48話 演説
俺たちはやっとの思いで、地上に帰ってきた。
時は夕方――沢山の冒険者や特区の住民がいる広場で、ダンジョンで仕留めたドラゴンの尻尾を出すと、その上に飛び乗る。
そこで演説と暴露をぶちかますことにした。
観客の中にサナもいて驚いた。
彼女と色々と話したいところだが、今はそれどころではない。
暴露を急がないと、犠牲者が増えてしまうかもしれない。
最初の演説は姫に任せることにした。
冒険者のトップランカーで超有名人。
彼女の話なら、皆が耳を傾けてくれるだろう。
姫は一呼吸置いてから、力強く口を開いた。
「我々は――こんな化け物のような魔物がいるダンジョンの深層から、命からがらたった今帰ってきたところだ!」
姫はドラゴンの尻尾の上に立ち、周囲の人たちを見渡した。
ビキニアーマーの彼女だが、その姿は威厳に満ち、優雅な姿はまさに姫。
オレンジ色の光が彼女を照らし、まるで天からの祝福を受けているかのよう。
その声は静かな威厳を持ち、すぐに人々の心を引きつけた。
彼女の言葉が響く度に、広場にいる誰もが耳を傾けている。
「ダンジョン深層?!」「すごい!」
「だが! 我々の意思で深層まで到達したわけではない!」
そこで俺も演説に加わった。
「皆! 聞いてくれ! 最近高レベルの冒険者や、ダンジョンの中にいる子どもたちが行方不明になるって話を聞いたことがなかったか?!」
「そういえば――桜姫とエンプレスも行方不明だって聞いたぞ」「他にも有名な冒険者が……」「そうそう、ネットで見たな」
人々がウンウンと唸る中、姫が話を続けた。
「そのとおり! 我々は、迷宮教団によって、ダンジョンの奥地に魔法で飛ばされたのだ! 多分、行方不明になっている冒険者たちも同じことに巻き込まれたのだろう!」
「迷宮教団!?」「迷宮教団?!」「やつらが?!」
一斉に観衆がざわつき始めた。
「迷宮教団の女が、テレポーターかダンジョンウォークのような魔法を駆使して、ダンジョン内を自在に動き回り、冒険者たちを深層に送り込んでいたのだ!」
「テレポーター?!」「そんな魔法があるのか?!」「マジか?!」
ダンジョン内で遭遇した冒険者たちもそうだったが、俺がこんなことを言い出しても誰も信じてくれないだろう。
「行方不明になった冒険者たちは、私たちの他には帰ってきたか?!」
「ざわざわ……」「……」
見物人たちが、顔を見合わせている。
どうやら、無事に帰還できたのは、俺たちだけだったようだ。
当然、姫とカオルコの顔も曇る。
続きは俺が話した。
「それだけじゃない! ギルド『踊る暗闇』のリーダーらしき男が、迷宮教団と結託して、ダンジョン内の子どもたちを誘拐していたんだ。俺はその場面に遭遇して、ダンジョンの深層に飛ばされた!」
「踊る暗闇?!」「アイツラか?!」「確かに、あまりいい話は聞かないが……」
ここで信用してくれというのも無理な話だとは思う。
「ちょっと待てや!」「そいつは聞き捨てならねぇ!」
話を聞いていた、黒い防具をつけた男たちが前に出てきた。
知っている顔がいる。
以前、俺に絡んできた連中か。
こいつらは――「踊る暗闇」のメンバーだ。
「また、お前らか……」
「あ! てめぇは、いつぞやのオッサン!」
「お前らみたいな下っ端はなにも知らされていないだろうが、ギルドの上層部は今回のことに関わっていると思うぞ」
「――思うって、それはオッサンの感想だろうが!」
「いいや! ギルド『踊る暗闇』が迷宮教団と関わっているという証拠がちゃんとあるぞ!」
「な、なんだと!」
「動画に収めてあるから、俺のサイトにすぐにアップしてやる。首を洗って待ってろ」
「ぐぬぬ……」
男たちが武器を抜こうとしている。
「面白い! 私とエンプレス相手にやるのか?」
カオルコが、自分のアイテムBOXから武器を出して、姫に手渡した。
「う?!」「うぐっ!」
男たちの顔が一瞬で青くなる。
そりゃそうだ。
こんな下っ端連中が、高レベル冒険者のトップランカーに敵うはずがない。
「お、覚えてやがれ!」
なん回目だよ、そのセリフ。
もういい加減勘弁してほしいんだが。
人々は静まり返り、姫の言葉一つ一つを注意深く聞き入っている。
姫は武器を収めると、誠実な眼差しで観衆を見つめ、語り続けた。
「冒険者たちよ! 迷宮教団を許してはならん! あれは――冒険者に対する純粋な悪意そのものである!」
彼女の言葉には熱意と真心が込められており、それが人々の心に深く刻まれていく。
演説が続くにつれ、人々の心は一つにまとまり、彼女の言葉に共鳴し合うようだった。
やがて最後が近づくと、彼女は一層強い声でこう結んだ。
「共に立ち上がり、ダンジョンと中にいる子どもたち、そして冒険者を守れ! 私も皆と共に戦う!」
その瞬間、広場全体が拍手と歓声に包まれた。
さすが姫だ。
持って生まれたカリスマってやつか。
俺じゃこうはいかん。
個人的には――ハーピーのことがあって、魔物との共存ができないかな~なんて思ったりするが――。
あれは、俺の特殊能力かもしれないしなぁ。
迷宮教団も、教団の教義にとやかく言うつもりはないが、他人を巻き込むのは駄目だろう。
帰ってきていない冒険者たちは犠牲者になっていると思われるし。
とりあえず、ドラゴンの尻尾の上から降りた。
尻尾の周りには沢山の人たちが群がり、皿のような鱗を触ったりしている。
「おいおい、見るのは自由だが、剥がして持っていったりするなよ」
見物客に注意していると、買い取り人のオッサンがやってきた。
「兄さん! とりあえず、いったんこいつをしまってくれねぇか? 俺たちの間でも意見がまとまらねぇ」
「そうか――まぁ、こんなのを扱うのは初めてだろうしな」
「そうなんだ。多分、超高額になると思うので、共同で落札することになると思うが……」
「いっておくが、胴体もアイテムBOXに入っているからな」
「え?!」
オッサンがドン引きする。
「ああ、でも倒すときに、劣化ウラン弾を使ってしまったので、胴体の肉などは駄目かもしれない」
「れ、劣化ウラン弾?! なんでそんなものを……」
「備えあれば憂いなし――こんなこともあろうかと――ってやつだな。実際、役にたったし」
肉が食えないとなると買い取りは安くなるかもしれないが、とりあえず命は惜しい。
持っているものを全部突っ込んでも勝てるかどうかも解らない。
金勘定なんか気にしている場合ではなかった。
とりあえず、尻尾をアイテムBOXに収納した。
「「「ああ~」」」「撮影してたのに!」
そんなことを言われてもな。
こっちの事情が優先だ。
買い取りのオッサンと話していると、近くにサナがやってきた。
「撮影ありがとうな」
「そんなことより! ダイスケさん! 説明してください!」
「あ~いや~あの~その」
「ダーリン、そんな女にかまっている場合じゃないぞ? やることは山程あるし」
「だ、ダーリンってなんですか?! いつの間にそんなことに?!」
珍しく、サナが感情的になっている。
色々と、彼女やらキララにも説明しないと駄目なんだが……。
「あの~だな――さっきの演説にもあったろ? ダンジョンの深層に飛ばされたんだよ」
「それは聞きました!」
「そこで帰還のために共闘して、強敵と戦っているうちに意気投合してしまって」
「私のダーリンになったわけだ」
姫がサナに見せびらかすように抱きついてきた。
「な、なんでそうなるんですか!」
ええ? サナの様子が変だぞ。
目は潤んでいるし、顔も赤い。
もしかして――こんなオッサンなんて止めたほうがいい。
だいたい、いくつ離れていると思ってるんだ。
「なぜ? これはまた面妖なことを――私が誰だかしらないのか?」
「知っています! トップランカーの桜姫さんですよね?」
「それなら話が早い。私より強く、私に相応しい男が現れた――こうなるのも当然のことだろう?」
そう言って彼女が俺にキスをしてきた。
「「「「どよどよどよ~!」」」」
当然、周りには沢山人たちがいるし、俺たち――いや姫とカオルコを撮影していた。
そこでこんなことをしたら、注目の的になるのは目に見えている。
「桜姫に男?!」「誰だ、あのオッサン?!」「ショック!」
聞こえてくるのは、主に俺に対する悪口である。
まぁ、仕方ないっちゃ、仕方ない。
「ち、ちょっと姫」
俺は、口に吸い付く彼女を引き離した。
「ダイスケさんの、バカァァァ!」
「ちょ、ちょ!」
サナが走り出してしまったので、追いかけようとしたのだが、姫に掴まれた。
「ダーリン、やることが山程あるんだぞ?」
「うっ」
確かに、彼女の言うとおりだ。
追っかけてどうなる?
オッサンと、あんな若い娘が。
ドラゴンの屍もそうだが、今回のできごとの証拠となる動画を編集してアップロードしなくてはならない。
姫の話では、有力ギルドのトップを集めて会合をするらしい。
俺たちが騒いでいる間に、カオルコが手配してくれていた。
各ギルドに今回のことを情報共有して、対策を練らねばならない。
さすが、トップランカーだけあって、他の有力ギルドにも顔が広い。
俺だけじゃとてもじゃないが、無理だ。
なにせ、マジで冒険者になったばかりの初心者だからな。
そんな初心者だが、姫とつき合うことになれば、一緒にダンジョンに潜ることになるだろう。
小金を儲けたらささっと引退して故郷に帰るつもりだったのに、どうしてこうなった。
「仕方ない、キララに頼もう」
これからは、姫たちとのダンジョンアタックが始まり、サナたちと一緒にダンジョンに潜ることもできなくなるだろう。
迷宮教団のこともそうだし、より深層へのアタックが始まれば、危険もマシマシ。
そんな所に、彼女を連れて行けない。
サナには妹もいるし、爺さんもいる。
そんな死地に向かうほどのレベルは、今の彼女にはない。
ギルドフォーティナイナーのリーダーをキララに譲渡して、資金援助する方向に切り替えることになると思う。
そこら辺を書いて、キララのアカウントにメッセージを送った。
カオルコの話では、ギルドが資金を出して2軍を用意している所は、結構あるらしい。
初心者などは、2軍や3軍からスタートして、レベルアップなどをさせるのだろう。
ウチのギルドでは、それを俺が1人でやっていたわけだが。
すぐにキララから返事が来た。
『ざけんな!』
まぁ、彼女の怒りももっともであるが……。
「ギルドを長く続けるつもりはないと言ってあっただろう――」
『そういうことを言ってるんじゃないのよ!』
「もう後戻りできないし、資金援助はする。あとは頼む」
『死ね!』
ちょっと、ひどすぎるだろ。
まぁ、仕方ないが……。
キララに断られても、サナもそれなりのレベルになっているから、浅階層で稼ぐことはできるだろう。
彼女たちとのダンジョンも楽しかったのだが、これからガチの攻略が始まる。
「さぁ! ダーリン、行くぞ!」
彼女に手を引っ張られる。
「ちょっと兄さん! ちょっとまってくれ!」
買い取りのオッサンに呼び止められた。
「買い取り人でどうするか決まったら、俺の所にメッセージをくれ。アイテムBOXがあるから、どこにでも持っていける」
「た、助かる。マジでこんなこと経験がねぇからなぁ。しかし! こんな大チャンスをふいにしたくねぇ」
「肉は駄目だと思うが、ドラゴンの胴体もあるから忘れないでくれよ」
「解ってる!」
「あ! 忘れてた! それからな、グリフォンみたいな魔物や、人間の顔をしたライオン? みたいな魔物も仕留めたんだけど――」
「ぐ、グリフォン?! そんな魔物がいたのか?」
「ああ、ちょっと出してみるか?」
買い取り屋も、どんなものがあるのか解らないと困るだろう。
ギルドの会合があるそうだが、集まるには少々時間があるはず…
俺はアイテムBOXから、仕留めていた魔物を取り出した。
「「「「おおおおおお~っ!」」」」
俺が出した魔物の屍に、人々が沸く。
「こ、こりゃ――本当にグリフォンか?!」
「やっぱり、グリフォンなのか? ヒポポとかそんな名前のやつもいたような気がするんだが……」
「ヒポグリフな。ヒポグリフは胴体が馬らしいから、こいつはグリフォンだな」
「やっぱり、そうか――で、こっちのオッサンの顔がついている魔物は?」
獅子の身体にオッサン顔、尻尾はサソリのようになっている。
「こ、こりゃ……」
買い取り人のオッサンも解らないようだ。
「そりゃ、マンティコアじゃないのか?!」
ざわめく観衆から、声が聞こえてきた。
「ははぁ――マンティコアか……なんか聞いたことがあるな」
「こいつがマンティコアか……姫、正体が解ったぞ」
「ほう、名前は聞いたことがあるな」
オッサンも初めて見たらしい。
まぁ、姫やカオルコも見たことがなかったらしいからな。
俺もこんな魔物知らなかったし。
「こっちは、コカトリスかバジリスクだな……」
「知っているのか? ら――ゲフンゲフン」
「外国のダンジョンの資料で見たことがある」
「とりあえず、デカい獲物はこの3体だな」
「わ、わかった――とりあえず、収納してくれ」
オッサンが写真を撮っている。
打ち合わせの資料として使うのだろう。
さすがに、これだけの大物となると、個人だけで捌くのはほぼ不可能だ。
ドラゴンを解体するにしてもどこか専用の施設を用意する必要があるだろうし。
巨大な低温倉庫などじゃないと傷むのも早い。
こんな巨大な生きものを解体した経験者もいないはず。
なにもかも初のできごとだ。
ヘタをしたら、教科書に載ってしまうかもしれない。
人類初――ダンジョンでドラゴンが討伐された日――とか書かれるぞ。
田舎のオッサンが、ついに歴史に名前を刻まれる日が来てしまったか。
姫に手を引っ張られて、広場を離れた。
後ろを見ると、皆がぞろぞろとついてくる。
いったい、どこに行くのだろうと思っているのかもしれない。
「姫、どこに行くんだ?」
「私たちの本拠地だ」
「ギルドの本部か?」
「あそこだ!」
彼女が眼の前にそびえ立つ、デカいホテルを指した。
そこは以前、俺とサナが泊まって、ヘリポートから飛び立った場所。
そういえば、ここは姫の実家が経営しているという話だったような……。
「あのホテルって、姫の実家の経営なのかい?」
「そうだ」
「それじゃ、ホテルを家代わりに使っているのか……羨ましい」
「私にとっては普通だがな」
生まれついて銀の匙を持っているんだからな。
羨ましいとは思うが、実力勝負のダンジョンで実家の神通力が通用するわけではない。
トップランカーに君臨しているのは、彼女の努力の賜物だろう。
「カオルコはずっと一緒なのかい?」
「はい、小さな頃から。私に冒険者の素質がなければそこで終了だったのですが……」
「あったので、最後までつき合うことに……」
「そういうわけです」
彼女が苦笑いしている。
「そういうカオルコだって楽しんでいたではないか」
「危ないことをしだす前は結構楽しかったんですよ。ゲームみたいで」
まぁ、ランカーになったら、ドンドン深層に潜り強敵と戦うことになるからな。
そうなれば、必然的に危険度がマシマシになる。
俺たちが、ホテルに向かっていると解ると、ぞろぞろとついてきていた野次馬が減り始めた。
ついてきても、ホテルの中には入れないし。
3人でホテルの中に入ったのだが、俺たちを見た従業員たちがすっ飛んできた。
「お嬢様!」「ダンジョンで行方不明だと……」「ご無事でしたか?!」
「ああ、大丈夫だ」
「そ、そちらは――丹羽様、お嬢様とお知り合いでしたか」
なん度かここを訪れていたので、俺のことを覚えていたようだ。
まぁ、国の要請で屋上のヘリポートを使ったりしていたしな。
「はは、ちょっとダンジョンで……」
「ダーリンも、ここの客だったのか?」
「ちょっと屋上のヘリポートを使わせてもらった」
「ヘリポート?!」
「ちょっと国からの仕事でな」
「ははぁ……」
俺たちは、その場から立ち去ろうとしたのだが、上等そうな背広を着たこのホテルの支配人らしき男が走ってやって来た。
かなり顔色が悪い。
「お、お嬢様! ご無事でしたか!?」
「支配人、今帰ったぞ」
やはり支配人らしい。
「本社の社長と会長から、毎日火のような電話がございまして……」
彼が額の汗を拭き拭き、姫と話している。
そりゃ、毎日上層部から突かれたら、心労で倒れそうになるだろう。
「親は関係ない!」
「ここを使わせてもらっているわけじゃないのかい?」
「自分で稼いだ金で、ここの支払いをしているし、なんの問題もない」
そうなのか。
ここのお嬢様だから、タダで泊まっているのかと思ったら、そうでもないらしい。
「し、しかし……」
「それでは――私は無事だったと、支配人から連絡しておいてくれ」
「それは、もちろん」
「それから、もうすぐここに特区のギルド代表者が集まってくる。会議室を貸してもらう」
「ただちに用意いたします」
上から下から、雇われは大変だな。
姫は、親は関係ないと言っているが、周りはそうじゃないだろうし。
「それから、今日からダーリンとここに住むからよろしくな」
「は……?!」
支配人が、鳩が豆鉄砲を食らったような顔になっている。
そりゃ驚くだろう。
上司のお嬢さんが突然男を連れてきたんだから。
しかも俺みたいなオッサン……。
「しゃ、社長や会長にご相談は……」
「親は関係ない!」
「お、お嬢様!」
「やって来るギルドの代表は、会議室に通してくれ」
「し、承知いたしました」
これ以上の話は無駄だと思ったのか、俺の手を引っ張って、彼女がスタスタと奥に進んでしまう。
「姫、いいのかい?」
「なにがだ?」
「今の話が実家に伝わると、ご両親が乗り込んでくるんじゃないのか?」
「お父様や、お祖父様がここに来たら、縁を切ると言ってあるから大丈夫だ」
「かわいそうに……」
「まったく、かわいそうじゃない! かわいそうなのは私の方だ。成人まで言うことを聞いたのだから、あとは私の好きにさせてもらう!」
つまり、彼女は16のときから、実家を出てこういうことをしているってわけだな。
よく無事だったなぁ――と、思わなくもないが、人としてもポテンシャルが高いのだろう。
成功する人ってのは――「あ、この人は普通とは違うな」と直感するのだが、彼女にも同じものを感じる。
ようは、なにごとも普通じゃ極めることはできないってことなのだろう。
俺みたいなラッキーとインチキはさておき。
通路を3人で歩いて、エレベーターの前までやってきた。
これは俺がヘリポートに向かうときに使ったエレベーターである。
特別な施設などにアクセスするときには、これを使うのだろう。
ヘリポートを使うわけではないので、途中の階で止まった。
彼女たちについて通路を歩いていく。
茶色の簡素なドアを開けると、中には広い部屋。
細長い机が四角に配置されて、窓際には折りたたんだ沢山のパイプ椅子が立てかけられていた。
「へ~、ホテルの中でもこういう場所があるんだな」
「従業員が会議で使ったりするからな」
「ああ、そうか……」
慰安とか送別とか、そういうのもあるな。
壁には大型のスクリーンとプロジェクターらしきものもある。
「プロジェクターは使えるのかい?」
「多分、使えると思う」
彼女が指す方向に、小さな机がある。
こういうのにノートPCなどを接続して、パ◯ーポイントなどを使うのか。
会社の会議でありがちだ。
プロジェクターに表示される、グラデーションがかかったダサダサフォントが目に浮かぶ。
「よし、俺の持ってるノートPCを接続して、映像を出せるようにしてみるよ。集まってきた連中にも映像を見せたほうが早いだろ?」
「ダーリンに任せた」
「はいよ~」
「私たちは、着替えてくるからな」
「さすがに、その格好じゃやらないか、ははは」
「まぁ、一目で私と解るだろうから、こいつも便利といえば便利なのだが――」
「そうだな」
笑いながら返事をした俺の所に姫がやってきた。
「私とて、好きでこんな格好をしているわけではないぞ!」
そんなことを言いながら迫ってくる。
「俺はまた、戦神アテネを思わせるような素晴らしい身体を誇示しようとしているのかと……いや、魔物を狩るからアルテミスかな?」
「そんなわけがあるか!」
「はは、そうなのか」
彼女が俺から離れると、なにやら胸の辺りを気にしている。
「さ、さっきの女も胸が大きかったが――ダーリンもやっぱり、胸が大きいほうが好みなのか?」
さっきの女というのはサナのことか。
「いやぁ――そりゃきっかけは見た目だから、大きな胸は目につくけど、実際に付き合うとなると人間性が重要になってくるからなぁ」
「そうか」
「だいたい、姫は自分より強い人ってのは条件らしいが、俺が最低な人格だったらどうするつもりなんだ?」
「そんなの、私が変えてみせる!」
なんだか解らないが、凄い自信だ。
黙って話を聞いていたカオルコが口を開いた。
「人間性というのは極限で顕になるでしょう? ダンジョンの深層に飛ばされたという極限状態で、ダイスケさんは私たちを助けてくださいましたわけですし……」
姫が腕を組んで、ウンウンと頷いている。
「そのとおり。クズだったら、そんなことはしないだろう? 真っ先に私たちの身体を狙ってくるはず」
「まぁ、俺もあまり立派な大人じゃないんだけどなぁ……」
話はそのぐらいにして――彼女たちは着替えるというので、俺はアイテムBOXからノートPCを出して、プロジェクターに接続することにした。
さて、ギルドの代表が集まってくるのか。
一癖も二癖もある連中がやって来るんだろうなぁ。