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42話 乳暖簾!


 迷宮教団によって、ダンジョンの深部に飛ばされてしまった俺たちは、帰還の途中だ。

 普通の逆ルートをたどっているので、イベントが発生しなかったりしているらしい。

 そもそも、イベントってなんだ? って話なんだが。


 ゲームっぽい世界になっているからといって、そこまでゲームっぽくすることはないじゃないか。

 やっぱり、こいつは誰かの悪ふざけに、つきあわされているのだろうか?

 物理法則を捻じ曲げるような存在だから、超常の存在なんだろうな――やっぱり。


 イベントをスルーできるかと思ったのだが、姫がフラグを立ててしまった。

 ポップした敵は、リッチとかノーライフキングとか言われるアンデッド。

 ノーライフキングは長いので、俺たちはリッチと呼ぶことに。


 それをサクっとノシたのだが、カオルコの提案でアイテムBOXを使ってみることにした。

 アイテムBOXに生き物は入らないのだが、アンデッドは死んでいるから入るのでは?

 ――と、言われて試してみた。


 結果――眼の前から敵が消えた!


 カオルコの言うとおり、アンデッドは死んでいるからアイテムBOXに収納できるらしい。


「おお! こいつは凄いぞ! アンデッド戦がはかどるんじゃない?」

「普通はこんな方法は無理ですよ」

「そうだな――アイテムBOXのスキルを持っているのも稀なのに、こんな大容量となると――」

 姫がうなっている。


「まぁ、できるのは俺だけの攻略法か」

「ダーリンの言うとおりだな」

 それはいいのだが、アイテムBOXに入れたアンデッドはどうする?

 このまま入れておくのか?


「でも、アイテムBOXに入れたままにしても倒したことにならんから意味がないような……」

「それもそうですね……緊急回避には使えそうですけど」

「とりあえず、収納から出して、カオルコに止めを刺させる?」

 このままどこかに運んで、地底の割れ目などに投棄したら、俺が倒してしまうことになる。

 おそらくこの階層の魔物だと俺が倒してもレベルに関係ないし……。

 いや、その前に――リッチは浮かんでいたから、割れ目に落ちないか。


「確かに――もう瀕死だったからな」

 アンデッドを出して、止めを刺すことに決まった。

 問題は出す場所だ。


 この魔物は、イベントエリアから出てこられなかったので、簡単に倒すことができたが――。

 エリアの外に出してしまうと、自由に動き回れてしまうかもしれない。

 注意しなければ。


 エリア内に入ってからアイテムBOXに収納したアンデッドを出すことにした。

 カオルコに止めを刺させるために、彼女に回復薬ポーションを渡す。


「あの~ダイスケさん。回復薬ポーションをいくつ持ってるんですか?」

「結構沢山だけど、今回のでだいぶ使ってしまったな、ははは」

 準備ができたので、アイテムBOXからアンデッドを出した。


「!」

 収納から出された魔物は、なにが起こったのか理解してないようだ。

 リッチってかなり知能が高いって設定じゃなかったか。

 もちろん、ゲームの中での話だが……。

 俺は一旦しまったカメラを出して再び撮影を始めた。


「えい! えい! え~い!」

 回復薬ポーションの瓶が、安全地帯から次々とアンデッドに向かって投げつけられる。


「ギャァァァ!」

 魔物が叫び声を上げて苦しんでいるのだが、なんだかちょっと可哀想な気がしないでもない。


 魔導師のカオルコだが、彼女も高レベル――普通の女の子のような投擲ではない。

 アンデッドの頭蓋にヒットするたびに瓶が割れて、中身が飛び散り、白い煙を上げている。

 そのウチに髑髏に灯っていた目の赤い光が徐々に弱くなり――最後には消えた。


 それと同時に、ちょっと大きめな箱が落ちてきた。

 金属製の枠がついており、いかにも宝箱みたいな感じ。


「あっ!」

 それと同時に、カオルコの身体を光が包み始めた。

 中ボス戦なので、おそらくは敵は湧かないとは思うのだが、辺りを警戒する。


 数分で、彼女の身体の発光が終了した。


「やったな、レベルアップしたんだろ?」

「は、はい!」

 彼女が自分のステータスを確認しているようだ。


「どうだ?」

「あ! 新しい魔法を覚えています」

「それはよかったな。やっぱり、君に止めを譲ってよかった」

「ありがとうございます。え~と、範囲回復(エリアヒール)と、光線の魔法――となってますけど……」

「その魔法を覚えてから、リッチと対決すれば倒せたんだ!」

 姫が不満を漏らしている。


「そう上手くはいかないもんだよ」

「むう……」

「範囲回復はいいんじゃね? 戦闘しながらでも、回復できそうだし」

 このリッチを倒すことが、範囲回復を覚えるフラグだったのかもしれないし。


「はい、便利そうです」

「新しい魔法を覚えたのなら、試してみないことにはな!」

 姫の言うとおりだ。

 どんな魔法でどのぐらいの威力があるのか確かめないと、戦闘に組み込んだりできない。


「でも、カオルコは魔法をなん回か使ってしまったから、今日はツライんじゃないのか?」

「多分、まだ大丈夫だと思いますけど……」

「新しい魔法を使ったら、魔力をごっそり――なんてことになるかもだぞ?」

「あ! それはありますね!」

「ふむ――新魔法を試すなら、万全の状態で試したほうがいいか」

「使ってみたはいいが、魔力の消費量が多くていきなり魔力切れなんてことになったら、大変だぞ」

「このレベルで覚えるってことは、大魔法に違いないので、そういう可能性はありますね……」

「そうか……う~む」

 姫が腕を組んで考え込んでいる。

 あとの行動をどうするのか考えているのだろう。


「さて、どうする? 中ボスのイベントが起きたってことは、ここは正規ルートで間違いないと思うんだが……」

「私もダーリンの意見に賛成だ」

「サクラコ様の言うとおりに、扉を魔法で壊さなくてよかったですね」

「はは」

「カオルコ! ダーリンが来てから私に辛辣じゃないか?!」

「だってもう――姫と一緒だと苦労の連続でしたし……」

「ぐぬぬ……」

「なんだか猪突猛進っぽい感じだしなぁ」

「そうなんですよ、もう……」

 カオルコは、姫に振り回されてるっぽいな。

 なんだかんだと、いいコンビだとは思うのだが。


 それはそうと、リッチのかばねを漁る。

 面白そうな場面なので、動画を撮ることにした。


 ローブはボロボロになってしまったが、宝石などがついている。

 赤はルビー、緑はエメラルドであろうか?

 カット技術がないのか、タダの玉の状態だ。


「これって、本物の宝石だろうか?」

「おそらく――ドロップアイテムで出てくる宝石類も本物の原石らしいので、間違いないだろう」

「へ~、結構なデカさがあるんだが……」

「綺麗にカットしたら、価値が上がりそうですねぇ」

「ダンジョン産の宝石は、なにやら特徴があるらしく、貴重性があるという話だったぞ」

「おお、とりあえず、俺のアイテムBOXに入れておくから、地上についたら分けようか」

「異議なし」「はい」

 リッチのかばねにデカい黒い石を見つける――魔石だ。


「お! 魔石発見! デカい!」

 大きさはバレーボールほど。


「こんな大きな魔石は見たことがありませんよ!」

 カオルコが興奮している。

 やっぱり、誰も到達したことがない、階層なのだろう。


「多分、アイテムBOXに入っているドラゴンや、あのオッサンの顔をした魔物を解体したら、もっとデカい魔石がでてくると思うぞ」

「それでこそ、我々の名声がまた高まるというものだ!」

 姫が胸を張っている。


「そこに俺が入っていいのかい?」

「なにを言う! ダーリンは私たちより強いのだから、当然!」

「そうですよ」

「また、騒がれちゃうなぁ……」


 ちょっと憂鬱になりながら宝箱を調べる。

 罠などを警戒したが、あっさりと開いて、中に沢山の瓶が詰まっていた。


「ええ? 回復薬ポーションで倒したのに、ドロップ品が回復薬ポーションの詰め合わせか」

「消費した分が戻ってきてよかったじゃないか」

 まぁ、姫の言うとおりだ。

 回復薬ポーションはいくらあっても、困らない。

 通貨代わりにもなるしな。


 アイテムが入っている宝箱も収集している人がいるらしい。

 好事家ってのは、どこにでもいる。


 リッチのローブを漁っていると、ローブの上に青い布が重なっているのに気がついた。

 それを持ち上げてみると、女性用の青いドレスのようだ。


「これは――もしやドロップアイテムか?」

 姫が布を覗き込む。


「倒したのがカオルコだったので、彼女に対してドロップしたのかもしれないな」

「ああ」

 カオルコにドレスを渡した。

 丈の長いロングドレスなのだが、胸の部分のデザインが謎だ。

 大きく開いているのだろうか?


「え?! これって胸の部分が開いてません?」

「みたいだな」

「胸がデカいカオルコにピッタリだろう。着てみたらどうだ?」

 姫の言葉にはちょっと嫌味が入ってるように聞こえるのは気のせいだろうか。


「ええ?! ここでですか?!」

「ここには誰もいないし、ちょうどいいじゃないか? もしかして、私の鎧みたいにすごいドロップアイテムかもしれないぞ?」

「た、確かに、それはあるかもしれませんが……」

 どうも、彼女はデザインが気になるようだが、姫の言うことにも一理ある。

 超性能だったら、確かに惜しい。


「ううう……」

 カオルコはやっぱり抵抗があるようだが、面白がっている姫に捕まってしまった。

 いつも自分だけ恥ずかしい格好をしているから、巻き添えが欲しいのだろう。


「俺は、後ろを向いているよ」

「ほら、ダーリンも、ああ言っているだろ?」

「ちょ、ちょっとサクラコ様ぁ!」

 俺の後ろで、2人の美女がキャッキャウフフしている。

 いやキャッキャウフフはしてないか。


 2人でバタバタしていたのだが、静かになった。


「ダーリン、こっちを向いていいぞ」

「OK?」

 俺が振り向くと、金糸の刺繍がされた青いロングドレスに身を包んだカオルコがいた。


「うう……」

 恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして胸の部分を隠している。

 とりあえず胸は隠れているが、ムチムチの太ももは見えているし、スタイルもいいので破壊力が凄いな。

 メガネで巨乳、ムチムチ――これだけで刺さりそうな男子が沢山いそうだ。


「おお、すごく似合っているじゃないか」

「ほら、ダーリンもああ言ってるじゃないか」

「だって、胸の部分がこれですよ!」

 彼女が手を広げると、いわゆる下乳したちちが見えている。


「これはいわゆる一つの乳暖簾(のれん)ってやつ?」

「こんなの絶対に見えちゃうやつですよ!」

「いや、ドロップアイテムだから、どんなに激しく動いても、しっかりガードしてくれる――とか、そういうやつじゃね?」

「ほ、本当ですか……?」

 俺の言葉に彼女が訝しげな顔をしている。


「いや、そんなの試してみないことには解らんよ」

「試すって……」

「ちょっとジャンプをしてみればいい」

 姫の提案に、カオルコがジャンプを始めた。

 ぴょんぴょんと身体を上下させると、当然胸も一緒にポヨンポヨンする。

 すばらしい。


「むむ?!」

 普通の布なら、めくれてしまうだろうが、見せてはいけないところがしっかりとガードされている。

 ――というか、布が張り付いているように見えるのだが……。


「これは張りついているんじゃないのか?」

 ちょっと物理的に不自然な動きなので、姫も俺と同じことを思ったのに違いない。

 姫が乳暖簾を指でつまむと持ち上げた。


「きゃあ!」

 見えてはいけない、ピンク色のものが見えてしまう。


「ということは――肌に張りついてるわけじゃないし、動いてもズレない魔法の布ってことになるな」

 カオルコの悲鳴などもお構いなしに、姫がアイテムの分析をしている。


「なんですか、これは?!」

「この理不尽なところが、ドロップアイテムらしいだろ?」

 姫の言うとおりだ。

 彼女が装備しているビキニアーマーも、露出が多いのに防御力が最強みたいなデタラメなものだ。


「それで、どんな性能なのかまったく解らないのが困ったもんだよなぁ」

「実際に戦闘などで使ってみれば解る」

「こ、これをずっと着てなくちゃ駄目ですか?!」

「それを言ったら、私のコレはどうなる?!」

 まぁ、ビキニアーマーだからなぁ。


「ううう……」

 カオルコとしては不本意のようだが、姫には逆らえないようだ。

 乳暖簾の青いドレスを装備したまま、どのような効果があるのか確かめることになった。


「本当なら、あのリッチは強敵だったはずだから、それからドロップしたアイテムとなれば――多分、高性能だと思うよ」

「そうだといいんですけど……」

「やつは、青いローブで魔法を減衰――もしくは無効化していただろ? 似たような青いドレスが出たということは――」

「ダーリンの見立ては正しいと思う」

「そうそう――聞きたいことがあったんだが……」

「なんでしょう?」

 俺は魔法について、ベテランの魔導師に聞いてみることにした。


「魔法を無効化するアイテムを持っているなら、ホールの魔法の明かりや、ライトの魔法も消えたりしないのか?」

「自分の魔法には、影響しないんですよ」

「ああ、そうなのか」

 それもゲームっぽいな。


 アニメの割れるバリアで敵の攻撃は防げるけど、自分は攻撃できるみたいな感じか。


 カオルコと話をしつつ、ついつい大きな胸に目がいってしまう。

 俺としては、目の保養になるから、このままだとラッキーなんだがな。

 美人のビキニアーマーと、巨乳の乳暖簾――まさに男のロマン。


 俺は、眼の前で揺れている時空を超えて男たちが追い求めてきたロマンに深く心を奪われていた。

 その思いは、遥か過去から未来へと連綿と続く壮大な物語の中に刻まれている。


 過去から未来にかけて男たちが追い求めてきたロマンに深く共鳴し、その歴史の中に自らを位置つけた。 勇気、挑戦、愛、発明、冒険、そして持続可能な未来への探求。

 その全てが俺の心の中でひとつに繋がり、人生における大いなる目標と成る。


 男はなぜ、ロマンを追い求めるのか。

 その答えが今、眼の前にある。


「ふう……」

 あまりに素晴らしい光景に、我を失いそうになってしまったが、かろうじて持ちこたえた。


「ダーリン?」

「それじゃ、カオルコのドレスはそのままでダンジョンの攻略を続けるわけだな」

「そのとおりだ!」

「ううう……」

 乳暖簾の魔導師は乗り気じゃないみたいだが……。


「さて、このダンジョンは、どのぐらいで抜けられるんだろうなぁ」

 俺の言葉にカオルコが反応した。


「ハーピーが通ったらしいショートカットに登るって手もありますけど……」

 彼女の言うとおりだが、あそこに登るのは大変すぎる。

 登ったとしても俺たちが通れる穴なのか? ――という、問題もあるしな。


「彼女の小さな身体でしか通れない穴かもしれないし」

「そうだな、下から見ただけでも、大きな穴には見えなかったな」

 姫も俺と同じ意見のようだ。


「それじゃ、やっぱりこのダンジョンを正攻法で攻略するということですか?」

「急がば回れという言葉もあるしな」

「ダイスケさんは――行方不明になった女の子や、子どもたちのために急ぎたいんですよね?」

 俺はカオルコの言葉に少し考えてしまった。

 こんな所で、乳暖簾にキャッキャしている場合ではないのは、重々承知しているのだが……。


「急ぎたいのは山々なんだが、無理をするわけにはいかないからな。前にも言ったが、ここで全滅でもしたら、『踊る暗闇』や迷宮教団のことを告発できなくなる」

「はい」

「まぁ、若いと血気盛んにつっこみたくなるんだろうけど、この歳になるとできることとできないことの分別がつくようになるし……無理なものは無理なんだよ」

 私事に彼女たちを巻き込むわけにもいかない。


「なるべく安全に、確実に――ということですね」

「そのとおりだ」


 方針が決まったので、出発する。

 皆の眼の前に広がるのは、複雑に曲がりくねった通路で構成される巨大な迷宮。

 魔導師の唱えた魔法の光の中、石の壁は冷たく硬く、どこまでも続く迷路が不気味な静けさを漂わせていた。

 まったく無音の世界と思いきや、壁の向こうから響くかすかな音が、迷宮の広がりとその中に潜む未知の存在を感じさせる。

 一本道を進むたびに新たな分岐点が現れ、果てしないダンジョンが俺達の前に立ちはだかった。


 アイテムBOXからノートと筆記具を出して、マッピングする。

 これぞダンジョンという感じがするが、今は迷宮を楽しんでいる余裕はない。

 いつものルーティンなら、ワクワクが先に来ているのだが。


「これも、貴重なデータになるからな」

 姫の言うとおりだ。

 ここまでは攻略されていないので、まったく未知のダンジョン。

 自力でたどり着く者がいれば、冒険の足がかりになるだろう。


 攻略は、基本に忠実――左手攻略法を使う。

 こんな地味で時間がかかることをやっているのだから、急いで地上に向かう――。

 なんてことが無理というのが解るのだが、闇雲に動き回って攻略できる場所でもない。


「そこ、罠がありそうだ」

「承知」

 アイテムBOXから岩を出して、囮に使う。

 デカい岩の重みで罠が発動して、壁から槍が飛び出た。

 槍はもらってしまおう。

 アイテムBOXに収納する。


「ダイスケさんがいなければ、地上に戻るなんて不可能でしたね」

「そもそも、ドラゴンと戦った時点で、食料が尽きかけてたじゃないか」

「そうなんですよねぇ……」

「俺も、1人で黙々とダンジョンを攻略して地上に戻るなんて――考えるだけで、暗くなりそうだよ」

 左手作戦でダンジョンをマッピングしていく。

 骨の折れる作業だが、これしかない。


 そのうち扉のついた小部屋を見つける。

 アイテムBOX作戦で扉を消して中にあった宝箱をゲット。


「いやいや、こういうことをしている場合じゃないんだよなぁ」

「そ、そうですよ!」

「――といいつつ、カオルコも楽しんでいるじゃないか!」

「だ、だって、ダイスケさんが簡単に扉を開けたりするから……」

 気持ちは解る。

 せっかくのダンジョンだし、俺がいる限り食料の心配もない。

 宝箱などがあったら、開けたくなるのも人情だろう。


 本当なら、全部マッピングして隅々まで探索したいところだが、行く途中にある部屋だけ探索することにした。

 しばらく進むと、ちょっと広めの部屋に出る。


「ここは――いかにも敵がポップしそうな……」

「そうですよねぇ」

「戻るか?」

「いや――カオルコの新装備の能力を見るいいチャンスだ」

 俺の提案を姫が否定した。


「それじゃ、やるか……」

 アイテムBOXから武器を出す。

 姫の手には剣、俺の手にはミサイル――フル装備で部屋に足を踏み入れた。


 部屋に甲高い音が響くと、まばゆい光とともに魔物が現れる。


「キェェェェェ!」

「鷲?!」

 黄色いくちばしに鋭い眼光、茶色で巨大な翼。

 俺はアイテムBOXから出したカメラで撮影を開始した。


「身体は獣だぞ?!」

 姫の言うとおり、下半身はライオンのような身体をしている。


「え~と、なんだっけこれ? ヒポポタマス? グリフォン?」

「ヒポポタマスは、カバだろう!」

「そうか、それじゃえ~と――解らんからグリフォンということで」

「承知!」

 阿吽の呼吸で二手に分かれて、挟み撃ちにする。

 広い部屋といっても、翼を使って自由に飛び回れるほどのスペースはない。

 俺が手に持っている飛び道具は有効だろう。


「牽制してください! 新しい魔法を試してみます!」

 そういえば、カオルコは新しい魔法を覚えたと言っていたな。


「いきなり試して平気なのか? 万全な状態で試すって話だったろ?」

「どのみち、どこかで試さないとだめでしょうし」

「君の判断に任せる」

「はい! 光の刃よ!」

 魔導師の詠唱が始まった。

 彼女は魔法を使うことにしたようだ。

 それなら敵の注意をこちらに惹きつけないと。


「オラオラこっちだ! おりゃぁ!」

 ミサイルを一発お見舞いしたのだが、避けられてしまった。

 飛んでいったミサイルが、壁に衝突して火花を散らす。

 狭い部屋でも意外と機動性がある敵のようだ。


「ヤァァァ!」

 敵が俺のほうに向いていたので、死角から姫が切りかかった。


「キェェ!」

 敵の甲高い叫び声と同時に、赤い血しぶきが上がる。

 彼女の切っ先が、魔物の毛皮を切り裂いたようだ。


 そのとき、ちょうどカオルコの詠唱が終わった。


我敵を穿うがて!(ガンマレイ)

 目も眩むような閃光が魔物の身体を貫くと、勢い余ってダンジョンの壁も吹き飛ばした。

 バラバラと、瓦礫が飛んでくる。


「うわぁぁ! やべぇ!」

「カオルコ!」

 魔法を放ったあと、カオルコが倒れてしまったので、姫が駆け寄った。

 俺は、援護するべく、グリフォンと対峙したのだが――。


「……ギェ……」

 魔物の巨体が血を吐きながら崩れ落ちた。

 魔法の一撃で、身体を貫かれたらしい。

 すごい魔法だ。

 これならドラゴンも一発かもしれない。


「カオルコ!」

「大丈夫か!?」

 撮影を終了し、ミサイルを回収してから、2人に駆け寄ったのだが、カオルコの意識がない。

 姫に抱きかかえられて態勢が崩れているのだが、大きな胸の乳暖簾はずれないようだ。

 さすが魔法のアイテム。


 いやいや、そんなことより魔導師の様子が心配だ。


「どうした?」

「多分、魔力切れだと思う」

「ああ、やっぱり――調子を万全にしてから試すべきだったか」

「だが、素晴らしい魔法の威力だ」

「そうだな、あれならドラゴンにも通用するかもしれない」

「うむ」

 グリフォンのかばねは高く売れそうだ。

 アイテムBOXに収納した。

 ドロップアイテムらしきものがある。

 多数の薬の小瓶と、長剣。


「武器は姫が使ってみるかい」

「そうだな――どんな性能か、使ってみないことには解らないし」

 彼女が使っていた剣と入れ替えることにした。

 カオルコがダウン中なので、俺のアイテムBOXに入れる。


 敵は倒したので、カオルコは俺が背負って移動することにした。


 そのまま通路を進むと、なにか熱気が伝わってくる。

 湿気もすごい。

 通路が光る苔で覆われてて輝いている。

 これは明かりに使えそうだ。

 カオルコを背負いながら、採取してアイテムBOXに入れた。


「なんだ? 泉でもあるのか?」

「もしかして、溶岩地帯かもしれないぞ?」

 俺の言葉に、姫が異議を唱えた。


 ああ、確かにゲームだと、そういう場所があるがなぁ。

 進むと、熱気と湿気が激しくなってくる。


 そのうち俺たちは広場に出た。

 湯気で眼の前が真っ白になる。


 先には泉があるようだが、この熱気と湯気があるってことは温泉なのだろうか?



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