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5話 ダンジョン特区


 俺は、降って湧いたようにゲットした力を有効活用するために東京にやってきた。

 東京湾には、ダンジョンを中心にした巨大な特区があるのだ。


 レベル49の力と、アイテムBOXがあれば、一儲けができる――はず!

 そして、その金で自宅をリフォームして、ファイアー!

 ――するというのが、俺の計画だ。


 一応、ネットで色々と調べてみたが、ダンジョンにアタックする冒険者としては初心者。

 解らないことが多すぎる。

 とりあえず、特区に行ってみて色々とやってみないと。


 ボッタクリも多いらしいから、気をつけないといかん。

 ネットに情報も多いが、それが本当か解らんし。


 世界にダンジョンが出現したときの苦しかった記憶を思い出していると、羽田空港に到着した。

 故郷はすでに寒くなっていたが、薄暗い連絡通路を歩くと、少し汗ばむ。

 辺りを見回すと、ほとんどの機械や機材が動いている。

 全世界が静止してしまってから、日本はたった10年でほぼ復興してしまった。

 現時点で復興している国は日本とアメリカだけである。


 必要な機械は動いているが、節約するところはしっかりと節約している。

 照明は最低限しか点灯していないし、かつてのような不夜城と言われた東京の姿はすでにない。


 飛行機は飛んでいるが、国際線はほとんど見当たらない。

 復興が遅れているのだ。

 国によっては、無政府状態になってしまった所もある。

 数々の大災害から立ち直った日本だけが、国民一体となって粛々と復興に邁進したということだ。


 唯一見える飛行機はアメリカの航空会社だ。

 さすが超大国、底力は計り知れない。

 自前の油田を持っているのも超強い。

 ジェット燃料でやって来て、帰りには日本のアルコール燃料で帰る、ハイブリッド航空機だ。


 いち早く復興したアメリカにも問題が山積みになっている。

 かの国は、メキシコと陸続きなので、大量の難民の流入に頭を抱えているのだ。

 その数は年間1000万人とも言われている。

 そんなに大量だと、取り締まることもできない。


 かつて、あるアメリカ大統領が、メキシコ国境に塀を作ったのを馬鹿にされていたが、それが現実味を帯びてきて、実際に建築が始まっているらしい。

 まぁ、あのときやっていれば――と思わんでもない。

 アメリカの内部からもそういう声が多数上がっている。


 アメリカ以外の諸外国では、いまだに立て直しができないで四苦八苦している国も多い。

 そうしているうちに、どんどんGDPが下がり、通貨はインフレを起こす。

 負のスパイラルに突入すると、立て直すのは中々難しいのだが、それでも農業が強い国は、なんとか持ちこたえている所が多い。


 かつて日本に絡んでいた国も、今はどん底に喘いでいる。

 懲りずにこちらにSOSを出したりしているのだが、日本もそれどころではない。

 自分たちの国をなんとかするので、精一杯なのだ。


 日本もインフレしたままだが、経済が死亡するよりずっとマシだ。


 政府は国外からの入国者に神経を尖らせている。

 船や飛行機が動かなくても、密入国を企てる者もいるのだが、問題なのは密入国者ではない。

 政府が警戒しているのは、もしかしているかもしれないアイテムBOX持ちの冒険者だ。

 アイテムBOXがあれば、どんなものでも持ち込み放題。


 生きものは入らなくても、ヤベーものはいくらでもある。

 危険な薬物、毒物、生きものが入らないなら、細菌を持ち込まれる心配はないか。

 昔なら核爆弾の心配がまっさきにきただろうが、今はその心配はない。

 ダンジョンの発生とともに、地球上から原子力の灯が消えてしまったからだ。


 ウランやプルトニウムが核分裂もしないから、原子爆弾も役立たずに。

 俗にいう水爆も、点火線に原子爆弾を使っているから同様に使えない。

 核による恫喝も使えなくなってしまい、世界の勢力図は一変してしまった。

 ついでに放射性物質もなくなればいいのだが、セシウムやらコバルトなどの原子炉に使えないものは相変わらず残ったまま。


 各国がアイテムBOXの所持者には神経を尖らせているし、国外からやってくる冒険者は基本入国禁止だ。

 それに各国が血眼になって探し出そうとしているものがある。


 それは――鑑定のスキルだ。

 鑑定があれば、アイテムBOXを持っているのか、本当のレベルがいくつなのかが解る。

 国家の治安を維持するためにどうしても欲しいだろう。


 まぁ、鑑定スキルを持っていたとしても、国に利用されたくはないから隠すと思うけどな。

 もしかして、鑑定を持っている人が本当に巷に潜んでいるのかもしれない。


 さて、勢いで東京までやって来てしまったが、これからどうしたものか。

 このまま特区に行けば、どうにかなるものだろうか。


「考えても仕方ない。とりあえず行ってみるか……」

 空港のトイレに入ると、アイテムBOXに入れていたバックパックを取り出した。

 手ぶらで特区に入るのもなんだか不自然な気がするし。

 武器として玩具のバットが刺さっているのだが、こいつで職質を受けることはないだろう。


 俺は、空港から出ると船着き場に向かった。

 風に乗って潮の香りが漂ってくるのだが、山育ちのせいか、どうもこのにおいは苦手だ。

 世界が静止した際、東京の下水処理も止まってしまったので、かなり酷いことになったという話だったが、今は普通だな。


 特区には、道路などは繋がっておらず、船で行くしかない。

 これも、いざというときに隔離するためだろうと思われる。

 政府も一般国民も、ダンジョンから出る魔物や、それを倒して生業にする冒険者を恐れている。

 人気がある職業でもあるのだが、嫌っている人も多い。


 まぁ、あまり真っ当ではないだろう。

 魔物とはいえ、生き物を殺して金を稼いでいるわけだし。


 船着き場周辺は、かつては工場や公園、倉庫群があったが、新たに埋め立てられて大きな街ができている。

 特区への物資の搬入やら、冒険者たちの買い物の場となっているようだ。

 なにせ、特区の中は、ものがバカ高いらしいからな。

 ホテルや宿なども多い。

 ここから特区に通っている人もいるようだ。


 100人ほどが乗れる、白くて平らな船に乗り込む。

 青い空の下、ポンポンという焼玉エンジンの音とともに波に揺れる。

 船のエンジンも昭和に逆戻りだ。


 かつてのように、大きな船舶も入ってこないので、東京湾も平和。

 外国からの輸入がなくてもなんとか日本がやっていけるのも、ダンジョンから産出される物資のお陰だしな。


 ここからも小高い山が見えるが、ダンジョンは地下にある。


「特区に行くんですか?」

 行き先にある山を見ていたら、突然話しかけられた。

 振り向くと、20歳ぐらいの爽やかそうな青年。


「この船に乗ったってことはそれしかないと思うけど……」

「はは、それもそうですよねぇ」

「この歳で冒険者になろうかと思ってね」

「そうなんですか! 僕もそうなんですよ」

 同志を見つけたって顔をしてるな。


「若いから、他に仕事はありそうだけど……」

「大学を休学して、学費を稼ごうと思いまして」

「はぁ~、それは感心だなぁ」

 仕事はあるが一次産業しかないし、インフレは現在も進行中。

 昔のようにハロワに行くと、「仕事ならダンジョンに行ってください」と言われる始末。

 そりゃ、畑仕事やら漁業をやるなら、ダンジョンのほうが稼げるが……。

 危険を伴うしなぁ。


 まぁ、危険といえば、漁業も十分に危険なのだが。

 それか、今の花形は技術者だ。

 ひん曲がった世界で、ダンジョンからでる魔石が半導体の代りになったように、他のものへの転用も研究されている。

 たとえば、魔石を使った明かりや、魔石を使った動力などなど……。


「あの下に未知の空間が広がっているなんて、本当に人知が及ばない世界ですね」

「そうだな……」

 特区の地下にダンジョンがあるのだが、物理的にこの世界には繋がっていないらしい。

 東京湾にダンジョンがあるのだから、横穴をずっと掘ったら海水が出るかといえば――出ない。

 ダンジョンに入ると、別の空間に繋がっているのだ。


「世界中の科学者が研究しても、よく解らないみたいですね」

「SFに出てくる異次元空間みたいなものだからなぁ」

 そして――魔物や、ドロップするアイテムは、どこからやってくるのか?

 ダンジョンの中に放置するとどこに消えてしまうのか。


「ステータスやらレベルやら、人間の能力を向上させるスキルなど、まるでアニメか漫画の世界です」

「でも、実際に目の前にあるのだから、認めるしかない」

「そうですね」

「とりあえず、そのダンジョンに頼らないと、俺たちは生きていけない状態になっているし」

「そうですよね……」

 彼の表情は暗い。


 あまり望んで冒険者になりたいわけではないのだろう。

 俺なんかと違って、真剣に人生を悩んでいる。

 そういう子に、偉そうなことは言えないし、そんな偉い人間でもないしな。

 どちらかといえば、ろくでなしのカテゴリーに入る男だ。


 青年と話していると、特区に到着した。

 埋め立て地沿いに、白くて円形な波力発電装置が浮かんでいる。

 直径は10mぐらいか――それがたくさん列をなす。


 日本はもとより、世界の電力事情はあまりよろしくない。

 それは特区内でも同じだろう。

 少しでも電力を確保しようと、波力発電も行っているのだ。


 タラップを渡り、コンクリート製の桟橋に足を踏み入れた。


「は~ここが、特区か」

 ここから見るだけでも雑多としていて、建物の上に建物が積み重なる。

 一言で表すと――カオス。

 昔の写真で見た、香港の九龍城砦を思い出す。


 特区には、建築基準法やらそういう法律は適用されない。

 警察も介入しないし、ここに足を踏み入れたら、すべてが自己責任。


「あの、冒険者に登録するなら一緒に行きませんか?」

「そうだなぁ。まずは、それが必要だしな」

 話していた青年と一緒に冒険者の登録に行くことになった。

 彼の名前を一応聞く。


「望月です」

「俺は丹羽な」

「ニワさんですか?」

「まぁ、あまり多くない名字かもしれないなぁ」

「そうですね」

 スマホのナビを使って登録場所に向かう。

 俺は高レベルになったわけだが、いいこともある。

 いくら歩いても走っても、あまり疲れないのだ。


 疲労しても飯を食えばすぐに回復する。

 その代わり、飯の量はすごく増えたけどな。


 飯を食えるってことは、それだけ身体が若くなったってことだ。

 それから、俺を長年苦しめていたアレルギーもなくなったらしい。

 花粉やらハウスダストで鼻炎になっていたのだが、それも出なくなった。

 多分、東京でスギ花粉の季節になっても、花粉症にもならないのではないだろうか。


 はっきりいって、これだけでステータスを維持しようかと考えてしまうほど、俺にとっては重要なことだ。

 冒険者を続けるだけなら、地元にある海底トンネルのダンジョンに入ればいい。

 アレルギーがなくなるぐらいの最低限のレベルを維持できればいいわけだし。


「おお~、まるでゲームの中に入ったみたいだなぁ」

 剣を持って鎧を着た男や、ローブを着た女性、まるでファンタジー映画かゲームムービーのような人たちが街を行く。

 異世界転移しなくても、異世界感覚が味わえるようになるとは……。


「そ、そうですか? わかりませんが……」

 俺は昔のゲームやら、アニメを見て暮らしてきた世代だが彼は違う。

 小学生のときに世界が崩壊して、それどころではなかった世代。

 かなり現実的で、ファンタジーやらに幻想を抱いていない。


 皆が食うのに精一杯だったから、漫画もアニメも映画もそういう職業はほぼ停滞してしまった。

 漫画やら小説を書いている場合ではなかったわけだ。

 とにかく食料を作らないと死んでしまうわけだし。

 最近になって、やっとまたそういう産業が盛んになり始めたところだ。


 豊かになれば、次に人々は娯楽を求める。

 かつては流れていたTVはそのまま衰退して、ネットに取って代わられてしまったけどな。


「ん~」

 路上に並ぶ露店をチラ見する。

 様々なものが並び、戦後の闇市のようだ。


「外国人も多いなぁ」

「ほら、ここは治外法権みたいなものですから……」

「ああ、なるほど」

 その中で目を引いたのが、スマホの充電の商売


 立て札には、10分3000円と書いてある――高い!


 復興した日本であるが、電力事情は少々心もとない。

 石油の輸入が満足にできないのと、原子力発電も止まってしまっているからだ。

 正直、川などで電力の地産地消している田舎のほうが、電気を自由に使える状況が続いている。

 核融合発電などが実用化すれば、一気に電力事情も改善すると思われるが……。


 宿についてもググってみた。

 ボロい宿屋で、素泊まり一泊1万円ぐらいが相場らしい。

 それに比べると電力の需要は厳しそうだが、スマホを使わないわけにはいかない。

 充電の商売を利用するしかないのだろう。


 俺は、スマホの電源をOFFにした。


「宿が1万で、スマホの充電が3000円――それに食費も必要だから、一日2万円ぐらい稼がないと赤字になるのか?」

「そう……みたいですね……」

 望月君が心配そうな顔をしている。


「そうか――結構ハードだな」

 田舎だと、自分で色々と栽培したりして、それなりの食料は用意できるからなぁ。


「ダンジョンの中で寝泊まりしている連中もいるみたいですよ」

「中の治安は大丈夫なんだろうか?」

「さぁ? それに魔物を食べれば、食料も節約できるようですし」

「ああ、なるほどなぁ」

 魔物の肉も、ダンジョンから出る重要な資源の一つである。

 駄目なものもあるが、だいたいが食えるようだ。

 まぁ、暗黒時代には肉は超高級品だったからなぁ、それに比べたら、魔物の肉でもありがたいか。


 あ、そういえば――俺のアイテムBOXの中に熊が入りっぱなしだな。

 魔物の肉を食うぐらいなら、熊を食ったほうがいいような気がするのだが……。

 まず、血抜きをして解体しないとだめだしなぁ。


 魔物の解体をする業者に、ヒグマの解体を頼めないかなぁ……。

 それもこれも、実際にダンジョンに潜ってみてからの話か。


「こっちですね」

 歪に積み重なったビルの角を曲がる。


「そうか」

 俺たちはナビを使っているが、旧世代の半導体が生き残っている場所が一つだけある。

 それは宇宙だ。

 地球から離れると、ダンジョンが起こす物理法則の乱れから、逃れることができるらしい。

 それを利用して、スパコンを宇宙に打ち上げようという計画があるみたいだが、まだまだ先になるだろう。

 そのうち、魔石を使ったスパコンができるかもしれないし。

 とりあえず、ナビは使えるってことだ。


 通信衛星が使えるし、海底ケーブルも生きているので、アメリカの情報はよく入ってくる。

 日本もかの国とは同盟国ではあるので、二人三脚で復興をしている状態だ。


 かつて半導体といえば台湾も重要な国であったが、復興が遅れている。

 魔石への転換が上手くいっていないのと、大陸からの大量難民で混乱しているせいだ。

 日本はこういう場合に海に隔てられているので、強みがある。


「ここですよ」

「ふ~、結構距離があるな」

「そうですね」

 到着したのは、冒険者登録を行っている役所。

 ここは役所らしく、無秩序に積み重なったりはしていないようだ。

 普通のコンクリート製の4階建て。


 漫画やアニメのファンタジーだとギルドで登録を行うが、ここはそういうシステムではない。


 望月君と一緒に役所の中に入る。

 中にはたくさんの窓口のカウンターが並んでいて、透明なプラで仕切られていた。

 電力節約のために、蛍光灯は少ない。


「いらっしゃいませ」

 紺色の制服を着て、メガネをかけた女性が対応してくれた。

 彼女たちは当然公務員だ。


「冒険者登録をしたいんですけど」

「はい、それでは、こちらにご記入をお願いします」

 タブレットを差し出されたので、必要事項を書き込む。

 隣では、望月くんが同じように手続きをしていた。


「今日は、国民カードをお持ちですか?」

「はい」

「一緒に提出をお願いします」

 一応、下調べで国民カードが必要だと解っていたので、持ってきた。

 漫画やアニメのように、水晶に手を載せてレベルを測ったりはしない。

 実力を測るためにギルド長と戦闘したり、魔法で的当てもなし。

 ちょっとがっかりだが、それは仕方ないな。


 お遊びでも、そういうイベントをやったほうが受けるんじゃないか?

 ――と、思ったのだが、受けるのはオッサンだけか。

 世界が静止したあとの世代だと、そんなお約束も知らんだろうし。


 書類を提出してから椅子に座って待っていると、5分ぐらいで冒険者カードができてきた。

 これはとりあえず仮免だ。

 魔物を倒してみて、ステータスが出れば本登録が可能になる。


 ダンジョンから出たもので換金すると、ここに全部記帳される。

 金の受け取りは全部スマホに紐付けされた電子マネーだ。


 紙幣やら硬貨で資源を使いたくないのか、政府が積極的に電子マネーを推進している。

 普通は冒険者カードを使って取引されるのだが、冒険者同士の物々交換なども行われているようだ。

 換金の際には、税金が20%引かれる。

 武器や防具などは、ダンジョン内でも拾えるために、そういうのを経費にしようとしても駄目らしい。

 そんなわけで、冒険者なら普通は確定申告などはしないという。


 まぁ、換金の際に20%引かれて終了なら、それはそれで簡単でいいけど。

 税金を取られるのが嫌なら、ひたすら物々交換するとかな。

 そこまで意固地になることもないと思うが……。


「これは、4層までの地図で、こちらは魔物の冊子です」

 職員からA4サイズぐらいの地図をもらうが、綴じられていて厚みがある。

 これを見ても、ダンジョンはかなりの広さがあるようだ。

 魔物の冊子を見る――ダンジョンで出てくる魔物について書かれていて、対処法などが書かれている。

 ゲーム必勝本といった感じだな

 ダンジョン1層は、スライムとうさぎが主な敵のようだ。

 うさぎなら食えそうだな――というか、ウチの田舎でもうさぎがよく獲られていたし。

 まぁ、ここのは普通のうさぎではなくて、魔物なんだろうが。


「それから、今回は仮登録ですから、魔物を倒してステータスが表示されたら、もう一度いらして本登録してください」

「解りました」

 魔物を倒しても、ステータスが出ない人がいる。

 その人は、適性がないとみなされて本登録できない。

 まぁ、俺はすでにステータスが出ているので、関係ないのだが。


 それに、ステータスが出てないのに、ステータスが出たと言って、本登録している人もいるようだ。

 鑑定などがないから、本人の申告だけだからな。

 レベルアップなどの恩恵なしに、ダンジョンを生業にしているのだろうか。


 役所から通知用のアプリをインストールするように言われた。

 これは強制らしい。

 役所から重要な通知などが来るようだ。

 まぁ、ダンジョンの中にいたら役に立たないけどな。


 手続きが終わったので、2人で役所から出た。


「ニワさんはどうしますか?」

「俺は、このままダンジョンに行ってみるよ。どういう所か、肌で感じてみたいし」

「そ、そうですか――僕もご一緒してもいいですか?」

「ん~それは、ちょっと勘弁してもらいたいかなぁ。ソロでやってみたいこともあるし」

 ――というか、一緒にいてアイテムBOXを使うところを見られたくないのだ。


「そ、そうですか……」

 彼が残念そうな顔をしている。

 いや、彼のことが嫌いなわけではないし、彼も不安なのだろう。

 それは解るのだが――アイテムBOXのためだ。


 望月君と話していると、3人の男たちに囲まれた。

 本格的な革の防具やら、剣を腰に差しているので、それなりの冒険者なのだろう。

 多分にチンピラ風味だが。


「へいへ~い! 新人さんですか~?」

「そう、登録したばかりってやつだよ」

「俺たちちょっとお金に困っててさぁ。ちょいと貸してくれねぇかな?」

「に、ニワさん!?」

 望月君がビビっているのだが、試される大地でヒグマと対決した俺からすれば、大したことはない。


「なんだよ、レベル測定とか、的当てイベントはないのに、チンピラに絡まれるイベントはあるのかよ……」

「あ~ん?!」「俺たちゃ、黒竜ギルドのもんだぞ、ゴラァ!」「黙ってカネを出せばいいんだよ!」

「ああ、なるほど――どこかのギルドに所属している冒険者をカツアゲすると問題になるから、どこにも入ってない新人を狙っているのか」

「オッサン、解ってるじゃ~ん」「ははは」

 男たちがいやらしい笑みを浮かべている。

 俺は背中のバックパックから、玩具のバットを抜いた。

 玩具だが、中身には砂鉄がびっしりと詰まっている。


「ははは! オモチャのバット?!」「オッサン、頭ダイジョブですかぁ?!」

 完全に油断している右端の男の頭をバットで一閃した。

 レベル49という俺の力が、正直どのぐらいなのかよく解らんので、可能な限りそっとなでた感じ。

 それでも、かなりのスピードだったと思う。


「おろ?!」

 殴られた男のケツがストンと落ちる。


「おいおい! 玩具で殴られてケツから落ちるとか?!」「ギャハハ!」

 なんだか解らんが、爆笑している男たちの頭も、続けざまに殴った。

 相手は、完全に俺の動きに対応できていない。

 全員がその場に尻もちをついた。


「て、てめぇ!? にゃろろろ?」「おっらん、にゃろ……」「ポペ……」

 脳震盪を起こしているのだろう。

 男たちは呂律が回っていないし、その場から立ち上がることもできない。

 この砂鉄入りのプラバットの恐ろしいところはこれだ。

 質量のあるバットが変形することによって、衝撃が脳みそに伝わりやすい。


 脳震盪を起こせば、その場で行動不能にすることもできる。

 ただ、脳震盪はかなり危険で、後遺症が残る場合もあるから注意が必要だ。

 まぁ、警察が機能しない特区で初心者狩りをしてきたのだから、もしそうなっても自業自得だろう。

 その前に、レベルが高い冒険者なら、すぐに回復するかもしれないし。


 異世界ものなら、ここでボコボコにして、装備を漁ったりできるんだろうけどなぁ。

 ここでそれはできないだろうし。


「それじゃな」

「おひ! まれぇぇ!」「へめぇぇ!」

 男たちが、立ち上がろうとしてジタバタしているが、まともには動けないだろう。

 脳震盪なら、安静にしたほうが、やつらのためなんだがな。


「ニワさん、強いですね!」

 なんだか望月君が興奮している。


「褒めても一緒には行かんよ」

「駄目ですか?」

「勘弁してくれ」

「……」

「さっきの奴らからすると、早めにどこかのギルドに入ったほうがいいみたいだな」

「そうですねぇ……」


 2人でダンジョンの入り口に向かうと、露店がたくさん並んでいた。

 ケバブっぽいものや、串焼きを焼いている店がズラリ。

 いいにおいが、辺りに漂う。


「あれって、魔物の肉だよなぁ」

「多分、そうですよ」

「まぁ、ここにいる限り、あれに慣れないと駄目ってことだし」

「でも、味は悪くないようですよ」

「ああ、俺もネットの記事は読んだ」


 食べ物の他に露店で目立つのは、ケミカルライトだ。

 ダンジョンの中では電気的な明かりが使えないので、こいつが使われている。

 燃えるものも駄目なので、松明などもアウト。

 カーバイトを使う、アセチレンランプも駄目らしい。


 かつて100均で売っていたようなケミカルライトが、一本1000円……高い!

 ケミカルライトを大型にした、手持ち式のランプも売っている。

 瓶に入った2本の液体をランプの中に注ぐと、明かりが灯る。

 もちろん高価だ。


 形から入るのもありだが、金がたくさんあるわけでもない。

 節約しつつ、ダンジョンがどういうものか、試行錯誤が必要だろう。


 ケミカルライトを一本買う。

 俺はなぜか暗闇が見えるようになっているので必要ないが、それでも少しでも明かりがあったほうが見やすい。


「よし!」


 ライトを握りしめると、俺はダンジョンの中に入ってみることにした。



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