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25話 バレる


 ダンジョンから戻ってくると、外だというのに魔物が湧いた。

 黒い毛むくじゃらのトロルという魔物だ。

 俺はそれを倒したのだが――そのときにアイテムBOXを使ったのを、周りの観衆に見られていたようだ。


 朝起きて、動画の再生数をチェックしようとスマホを確認すると、当局からの呼び出しメッセージが入っていた。


 俺に絡んできた男の話は無視したのだが、他の連中からも当局にタレコミがあったようだ。

 同じ冒険者仲間なんだから、見逃してくれよ――とは、思うのだが。

 他人がいい思いをしているのが許せない、という層は一定数いる。

 仕方ないか。


 出頭命令は無視できない。

 行かないと、冒険者資格を剥奪される可能性があるし。


「はぁ~」

 俺はクソデカため息をついてしまった。


「おはようございます。ダイスケさんどうしたんですか?」

 サナも起きたようで、俺の様子がおかしいのに気がついたらしい。 


「ああ、昨日の戦闘でアイテムBOXのことがバレてしまったようだ」

「ええ?! 本当ですか?」

「役所から、出頭の命令が来た」

「い、行かないとだめですか?」

「これは命令なので、無視したり、とぼけたらマズいだろうなぁ」

 多分、録画された映像なども送られているだろうし。

 AIでフェイク画像が作れるとはいえ、面と向かって問い詰められて、トボけたとしても――。

 俺の周りには、国からの24時間の監視がつくだろう。

 そうなれば、すぐに証拠を押さえられてしまう。


 それなら、正直にゲロってしまったほうがいい。

 もちろん、自宅の裏庭ダンジョンのことは秘匿だ。

 東京のダンジョンにやって来て、初めてアイテムBOXのスキルをゲットしたことにすればいい。

 要因はよく解らないということに……。


「ぶつぶつ……」

 俺がぶつぶつ言っていると、サナが心配そうだ。


「ダイスケさん?」

「ああ、大丈夫だよ。別にとって食われるわけじゃないし」

「そうですけど」

「悪いが――今日、俺は休みな。ダンジョンに行きたいなら、キララについていってもらえ」

「はい」

 レンも起きてきたので、さっきのことを話す。


「ええ? ダイスケ、大丈夫なの?」

「まぁ、別に罪を犯したわけじゃないから大丈夫だよ。色々と聞かれるとか、監視がつくとかそういう話になると思う」

「トップランカーにいる女の人も、アイテムBOX持っているって出てたよね?」

「そうだろ? だから、問題ないよ。ただ、旅行とかはできなくなるかもな」

 別に金を稼いだら、田舎に戻ってのんびりと暮らす予定だし。

 あんな僻地に飛ばされる監視役の公務員が大変だな。

 それが仕事なんだろうけど。


 朝飯のパンやカフェオレを用意していると、眉のないキララもやってきた。

 彼女にも話す。


「あ~、あの場合は仕方ないとしても、ついてないわねぇ」

「まぁな。でもしゃーない」

「ふふ、普段の行いのせいじゃない?」

「この限りなく善意の人を捕まえて、なんちゅーことを言うんだ」

「私のことをBBAとか言うからでしょ」

「言ってなぜ悪いか!」

 俺は身体をひねって手を広げた。


「そういうところを言っているのよ!」

「さぁて、俺にはなんのことか解らんな」

 パンを食う。


「ふん」

 キララもパンをかじった。


「サナとレンがダンジョンに行くようなら、ついていってやってくれよ」

「解っているわよ」

 ちょっと見栄っ張りだが、悪いやつではない。

 意外と後輩の面倒見もいいし。


「……」

 みんなの会話をミオが黙って聞いている。


「どうした、ミオちゃん。好きなパンじゃなかった?」

「……違う」

「それじゃ?」

「ダイスケ、いなくなっちゃう?」

 どうやら、彼女は俺の身の上を心配しているようだ。


「はは、大丈夫だよ。大丈夫だから、学校に行ってきな」

「……うん」

「……なにもなくても監視はつくでしょうね」

「まぁな。こういう監視ってどこの部署がやるんだ? 公安か? 内閣調査室は、情報収集部署だろうし」

「知らないわよ」

 まぁ、ここでしゃべっていても仕方ない。

 時間になったら、出頭するしかないな。


 ミオを学校に送り出したあと、アップした動画のチェックをしながら皆の予定を聞く。

 サナとレンは、羽田にノートPCを買いに行くらしい。


「そうか」

 最初に上げた動画は1000万再生を超えて、他の動画もどんどん再生されている。


『すげぇぇ! これがトレントか!』

『木かと思ったら、血が出てるな』

『トレントは植物に擬態した魔物だぞ。中に内臓がある』

『詳しいな、まるで魔物博士だ』

 やはり珍しい魔物なのか、評判は上々だ。


 トレントのほうはよかったのだが、トロル戦の動画がおかしい。

 えらい勢いで、再生カウンターが回っている。

 すでに100万再生されているし、コメント欄も荒れているようだ。


『こいつは、アイテムBOXを使っていたぞ』

『マジで?!』

『アイテムBOX?!』

『確かに――俺もこの現場にいたんだけど、突然デカい武器が出てきたような気がした』

『このオッサンはアイテムBOX持ちを公言してないよな』

『通報しました』

 こんな具合に炎上している。


「あ~クソ! ここで炎上したんで、お上に目をつけられたのか?」

「ほら、やっぱり普段の行いでしょ? ふふふ」

 キララが勝ち誇ったような顔をしている。


「まぁ、別にいいけどな。炎上してバズれば、金が入ってくるわけだし」

「アイテムBOX持ちを公言すればいいわけだしね」

「そのとおり。それに隠していると不便で仕方ない。魔物を狩ったら、全部アイテムBOXに入れて、買い取りでドーンと出したほうが楽だ」

「そうよねぇ」

「アイテムBOXに溜まっている獲物も結構あるんで、全部換金すれば、皆にも結構分前にいくぞ?」

「あの~」「ねぇ」

 サナとレンが顔を見合わせている。

 彼女たちは、俺から分前をもらうのを躊躇しているようだ。

 それに引き換え、キララにはそれがない。


「それって私ももらえるの?」

「ああ、やるから、若い子たちの面倒を見てやってくれよ」

「まぁ、もらえるものがあれば、私も張り切っちゃおうかなぁ」

「このキャッシュ(現金)なやつめ」

「なんとでもいいなさい」

 さすがに、歳を食うと遠慮もなくなるな。

 べつに悪いとは言わん。

 やることをやってくれればな。


 飯を食い終わったので、俺は役所の呼び出しに応じることにした。

 これはさすがに無視できないからな。


「それじゃ行ってくるよ」

「……いってらっしゃい……」

 女の子たちは心配そうにしているのだが、別に逮捕とかされるわけないし。

 宿の階段を下りる。


「あら、今日は1人?」

「ああ、役所から呼び出しをくらってな」

「なにやったの?」

 オバちゃんは動画サイトなどは観てないのだろうか?

 まぁ、観てたら俺のチャンネルがバズっていると、とっくに知っててもおかしくないが。


「はは、大したことじゃないんだが……」

「子どもたちに心配かけるんじゃないよ」

「わかってる」

 オバちゃんと話し終わると、俺は宿の外に出た。

 ひょっとして、宿の前で待ち伏せしている連中がいたりして――などと、ちょっと身構えたりしたのだが、それは杞憂だった。


 人混みの中を役所に向かって歩く。

 いつもと変わらない街の様子は、穏やかな日常が続く。

 人々は忙しそうに街中を行き交い、露店の店先では商品を並べる店主の姿が見られる。


 俺はそれを眺めながら役所までやって来た。

 中に入ると、いつのも窓口のお姉さんに声をかける。


「あの~、呼び出しを受けて来たんですけど」

「あ! 少々お待ち下さい」

 彼女も、俺が呼び出しを食らったことを知っていたのだろう。

 飛ぶように奥に行くと、すぐに戻り、カウンターの扉を開けて中から出てきた。


「どうぞこちらへ」

「はい」

 彼女の案内で階段を上っていく。

 2階――3階、どうやら目当ては3階らしい。

 お姉さんが奥の部屋のドアを開けたので、中に入った。


「なんだ?」

 部屋の中は、なにもなくがらんどうで、窓だけが目立つ。

 いや、部屋の中心、天井からなにか機械がぶら下がっている。


「これに座ってください」

 彼女がパイプ椅子を持ってきた。


「ここでなにをするんですか?」

「ああ、すぐに解ると思いますが――少々時間がありますから、コーヒーでもいかがですか?」

「え? は? ああ、いただきます。ミルクあり、砂糖なしで」

「少々お待ち下さい」

 彼女が紙コップでコーヒーを持ってきてくれた。

 これは自販機のやつだな。


「ず~」

 とりあえず、コーヒーを啜る。

 ここにお偉方が集まるのを待つのかな?

 それにしてもなにもないが……。


「あの~」

 黙ってコーヒーを飲んでいると、職員が話しかけてきた。


「なんでしょう?」

「アイテムBOXを持っているってのは本当なのですか?」

「もうバレているみたいですから、隠してもしょうがないみたいですけど」

「そうですか」

「別に逮捕されたりとか、そういうのではないんでしょ? そんな法律はなかった気はしましたし」

「逮捕はないですね。一応、アイテムBOXを持っている人は報告してください――という、決まりはありましたが、罰則は規定されてませんでしたし」

「そうですよね」

 そもそもアイテムBOXを持っているというのは、自己申告だしな。

 それが本当かどうか、確認する術もない。

 今回みたいに、バレることもあるが。


 益体もないことを話していると時間になったらしい。

 彼女が部屋の隅に行くと、リモコンを操作した。

 一瞬で部屋が真っ黒になる。

 なんだ? 窓が偏光ガラスかなにかだったんだろうか?


 突然の暗闇で目が慣れてないから、なにも見えない。

 あたふたしていると、部屋の中央が光り始める。

 なにかと思っていると、俺を囲むように机に座ったスーツ姿の爺とオッサンたちが並んでいる。

 一つだけ、机もなくSOUNDONLYのモノリスが立っていた。

 昔、こんなアニメがあったような気がする。


 これってホログラム装置?

 こんなのできてたんだ。

 日本はいつの間にか進んでいた。


 それよりもだ、俺の正面にいる爺さんに見覚えがあるような……。


「あれ? どこかで見たような……」

 記憶をたどっていると、正面の男性が声を上げた。


『それじゃ、始めるか――え~、丹羽ダイスケ君でしたっけ? こちらが見えているかね?』

「あ、はい――見えてますが」

『私が誰か解るかね?』

 そう、言われて、彼が誰か思い出した。


「もしかして、内閣総理大臣?」

『そのとおり、正解だよ』

 ニコニコしている彼だが悪意は感じられない。

 まぁ、相手は総理になるぐらいの政治家だ。

 作り笑いぐらい余裕でするだろうけど。


「そこらへんにいる普通のオッサンに、日本のトップまでお出ましですか」

『もう普通のオッサンじゃないから、俺がここにいるんだがなぁ……』

 周りのスーツ姿からも、笑いが漏れる。


「これはもう、アイテムBOX持ちってのは逃げられない決定事項で確定ですか?」

『もちろん、現時点ではこちらには確認する手段がないから、とぼけて逃げてもいいけど――あとで、バレると酷いことになると思うがなぁ……』

 ずいぶんとフランクな総理のようだ。

 国会の答弁では、こんな感じではないのだが。


「バレますか?」

『そりゃもちろん! 今日から君には24時間体制で公安と護衛が張り付くし』

 うわぁ――やっぱりそうなるか。

 ダンジョンの中では大丈夫だろうとたかをくくっていたが、冒険者の資格を持っている公務員だっているだろう。

 自衛隊を送り込んだり、そういう訓練や実験もしているしな。

 俺は、覚悟を決めた。


「ふう――そうです。私はアイテムBOXを持ってます」

『ちょっと見せてもらえないだろうか?』

 俺は収納していた土嚢を出してみせた。


『『『おおおっ!』』』

 俺を囲んでいた爺さん&オッサンたちが沸く。


『これは……』『国防上の……』『抑止力として……』

 なんかボソボソと物騒な単語が聞こえてくるのだが、聞こえないフリをしよう。


『これが、アイテムBOXか!』

 土嚢を観た総理も、立ち上がって興奮しているように見える。


「はい」

『容量はどのぐらい入るのだね?』

 他のオッサンから質問が来た――え~と、この人は防衛大臣だったような……。


「不明です。そんなにものを突っ込んだことがないので」

『ボソボソ……』『……爆弾やら、戦車やら……』『……野放しにできない』

 やっぱり、不穏な単語が聞こえる。


『君には悪いが、その能力が本物だと判明したので、君は国の監視下に置かれることになる』

「まぁ、それは仕方ないでしょうねぇ」

『そんな能力があれば、いろんなヤベーものを持ち出したり、持ち込んだりできるからな』

「はい――あの……」

『なんだね?』

「冒険者のトップランカーの女性で、アイテムBOX持ちを公言している方がいらっしゃいますけど、彼女も同様に?」

『無論だよ』

 やっぱりそうなのか。

 そうかなぁ――とは思っていたけど、彼女のことをググっても、警備で難儀しているなんて話は出てこない。


「監視されるってことでしたが、まさか部屋の中まで監視カメラを設置しろとか?」

『そういうのは、基本的人権に引っかかるからねぇ』

 よかった――俺は胸をなでおろしたのだが、設置しろとは言ってこないが、密かに設置はしてくるかもしれないな。

 あと、盗聴とかな。

 気をつけなきゃとは思うが、常にスマホを使っているから、国家権限でログとか普通に取られたりするんだろうな。


「ふう――監視されるだけですか?」

『君の持っているものを使って、たまに仕事を頼みたい』

「それって拒否は?」

『無論、可能だよ。日本は民主主義国家だからね』

 笑っているのだが、目は笑っていない。


「危険な仕事じゃないなら、受けるのもやぶさかでないですけど、報酬はちゃんと出るんでしょうね?」

『もちろん、国の予算から出る』

「それはよかった。日本国民なら、国に奉仕するのが当然! 無償でやれ! ――なんて言われたら、どうしようかと思いましたよ」

『大丈夫だ。そういうことを言うやつは、俺が黙らせた』

 やっぱりいるのか。


「私の愛国心が揺らぐようなことは、起こらないでほしいものです」

 総理は笑っているのだが、面白くなさそうな顔をしている爺もいる。

 一国民である普通のオッサンが、国の運命を左右する力を持っているのが面白くないのか?


 まぁ、あまりに割に合わない仕事なら、キックすればいいし。

 あまり無体なことをやって、国外に逃亡でもされたらとんでもないことになるのは、彼らも理解しているはずだ。


『それでな――アイテムBOXスキルの取得条件ってのは解るかい?』

「あ~、普通にダンジョンで魔物を倒してたら、取得できたので偶然かと」

 もちろん、大嘘である。


『……やっぱり』『……前のサンプルと……』

「アイテムBOXを持っている他の人にも同じ質問を?」

『彼女も、よく解らないと言っていたな』

 取得条件が複数あってもおかしくないが、本当に解らないのか――それとも、俺と同じように秘匿しているのか。

 解らん。


 話はこれだけらしい。


『君の協力を得られることを、願っているよ』

「それは、コレ次第ですね」

 俺は指で輪っかを作った。


『はは、お手柔らかに頼むよ』

 ホログラムが消えると、部屋が明るくなった。


「む! 眩しい!」

「お疲れ様でした」

「本当に疲れたよ。このあとってどうやって俺のことが公表されるんです?」

「役所の広報と、官報にも載ると思いますよ」

「あ~そういう感じね」

 それなら、もうアイテムBOXを隠す必要はないってことか。


「政府の仕事って、いったいなにをやらされるんだろうな」

「あの……」

「お姉さん、知ってます?」

「危険物やら、廃棄物の運搬が多いみたいですよ」

「あ~なるほどなぁ。アイテムBOXなら、どんなものでも運べるからなぁ……」

 走り回っても、どんなに揺らしても平気だし。

 毒物やら危険物も無問題。

 そういう感じか。


「これから大変だと思いますけど」

「まぁ――政府の仕事1回やって、数千万円みたいな感じなら、それなりに美味しいかもしれないし」

 実際にやってみないことには、解らんけどな。


「あの~キララは真面目にやっているみたいですか?」

「ああ、今のところは――若い子の面倒をみたりしているし」

「そうですか」

 昔一緒につるんでたみたいだし、友人だから心配なのかもしれない。


「根は悪い人じゃないみたいだから、大丈夫じゃないですか?」

「ありがとうございます」

 職員のお姉さんと話していると、スマホに通知がきた。

 見れば、総理大臣からのフレンド登録通知。

 なんで俺のアカウント知ってるんだよ。

 まぁ、役所に登録したときに知らせてるから、全部筒抜けなのか。


 俺は承認ボタンを押した。

 わざわざSNSで共有してくるってことは、なにかあったり文句があるなら、総理に直接言え――ということなのだろう。


 これで総理が変わっても引き継がれるんだろうか?

 突然方針が変わったりしそうだけどな。

 野党の総理になったら、言うことが180度変わったりな。


 お姉さんに挨拶をして、役所に出た。


「……」

 なんかすでに、監視役というか――それっぽいやつが数人いるような気がする。

 近代的な防具をつけて冒険者を装っているが、只者ではない。

 レベルが高くなっているから、俺の勘も鋭くなっているのだろうか?


 チラ見した人と目が合うと、向こうが逸らした。

 ショートヘアの女性だったが、いかにも鍛えてますみたいな体つきだし、もう佇まいが違うんだよなぁ。


 そういえば、レベルアップすると体力や筋力が上昇するのは、俺や女の子たちで解るが、これってベースの体力にバフがかかるってことだよな?

 ――ということは、身体を鍛えてベースアップするのは有効な手段だと思う。

 体力10のやつが、バフ10倍で100。

 体力が20のやつなら、同じバフで200になるし。


「う~ん」

 悩んでも仕方ない。

 移動する。


 さて、もうアイテムBOXが公表されてしまうってことは、隠していても仕方ないってことだよな?

 収納に入っているものを全部出してしまおう。

 買い物も堂々とできるぞ。

 揉め事があっても、監視と護衛がいるし。


 俺は、ダンジョン前の買い取り市場に向かった。


「はいはい! 買うよ! 買うよ! なんでも買い取りするよ!」

 以前、白い狼を買ってくれたオッサンを見つけた。


「売りたいものがあるんだが」

「ん? おお! 前に白い狼を売ってくれたお客さん!」

「覚えていたのか」

「ははは! いや~、あれでは儲けさせてもらったから」

「――ということは、高く売れたんだな?」

「ははは!」

 彼は笑っていたのだが、態度がそれを示している。

 確かに白い狼なんて珍しいだろうし。


「それで――買い取りOKかい?」

「おお、なんでも出してくれ! ――と、言いたいところだが、お兄さんなにも持ってないじゃないか」

「ちょっと離れてくれ」

「ああ……?」

 買い取りしている業者と客に離れてもらうとスペースを作った。


「これとこれと――全部召喚!」

 溜めていた魔物が全部吐き出されて山になった。


「「「おおおっ?!」」」

「なんだ?!」「アイテムBOX?!」「マジで?!」

 早速、スマホで写真やら動画を撮っている連中がたくさんいる。


「お、お客さん! もしかして、アイテムBOXかい?!」

「そうそう――政府にバレちゃってな。官報にも載るって話なので、隠しても仕方なくなった」

「こいつはたまげた……」

 オッサンが腕を組んで、魔物の山を見ている。


「とりあえず買ってくれ」

「ちょっと待ってくれ。一旦引っ込めてもらってもいいかい、一度に処理できねぇからよ」

「わかった、いいよ」

 魔物の山の一番下はオークだったのだが、そいつを残して一旦収納した。


「「「おおおっ?!」」」

「「「ざわざわ」」」

 見ている客たちから、再び驚きの声が上がる。

 消えるシーンは、動画を撮っている連中が結構いそうだ。


「ついでに熊も買ってくれないか?」

「熊? 牙熊か?」

「いや、ヒグマだ」

 アイテムBOXから出してみせる。


「うわ! くせぇ!」

 オッサンの言うとおり、強烈な獣臭がする。


「こいつは魔物じゃなくて、本物のヒグマだから」

「大丈夫だ! 買い取りする。欲しがるやつがいる」

「OK」

 一旦収納して、作業を待つ。

 相手もアイテムBOXを持っていれば、全部渡して終了なんだがな。


 待っていると、中にはスカウトの声をかけてくる冒険者もいる。


「悪いな。自分のギルドを持ってるんで」

「そんなしょぼいギルドより、ウチのほうが稼げるぜ?」

「俺のギルドをバカにするやつと、組めるとでも?」

「ウチは、『踊る暗闇』だぞ!」

「また、お前らか。俺をカツアゲしようとして、逆恨みしてPK失敗して、グールだかゾンビになったやつの仲間か?」

「お前は、あの動画チャンネルの――」

「そうだ」

「うう――あとで後悔するなよ!」

 捨て台詞を残していくような奴らと組めるわけないだろ。

 若くて、レベルの恩恵という力を持っちゃうと、ツッパリたくなるんだろうけど。

 そんなのは自分の実力じゃないからな。

 あくまで、ダンジョンというわけのわからんものの力を借りているだけだ。


 待っている間に、ダンジョンに関してのニュースをググる。


『【特報】アイテムBOX持ちを公言する冒険者出現する!』

 げ! もう載ってるじゃん。

 これって、役所からの発表がもうあったのか。


 自分のことを読んでも仕方ない。

 新発見された層の突入口ができて、高レベル冒険者によるアタックが始まったようだ。

 2層の下に出現したから3層とは限らない。

 まったく異質な層の可能性もあるし、どんなトラップがあるか解らん。

 お宝があればラッキーだが、その分命の危険も高い。


 ネットでググりながら、買い取りを待った。

 ニュースを見たのか、こちらを見てをヒソヒソするやつが増えたような気がする。

 まるで有名人扱いだな。

 そりゃ有名人には間違いないが。


 結局、魔物の買い取りは600万円ぐらいになった。

 こりゃ、みんなにまたボーナスを出さないとな、ははは。


 それと――より強力な魔物用に新しい武器が欲しいな。

 以前から特区の武器屋をぐぐっていて、目星をつけてある。

 俺はその店に向かった。


 やっぱり4人ほどが、フォーメーションを組んで俺のあとをついてくるのが解る。

 これが俺の監視している連中だろう。


 ご苦労なことだ。

 心中察するが、これで俺の仲間に手出しするやつもいなくなるってことか。

 彼女たちを人質に取って、俺を動かそうとする輩が出るかもしれん。

 そういう奴らを抑止するためにも、ギルド全体の護衛と監視がつくはず。


 それはそれで安心か。



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