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27話 迷宮教団の女


 俺が持っているアイテムBOXのことがバレてしまった。

 役所に呼び出されてしまったのだが、色々と面倒なことになりそうだ。

 キララをサブリーダーにして、ギルドのことを任せてしまったほうがいいだろうか?

 俺といると、危険な揉めごとに巻き込まれる可能性が出てきた。


 やっぱりソロでやるのが正解だろうか。

 とりあえずは金を稼げるようにはなるだろうから、俺がギルドの資金を出せばいい。

 国家プロジェクトに関われるようなら、入ってくる金もデカいだろう。

 特区に事務所を買うぐらいはできるんじゃね?


 金を稼いだら、サクッと引退するつもりだったが……。

 もしかして、そう簡単な話じゃなくなるかもしれないなぁ。


 役所に呼び出されたりしたので、俺だけ単独行動になってしまった。

 時間が余ったし、やることもないので、ソロでダンジョンに潜ることにした。

 行く先は、新しく発見された深層。


 ビビリながら迷宮を攻略していると、魔法の明かりが見える。

 他の冒険者が魔物に襲われているようだ。

 デカい人型の魔物――敵はアレか? それともアレか? ――いや、考えている場合じゃねぇな。

 助けに入らないと。


「助けてくれぇ!」「きゃぁぁ!」「ひぃぃ!」「うわぁ!」

 襲われているのは4人パーティのようだ。

 怪我人も出ているらしい。


 とりあえず、敵の注意をこちらに引きつけないと。

 飛び道具――は、冒険者が近すぎる。

 流れ弾が当たらんとも限らん。

 逆に引き離せば、飛び道具が使える。


 俺は、動画の撮影を開始すると、メイスを構え敵に向けて突っ込んだ。

 魔物の巨体がどんどん近づいてくる。

 デカい――毛が生えているし、角がある。

 牛? ミノタウロスか?!


 俺は、メイスを敵の膝めがけてフルスイングした。

 どんな生き物でも、関節は弱点だろう。


「ブモォォォォ!」

 俺のスイングが、ミノタウロスの膝を砕いたらしく、巨体が膝をつく。

 とりあえず動きは止めた。


「おい! 早く逃げろ!」

 腰を抜かしている冒険者パーティに声をかけた。


「は、はい!」「ありがとうございます!」「うわぁぁぁ!」

 更に、敵のヘイトをこちらに向けさせる。


「ヘイヘイ! こっちだ! こっちに来い!」

「ブモッ! ブモッ!」

 魔物がデカい鼻から、荒い鼻息を噴き出している。

 相当頭にきているようで、足を引きずりながら巨体が立ち上がった。


「マジか?」

 そのうちに、やられそうになっていた冒険者たちが、肩を支えあって階段のほうへ逃げ始めた。

 俺の挑発の甲斐あってか、敵のヘイトはこちらに向かっている。


「ブモッ! ブモォ!」

 敵が巨大な斧を振り上げた。


「おっと!」

 その刃が、白い軌跡になって目に映る。

 俺はミノタウロスの攻撃を避けて横に飛んだ。


 咄嗟の行動だったのだが、ちょっと身体に違和感があった。

 いつもよりスピードが速い気がする。

 もしかして、さっきゲットした指輪の効果だろうか?


 振り下ろされた武器が床に衝突して、光り、火花を散らした。

 魔物の巨体の毛並みや色が、一瞬の明かりでハッキリと形をなす。


 俺は逃げた冒険者たちをチラ見した。

 すでに階段の所に到着しているようだ。

 これなら、派手な攻撃をしても大丈夫だろう。


 俺はバックステップでミノタウロスとの距離を取ると、叫んだ。


「天井召喚!」

 天井ってのは、さっき収納した吊り天井の天井だ。

 空中に現れた巨大で平らな石壁が敵の上に落下した。

 さすがの強敵でも、これだけの重量の物理攻撃は効くだろう。

 質量こそ正義。


「ブモォォォォ!」

 罠に使われていた天井なので、鉄で補強が入っている。

 結構な高さから落としたのに、割れたりしていない。

 完全に下敷きになると思ったのだが、ミノタウロスの頭だけ出ている。


「さすがにそれなら身動きができないだろ?」

 俺はメイスを振りかぶると、牛の頭に振り下ろした。

 硬い頭蓋が割れて目玉が飛び出すと、石畳にも黒いものが流れ出した。


 さすがに頭を潰されて、魔物の動きも止まったようだ。

 とりあえず、敵の上に載っている天井を収納した。


「ビャァァァァ!」

 押さえつけていた超重量の天井がなくなると、魔物が再び動き出す。


「マジかよ!」

 頭が完全に潰れても動くとか、どんだけタフなんだ。

 床を這ってこちらにやって来ようとしているので、俺は再び天井を召喚した。

 今度は完全に下敷きになるように狙って。


「召喚!」

 床に衝突した振動が足まで伝わってくる。

 天井と床との真っ暗な隙間を覗く――まだ、動いているようだ。


「うわぁ」

 これは、下層でもミノタウロスとはエンカウントしたくねぇな。

 まぁ、これで身動きはできないだろうから、しばらく放置すればくたばるだろう。


 そのまま待っていると、なにかの気配を感じる。

 やはり、レベルが高くなると、感覚も鋭くなるようだ。


「別の敵のポップか?」

 俺は武器を構えて、暗闇を凝視した。


 闇の深淵から、不気味な静寂が漂う。

 その中から、微かなざわめきが聞こえてくるかのような錯覚に襲われる。

 暗闇の中から、ぼんやりとした影が現れ、不定形な姿が漆黒の闇に溶け込んでいるようだ。

 その姿は明確ではないのだが、存在がそこにあることを感じさせるだけで、恐怖と緊張を掻き立てる。


 ふと漆黒から、白い縦筋が浮かび上がると、徐々にそれは見覚えのある形になった。


「女?」

 俺の前に現れたのは、黒いローブをまとった裸の女。

 床につきそうな黒くて長い髪を引きずっている。

 その存在が徐々に近づいてくると、身の危険を感じ心が凍りつく。


「魔物じゃないよな?」

 魔物じゃないとしても、尋常の存在ではない。

 裸の女で魔物というと、サキュバスとか? それともデーモンか?

 そういう魔物は角がありそうだが、そのようなものは女の頭には見当たらない。


 俺は不気味に近づいてくる女を制止した。


「止まれ! なに者だ!?」

「……」

 女は止まったが、黙っている。

 暗いし長い髪が顔にかかっているので、よく見えない。


「なにか用か?!」

「……魔物を殺したわね」

 言葉が通じる。

 やっぱり人間だが――こいつは?


「殺したが、なんだ?」

 俺は反応に困っていると、後ろから声が聞こえてきた。


「そいつは迷宮教団じゃないのか?!」

「迷宮教団?!」

「……」

 彼女は否定しないのだが――ということはそうなのだろう。


「教団なんかに、興味はないぞ」

 つまりは敵ではないのだろうが、こんな凶悪な魔物がいる所で武器も持たずにウロウロしているのか。

 彼らは魔物との共存を望んでいるとか聞いたのだが、まったく理解不能だ。


 否定するつもりはないが、解り合うつもりもない。

 俺は床に落ちている天井をアイテムBOXに収納した。

 巨大な板がなくなると、下から潰れたミノタウロスが出てきた。

 さすがにもう死んでいるだろう。


「……」

 女が潰れた魔物を凝視している。


 俺はそれに構わず、ミノタウロスのかばねもアイテムBOXに入れた。

 眼の前から、牛頭がなくなる。

 収納されたってことは、つまり死んだってことなのだろう。

 巨大な斧も収納して、なにか落ちているものを拾った。

 ガラス瓶――ポーションの類だろう。


「おっと」

 カメラを止めるのを忘れていた。

 この女の映像は出さないほうがいいだろうな。

 まぁ、そもそも素っ裸の女なんて、アウトかもしれないが。


「……」

「なにか、用があるのか?」

「……」

 不気味だ。

 彼女は無言で立ったままだったので、俺も地上に引き返すことにした。

 辺りを確認してから、階段までダッシュする。


 先にいた冒険者たちと一緒に階段を上り始めた。

 女はまだ立ったままで同じ位置にいる。


「なんだあの女?」「キモ!」

 下を見ている冒険者たちも、嫌悪感をあらわにした。

 確かに、得体が知れない存在だ。

 魔物が平気ということは、中身は高レベルの冒険者なのかもしれないが。

 それとも、ダンジョンにずっといると、なにかが変質してしまうとか。


「オッサン、ソロなのにすげーな!」「なんかデカい石の板が出てきたけど?」

 彼らはニュースを見てないのだろうか?


「あれはアイテムBOXだよ。ダンジョンのニュースを見てないのか?」

「アイテムBOX?! マジで?!」「俺たち、昨日から潜りっぱなしだったんで……」

「なにか戦果はあったかい?」

「へへへ……」

 内容は明かさないが、彼らの顔を見る限り、それなりのものをゲットしたようだ。

 まぁ、大きなものを運べないのはもったいないな。

 死体でもそれなりの値段になるし。


 皆で階段を上っていくと、下ってくる連中と出会った。

 上りが優先ということなので、譲ってもらう。


「下に、迷宮教団の連中がいたぞ?」

 一応、注意を促す。


「迷宮教団?!」「マジで?!」

「そのオッサンだけじゃなくて、俺たちも見た」「裸の女だったぞ」

 まぁ、オッサンだけど。


「うわぁ、やつらもうこんな所に潜り込んでいるのか」

「なんだか解らんが、不気味な連中だぞ。それでも行くのか?」

「もちろん!」「迷宮教団なんて気にしていたら、冒険者はできねぇ」「お宝だよお宝!」

 まぁ、ここにやってくるってことは、それなりのレベルなんだろうし、全ては自己責任だ。

 彼らを止める権利は俺にはないので、背中を見送った。


 それに他にも冒険者がいたと思うんだがなぁ。

 一緒に逃げてきた冒険者にも尋ねてみる。


「他の冒険者たちを見たか? 明かりがチラチラしてたのは確認したが……」

「なん人かいたぜ」「ああ、結構いたよな」

 そうなのか。


 階段を上りきったので、ホッとしてアイテムBOXから自転車を出した。


「お?! 自転車?!」「アイテムBOX便利だよなぁ」

 冒険者たちが、俺のスキルを羨ましがっている。


「ははは、便利だぞ」

 彼らと、ここで別れた。

 飲みに誘われたが、女の子たちが待っているからな。

 それにゲットしたものを換金しないと。

 デカい斧とか使えねぇなぁ……。


 俺も家からマサカリを持ってきて解ったが、戦闘中に動き回る敵に垂直に刃を立てるなんて無理だ。

 やっぱりメイスで殴ったほうが早い。


 ダンジョンの外に出ると、いつもの買い取り屋を探す。

 あのオッサンは信用できるし。


「あ、いたいた! また買い取ってくれよ」

「お! 旦那! 今度はなにを持ってきてくれたんで?」

「アイテムBOXから出すから、ちょっとスペースを作ってくれ」

「はいよ」

 俺の言葉に周りがどよめく。


「アイテムBOX?」「アイテムBOXだって?」

 まだ知らない人が結構いるようだ。

 スペースが空いたので、ミノタウロスを出した。

 ついでに、デカい斧も買い取ってもらう。


「なんじゃこりゃ、ミノタウロスじゃねぇか!」

「新しい階層ができたじゃないか。あそこに出たんだ」

「ミノがいるってことは、6層相当だな……やっぱり、ぽっと出が行けるような場所じゃなかったか」

「ちょっと潰れてしまってるけど」

「大丈夫だ。ミノの肉ってだけで売れる」

 頭が牛なだけあって、牛に似た肉らしい。

 ただ、脂身はなくて、ほとんど赤身。

 好きな人は好きらしく、刺し身で食うゲテモノ食いがいるらしいが……止めたほうがいいと思う。

 まぁ、ポップしたての魔物だから、寄生虫などは寄生する暇もないから安全らしいが……。


 ミノは30万円、斧は10万円で売れた。

 やっぱり、オークに比べると安い。

 安いのに強敵――これじゃ割に合わない。


「あ、もう1つあったな」

「なんだい?」

 俺はミミックを出した。


「ほう! ミミックか! こいつは珍しい」

「珍しいのかい?」

「普通はミミックなんて、ここまで持ってくるやつはいねぇからさ、ははは」

「それじゃ売れないかい?」

「いや、珍しいサンプルは、研究所で買うぞ」

 5万円で引き取ってもらえた。

 ちなみに食えないらしい。

 食えないって解ってるってことは、食ったやつがいるのか。

 さすが日本人。


 政府主導で、魔物の研究はしているという話は聞いている。

 遺伝子的にどうなっているのか――とか、なにか効果的な弱点は? とかな。

 弱い魔物をダンジョンの外で繁殖ができるようになれば、有機原料や魔石を効率的に回収できるようになる。


 相手は魔物で生きものじゃないし、倫理的なものも排除できるしな。

 まぁ、魔物も生物だから――という連中もいるが。


 俺もその考えだが、あのハーピーみたいに懐いたりする魔物がいると情が湧いてしまう。

 ネットでも、魔物が懐いた――みたいな話はないのだが……。

 あの個体だけが、特殊なのだろうか?


 とりあえず、今日のダンジョンは終了した。

 まだ動画の編集などが残っているが。


 ――俺は宿に帰った。


「ただいま」

「「「おかえりなさ~い!」」」

 ずっと独身だったから、ただいまなんてしばらく言ったことがなかったな。


「どうだった?!」

 キララが興味津津だ。


「どうもこうも、総理大臣をはじめとして、お偉方に囲まれたよ」

「え?! 特区までやってきたの!?」

「まさか――ホログラムみたいなやつで、会議をしたよ」

「そうなんだ。そりゃそうか」

「それで、ダイスケさんはどうなるんですか?」「うんうん!」

 サナとレンは心配そうだ。


「それなんだがなぁ。どうも、危険なことに巻き込まれる可能性が高いらしい」

「ええ? そうなんですか?」

「危険ってどういうこと?」

 レンの疑問ももっともだ。


「俺の能力を狙って、色々な連中がやってくるかもしれないってことさ」

「あ~、たしかにねぇ。アイテムBOXなんて持ってたらやりたい放題だし」

 俺の話を聞きながら、キララが耳をほじっている。


「まぁ、とりあえず――今日はちょっと夕飯を作る時間がないから、買ってきたものを食べよう」

 俺はアイテムBOXから、露店で買ってきたケバブを出した。


「「「「いただきま~す」」」」

「さっきの、俺を狙ってくる連中の話な」

「……はい」

 サナが食べるのを止めて、真剣に聞いている。


「反社などなら、まだいいほうで、各国の特殊部隊やらがやってくる可能性もあるらしい」

「特殊部隊って、軍隊ですか?」

「そうそう、同盟国のアメリカだって信用ならない」

「今はどこも大変だから、とりあえず協力しているだけだからねぇ。出し抜けると思ったら、後ろ足で砂をかけると思うわよ」

 これはキララの言うとおり。

 他国なんてそんなものだ。


「それでな――ここから本題な」

「はい」

「俺と一緒にいると、危険に巻き込まれる可能性が高い。キララをギルドの副リーダーにして、俺はソロでやろうと思う」

「「「……」」」「ハグハグ!」

 黙っている女の子たちをよそに、難しい話は解らないミオがケバブに齧りついている。


「反対しても駄目だぞ? 相手が軍隊とかになったら、確実にヤベーことになるし」

 殺しの現場とか、子どもたちには見せられない。

 いや今は、16歳で成人になっているから、彼女たちは大人あつかいなんだが。


「解りました」「うん、ダイスケがそう言うなら」

「しょうがないわねぇ。相手が他の国の軍隊とか、冒険者のやることじゃないし」

「皆すまないな」

 飯を食い終わったら、皆に今日の分前を渡す。


「ええ?! 私たちなにもしてないのに」

「ギルドなんだから、いいんだよ」

「私はもらうものはもらうけど」

 アイテムBOXに溜まっていた分を換金したので、ちょっと多めだ。


「使う当てがないなら、貯金しておけ。なにがどうなるか判らんからな」

「インフレしてるから、なにかものに換えるのもいいかもよ」

「でも、確実に儲かるってものはないからな」

 今は魔石の価値があるが、なにか画期的な製造方法などが確立されたら、一気に価値が暴落する。

 まぁ、物理法則をひん曲げるダンジョンなら、再度ひん曲げてくる可能性もないとも限らないが。


 金の分配が終わったので、動画の編集でもするか。

 サナも入った金でノートPCを買うようだ。


「でも、俺と一緒じゃないと、ダンジョン内部の映像は撮れないな」

「それでも、操作や動画編集を覚えておいて、損はないと思います」

「そりゃそうだな」

 サナの話を聞きながら、動画編集をする。

 今回は、誰も見たことがない新しい深層の映像だから、バズるかもしれん。

 ミノタウロスもいたしな。


「ちょっとダイスケ! それって、ミノタウロス?」

 キララが俺のノートPCを覗き込んだ。


「そうそう、ミノタウロスだ」

「ミノタウロスって6層の魔物でしょ? 6層に行ってたの?」

「いや、新しい層が発見されてただろ? あそこにいったんだ」

「こんな魔物が出るんじゃ、かなり高レベルの冒険者じゃないと無理じゃない?」

「罠もエグいし、かなり危なかったな」

「罠ってどんな?」

 会話に、レンが入ってきた。


「床から棘が出てくるやつとか、吊り天井とか――」

「うわ! エグ! そんなのぜったいに死んじゃうやつじゃん!」

「まぁ、マジで殺しに来てる感じだったなぁ」

「ダイスケさんって、どれだけ強いんですか?」

 ミオが俺の話を怪訝そうに聞いている。


「まぁそれなりだな、ははは」

「それなりって――ソロで6層に行ける人なんて、一部のトップランカーぐらいなのよ?」

 さすが、ベテラン冒険者のキララだな。

 なかなかするどい。


「そこら辺はあまり聞かないでくれ。それより、こんな魔物もいたぞ?」

 俺は皆に、ミミックの映像も見せた。


「ミミック! 遭ってみたい!」

 レンはミミックがお気に入りみたいだな。

 どこが好きなのかよく解らんが。


「こんなの売れるんですか?」

 サナが、画面を覗き込む。


「珍しいんで、研究所が買ってくれるらしい」

「へ~」

「おっと、こいつは見せないほうがいいか……」

「え?! なになに! 見せて見せて!」

 レンが興味津津で見てくる。


「こらこら」

「え~? なに――きゃ! ダイスケのスケベ! ヘンタイ!」

 レンが裸の女を観て、悲鳴をあげた。


「だって、こいつが向こうからやって来たんだから、しゃーないだろ?」

「これなに? こんな格好で、ダンジョンにいたの?」

「迷宮教団らしいぞ?」

「え?!」

 キャーキャー言っていた、レンの顔色が変わった。


「とにかく不気味だったから、こいつらには関わらないほうがいい」

「はい」「……」

 レンが黙っている。


「本当にイカれているわねぇ……まぁ、実害はないっぽいけど」

「おい、キララ」

「え?! なに?」

「レンの母親がな……」

 彼女も大人だ。

 俺の言いたいことを察してくれたらしい。


「……ごめんなさい、レン」

「いいんだ……」

 普段明るいレンがしょんぼりしている。

 まぁ、母親のことが心配なのかもしれない。


 動画の編集が終了したので、サイトにアップした。

 再生数は順調に伸びており、この分だと月収で1000万円ぐらいいくんじゃないか?

 もう冒険者をやらないでも、これだけで暮らせそうだけどな。


 それでも新しい動画をどんどんアップしないと、再生数が落ち込んでくるだろうし。

 今は物珍しさで、カウンターが回っているだけかもしれないしな。


 さて、明日に備えて寝ることにした。

 キララは自分の部屋に帰っている。


「明日だが――俺は司法書士事務所に行って、会社を作る準備をしてくる」

「え?! 会社ですか?」

「ああ、アイテムBOXを公言して、取引相手が国になるからな。法人化することにした」

 彼女たちも動画サイトの収益が増えてくれば、法人化したほうがいいと言っておく。


「む、難しそう……」

「まぁ、自分でやってできないことはないが、プロに頼んだほうが簡単だな」

「……お仕事としてやっていくためには、色々なことがあるんですね」

 サナがちょっと神妙な顔をしている。


「そうだな――でも、そんなこと知らなかったんです――で、済まないこともあるし。相談できる場所もたくさんあるから利用はしたほうがいいぞ。俺だって、専門的なことは解らんし」

「はい」

「面倒くさそう……」

「だが、やらないと税金を余計に取られるだけだぞ」

「ううう……」

 レンの言うとおり面倒くさいのだが、世の中がそういう仕組になっているのだから、仕方ない。


 夜も更けたので、寝ることにした。


「ダイスケと一緒に寝る!」

 ミオが俺に抱きついてきた。


「お姉ちゃんと一緒に寝てあげないと、お姉ちゃんが寂しいんじゃないの?」

「そんなことありませんよ」

 お姉ちゃんにそう言われたら、寝てあげるしかないじゃないか。


「……」

 なぜか、レンもやってきた。

 心なしか、いつもの元気がない。


 さっき話に出た迷宮教団のことで悩んでいるのだろうか。


「サナは?」

「私は――1人で寝ますけど」

 なぜか、彼女がむくれている。


 難しい年頃だな……。

 世の中のお父さんは大変だ。


 

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