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29話 空を飛ぶ


 早速やってきた、政府関係の仕事だ。

 なんと、かつてあった原発大事故の後始末をするらしい。

 跡地には、ナントカ処理水が大量に放置されたまま、デカいタンクが果てしなく並んでいる。

 そいつを始末したいらしいのだが、本当にそんなことができるのだろうか?


 やってみないことには解らないのだが、俺は成功報酬として500億円を要求した。

 国家予算を突っ込むなら、5000億はかかるというのだから、それが500億で済めば安いものだろう。

 かつて処理には20兆円以上かかると言われていたが、あれから30年たつのになにも片付いていない。

 もしかしてダンジョンの魔法が解明されれば、そいつで綺麗になるのかもしれないが、事故発生からすでに30年――。

 未だに解決できなかったものが、500億で一歩進むものなら安いものだろう。


 そう思うのだが――利権が消滅するので、嫌がる政治屋もいるらしい。

 俺に計画を伝えてきた総理大臣が、ただいま根回しの真っ最中である。

 俺としては、金額をまけるつもりは一切ないので、計画が頓挫してくれないかと願うばかりである。


 だって面倒くさそうだし……。

 いくら、冒険者は放射能に強いと言われてもなぁ……。

 まぁ、実際になんとかできるかどうかも解らんしね。


 そのまま数日たって、計画がお流れになるかと期待していたのだが――。

 朝飯を食っていると、総理からメッセージが入った。


『今日は大丈夫か?』

「大丈夫ですが……ダンジョンに潜るだけですし」

『それなら、ちょいとつき合ってくれ』

 彼の話では、俺たちが以前宿泊したホテルの屋上にヘリが来るらしい。

 マジで?


 まぁ、総理も忙しいだろうし、時間が惜しいのだろう。

 あと1時間ほどでヘリがやってくるようだ。


 もしかして、しばらく留守にするかもしれないので、皆に一応話しておく。

 もちろん、仕事の詳細は話せない。

 こういうのは守秘義務があるからな。


 そういう説明はなかったが、俺がオッサンなのでそのぐらいは知っているのだろうとの判断だろう。


「皆、悪い――しばらく留守にするかもしれない」

「なぁに? 前に言ってた政府筋の仕事ってやつ」

 キララがパンを齧っている。


「そうだ。まだ引き受けるか、決まってないけどな」

「どんな仕事なんですか?」

 サナが心配そうにしているのだが、話すことはできない。


「まぁ、大丈夫だよ。それより、しばらくご飯の用意ができないから、ちゃんと食べるんだぞ?」

「「「……」」」

 皆が黙っている。

 サナとレンは仕方ないとして、キララも料理できないのかよ。


「え~?! ダイスケのご飯食べられないの?!」

 大声を出したのは、ミオだ。


「ちょっとお仕事で、しばらく帰ってこれないかもしれないからね」

「う~、ダイスケのご飯食べたい……」

 拗ねる女の子が可愛いので、抱っこしてなでなでした。


「ごめんな~」

「ぶ~」

 ミオはともかく、他の子たちは大丈夫だろうか?


「お金は渡してあるから、食うには困らないだろ? ちゃんとバランスよく食べるんだぞ?」

「……」

 キララも黙っている。


「おいおい、キララもか? セレブごっこする前にやることがあるんじゃないのか?」

「なに? 女だから家事ができて当然だろって? そんなの女性蔑視よ!」

「そんなつもりは毛頭ないが――結婚もしないし、子どももいらんのか?」

「私に釣り合う男がいないだけだから!」

 眉毛がない彼女が、ふんぞり返る。


「もし、高身長でイケメンで高学歴、ガチセレブの男がいたとしよう。そいつは女を選ぶとしたら、よりどりみどりだ。そんな男が、キララを選ぶとは思えんのだが……」

「そんなの余計なお世話でしょ?!」

「合コンして、お前とサナが並んでみろ、男は全部サナに行くぞ?」

「これだから男ってやつは……」

 キララが般若のような顔で、パンにかじりついた。


「新しいチャンネルは人気あるみたいじゃないか。そこからゲットするってのは?」

「冗談でしょ」

 あれは、あくまで客ってことらしい。

 くだらない話をしていたら、総理からメッセージが入った。

 あと30分ほどで、ヘリが到着するらしい。


「あ、いけね! そんなつまらん話をしている場合じゃなかったわ。ヘリが来るって連絡が来た」

「ヘリ?!」

 俺の言葉に、キララが驚く。


「政府の仕事だからな。現場までひとっ飛びするんだろ? 俺も税金で贅沢できる立ち場になったってことよ」

「ぐぬぬ……」

「ダイスケ、すごい!」

 キララは悔しがり、レンは羨ましがっている。


「一体なにをやるの?」

「そういうのは守秘義務があるから、話せないなぁ。そのうち解るかもしれないが」

「ダイスケさん、気をつけてくださいね」

「そう言ってくれるのはサナだけだな、ははは」

「あたしは、ダイスケなら大丈夫だと思ってるけど……」

 レンがちょっとむくれてしまった。


「はは、ありがとうな」

「ダイスケさんがいない間は、しっかりとレベル上げをしておきます!」

 サナが気合を入れている。


「無理はするなよ。それから、キララのチャンネルの客で男どもが来ると思うが、気をつけてな」

「大丈夫ですよ」

「そういうやつらは、私がぶっ飛ばすから!」

「キララに任せた」


 さて、あまりおしゃべりもしていられないな。

 すぐにヘリが来るらしいからな。

 俺は、すぐに支度をして宿から飛び出した。


 行く先は――当然、俺たちが以前に泊まったデカいホテル。

 人混みを縫って俺は空にそびえる建物を目指した。


 デカい回転ドアをくぐると、大理石の床を歩いてフロントに向かう。


「あの~丹羽と言いますが、屋上にヘリが来ると聞いてやって来たのですが……聞いてます?」

 自分でも突拍子もないことを聞いている気がする。


「はい、丹羽様ですね? ご連絡を受けております。すぐに係の者が参りますので、お待ちください」

「はい」

 待っていると、スーツ姿の女性がやって来た。


「どうぞ、こちらへ」

「はい」

 普通の人が入らないようなドアを通り、細い廊下を進むと、その奥にエレベーターがあった。

 そいつに女性と一緒に乗り込む。

 どうやら、決まった階にしか止まらない、特別なエレベーターらしい。

 屋上まですぐだ。


「どんなヘリが来るか聞いてます?」

「いえ、政府筋ということしか」

「そうですか」

 上で光っている目盛りがどんどん右側にいき、甲高い音とともに、目的の階に到着した。

 ドアが開く。


 ここはまだ建物の中だ。

 スーツのお尻を見ながらドアを出ると、強い風が吹いた。

 女性の髪が派手に乱れる。


 高いフェンスで囲まれた屋上のコンクリート製の床には、巨大な白い丸とHの字が書いてある。


 ずいぶんと風があるようだが、大丈夫だろうか?

 ぐるりと空を見渡すが、ヘリらしきものはない。

 まだ、時間があるようだ。


 それより、こんなビルの屋上に上るなんて機会はあまりない。

 俺はビルの端に向かった。

 フェンスがあるので直下は見えないが、特区全体を見渡すことができる。

 俺はスマホを出して動画を撮影した。

 これはいいネタになるだろう。


 屋上の外周を歩きながら、ぐるりと特区を撮影。

 いい景色を楽しんでいると、爆音が近づいてくる。


「え?!」

 想像していたものと違った機体が飛んできたので、俺は驚いた。

 普通のヘリは、頭の上でぐるぐるとローターが回っているのだが、飛んできたものは少々違う。

 翼の先に大きなプロペラがついていて、それの角度が変わるタイプだ。

 昔オスプレイって機体が騒がれていたが、そいつの後継機種ってことになっている。


 白く塗られた胴体には、赤い日の丸が見える。


「ティルトローター機かよ!」

 俺は思わず、スマホを向けて撮影をしてしまった。

 こんな間近で見られる機会なんてあまりないからな。

 極秘の機体などではないし、写しても平気だろ。


 爆音とすさまじい風を起こしながら、プロペラを上に向けた機体が、ホテルの屋上に下りた。

 俺を案内してくれた女性の髪の毛も凄いことになっている。


 着陸機体のドアが開き、タラップが出てきたので、俺はそこに向かって走った。


「ありがとうございました~」

 一応、案内してくれたお姉さんにも礼を言う。

 すごい向かい風の中をなんとかタラップにたどり着く。


「丹羽さんですか!?」

 スーツを着たショートヘアの若い女性が顔を出した。

 パット見では体育系で背が高く、バレーボールとかやってそうな感じ。

 エンジン音と風で周囲がやかましいので、声もデカい。


「はい!!」

「総理がお待ちです!」

 彼もこれに乗ってきたのか。


 俺が機体の中に入ると、タラップが上がる。

 エンジンの金属音が高くなり高周波音に変わると、すぐに機体が持ち上がり、空中へ飛び立った。


 眼下に特区の街並みが見える。


「おお~すげ~」

 スマホで撮影をしようとしたが、総理が待っているという話なので、俺は女性の指示に従った。


「こちらへ!」

 機内の内部はなにもなく、金属製の骨組みが見える狭い空間が広がっている。

 普段は、ここに荷物や兵隊を積んだりしているのだろう。

 機体の前部に行くとドアがあり、それを開くと椅子が6つほど並んでいた。


「おはようございます!」

 そこに総理が座っていたので挨拶をする。

 こんな所にまでつき合うのか、大変だな。


「よぉ、急がせて悪いな」

「いえいえ、総理こそお忙しいのに、大変なんじゃありませんか?」

「ははは――まぁ、確かにそうなんだが、いい加減にアレを片付けにゃならん」

 アレというのは、原発事故の後始末だ。


「突然世界に現れたダンジョンが、いつまたなくなるかわかりませんからね」

「そうなんだよ。あいつらは、それを理解してねぇ」

「いやぁ、当然理解されているでしょ? 皆さん、超一流大学出ている方ばかりですし」

「ははは、そうだな……」

 総理が困った顔をしている。

 国難だっていうのに、利権だなんだと言っている場合ではないと思うのだが……。


「総理が、ここまでやって来たってことは、根回しが済んだということですかね?」

「まぁな。君が言ってた金額も、出せそうだぞ?」

「役に立たないデカい箱物を作るより安い金額ですし」

「そのとおりだ!」

「でも――それは成功したときの話で、私のアイテムBOXでどうこうできるようなものなんですかねぇ」

「それを今から確かめるわけだ!」

 まぁ、仕事は原発の後始末だけじゃないだろうし、他の仕事を頼まれたりしているのだろう。


「他のアイテムBOX持ちの人にも、同じことを?」

「ああ、他の冒険者は、まったくだめだったな」

 デカいものが入らないとか、容量が足りないとか、そういう感じだったのだろうか?

 なにせ、他のアイテムBOX持ちって人を見たことがないからなぁ。


「今回のことに反対していた人たちは、失敗しろ――って思ってるでしょうね?」

「まぁ、そんなところだろうが、そうも言ってられん」

 さっきも話に出たが、ダンジョンがあるうちに片付けないと、機会を失うかもしれん。

 せっかくのチャンスなわけだし。


 ちょっと話を中断して、外の風景を撮影させてもらう。

 こんな機会は滅多にない。


「冒険者は放射能に強いってのは本当なんでしょうね?」

「ああ、それは確認済みだ」

 海岸沿いを30分ほど飛行すると、目的地が見えてきた。


 眼下に広がる巨大な円筒形の墓標が並ぶ墓場。

 金属製のタンクが1000基ほどあるらしい。

 チマチマと処理して海に流してはいるが、一向に減らない。


「うわぁ、思ってたよりタンクってデカいな……」

「一つのタンクに1000トンの水が入ってます」

 総理と一緒にいる女性が答えてくれた。


「1000トン?! とてもじゃないが、アイテムBOXには入らないと思う。それにあれは地面に固定されているだろ?」

「はい」

 1000トン入っているタンクが約1000基。


「総理――これをどうやって、なんとかしろと?」

「そうだ! なんとかせにゃならん!」

「無茶苦茶だな……」

「無茶を通せば道理が引っ込むんだ」

「いやいや……」

 呆れていると、機体が着陸態勢に入った。

 ホバリングしながら、ゆっくりと下降していく。


 数十秒あと、機に強い衝撃が伝わる――接地したらしい。

 窓から地面と巨大なタンクの山が見える。


 エンジンは止まる様子はないので、すぐに飛び立つようだ。


「こちらへ」

 女性に後ろに誘われる。

 総理は乗ったままなので、このままどこかに向かうらしい。

 その途中で俺が便乗したって感じか。


 機体の真ん中にあるタラップが下りているので、そこから外に出た。

 上の回転する翼からの凄い風で飛ばされそうになりながらも、機から離れる。


 安全を確認すると、機体のエンジン音が一段と高くなった。

 そのまま飛び立つらしい。

 ふわりと浮かび上がると、そのまま斜め上に上昇を始めた。


 飛び去る白くてデカい鳥を見送っていると、女性に促される。


「こちらです」

「はいはい」

 白い金属タンクの山が並ぶ谷間を歩く。

 彼女について行くと、周りにはヘルメットを被り作業服を着た作業員が数人いる。

 無人の地ではないらしい。

 ここの放射能は大丈夫なんだろうか?


 数分歩くと、周りのデカいタンクより、小さなタンクが並んでいる場所があった。

 これは地面に固定されていないようである。

 数は3つ――大中小って感じ。

 要は、これらが俺のアイテムBOXに入るかどうか確かめたいんだろう。


「こちらは、10トンタンク、50トンタンク、100トンタンクです」

「へ~」

 10トンタンクは、高さが3mぐらいか――円形のタンクだ。

 とりあえず、これなら入るんじゃね?


「最初は10トンタンクから試してみていいですか?」

「はい、お願いいたします」

「なんだなんだ?」「なにをするんだ?」

 周りの作業員たちが集まってきてしまった。

 お前ら仕事はいいのか?


「収納!」

 眼の前から白いタンクが消える。


「「「おおお~っ?!」」」「消えた?!」「なんだこりゃ」

「ほい」

 アイテムBOXから再び取り出した。


「おお~?!」「これって――アイテムBOXってやつか?!」

「そういえば、ニュースでやってたな……」

 こんな現場のオッサンたちにも知られているのかよ。

 全国ニュースか?

 こりゃ、ウチの地元の爺婆や、隣の農家も知っているかもしれない。

 家に帰ったら、いじられるなぁ……。


「とりあえず10トンのタンクは問題ないみたいですね」

 女性がスマホでメモを取っている。


「ええ、車も入れたことがあるので、このぐらいはいけるっぽいですね」

「それじゃ、次をお願いいたします」

「はい」

 続いては50トンのタンク。

 こちらは、四角いプラというかFRP? 急遽作ったって感じのタンク。

 まぁ、どうせ使い捨てみたいな感じなのだろうが、どこのダンジョンに捨てるのだろうか?

 まさか東京まで毎回往復なんてしてられない。

 あそこは人でごった返しているし。


 いや、その前にデカいタンクが、俺のアイテムBOXに収納できるかが問題になるのだが。

 こちらのタンクは、5m✕5m✕2m――のサイズらしい。


「収納!」

「「「おおお~っ!!」」」「すげーな!」

「すごいですね! こちらも入りますか!」

 俺を案内してきてくれた、役人の女性も驚いている。


「これって収納できた人はいなかったんですか?」

「はい」

 次は100トンのタンク。

 こちらはさっきのタンクを2倍にしたような感じだ。

 ――ということは、10m✕5m✕2mか……。

 こちらも試してみたが、無事に収納できた。


 再び、歓声が上がる。


「ど、どのぐらいの大きさまで行けそうですか?」

「そうですねぇ。これって横が10mほどですよね?」

「はい、そうです」

「とりあえず、10mのものなら入るのでは……」

 10m✕5m✕2mで100トンってことは、10mの正方形なら200トン、高さ4mにすれば400トンか。


「あの! こちらに来ていただけますか?!」

「はいはい」

 彼女について、ちょっと離れた場所に向かう。

 そこには、もっとデカい四角いタンクがあった。


「これが400トンのタンクです!」

「本当に400トンタンクがあるんだ」

「材料の強度の問題で、これが一番大きいタンクらしいんですよね」

「まぁ、FRPってことですからねぇ……」

 こいつもアイテムBOXに入れてみる――入った。


「入りました!」

 彼女が興奮している。


「入りましたねぇ」

 もっとデカくても大丈夫のような気がするが、鉄のタンクだとコストと製作時間が問題になるのだろう。

 どうせ作業が終わったら、捨てるのだろうし。


「縦横高さ10mの立方体タンクを作れば、1000トンってことになりますね……」

「その大きさを作って、実際に入るかどうかも不明ですけどねぇ。とりあえず」

「それでは、現状400トンのタンクが使えるということなので、400トンで計画を進めさせていただきます!」

 1日でタンクを10個運ぶことができれば、全部で4000トン――処理水タンク4個分。

 全部で1000個以上あるって話だから、それでも250日以上もかかるのか……。

 もっとスピードアップしたいところだな。


「はい、了解です――というとは、今日はこれでおしまいですか?」

「いいえ、ちょっとおつき合いしていただきたい所がありますけど、よろしいですか?」

「ええ、今日は丸一日潰れる覚悟で来ているんで」

「ありがとうございます」

 彼女はあちこちに連絡を取り始めた。

 新しいタンクの注文などをするのだろう。

 彼女1人でやっているのか?

 そうだとすると、中々大変だな。


 アイテムBOXから缶コーヒーを出して、一服する。

 30分ほどまったりとしていると、用事が終わったようだ。


「おまたせいたしました」

「飲みますか?」

 俺は彼女にも缶コーヒーを渡そうとした。


「え?! あの――まことに申し訳ございませんが、仕事中に民間の方からものをいただくと、収賄になる可能性があるので……」

「ああ、そうか~面倒だな、ははは」

 彼女の話では、俺を連れていきたい場所があるという。


「解りました。おつき合いしますよ」

「ありがとうございます」

 彼女と一緒に事務所などの建物が並んでいる場所に向かった。

 女性が建物の中に入ったので、しばらく待つ。


「借りられました!」

 彼女が鍵を見せてくれたのだが、車の鍵だろう。

 それに俺を乗せてどこかに連れていくようだ。


 彼女の後ろをついて、白いワゴン車に乗り込む。

 工事現場によくあるやつだ。


「場所は遠いんですか?」

「え~と、20kmぐらいですね」

「山のほうですか?」

「はい」

「それじゃ30分ぐらいか」

 故郷の北の大地では、50kmぐらいの車の移動は普通なので、べつになんとも思わない。

 俺がよく行っていたホムセンだって、往復で軽く50kmはあるし。


 2人を乗せたワゴン車が、山のほうへ向かって走り始めた。

 最初は国道を走り、山の谷間を縫って走る。


「すみません、お名前を聞いてませんでしたが――」

「申し訳ございません。私は晴山と申します」

「晴山さんですか、私は丹羽です。よろしくお願いいたします」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

「晴山さん、もしかして、お一人でこの仕事を?」

「ええ――あの、誰もやらないようでしたので」

「まぁ、もう使わない原発関係なんて面倒そうな仕事だし、よく解らん冒険者の相手もしないといけませんしねぇ」

「あはは……」

 彼女は資源エネルギー庁の役人らしい。


「エリートとして省庁に入ったのに、ゴミ片付けなんてなぁ。やりたいやつはいないだろうなぁ」

「ウランやプルトニウムはなくなりましたが、まだ放射線源は残ってますし――確かに、手を挙げる人はいませんでした」

「それでは、なんであなたが?」

「面白そうでしたし……それにアイテムBOXというのが本当にあるなら、見てみたくて」

「それで見た感想はどうでした?」

「すごいですね! それがあれば、なんでもできそうですけど?!」

「まぁ、色々とできるのは間違いないでしょうねぇ。それで、色々と言われているし、狙われているかもしれないわけで」

 俺の言葉を聞いた彼女が難しい顔をしている。


「丹羽さんを狙ってくる連中って、本当に出てくると思われます?」

「まぁ、さきほども言ったように、なんでもやりたい放題になる可能性があるので、欲しがる組織や国も多いでしょうね」

「総理もそう仰っていたのですが、本当にそんなことがあるんですか?」

「あるんじゃないかなぁ……この仕事が嫌われているのは、そういうのもあるんじゃないですか?」

「ああ、そうか~!」

 この女性は、どこかの誰かがアイテムBOXを狙って攻めてくる――みたいな危険性をまったく考えていなかったようだ。

 俺もないと信じたいんだが――こいつを使ってみると、こりゃ悪用し放題じゃんって、自分で思うし。


 事態の深刻さに彼女が苦笑いしている。

 案外図太そうだし、こういう性格って冒険者に合ってそうだけど。

 まぁ、苦労してキャリア街道に乗ったんだから、わざわざ冒険者なんて8○3な商売をやる必要がないか。


 途中から林道に入ったが、整備されているらしく、ダンプが走っている。

 工事でもしているのだろうか?


 車に乗って30分ほどで、山の中に到着した。

 たくさん重機が入っており、山を切り開いて整地をしているようだ。

 駐車場に止めたワゴン車を降りて森のほうへ向かうと、鍵がかかったフェンスが見えてきた。

 その前には、警備の男性が2人立っている。


 彼女がなにかカードを見せると、それをスキャンした警備員が通してくれた。


 鬱蒼とした森の中を歩く。

 こんな人里離れた森の中になにがあるのだろうか?

 もしかして秘密基地? 秘密研究所?

 しばらく歩くと、谷の間にコンクリの壁が見えてきた。


「なんだ?」

 まぁ、こんな山の中で警備つき――まともな施設じゃないだろうな。


 

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