が複数いる場合はセリが行われて値段が釣り上がるときもあるようだ。

 業者は登録制なので問題ないが、ヤミ業者もいるらしい。


「タンク役やりま~す!」「魔導師で~す! 需要ありませんか~?!」

 仲間がいないらしい冒険者たちが、周りに声をかけている。

 皆がギルドに入っているわけでもなく、フリーの人たちがその都度パーティに入る形もあるみたいだ。


 ギルドに入っていると稼ぎは一旦ギルドに保留され、そこからさらに分配されるので大損はしない。

 大儲けもしないが、怪我や病気などすれば身内で治療してもらえるし、メリットもある。


「1/2でもいいです~! お願いしま~す!」

 通常、儲けは人数分の頭割りだが、そこから1/2でもいいというのだろう。

 1/3やら1/4という声も聞こえるが、そんなに割り引いて平気なのか?

 それでも声がかからないというのは、実力が伴ってないということなのだろう。

 同じ金を払うなら、能力が高い方がいいだろうし、いざとなれば担いで逃げてくれる筋肉ムキムキマッチョマンのほうがいいはず。


 まぁ、俺だってそう思う。

 皆がマジで生活かかってるだろうからな。

 すごくシビアだ。


 それもあってか、女性はちょっと露出が多めの子が多い。

 人目を惹いて、仲間に加えてもらおうという感じだろうか。

 それって、魔物より、仲間の男どものほうが怖くないか?

 まぁ、そういうの込みなのかもしれないが……。


 それと、冒険者の格好をしている人たちは若い人ばかりだ。

 俺みたいなオッサンはあまりいない。

 ゼロではないが、やっぱり圧倒的に若い人が多いようだ。

 オッサンの姿も見えると、業者だったりする。


「ワンワン!」

 犬の鳴き声が聞こえる。

 ペットを相棒にしている人もいるようだが、犬などが魔物を倒してもレベルアップしないらしい。

 なん回か、実験が試みられて証明されている。

 レベルアップするのは人間だけだが、魔物が魔物を倒したらどうなるのか?

 ――それは証明されていないし、レベルアップの可能性を否定できない。


「なんだありゃ……」

 人集りの中に、黒ずくめのローブを着た異様な集団がいる。

 アレも冒険者なのだろうか?

 それにしては、皆が避けて――いや、無視をされているように見える。


 俺はスマホで「ダンジョン、黒ずくめ」などで、検索をかけてみた。


「――迷宮教団?」

 ははぁ――こいつらがそうか。

 魔物も生命だから、受け入れて隣人になるべき――という教義を抱えているカルト集団だ。

 勧誘などもするわけでもなく、特に害もないようなので、「触らぬ神に祟りなし」って感じで、放置&無視されているようだ。


 噂によると、武器なしでダンジョンの深層まで潜って魔物に接触――食い殺される。

 ――というのを繰り返しているイカれた集団らしい。


 いや、否定するつもりはない。

 似非の動物愛護などで金儲けをしていた連中に比べたら、ガチだし。

 自分たちのやることに命を懸けているのだから本物だ。


 ガチゆえ、触れないほうがいいだろう。


 迷宮教団の他に、黒ずくめでもう一つヒットしたワードがある。


「もぐら――か」

 もぐらってのは通称で、ダンジョンに穴を開けまくって、隠し部屋やら通路を探す連中だ。

 魔物は狩らずに、隠し部屋にある貴重なアイテムなどを探して金にしている。

 隠し通路は、役所に報告すると報奨金がもらえるらしいし。


 たくさんの冒険者と同様、黒ずくめの集団に背を向けて、ダンジョンの入り口に向かった。


 そこにズラリと並ぶ自動改札機。

 その横には、警察が警備している大型のゲートがある。

 なにか大型のものの出入りやら、非常時に使うものだろうか。

 ここから内側が、物理の法則がひん曲がるダンジョン空間ってわけだろう。

 ウチの裏にダンジョンができたときに、家で電気や火が使えなくなったのと同じだ。


 先に行く冒険者を見ていると、自動改札に冒険者カードをかざして入るようだ。

 俺も真似をして中に入ってみる。


 ダンジョンの中に入ると、外からは想像できないぐらい広い。

 床はコンクリートで均されており、ここはホールになっているのだろう。

 一歩足を踏み入れたこの場所から、通常空間ではなく、ダンジョンという異次元空間。

 ここから穴を掘っても、日本につながることはないのだ。


 いきなり出入り口が閉じたら、この中にいる全員が異次元に閉じ込められる。

 いや、そのまま消滅して無に帰ってしまうのかもしれないが……。


 なんだか頭がおかしくなりそうだが、これが現実だ。

 それにしても、ダンジョンの中だというのに、天井に明かりが光っていて、それなりに明るい。

 ダンジョン内は電気は使えないはずだし……。

 もしかして魔法の光?


 ダンジョンの中がずっとこんな感じなら、ケミカルライトは要らないはずだし……。

 まぁ、そのうち解るだろう。


 変わった光景は天井の明かりだけではない。

 薄暗い奥にはコンクリート製の駅のホームがある。

 つまり、鉄道が敷かれていて、しかも複線。


 この中は電気信号が使えないので、複雑なダイヤ運行は不可能だと思われる。

 複線で行ったり来たりの運行をしているのではないだろうか。


 事前にネットで調べて、中に鉄道があるのは知っていた。

 ここはデジタルカメラが使えないから、銀板カメラで撮影された写真がネットにアップされていたのだ。

 毎回迷宮の奥に進むのに、いちいち歩いていられないだろう。

 時間の無駄だ。


 特に高レベル冒険者なら、一気にダンジョンの奥まで進まないといけない。

 ここは鉱山ゆえ効率が求められる。

 そのため、各階層の安全地帯を鉄道が走っており、人や物資を運んでいるわけだ。


 もちろん有料なので、金を節約したい冒険者たちは自転車などを利用しているのかもしれない。


「へぇ~本当に鉄道があるんだ……」

 こういう非日常的な光景を目にすると、年甲斐なくワクワクする。

 ここは電気も使えないし、どうやって鉄道を動かしているかといえば――蒸気機関だ。

 火も燃やせないダンジョンでどうやって蒸気機関を? ――と思うのだが、お湯は魔導師が魔法を使って沸かしている。


 階層の縦方向の移動には、蒸気エレベーターがあるらしい。

 そいつも、ぜひ見てみたいな。

 鉱山として成り立たせるためには、こういう機械化も必要ってわけだ。

 ダンジョンを資源化できない国が多いのも頷ける。

 基本、先進国じゃないと無理なんじゃなかろうか。


「丹羽さん! やっぱりお一人で行くんですか?」

 初めてのダンジョンの光景に、望月君という青年の存在を忘れていた。


「最初はやっぱり腕試しをしてみないとな。自分がどのぐらいやれるのか見極めないと」

「そうですか」

 彼はちょっと残念そうだ。


「あ、そうだ。天井の明かりってどうやって光っているのか知ってる?」

「あれですか? あれは、光ファイバーで外から引っ張ってるんですよ」

「なるほどな。光ファイバーか」

 異次元空間なのに、光ファイバーを使えば明かりが灯せるわけか。

 空間が断裂してると思うのだが、繋がっているのか。

 まぁ、本当に断裂していたら、人間も切り刻まれてしまうが。


「それじゃ、光ファイバーを張り巡らせれば、ダンジョン内が明るくなるな、ははは」

「多分、予算の問題で無理だと思いますよ」

「そうだろうなぁ」

 ここは、冒険者が集まるホールや、駅のプラットフォームがあるから、照明を灯しているのだろうし。


「よし、行くか! 悪いが俺は1人で行かせてくれ」

「いえいえ、無理を言ってすみませんでした」

「それじゃな」

 望月君と別れると、俺はケミカルライトを折った。

 青白い光が灯る。

 これで半日以上は保つ。


 俺は家から持ってきた装備をつけた。

 工事用のヘルメットと、作業用のゴーグル。

 とりあえず、頭の保護は必要だろう。


 準備ができた俺は、地図を見ながら広い通路をそのまま歩き始めた。

 今日はお試しだ。

 真っ直ぐな通路を、ひたすら歩く。

 徐々に通路が色を失い、あちこちに灯る光だけがチラチラと見える。

 小さい光、大きな光、青やら白やら――赤はいないが、冊子によると緊急用らしい。

 大きな光は、魔法の光だろう。


 俺が持っているケミカルライトの周辺はカラーだが、離れるとモノクロ――と、いった感じ。

 それでも通路がはっきりと見えるのだから、ありがたい。


 それにしても――浅い階は多数の人たちがいる。

 みんな低レベルの冒険者なのだろう。

 たくさんの人たちがいればたくさんの情報が集まる。

 トラップやら、危険な場所もほぼ網羅されているみたいだな。


 それでダンジョン攻略も終了かと思いきや、突然別の通路が発見されることもあるらしい。

 見つけた通路を秘密にして、独自に攻略するギルドなどもあると、ネットの記事で見た。


 あまり変な場所に入り込まなければ、迷うこともないだろう――と、思って、あることに気がついた。


「これ、暗い通路に入ったら、方角が解らなくなるんじゃないのか?」

 方位磁石とか使えるんだろうか?

 使えなかったら、どうやって方角を確かめたもんか……。

 外に出たら、スマホで検索してみよう。


 普通に方位磁石が使えるかもしれないし。


 そのまま通路を進むと、なにやら透明っぽいうねうねしたものが見える。


「これは……もしかしてスライムか?」

 ちょっと距離を取って魔物の冊子を開く。

 こんな悠長なことをやっていていいのかと思うのだが……。


「物理攻撃は効きにくいとか書かれてるが……」

 頭上からも襲われることもあるらしい。

 ――ということは、上にも注意しなくちゃ駄目ってことか……。


 辺りを見回す――周りにいる人たちは気づいていないだろう。

 アイテムBOXから、鉄筋のメイスを取り出した。


「オラ!」

 スライムに近づき、横に払う。

 透明なボディがひしゃげて飛び散ると、そのまま動かなくなった。


「え?! これでやったのか……?」

 もう動かないし、床にびしょ~って感じで広がっている。

 どう見ても仕留めた。

 あっけない。


 ライトで照らすと、3cmぐらいの黒い結晶がある。

 こいつが魔石だ。

 これだと2000円ぐらいだろうな。

 1日2万円ぐらい稼がないと駄目らしいが、こんな魔石をチマチマ回収して商売になるのか?


 この魔石が1個2000円として、2万円稼ぐためには10匹か……?

 10匹ぐらいならいけるのか?


「それより、もっと下に潜って大物を狙ったほうが早いか……」

 それから、ちょっと離れた所に小さなガラス瓶が落ちていることに気がついた。

 それを拾い上げると、なにか液体が入っている。


 これって、ポーションってやつか?

 まじで、ゲームみたいにガラス瓶がドロップするのか?

 ガラスはドロップするし、武器は鋼鉄だ。

 本当にダンジョンってのは鉱山だな。


 それを手に持って俺がその場を離れようとすると、なん人かが集まってきた。

 手にはバケツを持って、ゴム手をしている。


「あ、あの! それを捨てていっちゃうんですか?!」

「え? それって、スライム?」

「もらってもいいですか?」

「いいけど……」

「やった!」

 皆が喜びながら、スライムの死骸をバケツに入れ始めた。


「それも金になるの?」

「はい――スライムは、魔石よりこっちのほうがメインですよ」

 スライムのボディは有機物なので、様々なものの原料になるらしい。

 有機物ってことは、加工をしまくれば、ベンゼンでもトルエンでも作れるかも。

 彼らの話では、肥料になるのが普通らしい。


 あ~、なるほどなぁ。

 化学肥料が輸入できなくなってるからなぁ……。


 俺は、さっき手に入れた瓶について聞いてみた。


「ちょっと聞きたいんだけど――これって、ポーションってやつ?」

「そうですよ! ラッキーですね! それだけで1万円ぐらいしますよ」

 スライムをバケツに入れている若い男性が答えてくれた。


「え?! そうなんだ……」

「なにせ、なんにでも効く万能薬ですから」

 これで今日の宿代はゲットだが、こいつは怪我用にとっておきたい。

 なにがあるか解らんからな。


 俺はスライム集めをしている冒険者たちから離れると、ゲットしたポーションをアイテムBOXに入れた。

 とりあえず、スライムは楽勝だとわかったし、こんなのをチマチマと倒しても仕方ない。

 俺はさらに下の層を目指すことにした。


 歩いていると、大きな明かりがやってくる。

 どうやら、ダンジョン内列車の明かりのようだ。

 後ろの貨車には、巨大な毛むくじゃらのなにかが積まれている。


「なんだろう? 熊じゃないしな……」

 長い腕が見えるような気がするし、人形に見えなくもない。

 ああいう敵もいるんだ。

 レベル49を維持するためには、あれよりもすごい魔物を倒し続けないと駄目なのかも……。

 やっぱり、サクっと儲けたら、冒険者を止めたほうがいいよなぁ。

 いつまでもこんなことが続くとは思えないし。


 ある日突然にできたダンジョン。

 それが、ある日突然に消えても、おかしくない。


 俺は、スライムを2匹ほど倒してダンジョンの奥へと進んだ。

 スライムの死骸も金になるとわかったので、アイテムBOXに収納している。


「う~ん」

 アイテムBOXがないと、いちいち獲物を運んだりしなければならない。

 さっきの列車だって無料じゃないはずで、運賃を取られているだろうし。

 アイテムBOXを公言すれば、一気に稼げるんだがなぁ。

 儲かるとは思うが、なにが起きるか解らんし……。


 アイテムBOXのことを考えていると、下の階層への通路にやって来た。

 ここにも明かりがある。

 おそらく、エントランスホールにあった、光ファイバーの照明と同じものだろう。

 ここまで引っ張っているのか。


 ここらへんは安全地帯になっているらしく、たくさんの人たちがいる。

 中にはテントを張ってキャンプをしている連中もいるようだ。

 こういう人たちは、なるべく経費を節約して、魔石やらドロップ品だけを集めて暮らしているのだろうか。

 魔物の死骸を外に運び出すのは、効率が悪いと考えているのかもしれない。


 ここで物資を買い付けている業者の姿も見える。

 なるほど――ここで買った物資を鉄道に載せて、運んでいるわけか。


 下に向かう通路の近くに、ちょっと明るい場所がある。

 下層に降りるエレベーターで、魔導師が沸かしたお湯で動く、蒸気エレベーターだ。


「すみません~。あのエレベーターって有料なんですか?」

「ああ……」

 ちょっと歳を食った男の冒険者に話しかけたのだが、つっけんどんな返事しか返ってこなかった。

 ボロボロの格好をしていて、かなり長い間ダンジョンに潜っているようにも見える。


「あんた、その格好でここまで来たのか?」

 ヘルメットを被っただけ、ほぼ普段着な俺の装備が気になるようだ。


「冒険者になったばかりで、金がなくてな」

「悪いことは言わない。ここで引き返したほうがいい」

「ありがとう。でも、下に降りてみるよ」

「……忠告はしたぞ?」

 意外と親切だった。


 彼の様子を見る限り――ダンジョンってのは、あまり儲かるような商売じゃないような気がした。

 そう思うのだが――外では不景気で、仕事といえば一次産業しかない。

 それなら、一攫千金を夢見れるダンジョンのほうがいいと――そう考える人たちがいてもおかしくない。


 下層に降りる通路を歩く。

 下につながる穴があるわけだが、それを広げてエレベーターを設置しているようだ。

 普通に地面に穴を開けたとしても、別なダンジョンに繋がってしまう。


 もらったマップを見る。

 下に降りる通路は、バラバラな位置にあるようで、すぐ近くにある階層もある。


「なんか、迷いそうだが……」

 まぁ、高レベルのせいか暗闇でも見えるので、多少はマシのような気がする。


 ――ダンジョン2層にやって来た。

 地上の建物に当てはめると、ここは地下1階ってことになるのだろうが、地上から入った場所は1層なので、ここはダンジョン2層ってことになっている。


 エレベーターの近くには、またプラットフォームがあり、列車の発着場になっていた。

 ここにも光ファイバーの照明がある。

 安全地帯や、要所には配置されているのだろう。


 ダンジョン事業には、国家予算が突っ込まれているからな。

 アメリカまで光ファイバーを敷設することに比べたら、このぐらいは可能なのだろう。

 こうやって各拠点を鉄道で結んで、物資を運んでいると思われる。

 この鉄道ってどの層まで整備されているのだろうか?


 たとえばドラゴンみたいな巨大な魔物が出るような階層だと、鉄道が走っていても危険じゃなかろうか?

 ダンジョンを鉱山化している国からすれば、ドラゴンのような巨大で面倒な魔物を倒すより、資源になる弱い魔物を大量にゲットしたほうがいい。

 ――と、いうことなのかもしれない。


 ここにもキャンプしている人たちと、業者がいる。

 ダンジョンにゴミを放置すると吸収されるということだが、キャンプしてる人たちは大丈夫なんだろうか?

 よく解らんな。

 それとも、長い間同じ場所から動いていないと徐々に吸収されるとか?

 それなら解るような……解らないような……。


 出発地点からしばらく進み、地図を確認していると、突然黒い影が現れた。


「グルル……」

 黒い犬? いや、狼か――の群れ。

 赤い目が光る5匹ほどが、こちらに向かって唸っている。

 敵が多数になると、やはりパーティを組んだほうがいいのだろうか?


 故郷で熊と対峙したことで、狼ぐらいならなんとも思わなくなっている。

 それともスライムを倒したことで、戦いに対する心構えができたのだろうか。


 俺は、鉄筋メイスを片手で振りかぶった。

 普通なら重い鉄筋の束などを振り回すことなんてできないだろう。

 俺は、狼の頭に向かってそれを振り下ろした。


「ギャン!」

 黒い獣の頭が潰れて、目玉と中身が飛び出す。

 幸い、暗いので色が白黒っぽくてあまりグロくない。


 それにしても、相手が生き物なのに、なんの躊躇もなく頭に狙いを定めて武器を振り下ろしてしまった。

 これはやはり、熊との戦闘を経験したせいだろうか?

 生き物を殺すという禁忌の鎖を切るというのは、中々難しいものがあるのだが、俺はヒグマ相手にそうしなければならない状態に追い込まれてしまった。


「ガウウウッ」「ガウッ!」

 一匹が俺に向かって飛びかかってきたのだが、動きがスローに見える。

 これはヒグマと対峙したときにも、同じことが起こった。


 俺は鉄筋メイスを引き付けると、柄の端で襲ってきた狼の顔面を痛打した。


「ギャイン!」

 地面にひっくり返った敵に、追撃を加える。

 黒い毛皮がU字に凹み、潰れた。


「キャインキャインキャイン!」

 下半身が動かなくなった狼が、前脚だけでジタバタしていたのだが、すぐに静かになった。


「ウウ……」

 残る3匹は、すでに戦意喪失しているように見えるが、これも仕事だ。

 金のためには見逃すわけにはいかない。

 2匹の頭をめがけて、立て続けにメイスを振り下ろした。


「ギャン!」「ギャイン!」

「さて――」

 最後の1匹は、砂鉄バットを試してみよう。

 ――結果、四脚には効果はいまいち。

 首がガッチリと固定されているせいか、それとも頭蓋が厚いのか、こういう動物は脳震盪を起こしにくいようだ。

 バットを使うのは、人型生物限定――ということになるだろう。


 まぁ、自作のメイスの調子がいいので、これで困ってないけどな。


「2階層の魔物も、難なく倒せてしまったなぁ……」

 なんかビビってた俺が、アホみたいだな。

 いや、最初の相手がヒグマってのが、異常だった。

 この狼たちも、熊よりは弱い。

 やっぱり、俺のレベルを維持するためには、もっと深部に潜らないと駄目っぽい。


 さて、スライムは簡単に魔石が取れたが、こいつは解体しないと駄目らしい。

 魔物の冊子によると、胸の辺りにあるという。

 メイスで叩き潰してしまったが、さらに獲物の腹を切り裂くとなると、また新たなる覚悟が必要になる。

 俺はアイテムBOXからナイフを取り出した。

 これは家から持ってきたものだ。

 ゴム手袋もして、じっと獲物を見つめる。


 とりあえず、アイテムBOXに入れて業者に丸投げ――って手もあるが。


「ええい!」

 これができないと冒険者としてやっていけない。


 俺はケミカルライトを隠して覚悟を決めると、魔物の胸の部分を切り開いた。

 明かりがないと視界が白黒になるので、多少はグロさがマシになる。

 液体が流れても内臓がはみ出ても、そんなに精神的ダメージがない。


 視覚的なグロさは軽減されているが、生臭いにおいはするし。

 幸い獣臭はあまりしないようだ。


 魔物の身体の中に手を突っ込むと、なにか硬いものがある。

 スライムより少し大きく、ピンポン玉ぐらいか。

 これなら、5000円ぐらいになるんだろうから、これで今日のノルマは達成だ。

 それに、狼は肉や毛皮も売れるはず。

 楽勝に感じるが、あくまで俺がレベルが高いからだ。


 まぁ、なんとかなるか――。


 それより、全部で5匹いるので、手早くやらないと。

 3匹目に差し掛かると、近くにナイフが落ちているのに気がついた。

 これは落とし物なのか、それともドロップ品なのか……。


 ドロップ品ってタダのナイフなのか、それともなにか特殊効果がついているのか?

 あのビキニ鎧を着たトップランカーの女性も、防具に特別な力があるというから、ナイフにそういうのがあっても不思議じゃない。


「う~ん、鑑定がほしい……」

 ――などと、考えていると、ひたひたとなにか近づいてくる音がする。

 高レベルで目がよくなっているのはわかったが、耳も高性能化しているようだ。

 音のするほうを見ると、小柄な人影――複数の子ども?


「おい! なにか用か?」

 小さな人影がビクッと反応すると、地面に置いてあった黒い死骸をひったくって逃げた。


「おいこら!」

 後ろ姿は3人で、どう見ても子どもである。

 冒険者になるためには、16歳以上で国民カード必須である。

 子どもはダンジョンに入れないはずだが……。


 こういうことがあれば、もっと騒ぎになっているはずなのに、平常運転ってことはこれが当たり前ってことなんだろう。

 ダンジョンに子どもがいるのをみんな知っているけど、見て見ぬふりをしていると……。


 まぁ、ひったくられたのは、メイスで身体を潰してしまった死骸だし、いいか。

 俺は残り4体の死骸をアイテムBOXに入れた。

 彼らにも、こういうことをしなくてはならない事情ってものがあるのだろう。

 それゆえ、みんな見て見ぬふりをしている。


 そんな感じじゃなかろうか。



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