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50話 無制限1本勝負


 姫の実家が経営するというホテルに、トップギルドの代表が集まった。

 そこで話し合いが行われて、迷宮教団とギルド踊る暗闇をダンジョンから排除することが決まる。


 そのあとすぐ、ホテルの一室を借りて動画を編集――すぐさま俺のサイトにアップした。

 サムネイルには、赤や黄色で【超絶大スクープ】【迷宮教団とギルド踊る暗闇!】みたいな派手な見出しを入れている。

 動画の説明には、俺たちがダンジョンの深層に飛ばされた経緯なども書き記した。

 深層に飛ばされた証拠として、ドラゴン戦の動画も掲載。


 チャンネル登録数もかなり増えていたので、すぐに視聴者からの反応があるだろう。


「ふう……あ、そうだ」

 落ち着いている場合ではない。

 原発の仕事をすっぽかしたままだ。

 俺は担当の晴山さんのメッセージに送った。


「怒ってるかなぁ~」

 ――と、思っていたら、すぐに反応があった。


『丹羽さん! ご無事だったんですか?!』

「無事でした。どうもご心配をおかけいたしました」

『ギルドのキララさんから聞いたのですが、ダンジョンで行方不明になったということでしたが……』

「ダンジョンでの事故に巻き込まれましてね。やっとの思いで帰ってきましたよ」

『そうですか――無事でなによりでした』

「申し訳ございません。仕事をすっぽかしてしまって」

『いいえ、冒険者という職業柄、こういうこともあるだろうと、予想の範疇でしたから』

「まぁ、本当に死んじゃうこともありますしねぇ。実際、今回はかなり危なかったです。生きているのが不思議なぐらいでして……」

『え?! そんなに酷い状況だったんですか?!』

「ええ、まぁ――なにしろ、前人未到のダンジョンの深層に飛ばされて、誰も見たことがない魔物に追い回されて……」

『お疲れ様でした』

 マジで疲れたよ。

 彼女としばらく話したのだが、こちらの事情を汲んでくれた。

 原発の仕事はしばらく休みってことにしてくれるようだ。

 総理にも進言してくれるという。


 ちょっとやることも沢山あるから、仕事をしている場合じゃないんだよなぁ。

 色々と落ち着くまで無理だよな。


 動画もアップし終わったし、いったんギルドに帰ってサナたちに説明をするか。

 まさか、このまま金を出すから放置ってわけにもいくまい。

 大人には責任ちゅ~もんがあるしな。


「ふ~」

 いったん姫の部屋に行く。

 一応、断って行かないとな。


 彼女の部屋の前にある、黒いドアの前に立った。

 姫の部屋も、普通の部屋と同じ階にはない。

 特別に区切られた、許可された者しか入れないエリアにある。


 ドアにはチャイムがあるので、押してみた。

 ノックじゃないのか。


「開いてるぞ」

 中から姫の声が聞こえる。


「ちわ~」

 ドアを開けて中に入ってびっくり。

 巨大な窓が全面にあり、ものすごく広い、ワンルームのスィートだった。

 外はすでに暗く、街の明かりが輝いている。

 特区内でも電力をセーブしているので、かつての不夜城のようにはいかない。

 ちょっと寂しいが、朝起きて夜は眠る――生物本来の姿に戻っただけだ。

 そう思いたい。


 それはさておき、こんなに部屋が広いんじゃ、ノックしても解らないか。

 チャイムがいるはずだ。


 俺の姿を見ると、バスタオル姿の姫が抱きついてきた。

 シャワーでも浴びてたのか?


「早速始めるのか?!」

「なにを?」

「決まっているだろ?」

 彼女の言わんとしていることが解ったし、しなやかそうな肢体にも興味はあるのだが、俺にはやることがある。


「ああ――悪いが、一旦俺のギルドに挨拶をさせに帰らせてくれ」

「もちろん、帰ってくるんだろう? ここで、私と一緒に住むんだからな」

「俺がギルドのリーダーだし、放置ってわけにもいかないだろ? 次のリーダーに引き継ぎをしないと」

「……それも――そうか……」

 姫と話していると、バスタオルを巻いて髪を上でまとめているカオルコが出てきた。

 タオルの上からでも解る、爆乳。


「きゃぁぁぁ! いるならいると言ってください!」

「なにを言っているんだカオルコ! ダーリンはこれからずっと一緒にいるんだぞ?」

 姫はカオルコと一緒に住んでいるらしい。

 まぁ、会話からそんな気はしていたが……。


「ううう……」

「親しき仲にも礼儀ありって言うから、俺も気をつけるよ」

「お願いします……」

 姫に許可をもらったので、ホテルを出た。


 通りを歩き始める。

 外は暗いのだが、まだまだ人が多い。

 見慣れた景色が広がり、いつものように行き交う人々が見える。

 賑やかな通りには人々の話し声が響き渡っているのだが、今日はどこか違う。

 微かに、街全体がざわついているような気がする。


 歩道を進むと、街の喧騒の中に妙な違和感を覚えた。

 通りを行き交う人々の表情にもよそよそしさを覚え、今日はどこか緊張感を帯びているように見える。

 スマホを片手に何かに焦っているような人、いつもは明るく挨拶を交わす店員が今日は無言で作業に没頭している。

 人々の間に漂う微かな不安が、まるで目に見えない波紋のように広がっている。


「気のせいか――それとも、姫がぶちかました演説のせいか」

 歩きながら、ネットのニュースを見ると――すでに噂がかなりの勢いで広まっているようだ。

 俺の動画にも、めちゃアクセスがある。

 さっきアップロードしたばかりなのに。

 コメントも沢山ついているが、読んでいる暇がねぇ。


 このことからも、今回の事件に関する、人々の関心の高さがうかがえる。

 俺は人混みの中を縫って、あの宿屋に急いだ。


「ふう……」

 おばちゃんがやっている、宿屋に帰ってきた。

 フロントに向かう。


「よぉ、久しぶり」

「あんた、どの面下げてここに来たんだい!」

「どの面って、この面だけど――おばちゃんは知らないだろうが、ちょっとダンジョンの事故に巻き込まれてやっと帰ってきたところなんだよ」

「トップランカーの桜姫と一緒にかい?」

「なんだ、知っているのかよ」

「知ってるよ! 全部聞いたんだから!」

 それじゃ仕方ないか。


「まぁいいや、女の子たちはいる?」

「……ふう……出ていったよ」

「え?! どこに?!」

「知らないよ」

 呆れているような顔からして、本当に知らないようである。


「女の子と、ケバい女も一緒だったか?」

「一緒だね」

 これは――もう俺の世話にはなりたくないという意思表示だろうか。

 キララのやつに、フォーティナイナーのリーダーを譲るつもりだったが、それも拒否されたということか?


 キララにメッセージを送る。


「どこにいるんだ?」

 すぐに返答がきた。


『あなたには関係ないでしょ? 桜姫と仲良くやったら?』

「ギルドの金はどうする? 援助は?」

『私とサナで新しいギルドを立ち上げるから、そんなものはいらないわ』

「……」

 ありゃ――本格的に嫌われてしまったようだ。

 サナからもメッセージが来た。


『妹の病気を治してくれて、ダイスケさんには本当に感謝してます。エリクサーの代金は、私が働いてお返しします』

 これは、もう関わってくれるなというメッセージだろう。

 無理をするなよと、メッセージを送った。

 ついでに、キララにメッセージを送る。


「サナはお金を返すって言ってるけど、お前はどうなんだ?」

『はぁ? もらったものを返すはずないでしょ?』

 一瞬でも、そんなことを思った俺が馬鹿だった。


「べつにいいが、サナの面倒をみてやれよ。彼女になにかあったら、妹ちゃんや彼女の家族が路頭に迷うんだからさ」

『あんたに言われたくないんだけど!』

 まぁ、キララはベテランだし、最近は真面目に潜っているみたいだったし……問題ないか。

 元々、俺のアイテムBOX目当てにヤベー連中がやって来るかもしれないから、ギルドを分けて俺はソロでやるって話になってたし。

 ちょっと形は変わってしまったが……。


 それに喧嘩別れみたいになったとなれば、人質にされたりとか彼女たちに危険が及ぶことも防げるだろう。

 それじゃ姫はいいのか? って話になるが――高レベル冒険者に手を出すなんて、通常の思考を持っていたらやらない。


 ちょっと俺も軽率だった部分もあるのだが、なにしろ極限状態だったしなぁ……。

 もちろん異論は認める。


 仲間を探しにいったのに、女を作ってイチャイチャしていたように見えてしまったかもしれん。

 まぁ、実際にそんな感じだし、言い訳しても仕方ない。

 キララから見た俺は、踊る暗闇の連中と同様に見えたのかもな。


 それにしても、エリクサーの代金となると、働いて返せるような金額じゃない感じなんだけどなぁ。

 俺としても、返してもらうつもりもないが。


「そういえば、ギルドを抜けるときにはどうするんだ?」

 ネットをググる。

 ギルドから抜けるときには、役所に行って届けをすれば問題ないらしい。

 抜けないで、他のギルドに所属することも可能なようだ。

 実際に、そういう連中は結構いるという。


「それじゃ、俺のギルドは俺1人になったってことか」

 新しく、姫のギルドに所属することになるかな。


 街にいても仕方ないので、姫のホテルに帰ることにした。

 ちょっと落ち込みながら、雑踏の中を歩き、ホテルにたどり着く。


「ども……」

 姫から話がいっているのか、ホテルの従業員も顔パスになった。

 もうここが、俺の本拠地になったってことか。


 従業員用の通路から、エレベーターに乗って、姫の部屋に向かった。

 チャイムを鳴らす。


「開いてるよ」

 中に入ると――姫がゆるい白いパンツとTシャツで、デカいソファーに寝転がっていた。

 カオルコは椅子に座ってタブレットを見ている。


「ふう……ただいま」

「おかえり」

「本当に、ここに住んでいいのか?」

「もちろん、私のダーリンだぞ?」

「カオルコは大丈夫なのか?」

「プライベートなところに配慮していただければ、問題ありませんよ」

「気をつけるよ」

 俺もソファーに座る。


「どうだった?」

 彼女に俺のギルドのことを聞かれた。


「すっかりと嫌われてしまったようだよ」

「それはよかった!」

「俺にとってはよくないんだけどなぁ」

 俺の言葉を聞いた姫が、ちょっと不満げな表情を見せた。


「なんだ――あんな初心者が集まったギルドに未練があるのか?」

「初心者って、俺も初心者だからなぁ」

「そんなことを言っても誰も信じてくれないぞ?」

「いや、マジ――マジだから」

 これからつき合うって言うし、子どもも作る宣言しているんだから、俺のことも知っておいてもらうべきだろう。

 俺が高レベルになった顛末を話す。


「それじゃ、偶然家の裏にできたダンジョンを潰したら、レベルアップしたということですか?」

 カオルコも興味があるのか、俺の話を聞いていた。


「そうなんだよ。努力もクソもないし、冒険者としての経験も皆無」

「そういうことだったのか……」

「どうする? マジでただのオッサンなんだぞ?」

「いや? 今のダーリンは私より強いし、他の冒険者も圧倒できる強さがある。私の条件は『自分より強い男』だ。ダーリン以外に選択肢はない」

「まぁ、姫がいいなら、いいんだけどさぁ」

「いいに決まってる! 実際に強いし、ゴリラやオガを子どもあつかいだったろ?」

 彼女が俺に飛びついてくると、Tシャツを脱ぎ始めた。

 その下には、なにもつけていないので、当然肌が顕になる。

 まぁ、いい歳したオッサンなので女の子の裸を見たからって、慌てることはないが。

 ちょっと、あっけらかんすぎて、面を食らう。


「まてまて――カオルコはいいのか?」

「構いませんよ」

 女帝もまったく気にしてないように思える。


「自分の裸を見られるのは嫌だけど、人のを見るのはいいのかい?」

「ええ」

 姫も変だが、彼女も相当だな。

 上流階級ってのは、こうなのか?

 それとも、この一族がこんな感じなのだろうか?

 話している間にも、姫が俺のシャツを脱がし始めた。


「まてまて――とりあえず、腹が減ってるんだよ。なにも食ってないし」

「む……」

 姫たちは食べたらしいが、俺はまだ。

 ここはホテルなので、ルームサービスが頼める。

 以前ここに泊まったときにも頼んだが、メニューは結構豊富だ。


 カオルコの話だと、ルームサービスが飽きたのなら、外から宅配も頼めるらしい。

 露店の料理を買ってきてもらう――みたいなこともできる。

 マジで、金があればなんでもできるなぁ。


 今日は普通にルームサービスを頼むことにした。

 マジで腹が減っているので、カレーとラーメンを頼む。


「いや、待てよ――アイテムBOXがあるから、数回分まとめて頼んでも平気だな」

 頼めるメニューを10人前ぐらい持ってきてもらう。

 一応、大丈夫だと確認は取った。


 子どもみたいな頼みかただが、今日はいいだろう。

 サナたちにも嫌われてしまったし、そういう気分だ。


 飯を食い終わるまで、姫には待ってもらう。

 どのみちエネルギー補給しないとなにもできん。

 途中でガス欠を起こしてぶっ倒れるかもしれん。


 ルームサービスを待っている間――どうするか。

 ネットでも観るか?

 タブレットを見ている女帝の姿を見て、思いついた。


「そうだ――カオルコの能力を使って、俺と同じようにダンジョン内で撮影できるかもしれないぞ?」

「!? 詳しく!」

 カオルコが飛んで俺の所にやってきた。


「アイテムBOXのバグを利用する技なんだよ」

 実際に見せてやる。


「あ、あの、カメラが空中に浮かんでますけど……」

「この状態だとカメラは動いているが、ダンジョン内の影響を受けない――つまり撮影ができる」

「私のアイテムBOXでもできるのでしょうか?」

「やってみないことには……」

 カオルコにもやり方を教えてやる。

 彼女はスマホで撮影するようだが、持っているのは最上位機種でカメラの性能もいい。

 もちろん、八重樫グループ製だ。


「こう?! こうですか?!」

 カオルコが必死にトライしているあいだ、姫は俺のシャツを脱がして身体に抱きついている。


「お?!」

 女帝のスマホが宙に浮いている――成功したようだ。


「これって成功ですか?」

「ああ、多分――映っているかどうかは、調べてみないと解らないが」

 10秒ほど撮影して、彼女はスマホを引っ込めた。

 再度アイテムBOXから取り出すと、動画データを確認している。


「あ! 本当に映ってる! すごい! サクラコ様! 凄いですよ!」

「ん~」

 姫は、カオルコの話を聞いているのかいないのか――俺の胸に顔を埋めている。


「もう!」

 凄いことなのに、姫の反応が悪いので彼女も不満げだ。

 チャイムが2回鳴る。

 ルームサービスがやってきたようだ。


「おお、待ってたよ」

 姫が裸なので、ドアをそっと開けて隙間から窺う。


「おまたせいたしました」

 顔だけ出すと、料理を積んだワゴンがズラリと並んでいる。


「悪いね無理を言って、これで全部?」

「いいえ、いっぺんに運びきれないので、またすぐに戻ってきます」

「それじゃお願いします」

「かしこまりました」

「自分で運ぶから、そこに置いておいていいよ」

「はい」

 持ってきたのは、女性の従業員だったが、俺が上半身裸だったので、ちょっと目をそらしていた。

 姫の部屋じゃなきゃ、セクハラオッサンだな。


 従業員たちがいなくなったので、ラーメンとカレーだけとって残りはアイテムBOXに全部入れた。

 早速、食う。


「美味い! 美味すぎる!」

「じゅうまんごく……ゲフンゲフン」

 俺のネタに、カオルコが反応した。

 元ネタを知っていたようだ。


 とりあえず、マジで腹が減っているので、貪り食う。

 いいね。大人だからできる大人食い。

 カレー+寿司、ラーメン+寿司、なんでもありだ。


 とりあえず、全部平らげたが、まだ腹八分目って感じだ。

 残りのルームサービスも外にやってきたようなので、全部アイテムBOXの中に入れた。


「これで、しばらくはもつか」

「ダーリン……」

 飯を食い終わった俺に、裸の姫が迫ってくる。

 それから、姫との無制限1本勝負が始まった。


 色々なにおいと姫の刺激的なにおいが渾然一体になる。

 お互い高レベル冒険者なので、スタミナは無尽蔵。

 腹が減ったら飯さえ食えば復活する。


 いつの間にか、2人の勝負に割り込んできたカオルコが床に裸で転がっている。

 姫と同じことをすると、彼女の回復ヒールの魔法がなくなってしまうから、やってないけどな。

 風邪を引くかもしれないので、アイテムBOXから出した毛布をかけてやった。

 まぁ、高レベル冒険者でそれはないか?

 ひいたとしても、回復ヒールやら回復薬ポーションで治るし。


 なおも姫との一本勝負が続く。

 夜もすがら勝負が続き、スィートルームのデカい窓が朝日で白み始めた。


「ちょ、ちょっと姫――いったん休もう! きりがないから」

「ようやくいろいろと解ってきたところだぞ」

 いやいや、いろいろ解らんでもいいから。

 まったくスタミナもなにもかも底なしだからな。


「ちょっと腹が減った、飯を食おう」

「む……そういえば……」

 デカい腹の虫が、姫のほうから聞こえる。


「ほら」

「!」

 姫が顔を真っ赤にして、バシバシ叩いてくる。


「あいたた、ちょっとまって! マジで痛いから」

「もう!」

「なんだよ。あんなことやこんなことやら、さんざんやって、腹の虫で恥ずかしがることはないだろ?」

「それとこれとはべつだ!」

 そういうもんか。


 こんなこともあろうかと、俺のアイテムBOXには、大量のルームサービスが蓄えられている。

 ――と、言いつつ、こんなペースで食っていたら、あっという間になくなりそうだな。

 また注文するか、外に出かけたときに買い込まないと。

 ここにいるのは全員高レベル冒険者だからな。


 食ってから、また勝負をする。

 そんなことをやっていると、出勤時間帯になってしまっていた。


「姫、そろそろ――色々とやることがあるでしょ?」

 弁護士やら、当局への告発やら。

 ネットに俺の動画も上げてしまったから、迷宮教団も踊る暗闇も、もう逃げてしまっているかもしれないが。


「ううう……」

 なんだか彼女は物足りなさそう――底なし沼かよ。

 埒が明かないので、強引に引き離すと、チャイムが鳴った。

 ルームサービスは頼んでないんだが……訪問客か?

 こんな場所に?


「姫?」

「……」

 彼女がむくれているので、仕方なく俺が出ることに。

 ズボンだけ穿くと、ドアを少し開けて顔を出した。


「は~い?」

「サクラコいる?」

「はい?」

 そこにいたのは――姫と同じ顔。


「サクラコがいるかって聞いてるんだけど?」

「え?! ええ?!」

 俺は後ろを向いて確認をしてしまった。

 ソファーの上には、裸の姫がいる。


「いますが……」

「おはよう――うわ! なにこのにおい!」

 姫と同じ顔をしたピンク色のスーツ姿の女性が、俺を押しのけて部屋に入ってきた。


「なんだ、カコではないか。なにをしに来たんだ……」

「なにをしに来たんだって……? あなたがダンジョンで行方不明だって聞いて、右往左往していたら無事に帰ってきたって聞いたら、男を引っ張り込んでて、お父さんやお母さん、おじいちゃんたちが来たら縁を切るなんて脅すから、私が代表して見にやってきたんでしょうが!」

「それはご苦労」

「お祖母様も心配しているわよ」

「私には関係ない」

「それなのに! 男って――オッサンじゃない!」

 えらい言われようだな。

 まぁ、実際にオッサンだし――否定はしない。

 俺だってこんな若くて綺麗な女の子と一本勝負できるとは思ってなかったし。


「私の目に適う男なら、歳は関係ない」

「うぐぐ……」

「姫、彼女は……?」

「ああ、彼女はカコ、双子だ」

「双子だったのか?」

「そうよ、姉よ」

 彼女が胸を張る。


「ふん、たった数十分早いだけで、姉面されて困ってる」

「十分だろうが、姉は姉でしょ?」

 2人が争っていると、カオルコが目を覚ましたようだ。


「う~ん……」

 彼女が目をこすってるのだが、ほほに絨毯のあとがついている。


「おはよう、カオルコ――あなたがいて、なんでこんなことになってるの?!」

「ぎゃぁ! カコ様! おはようございます!」

 彼女が慌てて毛布を身体に巻いたまま、シャワールームに飛び込んだ。


「もう! 換気して! 換気!」

「はいはい……これって、窓開くの?」

 俺は窓の近くまで行った。


「ほんのちょっとなら開くぞ」

「そうなのか」

 落下防止とかそういうのだろうか。

 まぁ、少しずつでも、沢山開ければ換気になるだろう。

 高層階なので、結構な風が入ってくる。


「ふう……こんなくさい中、よく平気ね」

「ダーリンは、いいにおいだと言ってくれるぞ?」

「そういうの含めて、サクラコにはこのオッサンしか選択肢がないというわけね」

「そのとおりだ」

「……嫌味も通じないの?」

「嫌味もなにも、もう既成事実だからな」

 彼女が大股を広げた。


「ぎゃあ! もう、信じられない!」

「実家に帰ったら伝えろ――もう私に干渉するなと」

「……本気なの?」

「ああ、ここの支払いだってもう自分の稼ぎだけで、賄ってるしな」

「まぁ、あれだ――このぐらいの生活なら、俺の稼ぎでもなんとかなるし」

 窓を開けた俺が、双子の間に入る。

 まじまじと見てしまうが、顔は本当にそっくりだ。

 身体のほうは――鍛えている姫のほうがアスリート体型なのでまったく違う。

 並んだら顔以外は一発で解るレベルだな。

 多分お姉さんは、腹筋割れてないだろうし。


「あなた、そんなに稼いでいるようには見えないけど……」

 お姉さんが俺に疑いの目を向けてくるのだが――なりは普通のオッサンだからな。

 とてもじゃないが、莫大な資産を持っているようには見えないだろう。

 実際には、国から1000億の金が入ってくる。

 法人税を取られるから、半分になったとしても500億――毎日ホテルに泊まるぐらいの贅沢をしてもなんの問題もないだろう。


 それにアイテムBOXがあれば、稼ぐ方法はいくらでもある。


「さすがダーリン。やはり、私のパートナーに相応しい」

「いつまでも、冒険者ができるわけじゃないからな」

「そのとおりだ。私も、子どもができれば冒険者を続けるのは無理――子どもが生まれれば、妻の務め、母の務めがある」

「そういうのは、今の時代流行らないと思うのだけど……」

 双子なのに、考えかたや性格はまったく違うんだな。


「ここまでやって来て、色々と解っただろう? さっさと帰れ」

「なによ、せっかく特区までやってきたのに……」

「それなら、観光でもして帰ればよかろう」

「今俺たちは、ちょっと色々と面倒なことになっててな。忙しいんだよ」

「ダーリンの言うとおりだ」


 俺は、ノートPCを立ち上げて、サイトをチェックしてみた。


「げ!」

 俺が上げた動画を見て驚く。

 再生回数が、とんでもない数字になっていたのだ。



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