45話 100m
2人の女の子を引き連れて、地上への帰還を急いでいる。
――といつつ、ダンジョン温泉に入ったりしているのだが、不眠不休の強行軍はできない。
魔物との戦闘もあるしな。
延々と続く迷路のようなダンジョンをショートカットするために、俺たちは横穴に入った。
ここからハーピーが出入りしているので、抜けられるのは間違いないだろうが――。
穴の中で大量の虫に囲まれ、姫が壊れてしまった。
幼児退行して、泣き叫んでいる。
虫がよほどストレスになったようだ。
俺みたいな田舎育ちだと、多少の虫には耐性があるんだがなぁ。
開かずの小屋を開けたら、一面がカマドウマだらけだったとか、気温が下がってくると家の周りがカメムシだらけになるとかな。
幸い、試される大地にはGがいないのが救いだ。
「うわぁぁぁん! サクラコ、もうおうち帰るぅぅぅぅ!」
ガン泣きである。
「あ~、よしよし! 怖かったねぇ~、もう大丈夫だから」
泣いている姫を抱きしめて、なでなでしてやる。
「うわぁぁぁん!」
「もう大丈夫だよ~――カオルコはどうだ?」
「……大丈夫ですけど……」
めちゃテンション低い、ド低音の声が聞こえてきた。
「虫とか平気なのか?」
「平気じゃありませんけど……先にドカーンとされちゃうと、こっちは超冷静になっちゃいますよね……」
「ああ、わかるわかる」
「あはは……」
もうヤケクソ――みたいな顔だ。
姫の虫を払ってやると、俺はアイテムBOXからブルーシートを取り出した。
「ほら、この上には虫がいないから、乗って」
「グスングスン……」
このまま引っ張っていけば、虫の上に乗らずにクリアできる。
下は虫で埋まっているし、潰れた脂のようなものと殺虫剤が混じりあって、ズルズルだ。
ザリザリという音を立てながら、ブルーシートの船が黒い海を進む。
「カオルコ、せめて長靴でも履くか?」
俺はアイテムBOXから長靴を取り出した。
俺がいつも農作業で使っていた、丈夫なやつだ。
「あ、それはいいですね」
彼女が長靴に履き替えて、黒い絨毯をベキベキと踏み潰している。
どうやら、開き直ったらしい。
意外とカオルコのほうが、ヤベー性格だったりして。
それはさておき、2人ともお嬢様っぽいしなぁ。
虫やらとは、無縁な生活をしてたんだろうし。
今回の虫はダンジョン固有のものっぽいが、すでにGやらゲジやらカマドウマやら、地上の虫たちも暗闇に入り込んで繁殖している。
そういう連中も魔力で魔物化したりしないだろうな?
巨大Gとか、巨大カマドウマとか、嫌だぜ、そんなの。
そうなったら冒険者なんてやめようと思う。
生理的に無理だからな。
姫が乗っているブルーシートを引っ張りながら、片手には殺虫剤。
暗闇に噴射しながら移動する。
いると解っていれば、事前に噴射して接近は防げる。
そのまま虫の絨毯をクリアしたのだが、ブルーシートを引っ張る手にも、穴が登り坂になっているのがわかる。
幸い、穴の高さは増して、立って歩けるようになった。
「ほら、虫はなくなったぞ」
「……」
ブルーシートから降りた姫が、俺に抱きついてきた。
これじゃ、戦力にならないぞ。
早く正気に戻ってほしいところだが……とりあえず、この穴を出てからじゃないと無理か。
姫はすっかり戦意喪失しているので、彼女を背負いながら穴を上る。
上るのはいいのだが、出口が地面から100mの高さ――みたいな感じだったらどうする?
そりゃ、ハーピーは出入り自由だが、俺たちはそうもいかない。
「ん? 気のせいか、ちょっと風の流れが強くなった気がする」
「はい、出口が近いんじゃないでしょうか?」
「かもしれんな」
果てしなく続くかと思われた苦しい旅路だったが、ようやく出口の兆しが見え始めた。
その希望の光に照らされ、カオルコにも再び明るい表情が戻ってきたように見える。
穴の果てが徐々に大きくなる。
確かに出口である。
疲れ果てていたカオルコの顔にも安堵の色が浮かび、笑顔がこぼれる。
重い足取りも軽やかになり、俺たちの心にも希望が湧いてきた。
「姫、もうすぐ出口だぞ!」
「……でぐち?」
「そう! 出口だ」
「外に出られるの?」
「いや、ダンジョンの外じゃないが……」
「ううう……」
彼女がまた泣き始めてしまう。
それでも、穴の外に出たら、落ち着くのではあるまいか。
登坂は最後には5mほどの崖になっていたので、ここでもハシゴが大活躍だ。
ハシゴを上って頭だけ出すと――辺りを確認する。
踊り場らしき場所が見えるのだが、なんだか様子が――くさいし!
「ギャ! ギャッ!」「ギャーッ!」「ギャ!」
そこにいたのは、様々な毛色をした沢山のハーピー。
ここは、彼女たちの巣だったようだ。
巣といっても、普通の鳥のような木の枝などを集めて――そんな感じではない。
ただ、ダンジョン内のゴミだろうか?
そんなものを集めてベッドにしているような感じ。
「ひーふーみ――10羽ぐらいか……」
胸があるから、全部メスだな。
――というか、メスしかいないようだ。
そういう魔物だろうし、ここで繁殖しているのでもないのだろう。
4層にいるから、4層を寝床にしているのかと思ったら、意外と行動半径が広いらしい。
「ダイスケさん! 魔物ですか?!」
下からカオルコの声がする。
「ああ、ハーピーが沢山いる」
「どうします? 外なら魔法を使って焼き払うのも簡単ですけど」
「それもちょっと可哀想な気が……」
「相手は魔物なんですよ」
カオルコは、そうは言うがあれだけ一緒に過ごして、今回道案内もしてもらったしなぁ。
いや、あの彼女とは違う個体なのだが……。
どうしようかと迷っていると――。
「ギャ! ギャーッ!」
1羽のハーピーが飛んできて、俺とハーピーたちの間に入った。
小綺麗なこいつが、いつものハーピーだろう。
沢山いる彼女たちだが――よく見ると、みんな毛色が違うし、顔も違う。
髪型はボサボサなので、みんな同じ感じなのだが、髪質が違う個体もあるようだ。
癖っ毛と、ストレートヘアみたいな感じだな。
顔立ちにも結構個性がある。
「ギャ! ギャッ!」
「……」「……」
仲裁をしてくれたのか、周りがみんな静かになった。
敵対してこないなら、わざわざ戦うこともない。
俺も敵対心がないことを示すために、アイテムBOXから食い物を出した。
パンがいいと思うのだが、品切れだ。
俺が放り投げたのは、ナイフで切ったカロリーバー。
それがなにか知っているハーピーが真っ先に足で掴んで食べている。
彼女を見た、他の個体もカロリーバーを掴んで食べ始めた。
「ギャッ!」「ギャー!」「ギャッギャッ!」
なんだか騒いでいるのだが、怒っている感じではないな。
俺は、追加のカロリーバーも切ってやると、地面に放り投げた。
他のハーピーたちも食べ始めたので、警戒を解いてくれたってことだろう。
それにしても、ハーピー同士でも意思の疎通ができるんだな。
やっぱりこいつらは、結構知能が高いのでは?
知能が高いし、意思の疎通ができるとなると、「魔物と和解を!」「魔物は殺すべきではない!」
――みたいな連中が増えそうだな。
とりあえず、沢山のハーピーがいる光景は珍しい。
アイテムBOXからカメラを出すと、彼女たちの様子を撮影した。
戦闘だけじゃない、たまにはこういう動画もいいだろう。
群れの一番後ろに、この騒ぎからハブられた鈍くさそうな個体がいる。
彼女も食いたいようなので、この子の前にカロリーバーを投げてやった。
最初は、おっかなびっくりだったが、俺のやったものを食い始めた。
喜んでいるので、美味そうである。
「ギャギャ!」「ギャッ」
どうやらハーピーたちの警戒心は解けたようである。
「大丈夫そうだ! 出よう!」
ハシゴを上って踊り場に出ると、姫を背中から降ろす。
そこに、ちょっとおどおどしたハーピーがやってきた。
一番最後にカロリーバーを食べていた、鈍くさなやつだ。
髪の毛がストレートで、ちょっと長い。
「ギャ」
「はは、ごめんな~もうないぞ」
しゃがんで彼女の頭をなでていると姫が切れる。
「ダーリンは、私なんかよりハーピーのほうがいいんだ!」
「ええ~? そんなことないぞ?」
「ハーピーをHに使う、変態たちと同じなんだぁ!」
「ええ?! 生きてるハーピーって高く売れるけど、そういうのに使うからなのか?」
「うあぁぁぁん!」
姫が、また泣き出してしまった。
どうも、元に戻りきっていないようである。
「はいはい、サクラコ様、面倒くさい女はそのぐらいにしたほうがいいですよ」
カオルコがやってきて、姫をなだめている。
「面倒くさいって言うなぁ!」
「そういうことばっかり言っていると、ダイスケさんにも嫌われてしまいますよ」
「うう……」
まぁ、このぐらいで嫌いになることはないけどな。
俺から見たら、彼女たちはまだ子どもみたいなものだし。
それよりもだ――。
「カオルコ、君は大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
「ちょっと姫のことを任せた」
「どうぞ」
「さて、ここがどこか、確認しないとな」
「穴の中で、かなり高い所に上った感じでしたけど……」
「そうなんだよなぁ――それが心配だよ」
俺はハーピーたちをかき分け、踊り場の端まで行くと、恐る恐る下を見た。
「どうですか?」
「なんじゃこりゃ!」
「なんですか?!」
地面っぽいのが見えるのだが……遥か下だ。
それだけではない。
地面から垂直に切り立つ壁が天井まで続いている。
まるで巨大なホールが垂直な壁によって、行き止まりのようになっている。
「多分、100mぐらいの高さがある……」
もしかして、そんな感じになっているんじゃ――と思っていたら、マジだった。
「え?! そんなに高いんですか?」
「ああ……お?」
俺は、下にチラチラ移動している明かりに気がついた。
多分、魔法の明かりだろう。
ここまでやってきた冒険者たちがいるってことだ。
「なんですか?」
「多分、他の冒険者がいるっぽい」
「本当ですか?!」
カオルコも俺の所にやって来ると、一緒に巨大なホールを眺めている。
「こ、ここは……?!」
「もしかして、知ってる場所かい?」
「はい! ここは、7層の入口です――サクラコ様!」
彼女が姫を呼びに行くと、一緒に眼下の光景を眺めている。
「それじゃ、君たちは6層をクリアしてここまでたどり着いたことがあると……」
「そうです! でも、入口はまったく解らなくて、引き返しました」
「……」
姫はじっと、巨大な壁を見つめている。
「もしかして、その発見できなかった入口ってのが、ここだったり?」
「えええ~っ?!」
カオルコは、本当に嫌そうな顔をしている。
まぁ、俺たちが遭遇した色々からしてみれば、当たり前かもしれない。
もっと、強力な魔物的な虫だったら、あそこで死んでたし。
「ここしか入口がないと解れば、階段も作られるし、穴を広げられると思うけど」
「だが、通路が広がると、大型の魔物が湧くかもしれん」
突然、姫の口から言葉が出た。
「おっと、姫が正気に戻った。姫もここまで来たんだね」
「ああ、ここが7層の入口だ」
「――ということは、俺たちは6層まで戻ってきたってことか」
「やりました!」
「まぁ、ここからなら、そんなに危険なことはないだろう。ミノタウロスも倒したし」
「やつはそれなりに危険だと思うが……」
「ほら、俺にはアイテムBOXもあるし、ははは」
「ダイスケさんの言うとおり、下で魔法の明かりが動いてますね……」
あれが、チョウチンアンコウ的な疑似餌ってことはないよな?
「魔法の明かりで、釣りをする魔物なんていないよなぁ?」
「見たことがありませんが――多分……」
カオルコも自信がないようだが、そんなことよりだ。
目下、俺たちには、重大な問題がある。
「どうやって、この空中の踊り場から降りたものか」
「あ、あの~、もう穴に戻るのは嫌なんですけど……」
彼女も虫に襲われたのが堪えたのか、身震いしている。
かなりのトラウマになったようだ。
「いや、俺だって勘弁だよ。それに戻っても、ここの壁には迷宮の入口はないんだろ?」
「そうですよねぇ」
「もしかして、裏から扉が開くタイプなのかもしれないな」
姫の言うとおりの可能性はあるが――この穴といい、根性悪すぎだろ?
攻略させるつもりがあるのか?
そもそも、このダンジョンを作ったやつは、攻略なんてさせるつもりはないのかもしれない。
勝手にゲームみたいだと決めつけて、そんなことを言っているのは、俺たち冒険者だけだし。
そんなことより、ここからどうやって降りるかだよ。
こんな高さを降りられる長いロープはないし、ハシゴだって届かない。
タンクを縦に積むにしたって100mは無理だろう。
だいたい、ぴったり縦に積むなんて、デキッコナイスだからな。
「う~ん」
しばらく考える。
なにかロープの代わりになるものを……。
実家には藁が沢山保存してあったが、さすがにあれはアイテムBOXに入れて持ってこなかった。
「ダイスケさん?」
「いいことを思いついたかも!」
俺はアイテムBOXから、ブルーシートを取り出した。
潰した虫の上を這ったので、汚れてしまったけどな。
「そ、それをどうするんですか?」
虫の汁まみれになったブルーシートに、カオルコがドン引きしている。
「こいつを細く切ってから、ロープを綯う」
「ロープって作れるんですか?」
「田舎じゃ縄を作るのは、普通だったからな」
世界が静止したあとには、とにかく物資不足だったから、なんでも自作した。
麦わら帽子を始め、靴がなければ草鞋も作ったし。
90歳すぎた年寄りの中には、その手の経験がある人がいたのが大きかった。
教えてもらって藁靴も作ったし。
ブルーシートの大きさは、3.5m×5.5mぐらいだったはず。
3.5cmの幅にカットすれば、100本取れる。
2本を1本に綯えば、50本×5.5mで275mの縄が作れるじゃないか。
いくらなんでも270mの長さは要らないから、4本で綯って135mにするか。
そっちのほうが強度的に余裕があるだろう。
「……いや、ちょっと待てよ」
綯うと、長さが短くなる分を入れないと駄目だな。
俺はアイテムBOXからノートを出して計算をした。
100本÷3で33本×5.5m=約180m
そいつを綯うと、2/3になるとして、約120m……いけそうじゃね?
もちろん、下まで100mってのは俺の目測なので、精度はテキトーだが。
家には、自作した縄を綯う機械があるんだが、さすがにそいつは持ってきていない。
だって、こんな場所で使うなんて思ってねぇじゃん!
まったく、どうしてこうなった!
無事に帰還したら、ホムセンで100mぐらいのロープを複数買おう。
これからもダンジョンに潜ることになるなら、絶対に使う。
「2人とも手伝ってくれ! 汚いのが嫌なら、ゴム手をやる」
アイテムBOXからゴム手を渡した。
農業やるなら、ゴム手は必須。
2人にシートをピンと張ってもらい、カッターで短冊切りにしていく。
この青いシートは、引っ張りにはめちゃ強いが、刃物には弱い。
なにせ、100本だ――地道にやる。
短冊になったら、アイテムBOXから岩を取り出して、こぶし大に割る。
それを短冊の端に結び、立てたハシゴに結びつけた。
短冊にぶら下がった岩をくるくると回しながら、撚りをかけていく。
3本並べて、交差するように撚って縄にするわけだ。
「へ~、ロープってこうやって作るんですね」
カオルコが興味深そうに俺のやることを見ている。
東京にいて、縄を綯う機会はないだろうしな。
珍しいのだろう。
「実家にはこいつを自動でやる機械があるんだが、まさかこんな場所で使うとは思ってないからね」
「ダーリンは、いろんなことに詳しいな」
「田舎だと、このぐらいは普通だぞ。10年ぐらいものがなかったから、自分で作るしかなかった」
「東京だとロープを使うことなんて、そうそうありませんし」
「そうだよなぁ」
話している間に、ロープが1本できあがった。
ほつれないように、端を結ぶ。
長さは――4mぐらいか。
これが33本できるはずだから、120m以上になる。
計算どおり。
数的には大丈夫そうだが、強度はどうだろうか?
ハシゴに結んでぶら下がってみた――。
「よし! 全然問題ないな」
俺がぶら下がってもびくともしない。
とりあえず、俺が一番体重が重いはず。
姫は確実に俺より軽いだろうし、いくらムチムチのカオルコとはいえ、俺より重いってことはないだろう。
「うむ! 問題ない! ダーリンはすごいな!」
姫も、できあがったロープにぶら下がって強度を確かめている。
「あとは――こいつを全部ロープにして、結んで下に垂らすだけだ」
「つまり、ここから脱出できるということだな!」
急に姫の元気が出たな。
「俺たち3人なら、6層より浅層なんて問題にならないからな」
「本当は、6層でも苦労するんですよ?」
「ははは、まぁな。すっかり麻痺してしまってるなぁ。ほら、2人もレベルアップしているし」
「そうですけど……」
ロープが使えることが解ったので、彼女たちにもカットするのを手伝ってもらう。
切れた長い短冊を俺がロープにして、つなぎ合わせるのも彼女たちにやってもらった。
もやい結びを教える。
「こうやって結ぶんですね……」
カオルコがロープの結び目を確認しているのだが、2人ともお嬢様だし、ロープワークなんてしたことがないだろう。
ものがない時代で、アウトドア趣味なんてのも流行らなかったし。
「ギャッ、ギャ」「ギ……」
2羽のハーピーが俺の背中に乗ってきた。
いつもの子と、さっき俺の所にやってきた、おとなしそうな個体だ。
「お~い、さすがに2羽は重たいんだけど~」
3人でやれば、作業も早い。
話している間に、長大なロープが完成した。
「岩召喚!」
「ギャー!」「ギャギャ!」
突然大きな岩が落ちてきたので、ハーピーたちが驚いている。
バサバサと飛び立った個体もいる。
なんの為に出したかといえば、ロープを固定するためだ。
岩にぐるりとロープを回して結ぶ。
「よし!」
体重をかけてみても、びくともしない。
ロープが細いし、材料がブルーシートなので滑りそうではあるが――大丈夫だろ。
準備のために使っていたハシゴを収納すると、ヘビのようにとぐろを撒いていたロープを下に放り投げた。
下を覗くと――どうやら届いたようである。
俺の目測は間違っていなかったらしい。
「どうだ? ダーリン」
「大丈夫だ。下まで届いた――まずは俺がいくが、次は?」
「カオルコを縛って、私が下ろす」
「お願いします……」
「大丈夫か? 下を確認してきてから、上に戻ってこようか?」
「問題ない」
まぁ、彼女も高レベル冒険者だし、カオルコの体重ぐらいは余裕で支えられるだろう。
ロープを掴んで、ぶら下がろうとしたのだが――踊り場の角にロープが当たっている。
映画なんかだと、ここが擦れて切れたりするんだよな。
アイテムBOXからタオルを出すと、当たっている場所に差し入れた。
これで大丈夫だろう。
「ふ~!」
ロープを掴むと、深呼吸してから、俺は空中に身を投げ出した。
「ダーリン!」
「うほ~っ!」
当然、暗闇の中に宙ぶらりんになる――気分はもうタ◯ザン。
周りにはなにもないので、本当に真っ暗な中に浮いている状態。
普通なら、ロープにぶら下がるなんて、腕にかなりの負荷がかかると思うが、今の俺は高レベル冒険者。
手の力だけで、スイスイと下に降りることができる。
ものの数分で地面に到着した。
一応、辺りを確認するが――2人の話ではここは安全地帯らしいが……。
上を向いて手を振ると、おそらく姫が手を振り返してくれた。
そのまましばらく待っていると、空中になにかが放り出される。
「きゃぁぁぁ!」
小さくカオルコの悲鳴が聞こえる。
丸いものが徐々に降りてくると人の形になって、地面に到着した。
「はい、おつかれさん」
「こ、怖かったですぅ……」
彼女は、股間と脇をたすき掛けにされていた。
こんなガッチリと固定しなくてもいいのに――まぁ、カオルコが心配だったのだろう。
彼女のロープを解いて、上に手を振ると、すぐに姫が降りてきた。
まるで滑るように落ちてきて、十秒ほどで着地――早い!
「みんな、これで脱出できるぞ!」
「ダーリン!」
姫が俺に抱きついてきた。
「とりあえず、向こうにいる冒険者たちに声をかけてみるか? 迷宮教団のことを注意喚起したいし」
「そうだな」
「こういう場所にいる冒険者って、仲はどうなの?」
「獲物を横取りされたとかで、トラブルになることはあるが――ここだと多分、入り口を探しているはずだろうし」
「おそらくは……」
カオルコも頷く。
「それと――この場所を教えてやってもいいかい?」
俺は垂れ下がっているロープと上を指した。
「かまわん。いずれ誰かが発見するだろうし」
カオルコにも確認するが――問題ないというので、俺は魔法の光がちらつく所に向かった。
「おお~い!」
久々に、俺たち以外の人間だ。