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47話 帰ってきた


 深層に飛ばされた俺たちは、やっと他の冒険者がいる階層まで戻ってきた。

 もう移動は嫌なので、エレベーターと列車を使って帰ることに。


 4階層のキャンプ地にあるエレベーターを待っていると、沢山の荷物が降りてきた。

 それと一緒に上等そうな装備の冒険者たちも降りてくる。

 ファンタジーに出てくるような、立派なプレートアーマーの男もいるのだが、そいつを見て姫が嫌な顔をした。

 どうも、あまり会いたくない人物らしい。


 降りてきた、魔導師らしい女性と目が合う。

 ファンタジー風味な上等そうな緑色のローブを羽織り、杖を持っている。

 栗色の巻き毛がローブからはみ出していた。


「ちょっと! 桜姫と、エンプレスじゃない?!」

 高レベル冒険者同士、面識があるようだ。


「ああ、お前か」

 姫の口調と表情から、あまり会いたくない人物なのだろう。

 どちらかといえば、苦手なタイプか。


「行方不明だって聞いたけど?!」

「そのとおりだ。迷宮教団の女に深層まで飛ばされて、今帰ってきたところだ」

「え?! 迷宮教団?! どういうこと?」

 カクカクシカジカ――姫が同じ説明をしている。


「それじゃ、迷宮教団の連中が、テレポーターかダンジョンウォークみたいな魔法で、ダンジョンの中を自在に移動しているってこと?」

 女魔導師の言葉を聞いて、他の冒険者も集まってきた。

 姫は人気者だからな。

 それに、一緒にいるカオルコも、人気を二分するぐらいの人気だ。

 一目だけでも――って男も多いだろう。


「どうやら、そうらしい」

 俺の言葉に、女が反応した。


「あなたは?」

 アイテムBOX持ちのオッサンの説明をした。


「ああ! いたわね! そういうオッサンが! まさか桜姫と一緒とか」

「そうだ! 私のダーリンだからな」

「「「えええっ!?」」」

 また、この反応だ。

 まぁ、仕方ないっちゃ~仕方ない。

 トップアイドルのお相手がオッサン――みたいな話だし。


「ちょっと、桜姫! 冗談でしょ?!」

「冗談などではない! 私が常日頃から、私の相手に対しての条件を言っていただろう」

「自分より強い男でしょ?」

「そのとおり」

「それじゃ――この男が?」

 女が俺を指した。


「ああ、世界最強だぞ?」

「嘘ぉぉ~」

 女はまったく信じていない様子。


「ははは……」

 俺としては苦笑いするしかないな。

 アニメや漫画だと、ここで「それじゃ――世界最強とかいう、あんたの実力を試させてもらおうか?」なんて、バトルシーンが挟まるところだが……。


「そんなオッサンが?! なにかの冗談だろ?」

 兜を被り、プレートアーマーを着た男が、前に出てきた。

 フル装備を着こなしているだけあって、かなりゴツい男だし、腕っぷしにも自信があるのだろう。

 背中に背負っているデカい剣も、いかにもパワータイプの剣士とか戦士を思わせる


「冗談など言うつもりはない!」

「それじゃ、このオッサンが世界最強だと言うのか?」

 男も俺を指した。


「そのとおり!」

「俺の誘いを断って、こんなオッサンと付き合うって言うのかよ!」

「はは、雑魚は黙ってろ」

「なんだと?!」

 おいおい、喧嘩を売るなよ。

 その前に――普段の姫は俺の話を聞いているが、本当に俺が強いから聞いているらしい。

 今の会話から察するに、俺が普通のオッサンだったら話をするつもりもないんだろうな。

 はっきりとした性格というか、なんというか。


「ちょっと姫……」

 さすがにマズイと思ったのか、毛布をかぶっているカオルコも止めに入った。


「エンプレスも、その格好はなんなの?」

 女の魔導師がカオルコの格好を小馬鹿にしている。

 トレントとの戦闘で、彼女のローブが破れてしまったからな。


「戦闘で、ちょっと装備を破損してしまったのです」

「ふ~ん」

 女がカオルコが羽織っている毛布の隙間から、装備を覗こうとしている。


「そんなことより! オッサン! 俺と勝負しろ!」

「はぁ?! また、面倒なことに――俺になんの得が――」

「いいぞ」

 そう言ったのは姫だが、なんだもう――結局、こうなるのか。

 俺はカメラでの撮影を開始した。

 なにかの証拠に使えるかもしれん。


「ははは! オッサンの化けの皮を剥がしてやるぜ! 怪我したり死んだりしても、冒険者なら恨みっこなしだからな」

「死んだりしたらPKになるだろうが」

「ここには俺たちしかいねぇ」

 いやいや、荷物を搬入している作業員とかもいるぞ?


「俺は動画サイトをやっていて、ダンジョン内の動画も撮影できるぞ? 当然、この戦闘も?」

「え?! マジ?!」

 魔導師の女が反応した。


「そういえば、ダンジョン内の動画が出て、バズっているって話があったな」「俺も動画を見たぞ」

「それじゃ、『踊る暗闇』ってギルドのやつが、PKしかけてきて返り討ち――グールになった動画も見ただろ?」

「ああ、あの動画を上げたオッサンだったのか」

「――というわけで、止めたほうがいいんじゃないのか?」

「ははは! この場でオッサンをやっちまえば、そんなこともできなくなるよなぁ」

 ランカーってこんな奴らばかりなのか?

 まぁ、人智を超えた力を持つってのは、「自分は特別な、選ばれた存在」なんて勘違いをするぐらいにすごいものなんだろうけど。


「おいおい、止めようぜ?」

「そうはいかねぇ。お前を殺れば、桜姫は俺のもんだ」

 男が、背負っていたデカい得物を抜いて構えた。


「マジで?」

 洒落になってねぇ。


「桜姫! 構わねぇな?!」

「ははは、勝てればな」

 彼女が腕を組んだまま、高笑いをしている。

 姫も止めてくれよ。

 まぁ、彼女は俺が負けるはずがないと思っているのだろうけど。


「吐いた唾は飲めねぇんだぜ!」

 男が巨大な剣を振りかぶると、俺の頭をめがけて振り下ろしてきた。

 その切っ先が白い軌跡となって俺に被っていたことから、振り下ろされた剣が本気なことが解る。


 俺はその白い線を躱して後ろに下がったのだが、その動きを見た男が、すぐに間合いを詰めてきた。

 さすが、ランカーの動きだ。


 魔物になら通用するのかもしれないが、相手は人間でしかもアイテムBOX持ち。

 さすがに、タンクの下敷きにすると、マジで死んでしまうだろうから、収納から瓦礫を出した。

 なまじスピードがあるので、直線上に現れた障害物に衝突してしまう。

 原発跡地で俺を襲った某国の特殊部隊と同じ格好になった。


「ぐぁっ!」

 自分のスピードで瓦礫に正面衝突して、地面に転がる。

 すかさず、そこに回り込んで、男の側頭部を蹴った。

 脳みそを揺らすことで、脳震盪を狙った攻撃だ。

 高レベルのランカーだろうし、少し強めに蹴っても大丈夫だろう。


 移動速度が上がっているから、Gへの耐性も上がっているんだろうし。


「ほいっと――これで決着ついただろ?」

「ははは! だから言ったのだ! 私が嘘をつくはずがないだろう――ねぇ、ダーリン」

 姫が俺に抱きついてきた。


「う、うそ……まるで子どもをあしらうみたいに……」

 女の魔導師が驚いているが、奇襲が上手くハマった感もある。

 確かに俺のレベルは高いが、戦闘の経験値からいえばまったく素人も同然。

 相手が魔物ならともかく、対人戦闘となると真正面からはできない。

 なにがあるか解らんからな。


「て、てめぇ! アイテムBOXを使うなんてきたねぇぞ!」

「ええ?! 魔物に奇襲されて、『きたねぇ、正面から戦え!』とか、言っちゃうタイプ?」

「ぐぬぬ……」

 男は脳震盪を起こしているようで立てないでいる。

 それも、回復ヒールやら回復薬ポーションで治るんだろう。


「アイテムBOXも俺のスキルだからな。戦闘に使うのは当然」

「ははは! さすがダーリン! もっと言ってやってくれ。こいつは、自分の実力をわきまえずに増長する私の一番キライなタイプだ」

 姫が両手を腰に当てて、高笑いしている。

 俺にのされた男は、さすがにしょんぼりしているようだ。

 まぁ、アイテムBOXがなくても勝ててないと思うし。


「喧嘩をけしかけるのは止めてくれよ」

「私を狙っている男どもは多かったからな。そういう輩は全部黙らせる!」

「えええ? そりゃ、ダンジョンは実力社会だけどさぁ」

「ならば問題あるまい!」

 おおあり名古屋は城でもつんだよなぁ。

 そこに、女の魔導師がすり寄ってきた。


「おじさん~、本当に強いんだ~、私なんかどう? 桜姫より胸は大きいよ」

「やめろ! ミカン!」

「みかん?」

「そいつはミカンという名前なんだ」

「ウチには、キララって女もいるしなぁ――キラキラネーム世代だなぁ」

「キララ? もしかして、山田キララ?」

 どうやら女魔導師同士、知り合いだったらしい。


「知ってるのか?」

「あのBBA、まだ生きてるんだ」

 ひでー言われようだな。

 まぁ、あの性格だし、嫌っているやつも多そうだが……。


「最近は、心を入れ替えてちゃんと冒険してるし、後進の育成にもあたってるんだぞ」

「ふん……いつまで続くやら……」

「ほら、胸の大きさなら、エンプレスに敵わないし」

 俺は、カオルコを指した。


「ぐ?!」

 まぁ、無理だよなぁ。


「ほら、離れろミカン! 弱さが感染る!」

 俺と女の間に、強引に姫が割り込んだ。


「なによ!」

 彼女のほうがレベルがかなり上らしいから、抗うのはちょっと無理っぽい。


「さて、上に戻ろうダーリン」

「ああ――さっきも言ったが、迷宮教団には気をつけてくれよ」

「俺たちはそんなヘマはしねぇ――それに、最初からそういう連中だって解れば、対処のしようもある」

「そうだな。すくなくとも、初見殺しではなくなる」

「ふん……」

 俺と戦った男は、仲間の回復ヒールで戻ったようだ。

 やっぱり、高レベル冒険者だと、あのぐらいじゃすぐに復帰するのか。

 それでも、俺の実力が解ったのか、大人しくなった。


「それじゃな」

 ちょうど、エレベーターの荷物の搬入と搬出も終わったので、乗り込むことに。

 柵のような扉が閉じられると、ゆっくりと鉄の檻が上っていく。

 垂直距離は100メートルぐらいだろうか。


 普段は斜面を降りているからな。

 勾配が5%で垂直距離が100mだとすると、斜面の長さは2kmぐらいになる。

 5%でも結構な急坂だし、高いレベルで運動能力が強化されていないと、かなりキツイ。


 大きな音とともに機械が止まり、3層に到着した。

 ここからは列車に乗る。

 初めて乗るのだが、こういう機会がないと乗らないだろうし、ちょっと楽しみでもある。


 エレベーターの近くに列車のホームがあった。

 ちゃんとコンクリート製だ。

 おそらく最初に鉄道を敷いてから、セメントなどを運び込んだのだろう。


 列車も止まっていたが、客車は1両だけ。

 多分、都内の通勤列車からの転用だろう。

 古くなって捨てるような車体をここに運び込んだに違いない。

 以前は、こういう車体を海外に輸出していたのだが、今はそれも無理な感じになっているし。

 だいたい、動く船が少ないしな。


 普通の車両と違うところは、まったく明かりがないところか。

 ホームには光ファイバーの明かりがあるのだが、車両の中にはそれがないので、四角くて真っ暗な窓が不気味に並んでいる。


 客車の他は全部が貨車で物資を運んでいるのだろう。

 そういえば、黒い毛皮のトロールもこいつで運んでいたしな。


 客車に乗り込むと、ケミカルライトを持った車掌がいる。

 明かりはこれだけだが――まぁ、俺たちは暗闇でも目が見えるから、問題ない。

 中は通勤列車のような対面シートと、ぶら下がっている吊り輪。

 東京で働いていたときのことを思い出すが、客は俺たちだけなので、まるで幽霊列車のよう。


「これ、切符とかどうするんだ? 現金がないから、支払いができないぞ?」

「ダイスケさん、後払いですよ」

 カオルコが教えてくれたので、冒険者カードを渡すと、二次元コードが印刷された切符を渡された。

 ダンジョンから出たら、こいつを読み込んで支払いをするらしい。


「それにしても、もっと利用客がいると思っていた」

「ここはちょっと深いですからね。1層や2層だと結構利用客がいますよ」

「そうなのか」

 当然だが、深層になるほど運賃が高い。


 こうやって苦労して人や物資を運んでいるのを見ると――俺のアイテムBOXが、どれだけチートなのかよく解る。

 アイテムBOXがあれば、最初に大量の物資をダンジョンに運び込めるので、ダンジョンの開拓スピードもアップできるだろうし。


 ああ、そういえば――原発の仕事が中途半端になってしまっていたな。

 ちょっと休みのつもりが、こんなことになってしまったし。

 役人の晴山さんも怒ってるだろうなぁ。


 契約解除にならんだろうな?

 いくら仕事をサボったといっても、あそこまでやって契約解除だから金を払いません――なんて言われたら、俺もちょっと考えちゃうよ。


「ダーリン、どうした?」

 ちょっと穴の開いた対面シートに座って考えごとをしていると、姫が話しかけてきた。


「いや、今回の騒ぎで、頼まれていた仕事をサボってしまったので、先方が怒っているだろうなぁ――と」

「今回のことは仕方ありませんよ。ダンジョンの事故ですし」

 カオルコはそう言ってくれるのだが――。


「まぁな」

「向こうもこちらが冒険者だとご存知なのでしょう?」

「知っている」

「理解をしてくれると思いますよ」

「そうだといいんだけどなぁ」

 3人で話していると、列車が動き始めた。


 列車は暗闇のダンジョンの中をゆっくりと進む。

 黒々とした岩壁が列車の両側に迫り、まるで生き物の中を走っているような感覚に襲われる。


 線路はダンジョンに沿って敷かれているのだが、ある程度はダンジョンを削りカーブなどを少なくなるように工事されているらしい。

 本当なら、トンネルをまっすぐに掘ればいいのだが、ここのダンジョンではそれが通じない。

 穴を開けると、他の場所に繋がってしまうからだ。


 非常に面倒なことだが、抜け道もある。

 すでに開いている穴を拡張するなら、問題ない。

 たとえば、隣り合った部屋があると、壁をぶち抜くと他の場所に繋がってしまうが――。

 すでに開いている穴――扉などの部分をそのまま広げて隣につなげてしまえば、穴を開けることができる。


 そう考えると、俺たちが這いずり回っていたあの横穴――あそこも徐々に広げていけば、ダンジョンや7層入口を塞いでいる壁に穴を開けることも可能なのではあるまいか。

 試してみないことには不明だが、そのうち誰かがやるかもしれない。


 列車の車輪が軋む音が、ダンジョン内の静寂を切り裂く。

 金属音が反響し、遠くの見えない場所からも返ってくる。

 その音はまるで、闇の中に潜む未知の存在が囁き合っているかのよう。


 先の見えないトンネルはまるで無限に続くかのように感じられた。

 外を覗くと――おそらく冒険者たちが使っている明かりが、チラチラと動いている。

 車内が真っ暗なので、外の明かりがよく見えるのだ。


 ダンジョン内の空気はひんやりと冷たく、湿気が感じられる。

 岩肌の天井からは時折、水滴がぽつぽつと落ちてきているらしく、列車の屋根に当たる音がリズムを刻むように響く。


 外の景色を眺めていると、3層入り口にあるキャンプに到着した。

 ここまで来ると人が多い。

 姫とカオルコも、深くローブと毛布を被ってしまった。


 人が多くなってきて正体がバレると、話しかけられることも増えるのだろう。

 俺はいまだに普通のオッサンだからな。

 アイテムBOXのネタを出すと、「ああ~あの人ね」って感じになるが。


 俺のレベルは公表してないので、世間の認識は偶然アイテムBOXをゲットしたラッキーなオッサン――ぐらいなのかもしれない。


 多くの人たちとエレベーターに乗る。

 2層を走る列車は、客車が2両に増えて多くの乗客が乗っていた。

 最後の1層を走る列車には、客車が3両。


「結構、利用する人がいるんだな」

「……」

 2人は、黙って息を潜めている。

 正体がバレると面倒なのだろう。


 武器はアイテムBOXに入っているから持っていないし、ローブや毛布を被っているので軽装に見える。

 彼女たちがトップランカーだとは、誰も思わないはず。


 しばらく走った列車が止まる。

 懐かしのエントランスホールだ。

 俺の勘だと、外は夕方ごろだと思うのだが。


「ホールよ、私は帰ってきた!」

 マジで大変な帰路だった。

 生きて帰れたのが、不思議なぐらいだ。

 これも2人がいてくれたおかげ――いや、あのハーピーのおかげか。

 ハーピーたちは大丈夫だろうか?


 冒険者たちに魔物を殺すな――とは言えんしなぁ……。

 そもそも、俺に懐いているのが、異常なわけで。


 沢山の冒険者と一緒に列車を降りて、外に出ると空が赤くなっていた。


「おお、体内時計は、そんなに狂ってなかったな」

「そうですね」

「姫――すぐに人の多い場所に行って、ぶちかますか?」

「うむ、遅れるとそれだけ被害者が出るかもしれん」

「疲れているだろうが、もう一踏ん張りだ」

「承知している。これは私たちだけの問題ではない!」


 夕焼けの中、出口前の市場は鮮やかなオレンジや深紅に染まり、辺り一面がまるで炎のように輝いていた。

 太陽はゆっくりと沈みかけているが、空と大地の境界は乱雑な建物によって隠されている。


 その景色の中に、沢山の冒険者たちが活気に満ちた姿で集まっていた。

 冒険者たちは仲間同士で話し合いながら、次の冒険に向けて準備を整えているのだろう。

 彼らの顔には興奮と期待が浮かび、夕陽に照らされて赤く染まった頬が一層情熱的に見える。

 俺たちは、この冒険者たちを守らなくてはならない。


「姫、買い取りをやっている所でやろう」

「承知した。ダーリンに任せる」

「OK!」

 魔物や魔石を買い取りをやっている商売人たちの所に向かうと、俺は大声で叫んだ。


「誰か大物を買ってくれ!」

 俺の声に、買い取り人たちが一斉に向いた。

 その中には、知った顔も見える。


「兄さん! しばらく見なかったから、くたばったかと思ったぜ」

 前に俺から買い取りをしてくれたオッサンがやってきた。


「ああ、マジで死にそうになってたんだけどな」

「それで? 大物ってなんだい?!」

「聞いて驚け――ドラゴンだ!!」

 俺は一段と大きな声で叫ぶ。


 今までここでドラゴンが取引されたとは聞いたことがない。

 それどころか、ネットでもそんな話は転がっていなかった。

 ――ということは、日本初――いや世界初の討伐になるかもしれない。


「ドラゴンだぁ?! 兄さん、いくらなんでも……」

「なんだ? ホラだって言うのか?」

「だってなぁ……」

「よし! アイテムBOXに入っているから、この場で出してやる。仕留めてすぐに収納したから、ホカホカで湯気が立っているぜ?」

 どうも信用していないようだ。

 周りにいる人たちを巻き込んでスペースを開けさせる。

 ドラゴンなんて珍しいから、みんな協力してくれるわけだ。


「よっしゃ! ドラゴンの尻尾召喚!」

 さすがにドラゴンの胴体を出す広さはない。

 もともと、そんな大物を出す場所じゃないしな。


 大きな音とともに、デカい鱗に覆われたドラゴンの尻尾が現れた。


「「「おおおおおお~っ!」」」

 周りから、一斉にどよめきと歓声が湧き上がった。

 買い取り人たちも、びっくりして腰を抜かしたようだ。


「でけ~!」「ドラゴンの尻尾か?!」「あのデカい鱗を見ろよ! あんなの見たことがないぜ?!」


 周りは当然、黒山の人だかりで注目の的――お膳立てはできた。

 俺と姫、カオルコの3人でドラゴンの尻尾の上にジャンプ。

 集まってきた特区の住民たちを見下ろすと、ローブを脱いだ。

 彼女の肌を晒したわけだが、これで人々はこちらに釘付けになった。


「皆、聞いてくれ――私は桜姫!」

 彼女の澄んだ高らかな声に、人々がざわつく。


「桜姫だ!」「桜姫!」「それじゃ、隣にいるのがエンプレス?!」「あのオッサンは誰だ?!」

 皆が姫に注目している。

 さすがのカリスマ――ツカミは万全だ。

 やはりここでも、知名度抜群の姫が演説するのが一番効果的だ。

 賢い彼女もそれを理解している。


「ダイスケさん!」

 突然、聞き慣れた声が聞こえてきて驚いた。

 声の主を探すと、サナが手を振っていた。


「サナ!」

「心配したんですよ!」

 彼女が泣いているように見える。

 悪いことをしてしまったが、こいつは事故に巻き込まれてしまったわけだし。


「心配かけたな! やっと戻ってこれたんだよ!」

「ダイスケさん!」

「ごめん――レンのことは見つけられなかったよ」

「は、はい……」

「サナ、ちょっと悪いが、俺のことを撮影しててくれ。これから大切なシーンがあるんだ」

「は、はい」

 彼女に近くに来てもらい、俺のスマホを渡した。


「むう!」

 姫がこちらを睨んでいる。


「ウチのギルドの子なんだよ」

「姫、面倒くさい女は嫌われますよ」

「面倒くさい言うな!」


 それはともかく――地獄から舞い戻った俺たちの、告発劇が始まった。


 

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