49話 会議
ダンジョンの深層に飛ばされて、やっと地上まで戻ってきた。
ほっとして休みたいところだが、そうもいかない。
他の冒険者たちにも関わる大事なことなのだ。
姫たちの伝を使って、ギルドの代表者たちをホテルに集めることになった。
さすが、トップランカーだ。
顔が広いし、「集まれ」と言われてギルドのトップが集まってくるカリスマ。
冒険初心者の俺には真似ができない芸当だ。
ウチのギルドのサナやキララには悪いと思っているのだが、これは最優先事項。
広く告知しないと、犠牲者が増える可能性がある。
そうなってからでは遅い。
ホテルの会議室を借りて、話し合いをするらしい。
そのために証拠などを出す必要があるだろう。
会議室のプロジェクターに俺のノートPCを接続して、カメラで撮った動画を出力できるようにする。
「本当は、動画の編集をしたほうがいいと思うんだが……そんな暇はないな」
小さな机にノートPCを置いて、プロジェクターの動作確認をしていると、ドアが開いた。
姫とカオルコが戻ってきたのかと思ったら、違った。
シャツにパンツ姿――普通の服装をして黒いボブヘア、メガネをかけた女性だ。
ホテルの人かと思ったのだが、制服じゃないから違うだろうし。
冒険者というよりは、事務方。
ギルドが大きくなれば、内部の雑務をする人も増えるだろう。
ダンジョンにアタックしてなくても、ギルドに貢献することはできる。
むしろ、危険なことをしない分、堅い職業ではあるまいか。
一応、挨拶をする。
「こんにちは」
「あ、あの――こんにちは、今日冒険者の代表による緊急会議があると――」
「はい、ここですよ。すぐに姫――いや、桜姫も来るので、座ってお待ちください」
「わかりました」
プロジェクターに繋がったと思うので、カメラから動画を吸い出して、外付けHDDに移した。
大事なデータなので、バックアップも取る。
バックアップは基本だ。
「さて、ちゃんと映ってるかな?」
ずっとダンジョンにいたので、ストレージの容量ギリギリまで動画が詰まっている。
一応、予備のストレージもアイテムBOXには入っているので、対応できたと思う。
適当に再生してみると、姫たちとのドラゴン戦の動画だった。
「おお、結構きれいに映っているな」
カオルコの魔法の明かりがあるせいだろう。
「あ、あの!」
俺の動画を観ていた女性が話しかけてきた。
「なんでしょう?」
「そ、それって――もしかしてドラゴンですか?!」
「そうそう、私と姫――いや桜姫とエンプレスと一緒に倒したんですよ」
「市場に、桜姫たちがドラゴンを持ち込んだって騒ぎになっていましたけど……」
「あ、そうそう――このドラゴンがそうですよ」
「あの……これってどうやって撮っているんですか?」
やっぱりそこは気になるところだろうが――。
「それは企業秘密です。まぁ、アイテムBOX絡みなので、普通じゃ無理ですよ」
「ああ、そうなんですね……」
彼女が残念そうな顔をした。
まぁ、冒険者なら自分たちの活躍を残したいという願望みたいなものがあるのかもしれない。
ランカーに名を連ねるのだって、自己顕示欲だろうし。
俺はまったくそういうのがないので、ランクに名前を載せるつもりもないけどな。
だいたい、あれってどうやって誰が決めているんだ?
アレを載せているサイトが、独自に冒険者たちの活躍やらをポイントに変換しているようなことを書いていたと思ったが……。
「さてさて、あの動画はどれかいな……」
探している動画は、迷宮教団の女と踊る暗闇のリーダーが映っているものだ。
「桜妃たちの動画があるということは、あなたも一緒に戦闘を?」
「ええ、ダンジョンの深層でドラゴンと戦ったときからずっと一緒でした」
「あ、あの――フラワースクエアなんですけど、ウチの冒険者を途中で見ませんでしたか?」
フラワースクエア? ギルドの名前か?
「途中でなん人かにお会いしましたが、私は他のギルドにあまり詳しくないので……」
俺の言葉に、彼女がスマホを取り出して、なにかを探し始めた。
「あの! このメンバーなんですが……」
彼女が差し出した画面には冒険者の写真が載っていた。
う~ん? どこかで見たような。
重装備の男性冒険者と女性の魔導師が1人。
「ああ、この人たちは、7層の壁で立ち往生していた人たちでは?」
「7層で見たんですか?!」
「ええ、中に入る入口が解らなくて右往左往してましたよ」
「無事だったんですね」
彼女が安心した表情をしているのだが――地上に帰ってくるまでが冒険です。
「私たちが通った抜け穴を教えたら、7層に進むか話し合いをすると言ってましたねぇ」
「そうですか――とにかく無事でよかったです」
7層ともなると、危険がマシマシになるからなぁ。
実際に中にはグリフォンなどもいたし。
俺たちは、カオルコの強力な魔法で敵を退けたけど――。
女性と話していると、姫たちが戻ってきた。
「あ、桜姫さん、こんにちは――フラワースクエアの代表代理です」
「来てくれてありがとう」
「7層の壁の所で冒険者に会ったじゃない。彼らがフラワースクエアだったみたいだよ」
「そうなのか。彼らには、今回のことを話しておいた」
「ありがとうございます」
女性がペコリとお辞儀をした。
「姫、プロジェクターに映ったぞ」
彼女に映像を観せる。
「ほう! こんなに綺麗に撮れるのか!」
「すごいですねぇ。これってダイスケさんしかできない能力なんですね?」
「あ、いや――もしかして、カオルコもアイテムBOXを持っているなら、使えるかも……」
「え?! そうなんですか?!」
「よし! カオルコ! あとで検証だ!」
姫がえらい乗り気になっている。
まぁ、俺がいなくても撮影ができるなら色々とはかどるからな。
「いやいや、それより肝心なシーンが映ってないと――今日集まってもらっても空振りになるかもしれないぞ」
「ダーリン、それは困る! ダーリンが証拠があるというから、私も乗ったのに」
「いや、映っているはずなんだよ。ダンジョンの中じゃチェックができないからなぁ」
せめて、データをチェックしてから、暴露話をするべきだったか。
そんなこと言っても、あとのカーニバル。
俺は、動画データを探した。
まてまて、あの日――レンを探してダンジョンに潜ってその日に遭遇したはずだから。
俺は深層に飛ばされた日の最初のファイルを再生してみた。
「あ!」
画面を観てカオルコが声を上げる。
プロジェクターにはローブを被った裸の女と、踊る暗闇のリーダー、子どもたちも映っていた。
「姫、この女だろ?」
「そうだ! こいつだ……」
画面を凝視している彼女から怒りの感情を感じる。
まぁ、マジで死にそうになったんだから当たり前だろう。
俺なんて、レンの件もあるし、子どものこともあるし、深層に飛ばされた件もある。
怒りの3段活用だ。
とりあえず、証拠のシーンがしっかりと映っていてよかった。
一旦、動画を停止する。
「この女が……?」
フラワースクエアの女性が口を開きかけたところで、ドアが開いた。
「よお! 桜姫が死んだって聞いてやってきたぜ? 香典はここでいいのか?」
いきなりの挨拶だが、身を屈めて入ってきたのは2mほどもある大女。
身長だけではなく、身体もゴツい。
「ははは、お前と違い、私は普段の行いがいいからな。地獄で仏に出会って戻ってきたぞ」
「はぁ? 仏?」
姫が、俺の腕を組んで引っ張った。
「私のダーリンだ!」
「……」
大女が固まっている。
「へんじがないただのしかば……」
「はぁぁぁぁぁ?!」
デカい声だ。
部屋の中に響き渡る。
「私のダーリンだ!」
「ダーリンって――恋人ってことか?」
「む――そ、そういうことになるのか……?」
彼女がこちらをチラ見している。
こういうところが、ちょっと変な彼女だが――まぁ、経験がないのだろう。
――と、いいつつ、俺だってそんなにあるわけじゃないが。
「ええええええ?!」
今度は、フラワースクエアの女性が声を上げた。
「そういうことなんだろうなぁ」
「うむ、子どもも作るしな」
「はぁぁぁぁ?! それじゃ、結婚ももう決まっているってことか?!」
大女がにじり寄ってくる。
「ええええええ?!」
「なんだ、うるさいなぁ……」
「ど、どういう風に知り合ったんですか?!」
女性が目をキラキラさせて興味津々で、俺にもにじり寄ってくる。
こういう話が好きなのか。
「どういう風って――ダンジョンの深層に飛ばされてそこで初めて知り合ったんだよ」
「それじゃ、魔物との戦いを通じて、仲を深めあったんですか?!」
「そ、そういうことになるのかなぁ……」
「はぁ~――桜姫をからかいに来たら、とんでもないことになってたぜぇ」
「ははは、お前より先に相手を見つけてしまってすまんな」
「……」
大女が俺をじ~っと観ている。
「オッサンじゃねぇか……」
彼女は俺の容姿に不満があるようだ。
そりゃ若くていい男のほうがいいだろうが、俺だって姫みたいな若い子と付き合うなんて思ってもみなかったし。
「私の相手の条件は、オガにも話したことがあっただろ?」
「ああ……」
「オーガ?」
デカいからオーガなのか?
それりゃ、言い得て妙だが……。
「ダイスケさん、彼女はオガさんって言うんですよ」
男の鹿と書いて男鹿らしい。
「ああ、それで……」
「するって~と、なにかい? このオッサンは、桜姫より強いと」
「ああ、強い! 私など、足元にも及ばん」
「ホントかよ!」
大女が一歩前に出た。
その動きが不自然だったので、俺も警戒したのだが――白い軌跡が俺に向かってくる。
これは攻撃だ。
彼女の右ストレートを躱すと、今度は左下からのラインが見える。
このコンビネーションは格闘技かなにかだろう。
冒険者のレベルがなくても、フィジカルに長けてそうだ。
ダンジョンの中で、ゴリラみたいな男にも喧嘩を売られたが、彼女はそいつよりもかなり速い気がする。
私服で、防具や武器などの装備をつけてないせいもあるかもしれないが……。
あの男はフルアーマーだったし。
俺は、強烈な左アッパーを躱すと彼女の脇を抜けて、咄嗟に彼女の腹に右パンチを入れてしまった。
女性の身体がデカいので、彼女の下腹部辺りに命中してしまったが。
「んおっ♡!」
オガという女が、変な声を上げた。
「おっと、悪い。大丈夫だったか?」
「……クソ……濡れたぜ!」
彼女がちょっと身体を丸めて、下腹部を押さえている。
普通ならこんなことはできないが、やはりレベルの差が大きいのだろう。
レベルなんてもう上がらないだろうと思っていたのだが、トラブルに巻き込まれて、さらに上昇してしまったからな。
「どうだ――ダーリンは強いだろ?」
姫がふんぞり返っている。
あまり喧嘩を売られても困るんだがなぁ。
「クソ……まさか、桜姫に先を越されるとは……」
「ははは、さっきも言ったが、私は普段の行いがいいからな」
「ちっ! てやんでい」
「それにダーリンがいれば、以前にお前に話したことがある、アレを試すことができるしな」
「……もしかして、あれか?」
「そうだ、あれだ」
2人が見つめあって、ニヤニヤしている。
なんの話か解らんが、悪巧みの予感しかいない。
「あれってなんですか?」
フラワースクエアの女性が興味がありそうで、オガに食い下がっている。
「子作りだよ、子作り!」
「……ええ?!」
オガの返答を聞いて、女性が赤くなった。
「高レベル冒険者同士の子どもがどうなるのか? ――とても楽しみだろ? もしかして、人類の新しい時代が、ここから始まるかもしれん」
「超人間とか、ニュータイプってやつになるかもな」
オガが姫の言葉に同調した。
「ははは、そのとおり! 我々がその始祖になるのだ!」
「姫って意外と野心家だよなぁ」
「意外って、野心がないと冒険者になんかならないと思いますけど……」
カオルコの言うとおりだとは思うのだが――。
「俺は偶然レベルが上がっちゃったので、下がる前に一稼ぎして田舎に帰るつもりだったのに……」
「それはすごく、すご~く、特殊な例ですよ」
「そうなんのかな~」
「ちょっと、桜姫よ~」
オガが姫に歩み寄る。
「なんだ?」
「お前のダーリン、ちょっと貸してくんねぇかな?」
「……はは、お前も興味があるということか?」
「そのとおり! どうせ血を残すなら、つえ~やつのほうがいいじゃん」
「わかる、わかるぞ」
姫がウンウン言っている。
「ちょっと姫、俺がハーピーやサナと一緒だと、すぐにヤキモチを焼くのに、なんでそういう話になってるの?」
「そ、それは……」
「ダイスケさん、ダイスケさん」
カオルコが手招きをしている。
「ん?」
「それは姫が――可愛さだと、敵わないと自覚しているからなんですよ」
「そんなことないぞ!」
姫はすぐに否定したのだが。
「そうなの? それじゃ、オガさんには絶対に勝てると踏んでいるわけだ」
「まぁ、そのとおりだな」
「言ってくれるじゃ~ないか! それじゃ、あんたのダーリンがあたいとやって、あたいの身体に夢中になったらどうする?!」
「ははは、ありえんな~」
その自信はどこから来るのか。
オガさんの身体を見る――デカくてもアスリートのような引き締まった美しさがある。
これはこれでありだろう。
もちろん、姫がOKだというなら、相手をするのもやぶさかではない――ゲフンゲフン。
「絶対だな! 百万回そうだな?!」
「1兆回そうだ」
「小学生かよ」
つ~か、そのネタ、この時代にも生き残ってるのか?
「よっしゃ! それじゃダーリン、この騒ぎが片付いたら相手をしてくれよ」
お前もダーリン呼びなのかよ。
「ははは、姫がいいと言うなら、いいけど……」
「いいんだよな?!」
「ああ」
心が広いのか、それとも新しい人類が生まれるかもしれないという好奇心が勝っているのか。
俺としては、楽しみにして待とう。
アホな話をしていると、人が集まってきた。
カオルコは10箇所ほどに連絡したと言っていたから、10人いる。
四角に並んだ長机に、各々がテキトーに座っているっぽいが、一応知り合いの近くに集まっているようだ。
姫がゴリラと呼んでいた男が所属していたギルドの副代表も来ていた。
「さて、集まったな!」
「失礼いたします」
そこに制服を着た女性が入ってきた。
「飲み物の注文か」
「はい」
1階に喫茶店もあるので、そこのものが注文できるのだろう。
「カオルコ、注文を集めてやってくれ」
「はい」
「おい! 腹減ったんだけど?! なにか食い物はないの?!」
ハラヘッタアピールはオガだ。
もう夕方だし、晩飯の時間の人もいるかもしれない。
「カレーか、サンドイッチなら……」
まぁ、喫茶店ならそんなものか。
あとはナポリタンか、ハンバーグ。
「いいねぇ! それじゃ、カレー大盛り、2つ! どうせ桜姫が払うんだろ」
2つも食うか。
まぁ、それぐらい食いそうではある。
それに、レベルの力を使うと腹が減るしな。
俺も、ダンジョンにいるときには、いつもなにか食っているし。
「少しは遠慮しろ!」
「へへへ」
まったく悪びれる様子もない。
実は、仲がいいだろ?
オガにつられて、他にも食事を摂る人が現れた。
「姫、件の踊る暗闇への連絡は?」
「やつらには連絡はしていない」
「ここに集まったギルドの中には、踊る暗闇と知り合いのギルドもいるのでは?」
「無論いるが――」
彼女が部屋をチラリと見た。
「情報を渡すのかどうかは、各ギルドの判断に任せる」
「わかった」
注文が集まったので、制服の女性が一旦下がった。
「さて、始めるか!」
カオルコがリモコンを操作すると、部屋が暗くなる。
俺が役所でホログラムを観たときのことを思い出したのだが――ああ、そういえば、晴山さんに連絡を入れないとな。
完全に仕事をすっぽかしているし。
「ダーリン、迷宮教団の女を出してくれ」
「了解」
プロジェクターが光って、壁に設置されたスクリーンに動画が流れた。
部屋を暗くしたので、よく観える。
問題のシーンでストップした。
「「「おおお……」」」
「この裸の女が迷宮教団の女だが、司祭なのか、巫女なのか、それともこいつが教祖なのか解らん――ダーリン、隣をズーム」
「はいよ」
裸の女の隣にいる男がズームされた。
その横には、泣いている沢山の子どもがいる。
「この男は解るやつには解るよな?」
「そいつは――踊る暗闇のリーダーじゃねぇか!」
「そのとおり――こいつが迷宮教団と通じて、ダンジョンで暗躍していたわけだ」
「ちょうど、そのシーンに俺が出くわしてな。まぁ、やつらはこんな動画を撮られているとは、思わなかっただろうが」
スクリーンを観ていた男の1人が声を上げた。
「その動画はどうやって撮ってるんだ? まさか、CGなんかじゃないよな?」
「この動画は、間違いなく俺のカメラで撮ったものだ。俺の特殊能力絡みなので、詳しくは言えん」
AIが発達してから、簡単な動画ならそれっぽいのが作れてしまう。
カメラで撮ったオリジナルだと証明するために、今の動画には偽造や捏造防止のデータが書き込まれている。
なにか問題があったら、そいつを証拠として出せばいい。
「ダーリン、動かしてくれ」
「はいよ~」
動画には俺と踊る暗闇のリーダーとのやり取りが録音されていた。
泣いている子どもがいるのが、証拠になる。
彼らを助けてあげられなかったのが残念だが……。
動画の最後には、閃光とともに俺が真っ暗な深層に飛ばされたところまでが録画されていた。
「このように、迷宮教団の女の力と思われるもので、冒険者が深層に飛ばされていたわけだ。これが、高レベル冒険者とダンジョン内にいる子どもたちが行方不明になっている事件の顛末だ」
「……」
各ギルドの面々が沈黙しているのだが、オガが口を開いた。
「なんだって踊る暗闇のやつらは迷宮教団なんかと……」
「う~ん――俺も考えてみたんだが……やつらはこのテレポーターのような魔法でダンジョンを自在に移動できるだろ?」
「ああ」
「それならどんな所にでも行けるってことで、宝箱やらドロップアイテムなども取り放題ってことにならないか?」
「そうか! そういうことかもしれねぇ」
話を聞いていたギルド代表の1人が小さく手を上げた。
背の低い小柄な女性だ。
「あ、あの、踊る暗闇のリーダーって、最近やけに羽振りがよくって、珍しいアイテムを見せびらかしたり……」
「それじゃ、やっぱり決まりじゃねぇか!」
「「「……」」」
出席した面々がまた沈黙してしまう。
そこに、注文した飲み物などが運ばれてきた。
いいタイミングだ。
「お~、キタキタ!」
オガがカレーを食べ始め、他の者たちも釣られて食べ始めた。
食って飲んで一休みしたあと、話し合いは続けられた。
「各、ギルドで行方不明になっている冒険者は戻ってきたか?」
「「「……」」」
姫の指示で、再びドラゴン戦の動画を流した。
「なに?! ドラゴン!?」「ドラゴンなんて本当にいたのか?!」「……」
「我々が飛ばされた先には、このような巨大な魔物が跋扈していたのだ。生存者の捜索などはできる状況ではなく、生き延びるだけで精一杯だった――許してくれ」
彼女がギルドの面々に頭を下げたのだが、オガが声を上げた。
「こりゃ、生きて帰ってこられただけでもめっけもんだろう。だいたい、レベルがいくつならこんなのと対峙できるんだ?」
俺が戦って勝てるということは、俺に近いレベルがあれば突破できるのかもしれない。
「おそらくだが――レベル60から70の間だと思う」
俺は自分の考えを口にした。
「は! どうやっても無理だね。想像もつかねぇ……」
オガが手を広げた。
他のギルドの面々は沈黙したまま。
予想以上に酷い状況なのが判明したせいだろう。
行方不明の仲間たちも、帰って来る可能性が低いということを突きつけられてしまった格好だ。
「以上のことから――この動画を公開したのち、宗教団体迷宮教団とギルド踊る暗闇は、役所に通報したのちにダンジョンから排除する――これでよろしいか?」
特区の治安は、ランク上位のギルドによって守られている。
たとえ踊る暗闇がこれに反発したとしても、他のギルド全部が敵に回ってしまえば、もう勝ち目はない。
「異議なし!」
大きな声はオガだが、他からの異議の声も出なかった。
「それにともない、特区外についても私の顧問弁護士を通じて、両団体を当局に刑事告発する」
顧問弁護士までいるのか……。
「さて、奴らはどう出るかな?」
オガの質問に姫が答えた。
「私の勘では、奴らはダンジョン内に逃げ込むと思う」
「まぁ、それしかないわな。特区外には紋章隊もいることだし。あんな奴らに追われたくねぇだろ」
通常の魔導師は、ダンジョンから離れると魔法が使えなくなるが、紋章隊と言われる連中は違う。
ダンジョンとは違う理で動いている特殊部隊らしい。
「本日の議題と通達事項は以上だ。なにか質問は?」
姫がまとめに入った。
「あ、あの~」
小柄な女性が手を挙げた。
「なんだ?」
「桜姫の横にいる、ダーリンという方は……?」
「ダーリンだ」
「ええ?」
「政府広報にアイテムBOX持ちを公表されたオッサンがいたでしょ? それが私なんですが」
「ああ! そういえば――」
「そして! ダーリンがいなければ、私とカオルコはダンジョンの深層から帰還できなかった」
「そ、そんなに強い人なんですか?! 桜姫よりも?」
「強い! 我々などは足元にも及ばん!」
「あたいもさっき手合わせしたけど、まったく歯が立たなかったぜ」
「ちなみに、迷宮の中でゴリラも同じことをして、ダーリンにボコられていた」
「はは、あいつらしいや――だいたい、あいつは桜姫より弱いじゃねぇか」
「それが理解できないのだから、困ったものだ」
彼女が腕を組んで頷いている。
会議は終了して、お開きとなった。
トップギルドの面々に顔を売ってしまったから、俺の知名度も徐々に上がるかもしれん。
ランクつけをしている団体からの取材などもあるかもしれないが、興味ないんだよねぇ。
会議が終わると、ホテルの部屋を借りて、早速動画を編集して自分のサイトにアップ―― 一緒にドラゴン戦の動画も載せた。
これを観た視聴者の反応は?
迷宮教団と、ギルド踊る暗闇はどうなるのか?
なりゆきを見守るしかない。