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3話 武器を揃えるか


 自宅の裏庭に、デカい縦穴式のダンジョンができた。

 ダンジョンができたと自治体に報告すると、ここらへん一帯が政府の管轄になってしまう。


 そこで俺は考えた――はるか地下には、なにかうごめいているようである。

 そいつを倒せば、ダンジョンが消えるんじゃなかろうかと。


 俺は、足場に使う単管でミサイルを作り、10日の間――延々と落とし続けた。

 結果、ダンジョンは閉じた。

 ダンジョンがなくなったということは、底にいたなんらかの魔物を倒したことになるのだろう。

 その証拠に、俺にステータス画面が表示された。


 普通の人間でも、ダンジョンに入って初めて魔物を倒すと、それが起こるという。

 ステータス画面が出た者は、「冒険者」と呼ばれることになる。

 俺も「冒険者」になってしまったということだ。

 まったく望んではいなかったのだが……。


 ――しばし考える。


 ステータス画面に表示された、俺のレベルは49。

 これはかなり高い数値だと思われ、実際に重たい斧が軽々と振れる。

 この力があれば、ダンジョンに潜って金が稼げるんじゃね?


 金があれば、これからの生活も楽になるし、家のリフォームもできる。

 つまり、「FIRE!(早期リタイア)」だよ。


「ファイヤー!」

 仕事をしなくても、のんびりと田舎で暮らせる。

 それなりに貯金はあったのだが、ダンジョンができたせいで世界は崩壊寸前まで追い込まれて、日本もインフレが加速した。

 当然、それにともない貯金も目減り――FIREするには金が足りない。

 せっかく降って湧いたチャンスだ。


「レベルが49もあったら、山にいるヒグマにも勝てるんじゃね?」

 かといって、いきなりヒグマと対決する根性はない。

 勝てなかったら、マジで命の危険があるし。


 ダンジョンがなくなるとネットが使えるようになったので、俺は冒険者のことを調べ始めた。


 この世界の冒険者のレベルは、ゲームのようにはいかない。

 ゲームでは、スライムでも倒し続けていれば地道に上げることができるのだが、その手が使えないのだ。

 弱い敵を倒し続けていると、そこから上がらなくなる。

 それだけではなく、戦うのをサボっていると、徐々にレベルが下がってくるという。


 レベルを上げるためには、ドンドン強い敵と戦っていく必要がある。

 俺のようにレベル49になってしまったら、そのレベルを維持するために、レベル49前後の敵と戦い続けないと、レベルが下がってきてしまうということだ。


 そのため、高レベルの冒険者というのはかなり珍しい存在らしい。

 それにレベルというのは、自己申告だ。

 本当のレベルは本人しか解らない。


 噂では、「鑑定」というスキルがあるという。

 それがあれば、外からでも人のレベルが解るというのだが――そのスキルの本物は確認されていない。

 ドヤった、自称「鑑定」持ちが冒険者に捕まり、吊し上げを食らったことがあるのだが、本物ではなかった。

 スキルが本物なら、他人のレベルが解るはずだからな。

 その動画が、動画サイトで人気になっていたので、俺も見たことがある。


 軍隊をダンジョンに入れたら、最強の戦士ができるんじゃね?

 ――そんな思惑から、各国の軍隊やら警察部隊がダンジョンに投入されたようだが、上手くレベルを上げられない上に、外に出るとレベルが下がってきてしまう。

 普段軍隊が使っている重火器も使えないしな。

 近代兵器を使う軍人が、近接戦闘の能力ばかり上げても意味がない。


 そういう先人たちの経験から、ダンジョンの仕組みが究明されつつあるわけだ。

 まだまだ、未知の部分も多そうだが……。


「そうなると――偶然手に入れたレベル49を活かして金を稼ぎ、レベルが落ちてきたら、さっさと引退するのが吉か……」


 それともう一つある。

 俺が手に入れたアイテムBOXというスキルだ。


 試しに、玄関にあった斧をアイテムBOXに収納してみた。

 すると――眼の前から斧が消える。


「おお、すごい!」

 ネットの噂では、アイテムBOXを持っている人も珍しいらしい。

 動画でそれっぽいのが上がってたりするのだが、いくらでも合成やらCGで作れるからなぁ。


 本当にアイテムBOXを持っているなら、国外への渡航を禁止されるという。

 そりゃそうだ。

 どんなものでも密輸し放題だし。

 重火器でもヤベー薬でも、アイテムBOXに入れて国内にいくらでも持ち込める。


 そんなことが反社などに知れたら、拉致されたり家族を人質に取られて、どんなことを強要されるか解ったもんじゃないからな。

 反社ならまだマシで、国を上げてそういうことをやってくる国があるかもしれん。

 世界には、人権をクソとしか思ってない、ヤベー国がたくさんあるしな。


 そう考えると――このままなにもせずに、レベルが落ちて能力が喪失するまで、田舎でじっとしているほうがいいんじゃね?

 君子危うきに近寄らずとも言うし。


「だがしかし! 金はほしい!」

 金は命よりも重い!

 世の中金じゃないと綺麗ごと言うやつもいるが、やっぱり金なんだよ。

 金があればなんでもできる。


 それにレベル49もあれば、そこそこ強い魔物がいる階層に潜っても平気だろう。

 やっぱり、ここは金儲けのチャンスだ。


 今まで冒険者にはあまり興味がなかったが、ネットで色々と調べてみた。

 そこには、公式のトップランカーが載っている――と言っても、自己申告だが。

 その中での一番人気は、なんと女性。


 黒髪のボブヘアで、切れ長の目をした美人だ。

 それだけで人気になるのは解るのだが、その格好がすごい。

 なんと、ビキニ鎧なのだが、これはふざけているわけではないらしい。


 彼女が装備しているのは、ダンジョンからドロップしたという魔法の装備。

 こんな格好だが、攻撃力と防御力がアップするらしい。

 まるでゲームのようだが、ダンジョンの中には、そういういったアイテムがドロップする。

 有名なものでは、病気や怪我を治すポーションだ。


 そんなものを科学の力で合成できれば世界が変わるのだが、解析してもよく解らない物質でできているという。

 まぁ、物理法則がひん曲がっている世界になっているわけだし、人知を超えた状態になっていてもおかしくない。


 そもそも、レベルが上がると攻撃力と防御力が上がるってなんだよ。

 意味が解らないだろう。

 本当にゲームだ。


 それを揶揄して、「今世界は、神様が遊んでいるゲームの世界に取り込まれてしまった」などと、うそぶく連中もいる。


 ただ、ドロップしたポーションなどは、ダンジョンに近いほうが効力を発揮する。

 病気や怪我を治したいなら、ダンジョンの中でポーションを使うほうがいいようだ。

 実際、不治の癌患者をダンジョンの中に連れ込んでポーションを使った――という事例もある。

 それでどうなったかといえば、本当に症状が改善したらしい。


 ポーションにも等級がある。

 怪我や病気の程度により、より上級のポーションを使う必要があるようだ。

 そんなわけで、ダンジョンでドロップするポーションも高値で売れる。


 ダンジョンで得られる魔法の力も、ダンジョン内か近辺じゃないと使えないらしい。

 このため、ダンジョンから出るなんらかの力を魔法として利用しているのではないか?

 ――と、言われているのだが、どうも例外がいるという噂がある。

 特区外でも魔法を使える者を集めた、国の特殊部隊の存在が都市伝説のように囁かれているのだ。

 特区から出て悪さをする高レベルの犯罪者は、そいつらが処理しているのではないか?

 ――みたいな話だ。


 一応、それっぽい映像が出回ったりしているのだが、いまいち信憑性に欠ける。

 まぁ、どちらにせよ、俺には関係のない話だ。


 魔法はダンジョンから離れると使えないが、高レベルの力は維持される――みたいだな。

 スキルはどうなんだろう?

 俺のゲットしたアイテムBOXは?

 まぁ、試してみれば解るのだが……。


 それはさておき、ビキニ鎧をじっと観てしまう。

 巨乳ではないが、まるでアスリートのような整った身体。

 彼女はいいところのお嬢様らしいのだが、それも人気の要因らしい。

 なんで、お嬢様がダンジョンで魔物狩りなんてやっているのだろう。

 不思議だ。


 金持ちのお嬢様ってことは、俺のような金目的ではないだろうし。

 金も暇もあるから、普通のことじゃ満足できなくなったとか、そういうのか?

 そりゃ、命がけだろうから、スリル満点だろうがなぁ……。

 金持ちのやることはよく解らん。


 彼女はソロではなくて、仲間がいるようだ。

 そちらも高位ランカーで、メガネをかけた人気の女性冒険者――巨乳の魔導師だ。

 ネットに載っている彼女は、胸の谷間やらへそが出ている、いかにも魔導師っぽい黒いドレスなのだが、これもダンジョンのドロップ品だろうか?

 魔法を弾いたり、レジストできる逸品とか?

 こちらも美人なので、大人気だろう。

 胸の大きい彼女には、もう一つ特徴がある。

 アイテムBOX持ちを公言している点だ。


 強い美人冒険者のペア――人気がでないはずがない。

 まるで漫画やアニメのヒロインのよう。

 巷では写真集まで出ているらしい。


 他のトップランカーは男だが、それでもレベル35ぐらいだな。

 つまり俺のレベル49ってのは、トップになれるぐらいの数値ってことになる。

 マジで?


「う~ん」

 別に俺は、スリルもなにもいらねぇ。

 ただ、ファイヤーするだけの金が欲しい。


「おし!」

 俺は、覚悟を決めた。

 せっかく棚ぼたでゲットした能力だ。

 ダンジョンに潜って金を稼ぐ。


 それはいいとして――どこのダンジョンにするか。

 日本各地にダンジョンができているのだが、一番デカくて人も多いのが東京だ。


 10年前――ある日突然、東京湾にダンジョンが出現して、コンピュータやら家電が使えなくなって大騒ぎに。

 制御不能になった船が衝突したり、飛行機が墜落したり――。

 出現したものを多大な犠牲を払いながら調査した結果、物理法則を捻じ曲げるダンジョンだと解り、その周りを埋め立てて、特区が作られた。


 ダンジョンの産業化が進むとともに、特区もドンドン大きくなり、もう巨大な都市のようだ。

 すでに、子どもたちの「なりたい職業」にも、冒険者が上がるぐらいに生活に溶け込んでいる。


 俺は東京特区の動画を漁った。

 ダンジョン内の動画はないが、特区の動画はサイトにたくさんある。

 冒険者が宿泊するためのたくさんのホテルや宿。

 ダンジョンから出た資源を買い取りする業者や役所。

 ものによっては、個人売買のほうが高かったりするので、その相場などを詳しく集めているサイトなども存在している。

 実力ある冒険者を中心にメンバーが集まったギルド。

 あらゆる武器を売っている、武器屋。

 まるで、ゲームに出てくる「始まりの町」だ。


 特区は、文字どおり特別な地域なので、かつて日本にあった銃刀法などは適用されていない。

 そのかわり、武器などは特区外に持ち出すことが禁止されており、当然逮捕もされる。


「俺の持ってるアイテムBOXに武器を入れれば、そんなの関係ないよなぁ」


 特区内には、役所や消防もある。

 もちろん警察もあるのだが、その役割は内地とは少々違う。

 特区内の治安維持は、高レベル冒険者を中心としたギルド同士の牽制によって維持されており、警察は手出しはしない。


 レベルが高くなった冒険者には、銃なども通じない。

 治安を乱す冒険者は、より高レベルな冒険者でしか抑え込むことができないのだ。


「それでも、飛び抜けたトップランカーが出て、そいつが犯罪者になったらどうするんだろうなぁ……」

 今のところ、そのような例は存在しないようだが、出ないともかぎらん。

 それを始末するのが、噂の特殊部隊だというのだが……。


 まぁ、日本だけじゃなくて、他の国でそういう問題が起きるかも知れないからなぁ。

 国によっては、冒険者を国が完全に管理して、高レベルにさせない――そんな政策を行っている所もある。

 一介の国民が、政府を凌ぐ力を持つのをよしとしない――そんな感じだろう。


 力をゲットした冒険者に革命でも起こされたら困るからな。


 特区のことはさておき、冒険者になることにしたんだ。

 ちょいと武器でも用意してみるか。

 武器なら、特区の武器屋で売っているのだが、かなり高いらしい。

 閉ざされた市場なので、とにかくぼったくりが酷いみたいだ。

 高いと解っていても、外で買えないような武器は買うしかないだろうし。

 あとは、ダンジョンでドロップする武器を狙うか。


 ダンジョン由来の材料を使った防具などもあるそうだが、高いらしい。

 たとえば、リザードマンの革を使ったレザーアーマーとか。

 まぁ、そんなものは田舎のホムセンに入ってくることはないが。


 金持ちの間では、魔物由来の毛皮が流行っているなんて話も聞く。

 そういえば、大規模農家の奥さんが毛皮を買った――とか聞いたが、それか?


 それはさておき――自分のこだわりの武器みたいの作ってみたいじゃん。

 僕の考えた最強武器ってやつを。

 それに俺にはアイテムBOXがある。

 外で銃刀法に引っかかるような武器を作って、持ち込むことも可能だろう。


 とりあえず、アイテムBOXにどのぐらいのものが入るのか確認してみることにした。

 外に余っていた土嚢を入れてみた。

 10個ほど入れたが、問題なく入る。


「なんだよ、土嚢を作っているときにこの能力があればなぁ……」

 まぁ、それは無理なんだが。


 そんなことをやっていると、辺りはすでに真っ暗。


「武器を作ってみるのは、明日にするか――」

 いつものように飯の用意をする。


「んあ?!」

 俺は我が目を疑った。

 いつもと違う光景が見える。

 普段は自分がいる部屋以外は電気を消しているのだが、真っ暗な台所がはっきりと見える。

 モノクロっぽいのだが、視界は明るい。


「ええ?」

 俺はステータス画面を出してみた。

 アイテムBOXの他にスキルなどはない。

 高レベルになると、目玉も強化されるということだろうか?


 俺は外に出てみる。

 以前は田舎とはいえ、道にはLEDのライトが並んでいたのだが、今はLEDも使えないし、電力節約のために街灯も廃止されてしまった。

 つまり、真っ暗――だが、見える。


 見上げた満天の星は、まるで天空に散りばめられた光の宝石のようだ。

 それを見つめていると、静寂と神秘の中に溶け込んでいくような感覚に襲われる。

 こりゃ、夜に便所に起きるときにも、ライトが要らないぞ。


 いつまでも星空を見ていたいが、明日に備えて寝ることにしよう。


 ――ステータスが出て、色々とできるようになってしまった次の日。

 俺は早速、愛車の軽トラで海沿いにあるホムセンにでかけた。

 武器を作るためだ。


 到着した俺は、広いフロアを覗いて歩く。

 スコップなども武器になりそうだが――そこで、マサカリを見つけた。

 家にあるのは斧で、マサカリとは違う。


 どう違うのかといえば、連邦の白い悪魔が出てくるアニメで、敵の雑魚が持ってるナントカホークの形がマサカリ。

 金太郎の歌ではマサカリ持っていることになっているが、あれは斧じゃなかろうか。


 薪を割ったりするのに使うのは斧で、マサカリは別の用途があるらしい。

 そのせいか、大型のマサカリってないんだよな。

 みんな片手仕様。


 この片手のマサカリを買って、柄をロングにすげ替えれば、大型の武器になるんじゃね。


「よし、マサカリを買ってみるか」

 つ~か、こういう武器なら特区の武器屋にありそうだけどな。


 次に目についたのは、玩具のプラバット。

 結構長さがある。

 こいつも買おう。

 これをどうするかといえば――細工は流々仕上げを御覧じろってやつよ。


 ホムセンを見ていた俺だが、あることに気がついた。

 俺はアイテムBOXを持っている。

 ここにある商品をその中に入れたら万引きし放題じゃね?

 仕入れがタダで転売を繰り返せば、冒険者にならずとも儲けることができる……わけねぇか。

 商品がなくなりまくれば、店も警戒するしな。


 いや、そもそもダンジョンから離れたら、アイテムBOXは使えるのか?

 ――ちょっと試しに、小さなボルト・ナットの袋を、アイテムBOXに入れてみた。


「入るな……」

 どうやら、ダンジョンから離れても、スキルは使えるらしい。

 それなら、やっぱり万引きし放題だな……。


 ちょっとよこしまな想像をしてしまったが、ホムセンから出た俺は、前に単管パイプを買った中古重機屋を再び訪れた。

 そこで、また中古の単管を20本と、パイルを買う。


「いったいなにを作ってるんで?」

 俺が単管をたくさん買うんで、作業服を着た従業員が不思議そうな顔をしている。

 まぁ、個人でこんなに単管を買うのは珍しいのかもしれない。


「獣避けの柵を作っているんだよ」

「ああ、最近鹿が多いですからねぇ……」

 実際に鹿が増えまくって、獣害が出ている。

 昔は、ここらへんには鹿はいなかったのだが、増えすぎた鹿が移動してきて住み着いてしまったのだ。

 原因はハンターの減少だと思うがなぁ。


 レベルを上げた冒険者を害獣の駆除に駆り出せばいいと思うのだが、そういうことは俗に言う鳥獣保護法で禁止されている。

 とにかく政府は、冒険者を特区からあまり出したくないし、力を使わせたくないらしい。


 確かに高レベルの冒険者ってのは、人間兵器とも言えるぐらいに強力だからな。

 そいつを抑え込みたいのだろう。


「もしも、権力を握られでもしたら……」

 そう考えるのは、どこの国でも同じってことだ。

 国家の中に新しい国家ってのは必要ないからな。


「山には熊もいるしさぁ」

「なるほど~、ウチも単管を積極的にそういうジャンルで売り込んでみるかなぁ」

 欲しいアイテムがもう一つあるので、そいつについても尋ねてみた。


「ここって鉄筋はないの?」

「ありますよ~」

 中古の鉄筋も買う。

 細いの太いの色々とあるのだが、直径20mmぐらいのやつを購入。

 錆びていても、多少曲がっていても使えるが、なるべくまっすぐなものを見繕った。

 こいつは束ねて打撃武器にしよう。


 俺は買ったものを積んで、家に帰った。

 作業は車庫でやる。

 趣味で工作をやるので、ほとんどの工作機械は揃っている。

 まぁ、フライスやら旋盤はないが、普通に使うような電動工具などは揃っていると思う。


 金を儲けたら、もっと色々な工具も買える。

 夢が広がるな。


 まずは、マサカリの柄を長いのに交換しよう。

 昔からある錆々の斧の柄がそのまま使えそうなので付け替えるか。

 斧やマサカリは、柄の上の上が太くなっているから、振り回して抜けないようになっている。


「よし! いいな!」

 俺は長い柄に交換したマサカリを振ってみた。

 普段なら両手で振りかぶっても、逆に振り回されるぐらいに重いのだが、片手で軽々振れる。


「すげー!」

 完成したので、アイテムBOXに入れた。


 次は鉄筋だ。

 丸い刃が回る切断機を使って、鉄の棒を切る。

 寸法は1.3mに決定――長さは武器だが、あまり長いと取り回しも悪いし。

 それに遠距離は投擲武器に任せたほうがいいだろう。


 柄部分は30cmにして、ゴムを巻いた。

 ここらへんは、ネットで検索した日本刀を参考している。


 ここ数年で、またネットが使えるようになって本当に助かっている。

 それもこれも、ダンジョンで産出する魔石が半導体に利用できると判明したからだ。

 その事実が判明してから、ダンジョンバブルが起きて、急速に世界がまた発展し始めた。


 まぁ本当に、ダンジョンが出現した10年前は地獄だったな。


 柄ができたので、今度は鍔だな。

 家にあった細い鉄筋を2本切って、挟み込んで鍔にする。

 形が整ったら半自動溶接機を引っ張り出した。


 溶接面を被ると、青い火花を飛ばす。

 終わったら溶接用のハンマーで叩いて、スラグやスパッタというゴミを取り除く。


「おお!」

 鍔をつけると一気に武器らしくなった。

 重さは3kgぐらいだろうか。

 構えて格好をつけてみるが――これって突きもできるように先を尖らせたほうがいいか?


「いや」

 これはあくまで打撃武器だ。

 溶接機を使って目がちょっとシバシバするのだが、すぐに回復。

 これがレベル49の回復力か?


 完成した武器を振り回す。

 こんな重いものでも、風を切る音が出るスピードで振ることができる。

 こんなので殴られたら、間違いなく相手は死ぬ。

 そりゃ、お上が冒険者を外に出したくねぇわけだよ。

 こいつも完成したので、アイテムBOXに――。


 近接武器ができたので、次は投擲武器だ。


 まずは、一番簡単な投石器。

 丈夫な紐の先に弾を入れる場所があり、それを振り回して投げる。

 紐が長いほど、先端の速度は早くなる。

 それは、巨大な風車と一緒だ。


 発電用の巨大な風車はゆっくりと回っているように見えるが、羽根の先端は音速に近いスピードに達する。


「さて――弾は何がいいだろう……」

 河原などに落ちている岩でいいか。

 どうせ投げて捨てるものだしな。


 外に転がっているコンクリの破片などを拾っておく。

 こいつも弾として使えるだろう。

 持つとそれなりの重さがあるので、これでいいか――となるのだが、破片は破片で探すとあまりない。

 産業廃棄物処理場などにいけばあるのかもしれないが、立ち入り禁止だろう。

 運良く解体現場に遭遇するか、市販のコンクリブロックを購入して割るか……。


 まぁ、普通の石でいいか。


「あとは――ミサイルだな」

 地下に存在していた得体の知れない敵を倒すために、単管ミサイルを考えたのだが、それをまた作ろうかと思っている。

 今度は、水平に飛ばす槍としてだが。


 単管の先に金属製のパイルを取り付けて、それを敵に向かって投げつけるわけだが――素手でやるわけではない。

 細い鉄筋を曲げて溶接して、細くて長いすこし反っている投槍器を作った。


 こいつを槍のケツに引っ掛けて、テコの原理で飛ばすわけだ。

 イメージとしては、野球のピッチャーの腕が伸びると思えばいい。

 製作にはネットで探した動画を参考にしたのだが、これは原始の時代から使われている由緒正しい武器。

 連綿と引き継がれて、現代のダンジョン時代に魔物狩りの武器として蘇った。


 ――とはいえ、普通は単管を槍として飛ばしたりはできない。

 これも高レベルという、今の状態のお陰だ。


 ------◇◇◇------


 様々な武器が完成した俺は、早速山に試しに向かった。

 こんなものを家の裏で試したりできない。

 いくら田舎とはいえ、武器などを振り回していたら通報ものだ。

 斧振って「薪割りです」ならいいのだが、どうみても危ない代物だし。


 田舎なんてあらゆる噂がマッハで伝わるからな。

 騒ぎを起こさないようにしなければならない。

 そのために山に軽トラでやって来たのだが――。


「グルル……」


 今、俺の目の前には黒くて巨大な毛むくじゃらがいるんだが……。

 どうしてこうなった。



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