36話 ドラゴンとビキニアーマー
原発跡地の仕事をしていたら、レンが行方不明だと連絡が入った。
丁度仕事も一段落したところだし、急いで特区に帰ったのだが、ダンジョンで迷宮教団に出会ってから、彼女の様子がおかしかったという。
レンは単独で、迷宮教団に接触を図ったのではあるまいか?
彼女を追ってダンジョンに潜ると、深層で迷宮教団の女とエンカウントしたのだが――。
一緒にいたのは、泣いている子どもたちと、「踊る暗闇」という、俺とトラブっていたギルドのリーダー。
男の口ぶりからすると、このギルドは迷宮教団とつながっていたようだ。
迷宮内の子どもたちが、行方不明になっているという事案も、彼らが関係しているに違いない。
子どもたちを助けるために一戦交えようとしたのだが、とんでもないことが起きた。
女が使った魔法か、テレポートのトラップか、俺はまったく別な場所に飛ばされてしまったのだ。
冒険者がまったく見当たらないし、デカいドラゴンらしき魔物もいることから、現在地はかなり深層だと思われる。
「まいったな……」
ドラゴンがいるとわかったら、迂闊なことはできない。
飯を食ったりするのにも気を使うし、これは面倒だ。
とりあえず、ここがダンジョンだというのは間違いないだろう。
ダンジョンの構造からいって、どこかに上の階層に上る通路があるに違いない。
消耗する魔物との戦闘は避けつつ、それを探すか……。
なにせ、ここでは補給ができないからな。
いつもパーティ分の食料を買い込んでいたので、アイテムBOXにはたっぷりの食料がある。
持久戦もこなせるだろうが、いつまでもこんな場所にいるわけにはいかない。
なにかあるか解らんからな。
俺の高レベルも通用するかも不明だし。
用心に越したことはない。
それにしても、高レベルだと暗闇でも目が見えるってのはデフォの能力なのだろうか?
ケミカルライトはすぐに尽きるし、ここに飛ばされて魔導師がいないと即詰みだな。
幸いというか、深層なのでレベルの低い敵は湧かないようだ。
ひたすら高レベルの敵だけが湧く階層か。
マジでゲームみたいなものだな。
もしかして、ドラゴンしかポップしないのか?
それなら、ひたすら逃げるしかないだろうな。
辺りを確認しながら、暗闇の中を進む。
壁にブチ当たったので、こんどは壁伝いに進む。
迷路の基本だ。
アイテムBOXから筆記具を出して、マッピングをする。
どうやらトラップはないっぽいな。
まぁ、あったら全部デカいドラゴンが引っかかって潰してしまうだろうし。
左手に壁を見つつ、進んでいく。
生存者がいれば、俺と同じことをしながら進んでいるかもしれない。
生き残ってくれていればいいが。
生存者のことを考えていると、眼の前に黒いものが見えてきた。
近づくと、巨大な裂け目だ。
巨大な真っ黒な裂け目が、まるで地の果てから無限の闇を吐き出すように、恐ろしい口を開けていた。
深遠の凍りつくような寒さがその中から漂っているように感じる。
俺はおそるおそる、その裂け目をのぞきこんだ。
まるで自分が虚空に吸い込まれていくような感覚が襲ってきてふらつく。
暗闇の中には何もなく、ただ無限の虚無が俺を待ち受けていた。
「こえ~」
果てしない裂け目だが、俺は自分の家の裏にできた穴を思い出した。
「そうだ――ちょうどいい」
アイテムBOXに溜まっているゴミをここに捨てればいいじゃん。
原発の瓦礫なども、ここなら放射能も関係ない。
いずれダンジョンに吸収されるんだろ。
俺はアイテムBOXから瓦礫を出して、黒い裂け目に放り込み始めた。
ドンドン捨てる。
処理は俺に任されていたが、どこに捨てようか迷っていたんだ。
丁度いい。
災い転じて福となす。
これぞ人生ってやつよ。
全部捨て終わったと思ったら、俺の身体に異変が起きた。
宙に浮かぶような感じと、身体の発光――レベルアップだ。
もしかして、下にドラゴンでもいたのかもしれない。
ラッキー! 普段ならそう思うのだが、今はマズイ。
こんな動けない状態だし、光っているし、敵を呼び寄せてしまうかもしれない。
そう思っていると、地響きが聞こえてきた。
「ほら! やっぱり! ちょっと、キャンセルってできないの?!」
所構わずレベルアップするのはマズイだろ?
やって来たのは、四脚を踏ん張っている最初に見たドラゴンっぽい。
同一個体かどうかは解らん。
いや、そんなことよりレベルアップを止めてほしいんだが――。
「うわぁぁぁ!」
ドラゴンの鼻面が、眼の前までやってきた。
鱗に覆われたデカい鼻面が、レベルの光に照らされて浮かび上がっている。
色は緑っぽい感じだな。
向こうもなにか解らず、混乱しているようだ。
クンカクンカにおいを嗅いだりしている。
そのうち、鼻面を使って俺に体当たりをしてきた。
「わぁぁぁ!」
レベルアップで身動きも取れないので、どうしようもできない。
俺も覚悟を決めたのだが――なんともない。
ドラゴンの体当たりにもびくともしてないようだ。
「もしかして、レベルアップ中は無敵か?」
ゲームだと、レベルアップすると全回復するとかもあるよな。
瀕死でも助かるとかな。
ここでは、どうだったかなぁ……。
そんな記述はネットでも見なかった気がしたが……。
レベルアップ中は無敵って情報もなかったと思ったが……。
試したやつがいなかったのか。
まぁ、強い魔物に向かって試してみたりして、無敵じゃなかったら死ぬかもしれないしな。
そんなことをするやつがいなかっただけか。
このダンジョンの理不尽さにちょっと呆れていると、光が止まってストンと地面に落ちた。
やっと解放されたのだが――解放されたってことは、無敵タイムは終了ってことだ。
「うわぁぁぁぁ!」
俺はその場から走り出した。
「グワアァァ!」
ドラゴンのほうも、眼の前にいるのが改めて敵だと認識したのだろう。
俺を追っかけて突進してきた。
いや、俺が逃げたから追っかけてきたのか。
「チクショォォウ!」
右手は地の底まで続く割れ目――その先は壁。
どのぐらいレベルアップしたのか確認していないが、かなりスピードが出ている。
あっという間に壁が迫ってきた。
ドラゴンは俺を追い込むように左側から攻めてきている。
――となると、逃げる手立てはこれしかない。
「おりゃぁぁぁ!」
俺は脚力を使って斜めに壁を駆け上がった。
アドレナリンMAXの壁走りである。
放物線を描いて、黒い裂け目の上をクリアすると――。
「とぅ!」
反対側の地面に着地した。
「はぁ~! あぶねぇ!」
心臓がバクバクしている。
一歩間違ったら奈落の底だ。
いくら高レベルでも、ここから落ちたら助からないだろう。
「ガォォン!」
対岸でドラゴンが口を開けている。
悔しがっているポーズだろうか?
やつは、4脚で踏ん張るタイプで、ジャンプしたり飛んだりできる種ではないらしい。
助かったかもしれない。
「ふう……」
ドラゴンはやってこれないが、無用な挑発などすれば、なにが起こるか解らん。
俺は対岸でウロウロしているドラゴンを尻目に、その場からすぐに離れることにした。
再び、左手に壁を見ながら歩く。
「そうだ!」
思い出した。
こうなったのも、ダンジョンのシステムが――あえてシステムと呼ぶが、そいつが空気を読まずにレベルアップしたからだ。
そのレベルを確認してみるか――俺は、ステータス画面を開いた。
――レベル55だ。
裂け目の下にいたかもしれない魔物は、結構大物だったのかもしれない。
この層でもかなりのレベルだし、もっとデカいドラゴンとか、そういう魔物だったのだろうか?
まぁ、瓦礫もかなり落としたしな……。
数百トンぐらいあったんじゃないか?
おかげで、アイテムBOXもだいぶ軽くなった。
いや、重さなんて感じないけど、放射性廃棄物とか、いつまでも入れておきたくないじゃん。
綺麗さっぱりできてよかったよ。
これで地上に戻れれば、公共事業の対価で1000億円の金が入ってくるわけだ。
地上に帰れればの話だが。
空になったタンクも入ったままだが、まだ原発跡地に処理水は残っている。
敵の襲撃で、事業は一旦中止になっただけだ。
捨てるわけにはいかないし、なにか役に立つかもしれない。
積み重ねて高い所に上る――とかな。
まぁ、アイテムBOXには俺が家から持ってきた10mのハシゴも入っているから、それでなんとかなりそうだけど。
それよりも――動いたので腹が減った。
アイテムBOXから、菓子パンを出して食べる。
これならにおいはしないだろう。
レベルが上がるのはいいのだが、ドンドン燃費が悪くなるな。
そりゃ力やら素早さがアップすれば、それだけエネルギーを消費するから、余計に燃料を入れないと駄目なのは解る。
なおさら、こんな深層に落とされたら、不利になるな。
腹ごしらえを終えると、更に進む。
無限に続くかもしれない闇の中、唯一の伴侶は静寂だ。
その暗闇はまるで無限の深みを持ち、周囲には何一つの光明もない。
時間も意味を失い、ただ漂う存在となっている。
その底知れぬ深淵を進むにつれて、漠然とした不安が心を覆い、孤独感が広がった。
その孤独感はまるで冷たい影が背中に触れるよう。
それは突然やってきた。
周囲には何もなく、ただ自分の存在だけがそこにある。
それが何の目的もなく、ただ無限の闇の中で存在しているということに気づくと、心は不安に支配された。
「発狂するときってこんな感じなのだろうか……」
独り言をつぶやきながら闇の中を進むと、なにか音が聞こえてきた。
震動? 地響き? 爆発音?
反響していてよく解らない。
「魔物同士が戦っているのか?」
いや――生存者がいて、ドラゴンあたりと戦闘しているのかもしれない。
もしそうなら、かなりの高レベル冒険者ってことになるか。
生存者がいるなら、協力プレイが可能になるし、なによりここで1人はツライ。
田舎じゃ1人暮らしだし、山の中に1人で入ることもあったが、そのときとは明らかに状況が異なる。
気がつくと俺は、音が響く方向へ走り出していた。
スピードを上げて加速しようとしたのだが――落ち着け。
明らかに戦闘をしている音だ。
俺が参加するにしても、相手はドラゴンの類。
途中でエネルギー切れにならないように、腹になにか入れたほうがいい。
腹が減っては戦はできぬ。
俺はアイテムBOXから、カロリーバーと芋を取り出して齧った。
缶コーヒーで流し込む。
こいつが一番効率がいい。
平らげると、音のする方向へ加速した。
徐々に音に近づくと、瞬く光が見える。
次に閃光――多分、魔法の光だ。
やっぱり、魔法を使える冒険者がいるらしい。
光が見えて、目的地が明確になった。
そちらへ向かうと、次第に景色に色がつき始める。
どうやら戦いやすいように、魔法の光も灯しているらしい。
戦っている彼らには悪いのだが、その光が輝いている様子を目にして、俺の中に安心感が満ちてきた。
暗闇の中に浮かび上がるその光は、希望の兆し。
瞬く明かりが人の存在を告げてくれて、俺の心の重荷が軽くなる。
その輝きが、俺にとっての頼りになる存在の確かな証拠だった。
「うぉ!」
たどり着いた俺の眼の前に現れたのは、まるで小さな山のようにそびえ立つドラゴン。
その巨大な身体は、地面を覆い尽くすほどの迫力で、その存在感は圧倒的。
鱗片が魔法の光を反射し、まるで宝石のように輝く。
その頭には角が生え、光る目が力強さを示している。
強靭な腕と爪が地面をつかみ、土を掻き分ける音が轟く。
その姿はまさに神話の生き物そのものであり、ただただ圧倒されるばかり――。
いや――いきなりで驚いたが、すぐに俺は冷静さを取り戻した。
このドラゴンは翼はないので、飛んだりはしないと思われる。
まぁ、いくら天井が高いとはいえ、翼があったとしてもこんなデカブツが自在に飛べるスペースはないだろう。
驚いたのはドラゴンだけではない。
俺の眼の前で、ビキニアーマーの女性が戦っていたのだ。
一緒に魔導師の女性もいるので、魔法を使っていたのは彼女なのだろう。
あのビキニアーマーは、トップランカーに名を連ねていた彼女に違いないが、どう見ても苦戦している。
彼女が高レベルなのは承知しているが、ドラゴンと対峙するとなると力不足なのだろう。
そりゃそうだ。
レベルに関係なく、強制的にテレポートでダンジョンの深層へ飛ばされたんだからな。
俺はアイテムBOXから、単管ミサイルを取り出すと、大声で叫んだ。
「助太刀します!」
「「えっ!?」」
驚いたような声が聞こえた気がする。
そりゃそうだ。
こんな場所に他の冒険者がいるとは思わなかっただろう。
俺だって、誰かが生き残っているとは思わなかった。
「おりゃぁぁ!」
投槍器に単管ミサイルをセットすると、全力でドラゴンの腹めがけて投げつけた。
俺もレベルアップしてるし、ステータスを強化するアイテムも装備している。
以前と比べても、ミサイルのスピードが段違いだった。
「ガォォン!」
「どうだ!」
渾身の力を込めた投擲だったが、美しい放射線状の火花を散らして弾き飛ばされた。
「でっ?!」
「ガォン!」
今の攻撃で俺がいることに敵も気がついたのだろう。
身体をひねると、巨大な尻尾で払いにきた。
「とりゃ!」
地を猛スピードで這ってくる巨大な尻尾を縄跳びのようにジャンプで躱す。
自分でも驚くぐらいのスピードとジャンプ力。
さっきレベルがさらに上がったから、まだスピードに慣れていない。
気を抜くと、どこかに飛んでいってしまいそうだ。
巨大な魔物がこちらを向く。
俺を一発で倒せない強敵と認識したのかもしれない。
ドラゴンと戦っていたビキニアーマーのほうをチラ見すると、膝をついてへたり込んでいる。
多分、ここまで戦闘を続けていて限界を迎えていたのだろう。
我ながら、ナイスタイミングだったな。
まるで、ヒロインのピンチにやって来た主人公様だ。
「ガォォンン!」
鼓膜が破れるかのような咆哮が俺を襲う。
ゲームだと、こういう咆哮でステータスに異常がでたりするのだが、今のところなんともない。
そういう効果がないのか、それとも高レベルのせいでレジストしているのか。
俺はアイテムBOXから出した次弾のミサイルを装填した。
「今度はタダの弾じゃねぇぞ!」
高い金を出して特注した、超硬弾芯徹甲弾だ。
備えあれば憂いなし!
こういうときのために、準備をしたんだ。
「オラァァァ!」
俺は渾身の力をミサイルに載せて投擲した。
猛スピードで直進したミサイルが、ドラゴンの胸に衝突して火花を散らす。
そこまでは前と同じだが、今度は敵の反応が違った。
首を振り上げて天井を向くと、叫び声のような咆哮を上げたのだ。
徹甲弾の弾芯には、超硬タングステンの針が装填されている。
ミサイルは鱗を貫通できずに止まったが、そこから飛び出した弾芯がドラゴンの防御を突破したに違いない。
「どうだ?!」
巨大な図体に針が1本ささったぐらいじゃ、駄目か?!
叫び声を上げていた敵が俺のほうを向いて、口を開けた。
「グアァァ!」
「やべっ!」
危険を直感した俺は、その場から飛び上がった。
敵は口からなにかを吐いて攻撃をするつもりなのだろう。
それが、火炎か酸か、それとも他のものか、それは解らない。
飛び上がったのだが、高さが足りない。
俺は高さを稼ぐために、咄嗟にアイテムBOXから処理水が入っていたタンクを取り出した。
本当に咄嗟だ。
人間、刹那には走馬灯が回るというが、思考が加速するのだろう。
俺もこの危機的状況下で、咄嗟の行動をした。
タンクなどを取り出してどうするのかといえば――。
「おらぁぁ!」
俺は召喚したタンクを足場にして、さらにジャンプをした。
「グアォォ!」
ドラゴンの口から灼熱の火炎が吐き出され、ダンジョンの景色が真っ赤に染まる。
俺は、咄嗟に2段ジャンプをしたことで、火炎の射線から逃れることができた。
俺がさっきまでいた場所は、火炎に焼かれて黒焦げになっている。
「とりゃぁぁ!」
更にタンクを召喚すると、3段ジャンプをしてドラゴンの頭の高さまで飛び上がった。
本当に、死にものぐるいである。
自分でも、なぜこんなことができたのか、不思議でならない。
火事場のクソ力という言葉があるが、まさにそれだ。
敵は吐き出された火炎を途中で止めることができずに、俺の接近を許したようだ。
大ジャンプで巨大な敵の頭に取り付くことができた。
固い岩のような鱗にしがみつく。
ドラゴンは頭に乗った俺を見失っているようだ。
灯台下暗し――いや、大男総身に知恵が回りかね――意味が違うか?
「チャ~ンス!」
俺は、アイテムBOXから、超硬弾芯のミサイルを取り出した。
そいつを敵の鱗の隙間に差し入れて、硬い防御を剥がそうと試みる。
ドラゴンの鱗と超硬の金属が擦れて火花を散らす。
さすがにここまでくると、敵も頭に小虫が取りついていることに気がついたようだ。
「グアォォ!」
頭を左右に振って、俺を振り落とそうとしている。
当たり前だが、ここで振り落とされたら終了なので、必死にしがみつく。
「そうはいくか! おりゃぁ!」
硬い鱗が火花を散らすのだが、突破するのは難しいようだ。
「くそ!」
俺はアイテムBOXに入っていた、あるものを思い出した。
原発跡地で某国の特殊部隊に襲われたときにゲットしたナイフだ。
そいつを取り出し、ドラゴンの硬い鱗に突き立てると、みるみる腐食してグズグズになる。
俺はナイフを収納して、必殺の槍を召喚した。
「オラァ! 喰らえ! 必殺、劣化ウラン弾!」
鱗が剥がれた穴に向かい、全身を使ってミサイルを突き立てた。
「グォォ!」
貫通した弾芯が細かく割れて発火すると、辺りに散らばり燃焼し続ける。
「あちち!」
ドラゴンの頭の上が火の海だ。
金属は違うが、マグネシウムの燃焼のようなものだろう。
普通の火ではないので、一旦火がつくと簡単には消えない。
目の辺りも燃えているので、これで敵の視界を奪えるかもしれない。
俺は火から逃れるためにドラゴンの背中を駆け下りた。
地面に降り立つと、敵の頭が閃光に包まれて、それが赤い爆炎に変化する。
多分、魔法の爆発だ。
「ギャォォン!」
さっきまでのドラゴンの咆哮とは違う。
魔物の王者らしからぬ叫び声だ。
これはダメージが入っているのではなかろうか。
ここで畳み掛けるべきだろう。
俺はアイテムBOXから、再び劣化ウラン弾を取り出した。
ここで、出し惜しみしても仕方ない。
全力で仕留めにいくべきだ。
「オラァ! 死ねぇぇぇぇ!」
普段叫ばないような言葉を全力で叫ぶ。
ここで叫ばないとどこで叫ぶ。
渾身の力を使って、ミサイルを投擲する。
放たれた飛翔体が直進すると、ドラゴンの硬い鱗に衝突した。
今度は派手に燃えなかったが、ブスブスと白い煙が魔物の巨体から上がり始める。
おそらく、敵の身体の中で燃えているに違いない。
「ギャアアア!」
ドラゴンが狂ったように暴れ始めた。
このダンジョンでポップしてこのかた、自分にこんな手傷を負わせるものはいなかったのだろう。
初めての痛み、初めての恐怖、初めてづくしだ。
劣化ウラン弾は、あと1本――どうする?
ここで使うか?
この階層を脱出すれば、徐々に敵は弱体化する。
そうなれば、ウラン弾は必要ないだろう。
まずは、ここで確実に仕留めることが必要だと思われる。
俺はもう1発の劣化ウラン弾をアイテムBOXから取り出すと、敵に向かって撃ち込んだ。
「ギャアアア!」
ドラゴンが派手に叫んだかと思うと、その場に倒れ込む。
傷口が閃光とともに燃えていて、白い煙と香ばしいにおいが立ち込めた。
たぶん、魔物の脂が燃えているのだと思われる。
まだ絶命はしていないが、すでに虫の息。
身体の内部にかなりのダメージを負ったと思われる。
「くそ! 美味そうなにおいをさせやがって……」
そんなことを言っている場合ではないのだが、本当にいいにおいなのだ。
もう、敵に反撃する力は残っていないようなので、警戒しながら絶命を待つ。
動くようなら、さらに超硬タングステン弾を撃ち込む。
そのために、アイテムBOXからミサイルを取り出して、警戒を続けた。
「まだか? とっとと、くたばれ」
こちとら、腹が減っているんだよ。
我慢できずに、アイテムBOXからカロリーバーを取り出して齧った。
大きく動いていた腹の動きが徐々に小さくなり、焼け焦げた目からも生気が失われていく。
この階層を支配していた強敵がついに動かなくなった。
「ふう……多分、もう大丈夫だろう」
そうだ――死んだのなら、アイテムBOXに入らないか?
いや、多分10m以上あるから無理か?
ためしに収納を試みたのだが、失敗した。
すでに息の根は止まっていると思うので、単に大きさの問題だろう。
「そうだ、戦っていた女性たちは――おわっ!」
そっちのほうを向こうとしたら、駆け寄ってきたビキニアーマーにいきなり抱きつかれ、そのまま押し倒された。
黒くて長い髪が俺の顔をなでる。
同時に彼女からの刺激的なにおいが、俺の鼻腔を突いた。
「あなた! 子作りに興味はないか?!」
彼女の美しく切れ長の目が迫ってくる。
「ハァ?!」
突然の言葉に俺はあっけに取られた。