33話 処理水処理
原発跡地の仕事が始まった。
本当は、契約がまだなんだけどな。
まぁ、どのみちやることになるから大丈夫だろ。
巨大なFRPのタンクに処理水を入れて、俺のアイテムBOXに収納する。
タンクの容量は400トン。
跡地にある円筒形の処理水タンクは1個1000トンらしい。
それが、この地には1000個並んでいる。
1日に400トンタンク10個で、処理水タンク4個分。
1000個あるから――それでも250日かかるのか。
どんどん運んでどんどん処理して、回転させないと終わらない。
それでも、30年もこのままだったんだ。
1年で片付くなら、まさに奇跡と言ってもいいだろう。
原発の瓦礫と一緒で、1000億円の仕事になるが、1000億で片付くなら、超安いはず。
俺がやらなかったら、多分100年後にも残っていると思うし。
とりあえず、処理水が満タンになったタンク2つをアイテムBOXに入れる。
「また、車ですか?」
「いいえ、ヘリで行きます」
「ヘリですか? そんな話は確かにしてましたが……」
「もう国家事業ですし、色々とあると困るので、自衛隊のヘリを貸し切りです!」
「あ~、もしかして――ヤバ目な情報が入ってきたとか?」
「え?! そ、そんなことはないのですが……」
彼女の目が泳いでいる――嘘下手か。
まぁ、自衛隊が護衛してくれるなら、大丈夫だろ。
総理の話では、特殊部隊も展開しているみたいだし。
「う~ん、本当に大丈夫かな?」
「だ、大丈夫ですよ!」
「晴山さん、危なくなったら逃げてくださいね。敵の狙いは私ですし」
「そ、そんなわけには……」
「いやいや、私だけなら、なんとかなりますし」
俺には冒険者パワーがあるからな。
スピードも一般人とは段違いだし、アイテムBOXもある。
なんとかなる。
晴山さんと話していると、ヘリがやって来た。
迷彩が施されている自衛隊の大型ヘリだ。
前後にローターがあるタンデム型ではない――ブラックホークってやつだ。
こいつが墜落する映画を観たことがある。
こんなので、毎回往復するの?
いや、車で移動だと、狙われる可能性があるのは解るが……。
毎回護衛の車に挟まれて移動するわけにもいかないし。
なんだか、大騒ぎになっているような。
驚いていると、もう1機飛んできた。
護衛の護衛か? それとも、2機で飛んで目標を絞りにくくさせるためか?
ローターが巻き起こす風の中、ヘリの側面が口を開けて待っている。
ゴチャゴチャとした装備が施された機内に乗り込むと、迷彩服を着て武装をした自衛官がいた。
防弾ジャケットや、ヘルメットも被っている。
その横には、備え付けられたミニガン――え? 実弾入り? マジで?
本当に、危ない状態なんだな。
すくなくとも、国はそういう情報を掴んでいるということだろう。
「よろしくお願いします!」
「こちらこそ!」
自衛官が敬礼をしてくれると、ヘリが飛び上がった。
慌てて、シンプルな座席についてシートベルトをつける。
「よく解らん民間人のオッサンの護衛なんてアホらしいと思ってません?」
俺は気になることを、ぶっちゃけて聞いてみた。
「そんなことはありませんよ! アイテムBOXを使って、あの処理水のタンクを処分できると聞きましたよ!」
彼が眼下に広がる巨大なタンク群を指した。
ヘリの中はやかましいので、必然的に会話が大声になってしまう。
「そうなんですけどね!」
「絶対にお守りいたしますから!」
2機のヘリが並んで飛ぶ。
向こうのヘリの自衛官と目が合うと、手を振ってくれた。
「これ、下からミサイルで狙われたりとかは?!」
「世界が静止したあと、魔石から半導体を作れるのは日本とアメリカぐらいのものです! ミサイルやドローンを作るのも簡単じゃありません!」
ダイヤモンドやらガリウムやらの半導体もあるらしいが、そんなものを作れる国も、当然限られている。
「なるほど!」
昔は、子どものオモチャでもあったドローンだが、今は簡単には作れない。
魔石から作っているジャイロセンサーだって、輸出してないしな。
とにかく、国内で使う分でいっぱいいっぱいなので、輸出している場合じゃないし。
だいたい、他の国に運ぶ手段が限られているし、外為も機能しているとはいい難い。
そんな状態で他国の金をもらっても仕方ない。
今価値があるのは、円とドルだけだが、ドルを持っている国もない。
米国債を持っていた国もたくさんある。
それを売りたくても買う国がなければ、国債なんて紙くずだしな。
軍事力に余裕があるとなると、真っ先に思い浮かぶのはアメリカだが――。
まさか、アメリカじゃないと思いたい。
一応同盟国だし、力ずくで来るまえに、交渉の余地があるだろうし。
オロシアは世界が止まる前にやってた戦争で疲弊していたところに、ダンジョン騒ぎで完全に国が崩壊してて、それどころではない。
「あとは――」
考えられるのは、そう多くはないな。
話をしていると、目的地についた。
下にヘリポートが見える。
前には気づかなかったのだが、急遽作ったのだろうか?
下にも自衛官の姿が見える。
もう本当に、ガチ武装だな。
ここに突っ込んでくる敵は本当にいるのか?
到着したので、晴山さんと一緒にヘリから降りた。
ダンジョン前のフェンスがなくなり、簡単なゲートが作られている。
仕事が早い。
待っていた迷彩色をまとった自衛隊の機動車に乗せられて、ダンジョンに向かう。
まったく至れり尽くせりだな。
窓が塞がれているので、暗く狭い車内でガタガタと揺られる。
乗り心地はよろしくない。
弾が飛び込んでこないだけありがたいが、RPGは無理だろうな。
いやぁ、そんなので撃たれたくはないけど。
高レベルなら、それでも死なないだろうか?
ここならダンジョンもあるし、瀕死になっても飛び込んでポーションで助かるような気もする。
そんなことを考えていると、入口に到着した。
たくさんの重機が並び、ひときわ背の高いクレーンが見える。
どうやら、晴山さんが話していた、蒸気で動く重機のようだ。
ダンジョンの外では普通のボイラー、ダンジョン内では魔法でお湯を沸かすのだろうか?
――ということは、魔導師がいる?
以前あったコンクリートの壁は完全に撤去されてしまったようだ。
ダンジョンの入口付近はスペースが確保されている。
これなら、デカいタンクを出しても大丈夫だろうが、魔物の飛び出しは大丈夫なのだろうか?
自衛隊がいるから問題ないという判断かな?
ダンジョンの影響外に出れば、銃火器も使えるし。
「丹羽さん! 行きましょう!」
晴山さんと一緒に広くなったダンジョンの入口にやってきた。
そこには薄手の防護服を着込んだ10人ぐらいの作業員が待機中だ。
放射線は低いが、水が体内に入ったりすると内部被曝の可能性がある。
それを囲むように、武装した自衛隊員たち。
まさに異様な光景。
「お疲れ様です~」
「「「お疲れ様で~す!」」」
「あの~、さっそく始めちゃっていいんですかね」
俺の言葉に、現場監督らしき男性が前に出た。
「いやぁ――我々もこういう作業は初めてなので……」
「大丈夫ですよ! 丹羽さん! やっちゃってください」
晴山さんが、両手を握ってフンスと気合を入れている。
警備をしている自衛隊員たちの視線もこちらに向いていた。
やっぱり興味があるのだろう。
「解りました。それじゃ始めますか――皆さん、ちょっと離れてください。かなり大きなものが出ますからね」
出てくるのは400トンもの処理水がたっぷりと入っている巨大なタンク。
下敷きになったりしたら、労災で一発工事中止だ。
「は、はい……」
「皆様、ご安全に! ――よし! タンク召喚!」
俺は、アイテムBOXからタンクを出した。
さすがに400トンのものがでてくると、デカい音がする。
地面の震動が足にも伝わってきた。
「「「おおお~っ!?」」」
辺りがどよめき、非日常的な光景に自衛隊員たちもあっけに取られている。
こんなデカいものが突然現れるなんて、どう考えてもおかしい。
まぁ、そんなことを言ったら、眼の前にあるダンジョンじたいも相当おかしいんだけどな。
出たは出たが、向きがおかしい。
水を出すために側面下にバルブがあるのだが、それがダンジョンのほうに向いていない。
「もう一度収納して、再び召喚!」
今度は上手くいった――バルブがダンジョンを向けて口を開けている。
タンクは2つあるので、隣に並べてみた。
もう1個分ぐらい余裕があるので、全部で3つ並べられるようだ。
「晴山さん、いいよ」
「はい、それでは、作業お願いいたします~」
「「「はい!」」」
防護服を着た作業員が、バルブに取りつくと、ハンドルを回しはじめた。
次第に水が流れ出て、轟々と音を立て始めた。
「晴山さん、これって流量ってどのぐらいなんですか?」
「え~と」
彼女は作業の様子をカメラで動画にしているようだ。
「あっと、すみません。あとでいいですよ」
タンクが空になるまでどのぐらいの時間がかかるもんだろう。
などと心配していると、5分ぐらいでほぼ空になりそうな感じだ。
最初は圧力が高いので、勢いよく噴き出すが、最後のほうはゆっくりと流れていく。
この水で、魔物が死んだりするのかなぁ。
その場合の経験値は俺に入ってくるんだろうか?
それとも、バルブを開けた作業員?
よく解らんな。
魔物を倒したとすると、地下までアイテムがたくさんドロップしているかも。
ちょっと確認したいところだが、これだけの人たちが動員されているのに、俺1人だけ勝手な行動はできない。
夜に作業が終わったあとでも、ヘリなどを使って撤収するだろうしなぁ。
俺が1人残ったりすると、護衛の自衛隊員も残らないと駄目だろうし。
それは気の毒だ。
「う~ん」
やっぱり諦めるしかないな。
そんなことをしなくても、原発跡地のタンク群を空にすれば大金が転がり込んでくる。
そっちのほうが大金だ。
「でもなぁ……」
レアなアイテムがでてたりするかもしれないし……。
くそぉ~、俺を狙っているとかいう連中さえいなかったら……。
まぁ、そのぐらいレアなスキルってことなんだろうけどな。
考えごとをしていると、タンクが空になったようだ。
周りを確認してみるが、レベルアップしてる作業員はいないらしい。
これは、攻撃と認識されていない?
「丹羽さん! なんでしょうか?」
晴山さんが、俺の所にやって来た。
「え?」
「さっき、なにか聞きたいようでしたから」
「ああ、あのバルブの流量はどのぐらいかなぁ――と」
「え~、ちょっと調べますね。確か諸元に……ありました。毎分100トンって書いてありますね」
「毎分100トンか……」
それなら、400トンのタンクが5分ぐらいで空になるか……。
「でも、すごいですね! 5分ぐらいで全部空ですよ」
「これを3つ並べて、処理水タンク1基ぐらいだな」
「そうですね! この分だと、かなり処理できるんじゃないですか?」
「そうだなぁ――タンクがたくさん揃えば、一気に運べると思うし……」
「やっぱり、至急タンクが必要ですよね! 急がせます! もう、突貫で!」
彼女が、スマホで連絡を始めた。
「いやいや、そんなに急がせなくても」
「時間が延びるほど、自衛隊の予算も食われますから、大変なんですよ!」
「あ、はい……」
タンクの会社に多少の無茶をさせても、期間が短いほうが国家予算を食わないってわけか。
「あ! いつもお世話になっております! 資源エネルギー庁の晴山です! 注文しているタンクの件で――」
彼女電話が終わるまで待つ。
その間に、タンクを収納した。
「「「おおお~っ!」」」
「す、すごいですね!」「このデカいのが、なん個ぐらい入るんですか?」
作業員たちから、質問が飛んでくる。
「今のところ、ちょっと解らないんですよねぇ」
「へ~」
作業員たちが感心しているのだが、中には複雑な表情をしている者も。
「でも、あのタンク群がなくなりゃ、俺たちの仕事もおしまいってことだぞ?」
「そりゃそうだけどなぁ……」
「いつまでも置いといていいもんでもないだろ?」
「「「ああ……」」」
作業員たちが、顔を見合わせている。
仕事がなくなるのは困るのだが、あれがあのままではマズイ――というのも一致しているようである。
待っていると彼女の電話が終わったみたいなので、また原発跡地に自衛隊のヘリでとんぼ返りする。
さてさて、1日にどのぐらいタンクを空にできるだろうか。
晴山さんと計算をする。
「1回で流せるタンクは3つ――5分ほどで空になるわけね」
「はい」
余裕をみて、1時間に6回ローテーションできるとして、タンク18個✕400トンで7200トンか。
なん回往復できるかね?
6回往復として、1日に4万3200トンか。
1000トンの処理水タンク43基分。
俺がタンク18個をアイテムBOXに入れて、ダンジョンで作業している間に、跡地では空のタンクに処理水を注ぎ込む作業がある。
さらに18個のタンクが必要ってことだな。
合計で36個ってことだ。
空にするのは、バルブを開いて流すだけだから簡単だが、入れるのはポンプで入れるんだろうな。
そっちのほうが時間がかかりそう。
跡地には、1000基のタンクがある。
実際にやってみないことにはどうなるか解らないが、上手く回れば――約24日で全部なくなるかもしれん。
「すごい! さっそく、総理に報告させていただきます!」
晴山さんが、目をキラキラさせている。
「いやいや、ぜんぶ上手くいけばの話だからね」
「でもでも! さきほどの様子をみれば、タンクの数さえ揃えば十分に可能かと!」
「30年以上も放置された処理水が、そんな短期間でなくなるんですか?」
隣にいた自衛隊員も、話を聞いていたようだ。
「一応、国家機密なので……」
「自分は大丈夫であります」
「頼むよ」
晴山さんは、一生懸命総理にメッセージを打っている。
本当に上手くいくのかなぁ。
妨害工作やらがなけりゃいいけど。
原発跡地に帰ってくると、アイテムBOXからタンクを2つ出して、処理水を入れてもらう。
こちらでも、防護服を着た作業員たちが、仕事をしている。
やっぱり、こちらはポンプを使って汲み上げるから、時間がかかるようだ。
ポンプを増やせばどうにかなるのか?
こちらも現場の判断だからなぁ……。
俺からああしろ、こうしろとは言えないし。
「う~ん、ポンプの追加が必要ですね!」
晴山さんは解っているらしく、どこかに連絡を始めた。
多分、ポンプを作っているメーカーだろうな。
タンクを18個用意したら、それに一気に処理水を入れられるようにしてもらいたいし。
そうしないと、いつまでたっても仕事が終わらない。
すべてが終わったら、タンクもポンプもまとめて、ダンジョンに投棄する。
少なからず汚染されているからな。
そう考えると、やっぱりこの機会に、一気に全部を終わらせたほうがいいと思う。
そうしないと、また処理をするために、埋めたり処理施設を作ったりと予算がかかる。
予算がかかると、それで儲かるやつらがいると思うのだが、もうそこら辺は終わりにしたほうがいいんじゃなかろうか。
これら負の遺産は、次の世代に残しては駄目な代物だと思うし。
――そのあと、昼食を挟んで4往復ほどした。
今日の処理は、タンク2個✕4往復で8個――3200トン、処理水タンク3つ分の仕事だ。
このペースでのんびりやっても、1年はかからないのか。
それは解ったが、どうせやるなら早いほうがいい。
こんなこと1年もやってられないぞ?
狙っている奴らもいるって話だし、自衛隊の予算も食うだろう。
「やっぱり、タンクに水を入れる作業がネックになるかもな~」
「ポンプを増やす方向で、計画を進めてますけど……」
「う~ん……あ!」
いいことを思いついたかもしれない。
「なんですか?」
「タンクを入れる穴を掘って、そこに入れるのはどうですか?」
「あ! 丹羽さんのアイテムBOXなら、タンクの移動は自在にできるので――」
「低い場所にタンクを置けば、ポンプがなくても処理水を流し込むことが可能になると思うんですが……」
「そうすれば、ポンプなどの後処理に困りませんね……解りました! 総理に提案をさせていただきます」
「よろしくお願いします」
ただ流し込むだけなら、ホースやパイプを増やせば流量も確保できるだろう。
さらに処理水タンクに直結も可能なはず。
そうすれば、バルブを開くだけでタンクに流し込むことができる。
ちょっと穴を掘るお金がかかるけど、ポンプに使う電気代も節約できるし。
今は電気代も高いからなぁ。
原子力発電も使えなくなってしまったし、原油の輸入もあまり期待できない。
トータルで考えれば穴を掘るほうが安上がりではなかろうか。
決定は総理がするだろうから、任せるしかないが。
作業が終了したので、俺は特区に帰った。
宿に戻ると、皆がそろっていたのだが、サナが嬉しそうにしている。
「ただいま~」
「ダイスケさん、おかえりなさい~」
「サナ――嬉しそうだけど、なにかあったのかい? レアアイテムを拾ったとか?」
「いいえ――違います」
「それじゃ、なんだろう?」
「バーン!」
彼女が自分のノートPCを見せてきた。
「ん~、『収益化のお知らせ』やったな!」
「はい!」
どうやら、彼女の動画チャンネルが収益化されたらしい。
「俺がいないとダンジョン内の映像を撮れないから、色々と大変だろう」
「再生数はたくさんになりませんが、色々とやってます」
彼女の話では、ダンジョンから帰ってきたあとのアイテムの売買や、結果の収支などを報告して動画にしているらしい。
「おお~、中々鋭いな」
「えへへ」
「いいわねぇ――若くて可愛くて、胸が大きい子は……」
なんか、キララが嫌味ったらしい言葉を吐いている。
「そりゃ男は、若くて可愛くて、胸が大きい女の子が大好きだからな、ははは」
「これだから男は……」
キララが吐き捨てるようにつぶやいた。
「お前だって、配信でよく、『BBA結婚してくれ!』とか言われてるじゃん」
「BBAじゃねぇから! それに! なんで私が、そこら辺のしょぼい男と結婚しなけりゃ駄目なのよ!」
「そう言ってくれる相手がいる間が、華だと思うんだがなぁ……」
「そんな連中は、私と釣り合う男じゃないの!」
まだそんなことを言っているのか。
寄ってくる僅かな男も、年々歳を取るごとに減っていくんだがなぁ……そう思ってても言わないが。
「……」
俺たちの騒ぎにも、レンがおとなしい。
「レン、どうした?」
「どうもしないです……」
「収益化は、サナに越されてしまったけど、レンも十分にファンがつくぐらい可愛いし、なんとかなるぞ?」
「……」
どうも元気がない。
最初出会ったときの元気さはどこかにいってしまったようだ。
心配だな。
悩みがあるのかもしれないが、女子のそれには、オッサンにはどうしようもない。
キララにフォローを頼むしか。
彼女とヒソヒソ話をする。
「レンはどうしたんだ?」
「う~ん、なにも言わないけど、ダンジョンで迷宮教団に遭ったときから、あの調子なのよねぇ」
「それじゃ、お母さんのことが引っかかっているのかな」
「そうかも……」
「カルトと、まともな話し合いも、取引もできないぞ?」
それができないから、カルトなんだし。
「私もそう言っているんだけどね……」
こればっかりはどうしようもないな。
女の子たちはキララに任せて、俺は特区と原発跡地の往復の日々。
これが終われば、金に苦労することもない生活が待っているんだ。
アイテムBOXにデカいタンクを入れて、持っていくだけ。
簡単な仕事だ。
それだけで500億円の収入。
多少贅沢したって、大丈夫ぐらいの金だ。
まぁ、税金でかなり持っていかれるだろうが、それでも大金は残る。
俺の提案した――地面に穴を掘ってタンクを低い所に置く作戦も実行に移された。
処理水タンクにつながる配管も直接つなげられて、水の移し替えが迅速に行えるようになった。
俺が最初に出した試算どおり、36個のタンクが用意されて、18個をアイテムBOXに入れてダンジョンに注ぎ込む。
その間に、残った18個のタンクへの注水を行う。
これを、1日に6回――400トンのタンク18個✕6回で4万3200トン。
1日で1000トンの処理水タンクを、43個処理できるようになった。
特区の役所にあるホログラム投影機で、総理と話したが、彼もご満悦そうである。
そりゃ30年片付かなかった大問題が、1ヶ月もしないで綺麗さっぱりとなくなるんだからな。
日付が進んでいくと、俺が持っている動画チャンネルの収益が入金された。
1ヶ月の収益は――なんと2000万円。
このまま1年やれば、2億円以上という稼ぎになるが、そうそう上手くはいかない。
原発跡地の仕事をしているので、最近動画を上げていないしな。
当然、来月には収益はかなり落ちるだろう。
変化があったのは、動画の収益だけではない。
レベルアップをした。
ダンジョン内に処理水を流し込んでいるわけだが、これが魔物に対する俺の攻撃とみなされて、レベルに反映されたのだろう。
作業員はレベルアップしなかったようだ。
濡れ手で粟でちょっと悪い気もするが、俺のレベルは――49から51まで上がった。
――そんなこんなで順風満帆と思われた、ある日。
「ダイスケさん! そろそろ、終わりそうですね!」
「ああ、特区との間をなん往復したんだろうか?」
「え~と、今日で20日ですから、20往復ですよ」
晴山さんが手帳を見ている。
「そりゃそうか、ははは。でも、これが終われば、俺も故郷に帰れるってわけだな」
「丹羽さん――そういうセリフって、フラグっていうんじゃなかったですか?」
「え?」
彼女と笑っていると、乾いて連続した破裂音が聞こえてきた。
続いて、なにかのデカい爆発音?
「きゃあ!」
晴山さんが、俺に抱きついてきた。
「なんだ?! 事故!」
彼女としゃがみこんで辺りを見回していると、銃を持った自衛隊員が走ってきた。
「丹羽さん! 敵襲です!」
「え?! マジで?!」
本当にそういうことがあるのかよ。