51話 帰ってきてから
俺たちは地上に帰ってくると、迷宮教団とギルド踊る暗闇を告発。
トップギルドの面々を集めて話し合いを行い、今後の方針についても了承を取り付けた。
同時に、特区外でも当局に届ける予定だ。
これで、迷宮教団と踊る暗闇の逃げ場はなくなるだろう。
姫と意気投合してしまったせいで、俺のギルドの面々からは嫌われてしまったが……。
まぁ、ベテランのキララがいるから、大丈夫だろう。
最近は真面目に取り組んでいるみたいだったしな。
ギルドを移ることになった俺は、姫と無制限一本勝負に挑んだ。
そんなある朝、姫そっくりな双子の姉の襲撃を受ける。
様子を見に来ただけらしい。
それはいいのだが、昨夜俺がアップした動画のアクセス数がとんでもない数字になっていた。
「え~と、1000万アクセス以上?」
なおもカウンターは、すごい勢いで回り続けている。
これだと、1億カウントぐらいいくかもしれない。
「え?! なんの話?」
姫と話していたカコだったが、俺のつぶやきを聞き逃さなかったようだ。
「いや、昨日上げた動画が、すごいアクセス数を記録してるから」
「見せて」
「ああ」
ノートPCを貸してやると、ドラゴンの動画を観ている。
「ぎゃあ! サクラコの姿がぁ!」
「私たちがドラゴンと戦っていたのだから、映っていて当たり前だろ」
「サクラコの姿を見ていいのは、私だけなんだから!」
「姫?」
ちょっと意味不明なセリフに姫のほうを見てしまった。
「ああ、こいつはナルシストなんだ」
「あ~なるほど。自分そっくりな姫も大好きなわけね」
「そうよ! サクラコは私だけのものだったのに!」
「人をもの扱いするな。そういうのが嫌だから、お前から離れたのに」
「もう、サクラコってば!」
自分そっくりな姫が、冒険者として活躍してトップランカー ――その姿を自分に重ねたりしていたのだろうか?
「でも、姫の写真集とか出てなかった?」
「もちろん買ったわ! 1万冊ぐらい」
「うわぁ……そんなことしなくても、ベストセラーでしょうに」
「ちがう、買い占めしようとして失敗したのだろう」
「ぐぬぬ――いまどき、紙の写真集があんなに出るなんて……」
「そりゃ、売れたら増刷するだろうし……」
ノートPCを返してもらう。
動画を見たけりゃ、自分の端末で見ればいい。
「すみませんね~、そんな姫を俺が独り占めしてしまって」
「そうよ! もう、しかもこんなオッサン! どうしてこうなった?! カオルコ! 隠れてないで出てきなさい!」
「は、はい」
シャワーを浴びにいったはずなのに、いつのまにか薄いワンピースに着替えて、隠れていた。
「どうして、こういうことになったの!?」
「迷宮教団という連中に、魔法かなにかでダンジョンの深層まで飛ばされてしまって――つまり事故です」
「迷宮教団……」
彼女にも今回のことを説明する。
「すでに、迷宮教団と関わったギルドは、ダンジョンから排除することに決まったからな。特区外のことも当局に告発する予定だ」
「そうそう、姫――それをやらないと」
「解ってる」
「それはわかったけど! わかったけど! なんであなたまで一緒になってやってるの!?」
カコがカオルコを指した。
「それは、一緒にテレポートに巻き込まれてしまったので……」
「そうじゃなくて!」
「はい?」
「あなたも、裸で床に転がっていたでしょ?」
彼女が蔑むような視線で、カオルコを見ている。
「あ、あの、それは……意外と……ダイスケさんの背中が……たくましくて……」
カオルコの顔が真っ赤だ。
「まぁ、10年以上畑仕事してたらかなぁ、ははは」
「いやらしい! そのデカい胸をブルンブルンさせて、豚みたいにブヒブヒ言ってたんでしょ?!」
「そ、そんなことは……」
「羨ましい!!」
「はい?」
思わず、聞き返してしまった。
「サクラコもカオルコも私だけのものだったのに!」
「ちがう!」「ちがいます」
2人の声がハモった。
「きぃぃぃ! 2人して、私をのけものにしてぇ!」
「ほら――カコ、おかえりはあちらだ」
「ちょ、ちょっとサクラコ、離して! この馬鹿力女!」
高レベル冒険者に力で敵うはずがない。
姫なら、指だけで押し出せるだろう。
カコを外に出したのだが、外でまだなにか喚いている。
「騒々しいやつで申し訳ない」
「まぁ、彼女も言ってたけど、仲間はずれにされたと思ったんじゃない? いつも一緒だったんだろ?」
「そうなのですが、あの性格ですから……トラブルが絶えなくて……」
カオルコが少々困った顔をしている。
「でも、姉妹なんだな。根本的なところが似ている気がする」
「似てない! 絶対に似てない!」
姫が必死に否定しているのだが……似ていると思うんだよなぁ。
「全然話を聞いてくれないとか――止めても突っ込んでいってしまうとか……」
やっぱりずっと一緒にいたカオルコが詳しい。
「あと、欲しいものは絶対に欲しがるタイプじゃない? 譲らないし」
「あ! そうです! あと、好き嫌いがはっきりしてますね。嫌いなものは絶対に嫌いです」
「カオルコ! お前は私の味方じゃないのか!?」
「今日からダイスケさんの味方になりました」
「この裏切り者!」
「大丈夫ですよ、サクラコ様にもお仕えしますから」
「ダーリンは絶対に渡さないからな……」
そんなに睨まないでも。
心配しなくても姫から乗り換えるとかありえないし。
「オガさんはいいのかい?」
「あいつならいい。あいつに私が負けるとは思えんし」
なんだかよく解らんが、すごい自信だ。
話をしつつ、動画のコメント見る――もう山のようなコメントで溢れている。
『桜姫! 桜姫!』
『エンプレス! エンプレス! おっぱい!』
『ビキニアーマー! ビキニアーマー!』
要は、戦っている姫やカオルコの映像を観たのが初めてなので、興奮しているようだ。
『迷宮教団終了!』
『結局、行方不明になった高レベル冒険者で、帰還できたのは桜姫のパーティだけか』
『迷宮教団は、*いしのなかにいる* を自在に操れるのか? ヤベーんじゃね?』
『踊る暗闇もヤバすぎるだろ』
『カルトと手を組むなんて』
『迷宮内のレアアイテムと引き換えに手を貸してた、なんて噂もあるし』
へ~、どこかのギルドのリークかね?
『踊る暗闇ギルド本部に行ってみたら、もうもぬけの殻だったよ』
『逃げたな』
そうなのか。
「姫、踊る暗闇のギルドは、もうもぬけの殻らしい」
「逃げ足が早い奴らだが、逃げるといったらダンジョンの中しかないだろう」
「そうだと思うが……長期間滞在できるとは思えないが……」
「解らん、まだ特区に協力者がいるかもしれない」
「まぁ、迷宮教団からレアアイテムなどが供給されるとなると、見返りはデカいからなぁ」
「そのとおりだ。欲に目がくらむ連中はどこにでもいる」
その日から特区は動き始めた。
役所も踊る暗闇から事情聴取するために、出頭を命じたのだが、無視されたようだ。
その前に、すでにトンズラしているからな。
迷宮教団とギルド踊る暗闇について注意喚起がされて、ダンジョンから排除される。
教団の当局への告発も行われたのだが、カルトとしてすでに内偵が入ってたらしく、すぐに全国にある教団支部に家宅捜索が行われた。
それでも、拘束された教団信者は少数で、ほとんどがダンジョンの中に逃げ込んだようだ。
まったく整備されてないダンジョンに侵入した信者もいたらしい。
さすがに、整備されていないダンジョンには捜索にも入れず、早々に捜査も打ち切られた。
特区外に出た冒険者たちは、紋章隊によって拘束されたという。
本当に、そういう特殊部隊がいるんだ。
こういう事件は今までなかったからなぁ。
迷宮教団のあの女が、ダンジョン内を自在に移動できる力を手に入れてしまったことで、今回の事件が起きたのだろう。
本当に、ダンジョンの力ってのは、人を歪ませるなぁ……。
ダンジョン内の警戒も続けられて、迷宮教団や踊る暗闇のメンバーを発見次第PKしてもいいということになっている。
先手を打たないと、またダンジョンの深層に飛ばされて犠牲者が増えてしまう。
話し合いが通じる相手ではないしな。
行方不明の高レベル冒険者たちは、結局誰も戻らず、絶望的だと思われている。
教団に接触するためにダンジョンに足を踏み入れたレンの行方も掴めていない。
多分、こちらも駄目だろう。
もしかして俺と知り合わなければ、こんなことにはならなかったのかもしれない。
そう考えると、心境は複雑だ。
――そんなある日。
7層の壁で出会った、ギルドフラワースクエアのパーティが俺たちを訪ねてきてくれた。
侵入口を教えてあげたのだが、あそこから内部に侵入したのだろうか?
パーティの面々を、姫の部屋に案内して、話を聞くことにした。
ソファーに対面して、俺と姫とで座る。
相手は、男が3人、女性の魔導師が1人で、以前出会ったときから変わっていない。
全員無事に戻ってこれたようだ。
装備もそのままで、ダンジョンからの帰りか、それともこれからまた深層まで潜るのか。
「お久しぶりです。ご無事でなにより」
「「「……」」」
男たちが、辺りを見回して固まっている。
「どうしました?」
「ほ、本当に、桜姫のギルドに入ってしまったんですか?」
彼らの関心は俺のことらしい。
「ええ、まぁ……」
「私のダーリンなのだから、当然だろ」
「う……」
「う?」
「「「羨ましい……」」」
「もう!」
男たちが、女性魔導師にどつかれた。
まぁ、そのぐらい姫は、男性冒険者たちの憧れの的だったわけだが……。
俺が相手に選ばれてしまったので、外でも嫌味を言われることもしばしば。
持っている者が、妬まれるのは仕方ないといったところだろう。
カオルコがアイスコーヒーを持ってきてくれると、姫とは反対側の俺の隣に座った。
「それで――私がお教えした、あの天井の穴からアタックしてみたのですか?」
「そ、それが……中は予想以上に困難で……」
「無理無理無理~! 虫とか絶対に無理だから!」
女性魔導師が、身悶えして叫んでいる。
「まぁ、あそこは、姫もおかしくなるぐらいに酷いところだったからなぁ」
「おほん!」
姫が咳払をいした。
あのことは、話してほしくないのだろう。
「そうか~やっぱり無理か~」
「はい、せっかく情報を共有していただいたのに、申し訳ない」
「ああ、それはいいんだが……次に行ったときには、あの紐はダンジョンに吸収されてしまっているだろうなぁ……」
「ああ、多分……」
使ってない放置されているものは、ダンジョンに分解されて吸収されてしまう。
たとえば――俺がアイテムBOXに単管などを入れて足場を組んだとしても、あそこまで到達できる冒険者たちは限られている。
その間、せっかくの足場もどんどん分解されてボロボロになっていく。
ダンジョンの壁などを切り出して、階段を作ればいいのかもしれないが……。
それか、あの天井の穴をどんどん広げて、7層の壁に穴を開けてしまうとか……。
単に穴を開けただけだと、そこは別の空間に繋がってしまうが、穴が開かないように徐々に広げていけば、空間の断裂は防げるはず。
「上にハーピーがいたと思ったけど、どうした?」
「ああ、逃げられてしまいましたよ」
俺はその話を聞いて、ホッと胸をなでおろした。
やつらは、魔物なんだけどなぁ。
どうも、情が移ってしまうよな。
「「「……」」
男たちが、こちらをジッと見ている。
「なにか?」
「「「はぁ~」」」
男たちが、クソデカため息をついた。
「なんだ、失礼な連中だな」
「もう!」
男たちが、女性魔導師に叩かれる。
「申し訳ございません」
「ははは、いいよ」
姫のギルドに入った俺に対する嫉妬だろうが、もしかして普通に就職して働いたことがない連中なのかもしれない。
冒険者をやっている連中はそういうのが多いからな。
その中でも、魔導師の女性はまともそうだ。
まぁ、強さが正義の冒険者に、礼儀なんぞ必要ないといわれれば、そういう考えもあるとは思う。
そう考えるのは俺がオッサンなのかもしれないが。
7層の情報を他にも共有してもいいか? ――ということだったので、姫と相談してOKを出した。
3人集まれば文殊の知恵――情報を広めれば、いい攻略方法が見つかるかもしれない。
客が帰ったので、残りの動画も編集してサイトに上げてしまおう。
ドラゴン戦は、急いでアップしたので編集が適当だったが、そいつも編集し直して上げる。
ちょっと余計なシーンなどが多かったので、見やすくなるだろう。
それに同じ動画を2回観てもらえば、一粒で2度美味しい。
動画の再生回数は、すでに1億アクセスに届くほどになっている。
ダンジョンは世界中に現れているが、ドラゴンとエンカウントしたのは俺たちが初めてらしい。
そのせいもあって、世界中からアクセスがある。
コメントも英語やら、色々な国々の言語が入り乱れている感じ。
今回は珍しいものが沢山あるし、アップしたらバズること間違いなしだ。
今ドラゴンで盛り上がっているところだし、連続投下してしまおう。
――9層の壁の動画。
あの行き止まりの壁がある階層が7層なら、俺たちが飛ばされてドラゴンと戦闘した場所は9層ってことになる。
『9層?! これだけで、詰みそう……』
『こんなデカい壁があるんだ?!』
『ドラゴンと戦った所は9層なのか?!』
『え?! こんな場所から、どうやって帰ってきたの?!』
『さすが、桜姫……』
『いったい、なん層まであるんだろうな?』
『ドラゴンがラスボスじゃないなら、次の10層辺りが、ラスボスなんじゃね?』
確かに、9層でドラゴンを倒しても、ダンジョンを攻略したことにならなかった。
俺が家の裏庭で経験したように、ラスボスを倒せばダンジョンは消えるはずだ。
――いや、ちょっと待てよ……?
俺は、重大なことに気づいたかもしれない。
家の裏にできたダンジョンは、外から攻撃して撃破することができたが……。
ラスボスを倒してクリアしてダンジョンが消えるときに、中にいたらどうなるんだ?
一緒に消えてしまうのか?
それとも、外に吐き出されるのか?
裏庭では、エリクサーらしき瓶が吐き出されたから、外に出られるのかもしれないが……。
「しかし――」
俺と姫たちで逃げているときに、地面の裂け目から、なにか恐ろしいものが這い出てこようとしていた。
もしかして、あれがラスボスだとすれば、とてもじゃないが、人の手でどうにかできるようなものではないような気がする。
まぁ、ダンジョンを完全攻略するなんて、できるかどうかも解らないのに、心配するだけ無駄だとは思う。
――マンティコア戦の動画。
『マンティコア?! こんな魔物までいるのか?!』
『初めて見た!』
『顔がオッサン! なんか喋ってる! キモい!』
『魔法?! 魔法を使う魔物?!』
『こんなの勝てるやつらがいるのか?』
『さすが、俺たちの桜姫とエンプレス!』
――というか、撮影しているのが俺だから、俺の姿は出ていない。
ただただ、姫とカオルコの活躍だけが写し出されている。
視聴者からすれば、オッサンの動画より、美女のビキニアーマーと巨乳のほうがいいに決まっている。
本当は、姫たちに金が入るところだが、俺がもらっていいことになっている。
まぁ、そんな金を当てにしなくても、2人とも金持ちだしな。
それに、これから一緒に暮らすとなると、俺の金=彼女たちの金でもあるし。
――リッチ戦の動画。
『リッチ?! ノーライフキング?!』
『え?! 消えた?!』
『また、出てきた……』
『なにかぶつけているけど……』
『多分、回復薬だと思う。アンデッド系には、回復がダメージになるから……』
『いったい、なん本回復薬持ってるんだよ!w』
『全然戦ってねぇw』
『こんな倒しかたあるかw』
リッチ戦のコメントはすこぶる不評であるが、アクセス数はいい。
戦ってる側としては、そんなこといってられないんだよなぁ。
倒せば、なんだっていいわけだし。
それなら安全なほうがいい。
まぁ、あんなに回復薬を集めるのが、まず普通は大変なわけだが。
――グリフォン戦の動画。
『グリフォン、キター!!w』
『グリフォン、格好いい!』
『桜姫が格好いい!』
『キター! エンプレスの装備が替わっている!』
『おっぱい! おっぱい!』
『乳暖簾! 乳暖簾!』
『エンプレスの魔法!?』
『みたこともない、大魔法だ!』
こちらは戦闘しているし、派手な大魔法があるので、大盛り上がり。
再生カウンターもどんどん回る。
カオルコの乳暖簾効果もあるけど、どんなに派手に動いても不思議な力で乳暖簾がずれることはない。
――ダンジョン温泉の動画。
『温泉?!』
『ダンジョンの中に?!』
『桜姫様とエンプレスの入浴シーンは?!』
そんなもの出せるはずがないだろ。
だいたい、撮影してないしな。
そういえば、アイテムBOXの中に温泉のお湯が入ったままだな。
ゆるい魔力回復薬効果があるみたいだから、もしかして売れるかもしれん。
実際の温泉でも、飲んだりするものがあるしな。
桜姫とエンプレスが浸かったお湯――という謳い文句で売り出せば、ガッポガッポ、ははは。
やらないけどな。
ただ、そんなものを売り出して、食中毒やら事故があったらヤバいしな。
――7層の壁の動画。
『うわぁ――7層ってこんなになってるの?』
『これってどこから入るんだよ』
『情報が公開されたけど、100mの高さに横道があるらしい……』
『100mってどうやって上るんだよ』
『他の場所と同じように単管を持ち込んだりして足場を組むんだろ?』
『モグラの連中に掘らせればいい』
『ゲームだったら、マジクソゲー』
『ゲームだったらなんぼかマシか――蘇生もできるし復活の呪文も使えるが……』
本当にここは厄介だ。
どうやって突破したものか。
あの細い穴の中の動画は撮ってなかった。
それどころじゃなかったしな。
全部の動画がすごい勢いで再生されているため、これだけでもかなりの稼ぎになるな。
これらの動画が公開されてから、各ギルドからの情報の問い合わせが多くなった。
ダンジョンの様子をもっと詳しく教えてくれという質問なのだが、窓口はカオルコがやっていて、大変そうだ。
彼女が使った大魔法のことも教えたらしい。
まぁ、魔法の動画も公開してしまったしな。
隠しても仕方ない。
トップギルド共同で、7層を攻略しよう――という話も持ち上がっている。
多分、俺のアイテムBOX狙いだろう。
どんなに物資があっても、俺の収納があれば困ることはないからな。
100mの高さの入口もアイテムBOXで、なんとかなる。
問題は高さじゃなくて、その穴の中なんだが……。
――そんなある日、お客がきた。
入口のチャイムが鳴る。
やって来たのが誰かは、フロントから連絡があったので知っている。
ドアを開けた。
「はいよ~」
「よぉ!」
ドア枠に頭をぶつけそうなぐらいの巨体。
ピチピチのデニムと、Tシャツ、頭にはツバありのキャップ。
オガさんだ。
「いらっしゃい」
「ダーリンを借りていいと言う話だったので、借りに来たぜ」
「ええ? マジな話なの」
「桜姫! いいよな?!」
「ああ、問題ない」
姫は我関せずって感じで、タブレットを眺めている。
「いやぁ――姫がいいというなら、俺はいいが……」
「おっしゃ! 決まりだな!」
彼女が胸の前で拳を合わせた。
「え~と、どこかに出かける?」
「面倒くせー! ここでやるぜ!」
「マジか……いいけどさ」
――というわけで、ゲストルームで、無制限一本勝負をする。
勝負をして数時間あと――部屋から出た。
シャワーでも浴びよう。
「ふう……」
「ダーリン、もう終わりか?」
「オガさんが、伸びちゃったからな」
「ははは! 日頃からデカい口を叩いて、そんなものか」
いや、姫が凄いだけなんだけどな。
――といいつつ、彼女の場合も弱点や攻略法が色々解ってきたのだが。
シャワーを浴びて、1時間ぐらいすると――オガさんも出てきた。
パンツとシャツ姿だが、なんか様子がおかしい。
顔も赤いし、いつも威勢のいい感じがまったくない。
普通の女の子みたいだな。
「オガさん」
「ひゃい!」
「随分、かわいい声なんだね」
俺のからかいの言葉に、彼女の顔が真っ赤になった。
「や、やめてくれぇぇぇぇ! あんなに恥ずかしいとは思わなかったんだよぉぉぉ……」
「そんなことないよ。とても可愛かったから」
「ううう……」
彼女が大きな身体を丸めて、両手で顔を隠しているのだが、赤くなった耳だけが見えている。
身体全体から出る湯気が見えるようだ。
「オガさん可愛いよな――カオルコ」
「はい」
「こ、こんなことが仲間にバレたら生きていけねぇ……」
「そんなプライベートなことは漏らさないから安心してよ」
「絶対?」
「ああ、絶対」
「……」
オガさんは、納得したみたいだが、今度は姫が不機嫌そう。
「なんだよ、姫がいいって言ったじゃないか」
「私に可愛いなんて言ったことがないのに!」
「うわ、面倒くさい」
姫の言葉を聞いたカオルコが、呆れたようにボソリと漏らした。
「面倒くさい言うな!」
「はいはい、可愛い可愛い――オガさんには、絶対に負けないとか言ってたのに」
「う~」
姫がむくれていると、俺のスマホが反応する。
見るとメッセージが入っていた。
いつも買い取りをしているオッサンからだ。
連絡先を教えてくれと言われていたので、教えていたのだが……。
もしかして、ドラゴンの処理の方法が決まったのかな?