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52話 魔物の解体


 特区とダンジョンから、迷宮教団とギルド踊る暗闇の排除が始まった。

 特区内の揉め事は、冒険者で片付けるしかないが、外でも当局が動いている。


 迷宮教団の支部には家宅捜索が行われたし、外に逃げた冒険者たちには紋章隊という特殊部隊が動く。

 彼らに捕まった冒険者たちだが、超常の力を持つ彼らは普通の刑務所に入れることができない。

 すぐに脱獄される可能性もあるし、そうなると犠牲者も出る。

 そうなったら、責任の所在がどうの――と始まるのがこの国。


 そうならないように、逮捕された冒険者は専用の施設にぶちこまれる。

 そこは地下100mの逆すり鉢状の施設。

 出入り口は、中央にあるエレベーターシャフトだけ。

 いくら高レベル冒険者といえ、100mの高さを上ることはできない。


 俺なら、アイテムBOXを使ってなんとかできるかもしれないが。

 あ、そうか――そういうことがあるから、アイテムBOXは警戒されているわけだな。


 ――そんなある日、魔物の買い取りをやっているオッサンから連絡が入った。

 ドラゴンというデカブツを解体する準備ができたので、獲物を持ってきてほしいということだった。

 やっと金になるのか。


 まぁ、たとえば1千万になったとしても、すでに動画サイトの収益のほうがでかいしな。

 姫たちも金にはこだわってないし。


 獲物の換金に関しては、俺にまかせてくれるということだったので、オッサンの呼び出しに応じることにした。

 呼び出されたのは特区ではなく、羽田の倉庫が並んでいるある場所。


「ちわ~、ここでいいんですかね」

「おお~来たな。兄さん!」

 いつも思うが、兄さんって、歳そんなに変わらんやろ――と思う。


 デカい倉庫のような建物の中に入るとひんやりと涼しい。

 見上げると天井が高く、低い音を立てて空調が回っており、床には縁を走る黄色のガントリークレーンがある。

 元々低温倉庫だったものを改造した場所のようだ。


 壁には銀色の大きな扉があり、あそこの中は冷凍庫かなにかだろうか。


「このために施設を作ったんですか?」

「いや~――そのうち、ドラゴンみたいなデカブツを処理する日が来るんだろうなぁ――みたいな話をしてて、共同で準備はしてたんだよ、ははは」

「まぁ、たまにしか稼働しないとなるとコスパ悪そうですが」

「いや、普段の処理もここでやるから大丈夫だ」

 話を聞くと――トロルとか大物が入ってくると、すでに苦労していたらしい。

 それならちょっと大きめの施設を作ってしまえ――ということになったようだな。


「赤字にならなきゃいいけど……」

「大丈夫だ! 兄さんの動画を観たのか、世界中から注文がバンバン来てる!」

「俺の動画サイトを知っているのか?」

「もちろん、超有名人じゃないか」

 いつの間にか有名人になっていたらしい。

 まぁ、そりゃアイテムBOXは持ってるし、桜姫やエンプレスと一緒じゃなぁ。

 近くに男がいるんで彼女たちの人気は落ちるかもしれないが、そんなの気にするタイプじゃないしなぁ。

 本人たちは、自分たちがアイドルとは思ってないだろうし。


「最終的には、どうやって売るんだ?」

「なるべく宣伝してから、オークションにかける」

「ファンタジーじゃ、ドラゴンの血なども高く売れる設定だがなぁ……」

「無論、血液も無駄にせずに、急速冷凍保存するぞ!」

「え?! マジで?」

「ああ、これだけ捕れたてホカホカなら、問題ない」

「マジかぁ」

「わはは! 桜姫と兄さんがデカブツをバンバン持ってきてくれると期待してるぜ!」

 彼が俺の肩をバンバンと叩いてくる。

 こういう距離が近いのは、俺の苦手なタイプだ。


「まぁ、俺のアイテムBOXがあるから、できることだな」

「そうなんだよ! 普通は、ダンジョンの深部からデカブツなんて運んでくるだけでも、おおごとだからな」

「はは、それじゃ早速やるのかい」

「おう! いいか、野郎ども!」

「「「おう!」」」

 黒いゴムのつなぎを着た作業員が30人ほどスタンバっている。

 準備万端整っているようだ。


 それならばと――倉庫の中央にアイテムBOXに入っているものを出す。

 まずは、ドラゴンの身体だ。


 その巨大な姿はかばねになりながらも圧倒的な存在感を放っていた。

 全身はまるで金属のように輝く硬そうな鱗に覆われており、その鱗は一枚一枚が巨大で、鋭利な刃のように光を反射している。

 頭部は死しても威厳に満ち、鋭い目がこちらを見据えているように見えた。


「そんなに恨めしそうな顔をするなよ」

「「「おおおお~!」」」

 全員から歓声が上がった。


「これがドラゴンか~!」「でけぇ!」「まだ、温かいな!」

「仕留めてすぐにアイテムBOXに入れたから、時間的には10分ぐらいしかたってないと思う」

「すげー、これがアイテムBOXかぁ」「冷蔵庫も冷凍庫もいらねぇな」

「それは、まじで要らないよ。俺の畑で採れた作物も全部入れてあるが、収穫したときのままだし」

「「「へ~!」」」

「なんで尻尾を切ってあるんですか?」

 作業員の若い男からの質問だ。


「大きさが10mぐらいを超えると収納できなくなるんだよ。それで尻尾を切ったんだ」

「「「へ~!」」」

「おい! 感心している場合じゃねぇぞ!」

「「「おう!」」」

「俺はそのへんをぶらついて来てていいかい? 終わったら連絡をいれてくれよ」

「わかった!」

 そうそう、忘れていたことがあったな。


「ああ、前にも言ったが、仕留めるときに劣化ウラン弾を使ったから、身体の肉は駄目だと思うぞ」

「劣化ウラン弾?!」「なんでそんなものを?」

 作業員たちが、こちらを一斉に見る。


「いざというときのために作っておいたんだが、手加減できるような相手じゃなかったんで、使ってしまった」

「は~なるほどなぁ」

「まぁ、そこら辺は、任せてもらおう。俺たちはプロだからな」

「ああ、もちろん」

 彼らは装備を着込んでいるが、俺はシャツ1枚だ。

 低温倉庫のひんやりとした空気が、身体に染みてくる。

 高レベル冒険者が風邪をひくことはないと思うが。


「きゃ~っ!」

 オッサンたちと話していると、男ばかりの現場にふさわしくないような高い声が聞こえてきた。

 声のする方をみると、ゴム製のつなぎを着た女性がドラゴンの鱗を触っている。

 長い髪を上でまとめてメガネをかけているのだが、学者か学校の先生のようだが……。


「彼女は?」

「どこかの大学の先生だって聞いたよ。ここにドラゴンがやって来るときいて、人づてにやって来たらしい」

 世話になっている人から頼まれて、断れなかったようだ。


「大学の先生っていうと、生物学とかそういう人かい?」

「解らんが、本人に聞いたらどうだ? お~いセンセ!」

「は、はい」

「この人が、ドラゴンを仕留めて持ってきてくれた兄さんだ」

「兄さんは止めてくれよ」

「ははは!」

 背中を叩かれる。

 こりゃ、止めてくれそうにないな。

 少々困っていると、そのセンセとやらが、俺の所にやって来た。


「あなたがコレを?!」

 顔が近づくと、ソバカスが目立つ。

 化粧とかしないタイプだろうか。

 これはこれでいいが。


「はい、冒険者の丹羽です」

「橋立です。よろしくお願いいたします」

「こちらこそ――ところで、センセは生物学とかの研究者なんでしょうか?」

「はい! 私はダンジョンにいる生物の研究をしています」

 彼女の目がキラキラと光っているのだが、よほど楽しい研究なのだろう。

 この歳で教授ってことはないだろうが……。


「准教授とか、博士呼びしたほうがよろしいですかね?」

「いえいえ! そこまでいってませんから!」

 彼女が手をブンブンして否定している。


「魔物のどこらへんが面白いですかね? まぁ、変わった生物ばかりなのは当然ですが」

「凄いところは、外見は通常の生物のツギハギのようでめちゃくちゃに見えるのですが、破綻してないんです!」

「それは――中身まで完璧に生物として機能しているということですかね?」

「そのとおりです!」

 どこぞのマッドサイエンティストがテキトーに現存の生物をパッチワークして作ったりしたものではないらしい。


「それは遺伝子レベルで?」

「もちろん! 生殖能力はオミットされているようですけど」

「ははぁ、なるほどなぁ」

 ――ということは、ダンジョンの中で勝手に交配して増えたりすることはないってことか。


「毎日、観たこともない生物を研究できて――こんな楽しいことやってお金もらっていいのかしら?! って!」

「ははは、センセ、面白い人ですね」

「おほん! ……(キリッ)!」

 正気に戻ったのか、真面目顔になった彼女が顔を赤くしている。

 今更、キリッ! とかしても遅い。


 ウチのエンプレス、このセンセ、役所の受付のお姉さん、税理士と司法書士の先生――特区はメガネ美人が多いねぇ。

 オッサンの俺としては、大変喜ばしいことではあるが。


 さて、作業の邪魔をしてはいけないので、ちょっと外に出ることにした。

 こいつの処理が終わったら、次はドラゴンの尻尾だ。

 こりゃ、夕方までかかるだろうが、大金のためだ。


 金はギルド扱いになるので、口座を管理しているカオルコの所に振り込まれる。


 外に出ると、途端にチリチリとした暑さを肌に感じた。

 中が涼しかったので、余計にそう感じるのだろう。


 少々歩くと公園があったので、休むことにした。

 もっとも、広場は畑になっているようで、木陰にベンチが1個あるだけ。

 ここにあった遊具なども、世界が静止した際の資源不足のおり、溶かされてしまったようだ。


「ベンチと木だけが残ったのか」

 日本もだいぶ復興してきたのだが、まだまだこういう場所がある。


 いい天気――柔らかな日差しが心地よく降り注ぐ中、俺は木陰にある古びたベンチに腰を下ろした。

 手にはアイテムBOXから出したキンと冷えた缶コーヒーがあり、その冷たさが手のひらに心地よく伝わってくる。

 上にある枝が風に揺れ、葉がサラサラと音を立てていた。

 その音はまるで心地よい子守唄のようで、自然の中に溶け込むような安らぎを感じる。


 ベンチに寝転がると、木々の隙間から見える青空が目に映り、白い雲がゆっくりと流れていくのをぼんやりと眺めた。

 身体をちょっと起こし、コーヒーを一口含む。

 ほろ苦いコーヒーの味が口の中に広がり、その瞬間に思わずため息がこぼれた。


 風が頬を撫でるたびに、心地よい涼しさが全身を包み込み、目を閉じる。

 遠くで聞こえる子供たちの笑い声が、冒険者の殺伐さから解放してくれる。


「時間よ止まれ、この世界は美しい――なんてな」

 まったりとしていると、不意に話しかけられた。


「おっちゃんなにしてるの?」

 いつの間にか半ズボンのガキ数人に囲まれていた。

 小学校低学年だろう。

 もう、学校が終わった時間か。


「ちょっと休んでいるんだよ」

「おっちゃん、仕事は? 失業者?」

「失業者とか、難しいこと知ってんなぁ」

「ウチの父ちゃん、失業者」

「ありゃ、そうなのか」

「おっちゃんも仕事ないの?」

「いや、俺は冒険者なんだ。ここには仕事で来てるんだよ。ちょっと一休みしてる」

「……」

 子どもたちが、顔を見合わせている。


「嘘だ! 冒険者ってもっと格好いいもん」

「おっちゃんも普段はアーマーとかつけているんだぞ」

「嘘だー!」

 どうも信じてもらえないらしい。

 アイテムBOXにいれてある魔物をこんな場所で出すわけにはいかないしな。

 ゆっくりしたいので、ガキどもを追い払おうとしたのだが、その中の男の子が目に止まった。


「その目どうした?」

 男の子の目が腫れていて、半分ぐらい隠れている。


「なんかできものができたんだけど、病院に行くのが大変だから……」

「目医者って混むんだよなぁ……」

 その前に、もしかして親に金がないのかもしれん。


 俺は後ろを向くと、アイテムBOXから回復薬ポーションを取り出した。

 ダンジョンから離れているので、効き目は薄いかもしれないが、目の腫れぐらいは治るんじゃなかろうか。


「冒険者の必需品、回復薬ポーションだ。見たことがあるか?」

回復薬ポーション?!」「スゲー!」「本物?!」

「俺がダンジョンの中で拾ったものだから、もちろん本物に決まっているだろ」

「へ~!」

 子どもたちが俺が持っているガラス瓶に釘付けになっている。


「こいつを少し目につけてみろ。目が治るかもしれないぞ」

「「「……」」」

 俺の言葉にガキどもが固まっている。

 そりゃ、わけわからんオッサンが出した薬なんて、怪しくて無理か。


「おっちゃん、その瓶貸して」

 1人の男の子が声を上げた。


「ほい」

 彼が瓶をもらうと、スマホを取り出して、なにか調べている。

 子どもなのに、こういう端末を普通に使いこなしているからなぁ。

 やっぱり小さい子のほうが、順応性が高い。


「ほら! コレって回復薬ポーションの瓶にそっくりだよ」

 彼は、ネットで薬の瓶を調べたようだ。

 中々賢い。


「じゃあ、本物?!」

「う~ん」

「別に毒とかじゃないぞ?」

 俺は瓶を取ると、一口飲んでみせた。

 効き目が弱くなっているから、一口ぐらいじゃなにも起きないが。

 ちょっと腹の奥がモヤモヤするぐらいだな。

 エナジードリンクぐらいの効き目しかないだろう。


「まぁ、俺も無理にとは言わんよ」

「う、うん……」

 それでも、目が気になるだろう。

 回復薬ポーションをつけてみるようだ。

 掌に薬を出すと、指先につけて目に塗っている。


「どう?!」「どんな感じ?!」

 なんだかんだと、子どもたちも興味津々のように見える。


「う~ん、わからない……」

「あ! でも、少し治ったように見えるよ!」

「ホント?!」

「うん」

 騒いでいた男の子が更に薬をつける。


「これなら俺でも解るな。だいぶ腫れが引いた」

「効いてる効いてる」

 男の子も効果を実感できたのだろう。

 回復薬ポーションを目にペタペタと塗っている。


「わぁ! 見えるようになった!」

「念の為に、もうちょっとつけておけ」

「うん」

 子どもたちとワイワイとやっていると、スマホが鳴った。

 呼び出しだ。

 ドラゴンの処理が終わったらしい。


「俺は仕事に行かないとだめだから」

「ダンジョンに行くの?!」

「いや、今日はな――魔物の処理をしているんだよ」

「魔石を取り出すの?!」

 子どもたちの目がキラキラしている。

 魔物の腹を裂いて魔石を出すんだがなぁ。

 ちゃんと解っているんだろうか。


「まぁな」

 ガキどもも見たいようだが、さすがに処理施設には部外者は入ることができない。

 彼らに別れを告げると、施設に戻ってきた。


「お~すげ~、全部なくなってる」

「わはは、プロだからな」

「デカい骨とかも使い道があるのか?」

「それは! 研究で資料に使います!」

 橋立センセが、メガネをくいっとして、レンズを光らせた。


「骨格標本とか作っちゃう?」

「もちろん、作ります!」

「はは」

 なんかウキウキだな。


「おほん! (キリッ!)」

 また、はしゃぎすぎたと解ったのか、キリッってしてる。


「兄さん、次の出してくれ」

「ドラゴンの尻尾だけでいい? それとも他のも出す?」

「そうだな――とりあえず出してみてくれ。見てから判断する」

「OK!」

 入れたり出したりが自由自在のアイテムBOXだから、できることだな。

 マンティコアと、グリフォンも出す。


「「「おおお~っ!」」」

「きゃ~っ!」

 男たちの歓声と、センセの歓喜の悲鳴が施設内に響く。

 センセは涎を垂らして、グリフォンの体に抱きついている。

 チャレンジャーだな。


 まぁ、本物の熊のように、くさくもないし。

 生まれたばかりなので、寄生虫もいない。

 熊は旋毛虫って寄生虫がいるからな。


「グリフォンは、エンプレスの大魔法が貫通しちゃったので、肉とかは駄目かもだぞ?」

「魔法か?」「確かに穴が開いて、ケツまで貫通してる」「スゲーな」

「光弾の魔法か?」

「いや、それよりもかなり上位の魔法だ」

「へ~」

 皆が感心している。

 内臓まわりは駄目だろうが、手足やら首から上は問題ない。

 こんな大きな鳥の頭なら立派な剥製になりそうだし。


「センセ、翼がありますが、こんな翼と体重じゃ飛べないですよね」

「そうですね。これは初めて見たタイプですが、おそらく飾りみたいなものだと思います。ツノゼミのツノみたいなものかと」

 翼は動いていたので、筋肉はあるし神経なども繋がっているものの、飛べる構造にはなってないということだ。

 この重量を飛ばすとなると、もっとデカい翼とそれを支える筋肉が必要になる。


「へ~――ハーピーなどは普通に飛んでますしね」

「ハーピーは調べましたが、あれは身体が完全に鳥ですし」

「こちらは、どうですか? マンティコアというらしいですが」

 俺はもう一つの大物を指した。


「ああ! こっちも初めてみるタイプですね!」

「かなり深層の魔物なので、外に持ち出されたのは初めてだと思いますよ」

「ええ! 人間の頭がついてますが――言葉を話したりは?」

「喋ってましたけど――意思の疎通ができてたかは微妙でしたねぇ。テキトーに言葉を並べていた感じでした?」

「深層の魔物なのに、どこで言葉を覚えたんでしょうか?」

 深層に飛ばされた冒険者から覚えたような言葉を話していたのだが――俺はそれを口にするか迷った。


「ダンジョンじたいが、我々から知識を吸収して魔物に与えてるとかは?」

「う、う~ん。フィクションとしては面白いですけど、確実な証拠といえるものがないと……」

 まぁ、学問となると当然だ。

 それが証明されるための証拠がないとな。


「ああ、意思疎通といえば――ハーピーとは意思疎通ができましたよ」

「え?!」

 彼女の目が輝く。


「餌をやったりして、仲がよくなったハーピーがいましてね。すっかりペットみたいな感じで」

「ううう……その話を詳しく聞きたい……」

「とりあえず、目の前のお仕事を片付けるほうが先でしょうから、あとで時間を取ってもよろしいですよ」

「本当ですか?!」

「はい」

「ぜ、絶対にですよ!」

 彼女と連絡先を交換する。


「はは、大丈夫ですよ」

 彼女はドラゴンの尻尾、グリフォン、マンティコアの所に飛んでいった。

 話し合いの結果、全部一緒に処理できるだろうということになったようだ。


 もうアイテムBOXの出番はないので、俺は引き上げることにした。


「おう! 兄さん、助かったよ」

「また大物を手に入れたら、持ってきますから」

「桜姫と一緒に頼むぜぇ!」

「は~、桜姫やエンプレスと一緒だなんて……まったくもって羨ましい……」「そうっすよ……」

 若い作業員たちから、ため息が漏れる。

 ここでも、妬みの視線が向けられる。

 そんなことを言われてもな。


 俺も、姫がなんでこんなオッサンを気に入ったのか不明なわけだし。

 まぁ、自分より強ければ、誰でもよかったのかもしれないが。

 死の縁から舞い戻った彼女は、レベルアップもしたし、俺を除けば日本最強かもしれん。

 その彼女より強いとなれば――もはや俺しかいない。


「丹羽さん! ハーピーの件はお願いしますよ」

「連絡入れてください」

 彼女がブンブンと手を振っている。


 俺は施設を離れて、波止場近くの商業地帯に向かった。

 量販店に入ると、とりあえず大量に食い物を買い込む。

 もう、アイテムBOXは公開しているので、その場でドンドン放り込む。


 高レベルの大食らいが3人もいるので、いくらあっても足りない。

 弁当でも、なまものでも、どんなものでも問題ないし。

 アイテムBOXに入れておけば、腐ることもない。

 逆にインスタントは水を使ったり温めないとだめなので、不便だ。


 もちろん今までどおり、俺の料理したものもアイテムBOXに備蓄する。


「あ、あの! それって――もしかしてアイテムBOXですか?」

 エプロンをしている女性店員が話しかけてきた。

 茶髪でショートヘアの、可愛い子だ。

 かなり若いな――18歳ぐらいだろうか。


「そうですよ」

「もしかして……丹羽さんですか?」

「はい」

「きゃー! 握手してください」

「はい?」

「だ、駄目ですか?」

「いや、いいですけど……こんなオッサンと握手しても、しょうがないでしょ?」

「そんなことありませんよ! 動画サイトも見てます!」

「ありがとうございます」

 いつもおまけみたいな扱いなのに、初めて名前を覚えてもらった気がする。

 まぁ、オッサンより若い冒険者のほうが格好いいだろうしな。


「ドラゴンも倒したんですよね?!」

「はは、まぁ……」

「すご~い!」

「あの、お仕事は……いいの?」

「あ! いけない!」

「はは……」

「頑張ってください! 応援してます」

「ありがとう」

「あの、連絡先交換してもらってもいいですか?」

「それは、ちょっと困るなぁ」

「そ、そうですよねぇ……」

 彼女がしょんぼりしているのだが、知り合った人と全部と連絡先を交換していたら、とんでもないことになる。

 まぁ、人生はコネだから、知り合いを増やすのはいいんだけどな。

 物資の確保などでも助かるかもしれないが。


「そうか――ねぇ、大量の注文とか受けられる人?」

「はい! 私、社員ですから」

「そうなんだ」

 それじゃということで、食料や飲み物などを、各100人前注文を入れた。

 ここでいきなり根こそぎ買ったりすると、他の客に迷惑がかかると思い、ちょっと遠慮していたのだ。

 直接注文できるなら、遠慮する必要がない。


「こんなに注文するんですか?」

「ほら、俺はアイテムBOXがあるから」

「あ! そうですね!」

 大量注文も受けてくれるなら、コネとして助かる。

 彼女と連絡先を交換した。

 注文したものが来たら、連絡をくれるそうだ。


 弁当など、日持ちしないものもあるから、それを受け取るまでダンジョンには潜れないな。

 女性店員と別れると、俺は特区に戻った。


「そうだ! 武器の補充をするか。劣化ウラン弾も使ってしまったしな」


 俺は以前に武器を調達した特区の武器屋に向かった。


 

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