40話 戦闘&戦闘
ただいまダンジョンを逆攻略中だ。
普通のダンジョンは、浅い層から深い層へと向かっていく。
最後にラスボスがいたりする。
俺の場合は、いきなり深い場所に飛ばされて、地上へ戻るところだ。
階層が上がる度に、敵が弱くなるという逆攻略。
ゲームならクソゲーなわけだが、ゲームっぽいダンジョンなのに、ゲームではない。
ところがどっこい、コレが現実。
これが1人だったら心が折れそうだったが、美しい仲間ができて、彼女たちと一緒に地上に戻ることになった。
まずはドラゴンなどの強敵がうようよしていた階層を抜けて、一段上にやってきた。
安全地帯で一泊して、移動を始めた途端に敵とエンカウント。
カオルコが唱えた魔法の光で、白い羽根に覆われた巨体が顕わになる。
デカい鳥で、尻尾はヘビという魔物――バジリスクだったかコカトリスだったか。
元々、同じものって話もあったはず。
せっかくの戦闘だ――俺は動画撮影のカメラを用意した。
魔法の明かりもあるし、綺麗に撮れるだろう。
名前はどちらでもいいが、完全に捕捉されたので戦うしかない。
俺はアイテムBOXから武器を出した。
姫の剣も、カオルコのアイテムBOXから出てきたようだ。
「ギョェェェェ!」
高周波音が混じった、不快な鳴き声がダンジョン内に響く。
「これって、石化かなにかの能力がなかったか?」
「わからん!」
「姫、こいつと戦ったことは?」
「ない!」
トップランカーの彼女が知らないってことは、ここはまだ前人未踏の階層ってことになるな。
いや、だれかが来たことがあるのかもしれないが、姫が知らないってことは記録にないのかも。
「姫が戦った最深部は?」
「6層だ! 7層の入口から進めなかった!」
それじゃ、ここは8層か、9層か――それとも、もっと下か。
「それじゃ、そこまでいけば、姫が見慣れた敵が出てきて現在位置が判明するな」
「そういうことになる!」
「ギョェェェェ!」
こいつの攻略法は、なにかで読んだぞ。
鳥の頭とヘビの頭がある――つまり脳みそが2つあるので、同時攻撃すると混乱する。
敵が突っ込んできたので、2人でヒラリと躱す。
「ダーリン! あの腐る剣は使わないのか?」
「あれを使うと、金にならなくなってしまう! どうしても無理だと思ったら使おう!」
「承知した!」
俺たちが囮をして踊っている間に、魔導師の詠唱が終わったようだ。
「青き雷よ、我敵を切り裂く剣となりて宙を走れ――電撃!」
カオルコの巨乳の前に集まった光の玉から、魔物に向かって青い稲妻が走った。
闇夜の中、魔物は鋭い閃光に包まれる。
激しい光と轟音が辺りを照らし、魔物の輪郭は閃光の中で一瞬、鋼鉄のように硬くなったかのように見えた。
雷鳴と共に魔法のエネルギーが魔物を覆い尽くし、その力はまるで怒れる嵐の如く、敵の全身に浸透していく。
「ギョェェェェ!」
直撃したのだが、白い煙と焦げたにおいがするだけで、あまりダメージが入ったようには見えない。
「魔法の耐性が高いのか?」
「そうかもしれない」
「姫、前後から攻撃を仕掛けよう! ものの本によると、頭が2つあるから混乱するらしい」
「なるほど! 承知した」
魔物を前後からはさみ撃ちにする。
「キェェェェ! 姫も威嚇して!」
メイスをブンブンと大きく振り回して威嚇する。
「やぁぁぁぁ!」
前後から威嚇されて、敵は完全に混乱している。
そのまま固まって動かなくなった。
俺の手には重厚なメイスが握られており、冷たい金属の感触が、心の中にある闘志をさらに燃え上がらせた。
目の前には、巨大で白い鳥のような姿をした魔物が不気味に立ちはだかる。
その赤く光る目、鋭いくちばしと鋭利な爪は、まさに死の象徴だった。
「おりゃぁぁぁ!」
地面を蹴って大きくジャンプ!
全身の力を込めてメイスを振りかぶった。
筋肉が張り詰め、力が集中する。
その瞬間、時間がゆっくりと流れるように感じられた。
思考の加速だ――魔物の赤い瞳が俺を捉え、怒りと恐怖が交錯しているように見える。
魔物の頭をめがけてメイスを一気に振り下ろした。
重い武器が空気を切り裂き、耳をつんざくような風を巻き起こす。
メイスの先端が魔物の頭部に直撃すると、骨が砕ける鈍い音が響いた。
頭がおかしくなるような断末魔の叫びが俺の耳を襲う。
衝撃で白い羽根が四方に舞い散り、まるで雪のように空中を漂った。
目と舌が飛び出し、かなりのダメージを負ったように見える。
「やぁぁ!」
姫が、ヘビ頭の攻撃を躱し、丸太のような胴体を一刀両断にする。
2つの脳みそがなくなれば、巨大な魔物といえど絶命するしかない。
魔物の体が激しく痙攣し、地面に崩れ落ちた。
その巨大な体が倒れると、土埃と白い羽根が舞い上がる。
鼓膜が破れるんじゃないかという、魔物の咆哮がいきなりなくなり、辺りは突然の静寂に包まれた。
まだビクビクと動いている魔物の身体をアイテムBOXに収納を試みる。
「収納!」
白い巨体が目の前から消えた。
動いていても、死んでいると判定されると収納されるのか。
「うっ!」
姫の声がしたので、彼女のほうを見ると、身体が光っている。
揺らぐ黒髪、輝く美しい肢体――本当に神々しい。
レベルアップだ。
こうなると、彼女は身動きが取れないので、俺たちが周囲を警戒した。
同時に撮影に使ったカメラを収納する。
「ふう……」
彼女の身体を包んでいた輝きが切れた。
「レベルアップしたのか?」
彼女がステータスを確認している。
「ああ――レベル37だ。一気に2つもレベルアップした。ずっと足踏みしていたのに、ここの魔物はそのぐらい強力な敵ってことになる」
それじゃ、レベル35だったのか。
他のトップランカーもそのぐらいだったから、みんなそこら辺で足踏みしていたんだな。
「それじゃ、ここでレベル上げすればいいってことになるな」
「いや、今はダーリンがいるからどうにかなっているが、私とカオルコだけでは……」
「そ、そうですよ! ……あ、あの~」
カオルコがこちらを見ている。
「なんだい?」
「あの~聞こうと思っていたんですが、ダイスケさんのレベルってどのぐらいなんですか? あ、あの、言いたくないなら、いいんですけど!」
「う~ん、2人には話してもいいだろうな――今はレベル55だよ」
「「55?!」」
2人の叫びがハモる。
「ああ」
「いったいどうやって!?」
2人が迫ってきた。
「いや、飛ばされた階層で、ドラゴンなどを倒してかなり上がったのもあるんだよ」
「た、確かに――ドラゴンを倒せれば……か」
姫が神妙な顔をしている。
「ああ、止めを姫に譲れば、かなりレベルアップできただろうけど、そんな余裕がなかったんで」
「それは当然だ」
「それにしても、基礎のレベルがすごく高かったのでは……」
「まぁ、偶然に大物を仕留めることができて、一気にレベルアップできたのもある」
「そうなんですか」
嘘はついていない。
レベルアップの話はさておき、姫が切り落としたヘビの頭を見る。
「ヘビは食えるのもあるけど、こいつはどうかな? マムシなんかは食っても美味いが……」
「え?! そうなんですか?」
俺の言葉にカオルコが驚く。
「ああ、鳥と爬虫類は親戚みたいなものだし……」
「まぁ、進化論的にはそうでしょうけど……」
「ドラゴンの肉は食べてたのに、ヘビは駄目かい?」
「うう……」
まぁ、無理に食わせるつもりもない。
俺だけ試しにし食ってみればいい。
上にいる連中も、買ったことも食ったこともない魔物だろうから、果たして売れるものか。
世の中には好事家がいるから、買うやつはいると思うのだが……。
肉が売れなくても魔石は売れるが、こんな強敵を倒して、魔石だけじゃなぁ……。
俺はヘビの頭をアイテムBOXに入れた。
「戦闘のお役に立ちませんで、申し訳ありません」
カオルコがペコリと頭を下げた。
「いいよいいよ。魔法が効く敵もいるだろうし。とりあえず、明かりがあるだけで嬉しい」
「ダーリンの言うとおりだ。私がいつもそう言っているだろう?」
「そうですけど……」
彼女が役立たずなら、もっとレベルが低い魔導師たちは、もっとアカンちゅ~ことになる。
「敵の防御力を落とす魔法とか、こちらの攻撃力を上げる魔法と併用するんじゃないの?」
「そうなんですよね。ウチは2人なんで、補助系の魔導師がいなくって……」
「それは仕方ないな」
「そのとおりだ」
姫がうなずく。
「それはそれとして、姫の剣は凄い切れ味だな。それもドロップアイテムなのかい?」
「そのとおり。ダンジョンにいる間は、切れ味が落ちない効果がついているようだ」
「へ~」
アイテムの効果は魔法と同じで、ダンジョン内で一番効果を発揮する。
俺がゲットした腐敗するナイフと同じだ。
彼女の剣を見せてもらう。
銀色の刃と、銀色の鍔、木製の柄――シンプルなデザインで凄い剣には見えない。
「普通そうな剣でこれだけ凄いんだ、聖剣などがでてきたら、もっと凄いんだろうな」
「多分、多くの冒険者がそう思って、ドロップアイテムを探しているんだと思いますよ」
俺も、カオルコの意見に同意した。
冒険者として成功し金を持ってる連中は、特にそうだろうな。
ゲームでいう、実績集めや、アイテム集めみたいなものだ。
ゲームで、◯◯の剣――みたいな特殊な武器が出てくると嬉しいし。
「ギャ! ギャ!」
地面を飛んで、ハーピーがやって来た。
俺たちが戦闘している間は、翼を休めていたのかもしれない。
腹が減っているのかもしれないので、パンと水をやる。
「よしよし、飛ぶのは体力使うのに、よく俺たちのいたあんな所まで飛んできたなぁ」
パンを食べている彼女をなでてやる。
「ギャ!」
「……」
姫はやっぱり、ハーピーが好きではないらしい。
「魔物はダンジョンから生まれて、ダンジョンからエネルギーをもらっている説があるので、本来なら、食事は要らないのかもしれません」
「なるほどなぁ。カオルコのいうとおりだと、人間もダンジョンに順応したら、飯を食わなくてもよくなるかもしれない」
「それってもう、魔物なのでは? そういう説もありますよ。人の身体が徐々に蝕まれて、魔物に変わっていくんじゃないかという」
ネットには、そういう話が転がっているが、具体例は見たことがなかったが……。
「都市伝説かと思ったが、なにかサンプルがあるとか?」
「いいえ――でも、私たちを飛ばした迷宮教団のあの女を見ていると――あれって人間でしたか?」
「う~ん? 微妙なところだな」
確かに――あの連中は、ずっとダンジョンにこもりっぱなしだし、食料はどうしているのだろう?
魔物を殺すのを非難している連中が、魔物を食っているとは思えんし……。
魔物化していて、ダンジョンからエネルギーもらっているから、食わなくてもOK!
――という話なら、辻褄は合うが……。
「今度出会ったら、ただではおかん! 相手が魔物なら、手加減無用なのだろ?」
「グールなどになっていれば、完全にアウトだろうけど、あれはどうかなぁ……」
「でも、私たちが地上に戻って告発をすれば、ダンジョン運営の障害とみなされて、討伐の対象になると思いますよ」
「う~ん――やつらのことはどうでもいいが、レンはどうしたろうか?」
「レン?」
俺の言葉に姫が反応した。
「俺のギルドにいた女の子なんだよ」
彼女のことを2人に話す。
「……そうだったのか……迷宮教団め」
「俺が迷宮教団に接触したのも、彼女の安否を確かめるためだったんだがな。それに、捕らえられていた子どもたちのことも気になる」
飛ばされて時間がたってしまったし、上に戻っても、討伐が開始されるまでさらに時間がかかる。
もどかしいのだが……。
「急いで戻る必要があるということか……」
「いや、無理をさせる気はない。無理をして俺たちが全滅したら、本末転倒だ。奴らを糾弾することもできなくなる」
諸々の証拠も、俺のアイテムBOXの中に入っているしな。
「それも――そうか……ええい! イライラする!」
「サクラコ様、落ち着いてください」
「ダンジョンというのは、純粋に己の力を試す場ではないのか?!」
姫が自分の考えを口にした。
「人それぞれの思惑ってのがあるってことだろう。迷宮教団の連中だって、ダンジョンにすがることで、自分たちの存在価値を見出したのかもしれないし」
「人は輪廻転生を繰り返し、負の連鎖というループに囚われているというのが、迷宮教団の教義でした」
「それは、仏教もそんな感じだしなぁ」
「そこで、魔物に食われたり、死んでダンジョンに吸収されることで、ダンジョンを司る大いなる意思と一つになれば、輪廻転生のループから外れて救済される――というのが、最終的な目標みたいですよ」
この救済される――というのが、パワーワードだな。
金持ちは生まれ変わっても金持ちのまま。
貧乏人は生まれ変わっても貧乏人で延々と苦労する――なんて聞かされたら、迷宮に救済を求めたりするのかもしれない。
仏教での輪廻転生のループから逃れる術は、悟りを開いて解脱すること。
あらゆる物欲をなくし、あらゆる因縁を断ち切れば、自ずと輪廻転生から外れる――らしい。
本当か? 俺には解らん。
「クソ! ピーどもめ!」
姫が吐き捨てた。
「お嬢様が、そういう言葉づかいは感心しないなぁ。個人的には好みだが」
「それならいいではないか!」
「叔父様や叔母様がいたらなんと言われるか……」
カオルコが姫をたしなめる。
「親は関係ない!」
「また、そういうことを仰って」
「前の私には、その脅しは通用したが、今はダーリンがいる!」
そう言って彼女が俺の所に飛び込んできた。
「うぉ!」
「実家など捨てて、こうすればいい」
「ちょっとまて――俺の家は、北の大地のド田舎なんだよ? お嬢様が畑仕事をするのかい?」
「それもまた一興! それに、ダンジョンなら海峡にあるという話ではないか」
「まぁ、あるけど――全然整備されてないよ」
「それなら、ダーリンが整備すればいい」
「うわぁ――面倒くさそう、ははは」
原発の仕事が終わって、スゲー大金が転がり込んでくる。
そのぐらいはできるのかもしれない。
「それにしても、やつらの本拠地は迷宮の中にあるんだろうか?」
「あの女は、ダンジョンの中を魔法で移動できるようです」
「そうか――俺たちをテレポートさせた能力を使えば、迷宮の好きな場所に移動できるわけだから、どこでも本拠地になるのか」
「おそらくは……」
これは厄介だな。
討伐の話が出ても、捕捉できないかもしれない。
かなり難しいことになると思うが、今回のことが明るみに出れば、教団の特区以外での活動も不可能になるだろう。
文字通り壊滅状態になるのではなかろうか。
迷宮教団のことはさておき、バジリスクだかコカトリスを倒して一休みした俺たちは、再び暗闇の中を進み始めた。
「ウワァ! タスケテクレェ!!」
突然、ダンジョンに日本語が聞こえたのだが――俺たちの前に現れたのは、4つ脚で金色の毛皮を持つ、デカいライオンのような魔物。
毛皮は美しいのだが、頭にはオッサンの顔がついている。
「シニタクナイィィ!」
不気味な魔物で――しかも、喋る!
戦闘――撮影開始だ。
「こいつは?!」
「なんでしたっけ?!」
カオルコも知らないようだが、なんかこういう魔物がいたような気がする……。
「尻尾はサソリか?! キメラ?」
「キメラは、頭が沢山なかったですか?」
「そうかもしれない」
「オカアサン!! タスケテェ!」
オッサンの口が大きく開いて、喚き散らす。
非常にウザい。
「人の言葉を理解している!?」
「でも、日本語を喋るなんて、ここには冒険者は来たことが――」
俺の頭にある考えが浮かんだ。
「もしかして――ここに飛ばされた冒険者たちの言葉を覚えたのではないでしょうか?」
カオルコも俺と同じことを考えていたようだ。
「くそ! 最悪な敵だ!」
「とにかくぶっ飛ばせば、そこで終了だろう!」
「姫の言うとおりだ。カオルコ、魔法で防御に徹してくれ!」
「わかりました! 見えざる偉大な力よ、我に仇なすものから守りたまえ――聖なる盾!」
ちょうど、タイミングがよかった。
防御魔法が発動した瞬間に、敵のデカい口がさらに大きく開く。
「ゴァァァ」
魔物の口から光球が撃ち出されて、カオルコが唱えた防御魔法に衝突した。
眩いばかりの閃光が周囲を照らし出す。
光の粒子がキラキラと輝きながら、空中に放物線を描いた。
それが無数の色とりどりの光に弾け、まるで花火のように美しく煌めく。
その壮麗な光景は周囲を幻想的な世界へと変えたのだが、魔法のシールドの外は、死の世界なのだ。
俺は、アイテムBOXから単管ミサイルを取り出した。
敵は今の攻撃を再度撃って力押ししてくるつもりだろう。
その証拠に、デカい口をまた開いた。
「ゴァァァ!」
俺は、敵の口をめがけて、ミサイルを構える。
まさか遠距離から魔法でもないこんなものが飛んでくるとは思わないだろう。
いや、そもそもそんな知能はないか?
人間と同じような頭を持つなら、そこには脳みそが詰まっているはず。
それなりの知能があると考えたのだが……。
「オラァァァ!」
俺は身体をひねると、全身の力を込めて超硬の先端を持つ武器を投擲した。
なにせ的はデカい。
直線に飛翔したミサイルは魔物のデカい口に吸い込まれた。
「ゲッフゥ!」
それと同時に、大量の赤いものが口から吐き出され、地面にバシャバシャと広がる。
「どうだ!?」
「……」
敵は沈黙したが、ヒグマを攻撃したときには、ミサイルが命中しても数十秒の間動き回っていた。
それを覚えていたので、しばらく敵を観察していたのだが……。
異形の魔物は、そのまま横倒しに倒れたまま動かなくなった。
どうやら仕留めたらしい。
ドラゴンを仕留めたりしてレベルアップしたが、ここらへんの魔物を倒しても、もうレベルアップしないらしい。
これ以上のレベルアップを望むなら、ドラゴンよりスゲー敵を仕留めないと駄目ってことか。
あの裂け目から出てきたわけの解らんやつか?
あんなの無理ゲーじゃん。
「口から入ったから、身体の中をそのまま切り裂いたのかな?」
「本当に即死というやつだな」
姫も敵の動きを警戒している。
死んだマネをしている可能性もあるし。
「魔物って、最後の最後までバタバタと動き回りますよね」
「普通の狩りもそうだよ、鉄砲やボウガンで撃ってもすぐには死なないし」
「やっぱりそうですよねぇ」
「魔物ってタフだから、簡単には死なないほうが多いんじゃないかな?」
話をしながら、ソロリソロリと敵の躯に近づこうとすると――。
「ギャ!」
上からハーピーが飛んできて、横倒しになった魔物の腹の上に乗ると、糞をした。
「あ~っ! なんちゅーことをするんだ!」
「うふふ――洗浄の魔法をかけてもらえばいいと思いますよ」
カオルコの言うとおりだが……ひと手間増えるじゃないか。
くせーからと言って、値切られるかもしれんし。
「運良く一発で仕留められたが、普通の冒険者なら最初の敵の攻撃でアウトだろうなぁ」
「うむ」
姫と一緒にソロリと敵に近づく。
「外傷もないから、高く売れるかもしれない。毛皮も綺麗だし」
「こんなものを買う好事家がいればいいが」
「こんなに珍しい魔物なら、みんなに見せて『ドヤァァ』するだけでもいい」
「それが冒険者の醍醐味というもの」
「まぁ、そのために無理をするつもりはないよ」
「承知した」
「ギャ!」
飛んできたハーピーを肩に乗せて、魔物の屍に近づくと、叫んだ。
「収納!」
眼の前から敵が消えた――ということは、間違いなく死んでいる。
俺は再び眼の前に魔物を出した。
改めて見ると、魔法の光に照らされたビロードのような黄金の毛皮が目を引く。
じっくりと撮影してから、カメラを収納した。
「おお~っ、これはすごいぞ」
姫と一緒に毛皮をなでた。
「たしかに、こんな毛皮は見たことがない」
「売らないで、姫のコートやらフードを作ったほうがいいかもな」
「あ、それって素敵そうです!」
カオルコも俺の意見に同意してくれた。
「ドラゴンスケイルのビキニアーマーに、黄金のフード――まさにダンジョンの女王」
「び、ビキニアーマーは確定なのか?!」
「むしろ――姫の美しさを誇るためには、それしか選択肢がないかも」
「ううう……」
彼女が顔を赤くしている。
「俺はてっきり、姫はその姿が気に入っているものだと……」
「私だって恥ずかしいんだぞ! こんな裸みたいな格好は!」
「そうなんだ! カオルコはどう?」
「とても素敵です!」
2人と出会ってから観察していたが、カオルコは姫フリークなところがある。
幼馴染っぽいし、親戚だから仲がいいのは当然だが、彼女の強さと美しさに心酔している感じだ。
「私だって、この鎧の性能がなければ、こんな格好は……」
彼女が胸や股間を隠して、モジモジしている。
「個人的には、姫にはずっとその姿をしてほしいのだが」
「だ、ダーリンがそう言うのなら……」
「まぁ、もっといい装備アイテムがドロップしたんなら、しょうがないけどな、ははは」
「いいえ、そんな性能のアイテムは多分出てこないと思います」
断言するねぇ。
確かに、ネットを見ていても、ドロップアイテムの装備は敵の攻撃を減衰させるらしいのだが――。
彼女のビキニアーマーは、その性能が段違いだ。
それはさておき、ヘビやら鳥の魔物の肉なら食えるかも? ――と、思ったが、こいつは無理だな。
尻尾は硬そうな殻に覆われた節があって、サソリみたいだし……。
ちょっと虫はなぁ……。
おまけに、オッサンの顔がついているし。
毛皮以外は不気味だ。
見ているとオッサンの目がこちらを睨んでいるような気がする。
キモいので、アイテムBOXに収納した。
戦闘に勝利した俺たちは、再び移動を始めたのだが――。
俺たちの行く手を阻む巨大なものが現れた。
「は~」
眼の前に立ち塞がるものを見上げる。
移動の先にあったのは、天井まで届いている巨大な壁。
ここが階層の境目だと思われる。